不死人は“死神”と出会うようです。   作:クラ―グ様のお胸様、エリちの太もも

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Sir Galahad

 

 「う~ん……」

 

 居間と食卓を兼用しているスペースで、自分のホストである宇津見エリセが、書物と自分の知らない機器を駆使しながら唸っていた。

 

 先程彼女に自分の髪が欲しいと言われたので適当に毟って渡したが、どうやらそれを使って不死人である自分の事を調べているようだった。

 

 “召喚サイン”を通してやって来たこの世界は、自分にとって不可思議なモノで満ち溢れていた。

 

 それだけではない。自分のいた世界の常識が、こちらの世界では何も通用しないという事も知った。

 

 

 

 

 

 ―――ありとあらゆる願いを叶える事が出来るという“聖杯”。

 

 ―――奇跡でも呪術でもなく、ロードランにあるものとは似て非なる魔術と、それを扱う魔術師。

 

 ―――偉業を為した英雄の現し身であるという、サーヴァントと呼ばれる存在。

 

 ―――人の身には過ぎた代物である、不老不死になってしまった人類。

 

 

 

 

 

 (さて、どうするべきか……)

 

 彼女から聞いた話だと、少なくとも自分が今まで“召喚サイン”にて召喚された世界とは、何もかもが違っているようだ。

 知識は無くとも言語は理解出来るようで助かったが、どうせ呼ぶならば知識の方も前もってしっかりと教えて欲しかったところだ。

 

 “聖杯”とやらよ、仕事をしろ。

 

 (まあ……。とは言え、だ)

 

 何故自分がこの世界へと召喚されたのか、その理由は全く分からないままだが、せっかく召喚されたのだ。

 色々とこの世界や人類に思う事はあるが、精々協力者としての使命を果たすとしよう。

 

 彼女に対するありとあらゆる障害を排除し、護る。それこそが、この世界での自分の役割なのだから。

 

 幸いこの身は不死だ。昨夜の女戦士のような強敵であろうとも、何度でも挑む事が出来よう。

 

 「ハァ……。ご飯でも食べるか……」

 

 どうやら何度目かの調べ物の成果も不作だったようで、気を取り直す為に彼女は食事をするようだ。

 

 中がひんやりとして冷たい大きな箱の中から、自身の食事らしき物を取り出していた。それを小さめな箱に入れてスイッチを捻り、待つこと数分。チンッと小気味よい音が箱から鳴り、彼女は食事を取り出した。

 

 それは、デーモン遺跡の溶岩地帯を彷彿させるような料理だった。とろみと汁気があることから煮込み料理だろうか。

 

 ふわりと良い匂いが自分の鼻を突き抜けていくが、降りかけられた香辛料のようなものと合わさって、実にうまそうではないか。

 

 「……。あの、そんなに見られてると食べにくいんだけど」

 

 彼女がジトーッとした目で自分を睨んでくる。先程室内に生じた篝火にウキウキしながら火を灯した際も大目玉を食らってしまったことだし、自重しなければならないだろう。

 

 いくら自分が、理性ある人間との関わりに飢えているとしてもだ。

 

 協力者はホストと信頼関係を築くのが大切とはいえ、こちらは舌が損傷している為に喋り辛い不具の身だ。

 誤解を生まないよう再度「申し訳ない」と喋る人面を投げつけ、彼女に謝罪する。

 

 しかし、人間らしい食事というものには縁遠い不死人であるため、チラチラとそちらの方を見てしまうのは止められなかった。

 

 「……。良かったら食べる?口に合うかっていうか、貴方が食べられるかどうかも分からないけど……」

 

 すると、彼女はこちらの反応に少し棘を消して、しょうがないなあという笑みを浮かべつつも料理を分けようかと提案してくれた。

 

 おお、なんという優しさだろうか。ホストとはかくあるべし、自分も見習いたいものだ。

 

 急ぎ兜をずらして彼女が差し出してくれた新しいスプーンを受け取り、それを大急ぎでかき込む。

 

 「あ、ちょっ。それしっかり冷ましてから……」

 

 

 

 

 

 ―――飛び込んでくる熱さと辛さ。そして悶絶。

 

 この世界に入ってからもう何度目だろうか、地面にのたうち回る事となった。

 

 いや、おかしいではないか。溶岩や呪術に比肩しうる熱さの食べ物がこの世に存在するなどと……。もしやこれは辛味も影響しているのか?

 

 「グ、むぅ……。ォゴァッ!」

 

 「そんなにがっついて食べなくても……。貴方普段どんなもの食べてたの?パンとかお肉とか?」

 

 転がり回る自分を見ながら彼女は呆れたように問うてきたので、手持ちの緑花草や苔玉、エスト瓶などを見せる。

 

 「ああ、なるほど……」

 

 同情はいらない。

 

 いっそのことあのノーカウント(パッチ)のように嘲笑(わら)ってくれ。我がホスト、宇津見エリセよ。

 

 

 

 

 

 *

 

 「そして、騎士ギャラハッドはようやく探し当てた聖杯に対してこう願ったと言います。『私は何も望みません。ただ、主のおられる天へと還りたいのです』、と」

 

 繁華街から離れて人通りの少ないひっそりとした区画。そこに私の通う教室があった。扇形の広い教室には、生徒がまばらな状態で座っていた。

 義務教育で通うような学校とは違い、生涯学習を目的に一般市民へと公開されている講義だから、当然と言えば当然だけど。

 

 今日の講義は、『アーサー王伝説』や『聖杯伝説』に登場する“円卓の騎士”の一人にして、“湖の騎士”ランスロットの息子であるギャラハッドについてだった。

 

 講義というよりも趣味に近い内容だった為に、受講者も老若男女問わず様々で、どうやら講義の内容に飽きてしまったようだ、母親の服の裾を掴み帰ろうとぐずる子供もいた。

 

 ギャラハッドは、“呪われた席次”と呼ばれる十三番目の席に座る為に数々の難題に立ち向かい、見事呪いを跳ね除けて“円卓の騎士”に選ばれた、“最も穢れ無き騎士”とまで言われた騎士だ。

 

 かの大魔術師・マーリンからは、「父親であるランスロット卿以上の騎士となり、必ずや聖杯を発見するだろう」と予言されていた。

 そして彼の予言通り、ギャラハッドはアーサー王の命令で同じ“円卓の騎士”であるパーシヴァルとボールスと共に聖杯探索に向かい、見事聖杯を発見したという。

 

 その際にギャラハッドが“聖杯”に願った事に対してかは分からないが、私の隣の席に座っていた上級騎士は不機嫌そうに、

 

 「うーむ……」

 

 と呻いていた。

 

 背筋はビシッと伸ばして、服装はいつもの上級騎士姿で大人しく席に座っている。目立たぬよう私と一緒に教室の後ろ側に位置取っているのに、他の受講者からはチラチラと好機の視線に晒されている。

 

 お願いだから、どうかこっちを見ないで欲しい。熱狂的な騎士道物語(ロマンス)大好きコスプレしている変人だと勘違いされていて欲しい。

 

 (付いて来るのならせめてもうちょっと別の服を用意してって言ったのに……)

 

 愚痴を心の中で呟くも、そんなこちらのことなど一切お構いナシなこの男。

 

 こちらの世界の事を何一つ知らない変わり種中の変わり種。使い魔かどうかさえも分からないが、恐らくサーヴァントではないと思う。

 

 こう言っては彼に失礼かもしれないが、サーヴァントが有している圧倒的な存在感や威圧感といったものが彼からは何一つ感じられないし、どうやら霊体化も出来ないらしい。それに近い事は出来るらしいが。

 

 昨日身振り手振りでなんとか許可を取って、彼の髪の毛をサンプルとして頂戴し、金糸の刺繍が施されたサーコートの紋章などをデータベースで検索するも、それに近しい情報を一切手に入れる事が出来なかったというのもある。つまり彼は、旧人類史に名前が刻まれるような存在ではなかった、ということだ。

 

 (となると一番可能性があるのは、使い魔の類なのかも……)

 

 もし私の考えが当たっているならば彼を召喚した魔術師がいるはずだが、一日経っても一向に姿を見せる様子がない。自らの使い魔を放っておくなんて、彼が事故とか起こしたら(もう既に色々と起こしているけど)どう責任を取るつもりなのか。

 

 (考えても仕方がない、か……)

 

 謎は深まっていくばかりだが、取り敢えず講義には集中しなければならない。思考をすぐさま切り替えて講義の締めに入った私の先生、カレン・フジムラの方を見つめる。

 

 彼女とは物心ついて以来の付き合いだ。外見は二十代くらいで、瞳は美しく淡い琥珀色。ウェーブがかかった銀髪に、細身だけど肉付きのいい抜群のプロポーション。信者に対して説教をする聖職者のように、甘くて柔らかく聞き取りやすい声。そして何より、他者の追随を許さない抜群のプロポーションにファッションセンス。

 

 うん、今日も私の先生は完璧なんだけど、カリンや他の人にそれを説明すると、何故かいつも苦笑いで返されてしまう。

 

 そんな彼女は人間ではなく、人工知能(AI)だ。ここ臨海都市“秋葉原”で、市民とのコミュニケーション手段を持たない“聖杯”の為に都市管理を一手に任された人型端末、それが彼女だ。ちなみに私の仕事(・・)の斡旋と補佐も、先生の仕事の一つだった。

 

 「うーむ……。素晴ら、しい……」

 

 フジムラ先生を見ながら、モゴモゴと喋り辛そうに上級騎士が囁いた。

 

 (というか、貴方ちゃんと喋れたんだ……)

 

 けれど、その言葉には心の底から同意するしかない。

 

 

 

 

 

 * 

 

 「それではハルコさん。後で貴方の端末に、今日の講義の要点を纏めたドキュメントを送っておきます。それでよろしいですか?」

 

 「はい、もちろんです。こちらの都合でご迷惑をおかけして申し訳ありません、カレン・フジムラ」

 

 「構いませんよ。貴女は勉強熱心な生徒なので、私としても嬉しく思っています」

 

 「い、いえ、そんな……」

 

 という会話が講義室の教壇近くで行われており、私はフジムラ先生に話しかけるタイミングを完全に逃していた。

 

 先生に話しかけているのは帽子を被っていて、目は優しいペパーミントグリーン。外見は十代前半頃と思われる、まるで子犬の様に可愛らしい少女だった。名前はハルコというらしい。

 

 どうやら彼女のサーヴァントが今回の講義に行くのを大分渋っていたらしく、連れてくるのにも難儀した所為で、授業の大部分を聞き逃してしまったそうだ。

 

 (なんでだろう。彼女のサーヴァントにとって、何か不都合な事でもあったのかな……?)

 

 「わーお、騎士のニーチャンやっぱスゲー!」

 

 「もう一回、もう一回やってー!」

 

 私の思案をよそに、上級騎士は教室の真ん中に陣取って子供達の相手をしてあげているようだった。

 肩車をしてあげたり、両腕にぶら下がった子供達を回転してグルグルと回したり、逆さにしてみたり、見ているこっちが少しハラハラしてしまう。

 

 「おーい、エリちいるかー!?メシ行こーぜー!」

 

 そこへ、私と同じく講義を終えたらしいカリンが、バタバタと忙しなく教室へと入ってきた。

 

 「カリンか。悪いけど、私先生に用が―――」

 

 「おぉっ!?なんだよあんた、楽しそーな事してんじゃん?あたしも混ぜろー!」

 

 「―――あるからって、おい。人の話を聞け」

 

 カリンは上級騎士に遊ばれている子供達に混ざって絡み始めた。というか貴女、昨日結構な勢いで彼に噛みついてましたよね?まさかもう忘れているのか。

 

 呆れていると、少女の要件を終えたらしいフジムラ先生がこちらに向かって来るのが見えた。

 子供達が「ほら、先生のお話の邪魔しないの」と母親に連れられて帰っていく中で、先生が上級騎士を見つつこちらへと挨拶をしてくれる。

 

 「こんにちは、エリセさん、カリンさん。そして、初めましてですね、上級騎士さん。私の名前はカレン・フジムラ。貴方の事情については、こちらのエリセさんから簡潔にですが伺いました」

 

 先生はいつも通りの優しい微笑みを浮かべ、上級騎士にも挨拶をする。子供達から解放された上級騎士も、私にしてくれたような一礼を彼女に返していた。

 

 「ふむ、なるほど……。確かにエリセさんの言う通り中世ヨーロッパの、それもかなり位の高い騎士に近いですが、それ以外は全く見当が付きませんね。この方の様な騎士が登場する物語はかなりの数が挙げられますし、現状考えられるのはそういう物語が好きな魔術師が呼び出した使い魔、あたりが妥当でしょうか。確信犯にせよ愉快犯にせよ、調べるとしたら少々厄介ですね」

 

 「そうなんだ、私もほとほと参ってて……。一応言葉は通じるみたいだけど、この世界の事とかも何も知らないっぽいし……」

 

 私と先生が二人して頭を悩ませていると、上級騎士の背にのしかかりながらカリンが口を挟んできた。

 

 「えー、マジかよ!?じゃあさじゃあさ、“渋谷(ウチ)”んとこのカレンちゃんがアチョーッて感じなカレンちゃんなのも、あんた知らないってことだよな……」

 

 「いや、どこ真剣に悩んでんのさ。あと、ちゃんとカレンさん(・・)って呼ぶべきだ」

 

 「ふふ、別に構いませんよ。“渋谷”地区の私は中華料理店の看板娘ですものね」

 

 そう、実は先生は一人ではない。いや、正確には一体ではないという方が正しいか。

 それぞれモザイク市を管理するべく、様々なカレンシリーズが存在している。

 

 けれど、私の先生はカレン・フジムラただ一人だけだ。

 

 “死神”としての仕事関係だけでなく、個人としても色々と面倒を見てもらったり、様々な事を教えてくれた大切な人だった。

 

 「けれどエリセさん。他の区域の私とも交信してみましたが、どうやら彼の事を詳しく知る者はいないようです」

 

 「そっか……。もー、どうするかな……」

 

 先生の報告に溜め息を吐きながら、カリンや先生と同じように彼をじっと見た。突然三人に視線を向けられた彼は、困ったようにおろおろするばかりだ。

 

 (あ、そうだ。先生に昨日のクンドリーの事を詳しく報告しておかないと)

 

 そう思い口を開こうとした私に先んじるように、先生は告げた。

  

 「あ、そうそう、エリセさん。昨夜の事は簡易ドキュメントにて報告して下されば結構ですよ?たった今急な用事ができてしまったので……」

 

 「えっ、あ、はい……。では、彼の事はどうしたら……?」

 

 尋ねると申し訳なさそうに、

 

 「大変心苦しいのですが、エリセさん。しばらく彼を預かっていただけませんか?その間に彼の事が詳しく分かったなら、また報告をお願いします」

 

 「え……?」

 

 先生が予定を急に変えるのも珍しいが、更なる異常事態へと発展してきた。

 

 「いやいや、無理だよ。それに困るよ、仕事(・・)だってあるんだし……」

 

 「ええ、もちろん理解しています。ですが残念な事に、今の“秋葉原”には今回のような特殊なケースを担当出来る者が貴女以外にいないのです。それに貴女ならば、彼が使い魔であろうとサーヴァントであろうと、目を付けておく事が出来るでしょう?」

 

 (あの、フジムラ先生。私サーヴァントは殺す(・・)の専門なのですが……)

 

 というか、正体不明の存在であるだけでなく、仮にも男性である彼の面倒を見るなんて出来る訳がない。

 

 「いや、でも―――」

 

 私が続けて反論しようとしているところへ、カリンが遮るように入ってきた。

 

 「ふーん……。じゃああたしンち来る?保護者的なヤツ一人増えても大して変わんねーだろ」

 

 「―――あのね。どう考えても変わるでしょ……」

 

 自分で連れてきといてなんだけど、上級騎士はどう考えても一般家庭には馴染めなさそうだ。人間だけじゃなく動物とかにも敵対行動取りそうだし……。

 

 突然のカリンの提案にも、先生は深く頭を下げていた。

 

 「ありがとうございます。ご厚意は大変ありがたいのですが、カリンさん。彼の正体や脅威が未知数な状況で、一般市民の居住区への滞在は憚られます」

 

 「いいって、いいって。モミもいるし大丈夫だろ!」

 

 尚も食い下がるカリンに、先生は再び丁寧に断っていた。

 

 

 

 

 

 ―――そこへ。

 

 「へえ……。その方なのね、カレン。……あら、本当。彼を見よう(・・・)とすると妙なノイズが入って見えなくなる。こんな事があるんだ……」

 

 時代がかかった黒のセーラー服。足許へと届きそうな程の長く美しい銀の髪。私が子供の頃から衰えを知らない美貌。

 

 「ち、チトセ……?」

 

 いつの間にか教室へとやって来ていた私の祖母、真鶴チトセが現れて、上級騎士を見定めるように見つめていた。

 

 突然の来客に私はおろかカリンまでもが静まり返るが、

 

 「貴女、の様な、美しい、女性に、そん、なに見つめ、られ、ると、照れる……」

 

 その空気を破壊するように、恥ずかしげに上級騎士が口を開いた。

 

 相変わらずたどたどしい喋り方ではあったが。

 

 「……ぷっ!アハハ!」

 

 その言葉を聞いたチトセは、堪え切れない、といったように笑い出したのだった。

 

 

 

 

 

 





 仕事で疲れた時にカレンさんの聖骸布に包まれたいです。

 ちなみに、不死人が食べたのは激辛麻婆豆腐です。
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