不死人は“死神”と出会うようです。   作:クラ―グ様のお胸様、エリちの太もも

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Let's Dance!

 

 「お、これめちゃめちゃうまそーじゃねっ!?」

 

 「うん?ああ、家系ラーメンか。あとショーウィンドウにベタベタ指紋付けない方がいいよ。お店の人に怒られるかもだし……」

 

 上級騎士を含めた四人(紅葉さんは霊体化している)でランチの場所を探していると、カリンがショーウィンドウに展示されているラーメンに食いついていた。

 

 「は?イエーイ系ラーメン?つまりあたしにピッタリのラーメンって事だなっ!」

 

 いや、なんでさ……。

 

 「イエーイ系じゃなくて家系。豚骨醤油のラーメンだってば……。あと、貴方もそんなに警戒しなくて大丈夫だよ。展示品が襲って来るみたいな新種の罠とかじゃないから。この店はこういう商品を扱っていますよって事を、私達みたいなお客さん候補の人に分かりやすく教えてくれてるの。食べたいと思ったらどうぞご来店下さいって感じで」

 

 私の説明に上級騎士は警戒状態を解き、ポンと手を打って納得した様子だった。

 

 「つーかさぁ、もうここでいいんじゃね?いい加減探し回んの疲れてきたんだけどー……」

 

 「うーん……。でも結局ラーメンにするんだったら、私はさっきの店の激辛―――」

 

 「激辛ラーメンは断固パスな。前付き合った時確信した、あたしの味覚が死ぬって」

 

 私の提案は呆気なく却下される。

 

 「お、キッシーも激辛系は嫌い派?気を付けろー、エリちに付き合ってたらメシ時には常にのたうち回る羽目になるかんなー?そしていつかは、辛いの無しじゃ生きていけない身体にされんだ……」

 

 「そ、そういうカリンだって基本的にジャンクフードばかりでしょ。人の事言えないと思うんだけど……」

 

 上級騎士があからさまにホッとした様子(何故だ)を見せたので、カリンは調子に乗っていつの間にかキッシーと呼ぶ事にしたらしい上級騎士に、ある事無い事を吹き込み始めた。

 

 そのまま話しながらランチの場所を探していると、

 

 「つーかさ、エリちはいいんかよ?」

 

 「うん?なんのこと?」

 

 「さっきのあの美人さんさー、エリちに用があるみたいだったろ?一言二言で会話切っちまってたけど……」

 

 「……いいんだよ、別に」

 

 賑やかな商業地区の中でも人通りの少ない路地で、カリンが先程教室にやって来たチトセの事を持ち出してくるが、今はあまり触れたくない話題だった。

 

 「でもさー、あたしあの人どっかで見た事あんだよなー。あーあー、気になるなー?」

 

 芝居がかった台詞と態度でこちらの事をニヤニヤと見てくる。

 

 こうなったカリンは説明しないと鬱陶しく絡んでくるようになるので、気は全く進まないけど説明してやる事にする。

 

 「もう、仕方ないな……」

 

 「おっ?いいねいいね、そうこなくっちゃ!」

 

 「チトセはね、私の祖母。おばあちゃんなんだよ」

 

 「そうかそうかー、おばあちゃ、え……?」

 

 カリンが顔をこわばらせて絶句する。

 

 「いやいや、騙されねーぞ。戦前(・・)の人間があそこまで若返るのは無理っしょ?」

 

 「昔からずっとあの外見だから。でもね、おばあちゃんなんだよ、私の」

 

 「マジかー……。んじゃーあの人は“聖杯戦争”前からの本物の魔術師(・・・・・・)で―――」

 

 「知ってる人は知ってるんじゃない?あの帽子の子だって、“聖痕(スティグマ―タ)”って呼んで挨拶してたしね。その筋(・・・)の人にとっては結構有名人みたいだよ。私とはまあ……、上司と部下の関係って感じだけど」

 

 そこまで説明すると、カリンはぎこちなく苦笑いを浮かべた。

 

 「な、なんかごめんな……」

 

 「別に変に謝らなくていいよ。調子が狂うからさ」

 

 “聖杯戦争”前から家系を繋げる本物の魔術師。それが真鶴チトセ、“聖杯戦争”の勝者となった魔術師にして、私の祖母だった。

 

 カリンは自分の家族についてあまり話したがらない。それは、彼女の家族が後天的に“聖杯”を宿す“新人類”であるにも関わらず、過去の英雄であるサーヴァントを使役するのに否定的だからだろう。聞けば彼女の家族は“令呪”すら起動した事がないそうだ。

 

 それは異形のサーヴァントである紅葉さんと共にいるカリンには辛い事だっただろうし、彼女があまり実家に居着かず、一人暮らしの私に良く絡んでくるようになったのは、私が家族間のしがらみが無く気楽なように見えたからというのもあったのだろう。

 

 『そんなに意地張らないで、エリセ。彼も貴女を信頼しているみたいじゃない。お世話をしてあげたら?』

 

 先程チトセに有無を言わせぬ笑顔で押し切られて、逃げるようにカリンと上級騎士を連れて教室を出た私に、そんな関係は到底望めそうもないけれど。

 

 

 

 

 

 * 

 

 チトセの事を聞いたカリンはしばらくの間口が重くなって、紅葉さんが心配する程だった。ランチとしてジャンクフードをガツガツと食べた後は、すっかりいつも通りの調子に戻っていたけど。

 

 (もう少し深刻なリアクションしてやれば良かったかも……)

 

 と、若干後悔しながら私達四人は用事がある場所へと足を運んだ。

 

 通称“秋葉原デパート”と呼ばれる魔術用品街だ。魔術との関わりを持つようになった市民達が集って作り上げたそこは、正式な魔術師から見れば失笑される品々だけど、“死神”としての仕事には欠かせない呪具や治療用の霊液(イコル)などが、正規に買うよりは安く売っているので良く活用している。

 

 しかし、今日ここに来たのはその為じゃない。年老いた魔術用品バイヤーと、旧人類史において名をはせた豪商の二人が営んでいる、召喚術の拠り所となる遺物品(レリック)や触媒を扱う店を訪れる為だ。

 

 昨夜戦ったクンドリーが使役していた“グレムリン”にまつわる触媒を扱っているとしたら、恐らくこの店だろうとアタリを付けてやって来たのだったが、残念な事に店の守衛である初老の魔術師に、サーヴァントは受け入れられないとして追い返されてしまった。

 

 「あーあー、なんだよ……。モミもキッシーも店には入れられないってさぁ……。いっくら貴重な商品(・・)扱ってるっていっても、護衛くらいはいいじゃんかよー。なあキッシー?」

 

 「その、通り。ホストを、護り、抜くの、が、自分、の使命」

 

 「だーかーらー、ホストじゃなくてマスターだっつの。あれ?結局エリちはキッシーのマスターになったんだっけ?」

 

 「なってないし、それにホストとかでもないんだってば……」

 

 何故か昨夜から私の事をホストと呼ぶ上級騎士に溜め息を吐きながら、帰宅時間になったらしいカリンを見送りに“秋葉原”の駅前へと向かうところだった。

 

 「にしたってさ、残念だったよなー」

 

 唐突にカリンがこちらへ声をかけてきた。

 

 「うん?何が?」

 

 「さっきの店。もし入れたらキッシーに関係するモンが見つかったかもしれねーんだろ?エリちだって、それ目的で連れてきたんしょ?」

 

 「……あ」

 

 「おい、まさかと思うけど……」

 

 「それもあったね……」

 

 「おぅい、なんで肝心なとこ抜けちゃってんの?ただのショッピングじゃないとかこっちに説教しといてさー」

 

 貴重な商品を気安く見せて貰えはしないだろうけど、向こうも商売人、自身の店の評判は何より気になるはずだ。

 

 クンドリーの“グレムリン”のような、モザイク市の治安を脅かすような触媒を取り扱っている事がバレれば面倒な事になるのは明白だし、都市管理AIである先生への報告をチラつかせて無理を聞かせる事も出来たかもしれなかった。

 

 「むむむ……」

 

 「何がむむむだ。相変わらずどっか抜けてるよなー、エリちはさー……」

 

 「申し訳ございませんでした……。あと貴方もなんで笑ってるの、もう……」

 

 私達の漫才じみたやり取りを、どこか微笑ましく見ている様子の上級騎士を睨む。

 

 市民やサーヴァント、様々な人々が行き交う駅前広場。そこで私達が話していると、広場に面するビル壁の超大型スクリーンから歓声が飛び込んできた。

 

 古代ローマの円形闘技場コロセウムを模した会場にて、二騎のサーヴァントが相対していた。一人は剣で、一人は槍で。そこから相手に向かって一気に加速、激しい打ち合いが始まった。

 

 旧人類史に召喚されたサーヴァントと違い、この世界のサーヴァントはモザイク市に大きな被害を起こさないように、基本的には性能や能力を抑えられている状態で現界している。昨日私の傷を癒してくれた紅葉さんの治癒術も、カリンの“令呪”による補助があった。

 故に旧人類史で起こった“聖杯戦争”のような、神話に近いサーヴァント同士の戦闘を見る事は出来ない。

 

 “聖杯”から直接膨大な魔力供給を受けられる、この“聖杯トーナメント”以外では。

 

 それ以外で宝具をフルパワーで使おうとすれば、霊基が軋み始めて、サーヴァントは存在を維持しにくくなる。昨日のクンドリーが正にそれだった。

 

 「お、“聖杯トーナメント”じゃん!今の見た!?」

 

 「知らないよ、そんなの」

 

 「はあ?エリち、まさか“聖杯トーナメント”知らんの?」

 

 そこまで常識ないと思われているのかと、流石に腹が立ってきた。

 

 「コロセウムでやってるショーでしょ。興味ないんだ、ああいうの(・・・・・)は……」

 

 映像は“聖杯トーナメント”の過去の試合映像を映していた。駅前広場にいた人々は老若男女問わず思い思いに声援を送りながら試合展開を見守っている。

 

 「じゃあせっかくアキバにいんのに、一回も“聖杯トーナメント”見た事ないってか?」

 

 「別にいいでしょ。それに好きじゃないから、あんなやらせ(・・・)みたいなもの……」

 

 「おい、聞き捨てならねえぞ……、って!エリち見ろ、今すぐっ!」

 

 「ちょっ、ぐえっ!?」

 

 カリンがスクリーンから頑なに目をやらない私の顔を掴み、グイッと映像を見せられる。

 

 そこに映っていたのは、今日の講義の後に先生と会話を交わしていた少女の姿だった。先程は帽子に隠れていた蒼い光沢の髪を長くなびかせ、身長も伸ばして濃紫色の甲冑に身を包んでいる。

 

 「えっ?あの子って……」

 

 何度か相手のサーヴァントと斬り結び、鍔迫り合いになった所で意図的に自身の力を抜いて、油断した相手の足元から切り崩し、瞬く間に打ち倒していた。

 

 そのまま勝者となった彼女の名前がスクリーンに表示される。

 

 『トーナメント勝者(ウィナー)、サーヴァント、剣士(セイバー)・ギャラハッド。マスター、コハル・F・ライデンフロース!』

 

 沸き起こる観客の拍手と喝采に、闘技場を埋め尽くす程の祝福の花びら。少女は疲れを見せる様子もなく、それに応えていた。

 

 (コハル……?それに、あの(・・)ギャラハッドが女性だって!?)

 

 疑惑が私の思考を駆け巡るが、

 

 「おーい、おーい!エリち!?」

 

 「っ!?あ、うん。ごめん、考え事してて……」

 

 カリンからの呼びかけで我に返る。

 

 「アイツ、講義ン時教室にいた奴だよな?その時にどっかで見た顔だなーとは思ってたんだけどさ……。そっかそっか、コハルだコハル!“聖杯トーナメント”のスター選手!ハルコってのは偽名で、お忍びで出席してたんだなー」

 

 「ああ、そういう事か……」

 

 うんうんと納得した様子のカリン。

 

 “聖杯トーナメント”とは、世界が今の形になってから行われるようになったスポーツだ。

 サーヴァント達が取り決められたルールの中で競い合う、安全で合法な遊戯。都市管理者を通じて“聖杯”に認められ、コントロールされているこのスポーツは市民達に大人気で、これを見る為にわざわざ他のモザイク市からやって来る人もいるらしい。

 

 つまり、サーヴァントを持たない私には縁遠い話だった。

 

 ただ、多数のモザイク市に数多く存在するサーヴァントの中でも、あのギャラハッドが召喚されているとは思わなかった。

 

 (しかも女性とか……)

 

 信じがたい。にわかには信じがたい。

 

 旧人類史においても“聖杯戦争”と所縁(ゆかり)が深い“円卓の騎士”、その中でもかの“聖杯の騎士”ギャラハッドを一体どうやって召喚したのだろうか。

 

 (あのコハルって子がもの凄く徳高いとか……?)

 

 「いやーすげーよな!さっきのは広告だったけど、やっぱ迫力半端なかったな。なあエリち」

 

 「でも“聖杯トーナメント”の開催期間中は、ファンのバカ騒ぎでコロセウム周りの治安が悪くなるんだよ。いい迷惑なんだ、こっちには……」

 

 「お、おう……。そりゃあ大変だな……」

 

 物知り顔のカリンが流石に鬱陶しいし、いい加減話題を打ち切りたくなってきたので、私はつい口を荒げてしまう。

 

 「だいたい、あんなの馬鹿々々しいったらないよ。そうでしょ?英霊達を見世物にして、楽しんでる人達の気が知れない。応援してる観客はさ、自分達も選手と戦ってる気になってるんだろうけど、それだって飽きるまでの話だ。安全な場所で眺めてるあの人達に、戦ってるサーヴァントが生前どんな思いで戦ってあれほどの戦闘技術を得たとか、どんな痛みや悲しみを背負った人生だったかなんて気にも留めない!」

 

 だから、

 

 「あんなの、茶番劇じゃなくて、なんだっていうんだっ……!」

 

 言葉を一つずつ噛みしめながら、自身の想いをカリンにぶつける。

 

 「おい、エリち……」

 

 グイッと制服のネクタイを掴まれて、

 

 「エリちがサーヴァントの事大事に思ってんのは分かっけど、人がどれだけ真剣かなんて、他人が勝手に決めていい訳ねーだろ?」

 

 「っ……!」

 

 カリンの瞳が逃げる事は許さないとばかりに私を射抜く。

 

 「遊びだろうが見世物だろうが、そこにいる人間は皆真面目にやってんだ。サーヴァントだって嫌々やらされてる訳じゃねーんだろ?それじゃ何か、人が死んだら偉いんかよ。国が滅んだり、時代が変わるようなインパクトがなけりゃ、みーんな子供騙しのジョークかよ?」

 

 「そ、そうは言っては……」

 

 「自分の価値観は大事にしなきゃだけどさー、だからってそればっかり正しい訳じゃねーだろ?古臭い考えばっかりありがたがんのは止めとけよ、エリち」

 

  「……カリンには、分かんないよ。当たり前にサーヴァントを連れてる、貴方達“新人類”にはさ……」

 

 そこまで言うと、カリンは顔を辛そうに歪めた。

 

 「ごめん。言い過ぎた……」

 

 彼女が気にしてる事を言ってしまった。言ってはいけなかった事だ。

 

 「いいって。あんま謝んなって。自分の考え口に出す事に怯えてたら、もうなんも出来ねーぞ?」

 

 カリンは私の謝罪を笑って受け止めてくれた。自身があまり口が良くない事もあって、お互い様だと思ってくれているのだろう。

 

 けれど、このままにはしない。

 

 額と額を近づけ合い、互いの右手を互いの胸の合間に置く。制服のブラウス越しに、互いの心音が伝わり合う。

 

 これは、私達二人だけの儀式。小さい子供が喧嘩の果てにごめんねと謝り合うような、仲直りの時に行う行為だ。

 

 「ぶつかんのは、お互いの事がまだ良く分かってねーって事だよな。でもさ、こーいうのが必要だろ。あたしにもエリちにもさ」

 

 「うん……。ありがとう、カリン」

 

 「お、いいねいいね。その調子その調子」

 

 柔らかく笑うカリンに私も釣られて笑みを返す。“新人類”だとか“聖杯”以前に、私達は異なる二人の人間なんだから、考えは違って当たり前だ。

 

 けれど、変わりはいないんだ。

 

 (……ん?)

 

 そこでお互いに違和感を覚えた。カリンも辺りも見回し、

 

 「あれ、キッシーは?」

 

 「……あ」

 

 上級騎士がその場から姿を消していた。

 

 

 

 

 

 *

 

 (うーん。カオスだ……)

 

 上級騎士を捜す内に出会ったぱっとしない無精ひげの青年、サーヴァントを持たないはぐれマスターの朽目さんが、ギターを楽し気にかき鳴らしていく。旧人類史で言うところのオタクであるらしい彼が紡ぐその音色は、今日初めて会った私達の気分さえ高揚させてくる。

 

 そして、それに合わせてカリンが天女のように舞う。

 

 いや、彼女だけではない。

 

 何故か彼らに混ざって、上級騎士も穂先が三又に分かれた槍を持って掲げながら、軽快に音のリズムに乗って踊っていた。見ているだけで狂気に飲まれてしまいそうだが、腹の立つようなコミカルさもある。

 

 「カリン。そろそろ帰るって言ってたのに、いいのかな……」

 

 独り言が漏れると近くにぬっと紅葉さんが現れ、そのかぎ爪で意思表示するかのように地面を掻いた。

 

 「えっ、紅葉さんもギター弾けるの?……あ、琴が得意だったんだね」

 

 紅葉さんはステータスの強化がされる代わりに様々なデメリットが生じるバーサーカーのクラスで召喚されている。基本的に唸り声しか上げれないのもその為だ。

 

 だから私は、前髪に装備している礼装アプリによって彼女からの意思表示を受け取っている。これまでの彼女との会話や、マスターであるカリンがフォローしてくれた内容をベースに、おおよその意味を提示してくれているのだ。

 

 そんな私達をよそに、音楽はクライマックスが近づいていた。

 

 先程とは違い、広場は沢山の観客で賑わっていた。ダンスが得意だというカリンの踊りは素人目に見ても情熱的で、とても楽しそうだった。私は今この瞬間を全力で楽しんでいるんだと、貴方達はどうだ?と言わんばかりに。

 

 それだけで、やっぱり彼女には色々な面で勝てないなと思わされてしまうけど、それと同時に、そんな彼女が自分と友人でいてくれる事に嬉しくもなっていた。

 

 

 

 

 

 *

 

 その夜、意外な来客があった。

 

 「久しぶりね、エリセ。……って、さっきも会ったけど」

 

 私の祖母、真鶴チトセだった。

 

 てっきり上級騎士について根掘り葉掘り聞かれるものと思ったけど、彼についての事柄は二つか三つ程尋ねられただけだった。恐らくチトセの中には、ある程度の答えがあるのだろう。

 

 けれど、チトセが質問の後に私に指示してきたその内容は、到底受け入れられるものではなかった。

 

 「いや、嫌だよ、チトセ。なんで……」

 

 「……」

 

 私の言葉にも申し訳なさそうに笑うだけで、方針は揺るがないとばかりに紅茶を啜るチトセ。

 

 いきなりアポもなしにやって来たと思ったら、告げられたのは“死神”としての仕事をしばらくは控えて欲しいという、私には到底受け入れられないものだった。

 

 縋るように彼女のサーヴァント、槍兵(ランサー)・ルキウス・ロンギヌス(分りやすく聖ロンギヌスという通り名もある)の方を見る。ダブルブレストのベストに落ち着いた濃赤色のネクタイをしっかりと締め、左頬には十字傷がある落ち着いた雰囲気の男性だ。

 

 彼は私にとって、戦う術と心構えを教えてくれた師匠のような存在だった。そして、かの聖槍・ロンギヌスの真の持ち主でもある。

 

 だが、彼に助けを求めても苦笑して首を横に振られるだけだ。これ以上チトセに何かを問うても無駄だと言いたいのだろう。

 

 「し、しばらくって、どのくらい……?」

 

 「取り敢えず二ヶ月は見て欲しいかな。調べたい事もあるし……」

 

 「そ、そんなに……」

 

 私から“死神”としての仕事を取ったら、もう何も残らないじゃないか。

 

 利己的な存在の代表格のような魔術師としての後を継ぐのが嫌で“新宿”を抜け出して、先生に出会ってやっと一人でも生きていけるって思ったのに。

 

 サーヴァント達から嫌われたり恐れられたりする事はもの凄く辛いけれど、この仕事をしている以上は仕方がないと受け入れていたのに。

 

 この世界に、私が生きていてもいい理由が、やっと見つかったと思ったのに!

 

 サーヴァントも持たず、ただ生きているだけの木偶人形。いや、それ以下の存在になってしまう。生きる意味も、理由も無い。

 

 けれど、チトセが決めたのならそれはもう“聖杯”が決めたのと同じくらい決定事項だ。

 

 「……」

 

 悔しくて手をギュッと握り込む。

 

 「……本当にごめんね、エリセ。それじゃあ―――」

 

 と、チトセがルキウスを伴ってこの椅子から立ち上がろうとした瞬間。

 

 「あら?何か御用かしら、上級騎士さん」

 

 それまで黙って見守っていた上級騎士が、チトセを遮るように立ちはだかった。

 

 「我が、ホス、トである、エリ、セが不器用にも、懸命に、この世界で、生き、ようと、する、のを、祖母、である貴女、が邪魔を、すると、言うのか?」

 

 落ち着いてこそいるが、その言葉は隠しきれない怒気で満ちていた。

 

 「自分、がいる事、が原因なら、ホストの、許可、を得てすぐに、でも消え、失せよう。だが……」

 

 上級騎士は一旦そこで言葉を切った。

 

 

 

 

 

 ―――そして。

 

 「もし、も、自分、が、彼女と共に、戦う、事に不安を、覚え、ているの、ならば、余計な、お世、話と言わせ、て欲しい。例え、相手が人間、だろうと、怪物、だろうと、英雄、だろうと、神、だろうと」

 

 今この時だけは、歴戦のサーヴァントであるルキウスが警戒する程の殺気と威圧感を放ちながら、

 

 「何度、敗れよう、と、必ず、打ち倒して、みせる」

 

 チトセを睨みつけながら断言したのだった。

 

 

 

 

 

 





 夜中に食べる家系ラーメンの罪深さ。
 
 それではFGO七章後半行ってきます。
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