不死人は“死神”と出会うようです。 作:クラ―グ様のお胸様、エリちの太もも
「……」
深夜。
街灯に照らされた大通りを、セーラー服を着ている学生のような美女と、ジャケットを羽織った精悍な偉丈夫が共に歩いていた。
宇津見エリセの祖母、真鶴チトセとそのサーヴァント、ルキウス・ロンギヌスである。
エリセの住居から退出したチトセは、雪のように白い指を顎へと当てながら考え事をしていた。
自身の孫であるエリセに命令した事ではない。それに対して怒りを隠す事なく立ちはだかった、上級騎士と呼ばれる存在についてだった。
かの存在は、チトセが今まで見てきた使い魔の類に全く当てはまっていない。自身の魔術師としての
彼を
エリセやカレンに上級騎士の事を尋ねてみても、要領を得ない回答が返ってくるばかりで、半ば諦めるしかないような状況だった。
(サーヴァントでも使い魔でもない。まさか本当に異世界からやって来たという訳でもないでしょうに……)
「厄介だわ……」
そう呟くチトセは、美しくも恐ろしい冷徹な魔術師の顔となっていた。“
その彼女が、
(あの存在が、もしもこの世界に悪影響を与える事になるなら……)
と、かつてモザイク市の成立に関わった者として心を決めているところに、
「マスター」
と、彼女の信頼するサーヴァントから声がかかった。
「あら、ルキウス。ごめんなさいね、気付かなかった」
「先程から何度も声をかけていたんだが……。随分と気になっているのだな、
明らかにこちらをからかうような笑みを浮かべているルキウスを見やりながら、
「女の顔を笑いながらジロジロと見るのは失礼ではなくて、
チトセも負けじと圧を込めた笑顔で言い返した。
「おや、それはすまなかった」
しかし、並の魔術師なら震えあがりそうなチトセからのプレッシャーも、歴戦の戦士であるルキウスにはどこ吹く風のようだった。
その様子に上級騎士の事で凝り固まっていた頭がゆっくりと解きほぐされていく。優れた魔術師であるとはいえ、思い悩む事もある。そういう時にさりげなく助け舟を出すのが得意なのだ、このルキウスという男は。
「それで、どうなのルキウス?」
「うん?どう、とは?」
表情を改めたチトセからの問いに、ルキウスは怪訝そうな顔をして返した。
「決まっているでしょう?もし彼がこのモザイク市に害を為す存在だとして、貴方が彼と戦う事になった場合、貴方が勝つ確率はどの程度あるのかしら?」
「何を聞くかと思えば……。まあ、ほぼ100%で私が勝つだろうな」
チトセの意地悪く挑むような問いに対し、当然だろうとばかりにルキウスは答える。一見傲慢にも聞こえる言葉だが、これには彼女も同意見だった。
あの上級騎士という存在は、様々な魔術師やサーヴァントと死闘を繰り広げてきた二人からすれば、現状ではなんら脅威になるような存在ではないというのが、二人の見解だった。
仮にそうであったとしても、この二人ならば問題なく対応出来るだろう、と。
「そうでしょうね。なら―――」
だが、
「しかし、私はあの上級騎士という存在を決して見くびってはいないぞ、マスター」
表情を険しくしながら、ルキウスははっきりとチトセへ告げた。
「……理由は?」
「彼の眼だ」
彼女の問いに、彼は簡潔に答えた。
「眼?」
「ああ……。私が身構えたのは彼の雰囲気が明らかに変わったのもあるが、あのフルフェイスの兜から僅かに覗く眼が、
ルキウスの言うあの方とは、ほぼ間違いなくかの救世主の事だろう。
人間を悩ませ、苦しめ続ける原罪から、自らが十字架を背負って神への贖罪とする事によって、人類全てを救おうとした男、イエス・キリスト。
「どういう事かしら?まさか彼が単なる
魔術師にとっては魔術を超えた神秘である
「あの方があんな物騒な存在になっているとは考えたくはないが……。だがあの男の眼は、多くの苦難や絶望にまみえようとも、心折れるまで戦い続ける、そんな男の眼だったよ。ああいう眼をした者は、いつだって我々の予想を遥かに超えるとんでもない事をしでかすのさ、マスター」
優し気なその眼を細めて、どこか懐かし気に語るルキウス。
「ハァ……。思い出に浸るのはいいけれど、結局彼の事は何も分からないままなのね……」
その様子を見たチトセの口からは、溜め息交じりの言葉が零れた。
「まあ、そんなに思い詰めても簡単に答えが出せるような存在ではないだろう。今はエリセの一協力者に過ぎないといった立ち位置のようだが、もしもの時は君の言う通り、私と君で
ルキウスは元ローマ帝国の軍人らしく瞬時に顔を引き締めると、淡々とチトセへと語りかける。
その言葉に、
「まったく……。頼りになる
「もちろんだ。存分に頼ってくれ、我が
長い年月を共に戦い抜いてきた信頼関係からなる微笑を浮かべながら、二人は夜の闇の中へと消えていくのだった。
*
チトセから仕事を控えろと言われた翌日、私はとある高級ホテルへと向かった。そこは表向きには観光客向けの高級ホテルだが、私の目当てはそのホテルにいる二人のコンシェルジュ、認めたくないが懇意にしている情報屋の二人組だった。
サーヴァント、
生前において、兄のチェーザレはローマ教皇であった父のロドリーゴ・ボルジアの手足となり、大司教としても軍人としても権勢を振るい、ルクレツィアは天女のような美貌を武器に政略結婚を繰り返した。このボルジア一族に関わった者の多くが不審な死を遂げている事から、彼らはアサシンのサーヴァントとして召喚されたのだろう。
私がここに来たのは、恐らくチトセが彼らに対し情報の提供を求めたのではないかと踏んだからだ。
加えて、昨日カリンと別れた後に再度訪れた秋葉原デパートの
それらの情報を元に
「うーむ、うーむ……」
「もう、いつまで唸ってるの?」
上級騎士は先程からずっと剣呑な様子で唸るばかりだった。
どうやら彼は、ボルジア兄妹とは相性が悪いらしかった。私があの兄妹と交渉している際にもずっと彼らを睨みつけていたし、話しかけられても不機嫌そうにだんまりを決め込んでいた事からも、それは伺い知れた。
「我が、ホストよ。戦場、に、陰謀屋など、不似合い、だと、思わ、ない、のか?それ、に、彼らが、貴女、に、害を、加え、ないとも、限らない……。奴ら、は、尻尾を、巻い、て逃げる、のが、お似合いだ」
「あのね。あのホテルは戦場じゃないし、今の彼らはただの情報屋だってば……」
いくら言っても私の事をホストと呼ぶ事を止めない彼に辟易しながら、行きつけの喫茶店へと移動した。
そこは古書を扱っている事で有名な喫茶店だった。店名はボヘルス。
すっかり顔馴染みとなった柔和な老店主と挨拶を交わしながらお気に入りの席へと向かい、ボルジア兄妹から得た情報を確認する。上級騎士は気になった本を手に読書に勤しむ事にしたようだった。
それを横目に見ながら、彼らから得た記憶メディアを確認する。
そしてそこには、にわかには信じがたい情報が記述されていた。
―――“令呪狩り”。
魔術師ではなく“令呪”を宿した一般人が、“令呪”を奪われて殺害されているという事件だ。幸い、“秋葉原”ではまだ事件が起こっていないらしいが、その異様な犯行は既に先生やチトセには伝わっているだろうと思われた。
病死や自然死を克服したこの世界では、死者の名前を聞くのは殆ど殺人によるケースが多い。たとえ“聖杯”の加護があったとしても、それは避けられないのだ。
気になる点としては、“令呪”を奪われた被害者はその後の数日間は普通に生活していたという事だ。街中でいきなり昏倒し、既に死亡していた事が発覚したのだという。
つまり、“令呪”を奪われた被害者はその前後で既に死亡していたが、その死体が本人の生活をトレースして演じていた事になる。
聞いた事も見た事もない異様な事件に戦慄するしかない。
それと同時に、
(それを止めるのが、私の仕事だったのにっ……!)
という思いは隠しきれなかった。
話は変わるが、この世界における“令呪”は、過去の“聖杯戦争”において魔術師達が宿した“令呪”とは別物だ。
過去の“令呪”は使用画数が三画までと決められていたらしいが、“新人類”となった今の人類が宿す“令呪”は消費した魔力量によって減少する仕組みになっている。消費した“令呪”は“聖杯”からの魔力供給を受ければすぐに復活するため、実際には制限がなくなった状態だ。
この後天的な“令呪”を持たないのは、私が知る限り私とチトセの二人だけだ。けれどチトセは過去の“聖杯戦争”で得た旧式の“令呪”を、今でも大切に保持している。
記録メディアからの情報を踏まえ、この事件にどう対処するべきか考えあぐねていたところへ店に新たな来客があった。二人の男性と一人の少女。
「あ、貴女は……」
「え?あ……」
その少女の事を、私は既に知っていた。
*
「じゃあハルコ……、じゃない、コハルさんは―――」
「コハル、でお願いします、エリセさん。皆さんに比べたら、私はまだ若輩者なんですから……」
私の言葉をやんわりと遮り、彼女は微笑む。
コハル・F・ライデンフロース。
彼女の家であるライデンフロース家は、元々“時計塔”の降霊科の流れを汲む魔術師の家系だ。更に“聖杯トーナメント”を主催するプロモーターでもあり、ホムンクルスを創造する魔術を修めたのだという。
だが、だからと言って、
(貴女はホムンクルスなんですか?)
なんて聞く気にはならなかった。
興味を持った相手を知りたいと思うのは当然だけど、喫茶店で出会って少し話をしたぐらいで相手のパーソナルな部分を聞こうなんてふざけた話だ。カリンがいなくてもそれくらいは私にも分かる。
一方の上級騎士はというと、
「貴女、の戦闘、の際に、身に、着けて、いた武器、防具。どれ、も素晴、らしい。特に、剣だ。剣が、実に、いい」
「あ、ありがとうございます……?」
と、昨日駅前で見た“聖杯トーナメント”で戦っていたコハルに対して次々と質問をしていた。彼に彼女の家の事を教えていなくて本当に良かったかもしれない。
あとコハル。お願いだから私に助けを求める子犬のような眼で見ないで欲しい。出会って僅かの付き合いだけど、彼は恐らくこの世界の誰にも制御不能だと思う。
「だが、貴女、が帯び、ていた、剣は、二本、あった。もう、一本、は一体、どのような、もの、なのだ?」
「も、申し訳ありません、上級騎士さん。あの剣についてはちょっと―――」
「―――おい、そんなどこの誰かも分からん怪しい男にベラベラとこちらの事を喋るな。命取りになるかもしれんぞ、我がマスター?」
彼女がなんとか上級騎士の質問を躱そうと四苦八苦しているところへ、今までは興味薄げに会話に耳を傾けていた男から静止の声がかかった。
色素に乏しい長い白髪を後ろで束ねた物憂げな美青年、濃い紫のシャツに細い黒のジーンズ、まるでモデルのような男だった。コハルのサーヴァント、彼がギャラハッドだ。
「ハッハッハッ!どうやら君も前回の新人トーナメントの優勝者が気になっていると見える。だが、もし彼女を勧誘しようという腹積もりならば、既に我々のチームに加入する事になっているので諦めて欲しい。ああ、実に心強い話だとも!諦めきれずに交渉した甲斐があったというものだ」
そしてもう一人、呵々大笑しながら会話に混じる男がいた。日に焼けた小麦色の肌に豊かな口髭を蓄え、半袖のシャツにハーフパンツという、いかにもリゾート地に訪れた壮年の観光客といった風体だが、その眼光の力強さこそが、彼がカルタゴの名将軍、ハンニバル・バルカである事を証明していた。
「は、ハンニバル……。そんな、恐縮です……」
天下の名将、ハンニバルに褒められてコハルは頬を赤らめて縮こまっていた。
(分かる、分かるよ……)
彼女の気持ちが痛い程分かる私は、尚もコハルに質問しようとする上級騎士を制する。
「ほら、上級騎士もあんまりがっついて質問しない。コハルだって困ってるでしょ?」
「うーむ……。だが、彼女の、剣には、なんらかの、力、が施され、ているように、感じた。それ、ならば、自分、の手持ちにも、同じ、ような剣、がある。だが、どう、にもイマイチな、威力、なのだ。彼女、に聞けば、何か、原、因が分かる、かも、しれないと、思った、のだが……」
「フン……。大方、刃こぼれでもしているんだろう」
「ギャラハッドッ!」
上級騎士の言葉を鼻で笑うギャラハッドを、彼のマスターであるコハルが
まるで不良の兄を叱りつけるしっかり者の妹のようで、見ていて微笑ましい。ハンニバルも同じ気持ちなのか、笑みを浮かべて二人を見守りながらコーヒーを啜っていた。
「そう、だった、のか。そう、だった、のか。そう、だった、のか……。
「さ、三回も言う程ショックだったの?」
ギャラハッドからの指摘を受けると、椅子から離れてガシャンと音を立てて崩れ去る上級騎士。
その音に店内にいた他の客もギョッとしてこちらを見てくる。お願いだから止めてください。
そして、しばらくそのままの態勢だった上級騎士だが、ギギギとゆっくりギャラハッドの方へと顔を向けて、
「では、もう一つ、教え、て欲しい。ギャラ、ハッド卿。“聖杯”、に選ばれた、聖なる、騎士よ。彼女、に貴公が、力を貸し、た姿が、あの、“
と、我が意を得たとばかりに問いを投げかけた。
「え?そ、そうだったんですか、ギャラハッド卿?」
「戦いやすさを重視した姿だと思っていましたが……。もしそうなら、私もマスターとしてドン引きです、ギャラハッド」
「おい、ふざけるな。コハルも“死神”も、その男のペースに引きずり込まれるな」
彼の質問に私とコハルは若干引き気味になり、ギャラハッドは苦虫を潰したような表情をして答え、ハンニバルは我慢出来ないとばかりに笑い出したのだった。
*
「では、トーナメントの日にお待ちしています、エリセさん。まだまだ未熟な私ですが、精一杯努めますので」
「う、うん……。頑張って、コハル」
ハンニバルが自身のマスターから呼ばれた事で、つかの間の休息はお開きとなったが、コハルに依然興味津々な上級騎士を宥める為に、ハンニバルが手を回して試合のチケットを手に入れてくれる事になった。
それは流石に申し訳ないので正規のお金を払うと申し出たが、
「ギャラハッド君の愉快な表情を見せてくれた、そこの彼に対するお礼だよ」
と言って、ハンニバルは譲らなかった。
そこでふと、先程の“令呪狩り”の事が頭をよぎった。
(コハル達は知っているのかな……)
彼らは私とは違う。“聖杯トーナメント”の選手としての役割がある。
チトセや先生もいるのだし、余計な事で彼らを煩わせる訳にはいかない。黙っていた方がいいだろうと思っていたところへ、
「……。おい、“死神”。言いたい事、聞きたい事があるのならば口を開け。俺のマスターは、“
「余計な事を言わないで下さい、ギャラハッド。けれどエリセさん、何か私に質問が……?」
と、ギャラハッドに皮肉交じりに咎められてしまった。ここまで言われては、私の心も決まろうというものだ。
意を決して四人に向き直り、
「私が死神として呼ばれているのをご存知の皆さんに、聞いておいて欲しい事があります。上級騎士、この件は貴方にも聞いて欲しい」
と、ボルジア兄妹から得た“令呪狩り”の情報を語った。
不用意に周囲に言葉が漏れぬように、まだ都市情報網でもニュースになっていない凄惨な事件の事を。
「もっと詳しい事はこの記録メディアに……」
「本当によろしいのですか?ありがとうございます、エリセさん」
「うん……」
記録メディアの鍵を解錠し、コハルへと手渡す。
十分な説得が出来たかは分からいが、彼らは私の言を笑ったりせずに真摯に耳を傾けてくれた。
「ふーむ……。まだこの“秋葉原”では起きていないとはいえ、実にきな臭い話だ。ありがとう、エリセ君。警備を担当する者にも、私から伝えておこう」
「よろしくお願いします、ハンニバルさん」
「うむ、任せてくれたまえ!」
と、ハンニバルは力強く笑ったのだった。
評価バーに色が付くほどの評価を頂きました。これもDARK SOULSとFate/Requiemの世界観やストーリー、キャラクターの魅力によるものだと思っています。本当にありがとうございます。
あと、FGO七章後半クリアしました。終わった時に色々感想が浮かんだのですが、一番最初に浮かんだのは、
「これテスカニキ不死人の事大好きなんじゃね?」
でした。
いよいよフロム様に毒されてきているなと実感しました。