ポケモンLEGENDS スカーレット・バイオレット 作:クロウド、
―――ヒスイ地方。テンガン山、シンオウ神殿跡地。
テンガン山の山頂にあった、シンオウ神殿。今はディアルガとパルキアの荒ぶる力によって、神殿の外壁や天井も、シンオウ様に仕えた十匹のポケモンの像も粉々に砕け散り残ったのは無惨な支柱の残骸。
―――何処かの誰かの言葉を借りるならそう【やりのはしら】といったところだ。
その残骸の、嘗てディアルガとパルキアが降臨した場所に一人の青年の姿があった。
青年は懐から紫色の独特な形状の笛、【てんかいのふえ】を取り出すと、空に向かって音色を奏でる。
「♪〜〜♪〜〜」
その音色を合図に、空から透明な光の階段が彼の目の前に降りてくる。
長い階段を一段一段、踏みしめて登っていく。空から見えるヒスイ地方の景色を、目に焼き付けて。
やがて、階段を登り終えると広い空間に辿り着く。地面に幾何学的な紋章が描かれた円盤の世界の中心にそれはいる。
『もう、いいのですか?』
「あぁ、もう皆に別れは告げてきたよ」
その存在は彼の心に直接語りかける。
―――彼の存在の名はアルセウス。宇宙を創造したと言われし存在。
青年を別世界からヒスイの地に呼び寄せ、この地の異変とポケモン図鑑の完成という使命を与えたものだ。
『この地に、なんの未練もないのですか?』
「……あるに決まってるよ。先輩や、団長や、セキさん、カイさん……僕みたいな人を認めてくれた皆、皆との別れが寂しくない訳がない!」
アルセウスの確認に、青年は装っていた平静を投げ捨て、本音を吐き出す。
彼がこの地を去るといったときの親しき者たちの顔が浮かぶ。彼を引き止めるもの、仕方ないと後押しするもの、あえてなんの感情もないように務めるもの。
皆、自分との別れに一様の感情を見せてくれた。その度に、彼の決心は音を立てて揺らいだ。
それでも、
「だけど、これ以上僕はこの世界にいちゃいけない。これ以上、僕のような異物がこの地にいてはならない」
彼はこの先、この地がどのような未来を辿るのかを知っている。
いずれは、ヒスイという名も忘れ去られ、シンオウ地方という名称になることも。この地に生きるポケモンの何体かが時代の流れとともに絶滅することも。
彼は、もしこれ以上自分がこの世界に干渉し、自分の知る未来とは程遠いものになってしまうという事態を心配していた。
善いものになるという確証があるならこの地を去るとは言わなかっただろう。だが、万が一それが悪い方向になったらと考えるとやはりこの地に残ってはならないと彼は結論づけた。
故に彼は、大切な人達に別れを告げるという苦渋の決断をしたのだ。
「アルセウス、あなたには感謝している。なにせ、大好きなポケモンの世界に連れてきてくれたんだから。想像以上にハードではあったけどね」
ポケモン図鑑の完成、荒ぶるキング、クイーンとの戦い、各地に散らばったアルセウスの力の欠片であるプレートの回収、そして、全ての元凶との戦い。
想像していたより遥かにハードで、ただ、元々の世界で、死んだまま生きてるような人生を送っていた彼にとってこれ以上ない
「まぁ、正直。元の世界にはこれっぽっちも心残りなんてないけどさ、僕が帰れる場所はあの世界しかないでしょ?」
『――ならば、今までの報酬として貴方の望む世界に、貴方を送りましょう』
「僕の、望む世界?」
『この時代より遥か後の世界、貴方にとって最も覚えのある世界』
「っ!? それって、できるの?」
『可能です。その世界ならば、貴方は未来に怯える必要はない。その先の未来に決められた道筋はない、そこから先の未来は貴方や、その地で出会った人々と紡いでいけばいい』
それは青年にとって、あまりにも魅力的な提案だった。元々、ポケモンのことが好きで可能ならこの地にずっといたいと思っていた、それでも前述の理由から彼はそれを行うことを恐れていた。
しかし、これから向かう世界には決まった未来など存在しない。これから先、シンオウのためにやらなければいけないことではなく、自分のやりたいことのために冒険ができる。
―――その、なんと幸せなことか。
「頼めるか、アルセウス」
『わかりました』
アルセウスが青年の望みを承諾すると大地の紋様が激しい発光を始める。
『では、■■。改めて、この言葉を送ります』
「………。」
『これからの貴方、そして、あなたが生きていく宇宙を私は祝福しましょう』
「ありがとう、アルセウス」
『これからの貴方の冒険に素晴らしい
そのアルセウスの言葉を最後に青年、■■の視界は完全に光に覆われた。
さて、次回はナンジャモさんと改めてのファーストコンタクト。しかしどうにも青年の様子がおかしく?