ポケモンLEGENDS スカーレット・バイオレット 作:クロウド、
「美味しいですね、このサンドイッチ」
「せやろ、せやろ。パルデアの名物といえばサンドイッチやからなぁ」
ヒスイ達はポケモン達を回復させたあとハッコウシティの広場のベンチでサンドイッチ専門店まいど・さんどで買ったサンドイッチを食べていた。
「ゾロアも美味しいね」
「アウッ」
ゾロアもポケモン用の小さいサンドをもぐもぐと食べている。因みに白いゾロアは目立つのでゾロアの特性【イリュージョン】で黒い原種のゾロアに変身している。
「ふぅ」
「ヒスイ氏、食べるの早いね」
「僕、食事にはあまり時間かけないんですよ」
「ちゃんと噛まないと消化に悪いのですよ」
「大丈夫です。その分、胃も強くなったみたいですから」
皆より早く食べ終えてしまったヒスイだったが、少ししてハッサクが食べ終わると向こうから声をかけてきた。
「ヒスイくん、失礼ですがいくつか質問よろしいでしょうか?」
「いいですよ、僕に答えられることなら」
ハッサクは先程のバトルから気になっていたことをヒスイに尋ねてみることにした。
「まずは、ヒスイくんとポケモン達の戦い方についてです」
「なにかおかしなところはありましたか?」
「いえ、おかしいというわけではないのですが。君が度々使っていた技の前に出す、【早業】、【力業】という指示のことです」
「そうそう、チリちゃんもそれ気になっとったったんや」
いつの間にかサンドを食べ終えたチリもヒスイとハッサクの話題に加わる。因みに、ポピーはもしゃもしゃとサンドを食べるゾロアの愛らしい姿を見ていて、ナンジャモはその姿をスマホロトムで撮影している。
「早業と言うと明らかに速度が上がった上に連続で攻撃することもあり、力業というと今度は明らかに威力の上がった一撃を放っていました」
「あれですか。あれは特殊な特訓を受けて使えるようになる技法で、PP(パワーポイント)を多く消費して一撃の速度や威力を上げることができるんです」
「へぇ〜、チリちゃんそんなん始めて聞いたわ」
「小生もなのですよ、ヒスイくんは一体どこでそんな知識を、と。失礼、デリカシーがなかったのですよ」
「いえ、お気になさらないでください」
意図せずヒスイのデリケートな部分に片足を踏み入れかけたことを謝罪するハッサクだが、ヒスイは特に気にした様子もなく笑顔でやんわりと応えた。
「なぁ、ヒスイくん。それってチリちゃん達のポケモンでもできるか?」
「う〜ん、特訓の仕方は知っているので試して見る価値はあると思いますけど、出来ると断定はできないですかね」
「そうなりますと、まず誰かのポケモンにその特訓をしてもらい、出来るようになるかを試してもらうのがいいのでしょうが我々もあまり長い時間は取ることはできないですし」
ハッサク達は四天王として多忙な身だ、今回はもうひとりの四天王がその分の仕事を引き受けているから来れているのであって、そう何度もヒスイを訪ねることはできない。
しかし、幸運にもその役目を引き受ける適任者がここにいる。
「はいは〜い! そういうことなら、ボクがやりま〜す!」
「おおっ! それはいい提案なのですよ!」
ゾロアの食事の撮影を終えたナンジャモが三人の話に参加する。
「確かにヒスイくんはハッコウジムに居候しとるしナンジャモちゃんなら適任やな」
「ニシシ、その通り〜。ただねぇ、その代わりと言っては何だけど〜」
「わぁっとるわ。どうせ、動画配信してもええかって聞くんやろ? ヒスイくん、構わんか?」
「全然いいですよ」
「よっしゃー!」
ナンジャモは新たな動画のネタを手に入れてガッツポーズをとる。運のいいことに人が少ないタイミングだったので、注目されることはなかった。
「あの、今度はこちらから質問してもいいですか?」
「「勿論、や(なのですよ)」」
「皆さんが使っていた、あのポケモンが結晶化する現象はなんですか?」
「テラスタルのことか、そういや説明してなかったな」
チリはポケットからモンスターボールと同じサイズの黒い球体をヒスイに見せるように持つ。半透明の上パーツの中には何かの結晶体が見える。
「コイツはテラスタルオーブ言うてな、ポケモンをテラスタルする力を持っとるんや」
「テラスタルをすると、ポケモンのタイプがそのポケモンが持つテラスタイプに変化するのですよ」
「わかりやすく言うと、ボクのムウマージいるでしょ? あの子のテラスタイプはでんきだから、テラスタルするとゴーストタイプからでんき単タイプに変化するんだ」
「なるほど……だから、でんきタイプのジムリーダーのナンジャモさんの手持ちにムウマージがいたんですね」
「そゆこと〜。更にいうとテラスタルをしていると、テラスタイプの技の威力が上昇するんだよ」
「なるほど、面白いですね」
ハッサク、チリ、ナンジャモの豪華なメンバーによるレクチャーを受けて、ヒスイはテラスタルの有用性とタイプの相性により広がる戦略の幅に魅力を感じていた。
「テラスタルオーブが欲しいなら、チリちゃんからトップに話しつけとくけど?」
「いいんですか?」
「ホントは色々手続きがいるんやけど、チリちゃん達に勝てる実力があるなら許可は降りるやろ」
「ありがとうございます、チリさん」
幸運にもテラスタルオーブを手に入れられる機会が訪れ、喜ぶヒスイ。
「では、ヒスイくん。ここからは小生の個人的な質問なのですがよろしいでしょうか?」
「勿論、いいですよ」
「それでは、あのヌメルゴンの生態について教えては貰えないでしょうか?」
「僕のヌメルゴンについてですか?」
「はい、小生はドラゴンタイプ使いの一族の生まれなのですが、あのようなヌメルゴンは見たことがないもので、是非とも詳しいお話を伺いたいのですよ!」
「ハッサクさん、圧、圧が強いですって」
「おっと、これは失礼したのですよ」
またしても熱くなり周りが見えなくなってしまったハッサクだが、既にそういうハッサクがそういう人物だと理解しているヒスイからしたら驚くこともないので素直に笑いながら質問に答え始める。
「ハハハ、あのヌメルゴンはヌメラが飲んでいた鉄分を多く含んだ水が進化の際に粘液に作用して鉄の殻に変化したものなんです」
「ほう! あの殻は粘液が変化したものだったのですか」
「はい、なので。ヌメルゴンの殻は粘液と鉄の両方の性質、つまり剛柔一体の性質を持ってるんです」
「なるほど、つまりはあのヌメルゴンのタイプはドラゴン・はがねの複合タイプ、珍しい組み合わせですね」
「良ければ、育ててみますか?」
「はい?」
ヒスイはスマホの預かりシステムアプリを起動して、手持ちのポケモンを一体転送し、代わりに一つの翡翠色のモンスターボールを呼び出してハッサクに差し出す。
「この中には僕が群れで捕獲したヌメイルが入っています。
知っての通り、僕はポケモンの生態を調べるためにいろんなポケモンを捕獲してましたけど、データが取れたらちゃんと野生に返してあげるつもりだったんです。ただ、人里に残ろうとするポケモンが少なからずいまして」
「なるほど、預かりシステムのポケモンが多いというのはそういう理屈でしたか」
「それに、ハッサクさんなら安心して託せますから」
「ヒスイくんにそう言ってもらえるのは光栄なのですよ。では、ありがたく」
ハッサクはヒスイの手からヌメイルの入ったボールを受け取ると、今度は自分の腰のモンスターボールのホルダーから別のボールをヒスイに差し出す。
「ただで受け取るというのも気が引けます。ここは、このポケモンと交換でどうでしょう?」
「このボールは?」
「この中にはセビエというポケモンが入っています。ついこの間、所用でナッペ山に行った際に活きが良かったので捕獲したのですよ。最終進化まですれば小生が使っていたセグレイブになるのですよ」
「ありがとうございます、ハッサクさん! 僕、まだパルデアのポケモンは一体も持ってなかったので!」
「いえいえ、こちらこそなのですよ」
お互いに喜びながら新しい仲間の入ったモンスターボールを見る。
―――これが真実を知るものからしたら、歴史的瞬間であることには当然気づいていない。
「よかったやないですか、ハッサクさ……ん? んんん?」
その様子を傍から見ていたチリがヒスイのスマホの預かりシステムのページがチラリと見えて顔色が変わった。
「チリちゃん、どうかしたんですの?」
「ヒスイくん、ちょっとだけスマホ借りてもええか?」
「構いませんよ、どうぞ」
チリはヒスイが差し出したスマホを「おおきに」と礼を言ってから、ヒスイからスマホを受け取るとさっきチラリと見えたポケモンを探す。
「おっ、やっぱおった!」
「何がいたのです、チリ?」
「この子や! この子!」
チリは見つけたポケモンの詳細のページを開き、それを興奮した様子でハッサク達に見せる。
チリが差し出すスマホに移されているのはパルデアにも生息しているカムカメによく似たカメ型のポケモンで頭に小さい芽が生えていた。
「おや? このポケモンは、確か……シンオウの」
「ナエトル、ですね……あぁ、そっか。チリさんじめんポケモン使いですもんね」
「ヒスイ氏、どゆこと?」
でんきタイプには詳しいが他のタイプにはそれほど関心がないナンジャモはヒスイが言いたいことを察せず、そのままヒスイが補足説明を行う。
「ナエトルは最終進化すれば、ドダイトスと言ってくさ・じめんタイプのポケモンになるんです。僕の知る限り、この組み合わせはドダイトスだけなんです」
「いえ、この地方にはノノクラゲというポケモンがいまして、その進化系のリククラゲともにくさ・じめんタイプなのですよ」
「へぇ、パルデアにはそんなポケモンが……。」
「ヒスイくんっ、頼むッ! チリちゃんとも交換してくれ!」
チリは顔の前で手を合わせ、ヒスイに懇願する。
「チリちゃん昔っからドダイトスが欲しくってな、ただ、シンオウに知り合いおらんし御三家やから滅多なことじゃ見つからんし」
「いいですよ」
「わかっとる、こんな貴重なポケモンそんな簡単に交換してもらえんことは、ここはチリちゃんとっておきの色違いウパーでって、ええの? そんな簡単に?」
「ええ、この子も群れで捕まえた子ですし。やたら人懐っこくて、村から出たがらないから僕が預かってただけですし」
「よっしゃあ!」
あっさりと交換を承諾されて面喰らったチリだったが、念願のドダイトスに進化するナエトルをゲットでき、先程のナンジャモ同様ガッツポーズをとって歓喜した。
「あ〜、おじちゃんもチリちゃんもズルいんですの! ポピーもお兄さんとポケモンさん交換したいですの!」
ただ、さっきから放置されていて頬を膨らませたポピーが不満の声を上げた。
そんな、ポピーにもヒスイは真摯に向き合う。
「いいですよ、ポピーさんははがねポケモンが好きでしたよね?」
「はいっ! ポピーはカッチカチでカワイイポケモンが大好きなんですの!」
「だったら、この子なんてどうですか?」
ヒスイはもう一度手持ちのポケモンを交換し、呼び出したポケモンのボールをポピーの前で開いて見せる。
「ポチャア?」
「わぁ! とっても可愛いですの!」
出てきたのはナエトルと同じシンオウの御三家ポケモンの一体、ペンギンポケモンのポッチャマだった。
ポピーは可愛いポッチャマの姿に抱きつき、頬ずりをする。ポッチャマもそれを嫌がる様子はなく寧ろ喜んでいる様子だ。
「この子はポッチャマと言って、今はみず単タイプですけど最終進化系のエンペルトになるとみず・はがねタイプというとても珍しい組み合わせのポケモンになるんです」
「本当ですの!? じゃあ、この間お友達になったカヌチャンと交換してほしいですの」
「勿論、いいですよ」
ヒスイはポピーともポケモンを交換し、まだ交換していないもう一人に視線を向ける。
「ナンジャモさんもどうですか?」
「えっ? う、うん! ヒスイ氏がいいって言うなら!」
四人の姿をジーっと見て自分から交換してと言い出せなかったナンジャモだったが、ヒスイが気を利かせたことでヒスイの持っていたビリリダマとズピカと交換した。
こうして、ヒスイは四天王三人とポケモンを交換し、セビエ、ウパー(パルデアの姿)、カヌチャン、ズピカの四体のパルデアのポケモンをゲットした。
「アウウ……。」
「あっ、食べ終わったんだゾロア」
「ゾロアさんおネムみたいですの」
体が小さい故に食べるのに時間がかかっていたゾロアもサンドを食べ終えたようだ。ただ、お腹いっぱいになって眠そうに目をこすっている。
「ずっと外にいたからね、流石に疲れたかな。ボールの中で休んでて」
「アゥゥ……。」
そう言って、ヒスイはゾロアを唯一残った旧式のモンスターボールに戻した。
「それがナンジャモ君が言っていたモンスターボールですか、確かにレホール先生の授業資料の写真に写っていたもの同じですね」
「ぼんぐりから直接作られるみたいやけど、こんなボール何処で手に入れたん?」
「どこでって、自分で作りましたけど」
「「「自分で作った!?」」」
「え?」
まさかの返答にチリ、ハッサク、ナンジャモはヒスイに声を上げて詰め寄る。
「う〜む。チリ、確か貴女の故郷にはガンテツというボール職人の方がいると聞きましたが、そんなに簡単に作れるものなのですか?」
「いやいやいや、流石に無理ですよ。そんなんできたら、わざわざフレンドリィショップ使うやつおりませんて」
「ヒスイ氏、それって普通の人にもできる?」
「できますよ、材料とクラフトキットさえあれば」
「クラフトキットって、あの工具が色々入ってる木の箱のこと?」
「はい、材料も少しならまだあったはずですけど」
「ヒスイくん、良ければそのボールづくりを見せてもらいたいのですよ」
「いいですけど……。」
「そうと決まれば、はよジム戻ろか」
三人に流されるままにボール作成を請け負ったヒスイ達はハッコウジムに戻ることになった。
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カンカンカン、コンコンコン、ガチャガチャガチャ。
「出来ましたよ」
「三つも作っちゃったですの!」
「十分も経ってないのに……。」
ジムのバトルコートに戻った五人はクラフトキットと材料をヒスイが居候している部屋から取ってきて、四人の前で実践してみせた。
しかし、三つのモンスターボールはどれも種類が違うボールだった。
四人はヒスイの作ったボールを触ったりして、手触りや見た目を観察する。
「ヒスイくん、この黒と青のボールは」
「黒いのはヘビーボール、青いのはフェザーボール。ヘビーボールは捕獲の確率が高くなるけど重くて近くからじゃないと投げられなくて、逆にフェザーボールは捕獲の確率は低いけど軽くて遠くからでも投げられます」
「用途によって使い分けるってわけか……ヒスイくん、クラフトってボールだけしか作れんのか?」
「いえ、他にはキズぐすりとか、ポケモンを集めるよせだま、あとはポケモンの目隠しに使えるケムリダマとか炸裂音で怯ませるバリバリダマとか」
「ヒスイくんっ!」
「えっ?」
チリへの説明中にハッサクが鬼気迫る表情でヒスイの肩を掴み顔を近づける。
「是非! 是非、その知識をアカデミーで披露してほしいのですよ!」
「え?」
「その知識は生徒達に取って必ず有用なものになります! 是非ともヒスイくんには講師として生徒達にクラフトをレクチャーしてあげてほしいのですよ!」
「い、いや、あの……。」
「ハッサクさん! いきなり過ぎや、ヒスイくん困ってますって」
「はっ! も、申し訳ないのですよ。小生またしても熱くなってしまい……。」
いきなりのことで戸惑うヒスイに同僚のチリがハッサクを抑えて助け舟を出す。
「まぁ、でもハッサクさんの言いたいこともわかりますわ。こらすごいで」
「えぇ、なにせ生徒達が自分の力でモンスターボールやキズぐすりを作れるということは危機的状況に陥っても自分の力で対処できるようになるということですので」
「で、でも僕みたいな若造が講師なんて……。」
「ヒスイくん、パルデアは良くも悪くも実力主義や。能力があるなら年なんて関係あらへん。逆に言えば、君はそれだけの価値のある人材言う事や」
「………。」
いきなりの誘いにヒスイは戸惑い口籠る。
「まぁ、いきなりこんなことを言われても決められるわけないわな」
「そうですね。良ければ今度、アカデミーにも来てほしいのですよ。クラベル校長には小生から話を通しておきますので」
「わ、わかりました」
その後、ヒスイは三人から連絡先をスマホに登録してもらい、見送りのためにジムの玄関ホールに連れ添う。いつのまにか日も傾いていて空がオレンジ色に染まっていた。
「ナンジャモくん、例の動画を小生のスマホに」
「ほいほ〜い!」
ナンジャモはロースト砂漠の【鉄の轍】の記録、ヒスイのポケモンの記録、そのポケモンの戦闘の記録、そして、クラフトの記録の動画をハッサクのスマホに転送した。
「あっ、そうだ。ハッサクさん、これももっていってもらっていいですか?」
「これは―――手書きのポケモン図鑑?」
「僕のポケモン達のこともしるされてます、何かの役に立つかもしれませんので」
差し出されたのはヒスイの調査員としての記録を記したポケモン図鑑。ジニア先生の調査に役に立つかもしれないとハッサクに預けることにしたのだ。
「わかりました、責任を持ってジニア先生に届けさせてもらうのですよ」
「今日は楽しかったで、ナンジャモちゃん。あんまヒスイくんに迷惑かけんなや」
「チリ氏はボクをなんだと思ってるのさ!」
「なはは、普段の行いを振り返れや」
そんな軽口をたたき合いながら、三人は出口の自動ドアを潜る。
「そんじゃあ、ヒスイくんまたな〜!」
「バイバ〜イですの!」
「失礼するのですよ」
「今日はありがとうございました皆さん」
「まったね〜!」
こうして、ヒスイとパルデア四天王との最初の交流は終了したのだ。
ヒスイくん、アカデミーに誘われるの巻でした