ポケモンLEGENDS スカーレット・バイオレット   作:クロウド、

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ここまでで第一回異文化交流は終了です


第一回 パルデア・ヒスイ 異文化交流 その後

 ―――パルデア地方、ポケモンリーグ本部。

 

 パルデアの首都とも言えるテーブルシティの北西に位置する地点に存在するパルデアリーグ本部。そこがチリ達の職場であり、彼女達の上司もいる場所である。

 

 ハッコウシティをあとにした三人は、ジニアへ動画や図鑑を届けるためにアカデミーに向かったハッサクを残し、チリとポピーだけ先に本部に帰還し報告を行っていた。

 

「以上が例の青年についての報告になります」

「ご苦労さまでした、チリ、ポピー」

「気にせんでください、こっちも色々得るものがありましたから。なっ、ポピーちゃん?」

「はいですの! ねぇ、ポッチャマちゃん!」

「ポチャア!」

 

 説明を読み上げたチリとその足元でポッチャマと戯れるポピーに机を挟んで労いの言葉をかけたボリュームのある髪と、健康的な褐色の肌が特徴的な女性。

 

 彼女の名はオモダカ。パルデアリーグの委員長であり、オレンジアカデミーの理事長、そして、パルデアのトレーナーの頂点トップチャンピオンの称号を持つ人物だ。

 

「テラスタルオーブに関しては早急に準備しましょう。これほどの実力を持つ人物なら、十分持つ資格はありますから」

「助かりますわ」

「しかし……今回は予想以上の収穫になりましたね」

「ですねぇ、チリちゃんとしては珍しいポケモンが見られる程度の気持ちやったんですけど、どの子も図鑑ですら見たことないし、早業、力業なんて見たことない技法持っとるし、クラフトについてはもう驚き疲れましたわぁ」

「ふふふ、そういう割に嬉しそうですよチリ」

 

 疲れたように肩をすくめながらも笑いながら話すチリにこちらも笑顔で応えるオモダカ。

 

「彼の技術がパルデアに広がればパルデアのトレーナー達の未来はより明るくなるでしょう」

 

 オモダカはデスクの片隅に置かれたパソコンのディスプレイに表示されているヒスイのバトルの様子を見ながら呟く。

 

「あとは彼の経歴ですが……パルデア以外の地方の情報に詳しい、あとは何処かの地方でポケモンの生態を調べる調査員をしていたということだけしかわかっていない、と。」

「えぇ、とぼけてる雰囲気はなさそうやったし。記憶喪失というのは間違いないでしょうね。ただ、多分シンオウ地方に近しい土地の出身じゃないかとウチは見てます」

「その根拠は?」

「ヒスイくんのスマホを見たとき少しだけボックスの中身を見たんですけど、何体かシンオウ特有のポケモンがいましたし、チリちゃん達が交換してもらったナエトルやポッチャマもシンオウのポケモンやし……ただ、ヌメルゴンやらクレベースがシンオウに生息してるなんて話聞いたことありませんからなぁ」

「なので近しい土地、というわけですね。その辺りはジニア先生達の調べの報告を待ちましょう」

「そうですね、チリちゃん達そういうの専門外やし、それよりも……。」

 

 チリはデスクの奥にいるオモダカに小声で話しかける。チリの視線の先には自分のデスクに座ってテーブルに置かれたノートPCをじっと見つめるスーツ姿のくたびれたイメージの男性、アオキに向けられていた。

 

「アオキさんどうしたんです? 帰ってきてからずっと、ヒスイくんのバトルの動画見てますけど?」

 

 彼の名はアオキ。四天王の一人であり、ポケモンリーグの営業部所属のサラリーマン、さらにはチャンプルタウンのジムリーダーを兼任しているという中々に稀有な役職の人物である。

 

 アオキは普段からハイライトのない瞳をしているが、珍しくその目には僅かに光が残っており、PCの中で繰り広げられるヒスイのバトルの動画をじっと見つめている。

 

「私にもわかりません。ですが、もしかしたら自分の後任になりそうな人物を観察しているのかもしれませんね」

「はぁっ!? トップ、まさかヒスイくんを!?」

「実力は申し分ないと思うのですが、あとは彼が首を縦に振ってくれるか、ですがね」

 

 意味深な微笑みを浮かべるオモダカとは対象的にチリは苦笑いを浮かべることしかできなかった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 ―――テーブルシティ、オレンジアカデミー職員室。

 

 現在、アカデミーの職員室は生物学のジニアのデスクの周りだけアカデミーの教職員によって異様な人口密度となっていた。

 

 その原因は彼のデスクの上のパソコン、チリ達がオモダカに提出したヒスイのポケモン達のバトル映像である。

 

「これは、凄いですねぇ」

 

 デスク前の椅子に座った眼鏡をかけた男性がふと呟く。

 

 彼こそパルデアのポケモン図鑑を作り上げた研究者にして、現在はオレンジアカデミーで生物の講師をしているジニアだ。

 

 普段はのほほんとした口調の彼だが、今回は何処か声音が硬く、額から数滴の汗が顔を伝って、顎に向かって滴っていた。

 

「どうなのですよ、ジニア先生?」

「そうですねぇ……残念ながら、どのポケモンとも見たことがありませぇん。ですが、もしかしたら古い文献などを探せば生息地が割り出せるかもしれませんので暫く時間を頂いてもよろしいでしょうかぁ?」

「えぇ、勿論です。ヒスイくんの記憶を取り戻す手かがりになるかもしれませんので、是非ともよろしくお願いするのですよ」

 

 ハッサクは真剣な表情でジニアに頼み込む。ジニアもそのヒスイという少年のことは不憫だと思い力を貸すことに異存はなかった。同時にポケモン研究者として見たことのないポケモンについて調べられることに好奇心と喜びも感じていた。

 

「ああ、そうでした! ヒスイくんからジニア先生に届け物があるのでした!」

「ぼくにですかぁ?」

「えぇ、彼が調査をしていたときにポケモンのことを記録した図鑑を預かってきたのですよ」

「それはありがたいですねぇ。是非見せてください」

 

 ハッサクは鞄から取り出したのはヒスイから預かった手書きのポケモン図鑑。ハッサクはそれをジニアに渡し、ジニアはパラパラとその内容を見ていく。

 

 最初はワクワクした様子で見ていたジニアだったが、段々と眼鏡の奥の瞳が鋭みを増していく。

 

「ジニア先生? どうしたのですよ?」

 

 普段、そんな顔をしない同僚を訝しんだハッサクが声をかけると、ジニアは図鑑をから目線を上げてハッサクの方を見る。

 

「―――ハッサク先生、この図鑑の中身は確認しましたかぁ?」

「? いえ、汚れてはいけないと思いハッコウシティから直接アカデミーに来ましたので、中身はまだ」

「ではぁ、このページを見てくださぁい」

 

 そう言って、ジニアはヒスイの図鑑の後半にあるとあるポケモン達のページを見せた。

 

「こっ、このポケモン達は……!?」

 

 それはドラゴンタイプの使い手であるハッサクならば当然知っているポケモンであり、また、ポケモンの研究に携わるものにとって一度は出会うことを夢見るポケモン達だった。

 

 驚くべきはその図鑑にはそのポケモンの体長や、覚える技について事細かく記されていたことだった。さらには、ジニアやハッサクが図鑑で見たことのない姿ですら、その図鑑には記されていたのだ。

 

「な、何故ヒスイくんが持っていたポケモン図鑑にこのポケモン達が……。」

「可能性があるとすればぁ、彼はそのポケモンを見たことがある。もしかしたら、捕獲もしたかもしれないですねぇ」

「そっ、そんなことが……!?」

「えぇ、あまりにも現実味がありませんけどぉ……この図鑑に書かれているのは実際に目の前にしないと記録できない情報ばかりですぅ」

 

 ただの眉唾ものというにはこの図鑑の情報はあまりにも正確で事細かく記されていた。

 

 ジニアは一度図鑑を閉じると、表紙に記された『ポケモン図鑑』の文字をじっと見つめる。

 

「それにこの図鑑、もしかしたらぁ……。」

「なにか覚えがあるのですか、ジニア先生?」

「えぇ、この筆跡……何度も見たことがあります……ですが、そんなはずはない、いえ、()()()()()と思うんですよねぇ」

「それはどういう……。」

「―――随分と騒がしいが、これはなんの騒ぎだ?」

「おや、レホール先生」

 

 ハッサクとジニアの視線は、新たに職員室に入ってきた人物に向けられる。

 

 褐色の肌にスタイルのいい女性で、眼鏡をかけた姿が理知的なイメージを生み出すこの人物はレホール。アカデミーの歴史担当の講師である。

 

 歴史にしか興味がないのが偶に傷だが、その知識においてはかなりのものと言える人物だ。実際にヒスイのポケモン達の映像を見ている教職員達に対して指して興味を持っていなさそうな視線を向けている。

 

 ―――だが、教職員達の隙間からわずかに見えたヒスイのポケモン達の映像が目に入った瞬間、彼女の目の色が変わる。

 

「こっ、このポケモン達は!」

 

 先程のハッサクのような言葉を出したレホールは机の前に屯していた教職員達を押しのけ、ジニアの机の前を独占してしまう。

 

「ど、どうしたんですか、レホール先生!?」

「レホール先生、calm down!」

 

 いきなりのことに他の教師たちも驚くが、当の本人はそんなことは知らぬとばかりに食い入るようにPCの中で繰り広げられるポケモンのバトルに釘付けだ。

 

 そして、そのデスクがジニアのものだと思い当たると、椅子に座ったジニアの肩を掴み激しく前後に揺さぶりながら詰問する。

 

「ジニア先生、この映像は一体何処の研究所で見つけたものだ!?」

「えっとぉ、これは研究所で見つかったものじゃなくてですねぇ……。」

「ならば図書館か!? 何処だ、何処の図書館だ!? キリキリ答えないか、ジニア先生!」

「おっ、落ち着くのですよレホール先生! ジニア先生が失神してしまいます! それにこれは小生が先程ナンジャモくんに撮影してもらったものなのですよ!」

「ハッサク先生、なにを馬鹿なことっ!? このポケモンたちが()()()()()()()()筈がない!」

「「?」」

 

 レホールの発言に疑問符を浮かべる二人。

 

 だが、二人が固まっている間に改めてPCの画面を確認すると、確かにそこは整備されたバトルフィールドだと気付く。

 

「つまり、このポケモンのトレーナーはハッコウシティにいるのだな? よし、ならば直接話を聞くのが早い!」

「まっ、待つの―――「お待ちなさい、レホール先生」―――クラベル校長!」

 

 一目散に職員室をあとにしようとしたレホールの前に新たに職員室に入室してきた人物がその道を塞いだ。

 

 そこにいたのは白髪に白いヒゲをはやした威厳のある人物。トレードマークのオレンジの上着を羽織ったこの人物こそオレンジアカデミー校長、クラベルである。

 

「ハッサク先生」

「はい」

「例のヒスイさんのクラフトの映像は拝見しました。実に素晴らしい技術です、私も貴方同様、是非ともその知識を生徒達にご教示していただきたいと思いました」

「では」

「はい。近いうちに正式にヒスイさんをアカデミーに招待したいと思うのですが、反対の先生はいますか?」

 

 クラベルは三人の様子を見ていた他の先生にも質問をする。

 

「ワガハイは是非ともあってみたいですな。ボールやキズぐすりを自作できるというのはとても興味深い」

「私もこの力業と早業というのを是非とも教えてもらいたい!」

「Me too! ワシもあってみたいんだヨ!」

「えぇ、えぇ、私も異論ありませんよ」

「アタシも気になるな〜」

「ぼくも異論ありませぇん」

 

 決を取るまでもなく、先生達はヒスイの招待に積極的だった。

 

「さて、レホール先生。聞いてのとおりです、ヒスイさんに質問があるのでしたらその時までにどうしても聞きたい質問を決めておきなさい」

「……わかりました」

 

 本当なら今すぐにでもアカデミーを飛び出してハッコウジムに向かいたいが、上司から言われれば従わざるを得ない。

 

「それでは皆さん、この話題は終了にして各自仕事に戻ってください」

「「「「「はい」」」」」

 

 クラベル校長の一声で、ジニア、ハッサク、レホールの三人を残してジニアのデスクから離れそれぞれのデスクに戻っていった。

 

 クラベル校長もその様子を見て満足そうに頷き、職員室をあとにした。

 

「はぁ、仕方ないな……。」

「ところでレホール先生、さっきのことなんですけどぉ」

「なんだ、ジニア先生?」

「先程言った、現代に生きてるはずがないというのは一体どういう意味ですかぁ?」

「小生も気になるのですよ」

「そのままの意味だ。これを見てみろ」

 

 レホールは持っていた巻物をジニアに渡す。ジニアはそれを恐る恐る、受け取ると広げてハッサクと一緒に見る。

 

「「こっ、これは!?」」

 

 二人は巻物に記されているものに驚愕の声を上げる。そこに記されていたのは、数々なポケモンの絵。かなり古く水墨画のようにも見えるが、その特徴は全てヒスイが連れていたポケモン達と一致するものだったのだから。

 

「レホール先生、この絵は一体!?」

「つい先日、旅の商人から買い取ったもので古いシンオウ地方の風景を描いたものらしい」

「で、ですが、こんなポケモンたちがシンオウ地方に生息しているなんて話はぼくは聞いたことがないのですがぁ……。」

「当然だ。このポケモンたちは百年以上前に数度確認されて以降、一度もその存在を確認されていない」

「そ、それはつまり……。」

「あぁ、このポケモンたちは―――既に絶滅したポケモンだ」

「「…………。」」

 

 レホールの語った事実に固まるジニアとハッサク。

 

 その姿をニヤリと笑みを浮かべながら、紐でまとめられたボロボロの小冊子を二人に見えるように持つ。

 

「さて二人共、ここで取引だ。これはその絵と一緒に買った当時のシンオウ地方のことを記した手記だ、筆者はラベン博士」

「ラベン博士ですってぇ!?」

「ご存知なのですか、ジニア先生?」

「え、ええ、シンオウ地方で初めてポケモン図鑑を作ったとされる方です」

「これを読ませるかわりに二人が持つヒスイという人物の情報を包み隠さず話してもらおう」

「……ハッサク先生」

「仕方ないのですよ、ジニア先生。こうなったレホール先生はテコでも動きません、何かあれば、ヒスイくんには小生から謝っておきます」

「ふっ、決まりだな」

 

 ―――こうして三人は着実にヒスイの正体に近づいていった。




次回はヒスイの動画配信デビューです!
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