ウマ娘にキョウエイボーガンがいたらという妄想です

タイトルの元ネタは『逃げ馬物語』より

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プロットのような書き方

ミホノブルボンも、ライスシャワーも、キョウエイボーガンも皆大好きだ

脚色・誇張されている表現があります


汚名を着せられたウマ娘

 

 桜咲く季節、ウマ娘のキョウエイボーガンは駅のホームで電車を待っていた。キョウエイボーガンはトレセン学園の試験に合格し、入学することになったのだ。電車が到着するとキョウエイボーガンは後ろを振り向き、施設の先生と一緒に過ごしてきた子たちに行ってきますと挨拶をした。だが、服の裾を一人の男の子、ノボルにつかまれる。

「行かないで、ボウ姉」

まだボウ姉と一緒にいたい、走りを見たいと瞳を潤ませるノボルに向けて、

「テレビで走ってる姿をたくさん見せるから」

 そう約束したキョウエイボーガンへ、涙を拭いたノボルは笑顔で行ってらっしゃいと送り出すのだった。

 

 キョウエイボーガンの幼い頃、母と二人で暮らしていた。父は数年前に事業に失敗して、借金を残したまま失踪した。そんな家庭環境にあったが、キョウエイボーガンは幸せに暮らしていた。

「ボウは走るのが好きなんだね」

 キョウエイボーガンは母親の仕事が休みの日、公園へ連れて行ってもらっていた。そこで走るキョウエイボーガンの姿を母親は温かく見守っていた。キョウエイボーガンはウマ娘として生まれたことを、お母さんの娘であることを嬉しく思っていた。走る楽しさを知ることができたから。

 

 ある日、キョウエイボーガンの母親は険しい顔をしながら電話をしていた。この日は母親の仕事が休みの日で、キョウエイボーガンは外へ遊びに行く時を今か今かと待ちわびていた。

「ボウは今、幸せ?」

 受話器を置いた母親は少し考え込むような姿を見せて問う。キョウエイボーガンは「うん! しあわせだよ!」と迷わず頷いた。母親の険しい表情は変わらなかった。

外はいまにも雨が降りそうな空模様だったが、キョウエイボーガンと母親は外出することにした。キョウエイボーガンは散歩前の犬のように喜んでいた。

 だが、キョウエイボーガンは徐々に不安を覚え始める。いつもの公園に行く道とは違う道を通り始めたからだ。「おかあさん、どこいくの?」というキョウエイボーガンの問いには何も答えず、ただ歩き続けていた。

 ある施設の前に来た時、母親はキョウエイボーガンを抱きかかえ、その扉を開く。母親はその施設の人と会話をしたのち、ごめんねと一言呟く。そのまま母親はキョウエイボーガンを置いて施設を後にした。一連の出来事に呆然としていたキョウエイボーガンだが、状況を理解したキョウエイボーガンは母親を追いかけようする。しかし、母親の姿はもう見えず、空は先程よりもどす黒くなり雨が降り始めていた。

 

 数年前に、自分を施設に預けて失踪した母親。自分を置いて行った母親を全く恨んでいないわけではない。それでも走る楽しさを教えてくれた。そのことに感謝しているため、直接母親に気持ちを伝えたかった。あわよくば話ができればと。

そんな思いを抱えながら過ごしているキョウエイボーガンはある日、ウマ娘達が夢を持って駆け抜けるトゥインクルシリーズの存在を知る。その日のレースのインタビューでは、優勝したウマ娘がまず両親に感謝したいと答えていた。

 キョウエイボーガンはその日からトゥインクルシリーズで走りたいと思うようになる。母親に会うために。だが、トレセン学園の学費は高額だ。事情を抱えているのはキョウエイボーガンだけではない。いくら大きな夢があるといってもキョウエイボーガンだけを特別扱いすることはできず、キョウエイボーガン自身も納得していた。

 そんなキョウエイボーガンにあるチャンスが訪れる。特待生制度がトレセン学園にあることを知る。しかしながら当然ハードルも高い。それでも夢を諦めないキョウエイボーガンは必死に勉強とトレーニングを重ねる。そして、キョウエイボーガンは、地頭の良さもあり筆記試験では見事にトップクラスの成績で合格し、技能試験も無事突破してみせた。

 

 トレセン学園へ入学したキョウエイボーガンだが、やはり中央のレベルは高かった。なかなかトレーナーと出会うことができない日々を過ごしていた。そんなキョウエイボーガンにも「本格化」の足音が聞こえるようになり、レース運びに関して不慣れさがありながらも模擬レースで勝利。トレーナーと契約を交わすこととなる。契約したトレーナーとトレーニングを積んでメイクデビューに出走する。初めて感じるピリピリとした空気にのまれてしまい、掛かり気味のレース展開になるが、スタートから先頭に立って勝利して見せた。

 

 メイクデビューでは着差をつけて勝利したが、その後のレースでは思うように力を発揮することができず、またソエを発症するなど燻っていた。そんな中、皐月賞でミホノブルボンの逃げを見て憧れる。インスピレーションを受けたことから自身も逃げでレースをするようになる。

 

 レースのスタイルを変えると結果を残し始め、3連勝。晴れて重賞ウマ娘となる。そして、G2神戸新聞杯。初めての2000m以上のレース。有力なウマ娘達も出走していたが、逃げウマ娘としてレースを支配しそれらを抑えて4連勝。「夏の上がりウマ娘」として注目を集め、ファンレターも増えてきた。小さなウマ娘からは目標にしていると、主婦からは勇気をもらったと、ノボルからのファンレターも届いていた。そして何より印象に残ったのは自分の体調を気にしてくれる『マリアさん』からのファンレターだった。

 

 神戸新聞杯を勝利したキョウエイボーガンはクラシック路線の三冠目である菊花賞を目指す。その前哨戦として京都新聞杯への出走を決める。そこには無敗で二冠を制したウマ娘、ミホノブルボンが出走していた。ミホノブルボンも三冠ウマ娘となるために菊花賞を目指していた。自分が変わるきっかけとなったウマ娘との対戦。自分の腕試しとしての意味でもちょうどいいレースだと思えた。しかし、クラシック二冠を無敗で制したウマ娘、ミホノブルボンの格はやはり違った。ミホノブルボンは終始先頭で走り抜け、レコードタイムで1着。一方のキョウエイボーガンは大きく離され10人中9着となった。

 

 このままでは喰い下がれなかったキョウエイボーガンは、レース後にミホノブルボンの控え室を訪れる。

 皐月賞を見て、勇気をもらったこと、そしてミホノブルボンに憧れたこと。それらを伝えたキョウエイボーガンは憧れではなく、ライバルとしてさらに続ける。

「ブルボンさん、貴女に先頭は譲りません」

 敗因は逃げウマ娘であるにも関わらず、ただミホノブルボンに先頭を譲ってしまったこと。そう考えたキョウエイボーガンは菊花賞では何があろうとも先頭を譲らないという宣戦布告をミホノブルボンに対して宣言した。

 

 そして迎えた菊花賞。ミホノブルボンの三冠達成を待ちわびるファンが京都レース場に詰めかけた。キョウエイボーガンは宣言通りスタートダッシュを決めミホノブルボンを置いて先頭に立つ。3000mという長丁場で前半1000mを59秒台のハイペースで先頭をひた走るキョウエイボーガン。だがレース後半になると徐々にミホノブルボンに迫られると、ついに第4コーナー手前でついに先頭を譲ってしまう。かすんでくる目。詰まる息。徐々に遠のいていく意識。限界を迎えたキョウエイボーガンはゴール板を16番目に走り抜けたのち倒れこむ。意識が途切れる直前に聞こえたのは歓声ではなかった。

 

 目を覚ますと、広がっていたのは白い天井。どうやらキョウエイボーガンはレース場の医務室に運ばれたようだった。トレーナーも心配していたが、大丈夫だと元気なそぶりを見せつける。控室に戻ったキョウエイボーガンはテレビをつけてみる。映っていたのはウイニングライブ。センターにいたのはミホノブルボンだと思っていたが、立っていたのはライスシャワーだった。三冠を期待されていたミホノブルボンが勝てなかった。ライスシャワーに向けられた敵意。それを目にしたキョウエイボーガンはテレビを消した。

 

 菊花賞から数日、いつしか矛先はライスシャワーではなくキョウエイボーガンに向くようになっていた。ミホノブルボンが勝てなかったのは、キョウエイボーガンのせい。「くだらないウマ娘」キョウエイボーガンは評論家に言い放たれ、ミホノブルボンの夢をつぶしたウマ娘として、いつしかそうささやかれるようになっていた。

 

 そんな評価を見返してやろうと意気込み、それから2戦に出走したが、勝ちに恵まれることはなかった。さらにキョウエイボーガンの脚は限界に達していた。そんなキョウエイボーガンにある連絡が届く。「君の母親が見つかったそうだ」トレーナーのどこか苦しそうな声にキョウエイボーガンはあることを察する。

 

 母親は亡くなっていた。借金を抱えた母親は、昼夜問わずに休む暇もなく働いていたそうだ。そんな生活では体が持つはずもなく過労で――。キョウエイボーガンは遺体に縋り付いて泣いた。

 あの日のレースを勝利したライスシャワーは天皇賞春を勝ち、徐々にファンも増えてきていた。自分はあのレースで何を残せたのだろうか。何もできなかったと思っているキョウエイボーガンはあの菊花賞で残せたものは何だったのだろうと苦悩する。自分はただミホノブルボンの三冠の邪魔をしてしまったウマ娘なのではないかと。

 

 耐えられなくなったキョウエイボーガンはトレセン学園から飛び出していた。トレセン学園を飛び出したキョウエイボーガンは遠く離れた公園で一人泣いた。すると後方から声をかけられる。振り向くと女性が立っていた。どうやらキョウエイボーガンのファンらしく、泣いているキョウエイボーガンを見てたまらず声をかけたとのことだった。

「走るのは好き?」

 キョウエイボーガンから話を聞いたファンの主婦はそう訊ねる。

『ボウは、走るのが好きなんだね』

 ふと、ファンの主婦の姿と母親がかぶる。突然のことにキョウエイボーガンはきょとんとする。そしてなぜ自分が走ることが好きなのか考える。目の前に広がる景色。体に一身に受ける風。芝を蹴る感覚。そして何より、走り抜けた後の達成感。それが勝利となれば格別なものだった。どんなことがあっても走ることだけは好きだった。それはメイクデビューの時も、そしてあの日の菊花賞も一緒だった。それを伝える、それを表現する手段は……。

 トレセン学園へ戻ってきたキョウエイボーガン。後ろから声をかけられる。その声はミホノブルボンのものだった。少し話しませんかと声をかけられびくびくしながらもキョウエイボーガンはついて行った。

 菊花賞後、ケガをしてしまったというミホノブルボン。だが、ミホノブルボンは挫けていなかった。ライスシャワー、そしてキョウエイボーガンにリベンジを果たしたいと話す。そのために今はリハビリをがんばっていると言う。

「また一緒に走りましょう」最後にミホノブルボンはキョウエイボーガンにそう言葉をかける。

 

 それから数日後、キョウエイボーガンは母親の遺品を整理するために、母親が住んでいたという部屋を訪れる。物もあまりなく生活感を感じられない部屋だったが、クローゼットを開けるとスクラップブックと手紙が目に入る。スクラップブックには自分のことが書かれている新聞記事がまとめられていた。そして手紙は『マリア』名義で、実はあなたの母親であるということが書かれており、キョウエイボーガンに対する謝罪と、身を案ずる内容が綴られていた。

 

 翌年の中京レース場。ファンの主婦、そしてミホノブルボンのために、何よりも母親に感謝を伝えるために走り続ける。新たな目標を胸にゲート入りするキョウエイボーガンがいた。

 

 無敗の三冠ウマ娘が『深い衝撃』を残して数年、「走る楽しさ」を小さな子供たちにも伝えたい。キョウエイボーガンは小さな子供たちと一緒に草原を駆け抜けていた。現役当時にファンであった主婦の差し入れで、元気をもらったキョウエイボーガン。今も変わらず元気に走り続けるキョウエイボーガンの姿がそこにはあった。


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