【艦これ】艦隊これくしょん・闇 激戦!深海の亡霊、闇艦娘との闘い   作:マッフル

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第2章
二艦合魂、雷電!


 母港――

 海を目の前にして出撃を控えている第一艦隊。

 

『さぁってとぉ、レベル上げの旅に出発しますかねぇ~』

 

 深い緑色の制服を着ている北上は、ンーッと伸びをしながら言った。

 第一艦隊の旗艦である北上は、緊張感の無い間の抜けた声を海に向かって漏らす。

 

『そういうことを堂々と言うな。これは深海棲艦殲滅のための重要な戦いなのだ』

 

 俺は手を後ろ手に組んだまま、きつく北上を見つめる。

 第一艦隊である艦娘達の声は、俺の頭の中に流れ込んでくる。

 詳しい理屈はわからないが、科学者が言うには、俺と旗艦の艦娘とはテレパシーというもので繋がっているらしい。

 そして旗艦の艦娘がアンテナ代わりとなって、艦隊の他の艦娘とも会話が可能なのだ。

 ちなみに、いま艦娘達と一緒にいる俺は、実は俺の実体ではない。

 ここにいる俺は魂のような存在で、一種の幽体離脱のような現象が起きているらしい。

 俺の本体は司令官室の椅子に座っている。

 

『そういうことにしときましょーかねー。可愛い子ちゃん達の前だしねー』

 

 北上はジト目になって、第六駆逐隊である暁、響、雷、電を見つめる。

 そんな北上を見て、陸奥はポコンと頭を叩いた。

 

『いったぁーい! 痛いじゃないのぉ!』

 

『そういうこと言わないって提督が言ってるでしょ? 駆逐ちゃんのレベル上げだって重要なのよ?』

 

『はーい、ごめんなさーい』

 

 北上は怨みがましい涙目になって暁型四姉妹を睨む。

 そしてポソッとつぶやく。

 

『駆逐艦、あぁ、ウザイ』

 

 陸奥は溜息をついて北上を見下ろす。

 

『あ、そうそう陸奥のアネゴぉ。悪いッスねー、アネゴを差し置いて旗艦なんてやらせてもらちゃって。提督がどうしてもアタシをハイパーさんにしたいみたいでぇ~』

 

『別に気にしてなんかいないわよ? 私を改造するよりも、あなたをハイパーにする方が優先なんでしょ? 私もその方がいいと思うわ』

 

 北上はニシシと意地悪な笑みを浮かべながら、陸奥のくびれた腰を肘でつんつんする。

 

『本当は怒ってます? 怒ってますよね? もしかしたらあの子たちのお守りさせられて怒ってます?』

 

 陸奥はポコンと北上の頭を叩いた。

 

『私にしてみれば、あなたも駆逐ちゃん達も一緒よ。お守りだって言うなら、私はあなたを含めて5人のお守りをさせられているのよ?』

 

『はーい、ごめんなさーい』

 

 北上はまた涙目になって暁型四姉妹を睨む。

 そしてポソッとつぶやく。

 

『駆逐艦、あぁ、ウザイ』

 

 陸奥はやれやれと溜息をついて北上を見下ろす。

 

『駆逐艦なんて適当な遠征に出しまくって、地味ぃにレベリングすればいいのに。あいつら地球に優しい低燃費エコ娘なんだからさぁ、おつかい要員で十分だっての』

 

 北上は陸奥からこそこそと離れ歩き、陸奥に聞こえないようにポソッとつぶやく。

 陸奥から離れていく北上は、小さなビニールの包みを踏んずけてズルッとなる。

 そして思いきりお尻から地面に着地してしまい、北上は臀部を激しく打ちつけてしまう。

 

『いったぁーい! 痛いじゃないのぉ!』

 

 雷はロリポップキャンディを口の中で転がしながら、悪いとばかりに手を上げる。

 

『悪りぃね、北上のねーちゃん。ゴミはきちんと拾わないとなぁ』

 

 電はビニールの包みを拾い上げ、北上に向かってヘッと意地悪く鼻で笑った。

 

『むかーーーーーッ! なんなのアイツ! 私が何したってのよぉ!』

 

 お尻をさすさすしている北上を、陸奥はやれやれな顔をして見下ろす。

 

『自業自得。自分で捲いた種。因果応報』

 

 図星な北上は何も言い返せない。

 北上は怨みがましい目で雷を睨みつける。

 

『雷、あいつ性格最悪! ってゆーか、雷ってあんな感じだったっけ? どっちかっていうと世話焼き女房なイメージがあるんだけど』

 

『ああ、雷ちゃんね……あの子はしょうがないのよ、あんなことがあったんだもの』

 

『へ? あんなこと?』

 

 不思議そうに陸奥を見上げる北上。

 一部始終を見ていた提督は、溜息をつきながら北上に言う。

 

『北上、さっさと出撃せんからそういう目に遭うんだ。はやいとこ出撃しろ』

 

 北上はほっぺたを膨らませながら、俺に向かって敬礼する。

 

『出撃します。水雷戦隊、出るよ』

 

 北上は海に向かって飛び込む。

 後を追うように他の艦娘達も海に飛び込む。

 艦娘達はふわりと海上に降り立ち、まるで地面の上に立つように海上に立っている。

 そして俺は艦娘達の頭上で仁王立ちになって浮いている。

 

 艦娘――

 軍艦の魂を抱きし武装乙女、と俺は聞かされている。

 艦娘は存在自体が極秘中の極秘なので、艦娘の提督である俺にすら情報はほとんど入っていない。

 艦娘達が言うには、軍艦の魂が艦娘に憑依し、軍艦と同じスペックの能力を得ることができるそうだ。

 これを艦娘達は憑着と呼んでいる。

 身体の内に秘めたる軍艦の魂は、艦娘を戦闘へと駆り立て、そして戦地へ赴かせる。

 全員ではないが、艦娘には軍艦の記憶が断片的に残っていることがあるらしい。

 なぜ軍艦の魂がうら若き少女達に憑依しているのかは謎である。

 艦娘自身、自分が何者なのか理解してはいない。

 

“すざざざぁぁぁッ”

 

 艦娘達は海上を滑るように海を進んでいく。

 まるでアイススケートのように優雅に海上を滑っていく。

 軍艦の魂を抱いている彼女達にとって、海は大地と変わらない存在なのだろう。

 

『さぁてとぉ、ここらで索敵といきますかぁ。陸奥のアネゴぉ、やっちゃってください~』

 

 21号対空電探を搭載している陸奥がいるので、索敵はほぼ間違いなく成功する。

 陸奥の背後に電探が映し出され、くるくると回って索敵を開始する。

 

『なに? 何か来るわ!?』

 

 何かに気がついた陸奥は上を向くと、そこには恐ろしい速さで突進してくる艦娘がいた。

 真っ黒な衣装に身を包んでいる艦娘は、突進しながら砲撃の用意をする。

 

『くっ、何なのこの子ッ』

 

 回避が間に合わないと判断した陸奥は両腕をクロスして上半身を隠し、内股になって腰を屈めることで下半身をブロックする。

 

“ずどがぁぁぁんッ”

 

『きゃああッ』

 

 突然、陸奥の真下で爆発が起こる。

 黒い艦娘は陸奥に突進する前から22インチ魚雷後期型を発射していた。

 魚雷が直撃した陸奥は中破し、じゅばばぁッと海上を滑り飛ばされる。

 

『ちょ、な、なんなのこれぇ?!』

 

 予想だにしていなかった不意打ちに混乱する北上は、何もできずに棒立ちになっている。

 そんな格好の的となっている北上に、黒い艦娘は砲撃を開始する。

 

“ぎゅどごぉぉッ”

 

『きゃわぅッ』

 

 5インチ連装砲の直撃を受けた北上は大破し、海上に倒れ込む。

 

『重雷装巡洋艦は強いと聞いていたのだが……たいしたことないな』

 

 黒い艦娘の声が頭の中に流れてくる。

 艦娘同様、黒い艦娘もテレパシーを使って会話してくる。

 

『あの子……響ちゃん?』

 

 海上で這いつくばっている陸奥は震える腕で身を起こしながら、黒い艦娘を見つめる。

 真っ黒い衣装に身を包んでいるのは、どう見ても響である。

 しかし左目の瞳は鮮血のように深い赤で染まっている。

 

『響・黒だよ。レベルは2。ここには散歩で立ち寄ったよ。よろしく』

 

 黒と聞いて、陸奥はハッとする。

 先日、自らを闇艦娘と呼ぶ謎の艦娘に提督が襲われた。

 そのとき現れた五十鈴・黒は、たったひとりで戦艦と正規空母率いる艦隊に打ち勝ってしまった。

 更にその後に現れた愛宕・黒は五十鈴・黒以上の桁外れな強さを誇ったという。

 

『あれが闇艦娘? ほ、本当に強いじゃない……レベル2? あの子、どう考えても重巡級……いいえ、戦艦級のポテンシャルを秘めてるわ……』

 

 敵わない、本気でそう思えた。

 世界のビッグ7、その一艦である陸奥にとって、駆逐艦に敗北を喫するのは屈辱である。

 しかし実力者であるからこそわかる。

 目の前にいる闇艦娘、響・黒はここにいる誰よりも強い。

 

『撤退……撤退しなきゃ……』

 

 陸奥がそう思った矢先、陸奥の背後から暁と響が飛び出した。

 響・黒に同時攻撃を仕掛ける暁と響。

 

『よしなさい! あなた達じゃ無理よッ!』

 

 制止する陸奥の声が聞こえていなかのように、暁と響は鋭く響・黒に突進する。

 暁は響・黒に向かって飛び上がり、手にしている12.7センチ連装砲を構えて響・黒に狙いを定める。

 

『攻撃するからね』

 

 響は海上を滑りながら61cm五連装(酸素)魚雷を放つ。

 

『さて、やりますか』

 

 響・黒はゆっくりとした動きで両腕を開き、静かに目を閉じた。

 そして真っ向から暁と響の攻撃を受ける。

 

“ガスッ”

 

 海面から姿を現し、響・黒に向かって次々と飛んでくる61cm五連装(酸素)魚雷を、響・黒は涼しい顔をしたまま蹴り上げる。

 更に身を回転させ、蹴り上げた61cm五連装(酸素)魚雷に回し蹴りを喰らわす。

 

『え? きゃあっ!』

 

 魚雷は飛び上がっている暁に向かって蹴り放たれ、暁は避けることができず、魚雷をまともに受けてしまう。

 

“ずどぉががぁぁんッ”

 

 暁は大爆発に巻き込まれ、大きく吹き飛ばされた。

 

『暁ねぇさんッ』

 

 吹き飛ばされた暁を心配そうに見つめる響。

 その背後には響・黒がいる。

 

『姉の心配より自分の心配をしたほうがいいよ』

 

 響・黒は数センチと離れていない至近距離から5インチ連装砲を放った。

 

『うぁぅッ』

 

 響は大きく吹き飛ばされ、海上に倒れている暁の真横に倒れ込む。

 大破してしまった暁と響は気を失い、ぴくりとも動かない。

 真っ黒い煙を上げながら二人は眠るように海上で倒れている。

 

『防御を捨て、目まで閉じたのに……まるで相手にならない……これが私のオリジナルだと思うと泣けてくるよ』

 

 寄り添うように倒れている暁と響に、響・黒は5インチ連装砲を向ける。

 

『戦いに敗れし者は海に沈む……艦娘ならこれほど誇り高き死はない……散るといいよ』

 

 響・黒の背後に禍々しい5インチ連装砲の姿が映し出される。

 そして5インチ連装砲から砲弾が放たれる……直前に、雷と電が響・黒に向かって砲撃する。

 

“ずどぉががぁぁッ”

 

 雷と電による12.7センチ連装砲の同時斉射が響・黒に直撃する。

 しかし響・黒はダメージを受けることなく、何事も無かったかのようにその場に立っている。

 

『直撃してもこの程度……もはや涙も出ないよ』

 

 響・黒は海上に倒れている暁の頭を、ゴリぃと踏みつけにする。

 

『このまま頭を踏み潰してしまおうか』

 

 ブツンッという音と共に雷と電は飛び出した。

 踏みつけにされた姉を見て、雷と電は完全にキレた。

 

『お姉ちゃん達を沈ませないのですッ!』

 

『私らがお前を沈めてやるよぉッ!』

 

 突っ込んでくる雷と電を見て、響・黒は呆れ顔になって溜息をついた。

 

『バカだな、姉たちがやられたのを見ていなかったのか?』

 

 響・黒の背後に禍々しい5インチ連装砲の姿が映し出された。

 雷と電の背後には12.7センチ連装砲の姿が映し出される。

 

“ずががががぁぁぁッ”

 

 雷と電が放った砲弾を響・黒は瞬間的にキャッチし、手で掴み上げた。

 響・黒の手の中で砲弾がぎゅぎゅると回転している。

 

『効かないとわかっていても尚、攻撃を仕掛ける……イチルの望みに賭けて……でも、そもそもイチルも望みなんてなかったんだよ』

 

 響・黒は手の中で回っている砲弾を握り潰した。

 ぞどどぉぉッと響・黒の手の中で砲弾は爆発し、激しい轟音と共に爆風が吹き荒れる。

 一方、響・黒が放った5インチ連装砲の砲弾は雷と電に直撃し、二人はその勢いで吹き飛ばされた。

 そして空中で雷と電はぶつかり合い、まるで抱き合うように身が重なる。

 

『大破して尚、身を寄せ合う……ずいぶんと仲がいいんだね』

 

 宙を舞っている雷と電に狙いを定める響・黒。

 そして響・黒の背後に禍々しい5インチ連装砲の姿が映し出される。

 

『やめてぇッ! これ以上砲撃を受けたら、本当に沈んじゃうッ!』

 

 海上に倒れ込んでいる陸奥は、雷と電に向かって手を伸ばす。

 予想以上にダメージを受けた陸奥は、身体の自由が利かない。

 助けたいのに助けられない……自分の不甲斐無さに心を痛めつつ、陸奥は響・黒に雷と電がやられるのをただただ見ていることしかできない。

 

『心配しなくともこいつらを沈めたら、次はお前を沈めてあげる。海の底で仲良く朽ちていくがいいよ』

 

“ずどごぉぉぉッ”

 

 響・黒が放った砲弾は雷と電に直撃し、大爆発を起こした。

 雷と電は爆発による煙に包まれ、姿が見えなくなる。

 

『さて、次はお前だ』

 

 響・黒は陸奥に近づき、陸奥の額に5インチ連装砲の砲口を押しつける。

 万事休す……そう思った刹那、上空でカァッと閃光がほとばしった。

 

『ッ!? なんだ?』

 

 響・黒が顔を上に向けたのと同時に、響・黒は頬に鈍い痛みを感じ、激しい衝撃に襲われた。

 そして響・黒は吹き飛ばされる。

 

『ッつぅ……誰だお前は? 私を殴ったのはお前か?』

 

 響・黒は殴られた頬を手の甲で拭いながら、ペッと赤い唾を吐き捨てた。

 

『うそ……これって……』

 

 陸奥は信じられないという顔をして、突如現れた謎の艦娘を見つめる。

 謎の艦娘は雷と電が来ていたセーラー服と同じものを着ている。

 顔の見た目も雷と電にそっくりだが、雷と電とは別人であるとわかる雰囲気を漂わせている。

 全身がほのかに黄色く輝いていて、時折、電気のような稲光がパリッと身体の表面を流れ走る。

 髪は全身を流れている電気のせいか、まるで風に持ち上げられているようになびいている。

 

『もしかして……あなた、雷ちゃんと電ちゃんなの?』

 

 謎の艦娘は陸奥の方に振り返りもせずに、言葉だけで返答する。

 

『私は雷電。二艦合魂によって、雷と電のふたつの魂がひとつになった姿』

 

『二艦合魂!? そんなの初めて聞いたわ? ふたりが合体したってこと? そんなの信じられないわ……』

 

 陸奥は目を丸くして雷電を見つめている。

 これまでに艦娘同士が合体したなどという話は聞いたことがない。

 

『私も初めて聞いたな。二艦合魂? これはとても興味深いよ』

 

 響・黒は今まで以上の速さで雷電に突進した。

 雷電の只ならぬ気配を察知し、響・黒は本気になった。

 

『喰らいなよ』

 

 響・黒は雷電の目の前までくると、タンッとステップを踏んで雷電の真横に高速移動した。

 雷電の不意をつく形となった響・黒は、超至近距離から5インチ連装砲を発射する。

 

『遅いな』

 

 響・黒の目の前にいたはずの雷電が一瞬のうちに姿を消した。

 雷電を見失った響・黒はすぐさまその場から離れ、周囲を見回して雷電の姿を探す。

 

『ここだよ、ここ』

 

 響・黒の背後から雷電の声がする。

 響・黒はハッとして後ろを振り向くが、そこに雷電はいない。

 

『ここだってば』

 

 雷電はちょんちょんと後ろから響・黒の背中をつついた。

 雷電はずっと響・黒の動きにあわせて、ぴったりと背中にはりついていた。

 しかし響・黒は表情も変えずに、あくまで冷静に振舞う。

 響・黒は錨を手にし、股をくぐらせて背後にいる雷電めがけて錨を打ちつける。

 

“がずぅッ”

 

 錨は響・黒の背中に打ちつけられ、その衝撃で響・黒は前のめりになる。

 響・黒よりも一瞬早く、雷電は錨を避けていた。

 自爆した響・黒は前のめりになりつつも、その勢いを利用してグルンッと前転する。

 前転している間に雷電の姿を視認した響・黒は、シュタンッと立ち上がるのと同時に雷電に向かって砲撃する。

 

“ずががががぁぁぁッ”

 

 響・黒が放った真っ黒い砲弾を雷電が掴み上げる。

 砲弾は雷電の手の中でぎゅぎゅると回転している。

 

『そもそもイチルも望みなんてなかったんだよ……さっきあなたが言った言葉、この弾と共に全部返すね』

 

 雷電は手の中で回っている砲弾を握り、回転を止めた。

 しゅううぅッと手の平から白煙を上げなら、雷電は発射されたばかりで高熱を帯びている砲弾を響・黒に投げつけた。

 

“ぞどどぉぉッ”

 

 超高速移動が可能な響・黒ではあるが、雷電の放った砲弾は避けることができなかった。

 響・黒よりも雷電の方が数段速い。

 砲弾が直撃した響・黒は爆発に巻き込まれ、海上に投げ出される。

 

『くッ……たった一撃でこうなるのか……恐ろしい奴だな、お前』

 

 響・黒は大破寸前であった。

 ただ単に砲撃を受けただけならほとんどダメージを受けることもないのだが、雷電が投げつけた砲弾は、砲弾がひしゃげてしまうほどに速く、恐ろしく鋭い勢いで飛んできた。

 砲弾の爆発と超々高速な衝撃が合わさり、まるで大口径の砲撃を受けたようなダメージが響・黒を襲った。

 響・黒は傷ついた身体をかばうように自らの身体を抱き締め、ふらふらになりながらもなんとか立っている。

 

『イチルの望みもないか……確かに私がお前に勝てる可能性はイチルも無いな……』

 

 響・黒の足元に渦が発生し、その中に響・黒が呑まれていく。

 

『雷電とか言ったかな。また会おうよ……』

 

 響・黒は姿を消した。

 辺りに静寂が走る。

 雷電はふぅッと気を失い、その場でくずおれてしまう。

 そしてパァツと光ると、雷電は元の雷と電に戻った。

 ふたりは力尽きたように、静かに寝息を立てながら眠っている。

 

『雷ちゃん、電ちゃん……いったい何が起きたというの?』

 

 やっと動けるまでに回復した陸奥は、よろよろとしながら右腕で雷と電を、左腕で暁と響を抱え上げる。

 

『あらあら、そういえばいたわね。うちの旗艦さん』

 

 両腕が塞がっている陸奥は寝転んでいる北上の身体の下に足を入れ込み、ひょいっと足を持ち上げる。

 北上は音も無く宙に浮かされ、陸奥の肩の上に乗っかった。

 

『提督、これから帰投します……あらあら、旗艦さんが気絶しちゃって連絡がつかないわ……』

 

 提督と繋がっている北上が気を失ったせいで、提督とのテレパシーが途切れてしまった。

 陸奥は溜息をつきながら、海上を歩いて母港を目指す。

 

 ――――――

 

 ――――

 

 ――

 

「提督、入りますね」

 

 陸奥は司令官室の扉をノックして中へと入る。

 俺は窓から海を見つめながら、背中越しで陸奥と話す。

 

「大丈夫なのか、陸奥」

 

「ええ、雷ちゃんと電ちゃんは修復が終わって、お部屋ですやすや寝てるわ。ドッグは今、暁ちゃんと響ちゃんが使ってる。北上ちゃんはドッグ待ち。お部屋でブーたれてるわ」

 

「いや、陸奥、お前は大丈夫なのか?」

 

 陸奥もまだ修復前で、中破した状態でこの場にいる。

 

「あらあら、心配してくれるの? 私は大丈夫よ? 優しいのね、提督は」

 

「からかうな、陸奥」

 

「それよりも提督、こっちを向いたら? もう見慣れてるでしょうに」

 

 中破した陸奥は衣装がぼろぼろとなり、不謹慎な言い方だが刺激的な見た目になっている。

 露出が異様に高い姿の艦娘を目にするのは、俺的にも彼女的にもよくないと俺は思っている。

 俺は背中を向けたまま陸奥に話しかける。

 

「陸奥……今日見たことは他言無用。お前自身、今日のことは無かったこととしてくれ」

 

「それって……深入りは大やけど、ってことかしら?」

 

「そういうことだ……」

 

 沈黙が流れる。

 重苦しい空気が司令官室中を満たす。

 

「実は俺自身も、上から釘を刺された……この件については詮索無用。記憶から消したまえ。とな」

 

「そうなんだ……それほどにヤバい件なんだね……まさか艦娘が合体するなんて……初めて見たわ」

 

「俺だって初めてだ。電話越しだったが、上の方々も動揺していたよ……」

 

 俺は手に持っている報告書に目を通す。

 

「雷電になったパラメータ値……数値的には、雷と電の値が単純に足し算した値になっている……これは脅威的なことだ……」

 

「確かにとんでもないことだけど……でも雷ちゃんと電ちゃんのパラメータ値を足し算しても、私の値には届かないわ……だけど、雷電は絶対に私よりも強いわよ? ……私が敵わなかった響・黒よりも強かったんだから、雷電は……」

 

「実際には数値以上のポテンシャルを秘めているってことだな……」

 

 再び沈黙が流れる。

 俺は帽子を目深にかぶり直し、陸奥の方を振り返る。

 

「この部屋を出たら今日のことはもう忘れてくれ……すまないな、陸奥」

 

「あらあら、ならお部屋から出ないで、ずっとここにいようかしら」

 

 陸奥は俺を挑発するように身をくねらせる。

 

「からかうな……俺はすることがあるんだ。すまないが席を外してくれ……」

 

「あらあら、フラれちゃったわね。じゃあドッグでも見てこようかしら」

 

 陸奥はひらひらと手を振りながらウィンクをし、司令官室をあとにする。

 俺は電話の受話器を手にし、ダイヤルを回す。

 この電話は上と繋がっている守秘回線で、上との連絡がとれる唯一の連絡手段である。

 

「お待たせしてすみませんでした。艦娘には秘密厳守と釘を刺しましたので、情報が漏れることはありません」

 

『そうか……闇艦娘との二度目の接触、そして艦娘の合身……こちらとしても初めての報告だ。この件に関しては君の記憶から消去したまえ。そして君は今までと同じように任務をこなしてくれたまえ……くれぐれも情報の漏えいには……』

 

「了解であります」

 

 プツンッと電話が切れる。

 俺は小さく溜息をついて受話器を置いた。

 

「てーとくぅ!」

 

 突然バタァンッと扉が開き、ビクッとなる俺。

 そして雷と電が俺に向かって跳びついてきた。

 

「雷、電、もういいのか?」

 

「もう大丈夫だよ、提督。すっかり元通りだ」

 

「ご心配お掛けしましたのです」

 

 いつもの無邪気なふたりだ。

 俺は安堵の息を漏らす。

 

「なあ、雷、電……ふたりは今日の出撃のこと……憶えてるか?」

 

 俺は恐る恐る聞いてみる。

 

「あー、あの響・黒って奴のことか? あいつすっげぇムカつく!」

 

「とても腹が立つのです」

 

「……それ以外には……憶えていないのか?」

 

 雷と電は顔を見合わせて言った。

 

「途中から記憶がないんだよな……響・黒の砲撃を受けて……多分、気絶しちゃったんだろうな」

 

「記憶がないのです」

 

 俺はホッとした。

 どうやら雷電になってからの記憶は残っていないらしい。

 

「さあ、提督、ドッグに行こうぜ」

 

「ドッグに行くのです」

 

 きょとんとなる俺。

 

「なんでだ? ドッグにはお前達だけで行ってこい」

 

「ダメだって。提督も一緒に見舞いに行くぞ」

 

「一緒にいくのです」

 

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ! 男の俺がドッグに行くってのは、女風呂とか化粧室に男が行くようなものだぞ? 一緒に行けるわけないだろ?」

 

 雷と電は頭にハテナマークを浮かべている。

 

「なんでもいいから、一緒に行くぞー」

 

「行くのです」

 

「ちょ! だから! 男の俺は行ってはならない場所なんだ! 女の園だろ! 男子禁制だって!」

 

 雷と電はガッシと俺の腕を掴み、ずるずると引っ張ってドッグに向かう。

 

「つべこべ言わずに行く! 仮にも提督だろ! 少しは気を遣えって!」

 

「いや、雷、逆に気を遣ってるんだって! ちょ、ダメだって! 俺は行っちゃダメなんだって!」

 

「さっさと行くのです」

 

 ずるずる、ずるりと俺はドッグに向かって引きずられる。

 

「ちょっと待って! 司令官室が空いちゃうだろ! ダメだって! お願い、やめてぇぇぇぇぇぇ!」

 

 俺の悲痛で恥ずかしい悲鳴が廊下中に響き渡る。

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