お読みになってない方は前編からお読みください。
『冥王』ビタの作り出した決闘場。
もう一方に倒れた現代のルーデウス。
そして――ルーデウスの横に立つ、老人のルーデウス。
「ルーデウス」
確認をするように呟くオルステッド。
「――そうか。未来から来て、死んだというもうひとりのルーデウスか」
思案顔のオルステッド。
「なるほど。この『時間軸』に来て、死んだというなら、確かに貴様にも権利があるか」
「ああ。……よぅ、『龍神』。50年ぶりだな」
世界最強たる『龍神』オルステッドを前に、全く気負いも緊張も感じている様子のない老人ルーデウス。
「50年? ……ふむ。貴様にとっては『赤龍の下顎』以来というわけか」
「おぅおぅ。話が早くて助かるな」
老人ルーデウスは、すっと現代のルーデウスの方に手をかざす。
ぶぅん……。
いまだ傷の回復しきってはいない現代ルーデウスの周囲に淡い光の球体のようなものが現れる。
音もなく球体は中にいる現代ルーデウスごと浮かび上がる。
「えっ……。おい、俺も一緒に戦えば……!」
驚いて現代ルーデウスが声を上げる。
それを聞いて老人ルーデウスは――片方の口角だけを歪ませるようにして笑った。
「青臭えガキがナマ言ってんじゃねえ。こんなクソ龍一匹ブチ殺すのに、てめえの手なんぞいるか」
そう言って老人ルーデウスはちらりと、挑発するようにオルステッドに目線を向ける。
「……クソ龍、とはな」
「あ? クソ龍で十分だろ。お前の方はどう思っているか知らねえが、俺にとっちゃお前は50年前に殺されかけた相手なんだからよ」
言って、老人ルーデウスはオルステッドに向かって中指を立てた。
オルステッドはその『中指を立てる』動作の意味は知らなかったが、挑発をしてきているということは理解した。
「……この俺を前にして、よくぞ言ったものだな」
現代ルーデウスは、オルステッドに怒気が見えたのを見て、ぞっとする。
老人ルーデウスは――日記の記述を信頼する限り――あの『赤龍の下顎』でルイジェルド、エリスとともに殺されかけた10代はじめの邂逅以来、オルステッドには遭遇していないはずだ。
当然、知らないはずだ。
今オルステッドが手にしている『神刀』のことも、彼が剣術、魔術ともに極め尽くしていることも、この200年間という年月をループし続けていることも。
相手は文句なしの世界最強、『龍神』。
つい今し方何をしても通用せず、殺されかけたのだ。
――いくら何でもオルステッドをナメすぎでは?
現代ルーデウスはそう声をかけようとし――老人ルーデウスの顔を見て、言葉を飲み込む。
「……」
老人ルーデウスの顔にも、明らかな怒りの表情が見られたからだ。
「ああ、てめえが悪いんじゃねぇだろうが、俺は俺で、てめえに恨みがあってな」
「――恨みだと」
「ああ。――ヒトガミのクソ野郎をブチ殺すために、てめえを40年くらい探していたんだよ。
ばちぃっ!!!
老人ルーデウスの周囲で、――何か、電撃が走るかのような破裂音が響いた。
雷撃魔術。
オルステッドも現代ルーデウスも知らない、老人ルーデウスの代名詞とも言われる魔術。
手をオルステッドにかざす。
「……てめえには、一度会ってしつけてやらねえといけねえと思ってたんだ」
「――そうか。だが、そうやすやすとやれると思うか」
ふっ、とオルステッドが全身に力を込める。
ぶわっ!
オルステッドの体を覆うように全身が強く輝く。
「この『龍聖闘気』は王級以下の魔術を全て跳ね返す」
右手に持った『神刀』をゆっくりとかざす。
「この『神刀』はこの世のいかなる魔剣よりも優れた究極の武器」
左手を手刀の形に固める。
「俺は無手でも『光の太刀』を放てる」
そしてゆっくりと腰を落とす。
「そしてこの身は剣神流、水神流、北神流の全てを極め、この世に存在する全ての技と術を使うことができる。――貴様に勝ち目はない」
ぎろり、とオルステッドの瞳が老人ルーデウスを射貫く。
それは、オルステッドをオルステッドたらしめる何よりのもの。
オルステッドが持つ、あらゆる者が持ちながら、あらゆる者が到底そこまでは到達し得ない、強烈な『殺気』。
それを受けて、老人ルーデウスは――笑った。
鼻で。
「はっ」
ぎゅ、と右手を握る。
ばぢっ!!!
稲妻がはじけた。
「やってみなければ、わからねぇだろ」
――それが、戦いの開始の合図であった。
ーーー
ばっ!!
オルステッドが『神刀』を手に突進を開始した。
老人ルーデウスに向かって。
『龍聖闘気』を纏うオルステッドは常人を遙かに超える速度で移動できる。
大地を蹴る足の強さが並みの人間の数倍に強化されているからだ。
瞬時に老人ルーデウスを間合いに捉えると、『神刀』を振り下ろす。
ひゅぱっ!!
先ほど現代ルーデウスを斬りつけた時と同様、大地が裂ける。
が。
老人ルーデウスはすでにその場にはいなかった。
オルステッドが斬りつけた瞬間に、重力魔術を使用した高速移動で数十メートルも先に移動していた。
――すっ。
老人ルーデウスがオーケストラの指揮者のごとく、両腕を中空に掲げる。
「『
老人ルーデウスの言葉とともに、周辺に岩の弾丸が生まれ出る。
――ひとつ。
――ふたつ。
――十。
――百。
――千。
「――!!」
追撃に向かおうとしたオルステッドが、呆気にとられたかのように動きを止める。
オルステッドの、数万年をも超えようという生涯でなお、見たこともない数の魔術の同時起動。
――万!!
岩砲弾は
まるで満天の星のごとく。
しかも。
その全てが
……ありえない。
現代ルーデウスはそのあまりの異常さに目を見開く。
それは、魔術が制御する箇所が比較的少ないからだ。
岩の塊を生み出す。
相手に向かって移動エネルギーを与える。
このふたつだ。
移動エネルギーを与えた瞬間から魔術の制御を離れるので、比較的扱いやすい魔術なのだ。
……だとしても、それを同時に万を超える数生み出すなど、どれほどの魔力があればできるのか。
世界最高クラスの魔力を保有すると言われる現代ルーデウスすら、見当もつかない。
しかも、まだ発射していないのに、高速回転をしている。
つまり、まだ制御しているのだ。
同時に、万を超える数の砲弾を。
手が一万本あったとして、その全てに意識を向けているようなものだ。
「――『
老人ルーデウスの声が響く、と同時に。
万を超す岩砲弾が、オルステッドに向けて全て発射された。
それも。
ある砲弾は真っ直ぐオルステッドに進み。
ある砲弾は稲妻か、あるいはUFOのごとくに高速にジグザグな機動をし。
ある砲弾は大きく弧を描きながら。
ある砲弾は出鱈目な動きをしながら。
ありとあらゆる機動をしながら、速度すらばらばらに、オルステッドに襲いかかった。
例えば、万を超える砲弾だとしても全てが直線でオルステッドに襲いかかったのならば、オルステッドならば対処は比較的たやすい。
直線で襲ってくるということは、オルステッドのいる位置に向けてくると言うことだ。
つまり、オルステッドが大きく飛び退くなり、横に逃げるなりすれば、後はオルステッドに交錯する軌道の岩砲弾のみ対処すればいいのだ。
しかし。
これほどまでに多種多様な軌道を取る岩砲弾の対処をするなど、オルステッドですら――。
現代ルーデウスがそう思った時。
オルステッドは、『神刀』を腰だめに構えた。
まるで、刀を納刀した侍。
居合い切りをこれから行うかのように。
その姿に、現代ルーデウスはハッと気付く。
あれは、あの構えは。
見たことがある。
「水神流奥義が六――」
岩砲弾がオルステッドにすぐそこまで迫る。
「――『剥奪剣界』」
オルステッドがそう呟いた瞬間。
シュババババババッ!!!!
オルステッドの手元が、『神刀』が、見えないほどの速度で走り続けている。
オルステッドの周囲十数メートル。
その空間に入り込んだ岩砲弾を凄まじい速度で斬り落としているのだ。
オルステッドの後方から襲いかかろうとしている岩砲弾すら。
まるで
現代ルーデウスは思い出した。
かつて、アスラ王国で起きた戦いで、水神レイダが使った水神流奥義。
歴代の水神ですら使うことができなかった、彼女だけの奥義。
甲龍王ペルギウスと12の使徒すらいたあの場。
水神レイダただひとりと彼女の奥義により皆殺しにされていてもおかしくはなかった。
「……あの奥義すら使えるのか」
現代ルーデウスは驚愕に目を見開く。
一万発を超す
その全てを水神流の奥義をもって打ち落としたオルステッドも人知を越えた化け物。
---
オルステッドが『神刀』を振るう。
二度、三度。
老人ルーデウスははるか遠くだ。
当然、届くはずなどないのだが。
が。
「『光の太刀』!!」
現代ルーデウスが叫ぶ。
剣神流が奥義の一。
振り抜いた剣圧に、闘気を乗せて飛翔する刃と化す技。
しかも、『神刀』での『光の太刀』。
おそらく並みの――といっても、『光の太刀』を実践できるという時点で超がつくほどの達人と言っても過言ではないのだが――剣士が使う『光の太刀』とは比べものにならない精度と威力のはずだ。
対して、老人ルーデウスは。
なんと――『光の太刀』に向かって突っ込んだ。
重力魔術で浮きながら。
三撃の『光の太刀』は高速で老人ルーデウスに迫る。
老人ルーデウスは軽く身を翻しながら、突っ込む。
そして、『光の太刀』は音もなく老人ルーデウスの左腕と右脚を斬り落とした。
と。
老人ルーデウスは斬り落とされた左腕を右手で掴むと。
あろうことか――オルステッドに向けて投げつけた。
「――なにっ!?」
現代ルーデウスはもちろん――オルステッドすら、その行動に愕然とする。
斬り落とされた左腕は、血をまき散らしながら、重力魔術により凄まじい速度で加速する。
先ほどの万を超す『
音速すら超えているかもしれない。
オルステッドは『神刀』を振るい、老人ルーデウスの左腕を『光の太刀』で斬りつけた。
狙いは
が。
どがっ!!!
老人ルーデウスの左腕はふたつになりながら、全く速度を落とさずオルステッドの頭を撃ち抜いた。
「ぐっ!!」
ぐらりとオルステッドの身体が傾く。
――これが『光の太刀』の弱点。
質量を伴わない斬撃ゆえに、斬り裂くことはできても、撃ち落とすことができないのだ。
まさか、こんな方法があるとは。
現代ルーデウスが見ると、老人ルーデウスの左腕と右脚はすでに再生していた。
治癒魔術により。
それにしても。
治癒魔術で再生できるとはいえ。
斬り落とされた腕を即座に武器に使う。
むしろ斬り落とされることを何とも思わず好機と捉える。
――いったいどれほどの修羅場をくぐり抜け、どれほどの錬磨を重ねればその精神性に行き着くというのか。
「なんでも斬れるから、勝てると思ったか」
いましがた、腕と脚を切り落とされたことなど、なんとも思っていない表情で老人ルーデウスが呟いた。
---
「貴様……!」
『龍聖闘気』で守られたオルステッドでも、超音速で頭に打撃を受けて無傷とはいかなかった。
口元からわずかに血が流れる。
ばっ!
老人ルーデウスが重力魔術で浮いたまま、オルステッドの立つ地面に手をかざす。
「『泥沼――』」
その言葉を耳にしたオルステッドは咄嗟に大地を蹴り、宙に浮く。
「『――
一瞬遅れてオルステッドのいた周辺の大地が陥没する。
――そこは、泥沼ではなく、電撃の渦と化していた。
大地から、中空に向けて。
ガガァァアアアアンッ!!!
ほとばしる落雷の途中に、オルステッドの身体があった。
いかにオルステッドとはいえ、空中にいる状態からでは身をかわすことはできなかった。
まして雷速。
時速にして最大およそ三億キロメートルとも言われる速度だ。
オルステッドは全身から煙を吹き出しながら地面に叩きつけられると、ごろごろと転がる。
「き……貴様……!」
先ほどの腕の一撃に加え、強力な雷撃を受けてなお、オルステッドは立ち上がる。
現代ルーデウスは、オルステッドがこれほどのダメージを負ったのを初めて見た。
無敵と言われた『龍神』が、追い詰められている。
おそらくは。
おそらくは、次の一撃が勝負の分かれ目となるはずだ。
---
「ルーデウス・グレイラットぉぉぉ!!」
オルステッドが『神刀』を構え突進する。
老人ルーデウスに向かって。
対する老人ルーデウスは。
す、と何かを触るかのように中空に手を当てた。
「――
老人ルーデウスが呟くと、周囲に魔方陣が出現した。
いや、老人ルーデウスの周囲だけではない。
見れば、この
なんと――なんと、直径、約300メートルにも及ぶ、球状の巨大な魔方陣が出現したのだ。
老人ルーデウスはこの
かつて。
かつて、
あれが直径50メートル、高さ1メートルであったことを考えると、この魔方陣のあまりの巨大さ、出鱈目さがわかるだろう。
「な……」
現代ルーデウスはもちろん、オルステッドですら呆然として周囲の魔方陣を見回している。
「――こいつは、ヒトガミのクソ野郎に向けて打ち込み、ブッ殺す予定だった魔術だ」
老人ルーデウスの声が響く。
「――祈れよ。信じる神がいるのならな」
その言葉と同時に。
魔方陣の至る所から雷状のエネルギーが放射されると、オルステッドに向けて進んだ。
---
「ぬうぅぅっ!」
迫るエネルギー波に向かって、オルステッドが『神刀』で『光の太刀』を振るう。
が。
エネルギー波は何事もないように『光の太刀』をすり抜けた。
そして、四方八方からオルステッドに命中したエネルギー波は、バリバリと音を立ててオルステッドの身体を拘束する。
「おおおおっ!!」
オルステッドは、全身から『龍聖闘気』を噴出させると、エネルギー波に対抗する。
だが、あまりにも多いエネルギー波の量に、身動きができないままとなる。
そして、老人ルーデウスは。
ゴオオオオオオオオオッ!!
老人ルーデウスが、球状の――水晶玉くらいのサイズの――物を持っているかのような手の形を作ると。
全身から魔力が吹き出し、水晶玉の中心に当たる箇所に凄まじい勢いで圧縮されていく。
まるで、山を切り崩して砂粒一つに圧縮するかのように、途方もない量の魔力が一点に集約されていく。
老人ルーデウスの全身から汗が噴き出す。
更に、魔方陣の至る所から、オルステッドに向けて放たれているものとは別のエネルギーが巻き起こると、同じく老人ルーデウスが魔力を集中している一点に集められていく。
「なんだ――あれは――」
現代ルーデウスは背筋が凍るような感覚を覚えながら魔力が集められている一点を見ている。
集められた魔力の量はどれほどだ?
先ほど老人ルーデウスが見せた万を超す
並みの魔術師の持つ魔力を1とするなら、現代ルーデウスの魔力は1000程度はあるだろう。
だが。
今目の前に集められている魔力の総量は。
――億?
――兆?
――京?
いや、もっと。
もはや現代ルーデウスにすら計り知れない規模の魔力が生み出され、極小の一点に集められている。
ヂ・ヂヂヂ……ヂヂヂヂッ!
魔力の集められた一点から、電撃が走るかのような音が生じている。
「できあがりだ。くらいな、『龍神』」
滝のような汗を流しながら、老人ルーデウスがオルステッドに目をやる。
「な、なんだ――それは――」
エネルギー波に拘束されながら、オルステッドが呻く。
『それ』は、黄金色に輝く、空中の『点』だった。
見るだけで膨大な――あまりにも膨大なエネルギー量を持っていると感じさせながら、視界に映るのはあくまで『点』なのだ。
「いけ――」
その言葉とともに、『点』はオルステッドに向かって動き出した。
「――『
音もなく、オルステッドに向かう『点』。
現代ルーデウスは、辺りから音が消えたかのような錯覚を覚えた。
実際には、オルステッドの『龍聖闘気』とエネルギー波がせめぎ合う音が響いていたのだが。
オルステッドに向かう魔術のあまりの魔力量に、視界すら歪んで見えるようだ。
「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!」
限界まで『龍聖闘気』を放出しても、魔方陣からのエネルギーを弾き返すことができない。
そのことに気付いたオルステッドは、最後の勝負とばかりにその手の『神刀』を老人ルーデウスに向けて投げつけた。
老人ルーデウスからオルステッドには、魔力の弾丸が向かっている最中である。
当然に弾丸と『神刀』は交錯し――
ぱん。
まるで小さな風船が割れるような音とともに『神刀』は砕けた。
「ば、馬鹿なあああああぁぁぁぁぁぁっ!!」
ここに至り――ここに至り、初めてオルステッドは驚愕の声を上げた。
それは悲鳴にも似ていた。
そうして、身動きのとれないオルステッドに弾丸が命中し。
ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!
世界そのものが震えるような凄まじい爆音が響いた。
---
ギリシャ神話におけるゼウスは、至高神であり、雷神であったとされる。
ゼウスの印象と言えば、妻神ヘラがいるにも関わらず美しい人間を見ると襲い犯す享楽主義者であり、絶対神と言うよりは、狂言回しのような役回りを思う人間の方が多いかもしれない。
しかし。
彼がオリュンポスの神々の王として君臨するに至ったのは、若き日の父神クロノス率いる巨神族ティターンとの戦いである。
その戦いの中、ゼウスが放った
この戦いの中の功績を讃えられ、ゼウスは神々の最高権力者と認められたと伝わっている。
老人ルーデウス。
その生涯を讃えられ『雷神』と称されたルーデウスが、自身の最強魔術に『
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世界が滅ぶような爆音の中、現代ルーデウスは魔術の命中したオルステッドを見ていた。
まず、弾丸が命中した瞬間、オルステッドの身体は瞬時に燃え上がった。
『龍聖闘気』は、弾丸に対し何の効力も発揮しなかった。
そして次の瞬間、オルステッドの目、鼻、口、耳といった、身体に存在する穴から稲光が噴出した。
稲光はオルステッドの身体を
オルステッドは悲鳴すらあげることができず、稲光によって引き裂かれた。
まるで超新星爆発のような光が辺りを包みこみ、その光が収まったあとオルステッドの姿はどこにもなくなっていた。
「すげえ……」
現代ルーデウスの口から無意識のうちに声が漏れる。
こうして。
『現代最強』と『未来最強』の戦いはここに終結した。
---
現代ルーデウスを包む魔力の障壁がゆっくり地面に降りると、その姿を消す。
どさ。
老人ルーデウスがその近くに落ちてきた。
「お、おい……」
地面に倒れ込んだ老人ルーデウスを抱き起こす現代ルーデウス。
最初に姿を見せたときに比べ、更に15年ほど年をとったかのように見えた。
覇気みなぎる老人から、老境著しい、死期の近い老人の姿へ。
「……はっ。大したことのない……クソ龍だったな……」
ぽたり。
老人ルーデウスの顔に、水滴が、落ちた。
現代ルーデウスの瞳からこぼれた、涙が。
「すごい! あんた! すごいよ! あのオルステッドを倒すなんて!」
「ああ……? なに……泣いてやがる……」
「わからない! わからないけど!」
それは、同じ『ルーデウス・グレイラット』だからこそ、感じる感情かもしれなかった。
同じ戦いに身を置くものとして。
自身の究極ともいえる姿をまざまざと見せつけられたのだから。
「な、なぁ! さっきのもの凄い魔術が使えるくらいなら、一緒に元の世界に帰れないか!?」
「あん……?」
「あんたの、あんたのおかげなんだよ! ヒトガミの助言から逃れられたのも! エリスと和解できたのも!」
「おう……そうか……」
「エリスとも結婚したんだ! 子供だっている……! 幸せなんだ! あんたに、見てほしいんだ!」
「……ああ……」
老人ルーデウスの身体からみるみる精気が抜けていくようだった。
先ほどの『
あるいは――この
「なぁ……! 一緒に帰ってくれよ!」
ぼろぼろと現代ルーデウスの目から涙がこぼれ続ける。
「できねえな……」
「……何でだよ!」
「
「……!!」
「ああ……だけど……」
もはや声はかすかにしか聞こえない。
現代ルーデウスは、老人ルーデウスの口元に耳を寄せる。
「そうか……
「――もちろんだ!」
「……よかっ……た…………」
そう言うと。
老人ルーデウスは、そっと目を閉じた。
その身体が光り始めたかと思うと。
ゆっくりと空間に溶けていくかのように、散っていく。
「……
現代ルーデウスはその身体を力の限り抱きしめた。
「ありがとう……! ……未来から来たときも! ……今も!!」
そうして。
老人ルーデウスに続いて、世界そのものが光り始めた。
この世界――『冥王』ビタの決戦場が消えていく。
現代ルーデウスの魂は、現実世界へ。
それ以外は、全てが光りながら溶けていった。
まるで、最初から全てが夢であったかのように。
<了>
お読みいただきありがとうございました。
感想などいただけると大変うれしく思います。
また本編投稿以来、誤字報告を頂くこともありました。
ご指摘、ありがとうございました。