快盗戦隊VS警察戦隊に極めて近い世界線のルパンレンジャーVSパトレンジャー   作:bassher

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※この作品は『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』という素材を使って再構築した二次小説です。
※諸処設定等変更ございます。
※オリジナルのスタッフが小説という形で奮起される事を切に願います。



#1-2 国際警察、追跡せよ

 

 

 

 新宿、都庁付近の立体交差、下に見える圭一郎は、市民に対して頭を垂れていた。

 

「必ずあの化け物を倒します。あなた方の家を燃やし尽くした凶悪犯を、約束します!」

 

 圭一郎は挙手注目の敬礼を被災者に対して行った。パリが本流である国際警察は無帽が許されるらしい。

 

「朝加のとっつぁんじゃ無理ゲーじゃね。」

 

 カイリが辿り着いた時には、既にギャングラーは甲州街道の高架を破壊し立ち去っていた後だった。

 圭一郎とつかさは今日に入って14件の誤情報による不当たりの末15件めに至って本物のギャングラー犯罪に遭遇、車一台を犠牲にし、体毛の焦げたギャングラーがやる気を削がれて撤退するまで9ミリパラペラムで辛うじて持ちこたえた。そんな疲労困憊の中でまだ圭一郎は被災者への応対をやめなかった。

 

 

 

「いらっしゃい」

 

「今よりランチが終了しましてごめ、小暮さんでしたか。」

 

 ビストロジュレの真鍮の鐘が乾いた響きを上げ、白手袋までしたタキシードの奇っ怪な老紳士が入ってくる。顔立ちだけが貧相なその紳士に、トオマもうみかも畏まった態度を崩さなかった。

 

「ボンジュール。『エックス』が貴方達のダイヤルファイターを修理いたしましたので、お届けに参りました。今後はお気をつけください。今回は大丈夫でしたが、いつも修理できるとは限らないですから。」

 

 老紳士、老執事と言っていい小暮は、この頃は絶えずハードカバーの鍵すらついた台帳『ルパンコレクションアルバム』を後生大事に抱えている。

 それをジュレのセンターに位置する4人テーブルに置いて、ブルーダイヤルファイターの絵が描かれたページを開く。不思議な事に小暮が白手袋を填めた両掌を差し出すと平面の絵が立体を為し、本物のブルーダイヤルファイターとなって小暮の手に握られた。イエローダイヤルファイターもまた同じプロセスで小暮の手に握られた。

 

「分かっている。これでカイリ1人負担をかけずに済む。いつも通りのカフェですね、今お煎れいたします。」

 

 トオマは、多少嫌味を含んでいるこの小暮の一言一言がいつも気に入らなかった。なにより自分の料理に一切口をつけずエスプレッソしか飲もうとしない。

 

「日本ではエスプレッソと言わなければまともなカフェを出してもらえません。いやいやそれだけでもこの店をオープンした甲斐があったと言うもの。ああ、そうそう、エックスが気に入ってましたよ。いただきストライク、その二周半回ったセンスに。」

 

 周りくどく料理はどうでもいいと言われてる気がする。トオマが適当に細かくした豆を適当な家庭用器具でエスプレッソを煎れて出している間、うみかは小暮が入ってしばらくしてから入店してきた客の対応に手を焼いているようだ。

 

「君かわうぃ~いね」

 

 うみかはこのどうしようもなくチャラい第一印象の男に嫌悪感しか抱けなかった。

 

「ですから、ご注文の方をお願いいたします。」

 

 うみかの生理的嫌悪は、男の毛先の跳ね上がったロン毛から既に始まっている。

 

「僕ね、近くで働く事になった公務員なんだけど、これから何かと来ると思うから、アカウント教えておくね。」

 

 何よりニッと笑うと歯並びの悪い前歯が露出する表情がたまらなく気色悪い、

 

「それより注文をお願いします。今はもうディナーのメニューになります。」

 

「ああ、じゃあ、ミルクティー。」

 

 よりにもよってミルクティーか色気づいた厨ニ坊主じゃねえか出禁にしてやれねえかなこいつ、

 うみかは培った営業スマイルをいかに崩さないに懸命だった。

 

「私はこれでお暇いたしましょう。ああ、そうそう、」

 

 小暮はうみかの相手の男の顔を見て、どうやったかまるで理解できないが台帳をマジックのように消し、ダイヤルファイター2台をトオマのエプロンの中にいつのまにか忍ばせた。その上で、トオマに耳を欹てるように指で招く。

 

「すまないがちゃんと客として、」

 

「警察の盗聴器、そろそろ回収してください。情報提供なら私が致しますから、貴方達が無理して収集する必要はありません。」

 

 トオマの瞳孔が開いた。3人が警察に盗聴器を仕掛けている事に、小暮が知る術を全く思いつかない。こいつに隠し事は不可能か。

 

「そんなバカな」

 

 そしてさらにトオマは驚く事になる。今耳元で囁いて、気配も臭い息づかいも確かに知覚していた相手が、振り返った時にはもう既に消えていた。

 

「シェフ、シェフ、ミルクティーをお願いします・・・」

 

 トオマは、うみかの顔の下半分作り込んだ笑顔と、上半分にじみ出た悲壮感を同時に視界に入れる事になる。

 

「あ、ごめんなさい。注文取り消すね。もう時間だからいかなくちゃ。今度来た時君の名前聞く事にするよ。」チャラ男は大型のキャリアケースを引きずって足早に玄関の真鍮の鐘を鳴らした。「あ、ボク、『陽川咲也』。アカウントそこに置いておくから。」

 

 もうくんな臭えんだゴミクズめ、

 

 トオマはうみかのそんな心の声が聞こえてくるようだった。

 

 

 

「ちわっす。器下げに来ましたデヘヘ」

 

 うみかは、テイクアウトの食器を下げに来るという大義名分で国際警察日本支部戦力部隊とプレートに書かれたドアをナチュラルに開いた。変にビビると怪しまれるとトオマからも言われている。

 

「つかさ、もう今日はいいぞ。たまには家に帰れ。ここのシャワーだけでは女にはキツいだろ。」

 

 圭一郎は人差し指と親指で目頭を揉んでいた。

 

「圭一郎、それはセクハラの内だ。今日補充要員が来て一通り引き継いでからでも遅くないだろ。圭一郎の方こそ、あとの報告書は私の方で纏めておくから少しは休憩を入れろ。」

 

 つかさはこめかみを強く押し当てていた。うみかはなんとなく女性にしか分からない痛みが頭へまで昇ってきているのだなと見てとれた。

 

「こんにちわ・・・・ジュレでございます、こちらのお皿いただいていきますね・・・」

 

 と明らかにストレス超過なこの室内から一刻も早く、2人の何かのボタンを押すさない内に、入ってすぐの足元に置かれた皿の底に仕掛けた盗聴器を回収しなければならない。うみかは多少焦りが顔に出ていた。

 

「ああ、ジュレの」

 

 とうみかを見るなり立ち上がって、目をギラギラさせながら笑顔を向けてきたのはつかさ。

 

「お疲れ様、いつもすまない、警官は制服で店でたむろする事ができないのでな。大変助かっている。おい、つかさ、彼女が気味悪がってるぞ。」

 

「な、何を言う、け、圭一郎、私は、ご近所のお店の方にフラットに接しているだけだ!」

 

 圭一郎は死んだ魚のような眼差しでつかさを眺めた。そして拉致があかなそうな相方からうみかの方へ目線を切り替えた。

 

「気にしないで。またお願いするかもしれない。よろしく頼む。ああ、そういえば君達あのジュレで男2人女1人でいっしょに暮らしてるんだよね。未成年の女性1人で恐くないかい?」

 

「ありがとうございます。でも心配はご無用です。男性2人だとパワーバランスか働きますから。でへへ。」

 

 と何かヤバそうな気になったうみか、慌てて食器を重ねて取り適当な挨拶をして振り返る、

 

 ヴァァァァァ!

 

「ヤァショクン、さくばんノしゅつどうごくろうダッタネ、オオきゅーてぃくるがーるノオきゃくサン。」

 

 黒い髭と髪はマンハッタン出身シアトル育ちコンゴイド独特の縮れ毛、それがネクタイをしっかり締めたオーダーメイドスーツで手足の長さを際だたせている。うみかはいきなり背後に立っていたそれに仰天した。

 

「ヒルトップ管理官!」

 

「おはようございます!その通り彼女はカワイイであります!」

 

 国際警察2人の男女が揃って立ち上がり、最敬礼した。

 

「ど、どうも、毎度ご贔屓」

 

 出会って3秒で消費期限がくる出落ちキャラじゃねえか、

 ヒルトップと呼ばれたアフリカ系の男性は2人に対してさほど年が離れていないようにも見える、そんなスラリとした手で化粧袋を差し出す、

 

「アナタモヨウカントもーにんぐほーじーヲノム?」

 

 うみか、モーニングに祟られるのか・・・、

 うみかは内心たじろいで、思わず壁際の何かのオブジェにもたれかかる、

 

「それは経費で落ちませんよ!」

 

 ヴァっヴァッヴァッッッッ!!

 

 うみかは失禁寸前まで仰天する。オブジェと思っていたモノが、突如稼働し出し、なぜか萌え声をスピーカーから轟かせた、いったいこのオブジェ、どこが口なのか顔なのかよくわからない、どうも胴だと思っていた全体が顔面らしい、このパトカーと同じ色調のオブジェはなんなのか、

 

「驚かせてしまいましたね、私はジム・カーター。」

 

 アメリカンポリス帽の頭部、カエルの顔面のような胴体、腹部はネクタイっぽい図柄が描かれているがふんどしにも見えなくない、胴体に対してダルマチアンの耳のようにぶら下がっている左右の突起が突如光を発してアメーバが流動するように変型していき、五指が形成される。

 

「毎度ご贔屓に」

 

 機械がメシ食うわけねえじゃねえか、

 うみかは内心舌打ちしながらこのイロモノ集団の巣窟から笑顔を作って脱出した。

 

「圭一郎、本当にあのカワイイ、」つかさは管理官やジムの手前咳払いで誤魔化した。「ジュレの3人が快盗だと言う根拠はなんだ?」

 

 うみかが出た後、耳の穴に指を突っ込みながら圭一郎は眠気と戦っていた。

 

「ただの勘だがな、合点がいく事が多い。言葉遣い、男性2人女性1人の3人組、そして我々から情報を探っている可能性もある。ジム、」

 

「圭一郎さん、この部屋にもあの器にも盗聴器の電波は出ていませんでした。思い過ごしでは?彼等は1人成人がいますがほとんど社会に出たての未成年です。最近SNSで流行っているらしいですよ、語尾にチュをなんでもつけるのが。」

 

「ケイイチロークン、ザンネンナガラそうさかノきょうりょくハエラレナカッタ。イマハかいとうヨリモぎゃんぐらーヲユウセンスルト。しょうこガタリナイノダ。」

 

「管理官、そもそも悟をあんなメに遭わせたのは快盗が、」

 

「圭一郎、悟は確かに日常的な動きも支障を来すほど脊椎に損傷を受けた。これからのあいつの事を考えると私も辛い。しかしな、その悟自身があまり快盗にこだわるなとおまえに忠告しているんだぞ。第一我々に捜査権はない。戦力部隊なんだぞ。」

 

「分かっている、分かっているが、オレはギャングラーと同程度かそれ以上に快盗共は危険だ思っている、忘れるな、奴等は曲がりなりにもギャングラーを倒せるんだぞ。」

 

「我々は戦力部隊だ、捜査課と同じく、優先するのは快盗よりギャングラーだ!快盗は少なくとも市民に意図してあの危険な武器を使用した事はない!」

 

「マアマアコノハナシハイッタンほじゅうよういんガちゃくにんスルマデホリュウシヨウ。けいいちろうクン、けいかいヲオコタラズソレデイテひつようイジョウニタイドニダシテアイテニキヅカレルナ。ニホンノコトワザデイウジャナイカ、アンズルヨリウムガ焼肉定食。」

 

 二人とも、それがジョークなのか、マジメに間違えているのか計りかねて態度に出せなかった。

 

 

 

 朝加圭一郎。25歳。名字に朝がある。

 自営業を営む両親の間に生まれ、虚弱だった為に義務教育を受ける期間、ほとんど通学できず入退院を繰り返していた。ちょっとした段差、階段、電車の乗り降り、全て介助を必要とする彼に街の人間達は、

 

 ああ、朝加さんところの1人息子ね、

 

 と必ず手を差し伸べてくれた。

 そんな通院時、彼の近所で通り魔事件が頻発し、虚弱ながら彼は金属バット、スタンガン、バールのようなものを携行し、街の住人達に恩返ししようと夜道を巡回した。

 

 それは警察の仕事だ、

 

 と諫めたのは街の交番のいわゆるお巡りだった。この名も無き警官は警邏中に通り魔と遭遇し、負傷しながらも確保し圭一郎との約束を守った。

 

「仕事、仕事か。」

 

 圭一郎が入院していて唯一楽しみだったのは、とあるヒーロー番組だった。

 

『これ、仕事だから。誰に押し付けられたわけじゃない、自分で選んだ、命を懸ける価値のある仕事だから』

 

 人気ではなかったがその作品が原体験だった圭一郎はしかし、熱狂的に感化され、ヒーローの真似をして炭酸栄養ドリンクを一気飲みしたりもしていた。同級生が中学に進学する頃には体質の改善を徐々に果たし、16歳になって高校に進学する頃には、何をどう努力すれば勉学やスポーツで秀でる事ができるかが分かるようになり日頃の鍛錬を怠らぬ強靱な意志を持つに至る。

 

「父さん母さん、無理をしないでくれ。オレはこの国際警察の方へ行く。」

 

 彼のように真っ直ぐに努力してきた人間が、警察官でなく国際警察へと進路を変えたのは純粋に経済的な理由による。国際警察はある一定水準の成績をクリアすれば、学費と寮での生活費の全額を免除するという特待生制度が設けられていた。特待生の枠は学年の一割であったが圭一郎にとってやってやれない関門ではなかった。何より、近所に大型ショッピングモールができた事で開店休業に追い込まれた両親の経済的苦境を緩和してやれると圭一郎は思った。

 

「おまえ、不器用だな。」

 

 と同期の東雲悟にからかわれる圭一郎、そんな幼少時に当たり前の環境に触れなかった適応の遅れから来るモノかもしれない。

 

 

 

「という事で完全にオレ達はマークされている。今後皿にマイクを仕掛けるのはやめておこう。」

 

「トオマはスゴイよね。全然大皿の底に埋まってる感じしないもんね。盗聴マイク。」

 

「盗聴器でなくて録音するだけのマイクにして正解だったなトオマ。」

 

 ビストロジュレでは、国際警察からのテイクアウトを特別請け負っている。食器は消耗品でなく店のものを使用しているのは、その中に盗聴器を仕掛けている為だ。トオマが昔とった杵柄で埋め込んでパテを盛り、同じ色を吹きつけ跡目が残らないように成形した。

 

「うみか、見て気づいた事は無かったか?それより、あいつら疑ってるそぶりを見せないのはさすが本職の警官だな。」

 

 トオマに言われて顎に人差し指を当てて考え込むうみか、もちろんそれは可愛く見えるように周囲に計算したポーズである。何に向かって、という主語はほぼ欠落しているが。

 

「うむうむ、出落ちキャラがボスで、変な未来博のマスコットのネクタイがふんどしみたいだなぁとか。」

 

「「うみか!」」

 

「だってそう言うしかないとこなんだもん・・・・」

 

 店は既にラストオーダーが終わり、店終いの支度をカイリが全て済ませたところだった。

 

「オレがうみかをいかせたのが悪かった。で?どうするカイリ、この店をやっていくのはもう限界だと思うが。」

 

 こう見えてカイリは良く言えば綺麗好きで、片づけだけはトオマより段取りがいい、ただゴム手袋をしないと洗い場に立たないが。

 

「いや、諦めるのは早いぜ。ワンチャンあるって。いいかトオマ、逆に考えればさ、これ凌いだら疑い晴れるって事だろ。んでさ、疑ってた事あいつらの性格からすると負い目に感じるだろ、んで、こっちにもっと懐いてくれる、かもしれない。」

 

 人の機微に聡いカイリだった。

 

「おいおい、危ない橋を渡るのは、御免だぞ。」

 

 カイリは引け腰のトオマを無視してケータイを耳にあてた。

 

「何言ってんスカ。ウチら快盗やってる時点で、危ない橋渡ってんだって。だったら、楽しもうよ・・・・もしもし小暮さん、そうそう、さっき言った3人の話、それより?・・・・・ギャングラーが名指しで挑戦状!」

 

「なるほど危ない橋ばかりだ」

 

「ねえ見て見て、」

 

 うみかは話がよくわからなくなったのでケータイをイジり出した、そこで話題の動画に触れた途端、ヤツの顔が前面に出てきた。

 

『モフフフフ、モホホホホ、ルパンレンジャーに告ぐ、先週はよくもやってくれたな!おまえ達に決闘を申し込む、もし応じない場合は、このままずっとこのネットワークで『バルス』と言い続ける!!』

 

 それはアニダラ・マキシモフの能力、毛玉を介しネットワークに割り込んでのメッセージだった。やろうと思えばネットインフラの全てを麻痺させる事ができる能力である。

 

 

 

 江東区湾岸地帯。元は夢の島という卑屈なネーミングの不燃物廃棄場だった跡地に奇抜過ぎる建築物が平成初期に乱立、そのもっとも奇抜なビックサイトをアニダラ・マキシモフは決闘場に指定してきた。奇しくも三連休同人誌即売会中日、数千人単位の人間が入場を開始した途端の避難勧告であった為に、駅、街道が人と車両で栓をしたように停滞、湾岸署総員出動で避難誘導するものの、

 

 レインボーブリッジ通過できません!

 

 などと若い警察官の悲鳴すら上がる大混乱となった。いや、純粋な入場者、会場スタッフなどはまだビックサイトの外部へ手荷物だけ避難できただけマシだろう。企業サークルもまたアニダラの予告動画が上がった段階でチャーターの4トン車を用意して1時間ほどで撤収をはじめ、たとえレインボーブリッジの円周上で宙に浮いてるような状態であってもまだマシだったろう。問題は一般サークルである。

 

「なぜだ!荷物より命を大事にしろ、早く避難するんだ!」

 

 圭一郎はいつまでも避難せずテーブルにかじりついて、必死になってダンボールに紙束を詰め込む一般サークルの市民が全く理解できなかった。

 

「いや、圭一郎」彼女はしっかりと握りしめていた。

 

 圭一郎とつかさはビックサイト南館一階で一般サークルの避難誘導を勧告し、遅滞する状況にイラ立ちを隠せなかった。が、しかしこの捜査官2人の思惑は違った。

 

「圭一郎、荷物を捨てていくなど、この人達にとっては命を捨てるのも同じだ、分かるか?学業や仕事を抱えながら、この冊子を何ヶ月もかけて制作し、そして今日というこの日を迎えた彼女彼等のキモチが。市民の安全と財産を守るのが我々の仕事だ、圭一郎。」

 

 つかさの手には、熊髭の男2人がバラを背景にして抱擁し合う表紙の冊子が握られていた。なぜだろう、つかさの目頭が充血している。

 

「命だけでなく、市民の安全と財産を守る、そうか、それが警察の仕事だ!」

 

 圭一郎は間に受けた。

 

「彼女達の避難の段取りは既に私が手を打っている。後は我々でここを死守するだけだ圭一郎!」

 

 つかさは腰のホルダーから『VSチェンジャー』を取り出した。

 

 

 

 明神つかさ。25歳。名字に明けがある。

 早くに両親を亡くし、警官である祖父に育てられる。頑なに厳格で言葉足らずで不器用な祖父は、亡くなった息子が残した一人娘を、自らの父から受け継いだ柔道場の後継者にする事に決める。警察では組対にいたが故に柔道以外にも様々な武術に長けていた祖父は、その技術の全てをつかさに伝授した。その厳しさは幼少期にあれほど懐いて言葉使いまで模倣した祖父を、親の仇なんではとまで思わせる程に複雑な反抗をさせた。

 

 つかさは本当に素直な髪の毛をしてるね、いつまでも長い髪の毛を大事にするんだよ。

 

 祖母はおそらく、つかさの父の時も同じような事があったのだろう、祖父と中学校に上がったつかさの口論など涼しい顔で流して、ただつかさを鏡台に座らせてストレートの髪を櫛でゆっくりと梳いた。

 

 おまえにまで、何かあったら、オレは・・・・

 

 高校に進学させてもらったつかさはややグレていた。いやグレるよりもっと酷かった。自分の腕っ節で手当たり次第に不良狩りをして回った。不良が見くびりやすいように、できるだけしおらしげに見えるよう清楚なルックスとメイクも覚えた。そうして餌にひっかかってくる不良を完膚無きまでに叩き伏せるのが高校の日課となっていた。祖父仕込みの柔道、合気道、空手、剣道を駆使して不良どころか半グレグループを覆滅した事もあった。さすがに警察沙汰になったものの、元警官の家族という事で傷害罪には起訴されなかった。むしろ後悔したのは、やり過ぎた事だった。半グレの一人に裂傷を与えて片腕を不随にしてしまったのだ。そんなつかさが罪悪感に苛まれて呆然としていた時、迎えに来た祖父の労りの言葉は、彼女を打ち砕くのに十分だった。祖父程人生において規律を重んじる人間をつかさは知らない、その祖父が全てをかなぐり捨てて自分の身を按じてくれたのである。この偏狭な想いを愛情と言わずしてなんと言うだろうか。

 

「悪い事をした・・・・」

 

 つかさは生涯において祖父母に頭が上がらなくなった。それどころか警察への志望もこの経歴の為に道を断たれる。

 

「私は祖父母の為に道場を継ぐ。しかし今のままでは経済的に立ちゆかない。そうだな、経済力のある男性と結婚し、私自身も結婚するまで効率の良い職を見つけて、貯金と年金でやっていけるようにしよう。」

 

 つまり彼女が国際警察を選んだのは、特性を活かした上で堅実に生活プランを組み立てた結果だった。

 

「いや、生活も大事だ否定はしない、だが、国際警察の権限を預かる責任を忘れるな。」

 

 入学してからの彼女は、絶えず朝加圭一郎と互いのアイデンティティをかけて争う毎日だった。マンガのキャラクターかと言わんばかりに警察というものに夢を求めて口にする事も憚らない無骨者が、成績の上で絶えず拮抗するのである。圭一郎にしてみれば、身体能力に絶対の個体差があるはずの女がまるで俗な考えで市民の安全を守ろうというのである、圭一郎にとって無責任だとそれは言いたいところだろう。

 

「それは私の自由だ。」

 

 ああこいつとは結婚できねえな、絶対出世しても上官に噛みついて閑職に回される男だ、と早々に見切りはついたものの、同僚警官としてのスタンスは否定したくてもできないものがあった。

 

 

 

「スゲーなダイヤルファイター、一発撃っただけでセキュリティ全部開けちまう。」

 

 カイリ達3人は燕尾の装束となって、ダイヤルファイターを滑空させてワイヤーでビックサイト南館屋上駐車場に降下した。ダイヤルファイターは急旋回しつつ縮小化し、そのまま花びらが落ちるようにカイリ達の掌に収まった。ここから自動ドアで中に侵入する訳だが、カイリはそのセキュリティにダイヤルファイターを装填したVSチェンジャーを撃ち放って解錠。地球のセキュリティレベルならコンピューターだろうが南京錠だろうがこの一発でほぼ開ける事ができる。

 

「警察が4階の避難誘導を完了しているようだ。人っこ一人いない。」

 

 トオマはマスクと帽子の角度を直して壁を背に通路を伺う。

 

「おーーーーーーい、ギャングラーーーーーー!」

 

 いきなり大声を出すうみか、

 

「「バカか!」」

 

 慌ててうみかの口を塞いで周囲を警戒する二人の男、

 

「だってだって、大ホールの無人の通路で大声で叫びたくなるのは、平成っ子のロマンじゃん、ビックサイトだよ、」

 

「気づかれるだろ!」

 

 トオマは説教スタイルで人差し指で差し、うみか頬を膨らせた。

 

「こうなったら見つけてもらうか。」

 

 カイリはことここに至っておおっぴらに無人の通路を闊歩しだした。

 

「そうだそうだ」

 

 うみかも調子に乗ってスキップしだした。

 

「オレはおまえらの御守をするつもりは、」

 

 モフフフフフフフ!逃がさんぞキサマ、

 

 とトオマの言葉尻をかき消すように奇怪な呻きが館内通路を響き渡る、

 

「なんだなんだ」

 

 3人の快盗が一斉に声の方向、西館側を注視する。

 

 うぁ、うぁ、うぁぁぁぁぁ、

 

 一人の青年がこちらに向かって全力で逃げてくる、青年の背後には無数の黒い毛玉が追走し、時に数個が爆破して青年に火の粉を降らせる、3人は見覚えがあった、あのアニダラ・マキシモフの毛玉ミサイルだ、

 

「助けてくれ、た、助けてください!」

 

 快盗装束のうみかの足に倒れ込むようにすがりつく青年だった。

 

 連射連射連射、

 

 カイリとトオマがVSチェンジャーを片手で乱射、左から右に流し撃ち、遠心力で銃身そのものが掌で一回転、毛玉全てを迎撃した。

 

「あ、あ、ありがとう、ありがとうございます!!」

 

 むせび泣く青年を前に毛玉を放った本体、アニダラを警戒し立ちつくす3人、

 

「レッド、どうするこいつ。」

 

「面倒臭いから置いて行こう。」

 

「え?え?二人共この人助けないの?」

 

「正直邪魔だ。」

 

「いっそ、」カイリは銃口を青年の頭に向ける。「ここで始末しよう。」

 

 

 

『モフフフフフフ』

 

「デカデカと」

 

「ビジョンを乗っ取ったのか。」

 

 VSチェンジャーを構えた国際警察の男女の前に会場の企業ブースが置いていった大型ビジョンが起動、あの黒々としたアニダラ・マキシモフが顔面だけを映し出し、そして音量マックスの高笑いをあげた。

 

『おまえたち全員、これからルパンレンジャー共と決闘する為の人質だモフ、大人しくするだモフ!』

 

 数百インチある大画面の裏からあの毛玉弾が数十出現、緑のオーラを放ってカーブを描き、巧妙に市民を間を縫ってコンクリートの床に着弾、会場の床方々を爆裂、市民が恐怖におののき、市民達の荷物や衣服に火が移り、命と命と同等のものの喪失を怖れるあまりパニック状態に陥る、

 

「くそ!なにが決闘だ!ヤツめ、ここにいる市民を盾にするつもりだったのか!やはりあらかじめ消防チームを編成しておいて正解だった、湾岸署のみなさん、できるだけ鎮火し、救護活動を、シャッターというシャッターを解放!

 

 圭一郎はアニダラ・マキシモフの武装から、あらかじめ消化チームと救護チームを日本の公共機関を招聘して編成しておき、ただちに活動できるよう連絡を密に取っていた。

 

「了解、圭一郎!本部からの許可が下りたぞ!国際展示場にお集まりの一般市民のみなさん!」彼女の携行する警棒でありながら拡声器の機能も備えたそれを片手にテーブルの上に飛び乗った。「みなさんは自身の安全のみ優先して避難してください。今より壁のシャッターを全解放しますので、急いでこの場から避難するように、荷物の心配はご無用です、たとえ損失したとしても、我々国際警察、そのパリ本部より特別経費として、著作者のデータが現存する限り、印刷代と購入物の補填をする事が決定しました!安心して避難ください!!」

 

 つまりつかさは、貴重なサークル参加者の荷物を、復元できる限りは後で国際警察が言い値で買って与えると宣言し、パリ本部にその申告を通した。つかさはサークル参加者にできるだけ荷物を廃棄させる方向で避難を促した。

 

 やっほっぅぅぅぅぅぅ!

 

 悦び勇んで走り出すもの、戸惑いながらもそれに従うもの、レアものを詰め込んだダンボールを抱えてまだ身の重いもの、信用しないで火のついた荷物を必死に消そうとするもの、市民は未だ騒乱状態にあった。

 

「逃がさんモフモフ!」

 

 数百インチ液晶が真っ二つに裂ける、奥から飛び出てくるのはアニダラ・マキシモフ本人だった、

 

「画面の裏にいたのか!」

 

「いったいなんの為に画面に映し出したんだヤツは」

 

 アニダラに続いてポーダマンがチャカチャカ出現、逃げ惑う市民にズラリと並んで威嚇する、

 

「国際警察の権限においてギャングラーに対して実力を行使する!」

 

 ポーダマンに向かってアイソセレスで照準を取る、一発制射して、ただちに次の目標に向かってアイソセレスを構え直す、一撃貫通したポーダマンはあっさりと蒸発、

 

「効くぞ圭一郎、今までウソのようだ、二人でどうにかできる圭一郎!」

 

 つかさはいままで手こずった敵があっさり駆逐されていく様に驚き、ついに標準装備として支給されたVSチェンジャーの銃身をまざまざ眺めてしまった、

 

「モフ!人間のくせに生意気だ!」

 

 VSチェンジャーの直撃を数発食らったアニダラ・マキシモフ、2、3歩後退した後もはや半数に減ったポーダマンを見て憤った。

 

 毛玉が十数発射出、生き物のように軌道を描いて逃げ惑う市民を脅かそうとする、

 

「ボヤボヤするなつかさ!」

 

「分かっている!」

 

 二人はそのまま射角を上げて次々毛玉を迎撃、空中、この南館1階から2階を吹き抜けたフロアの最上階が爆圧で罅割れる、辛うじて二人の国際警察は避難し損ねた市民の安全を保全している。全毛玉を撃ち抜かれ、アニダラはさらに憤った、

 

「もうゆるさんモフフ!」

 

 アニダラの金庫がオーラを放つ、するとアニダラの身を中心に碧の竜巻が起こり、フロアの密閉された空間に激しい風圧が中の人間全ての足を浮かせる、思わず壁にすがりつく者、僅かな対流の空白に身を縮める者、床に伏せてもっていかれるのを辛うじて免れている者、吹き飛ばされそうな者を必死で片腕だけで繋ぎ留めている者、渦に飲まれていつまでも空中を周回する者、フロア内の人間全てが生命の危機に晒される、

 

「くそ、なんとかあの金庫に一撃、」

 

 圭一郎が片腕を床のコンセントの溝に辛うじてひっかけて強風でまともに瞼を開けられないままVSチェンジャーの照準を取る、しかし、

 

「圭一郎、危ない!」

 

 爆破、

 碧の渦に塵埃に塗れて何かがあった、視界不良の中なんとか目を開けると、あの毛玉が圭一郎の顔面すぐ側に、

 爆破、

 爆圧で圭一郎の顔が大きく歪む、脳震盪を起こし、脱力し、意識も飛んで、そして身も舞った、血流を振りまきながら、碧の風の渦に乗った、

 

「圭一郎ぉ、目を覚ませ!」

 

 同じく突風にさらされ、時に風に乗ってやってくる毛玉の爆圧にも顔を覆って絶えながら、一撃放つつかさ、しかしその射線もまた風が歪曲して容易に命中させない、錐揉みしながら衣服が切り裂かれていく圭一郎、半ば半裸になりながらも未だ失神している、

 

「せんぱーぃ!」

 

 一制射、

 

 つかさが放ったそれと同じ乱気流に呑まれ軌道を逸らす弾道、

 

「せんぱーい、今助けます、せんぱーぃ!」

 

 つかさは振り返った、男は、トレーラーの傍近くで二輪に乗座し、自分達と同じ制服を着ている、緑が入っている、悟と同じ制服だ。トレーラーは宅配業者のマークがプリントされている4トン車、南館1階のシャッターから車体を半分屋内に突っ込んでいる、悟の制服を着た男は、同じくVSチェンジャーをウィーバーで構えている、いつのまにかバイクのミニチュアのようなガジェットを抱えてチェンジャーに装填、90度銃身を回してバイクが銃身下部に位置される、見ればバイクガジェットの後部に、トリガー、がある、碧の旋風は依然会場全体渦を巻き、圭一郎のように渦に呑まれている人間も何人かいる、

 

 再度制射、

 

 風に流され歪曲する光弾、しかし、この歪曲は一旦外苑を周り込んで、渦に乗る形でギャングラーの金庫表面に直撃、それはまるで複雑な起伏のグリーンをワンオンでカップインしたかのよう、

 

「力が消えた!」

 

 叫ぶアニダラ・マキシモフ、叫んだ通り、ギャングラーを中心にした碧の渦が一気に消失した、力を失効し金庫からオーラが消えている。

 

「僕を褒めてくださいよ、先輩方!」

 

「バカモノ、そんな事言ってる間があったら圭一郎をどうにかしろ!」

 

 アニダラの旋風で舞い上がったのは計14人、内10人はつかさを含む避難要員達が受け止めたが、中年2人、女1人、そして圭一郎には誰もフォローがない、要員全てが誰かを抱えている中、ただ1人、陽川咲也が諸手を広げて圭一郎の真下に走り込む、

 

「見てらんないな国際警察、」

 

 ワイヤーが上から下に走る、落下する圭一郎の腹部に絡まって落下とは逆ベクトルの張力を天井方向に張る、その先にいる、格子状の吊り天井に立つ黒い3つの影、

 

「快盗、いつのまに、」

 

 赤い快盗が女を釣るし、青い快盗が男2人、そして黄色い快盗が圭一郎の落下を抑える為、天井の縁にワイヤーを絡めて降下、咲也の両手で失神した圭一郎を受け止めた頃には、互いの落下速度が互いのそれで完全に相殺、必然、咲也と黄色い快盗は50センチ足らずの距離で向き合う事になる。

 

「ゲっ」

 

 黄色い快盗、うみかは仰天する、眼前の警察官こそは、あの生理的に無理な、なんとかいう脳内には名前を入れてないあの男だった。

 

「あ、り、が、と!」

 

 咲也は対して快盗マスクの認証攪乱機能のせいもあって、うみかと気づかない、がしかし態度は全く同じだった、

 

「君かわうぃ~いね!」

 

 いきなり圭一郎をおっぽり出して、うみかの両手を握りしめた咲也だった。

 

 握手なんて金いくら積まれてもイヤじゃ、

 

「放して新人警察さん!」

 

 手袋越しでなければうみかは自分の汚された掌を思い悩んで自殺未遂していたかもしれない。背後に飛び退いて間合いを置くうみか、残り2人の快盗、カイリとトオマもワイヤーで捉えた人間の処理を済ませてうみかと横一列に並ぶ、

 

「無力な国際警察は引っ込んでな、いくぜギャングラー、あんたのお宝、いただくぜ。」

 

 覆面のカイリがそう決め台詞を言い放つ、4トントラックに向かって駆け込む会場の市民達が色めき立って、快盗3人を注視した。快盗はそんな劇場型の舞台と化した状況にかまわず、銃にビークルを装填、

 

「「「快盗チェンジ!」」」

 

 会場全体に観衆達のスマート端末のシャッター音が鳴り響いた。

 

 

 

 陽川咲也。23歳。名字に陽がある。

 幼少の頃警察官だった両親が殉職し、叔母に引き取られる。そもそも陽川一族は有名な警察一族であり、叔母は都内警察署副署長の陽川小百合、叔母の長男は本庁捜査一課の陽川誠、長女は本庁生活安全部サイバー対策課の陽川和美。そんなサラブレット一家の中、半ば末っ子として育った咲也は、頼りになる母兄姉に依存しつつ、それでいてデキ過ぎる兄姉に絶えず劣る自分にコンプレックスを抱えたいわゆる末っ子の典型的な性格になって、それでいて奇妙に場を明るくする事はだけは心得るようになっていく。

 兄姉が当然のようにエリートコースを昇っていくのを間近に見ながら、学校の初期段階で躓き落ちこぼれに属していた咲也は、警察学校を諦め、一族の遠縁にあたる梁上審議官に誘われて国際警察学校に進む。

 

「モテたいから」

 

 と奇妙に目的意識を低く見せるのは、そんな屈折した彼の紆余曲折があるからかもしれない。もちろん異性への下心は本音であるが。

 国際警察でも中の下の成績だった彼はしかし、銃撃の腕は、東條悟を除いてトップレベルであり、可能性を買われて成績上位者を押し退け晴れて国際警察実力部隊に入隊する事になる。もちろん梁上審議官の強い推薦はあったものの、奇しくも彼は学校内で妬まれる心配はなかった。

 

 戦力部隊?新人なんてゴリラとマントヒヒに腰骨へし折られて再起不能にされるぞ、

 

 という妙なデマが国際警察学校内で流布されており、一方で咲也は、

 

「スゲッーオレ、あの人達といっしょにチーム組めるのかぁ、え?いいのいいの、やってから考えるから!」

 

 彼のモットーは、考えてもしょうがない事は考えない、見ても分からない事はこだわらない、わからない事はわからなくていい、である。

 

「キサマは、ノーテンキが長所だと思っているのか!」

 

 つかさにそう言われる事になる咲也は、しかし兄姉達にそんな事を言われ慣れており、ヘラヘラした顔を崩さない。呵られても怒られてもケロッと脳から払拭してひたすらポジティブに生きる咲也は、ある意味精神の成長というものと無縁な若者だった。コンプレックスを抱えるのでなく、無いものとして見ない選択をしたと言える。

 

「どうしてあんなデタラメなフォームで悟しかできないような読み撃ちできるんだ?あいつはとんでもない天才なのか?それともとんでもない天然なのか?バカなのか?!」

 

 そんな風に先輩2人に配属当初から神経を割かれる咲也はしかし、

 

「やだなぁ、僕は褒められて伸びるタイプなんですよ~」

 

 あるいはノーテンキが最大の武器かもしれない咲也だった。

 

 

 

 快盗が南館1階に降下する直前までの経緯は、やはりギャングラー絡みだった。

 

「いっそ、ここで始末しよう。」

 

 白いセーターを着た青年の、その頭のニット帽子に向け、容赦なくVSチェンジャーを発射、

 

 モフっっっ!

 

 フカフカの毛編みのセーターのまったり感からは想像できない機敏な動作で躱す青年は、なぜかアニダラ・マキシモフと同じ叫び声を上げた。

 

「おまえ、解りやすすぎだろ。恰好からして。」

 

 さらにVSチェンジャーを連射するカイリ、

 

「アニダラが変装したカジノのオーナーに頻繁に接触しているおまえの姿が都内のカメラに記録されていた。そうしておまえを追ってみると、おまえの正体が分かった。オドード・マキシモフ、おまえの犯罪技も腹の中のコレクションも全て調べはついている。」

 

 カイリのVSチェンジャーに翻弄されるニット帽の青年の動きを見て、カードを投擲し剥くトオマ、青年の頬を軽く擦るカード、すると青年の姿と入れ替わるように、豊かな白毛を全身に纏った怪人が姿を晒す。

 

「モフフ・・・・・、くそ、キサマ等、カワイ気がない、もう少し騙されてもいいじゃないか!」

 

 怪人は毛色が黒でなく白だがあのアニダラ・マキシモフそのもののフォルムであった。

 

「おお、羊みたいなモコモコさんが化けていたの!?」

 

「おまえも聞いたはずだろイエロー。」

 

「う~ん、なんだか頭に残ってないから、どうでもいい事なんじゃないかと、」

 

 3人がワチャワチャしている姿に、さらに激高するオドード・マキシモフ、

 

「おまえらオレを舐めてるだろ!」

 

 と言い終わらない内に立て続けに6発以上被弾、

 

「舐められるような奴なのも分かってるからさ。いただくぜ、ええと」

 

 といつもの見得を切ろうとするカイリを余所に、オドードもボディの孔という孔から毛玉を射出した。

 

「油断するなレッド!」

 

 圧倒的な数の毛玉を、VSチェンジャーをガンスピンがてら迎撃するトオマ、レッドもイエローも同じようにスピンで扇状に弾幕を展開、圧倒的だった毛玉が瞬く間に数を撃ち減らされていく、

 

『ブルー、後ろ後ろ!』

 

「周り込まれたか?」

 

 うみかの声で振り返るトオマ、途端走る背中の衝撃、

 

 どぁ、

 

『奴の犯罪技を忘れたかブルー、』

 

 敵の攻撃に被弾したトオマ、頭を振って立ち上がり、カイリを見やった、しかしカイリの方はこちらに銃口を向けている、厳密に言えばトオマが今背にしている、

 

 近接爆破、

 

 ドァ!

 

 目がチカチカしながら怯む、先よりマシだが足が膝を着くダメージを負うトオマだった。

 

「今のはオレの声じゃない。さっきのもイエローのじゃない。あいつは毛玉から音声を出す犯罪技に、声を自在に変えるコレクションでオレ達の声を真似ている。油断してるのは、どっちなんでしょ~ね。」

 

 カイリがトオマへの毛玉攻撃を迎撃しなければただではすまなかったろう。近寄って腕を掴んでトオマを立ち上がらせるカイリだった。

 

「そうだな。おまえの口はもっと嫌味だからな。」

 

「こうなったら、兄貴と合流してクラッシュブラザーズでおまえらを倒してやる!」

 

 敵が翻弄されている間にオドード、自身の孔を床に向け、毛玉を連射炸裂させた、たちまちオドードの足元に大穴が空き、4階から1階ブースが丸見えとなる、3人を余所にオドード、その穴の中に飛び込んだ、

 

「もう、2人がイチャイチャしてる間に逃げちゃったじゃないの!」

 

 カイリもトオマも呆れながらも慌て、うみかに煽られる形で床下を降下、

 

「もうゆるさんモフフ!」

 

 奇しくもそのタイミングでアニダラから緑の旋風がフロア全体に渦巻き、3人の身体は重力に逆らって天井方向に持ち上がる、辛うじて釣り型の照明に捕まって持ちこたえた3人、収まっていく風圧に落下する人達が視界に入り、7つ道具のワイヤーを投擲して下の警察がフォローし切れない圭一郎を含む4人の男女を捕まえ、その男女の重さを使ってワイヤーを伸ばし1階まで着地、そして整列した。

 

「無力な国際警察は引っ込んでな、いくぜギャングラー、あんたのお宝、いただくぜ。」

 

 3人は右手にビークル、左手にチェンジャーを握った。ほぼ同時にチェンジャーにビークルを装填、

 

「「「快盗チェンジ!」」」

 

『0、1、0、マスカレイズ』

 

 ダイヤルを捻ってそれぞれの変身コードを入力、90度銃身を回転させて、前方へ一制射、制射した弾丸は巨大なカードとなって反射するように3人に向かって透過、

 

『快盗チェンジ!』

 

 3人に蒸着されるスーツは、それぞれ赤、青、黄色、

 

「ルパンレッド。」

 

 軽やかにポーズを決めるカイリ。

 

「ルパンブルー。」

 

 重厚なトオマ。

 

「ルパンイエロー。」

 

 チャーミングにマントを翻すうみか。

 

「「「快盗戦隊、ルパンレンジャー!」」」

 

 生でその姿を目撃する事ができた一般市民達はどよめきに沸いた。

 

「兄貴、クラッシュブラザーズの力でこいつらを叩き潰してやろうぜ!」

 

「弟よ、まずは名乗りだ、マキシモフ、アニダラ!」

 

「マキシモフ、オドード!」

 

「兄弟拳、クラッシュブラザーズ!!」

 

 全包囲に毛玉弾の弾幕を張るマキシモフ兄弟、縦横に白と黒が飛び交う、

 

「いくぜ!」

 

 カイリが真っ先にその弾幕の中に身を投じマントを翻しながら回避して兄弟に肉迫、トオマもうみかも軽く躱しながら続いた。

 

「圭一郎!」

 

 つかさは力の限り往復ビンタをくり返した。

 

「・・・・分かった、もう、分かった、起きてるから、止めて、くれ」

 

「国際警察は私一人になるところだったじゃないか!」

 

 つかさは圭一郎の襟首を力の限り絞めた、

 

「頼むから、離してくれ、一人で、立てる、」

 

 つかさからようやく解放された圭一郎は立ち上がり、VSチェンジャーを構え、乱れた襟を正した、そしてつかさと並び立ち、ウィーバースタンスで群がる毛玉を迎撃、

 

「かっこいいしかわいいなあの黄色の子」

 

 そんないっぱいいっぱいの同僚他2人より咲也の迎撃率は高いのだから天は理不尽だ。

 

「咲也、聞いてるか咲也!」圭一郎の頬に爆風に乗った破片が擦る、

 

「はい?」咲也は二度見した。

 

「持ってきてるか、」

 

 圭一郎はある程度毛玉が快盗側に集中していく様を見て咲也に顔を向けた。

 

「は?あ~、はい、はい。」

 

 咲也は腰から3つ、小型のミニチュアを取り出した。

 

「ボヤボヤするな!」

 

 つかさは咲也に近接する毛玉を迎撃しフォロー、

 

「先輩、先輩!」

 

 2人の同僚にミニチュアを1つずつ投擲する咲也、

 

「国際警察の権限において、実力を行使する!」

 

 圭一郎の号令一過、横並びする3人の国際警察、快盗と同じVSチェンジャーの銃尻の握把を左腕に握り、銃口を上方に構える、まずは朝加圭一郎が上から『トリガーマシン1号』を刺し込む、

 

『1号』

 

 続いて陽川咲也が『トリガーマシン2号』を刺す、

 

『2号』

 

 そして明神つかさが『トリガーマシン3号』を刺す、

 

『3号』

 

『パトライズ』

 

 3人はチェンジャーの銃身を左腕で掴んで、グリップを90度回した、ビークルはVSチェンジャー下部に位置しまさにトリガーマシンはチェンジャーの引き金となった。

 

『警察チェンジ!』

 

 3人は頭上に向けてそれぞれ一制射、制射した弾丸は警察のエンブレムとなり上昇、跳躍頂点から重力に従って3人にそれぞれ透過、

 

『パトレンジャー』

 

 スーツを纏った3人が起つ、まず赤いスーツの圭一郎が左人差し指を立てる、

 

「パトレン1号。」

 

 緑のスーツの咲也がゴーグルを反射させながら左人差し指と中指を立てる、

 

「パトレン2号。」

 

 桃色のスーツのつかさが両肩アーマーを上角に反らせて親指、人差し指、中指を立てる、

 

「パトレン3号。」

 

 3人が揃って規格通り同一の挙手注目の敬礼、

 

「警察戦隊、」

 

 そして両手にグリップを握って戦闘フォーメーションに入った、

 

「「「パトレンジャー!」」」

 

  ひゃっほっっっっ!

 

 途端、会場全体の一般人からどよめきがわき起こり、スマート端末のシャッター音が一斉に響いた、あるいは、快盗達のそれより音量は大きかったかもしれない。

 

「い、つ、い・・・?」

 

 うみかは声が出るだけあるいはゆとりがあったかもしれない。快盗達はアニダラもオドードも半ば忘れて自失して見つめた、

 

「あれはコレクション・・・なぜ警察が、」

 

 トオマの疑問は到底現時点で解決できる類のものではない、ものではないがしかしトオマは疑問を思案し続けるしかなかった、

 

「マジか・・・・・」

 

 ゲームでなら許せる状況が現実、つまりマジになったのである、カイリにとってはまるで呑み込めない驚天動地の事態だった。

 

 

 

 Flash 眩しいライトで

 Search 捜し出してあげる

 ジタバタしても手遅れ

 

 フェイクの正義をふりかざすの?

 罪の真ん中を撃ち抜く

 

 Hold up!Lpin!Run if you can

 サヨナラは 言わない

 逃がさないわ

 パトレンジャー

 It’s showdown

 

 

 

「兄貴、相手が倍に増えたぞ」

 

「ポーダーマンを呼ぶモフよ!」

 

 慌てたのは前後に挟まれる形になったギャングラーである。

 

 チャカチャカチャカ、

 

 前後左右からも次から次へ繰り出してくるポーダマン、頭上から振ってきて、一般市民を羽交い締めにする輩までいる、市民の避難の為のトラックも囲まれて立ち往生している、

 

「快盗ぉ!」

 

「こっちの攻撃が全部跳ね返されやがる、」

 

 圭一郎はまずまっすぐにカイリへと猪突した、カイリは受けて立たざるをえない。驚くべき事に、カイリのVSチェンジャーを何発か1号のボディに直撃させているものの、怯む事なく突進してくる、アーマーに罅すら入っていない、

 

「効きますよ先輩!」

 

「あいつらの方が火力が高いのか」

 

 トオマが持つVSチェンジャーでもポーダマンは一撃必殺できる、だが警察のそれはさらにその上をいった、トリガーマシンの引き金を引いて放たれる咲也の弾道は、一体のボーダマンに貫通して背後にいた二体めのポーダマンの腕を擦り、そして三体め脇を抉って、四体めの脳天を打った。驚くべき事にその四体全てが消失、快盗の放つ物理的な破壊ではなく、そう、もはや消失だった。トオマはギャングラーを対する為に余計な要素を廃する事、咲也は純粋に市民を守る為にそれぞれ結果的にポーダマンを排除していく。

 

「圭一郎、咲也、ギャングラーが市民を人質にするつもりだ、快盗はまだ直接脅威ではない!」

 

「アルカパちゃんだって油断しないんだから!」

 

 つかさはもっとも冷静に、脅威の中心にあるギャングラー2体を射程におさめつつ、やはりポーダマンの処理に追われた。うみかもまた結果としてバスの方へと走り寄る兄弟ギャングラーを追う為に、バス周辺に群がるポーダマンを次々撃ち倒していく。

 

「モフ、兄貴、お宝の力が」

 

「モフモフ、オドードよ、オレのお宝もどういう訳かつかえない!」

 

 それはつかさの、パトレン3号の放つトリガーマシンからの弾丸が数発アルカパ兄弟の金庫に擦っているからである。

 

「圭一郎、咲也、トラックごと人質に取られたら、オシマイだぞ!」

 

「くそ、快盗、おまえは後回しだ!」

 

「え?あ、そういや避難民がいたんだ!」

 

 つかさに呼ばれる形で、圭一郎は快盗への執着より人命優先を判断し、咲也は人生で感じた事も無かった全能感に浸るのを止めて我に返った。

 

「警察ってもんは守るものが多くて大変だな。」

 

「警察の今の力ならギャングラーを倒してしまうぞ、そうなればコレクションも破壊されかねん、」

 

「近寄れないよ!」

 

 1号に急接されその攻撃を躱すだけで手一杯だったレッド、カイリだが本人は華麗に弄んでやったと思っている。2号がポーダマンを圧倒する様をただ傍観するだけになっていたブルー、トオマはもっとも最悪のシナリオを頭に思い浮かべた。そして3号の銃撃を援護にするかのようにポーダマンが駆逐された間隙を縫って兄弟ギャングラーに肉迫したイエロー、うみかはその3号の射線によって兄弟ギャングラーの金庫に張り付く事を阻まれる。

 

「全員トラックに乗った、オレが後方を援護する、」

 

「運転手、早く!ワタシはあのアルカパ共を抑える、」

 

「トラックの前はボクに任せてください!」

 

 圭一郎が驚喜する一般市民達を詰め込んで4トントラックの扉を閉めそのまま群がるポーダマンを一掃、咲也もまたエンジンをかけたトラックの前方の障害であるポーダマンを一掃、つかさは今トラックに飛びつこうとするアルカパ兄弟に近接格闘を挑んだ、

 

「いける、ギャングラーと互角に渡り合える、」

 

 つかさはオドードを背後から掴んで柔道の要領で一歩前に出て足をかけ転倒させる、

 

「聞こえていたぞ、アルカパ共ではない、クラッシュブラザーズと呼べ!」

 

 向き直って対面するアニダラの棍棒を軽く受け流し、そして、

 

「煩い!」

 

 勢いを殺さず宙で一回転させる。スペックが並んだ訳ではない、いままで生身では相手の勢いを流す事すらできなかったが、今はできる程度までなら上がっているという事だ。だがこのスーツを着てすらギャングラーのスペックは圧倒的だ。故に、

 

「モフ!」

 

 寝ながらにして振り回した棍棒が3号の脇にクリーンヒットすると、

 

「が」

 

 50メートルもの距離を吹き飛ばされ屋外コンクリートに溝を掘る、一瞬神経の途切れたつかさの横をトラックが追い越していく、

 

「つかさ!」

 

 1号2号が失神した同僚を守るべく敵を威嚇しながら走り寄る。

 

「見ろ、」トオマは周囲を見渡している。「警察はほぼ屋外に出た、だが、ギャングラーはまだこの建物の床を踏んでいる。」

 

 トラックはそもそも1階シャッターを開けてバックで入ってきた、トラックが屋外を出て、アルカパ兄弟は今、扉にちょうど立ち尽くしている。

 

「中に閉じ込める!」

 

 レッドとブルーが、同時にシャッターボックス左右に数発見舞って内部を露出、カイリが切り替えスイッチに一発見舞うと、シャッターのストッパーが外れて重力のままにスラットが落下する

 

「兄貴!」

 

「オドード!」

 

 頭上から落下するスラットに驚いた兄弟は、互いを突き飛ばし互いをシャッターが分かつ。

 

「や~ン、白いのだけ」

 

 イエローが屋内のポーダマンを粗方一掃した時には、南館1ホールには、オドード・マキシモフとルパンレンジャー3人だけとなった。

 

「モ、モフ、兄貴!助けてくれ!」

 

 シャッターを叩きつけてガラガラと音を立てるオドード・マキシモフ、

 

「正面向きなギャングラー、」

 

 レッドが間合いを詰めると、オドード、途端振り返って、毛玉を数十射出、

 

『レッド、一旦離れろ!』

 

 トオマの声がカイリの耳をつんざく、しかしカイリは止まらない、顔を覆うだけで爆圧の中、強引にチャージする、

 

「ぉぉぉぉぉぉ」

 

「なぜ止まらん!」

 

 ルパンレッドに気圧される形でたまらず背を見せて逃走しようとするオドード・マキシモフ、しかし、180度後方に既にルパンブルーが周り込んでいた、

 

「レッド、ブルー、イエローで呼び合う事をやめたんだ。貰うぞ、クラッシュブラザーズ。」

 

『4、0、4』

 

 即座にトオマはオドードの腹部金庫にブルーダイヤルファイターを押し当て、ナンバーを解析した。

 

「そだよ、ルージュ、インディゴ、ジョーヌで呼び合う事にしたんだぞアルカパちゃん。」

 

 すかさずイエローがオドードこめかみに肘打ちを見舞って、トオマと引き離す、

 

「ばか、しゃべるな!」

 

 カイリはうみかの頭を小衝いて、うみかはヘルメットを撫でる、おそらくマスクの内側で舌を出しているだろう。

 

「2人ともダイヤルを合わせろ、」

 

 トオマが2人と並び、VSチェンジャーを構えた。

 

「やるの?またデッカくなっちゃうよ。」

 

 うみかが躊躇しているところカイリは率先してダイヤルを合わせる、

 

『4,0、4』

 

「話合ったろオレ達は何度でもやるって、それに今度は巨大化した直後に集中攻撃仕掛けてやるさ。」

 

「え、ああ、じゃあ」

 

「いただきストライク!」

 

 ブルーが叫ぶと3人が銃口を揃えて引き金を絞る、

 

『いただきストライク!』

 

 驚いたのは3人である、光弾が発射される前に3つのVSチェンジャーからアナウンスが発せられた。そんな3人の動揺など無視して光弾は、真っ直ぐオドード・マキシモフの金庫を貫通する、

 

「この間バージョンアップしたって言ってたなエックス、」

 

 レッドが愚痴っているとVSチェンジャーと金庫を繋ぐ光のロードをコレクションが遡ってくる、懐かしい型のマイクのようなガジェットをブルーが手にする。

 

「早く、こっちもビークルを出そうよ!」

 

 イエローの差す指先が並行から上角へと持ち上がっていった。

 

 

 

 遠退いていくバスからの歓声も応援も聞こえなくなったのを待って、パトレン1号、圭一郎は命令を下す。

 

「ギャングラー殲滅を優先する!」

 

 パトレンジャー3人はフォーメーションを組む、やや扇型に開き、全員がウィーバースタイルを崩さず、群がる敵を接近させずに火線を敷いて駆逐していく。

 

「モフ・・・・弟が溜め込んだポーダマンを次から次へと。オレの金庫は新しいお宝とまだ馴染んでないんだモフ!」

 

 ただ1人となってしまったアニダラ・マキシモフ、金庫を光らせようとする度に敵から粒子弾を食らい緑光が逐一消失する。

 

「先輩、例の隠し玉を持ってきてます。」

 

「どうする圭一郎、敵は2体、まだ不安定だから今回1度限りと注意書きされていたぞ、」

 

「今はトリガーマシンの限界を試してやる!」

 

 男は玩具を与えられるとはしゃぐんだな、どんな奴も、

 

 つかさがものが言えなくなっているところ、

 

「モフ!」

 

 アニダラ・マキシモフは、自身の孔からアリったけの毛玉弾を一斉に射出、

 

 うぉぉぉぉぉ、

 

 3人が近接炸裂の爆炎に晒され、気を良くしたアニダラはすかしっぺの毛一本が出るほど限界まで毛玉弾を追加射出し爆破した。何よりパトレン1号が絶叫を上げ続けて悶える声を聞くのがたまらなかった。

 

「うぉぉぉぉぉ!」

 

 絶叫が収まらない、それどころかアニダラの耳になぜか音量が徐々に上がっていく、それもそのはず、

 

「モフ!!」

 

 爆炎が収まり視界が回復した時、目と鼻の先に、パトレン1号の銃口が突き付けられていたからだ、仰天して腰が引けるアニダラの、その金庫にしかし、追いすがって密着するVSチェンジャーの銃口、

 

「これだけの距離なら、おまえも耐えられまい!」

 

 パトレン1号がトリガーを絞る、1発の粒子弾がアニダラを宙に持っていく、コンクリートの地面に背をつけ、溝を掘ってなお引き摺られる。

 

「これでも金庫に罅をつける程度なのか。」

 

 圭一郎は敵の攻撃を半ば以上まともに喰らい、スーツの装甲厚に任せて、ゼロ距離からの一制射で敵の金庫を貫通させるべく無謀な突撃を敢行した。だがそんな圭一郎の全霊を敵の金庫は罅一つだけ入れ堪える。煙が立ち上るスーツで肩で息をする圭一郎だった。

 

「イケるぞ圭一郎!」

 

「あと何発かで東條先輩の仇が討てますよ!」

 

 精神が断ち切れそうな圭一郎の背後から、つかさと咲也も追随してアニダラに弾丸を続けて叩き込みながら間合いを詰める、

 

「・・・・・いくぞ!」

 

 気力だけを奮い立たせ、圭一郎は無理矢理歩を進める、

 

「モフっ近づくな!」

 

 金庫に1号のチェンジャーが密着する、1号の右手に2号が、左手に3号が並び同じく金庫の一カ所を3つの銃口を密着させる、慌てたアニダラ・マキシモフが右腕の棍棒で横殴りする、だが3号、それを見て取って銃口を突き付けながら敵棍棒に向かってショルダーを叩きつけ勢いを殺す、殺しながら撃つ、1号も2号も金庫一点に弾丸を撃ち続ける、十数発を至近から受けて、アニダラ・マキシモフの背からついに粒子弾が貫通した、後ずさりし、断末魔のおたけびをあげるギャングラー。

 

「・・・・・を、後は、頼んだぞ、ぉ、オドードよ!!!」

 

 アニダラ・マキシモフ、金庫の内から緑光が溢れ、肉体を蝕み、罅が割れ、割れた先から光が漏れ、その内身体を光が呑み込み、そして光の発するまま肉体も拡散、同時に還元されたエネルギーが熱となって大気を瞬間的に蒸発、爆破する。

 

「ヴォォォォォォォォォォォォ!」

 

 そして3人は見た、いや見上げた、

 

「ビックサイトが、崩壊する、」

 

「で、デカイ、本当にこんなデカイんですね先輩、」

 

 視線の流れと同じく、下から上へのベクトルがビックサイト南エリア五階層を破砕していく、3号、そして2号はアニダラのそれとこの崩壊の衝撃波の中、スーツの防御力で辛うじて吹き飛ばされずに踏ん張っている、

 

「やはり、快盗共が巨大化させたか。」

 

 そして1号、圭一郎は同僚2人に支えられながらその爆風を身に受けていた。

 

 

 

『レ、レ、レ、レッド!』

 

 オドード・マキシモフがコレクションの飽和と共に肉体を巨大化した時、3人の快盗も素早くダイヤルファイターを駆った。

 

 アニキィィィィィィィッッッッ!

 

 埋め立て地の隅々にまで響く大号泣を上げ、崩壊したビックサイトの瓦礫を蹴り上げ棍棒を振るオドード・マキシモフ、

 ダイヤルファイター1号の風防から覗くルパンレッド、カイリはしかし、その巨大ギャングラーよりも、その足元にいる、3人の武装した警官達を注視していた。

 

「何をやってんだあいつら、」

 

 パトレン2号がアタッシュケースを携えてパトレン1号に詰め寄った、

 

「先輩、こいつの出番ですよ!」

 

「使ってみるか。」

 

 2号が手にしたアタッシュケースを開くと、奇抜な形状をしたミニチュアカーが奇妙な程に頑強に固定され、いや拘束されて収められている、2号、咲也がアタッシュケース内の拘束を解いて、1号、圭一郎に手渡す、

 

『グットストライカー』

 

 1号が自身のVSチェンジャーに、渡された奇妙な形状の8輪車を装填する、8輪車のフェイスは四門の銃口、車体全体は漆黒、これがVSチェンジャーやVSビークルと同じルパンコレクションであるのは、その後部パーツから分かる、なんとダイヤルも、そしてトリガーも備えられている、

 

『突撃ヨ~イ』

 

 1号が装填したコレクション『グッドストライカー』を銃身下部に回す、すると2号、3号の肉体が光を帯び透き通っていく、

 

『1号、2号、3号、一致団結!』

 

 2号、3号だった光が1号の左右に折り重なっていく、いや融合する、1号の肉体の右サイドが緑に染まり、左サイドがピンクに染まった、

 

『パトレンU号~!』

 

「融合したぁ!」

 

 同じくイエローダイヤルファイターに搭乗していたうみかが腰を抜かした。

 

「「「一撃ストライク!!!」」」

 

 融合したパトレンジャーがグッドストライカーを上角80度に掲げた、

 

『一撃ストライクっ!』

 

 VSチェンジャーからのアナウンスで銃口に熱量が蓄積、周囲の大気がリング状に熱輻射されるエネルギーが充填される、

 

「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」

 

 大股を開いたウィバースタンスで圧倒的な光量を発射、

 

 彷徨が轟く、

 

 有無を言わさず貫通する光芒、巨大化した金庫を貫通し、その金庫からの光が飽和し、オドード・マキシモフの肉体から光がしみ出し、溢れ、そして呑み込んでいく、

 

「たった一撃」

 

 ブルーダイヤルファイターのトオマは、上空にあってバランスを失い、墜落寸前で辛うじて姿勢を直した、

 爆圧が埋め立て地に広がる、一瞬で形を失う程の消失と崩壊が熱量と共に爆散した、

 

「「「ぉぉぉぉぉぉ!」」」

 

 U号の直下にあって屈んで顔を腕で覆った。

 

「金庫、小さくなって落下していくよ、」3号が最初にそれを目で追った、

 

「カイリ、あの、警察は、なんなんだ?!」

 

「知るかよ!それよかもう一個のギャングラーだ」

 

 カイリは訳の分からない程気が高ぶって、自分自身おかしな事言っているなとは思ってしまった。

 

「「「任務完了!」」」

 

 一方パトレンU号、半ば人生初の勝ち星という成果に誇らしげに敬礼をした。しかし、いるはずの他2名の同僚の姿を3人共に見つける事ができない、奇妙にも腕のスーツカラーがさきほどから違っている、これは同僚のスーツカラーだ、それになんとなくいつもより胸元が窮屈だし、新人のキツいオーデコロンの臭いも間近に感じる、あの剛烈な男脂臭も鼻について離れない、まるで同僚と満員電車に密着しているようだ、いや、それ以前に、時々身体の一部が勝手に動くのはなぜだ、これはまさに、

 

「ない」

 

「ある」

 

「なんじゃこりゃぁ!」

 

 殉職刑事の断末魔のような叫びを上げたU号だったが、突如光を帯びて、その身が3つに、元通り赤緑桃のスーツの武装警官に戻った。

 

『オイラどうしてたんだ?あーっ、きっと小暮のせいだなあんちくしょーっ』

 

 どういう訳か、パトレン1号の掴んだVSチェンジャー、その銃身下部に装着された8輪車のアイテムがブルブルと震えだし、ついには着脱、地面に落ちて自律的に動き出した、地面を縦横に走り回るそれはまるで猫科の小動物のようだ。

 

「聞いてないぞ、こいつ意思があるのか、おい勝手にどこへ行く!」

 

『束縛はやめて!』

 

 パトレンジャー3人は動き回る8輪車の動きを捕らえることが出来ず翻弄される、

 

「武器のくせに逃げるな!」

 

「どうする圭一郎、快盗達もいるんだぞ。」

 

「おまえ達はあのアイテムの回収しろ、オレはあのギャングラーの残骸を回収する。」

 

 そして2号と3号は翻弄されるままに8輪車『グッドストライカー』を追い、1号は打倒したアニダラ・マキシモフの残骸、ささくれた穴の空いたシルバーの金庫へ手を伸ばした。

 

「快盗達は後でどうにかなる、」

 

 銃撃が1号、圭一郎の伸ばした手の甲を掠める、反射的に金庫を掴んだまま側転、銃撃の方向へVSチェンジャーを構えた。

 

「舐められたもんだな警察のおっさん、どうにかなるかどうか、今この場で試してみるか!」

 

 圭一郎の眼前に立ち、マントを翻す、同じVSチェンジャー、同じ赤を基調としたスーツ、ルパンレッドが、パトレン1号と今対峙した。

 

「いままでとは違う、この力を得た限りは、ギャングラーも、お前達も、もう勝手はさせん!」

 

 圭一郎も一制射威嚇、ミリ単位の至近を掠める弾丸、襟が揺らぐ、しかし動じないカイリ、

 パトレン1号は仲間に協力を仰ぐか迷い、振り返ってもはや仲間がその距離にいない事を見て取って、腹を括った。

 

「油断大敵ってね」

 

 既にセンチ単位に間合いを詰めてきているルパンレッド、

 

「早い」

 

 反射的に後ずさるも、持っていた金庫を弾き落とされるパトレン1号、金庫が転がって中からライムカラーの物体が飛び出てきて、地面に落下したところで二つに割れた、

 

「なに」

 

 至近からルパンレッドのVSチェンジャーが火を吹く、数発腹部に喰らうパトレン1号、

 

「してんだよ!」

 

 さらに隠し持っていた剣状の武具を振りかざし袈裟切りにするルパンレッド、

 

「コレクションをどうしてくれてんだよ!」

 

 さらに2撃3撃加え追い打ちするルパンレッド、

 

「ギャングラーなんか倒したってな、コレクション盗れなきゃこっちは意味ねえんだよ!!」

 

 立て続けに数太刀、しかし黙して食らい続けるパトレン1号、

 

「何やってくれてんだよっ!!」

 

 打ち疲れたカイリ、掲げて呼吸を整え、さらに一撃振り下ろす、

 パトレン1号肩アーマーに食い込む剣、

 

「子供だな」

 

 いや受け止めるパトレン1号、

 

「コレクションがおまえたちにとってどれほどのものか知らん、しかし、」

 

 VSチェンジャー既にに腹部へ密着、トリガーを引くパトレン1号、

 

「ぅ」

 

 そのたった一撃、

 宙を浮いて上下の感覚も失せてヘルメットがコンクリートを掠め、衝撃でもはや自分が動いているか認識する事ができないまま、地に伏せた、

 

「人の命に、とって代わるものなぞ、」

 

 オレこいつに何発当てた?

 

「この世に存在しない!」

 

 こいつはたった一発だけ、

 

「どんな言い訳をしようと」

 

 何が違うっつうんだ、

 

「おまえたちは間違っている!」

 

 それでも起きあがったカイリ。

 

「うるせぇ!!」

 

 辛うじてそれだけ反抗してみせたカイリ、

 

「オレ達は、これしかないから快盗やってんだ!!」

 

 カイリは銃口を1号に向けて構えた、だがその時気づく、銃を握った白い手袋を、手袋に続く赤いスーツでない赤い燕尾服の袖が露出している事を、ルパンレッドのスーツが除装されている事に、我に帰って慌てて顔に触れた、安堵した、とりあえずマスクだけはしている、

 カイリはパトレン1号の前で取り乱した。

 

「後で署で聞く、快盗、騒乱並び器物破損、そして危険物の私的所有、洗いざらい償って貰うぞ。」

 

 バトレン1号はゆっくりと照準を定めた。

 

「逃げるぞレッド!」

 

「逃げるぞよルージュ!」

 

 そんな1対1の対峙に割って入る青と黄色の疾風、それぞれのダイヤルファイターがミニチュアのサイズでカイリの周辺を飛び回る、イエローダイヤルファイターがバズソーでコンクリート床を掘り、ブルーダイヤルファイターが錐揉み飛行で粉塵を巻き上げる、

 

「煙幕か」

 

 パトレン1号の視界がたちまち塞がれ、快盗を見失ってしまった、

 

「冷静になれカイリ」

 

 そうした上でブルーがカイリの胴にワイヤーを巻き付け、

 

「なんかヤバヤバじゃんルージュ、コレクションここにあるから、エックスだったらなんとか治してくれるかもよ、」

 

 イエローが同時にカイリを抑え込み気味に肩を回して跳躍、

 

「かかってこいよ!オラ!やんのかっ!逮捕できるもんならやってみろよ!」

 

 吊されながら興奮が収まらないカイリに、2人は困惑しながらも砂塵の上方へ逃れる、

 

『ブ、ブ、ブ、ブルー!』

 

 3人全員で1機のダイヤルファイターに搭乗し、ビックサイトより離脱していった。

 

「快盗、なぜそこまであんな玩具のようなものにこだわる、ルパンコレクションとはなんだ・・・、」

 

 煙幕に視界を奪われた一瞬、獲物を逃がした圭一郎、自らの銃を構え、上空プロペラ機に照準を取った。

 しかし、そのトリガーを絞る事は無く今回は逃がす事になる。

 

「どうした?2号、3号、つかさ!咲也!!」

 

 耳元に入った同僚達の突然の叫びと、間を置かず途絶した通信に、快盗どころではなくなった。

 

「快盗は、ギャングラーを追えばまた捕まえる機会が来る。」

 

 彼にとって、自分と同等の力を持つ2人の尋常ならざる事態に、喪失の危機を思わずにいられなかった。

 

 

 

「来るな・・・・圭一郎、奴は、危険だ、」

 

 そう言ってパトレン3号、つかさの神経は断ち切れた。

 咲也とつかさは、疾駆して逃走を図るグッドストライカーを追い切れずロストしてしまう、行き着いた先にはちょうどオドード・マキシモフだった金庫が、ささくれた大穴を上下に空けて転がっていた、つかさは咲也に言い渡して、ギャングラーの研究材料とすべく回収を命じる、

 

「待て咲也!変な気配がする、周辺警戒!」

 

「はい?」

 

 つかさは目を見張った、金庫を片手に抱えてこちらをキョトンと眺める2号の背後の空間が水中から眺めるように歪む、もちろん今水に沈んでいる訳ではない、空間がジェル状に大きくひずみ、渦巻きになったと思ったら中心から弾けるように穴が空き、中から辛うじて人の形の内に入る異形が現れる、

 ボディも巨腕巨腿も昔のチェック柄の手榴弾のような体表面、単眼、得物のハンマーにはロケットランチャー4門、そして右の肩に金庫が一つ、巨漢のギャングラー『デストラ』がその圧倒的なハンマーを振り上げた、

 

「咲也!後ろを!」

 

 だがつかさの予想を大きく反して、敵のハンマーは2号どころか自分自身の立つ位置にまで衝撃を波立たせてきた、咲也は身ごと持って行かれ、つかさもまたいつのまにか天地が逆転した。

 

「ドグラニオ様の命により、」

 

 たった一撃だった。

 

「この金庫は回収させてもらう。」

 

 デストラは、穴の空いた金庫を抱え、やはり空間に渦を作り、中心を弾かせ穴を、ギャングラーの世界とこちらの世界を繋ぐ大穴をあけた、

 

「待てギャングラー!!」

 

 デストラの背後から制射される荷粒子弾2射、

 

「つかさ、咲也、しっかりしろ、今助ける!」

 

 パトレン1号、圭一郎だった。

 半ば抉れた大地を疾駆して、アイソセレスの構えで銃撃しながら未見のギャングラーに肉迫する、

 

「なるほど、威力を感じる、見ていたぞ、それが対我々用にコレクションを改造した兵器という訳か。」

 

 依然背を向けているデストラ、ハンマーを地に差す、その鎚の中に埋まるように装填されている4基のロケットが射出、

 

「実力を行使するぅ!」

 

 射出されたロケットが歪曲の軌跡を描いて全弾1号に向かう、その一基に照準をつけて一撃する1号、爆破、至近にあったロケットも誘爆、あまりの破壊力に爆圧に巻き込まれる1号、

 

「安心しろ、おまえ達を討てという命令は受けていない。」

 

 その爆圧が収まった時、デストラ、なぜか今になって振り返り、ハンマーをスイング、

 

「うぉぉぉぉぉぉ」

 

 爆圧から人影、飛び出てくる圭一郎、デストラは既に予見して攻撃に打って出ている、

 

「下か」

 

 しかしスイングが空振る、圭一郎、仰向けにスライディングしてハンマーの下を潜っている、それはデストラの懐に入った事と同値である、

 連射連射連射、

 

「効かないのか」

 

 それでも不動のデストラ、

 数発確実に右肩金庫に命中している、それなのにビクともしない、

 

「アニダラ・マキシモフは復元したばかり、あいつを辛うじて倒せる程度の火力では、私の金庫は破れん。」

 

 滑り込んできた1号を無理矢理踏みつける、

 

「っっっっ」

 

 そうして片腕で空振りしたハンマーを遠心力をかけて叩きつけた。

 

「命拾いしたな。ドグラニオ様は、お前達をおもしろがっていた。私に命じられたのは、この金庫を回収するだけだ。」

 

 デストラはうずくまって起き上がらない3人の武装警官達を尻目に空けた空間の穴へ消えていった。

 

「おなじギャングラーで、・・・・ここまで違うのか・・・・」

 

 パトレン1号、腹部に直接打撃を受け小腸断裂のダメージで入院を余儀なくされる。

 

「せんぱ・・・」

 

 パトレン2号、吹き飛ばされた挙げ句土中に頭から身を埋もれさせ椎間関節損傷でやはり入院。

 

「皆大丈夫か、立てるか・・・」

 

 パトレン3号、吹き飛ばされながらも受け身を取って右肩脱臼、ただし入院しなかった、なぜなら自分で外れた関節を元に戻したからだ。

 国際警察戦力部隊の出動において、最大の戦果と最大の損害を被ったそれが『東京ビックサイト襲撃事件』だった。

 

 

 

 そこは店内。

 

『こちら、事件現場上空からのドローンによるリアルタイム映像です。ご覧ください、謎の生命体ギャングラーに対して、特殊装備の国際警察が今交戦を開始しました!』

 

「ますこみ、ハカナリ、きけんナトコロマデ、ハイリ、コンデルネ」

 

「管理官、アナタがここにいるから現場は統制とれてないんじゃないでしょうか。」

 

『待ってください、あれは!噂の快盗です、快盗3人組が今!ネットの中だけの存在とすら噂されていた幻の快盗です!』

 

 どこの店内にヒルトップ管理官とジム・カーターがいるかというと、なんとそこは『ビストロジュレ』。この状況において、いやこの状況だからこそこの2人が、4人テーブルを占有していた。いやいや店の客はこの1人と1機のみであるから、店を占有していたと言っていい。

 

「んホン、ケドサッキタルティフレットノちゅうもん、ヲトッテカラ、テンインガミエナクナッタナ。」

 

「という事はやはり、」

 

 ヒルトップ管理官とジム・カーターはしばし沈黙を守った。その沈黙の中を店内に設置された壁掛けディスプレイからの騒音が漂い続ける。

 

『ルパンレッド!』

 

『ルパンブルー!』

 

『ルパンイエロー!』

 

『自称ルパンレンジャーを名乗る快盗3人組がカラフルな衣装で謎の生命体ギャングラーと乱闘をはじめました!』

 

 ヒルトップ管理官はディスプレイを注視しながらも、片腕を上げて、店員を催促した。

 

「マダカ、ナ、タルティフレット」

 

 めずらしく大声を出す管理官、一方逆に静寂を保って店の厨房を凝視する事務処理ロボ、彼等の期待する通り、あるいは期待を裏切って厨房の奥から声が届く。

 

「はぁ~いただいま」

 

『ルパンレンジャー!』

 

「ジム、げんじこくヲキロク、おんせいにんしき。」

 

「間違いありません。店員の声、夜野カイリと一致しました。」

 

『自称ルパンレンジャーが謎の生命体に光線をあてました!ぁぁぁぁぁっと、ただいま映像が乱れました、いや途切れました、深くお詫びいたします。どうやら、侵入したドローンが墜落した模様です、・・・・どーすんだよなすD、こんちくしょー、あれうちら自腹じゃないよね・・・・え、まだカメラまわって、あわあわ』

 

「お待たせいたました。タルティフレットでございます。」

 

 厨房から平然とうみかが出てきた。

 

「イヤ、ホントウ、オナカガスイタ、サキニイタダクヨジム。」

 

「そちらのお客様はなにもよろしいので。」

 

 奥からカイリまで現れる。カイリはイソイソと手もみをしながらにこやかな笑顔をロボットに向けた。

 

「ロボットの私に何を食べろと。」

 

 では大衆食堂に来るなと。

 

「オミズヲジムニヤッテクレタマエ、かいりクン、ダッタカナ。」

 

「申し訳ございません。只今貸し切りの予約客の下準備に追われていまして。店中あげて手が放せない状態なんですよ。お客様を差別してはいけないんですけど、申し訳ございません。」

 

 カイリは謙って平謝りする。うみかはジム・カーターに申し訳程度にグラスに注いだミネラルウォーターを差し出した。

 

「イヤイヤ、ボクたちノ、コトハキニシナイデ。」

 

 そう管理官から聞いて安心したのか、2人はそのまま厨房の奥へ引っ込んでしまった。

 

「ウン、タシカニウマイ、モシカシテべーこんノエンブンダケ、デアジツケテルカナ、デマエ、ヨリツクリタテノホウガチョウいいね。」

 

 管理官はウィンクしながら人差し指と親指で輪を作る最高の笑顔を作った。

 

「管理官、しかし時間を何かの方法で誤魔化しているかもしれません。圭一郎さん達が無事に帰還した後、タイムレコーダーを検討しましょう。その上で3人がここに居たと保証されれば、快盗から除外されます。それより、素晴らしい戦果をあげているみたいですね、圭一郎さん達3人。さすがフランス本部から支給されたお墨付きの装備なだけの事はあります。」

 

 彼等は現場が騒然となっている最中、サボタージュを決め込んでる訳ではなかった。

 

 

 

「なんだっつうんだアイツ、偉そうに、ルパンコレクションぶっ壊しやがって、何様のつもりだ!」

 

 鉄工所屋上に一旦を身を置いた3人の快盗だった。未だ荒ぶるカイリに、変身を解いたトオマとうみかが寄り添って、ただ眺めていた。

 

「あいつら警察がまさかコレクションを武装に使うとはな。どこで手に入れたんだ?オレ達の知らないところでギャングラーを処理していたという事か。」

 

「それよりそれより、これ、見てよ、真っ二つだよ。」

 

「そう、それだよ!あいつ、コレクションムチャクチャにしやがって。絶対今度はタダじゃすまねえ!」

 

「落ち着けカイリ、」

 

「何がだよ!」

 

「落ち着きなよカイリ、」

 

「何がってつってんだぞ、オレ達の望みが水の泡になるところだったんだぞ!」

 

 カイリをなだめる為にうみかは背に回って強かに打った背中に手を触れた。

 

「つ」

 

 カイリはアドレナリンが落ち着いたところで激痛に苛まれ、しばし沈黙を余儀なくされる。そこをトオマがマスクを外してカイリの肩に手を置いた。

 

「エックスがもしかして修理できるかもしれん。オレ達はそういう細い一縷の望みでいつも戦ってきたじゃないか。まだ絶望するのは早い。」

 

「そだよ、カイリ、私達の持ってるコレクションけっこう治してくれてるし、今度だって。カイリ、いまさら警察になんでそんなにこだわるの?」

 

「だって、オレ達のコレクションぶっ壊して平気なんだぜあいつら!」

 

「警察じゃダメだから、アタシ達快盗になったんじゃない!」

 

「その警察がオレ達が狙うコレクションずっとぶっ壊していくんだぜ!」

 

 堂々巡りであった。カイリ自身何が問題なのか自覚するまで終わらない。トオマはそんなカイリとうみかを一歩引いて眺め、ケータイを手にしていた。

 

「映像は見ていたかエックス。最近はなんでもかんでもネット動画でフランスだろうがなんだろうがだな。で、・・・・しかし胴体が前後に割れている、意外と気楽に答えるなおまえ、その態度はカチンと来るんだが、とにかく治せると言った責任はとってもらうぞ。・・・・、だそうだ。カイリ、オレ達は先に戻る。やはり店に警察が来たらしいからな。」

 

「え、だって、」

 

「1人にしてやれ、うみか。」

 

 兄と違ってカイリにとってトオマがつき合いやすいところは、深いところまで干渉しない事だ。去り際にトオマが何か言い忘れていたように振り返った。

 

「オレはずっと思ってきた。この手でギャングラーに仇討ちしたいとな。だが今オレ達はそれができない。ヤツ等から装備を盗むしかない。今度ヤツ等と対峙した時快盗としてヤツ等から装備を盗ませてもらう。」

 

 そう言って2人はワイヤーを伸ばしてビックサイト屋上を伝って去っていった。

 1人取り残されたカイリは、仰向けて倒れたまま、東京湾から吹きすさぶ夜風は大きな刃が体中刺してくるようだ。

 

「なんでえ、どいつもこいつもオレをバカにしやがって。」

 

 もっとかっこよく立ち回れたはずだ、

 カイリは思った。

 どうして飛び出した、

 あの程度の動きの敵なら撃たせておいてコレクションを回収しつつ、接近しながら絡め手で銃を落としてそれを奪い取る、できたはずだ、

 

「なんでオレ焦って飛び出したんだ」

 

 大体あの警察の銃の1発はなんだ?擦っただけでスーツが全部消えた、

 あの銃があったからオレ達でもどうにもならなかったギャングラー倒せなかったんじゃねえか、

 オレ達がどうにもならなかった事を、あいつらどうにかしやがった、

 

「オレは、悔しいのか、あの警察のおっさんに。」

 

 いやいや、

 オレはお宝ぶっ壊されて頭にキタんだ、だから相手に向かって畳みかけて、そしたら意外に硬い奴で、一発食らって、そしたらいつのまにかスーツが無くなってて、

 同じ考えがループしている事に気づくカイリだった。

 

「無様だったなオレ・・・・・」

 

 声だけ張り上げて、倒れて腰が引けて、正体バレたんじゃねえかって醜態さらしてたじゃねえか、あの警察の目の前で、

 

 どんな言い訳をしようと、おまえたちは間違っている!

 

「兄貴と同じ事言いやがって・・・」

 

 そうか、あいつ兄貴と同じ臭みがあるんだ、今度こそ兄貴に勝てると思って粋がってみたら、兄貴はたった一発でオレを伸して、またあの時のようなすげー差がある事を見せつけられた、

 

「結局悔しいんじゃねえか、オレに出来ねえ事されて・・・・・」

 

 カイリは東京湾からの強風に小雨が混じっている事に気づかなかった。

 

 

 

「シューサンドはぜ?」

 

「うみか、なんだその脂臭い魚を挟んだシュークリームは。」

 

「ルパンコレクション、ル・グランド・フォゼ。3人に分裂させるコレクションです。」

 

 閉店したビストロジュレに戻ったトオマとうみかは、タキシード姿でダージリンを啜っているミスター小暮を目にした。快盗3人が警察に正体が割れそうだと相談を持ちかけたところ、心配せずに今回は店をお任せくださいと、太鼓判を押して3人にビックサイトに向かうよう促した。

 

「そもそもオレ達に変装アイテムをくれたのもアンタだ。だがてっきり仲間でも2人調達してくるのかと思いきや。」

 

 小暮は2人の目の前で、身につけたバックルをイジってまずトオマに、そしてうみかに変装してみせた。うみかは小暮が自分と見紛うばかりの姿をした事に生理的嫌悪を顔に出した。

 

「人手は広げない方がいいのですよこういう時はね。警察も偽物の可能性まで想定していたのは偉いですが、本人照合の機械まで騙せるようにこちらの変装ベルトは最初から設計されていますからね。まあ、私の方が一枚上手だったという話ですよ。ふふふ。」

 

 小暮のとった手段は、快盗3人も使っている変装ベルトを使って自らが3つに分裂した上で3人に成りすます事だった。問題は応客であり、小暮の料理の腕ではたちまち偽物と看破されてしまう。

 

「あれだけの料理を作り置いた甲斐があった。」

 

 よってメニューの全てをトオマが一通り作り置いて、厨房に隠し、注文に対応できるようにした。なまじ出前でしか味わった事がないヒルトップは温め直したイモグラタンを作り置きと看破できなかった。振り返るとスレスレの駆けだった要素は多い。

 

「警察ちゃんは、ひとまずこれでなんとかなっでしょ。」

 

「カイリ・・・」

 

 店の扉がしんちゅう鐘の音と共に開くと、軽快なスキップをしながら朗らかな笑顔を振りまくカイリが、驚くトオマとうみかを余所に小暮に対面して座った。椅子を態々背もたれを前にして大股で跨った。

 

「それより小暮さんさ、警察ちゃんのあの武器、調べてくれるかな、特殊、ちゅうの?あれ特殊過ぎるっしょ。」

 

 そんなカイリの目の前に料理皿を持ってくるのはうみか。たて続けに三つ、最初は気前良く空腹感のまま口に入れていたカイリだったが、五皿めが投入された時うみかを振り返った。

 

「トオマが作ったお料理、今日全部カイリが処理してね。」

 

 軽やかな笑顔を向けて却下しようとするカイリに、なんの感情も無い目で睨みつけるうみか、カイリは抗う事ができず死んだ目で口の中に食器を運び入れ続けた。

 

「あれですか。」小暮はただひたすらエスプレッソをたしなんでいた。「VSチェンジャーは機能的に全く同じ模造品です。君達がダイヤルファイターで変身し力を身につけるのに対して、彼等はそれぞれの『トリガーマシン』で力を得ます。あのトリガーを引く事で、君達の装備よりさらにそう、カイリ君が言うように特殊な力で、ギャングラーの金庫から溢れるルパンコレクションの力を打ち消します。トリガーとはそういう意味です。」

 

「打ち消す、ちゅう事は、」ゲップを出しながらカイリは胃の逆流に耐えた。「オレ達の使ってるのもコレクションなんだから、」

 

「その通り、彼等の攻撃を食らえば、貴方達の力も削がれます。いやあこの情報が私の手元に届いたのは、貴方達と入れ違いでした。」

 

「おかげで大変な目って奴?にあったよ小暮さん。」

 

 ニヤニヤしながらカイリは、うみかが持ってきた最後の一皿を口に突っ込んで、壮大にゲップを吐いた。

 

「どうやら、機嫌を治したようだな。」

 

 トオマはいつのまにか厨房に籠もって、前掛けをかけ直し洗い物を洗浄機にかけていた。本来ならカイリがこのへんの後片付けの役割をこの店では担っているのだが、調理器具一式シェフとしてトオマが最後に手入れする。それがトオマのプライドだ。ザルからイモの欠片を取るのに十二分に時間をかけなければならない。2度食洗にかけてはさらにタワシを入れて、それでいてザルを破損しないように手触りを頼りに磨く。最後に洗った器具をトオマが決めた定位置に一つ一つ配置していく。遺伝的に目が弱いトオマにとって、この習慣が全てにおいて重要だ。

 

「トオマ、小暮のおっさん、いつのまにか消えてたよ。」

 

 カイリが厨房に入り、清掃用具を一式手に取った。うみかはうみかでおしぼりやふきんなど洗濯物の処理に追われている。3人は誰が言うでもなくそれぞれの役割分担をこなしていく。いつもどんな時もそうだ。

 

「カイリ」

 

「あんだよ」

 

「さっき回収したコレクション、重要なパーツは無傷だったそうだ。エックスが修繕すると太鼓判を押した。」

 

「ああ、そういうのもあったな、へへへ。それより、トオマ。」

 

「それよりだと、本当におまえという奴は。」

 

「警察ちゃんから、狙うぜ。あのコレクション。」

 

「分かってるさ。」

 

「分かってるか。さすがトオマ。」

 

 さすが、という一言がカイリにとって精一杯の謝罪だという事を、トオマはなんとなく理解できた。

 

「おっと君達、何をねっとりしゃべっとるかね?」

 

 うみかがどこから取り出したかGペンとケント紙を握りしめ、半身を出して覗いていた。

 ビストロジュレの夜は深けていく。

 

 

 

「そうですか。あの3人はシロ確定ですか。それは良かった。これでまたあのフランス料理を食べられる。」

 

 腕を三角布で吊ったつかさは病院の廊下で上司と対面していた。

 廊下の窓から見えるのは集中治療室、そのベットには点滴と吸引マスクを着けられた絶対安静の圭一郎が眠っている。

 

「アノじゅれノさんにんハワタシトジムデありばいヲかくにんシタ。ドウカンガエテモアノさんにんニかいとうハふかのうダ。シカシシンジラレナイ、アレダケノそうびヲシタきみたちガコンナダメージヲオウトハ。」

 

「私達の油断もあったと思います。」

 

 つかさの性格からするとそれは当然の釈明だった。

 

「圭一郎、早く身体を治せ、まだあの快盗達と同じラインを立っただけに過ぎない。今日その事がおまえも分かったろ。我々は平和を守る為にもっと精進しなければならんのだ。早く治して、そして私達の先頭を走っていてくれ。」

 

「せんぱ~い、僕無理で~す、明日から首が完治するまで、有給と別枠でおねがしま~す!」

 

 集中治療室を覗くつかさ達の耳にクリスマスに使うアヒルの断末魔のような咲也の呻きが聞こえてきた。廊下の向こう側から、コルセットで首を固定し歩いてきた。

 

「バカモノ!首を捻ったら、痛みを忘れる程鍛え込め!今からはじめるぞ!ついてこい咲也!」

 

「そんな~!!」

 

 国際警察に休む暇は与えられない。

 

 

 

 

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