快盗戦隊VS警察戦隊に極めて近い世界線のルパンレンジャーVSパトレンジャー   作:bassher

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※この作品は『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』という素材を使って再構築した二次小説です。
※諸処設定等変更ございます。
※オリジナルのスタッフが小説という形で奮起される事を切に願います。



#2 狙われた国際警察

 

 

 

 闇の洋館『エイギュイユ・クルーズ』。

 戦利品の椅子にもたれかかるドグラニオ・ヤーブンは、窓の外側に広がる闇を眺めていた。グラスもまた戦利品、注がれるグラスもこの洋館の主が貯蔵していたものである。もちろん、ワインなどという人間が服用するものをギャングラーがたしなむ事はない。

 

「ボス、やはりオドードの金庫からは、ほぼオドードの痕跡が消されていました。あの力は我々の蓄積を全て消す事ができるようです。」

 

 体中に弾帯をまとわりつかせているかのような女型のギャングラー、ゴーシュ・ル・メドゥはドグラニオとその側近に立つデストラを真正面から捉えていた。

 

「やはり、あのケーサツの力はカイトウ共と違って本格的に我々を抹殺する為の力か。」

 

 呑む事のない赤をグラスの中でユラユラと燻らせながらボスの立場の男は、はたしてどこか他人事を語るようだった。

 

「ですがボス、私、良い事思いついちゃったんです。ナリズマ!」

 

「ドグラニオ様にはお初にお目にかかります。」

 

 一方ゴーシュ、ボスとはまた違った、事の軽重に無神経な態度で、唯一自分の依って立つパイプにすがりついてきた。猫撫で声で。ゴーシュの招いたギャングラーの一体は、顔から徐々に細る嘴とも言えない独特の口元から自信に満ちた声を発しギャングラー社会筆頭の3者を前に物怖じしなかった。

 

「金庫が2つ?」

 

「あらあらデストラ、うらやましいのかしら。ナリズマ・シボンズ、オドードの金庫を再利用して、ナリズマに埋め込んでみました。ボス、これが巧く機能すれば同時に2つのコレクションの力を発動する事ができます。容易くボスの望みである力のある金庫が育ちます。」

 

 ゴーシュの言葉にビクとなり、ナリズマを興味深げに眺めるボスであった。

 

「ボスの許しなく勝手に仲間を改造したというのか。」

 

 隻眼の巨漢デストラにとって、ゴーシュという女科学者は、主人の腹中の虫というイメージしか抱けないでいる。

 

「まあ良いではないかデストラ。」

 

「ボス!」

 

「ナリズマ、身体に違和感はないか?」

 

「これはこれは痛み入りますボス。むしろ秋の空のように晴れやかな気分でございます。」

 

 ほう、とドグラニオはただ独りだけ得心したように、再びワインを燻らせながら闇の彼方を眺め、小さく呟いた。

 

「2つではそんなものか。」

 

 

 

「ニホンノ文化、ダイスキデース!」

 

 招待客はただ1人、サルウィンのゴルディーニ大使のみ。この割腹の良い中年紳士の為に、日本の外務大臣以下多くの官僚、企業家、芸能関係者などが取り囲み立食パーティーを催していた。

 

「オオ、スシ!ワタシ山葵モダイジョブダイジョブ!!」

 

 六本木を象徴する高層ホテルの広間を借り切っての会場は大使の指名である。

 

「ギロッポンギロッポン!」

 

 濃厚な日本趣味である大使は六本木の街並をこの高さから見渡しつつ和食を堪能する事を希望したのである。

 サルウィンは貧しい国であり、国民の識字率が低く、子供の教育も満足にできず、難民問題に頭を抱えている。ところが、近年海底からのメタンハイドレードの減圧回収が比較的容易に行える事が知られるようになり、大国からこぞって親交を求められる事になった。その中でゴルディーニ大使の日本好きは有名で、さっそく政府はメタンハイドレードの技術提携を狙って日本へ招待した。

 

「大使、お皿を失礼いたします。」

 

 割烹着モンペに雪駄という出で立ちのショートカットのホール係が寿司の大皿を交換する。その仕草を大使はニヤニヤしながら注視してしまう。

 

「あ!?申し訳ございませぇ」

 

「オオ、ダイジョブダイジョブ、」

 

 それは醤油取りの小鉢だった。大皿を持ち上げたホール係がうっかり、わざとらしいほどうっかり大使の胸元に醤油をかけてしまった。

 

「落ちにくいんですよこれ。」

 

 手早くふきんを手に、シャツ、そしてループタイに付いたシミをぬぐい取ろうとする。

 

「オオ、ジャパニーズキューティーガール、ニホンノジョゼイミナオサナイ顔デスバラシイ、ワタシヨウジョダイジョブダイジョブ。ワタシヤリマスダイジョブダイジョブ。」

 

 シャツからループタイを束ねるカメオを左手に、ホール係からふきんを掴み取ってそれを拭い始めた。

 

「(クソこのハゲちゃびん、もう少しだったのに)」

 

 ホール係の少女は小声でそう悪態をついた。したり顔のホール係は食器を下げ、遠巻きにチラチラと大使の方へ視線を向けた。もちろん、恋愛感情ではない。

 

「うみかちゃん、今回は七変化の巻なのです。グフフ。」

 

 バラすのが早い、こっち目線で堂々と言うな。

 

 

 

「スナイピングとは、声も聞こえないはるか遠方にいる標的を、スコープの枠からのぞき込んだ表情だけで全てを洞察し、追い込み、そしてその時になったら捕らえる。この弾丸にな。その時はいつかって?それはこの細胞がアドレナリンが吹き出すのを感じた時さ。」

 

 この長々と独り言に耽っているのは、ギャングラーイチのスナイパー(自称)、トゲーノ・エイブス。彼の立つ場所は、日本の数ある高層ビルの中でも最高を誇るオフィスビル屋上、厳密には立っているのではなく俯せでその独特の2連装砲身の『グンカンガン』を構えている。

 異様なのはむしろ容姿、まるで海底に沈んだ金庫にいくつもウニが密集して奇しくも人の形に錯覚してしまったかのよう。ウニの外殻を海女が十字に割ったようなマスクは、何が口の機能をし何が目の機能をしているか一見では分からない。

 

「この世界の著名な奴を須く暗殺していく。指名した予告通りに。ボスとの契約をこのエリアで満たした暁には、オレがめでたく後継者だ。トゲーノ・エイブス、狙い撃つぜ。」

 

 微妙にズレた事を口にしながら、その目なのか口なのか分からない十字の割れ目にスコープを宛がい、標的であるサルウィン大使を捉える。

 だがしかし、その攻撃は次の瞬間辛くも阻止される事になる。

 

「なに!?」

 

 突如、トゲーノ自慢の連装銃の射角が跳ね上がる、トゲーノの目には緑の疾風が吹いたようにしか見えない、

 

「鳥か?違う!」

 

 刹那、背後より銃撃音、

 

「敵かよ!」

 

 振り返るトゲーノはしかし敵の姿を視認できず、困惑し、そして金庫が緑の光を発した、

 

「スナイパーは賭けはしねえ!」

 

 トゲーノ・エイブスの姿がその場から忽然と消えた。スナイピングの基本は一方的な攻撃であって、反撃をしてくる不特定数の敵を対した時、基本はいち早く撤退する事である。

 

 

 

「やだ、消えちゃった。」

 

 パーティー会場の片隅で傍観するメガネ美女風のうみか。もちろん、バックルの装置による変装であり、本人のルックス年齢プロポーションは差して投影されない。

 

「何余計な事イッテんのプー!それよりモー!オケオケ、アタシおちつくおちつく、トオマが言ってた次のポイントに行かなきゃ!」

 

 早見うみかは入り口である遮音性のある分厚い扉を自分の出入りする隙間だけ開けて、癖なのか、四方に警戒の目線を飛ばしながら廊下を出た。

 

 

 

「ト、イウコトデ、つかさクン、はんきゅうヲトリタマエ。」

 

「半休?!圭一郎は未だ入院中ではないですか。あの新米もまだまだ単独で行動させる訳にいきません、正体不明の敵がサルウィン大使の命を狙って、予告を出して来たのに。第一国際警察は必ず2人以上で動くのが原則ではないですか!!」

 

 明神つかさは上司の正気を疑った。現在、国際警察戦力部隊は1名が未だ入院、1名はコルセットで首を固定している、半ば活動不可能の状況にある。必然つかさの負担はここしばらく過剰労働となって、休日を取りつつも自主出勤などという状況に陥った。

 

「キミヒトリウゴケテモドウシヨウモナイ、コンカイハ、ワタシガ、ニポンケイサツニケイラカツドウヲヨウセイシ、きみハアクマデジュンタイキ。キンキュウジタイニソナエルコトヲゼンテイニ、はんきゅうヲトリタマエ。」

 

 ああ、私達を労って日本の警察に頭を下げたか、

 

「分かりました。では半休という事で、装備は一式携行し、緊急の場合は対応するという手筈であるなら。」

 

 と午前中スカートを靡かせながら、街へ繰り出したつかさだった。モノレールでお台場を降りブティックの窓ガラス越しにイヤリングを直し、笑顔の練習をするつかさ。

 

「デートじゃね?あの野獣の雄みたいな姐さんがめかし込んで。なぁ、トオマ?」

 

「どうでもいい事だ。油断してくれれば、それに越した事はない。あのコレクションを盗む隙ができさえすればな。カイリ。」

 

 そのただの隣のお姉さんにしか見えない明神つかさを観察する2人の眼があった。燕尾服にアイマスクの出で立ちの快盗、赤と青のカイリとトオマが屋上から屋上へビル群を移りながら路上のたった1人を尾行していた。

 

「それより情報は確かなのか、あの女、今単独でルパンコレクション携行してるちゅう話。」

 

「この間うみかが新人の緑男から耳にしたそうだ。」

 

 新人の緑こと陽川咲也、配属からここ数日、首にコルセットを巻きながら昼になる度に私服に着替え、足繁くジュレに通い詰め、その度にうみかに怪訝な顔され、それでもめげずうみかに話しかけた。

 

「え?休暇ですか?」

 

 いつもは無視するうみかがその時だけは反応してしまった。

 現在入院した圭一郎を除いて、ダメージを抱えながら職務に耐える咲也と、咲也赴任以前から欠員の穴を埋めるべく心身を酷使していたつかさに、特別に半休がそれぞれ与えられた。

 

「ウチさ、警察を名乗ってる割にそういうとこ煩くてさ。パリ本部の基本方針は福利厚生の充実と健全な労働環境なんだって。だからさ、明神先輩今度半休だってさ。ほとんどウチは開店休業みたいになっちゃうけどさ、日本の警察が警邏して密に協力する事を条件に、待機任務の名目で半日フリーにして貰ったんだ。」

 

「え?え?待機と休暇って何か違いがあるんですか?」

 

「うむ、そうだな、いつでも出撃に応えられるように装備は準備しておく事かな。ボクもね、実は鞄の中にこうやって一式隠してるんだよ。これ、他の客には内緒ね、警察ってさ、制服や装備をつけて食堂とか入ると、市民を無用に威嚇して煩い事になるから。うみかちゃんとボクの秘密ねこれ。」

 

「ハハ・・・・・」

 

 八重歯を出して笑うグリーンボーイに、感情の無い笑顔を返すだけのうみかだった。

 

「その新米刑事がオレ達ひっかけてるって可能性は・・・・・ないか、かっこ笑い。」

 

 他人を斜めに見下した屈託の無い笑いをカイリはよくする。トオマはいつもこの胡散臭いデビルスマイルに不安を覚える、いつ髙転びするか知れない危うさ、カイリの脆さと言えるものが垣間見えてしょうがない。だが、それを口にしたところでこの若者は聞く耳を持たない事も想像できた。

 

「今は、あのメスゴリラデカからコレクションを奪う事に集中しよう。最悪あのピンクのミニカーをゲットすればいい。VSチェンジャーのオリジナルはこちらにあるという話だからな小暮さんによると。」

 

「違う違う、逆っしょ、オレらがチェンジャー取られた時考えてみ、ビークルあってもほとんど話になんないっしょ・・・・、とうみかだ。」

 

 女刑事がアニメロボの実寸大像が立つデパートに入るのを眺めやる2人、そこへ1人別行動の女快盗からSNSが入る。

 

「見失った?予定通り、て奴じゃん。」

 

「うみかはとりあえずそのまま敵が標的を狙うのを防ぎ続けていればいい。対手が次に狙うポイントは粗方分かっている。スナイパーの行動はその技能自体が自分を拘束する。重点を置いて偵察し行動を観測すればスナイパーの妨害はさほど難しい事じゃない。」

 

「うみか、予定通りでOK。」

 

 と私物の端末をしまうカイリ。逆にトオマは10インチタブレットを取り出し、その映像を眺めやった。映像は16に分割され、それぞれがなにがしかの屋内の映像を映し出している。

 

「あのマントヒヒ女はその映像で監視できると。小暮さんマジすごいアイテム持ってんな。だからあんなみすぼらしくても情報通なんナ。」

 

「このビルのセキュリティ映像は、警備会社にダイレクトに繋がって、記録されている。その回線に枝をつければ、ここの監視モニタを盗み観る事ができる。快盗の元締めとしては頭髪が侘びしかろうが、このくらいできて当たり前なんだろう。」

 

 二人とも言いたい放題である。

 

 

 

「OKOK、うみかちゃん了解。」

 

 ホールの配膳から抜け出したうみかは当然バックルの機能で完璧な変装をしている。

 

「あれぇ?きみぃ!」

 

「(え・・・・、マジ?なんで今あいつに見つかるかな・・・・)」

 

 ホールの分厚い扉を閉めたうみか、顔を向けると、なぜか緑の制服を着たあの嫌な客と目が合った。

 

「(そうだ、確か国際警察が警護するとかなんとかヌカしてたな・・・・)」

 

 うみかは思い出していた。国際警察がサルウィンのゴルディーニ大使の警護に日本警察の要請で参加していた事を。この目の前に立つ歯並びの悪い男の口から直に聞いた事を。

 

「どうなさいましたか?どこかでお会いしました?」

 

 姿を偽装しているだけではない、このバックルは見る者の認識を錯覚させる事で別人と思わせる、小暮お墨付きのアイテムだった。うみかはそれを盾になんとかやり過ごそうとした。一歩引いて見れば危うげにも程がある言動ながら。

 

「きみ、かわうぃーね!」

 

 その男、国際警察の新米陽川咲也は、会場通路のど真ん中で人目も憚らず大声を上げた。この男には静寂のプレッシャーはないのか。

 

「(どん引き・・・・)」

 

 

 

 一方で、国際警察の女の隙を伺っている快盗2名は、タブレットに顔をつき合わせて、やや焦り気味であった。

 

「いないって何よ?」

 

「見あたらない。見失った。」

 

「トオマ、ちゃんと見てたの?あのマントヒヒに気づかれたわけじゃないだろ。」

 

「人のせいにするな。カイリ。今映像をリプレイで追っている。女子トイレからか?」

 

 カイリとトオマが見続けていたタブレット、16分割で映像が切り替わり、現在明神つかさの入ったショッピングモール内部のほとんどをリアルタイムモニタしている。ところがつかさが女子トイレという死角に入って30分経過、未だ姿がない。思わずバックルを作動させて顔からくびれからまるで別人の異性になったカイリは女子トイレに突入、3つある扉の全てからつかさではない60から12才までの女子が出てくるのを確認した。つかさは女子トイレから忽然と消えた。

 

「トオマ、ここに居てマズいんチャウ。」

 

「カイリこそ音声が地声だぞ。」

 

 結局快盗二人ともにショッピングモール内に大胆に潜り込み、顔をつき合わせてタブレットをのぞき込むしかない。

 そんな二人はやや目立っていた。トオマは普段着に姿を変えているものの、それなりの顔である。カイリはバックルの操作で適当に選んだ女が黒のニットに紫のミンク、化粧っ毛が無いのが逆に「夜の店のオフ」感を醸し出しているやや熟年の姿だった。端で見ればヒモの男がねだって小金持ちの熟年女性からタブレットを購入したかのように見えてしまう。なまじ顔立ちが良い故に周囲からやや目を引いて、要するに浮いてしまっていた。ニヤニヤする主婦、指を差す子供、苦い顔をしてスマホで撮影する女子高生等が目線を二人に向け、黒縁眼鏡のサラリーマン風の男は、潔癖か何かなのかメガネのズレを直しながら、トオマ達から目線を逸らして足早にショッピングモールを出た。

 

「目立ってねオレら?」

 

「一旦出るか。」

 

 本来の姿を晒さなくても、印象に残る行為はマズいと思ったカイリは、この場から一刻も早く出ようとする、だがトオマが片手に持つタブレットをチラと覗いたカイリが足を止めた。

 

「カイリ、出るんじゃないのか?」

 

 トオマの言う事も聞かず、タブレットを取り上げ、その場で凝固して動かないカイリ。

 

「これじゃん。」

 

 やや下顎を突き出して模索していたカイリの顔が、舌を出してイヤらしい顔をするまでそう時間は経たなかった。

 

「どういう事だカイリ?」

 

「だから、これじゃん。」

 

 タブレットをカイリから取り返して見やるトオマだったが、それでもカイリが何を言わんとしているかしばらく理解できなかった。

 

 

 

 わがまま 気のまま 愛のジョーク、

 

「オオ、ジャパニーズプリティガール、ワタシヨウジョダイジョブダイジョブ!」

 

 なぜここなのか、

 品川ホテルのホールを借り切っての内々のミニコンサート、高度なフォーメーションダンスでブレイクした美少女アイドルグループのパフォーマンスを、たった一人の賓客のたっての望みで実現した。賓客なのだから貴賓席でも座っていればいいのに、態々スタンディグの近場から首の疲れもなんのそのよだれを垂らして見上げている。

 

 今日のミチシゲさんすごいわ、

 

 この曲ミチシゲさんそのものだからね、

 

 キレっキレね、

 

 アイドルグループソングにはいつしかセンターというメインボーカルの立ち位置が存在するようになり、バミリで言うところのゼロポジにあって、他のメンバーがセンターの背を見てフォーメーションを決められるのに対して、センターの眼前には客しか見えない。曲だけを聴きながらタイミングを計り、自らの振り付けをメンバーと合わせなければならない。曲のセンターはリーダーであるミチシゲ。

 

「そこっ!どうした!夜遊びのしすぎか!息が上がるの早いぞ!」

 

「す、すいません・・・!」

 

 ダンスが決まり、来賓からの拍手喝采を受けたものの、下手へ下がった途端リーダーは、フォーメーションの僅かな乱れを見逃さなかった。メンバーの1人が本調子でないのである。

 

 ミチシゲさん、今日はハルカに一段と厳しいわ・・・・

 

 ハルカ、いつもはリーダーに噛みつくのに、今日は体力限界で何も言えないわ、

 

 それ分かってて責め立てるリーダー今日ホント容赦無いわ、

 

 一旦下がったメンバーが薄暗い中でそれぞれの思惑でざわついていた。

 

「次、フェードアウトから3秒でポジションに、分かってるわねみんな!」

 

 リーダーミチシゲの号令に息の乱れが未だ収まらないハルカは、

 

「は・・・・・はい」

 

 と絞るように声を出すしかなかった。

 

 

 

「スナイピングだけが、あらゆる戦闘行為において、偶発を廃する事ができる。厳密な計算と状況の把握、その果てしのない累積が一発の弾丸に込められ引き金を絞る時、一瞬、全ての理屈を越えた領域に跳躍する。それは何者にも代え難いカタルシスを見せてくれる。」

 

 トゲーノ・エイブスは直上、そう彼女達アイドルグループの直上、右も左もズラリと舞台照明が足元、つまり舞台を七色に照らし、観客席すらも一望できる。

 

「予告した獲物は絶対逃さない。トゲーノ・エイブス様のそれが流儀だ。」

 

 2門連装銃を肩膝付いて急下角で構える、標的であるサルウィン大使はスタンディング席で前のめりになって、サイリウムを両手に四六時中動き回って中々留まる事がない。しかしこのギャングラーには分かっていた。

 

「どうせ音が鳴り止んだら、留まる。今度照明が落ちた時、オレはまた完全な領域への跳躍を果たす。滞りないワンサイドゲームだ。」

 

 このギャングラーに日本の歌謡文化、コンサートのプログラムや演出など存知する訳ではない。ただこの数十分様子を伺って音と照明のパターンを認知しただけだ。

 

「深海の底に比べればこの程度、」

 

 暗闇の中を僅かな光量で会場内の人々のムラができる、そのムラを逃さず捉える、トゲーノ・エイブスにとってそれは容易い事であった。今壇上の女達が足早に隊列についた。その一段手前の標的とその周辺の人間も雑談などでざわついている。標的の位置は明るい内に完全に把握している。後は曲の始まりを待って引き金を引き、獲物を暗闇の中で処分し、周囲の人間が状況を把握する前にこの場を立ち去る。それもまた容易い事であった。

 伴奏が流れる、照明が七色に下方を照らし出す、何度か刹那的に標的が照らし出される、

 

「今だ」

 

 しかし、

 結果としてトゲーノはまたしても仕留め損なう事になる。

 下から上角の一制射、

 

「またか」

 

 トゲーノ・エイブスは思わず仰け反った、頭のトゲの一本に着弾しもぎ取った。トゲーノは射界の先を凝視する、真下の何人いるか分からない女共が無造作に動き回って、トゲーノには誰が撃ち込んできたか判別できなかった。

 

「なぜこっちの動きが読まれている?」

 

 しかし、考える事をやめるトゲーノ、銃の射角をさらに下方、真下に構え直す、

 

「全員露払いしてやる。」

 

 トゲーノ・エイブス、日本で屈指のダンスアイドルグループの掃討を狙い、その銃口に捉える。

 左右両側から火線、

 

「マジか、敵がここにも、何人いるっ?!」

 

 トゲーノは仰け反った、下からではなく、両サイドからの攻撃に。

 

「どういう敵だ、」

 

 思わず両肩から針状の武器を左右に拡散させるトゲーノ、しかしうんともすんとも反応がない、気配を感じない、

 

「またかくそ」

 

 再び暗闇の中から左右、そして下から火線が交差、しかしそれもまた空を切る、トゲーノの金庫が緑に発光した刹那、忽然と消えた。

 トゲーノ・エイブス、二度目の撤退だった。

 

 

 

「ぜ・・・・今日、リーダー、厳しすぎ・・・、」

 

 セットリストも中盤に差し掛かり、小休止に入ったダンスメンバー、一旦暗がりの下手に入り、次の衣装替えに入った。

 

「ハルカ、摘んでばかりじゃ体力が保たないわよ。」

 

 とミチシゲが若手の中を通りすがり楽屋に入った。今日のリーダーは1人部屋に割り振られている。楽屋に入った途端、廊下にいたハルカ、この世の終わりのような顔をした。

 

「ったく、今時の若手は基礎体力が無い。アナタもそう思うでしょ。」

 

 一方で1人部屋に入ったミチシゲ、ベルトのバックルに手を添える、途端崩れる像、再びはっきりした時、仮面をつけた黄色いスカートに小さめジャケットのあの姿があった。

 仮面の女子の視線の先は、寸前まで自身がその姿だったうりふたつの女子が縛り付けられ、キャラクターグッズのタオルをさるぐつわされていた。

 

「ごめんね。これもワタシの大切なお仕事なの。後半はアナタに返すよ。いい、若い子はしっかり首輪つけて監督するんだよ。取り返しのつかない事になったら、世間から袋叩きだかっね。」

 

 仮面の早見うみかは、そう言ってバックルを再び操作し、清掃婦の姿となって、ドアを開けた。

 

 もぐもぐ・・・・!

 

 残されたミチシゲの背後から一閃過ぎる影、それはいつのまにか楽屋の中に進入していたイエローダイヤルファイター、ロープを断ち切りつつも、ドアの隙間から楽屋を出た。

 

「うい奴じゃ、次のポイントでもギャングラーの動きを逐一監視しておくれ。」

 

 掌に載せた清掃婦うみかは、そのまま楽屋の扉を閉めた。

 

「すいませーん~」

 

 そんな清掃婦に声をかける武装警官が約1名、またしても早見うみかに災難が降り懸かった。

 

 ぎゃ、またか!

 

 思わず表情に出してしまったが、辛うじて掌のダイヤルファイターは隠した。

 

「ここ、全部扉同じに見えて、トイレがわかんないんですよ、ボクおしっこ近くて!」

 

 こいつオープンにも程がないか、

 

 清掃婦は咄嗟に愛想笑いし、それでも口を訊きたくなかったので無言で指差した。舞台裏の楽屋の並びなど、大概白一色の廊下と同じ色の壁と扉、表札などその扉の前にいかなければ分からない、極めて殺風景である。

 

「ありがとう、あ、キミカワイイネ、もっとめかし込んでいいよ!じゃあ!」

 

 もしかして見抜いとるんか?!いやいや、

 

 うみかは陽川咲也がこの現場に出くわす事はまだ想像できた。あの男はとにかく今日サルウィン大使付きの護衛だ。ここに現れる事も十分に警戒し、舞台裏サイドの人間に成りすませば、ある程度接触しないと踏んでいた。が、しかし陽川咲也はそんなうみかの考えなどスキップで突破して、たまたま、偶然にもこんなところにまで侵害してきた。

 

「うみかこんなに考えたのに、あの男はなんで土足で踏み込んでくる、プンプン!」

 

 陽川咲也は天に愛される早見うみかをもってしても、抑えきれない意外性の塊であった。

 

 

 

「アニキ!アニキ!」

 

 そこは限りなく闇に閉ざされた世界、ロウソクの灯火だけがこの洋館の世界に光を差す。

 

「トゲーノ、ドグラニオ様に大口を叩いておいて、その有様か。おまえの任された人間の区域の1つどうにかできんのか。」

 

 かのギャングラーの世界、いくつかある洋館の1つ、そこは隻眼の巨漢デストラに与えられた根城である。ボスのそれと瓜二つな内装なのは、彼の趣味ではない。彼自身内装などという私生活上の事など気にも留めていない。ドグラニオが何時訪れても良いようにドグラニオの本拠を模しているというだけである。

 

「お願いしやすアニキ、このオレのコレクションと引き替えにしてもいいから、アニキのコレクションを1つ分けて貰えませんかい、」

 

 デストラ・マッチョは窓際に座椅子を置いてその背もたれに片腕だけを置いていた。得物を手にしていないのだから、トゲーノに悪意を抱いていないのだろう。一方でトゲーノはロウソクに照らされたデストラの顔を下から見上げていた。膝を折って、ピストル注射器のようなアイテム『大きくなあれ』を差し出した。

 

「ゴーシュはモニタしているぞ、おまえの事を。敵の姿を見る前に、尻尾を巻いて逃げ出しているそうじゃないか、二度も。」

 

 デストラの隻眼はトゲーノでなく窓から差すこの世界の僅かな光を捉えていた。あるいは見るともなしに見ていただけかもしれない。

 

「オレは狙撃のプロですぜ、接敵すれば余計な事はしねえのが流儀、だがここまで妨害されると拉致があかねえ。アニキのコレクションがあれば、どんだけ敵がいても火破りにしてやれる、だからよ、オレがボスの後継者になった時アニキに今以上の、」

 

 言い終わる前である、

 

「分かった。」

 

 絨毯に転がした。腕輪のようなそれは『熱くなれ』、エコマークが印象的だ。

 

「恩にきますぜアニキ!」

 

 と手にしたコレクションを放り投げ、即座に腕輪のコレクション、実は指輪なのだが、を拾った。

 

「いけ」

 

 無言でトゲーノは空間に溶けていく。完全にトゲーノ・エイブスの姿が見えなくなった後残していった『大きくなあれ』を手に取る。

 

「しょせん流儀を簡単に曲げてこんなものに頼った段階で、詰んでいるのだ。せいぜい、ドグラニオ様がお悦びになるような華々しい玉砕を飾るがいい。」

 

 

 

「プアッガイ、オカンダムの敵役でまあるい腕に時々八本爪を出す、おちょぼ口の角度、こちらからそっぽを向いた絶妙なまなこ、オカンダムにやられた生傷だらけのモコモコボディ、後ろ姿、特にお尻の角度がまた絶妙・・・・」

 

 サラリーマン風、ジャケットとスラックスの色を統一して七三分け、油を撫でつけた髪に銀縁のメガネの男、肌の艶やかさだけは妙に良いその者が、ただじっと、そのワゴンに乗ったぬいぐるみを物色していた。

 

「この子も捨てがたい、いや隣のこの子も、」

 

「しつれー、」

 

 サラリーマンが男では分かりようがない同じ量産品のぬいぐるみの僅かな表情の差を見極めていると、隣から和田アキコ風の長身にショートボブ切れ長の目つきの女子が、右から押し退けるように無造作にぬいぐるみの一体を掴み取って足早にレジに向かった。

 

「あれを?」

 

 サラリーマンは銀縁を外して、マジマジとその屈強な女の背を注視した。そして見るとも無しに自分が右手に抱えるビジネスバッグを顧みた。

 

「まさか!」

 

 サラリーマンは思わず黄色い声を上げた。もんどり打って頭の上の七三分けが大きく右回りにズレてしまった。

 

 

 

「カイリ、早くアルミ箔を持ってこい。」

 

 一方、和田アキコ風の長身の女子が野太い声を上げながら、1人のチャラいルックスの若者だけがいる授乳室に駆け込んだ。

 

「トオマ、本当にこういうの、必要?ちゅーか、それ違うじゃん。オレ言ったぜ、盗むならまず相手の銃って。」

 

 トオマ、と言われた女子、つまりトオマが変装した女子は握りしめた4つ足のぬいぐるみを放り投げ、もう1つの手に握りしめたピンク主体カラーのミニカーを、カイリが買ってきたアルミホイルでくるんだ。

 

「だがしかしな、あの銃は小暮さんが言うところのレプリカだぞ。それを盗むより、このルパンコレクションが優先される。万が一これに発信器が仕込まれていたとしても、これで電波を遮断できる。」

 

 カイリは両肩を竦めた。

 

「どうだか」

 

 トオマはその姿のまま授乳室から一歩出て、アルミの包みをポケットに仕舞おうとする、

 

「見つけたぞ、最初から怪しいと思っていたんだ!」

 

 授乳室を出たトオマの左耳に奇声が飛び込んでくる。声の方角を注視すると、先のサラリーマンが男性とは思えぬハイトーンの声を張りあげた。

 

 オレの動きが怪しかったのか?

 

 トオマは女装を解かずただ仰天した顔をしていたが、アルミの包みを辛うじて未だ授乳室の奥にいてサラリーマンの視界にないカイリに転がした。

 

「おまえが掴んだぬいぐるみは『アッザムク』、普通の女子なら絶対選ばない!」

 

 いったい、なんの話だ???

 

 『アッザムク』、祈祷戦士オカンダムの敵メカの一体、タージ・マハルのドームだけ切り取って円周上等間隔に4つの足を生やした、目も顔もない青いたまねぎのような形状をしている、女子にとって両目がない、顔がない、四肢が育ち切っていないほ乳類の形状ではない、即ち赤子に近い訳でもないそれは、あるいは栗色であれば女子ウケしたかもしれないが絶妙に不快な青系の彩色でそれを台無しにしている。ただし全ては明神つかさ曰くだ。

 

「ええい、」

 

 バックルをイジって仮面の燕尾服を晒したトオマは、どよめきだした周囲の市民のシャッター音に煩わしさを感じながらも、ショッピングモールにありがちな吹き抜け三階層上の天井へワイヤーを飛ばし、そのまま舞い上がった。

 

「待て!快盗!」

 

 そう、サラリーマン風の出で立ちの明神つかさがそこに銃を構えていた。今となってはうっとおしいカツラを脱ぎ取って、同じくうっとおしいネクタイを襟が逆立つのを気にせず片手でもぎ取った。

 

「私の腕ではこの中で撃つのは危険だ、」

 

 ショピングモールの上階まで足で追う事に決めたつかさ、そのまま登りエスカレーターを2段上がりに。良い子は決してマネしてはいけない。

 

「待てぇぇ!」

 

 つかさは男装をしていったい何をしていたのだろうか?

 

 

 

 かすかな音がする、

 目覚まし?

 違う、これはアラートだ、この音は確か、いやその前にオレは何をしている、オレは確か平穏で小さな街の警官だ、今日も街を自転車で巡回している、おっと、オレが右ラインを走ってはいけないな、次の交差点まで押して歩かなければ・・・・

 違う違う、オレはあの悪目立ちする制服を着た、警官ではない、国際警察だ、

 

「おはようございます朝加さん。すいません。煩かったですね、今お止めしますからね。」

 

 看護師見習いが、白い壁を背景にあの白い制服で立ち尽くし、覚醒した圭一郎のぼんやりした眼に保護色のように煩わしく溶け込んで映る。

 

「ええと、赤来さん、自分のかばん貰えますか。その前に起きあがらせて、」

 

 入院して以来、喉が干からびて思うように発声できない圭一郎だった。

 

「え?すいません。私機械はどうも、」

 

 GSPOのロゴの入った鞄を手渡された圭一郎は、看護師に背を支えられながら、まず小五月蝿いVSチェンジャーからのアラートを消し、ヘッドセットを手にして耳に近づけただけで話し始めた。

 

「管理官、装備品が本人から著しく離れた時の」

 

 国際警察の装備はカイリが推察した通り、盗難防止の措置が施されている。国際警察戦力部隊の場合、装備品の紛失は市民への実害に直結する、故にその警告は独自のネットワーク回線を介して戦力部隊本部、戦力部隊各員全てに速やかに通達される。

 

「つかさ、」圭一郎は通信を切り替え、状況の確認に入った。「珍しいな。またぬいぐるみでも物色していたのか?」

 

『分かっている!さっきも咲也に言われた!おまえはそれより早く身体を治せ、ここは私がやる!』

 

「あれか?また東京の防犯カメラに映らないように男装したのか?!研修生の頃から変わらんな。」

 

『煩い!咲也のガキには絶対言うなよ!』

 

 僅かにヘッドセットを耳元から離しておいて正解だった朝加圭一郎だった。

 

「赤来さん、私をしばらく1人にしてくれませんか。」

 

「はい?」

 

 そういう時の圭一郎を、知り合って間もない看護士赤来末那が分かるはずもなかった。

 

 

 

「え?グッディ何?」

 

 早見うみかはルパンイエローにチェンジし、新しく入手したばかりのサイクロンダイヤルファイターに搭乗、次にサルウィン大使が向かう予定のお台場の放送局へと飛翔していた。

 ダイヤルファイターは全て快盗におあつらえ向きにLO特性に優れる。飛翔体として電波の反射、熱輻射、駆動音を極めて低く抑え、3枚ブレード同軸反転ローターのこのサイクロン、そしてガード付きのティルトローター機であるイエローダイヤルファイターは巨大化してすら静音性に優れる。

 サイクロンで雲の上を飛べばそうそう目撃されるものではない。もちろん電波遮蔽によって観測されない事が前提であるが。

 イエローは『グッディ』と呼ぶその相手からの情報で今回の獲物が危機的状況にある事を知る。

 

『オイラウソつかないぜ、オイラの鼻はオイラの仲間が分かるんだ。あの人間からもプンプンするぜ。』

 

「大使に車で近づいてるってホント?」

 

『あの人間がオマエらの獲物と並んで走ろうとしてる。間違いない。』

 

 オマエかよ・・・

 

 うみかはグッディという相手のぞんざいな扱いにやや嫌気を覚えた。そう言えばこの相手に対して、小暮さんから聞いていた、

 

 彼は、フェミニストですけれども、対面した女性の扱いは、まあ、憚るところがないですね、男女平等と言いましょうか。

 

「大体小暮さんじゃん、あのギャングラーが遠いところから狙う奴だって言ったの!」

 

 うみか、ルパンイエローはヒステリー気味にコクピット内で罵声を飛ばした。

 

 

 

「カイリが離れるまで、引きつけるか。」

 

 と数分後には後悔するトオマだった。

 

「待て!」

 

 ショッピングモール屋上まで達したルパンブルーは、鉄柵にもたれかかり、振り返る。そこにはややクールビズな長袖にスラックスの明神つかさがVSチェンジャーをウィバーで構えていた。

 

 一制射、二制射、三制射、

 

 ルパンブルー左右に散らすように光弾を発射、その素早い動きを牽制するつかさ、

 

「動くな!」

 

「すまんが手荒な事をさせてもらう、」

 

 ルパンブルーも応戦、数発VSチェンジャーを放って跳躍、タックで側宙しつかさの後背に着地、そのまま羽交い締めしようとする、

 

「いない」

 

 だがルパンブルーの視界に既につかさはいない、いったいどこへ、いや至近にはいた、左サイドから腰を屈めて視界外へ周り込み、同時に左腕を掴んで、回り込む全身の回転を捻りに変え、そしてルパンブルーはいつの間にか視界が天地逆になってコンクリートの白線に強かに背を打っていた。

 

「快盗、確保だ!」

 

 こいつ、スーツを着ているオレ達より疾いのか?!

 

 あっと言う間の手際でつかさはルパンブルーの武器を掴む右腕に手錠を填め、ブルーが光弾を撃つ寸前、手錠を引っ張る形で銃先を逸らし、鉄柵に手錠の反対側を引っかけた。

 

「くそっ」

 

 ルパンブルーは生身のつかさに完全に拘束され、武装を撃つ事さえままならない。手首だけで銃口を向けられない訳ではないが、そんな構えで撃って手首をダメにすれば、明日の店の下ごしらえすら支障をきたす。

 

「まずはその銃を放せ!」

 

 つかさの銃口がルパンブルーの眉間に密着すると同時につかさの左腕がルパンブルーの銃身を掴む。グリップを放すしかないルパンブルー。つかさは適当な方向に銃を放り投げ持ち主から引き離す、この間1分に満たない捕り物劇であった。

 

「キマサ!持っていないのか!」

 

 突如ルパンブルーのマントの襟を掴んでメンチを切る明神つかさ、

 

 なぜ分かった?

 

 つかさがルパンブルーを検査する前にそう言い放ち、

 

「いいか!日本警察が来るまでここで大人しく捕まっているんだぞ、逃げられると思うな!いいな!」

 

 とルパンブルーを放置して屋上をひた降りる明神つかさだった。

 

「あの女はスーツであのスピードをむしろ殺しているのか。勿体ないというかなんと言うか。」

 

 取り残されたルパンブルーは、片腕を拘束され、銃も引き離されている。

 

「逃げられると思うな?逃げられると、思うさ。甘いな警察。来い!」

 

 叫んだのはVSチェンジャーの方向、転がったVSチェンジャー、その銃身に装着されたブルーダイヤルファイターの頭頂プロペラが回転し出す、両翼を展開し、VSチェンジャーごと無理な姿勢から離陸、そのまま宙を舞って、ルパンブルーの左腕に収まる。

 

「警察はいろいろまだオレ達の力を知らんようだ。地球上のどんな鍵も、ギャングラーの金庫に比べれば、」

 

 左腕で手首を固定、肘で射角を調整して一発、命中した手錠はあっさりと解錠した。

 

「ものの数ではない。」

 

 立ち上がり、右手首を擦るブルーだった。

 国際警察は、未だ快盗側のVSチェンジャーの解錠能力を把握していない。

 

 

 

「キョウハ、アノオダイバノほうそうきょくノあなうんさーニオアイデキルノガいちばんノタノシミデシタ。アノちょうネクタイハスバラシイ、ゼヒなまデはいけんシタイ!」

 

 サルウィン大使を乗せたリムジンは、センチュリーV12気筒エンジン、今は生産されていない大使の私物であり、運転手も車内のSPも態々本国から連れ立ってきた大使のスタッフである。

 レインボーブリッジに乗ってやや渋滞気味の2車線中央寄りを走る、呑気な戯言をほざいてられるのも、並走するメルセデスオフロードの運転席で、既に人間体から姿を変えたトゲーノ・エイブスに気づかないからだ。

 

「トゲーノ・エイブス、介入行動に移る、」

 

 銃ではない、両肩に均等に生えたそのトゲから数本、窓を解放、射出する、

 

「ぁ」

 

 大使はその時初めて異形の者と目が合う、肺と心臓に鉛が詰められたような危機を覚え、それでいて逃げる事も適わないと凝固、胸元のカメオを思わず握る、

 

「伏せて!」

 

『快盗ブースト!』

 

 大使の視界が突如黄色で覆われた、ルパンイエローが大空から舞い降り、伴ったライムカラーの光輪がトゲーノの放った黒い矢を一掃。大使の運転手は、突如の騒乱に思わず急ブーキをかけた。

 

「また邪魔か、」

 

 レインボーブリッジで急停止する車両、車線幅ギリギリで罵声と共に突っ切って行く車両、トゲーノの車は大使のリムジンの数メートル先に停車、身を車から晒し、その内トゲーノの視界はレインボーブリッジに立ち往生する車両で埋め尽くされる大混雑となった。

 

「大丈夫オッサン!?早く逃げて」

 

 ルパンイエローは、リムジンの前に立ちトゲーノにVSチェンジャーからライムのサイクロンダイヤルファイターを外す、

 

「アナタも行って!」

 

 掌から浮遊したダイヤルファイターは、トゲーノの周囲を旋回し火線で威嚇する、いつのまにかイエローダイヤルファイターも加わってトゲーノの動きを牽制しはじめた。

 

「おいおい、快盗の小娘、オイラの言う通りだったろ、あいつからはオイラの仲間の臭いがプンプンするんだ。でもオカシイんだ、この間嗅いだ臭いと今嗅いだものとは全然違うんだ。あいつコレクションを交換してるぞきっと。」

 

「グッディそれホント!?小さくなるコレクションじゃなきゃなんなのよ!?」

 

 グッディと呼ばれた、それ、は人語を語りながらも、人の姿をしていない、ルパンイエローの肩に乗る程の小さな、やや角張った機首の、ノーズマスクがサメのような航空機、黒主体のカラーリングはさながらカラスかコウモリのようでもあるそれが、シャークマスクから声を発している。これがルパンコレクションの1つだと言われても、違和感を覚えるだろう。

 

「どんなコレクションかオイラにもさすがに判らないさ。」

 

「あれ、快盗とこの間逃げた奴!」

 

 混雑するレインボーブリッジ路上、当然大使の護衛として警察車両も停車し、ギャングラーの出現により、降車しての警固を次々取っていく警官達、その中に慌ててVSチェンジャーをトゲーノに向けて構える、あの陽川咲也の姿があった。咲也はルパンイエローを見止め2度見して指差し、次いでどこかで見たような飛翔体にも前歯を突き出して驚いている。

 

 うわ、忘れてたこいつ、いたんだ、

 

「ギャングラーええとセンメツがええと有線でしょ!」

 

「快盗!仲間はいっしょじゃないのか!」

 

 こいつ下に見た人間にはとことん偉そうだな、

 

 ルパンイエローは適当に無視してVSチェンジャーをビークルに振り回されているトゲーノに制射した。

 

「それよりおまえグッドストライカーじゃないのか!」

 

 それより?ワタシはどうでもいいのかオラ?

 

 ルパンイエローは無言で咲也にメンチを切った、がマスクに隠れてただ振り向いただけにしか見えない。

 

「いえ、ワタシは双子の弟のズットストライカーです。」

 

 ウソである。

 

「じゃあオイラ少しあいつらの加勢してくらぁ。」

 

 と逃げるように無音で飛び回って、トゲーノ・エイブスに3つめの牽制をかけるコウモリだった。このグットストライカー、確かに警察側がギャングラーを葬った8輪車に似てないではない。

 

「ええい、こいつらだったのか、オレをずっと妨害していたのは!」

 

 イエローと咲也が銃口を向ける対手、トゲーノ・エイブスは群がるVSビークル3機に手を焼き、時に両肩からそのトゲを発射するも、あまりに小回りが効くビークルに、放物を描いてアスファルトや停車する車に虚しく突き刺さる。

 彼等、グッドストライカーがトゲーノの近接を嗅ぎ取り、イエローダイヤルファイターが音も無くトゲーノを見張り、時にサイクロンが妨害行為に入る、そして時に変装したうみかが銃口を向け2度の暗殺を防いだ。

 

「快盗!ええととにかくギャングラーをボクが倒すまでそこで待ってろ!」

 

「煩い!とっとと撃て撃て!」

 

「・・・ハイ、お、おいギャングラー、もうおまえはオシマイだ!観念しろ!」

 

 でもなんかキライになれないな・・・・、

 

 陽川咲也はいつのまにか気の強い女子にイニシアティブを取られる事に慣れてしまっている。兄や姉のせいか?はたまたあのガサツな先輩のせいか?咲也はついつい変身する事も忘れてただギャングラーに一心不乱に銃撃した。

 

「クケケ、オシマイだと!?このオレ様が流儀を捨ててまでやってるんだ、覚悟が違うんだぜ!」

 

 トゲーノ・エイブスの心臓に位置する金庫から緑光が漏れる。跳弾をビークルが躱し、イエロー達が撃ち落として散在する形になったあのトゲが全て同じ色の光を帯び始める、

 

「オレの毒は、熱を入れるとスゲー膨張すんだ!」

 

 爆破、爆破、爆破、爆破、

 それは電磁波による加熱爆破、

 ルパンイエローの前も後ろも右も左も朱に染まった、視界いっぱいに一瞬だけ燃え広がる爆炎、頬を撫でつける圧が届くまでイエロー、その仮面の下の少女はごく僅かに震えた。

 

「きみっ」

 

 イエローの視界が朱から暗い緑になる、イエローは両手で頭を守って縮こまった、さらに一瞬、身の危険を感じる程の圧が途絶えた事を悟るイエロー、おそるおそる顔を上げて覗く、見渡す限り炎上する車、アスファルトすら炎を燻り、並行して圧倒的に視界を奪う噴煙が漂う、

 だがしかし、それよりもさらにイエロー、うみかの心を苛む事が眼前で起こっていた、

 

「・・・・無事だね、良かった、」

 

 卒倒する陽川咲也。彼は爆発を前に立ち尽くした彼女の眼前に立って壁になった。そして振り返って、歯並びの悪い笑顔を向けた。彼はこの時警察官であった。

 

「どうして、どうして、シホちんもこの人もうみかの犠牲にぃ!!」

 

 彼女にとってデジャブであった。

 

「オイラ思うんだけどさ、逃げちまった方がいいぜ。」

 

 動転する彼女の周囲をコウモリのようなルパンコレクション、グッドストライカーが周回する。

 

「・・・・・あ、グッディあの、あのギャングラーは」

 

 ダイヤルファイター達はローターの風圧でイエローの周りの火を消しにかかっている、

 

「わかんねえ、見えねえ、消えちまったよ、それよりその男も小娘の獲物もこのままここにいると危ないぜえ。」

 

 まるで画面を間に挟んで声を飛ばしてくるようなイヤな感覚を彼女は覚えたがそれも一瞬、彼女は感性の向くまま無造作に倒れる咲也をスーツのパワーで抱え込んで半ば放り投げるように、サルウィン大使のリムジンの中へ乗り込んだ。

 

「出しなさい!」

 

 車の中の大使と運転手はいままで半分以上気絶していたが、唐突な侵入者にまず運転手が目を覚まし、揺り起こされて主人も朦朧とする中、

 

「オ・・・・ソノおしりハカワイコチャン・・・・」

 

「近くの病院!近くの病院!」

 

「オ・・・・・ノ・・・・」

 

 1メートルもない距離感で謎のマスクマント姿の者と差し向かいになる事に不慣れな大使は戸惑いを覚えつつ目が泳ぐ。その内イエローの耳に聞き慣れたパトカーや消防救助車両のサイレンが飛び込んでくる、音はどんどん大きくなり、距離はどんどん近づいてくる、

 

「ホスピタル!」

 

「えいごデナクテモイイデス・・・・」

 

 リムジンはサイクロンダイヤルファイターの風圧で鎮火しつつある事故車両の前を、突破してレインボーブリッジを駆け抜け、お台場方面へ進路をとった。

 

 

 

「病院な。着いたぜ。そっちに合流するわ。トオマもそろそろ来る頃だ。」

 

 カイリは病院の自動扉に入り、ちょっと食堂に寄った見舞い人を装って1階をフラフラしていた。そのポケットにはアルミでくるんだつかさのビークルを大胆にも忍ばせている。ショッピングモールからその足で病院に到着したからだ。

 そんなカイリはふと、視界に入ったものに怪訝な表情で反応してしまった。

 

「何やってんだあのおっさん」

 

 この病院、台場のショッピングモールに程近く、レインボーブリッジを渡った大使のリムジンがまさに向かっている救急病院でもあり、そして、先日のギャングラーとの戦場であった国際展示場にも程近く、国際警察戦力部隊員3名が搬送された救急病院にここが選ばれたのは単純に搬送距離の問題である。陽川咲也は数日、明神つかさは即日退院したものの、未だ転院される事もなく、この病院に入院していた朝加圭一郎が、今カイリの眼前を中途に上着を留めず歩いて来る。

 

「やぁ、君か!変なところで遭うな。」

 

 言いたいのはこっちだ、

 

 できるだけ目つきを素直に見せるよう心掛けるカイリだった。

 

「おまわりさんここに入院してたんだ、ホント偶然っスね。この間近くで怪物騒ぎがあって、友人が巻これまたんス。ここに入院してるってね。」

 

 友人というウソを気軽につけるのはその言葉をカイリが気軽に捉えているからだ。

 

「そうか、すまない。我々の力が足りないせいで、君の友達を犠牲にしてしまった。」

 

 カイリは腸が煮えくり返った。

 自分がこの世で一番強い、おまえなんか大した事ない、

 遠巻きに言われているような気がしてならないカイリだった。

 

「そんな事気にし過ぎるとオジさんになっちゃいますよ。じゃあ。」

 

「お、お、オジさん、待ちたま・・・」

 

 半ば強引に遠退くカイリを、圭一郎はしかし追いかけない。追いかけないのはカイリより、今耳元に入ってきたジム・カーターからの通信に注意がいったからだ。

 

「ア・・・またご贔屓に。」

 

 アデューと言いかけたカイリはしかし、その場で足を止めて振り返る事になる。

 

「待て、快盗。」

 

 オレ、何かしくじったか?

 

 血の気が引いた、

 

「冗談すか」

 

 迂闊にも振り返ってしまうカイリが見たのは、既にVSチェンジャーをこちらに向けてくる朝加圭一郎のアイソセレススタンスであった。

 

 

 

 ターゲットのリムジンに負傷した咲也の頭を膝枕する形で、大使と差し向かいという絵面に、ルパンイエローは堂々と居座っている。

 

「もうこうなったら快盗戦隊じゃなくて、強盗戦隊になっちゃうんだから!」

 

 うみかは銃口を大使に向けた。大使は座席の端に寄って怯えている。

 

「アナタワタシヲなんどかタスケテクレテイタンジャナイデスカっ!」

 

「とっととそのペン・・・・なんで?どうして助けてたの知ってたの?」

 

「ワタシハ人見サント佃井サンガなにヲキテイテモ、シリノ形デミワケラレマス!アナタガズットワタシヲタスケテクレテイタノハ、ソノシリノ形デワカッテイマシタ!」

 

 変態だ、変態がいる。

 

「じゃあじゃあ、イエローのお願い。お礼くれる?」

 

 うみかはあまりやりたくなかったが、珍しくぶりっ子ぶってまで媚びを売った。

 

「ムム、ナニカオ礼デキルモノガアレバ、AKBノアクシュ券ヲ9600枚モッテイマス、」

 

「いやいや、アイドルなんてロクなもんじゃねえから。それより、そのペンダント、イエローたん興味シンシン丸なんだけど。」

 

「これはいけません。母からの形見です。」

 

 こいつ真顔で流暢に日本語言いやがって、

 

「イエローも大切なものがあって、そっちの大事なものをね、」

 

 貰いたい、盗みたい、と言えなかった。大切なものの為に大事なものを盗む、いや奪うのが今やろうとしている事で、いままで大切なものの為にいろいろな人が迷惑を被っている、未だに敵も倒せない事を快盗3人の中で一番うみかが意識していた。

 

「う・・・・う・・・・ジュレのかわいこちゃん・・・」

 

 そのルパンイエローの膝を枕に負傷した陽川咲也が呻きはじめた。失神しながらも激痛で身をよじり、イエローの太股を鷲掴みにしている。

 

 ああ、アタシの事を魘される程真剣なのね、セクハラだけど・・・。

 

「う・・・・う・・・・スポーツセンターのらんさん・・・女子校生のちさとちゃん・・・・天使のようなモネちゃん・・・・」

 

 男ってどいつもこいつも・・・・、

 

 イエローは膝から咲也の頭を退け、拍子に咲也は身ごと足元に転がり落ちた。鈍い音がした。

 

 

 

「待て快盗」

 

「冗談すか」

 

 一瞬観念したカイリだった。既にVSチェンジャーをこちらに向けてくるアイソセレススタンスの朝加圭一郎は真顔で言った。

 

「このオレが知り合いに化けたと言って簡単に見逃すと思ったか快盗!」

 

 やや落ち着きを取り戻すカイリ、どうやら対手は、絶妙に勘違いしてくれているらしい。

 

「おまえがつかさから盗んだ武器を持っている事は、本部のレーダーで捉えている。窃盗罪、銃刀法違反、騒乱罪、この場で逮捕する!」

 

「ちっ」カイリはやや態とらしいくらいおどけてみせた。「しゃあねえな。バレちまったもんはしょがない。まさかアルミでくるんでも電波が漏れるとはね。」

 

『レッド』

 

 カイリはVSチェンジャーにレッドダイヤルファイターを差した。

 

「逃がさん!」

 

『1号』

 

 病院の通路である事を無視して銃を構えていた圭一郎は、自身のVSチェンジャーにトリガーマシン1号を差した。

 

「快盗チェンジ!」

 

『0、1、0、マスカレイズ』

 

「警察チェンジ!」

 

『パトライズ』

 

 両者の銃口から放たれたカードとエンブレムが両者を潜っていく。出現するマントと装甲。病院の廊下にいた病院関係者が奇声を上げ、患者達は手に手にシャッター音を響かせる。

 

「アンタのお宝、いずれ、いただくぜ。」

 

「実力を行使、逃げるかっ、待て!」

 

 颯爽マントを翻すルパンレッドが患者と医者と看護師で埋め尽くされる白の空間を縫って疾走、

 脚力の限り騒音を立ててパトレン1号が患者と医者と看護師で埋め尽くされる白の空間を掻き分け追走、

 

「ちょっと御免なさい」

 

 個室の扉を開け放ち包帯を巻いた男性患者のベットを横切るレッド、今まさに採血しようとしていた女性看護師は噂のネットアイドルが窓から飛び降りる姿に驚喜して、手にした注射針を患者の顔スレスレで振り回す、

 

「待て、快盗!失礼!」

 

 同じく追って横切る1号、交通事故で全治三ヶ月の男性が、噂の最新ウェポンがこちらに向けて敬礼する様を見て、狂喜のあまり筋肉の躍動だけで包帯を引き千切る、

 

「追いついてきなよ警察ちゃん、」

 

「こら待てぇ、ル~パン!」

 

 2人は地上5階の窓から直下へ降下した。

 

 

 

「この警察さんを搬送します。早く用意して!」

 

 病院に到着した大使のリムジンの後ろ扉が豪快に開く、中から踊り出るように女性看護士が飛び出し、病院内へ走り込もうとする。車の中には横たわる陽川咲也と、サルウィン大使がやや驚いたような顔で座っていた。

 

 こっちも頼む!

 

 同じ被害現場から搬送された救急車の受け入れ準備をしていた院内スタッフが、連絡も手続きもなく負傷者を運んできたリムジンに迷惑げな顔をしながら、ストレッチャーを直ちに用意し、数名のスタッフで咲也を引っ張り出そうとする。

 

「圭一郎、こちら病院に到着した!あれは、咲也!」

 

 そこに居合わせる明神つかさ。当然彼女は自身の盗まれたビークルを追って病院に立ち入ってきた。

 国際警察のVSビークルには正式な装着者以外の手元から一定の距離引き離されると位置情報を発するセキュリティ機能があった。ごく一般に普及しているGPSならば、アルミなどでエネルギーを吸収できるだろうが、ビークルはその程度で妨害できない程強力で独自の指向波を用いた通信網を構築していた。圭一郎もつかさも本部が受信した位置情報から携行者とその行く先を特定しえた。要するに快盗側2名の認識が甘かったという事である。

 

「あれ・・・・つかさ先輩じゃないですか・・・、ちゃんとお休みしなきゃダメじゃないですか・・・・」

 

 ストレッチャーに頭を打ち付けた拍子に僅かに意識が戻った咲也。目の左右の動きが連動していない様につかさは唖然とするやら呆れるやら。

 

「咲也・・・・まあ、生きろ・・・・、いやそこの看護士!止まれ!」

 

 そんなつかさは視界に入った状況に違和感を覚えた、フラッシュバックのように頭を辿って得た答え、即ち『リムジンの後ろ扉が豪快に開く、中から踊り出るように女性看護士が飛び出し』に辿り着く。なぜ、制服をした看護士が、リムジンから出たのか?なぜ救急車ではないのか?いやいや看護士が災害現場に救急車で同伴するなどという事からナンスセンスだ、『コード・ブルー』直撃世代の明神つかさ、背中を見せる女性看護士を慌てて呼び止める、

 

 誰!患者を放置して行くな!

 

 あんなカワイイ子いたっけ?

 

 オレは既婚の救命士だが、この病院の未婚の看護士の顔と名前は全て覚えている、あんな子知らんぞ!

 

 つかさの怒号にその場にいる救命士、病院関係者全てが彼女、看護士1人を傍観し、全ての手を止めた。

 

「・・・・・・、ありゃま、ハハハハ、おりゃさ、ハハハハ、およびでない?およびでない?」

 

 天才は超絶古典くらい思いつきでやってのける、

 

「待て、国際警察の権限で身柄を一時拘束する!」

 

 つかさが銃を構えて追いすがる、つかさの伸ばした手を打ち祓って一跳躍で間合いを取る看護士は、何を思ったか仁王立ちで高笑いをはじめた。

 

「ハハハハハハハ」

 

「誰だ!キサマ!」

 

「ある時はウェディングドレスの花嫁、ある時は纏持ち、ある時はテニスの選手、また、ある時は金髪の外人、そしてある時はフロッグマン!」

 

 どれ1つとしてやっていない。

 

「しかしてその実体は!ハニーフラッァァァ!」

 

 華麗に舞い上がり空中をバック宙3回転しつつ、看護士から、マスクの快盗へと姿を変え、両足を静かに揃えて着地、レイピアの代わりにVSチェンジャーを掲げた、

 

「愛の戦士、キューティーハニーさ!」

 

 言い切りやがった。

 

「キサマのような小娘がキューティーハニーをバカにするな!」

 

 97年再放送をたまたま視聴していたつかさは激高して、同型のVSチェンジャーを向けた。しかし病院の入り口を背にしたうみかを撃つのを躊躇った。

 

 いや、あれはあれで、

 

 あれが噂の!

 

 業務中にも関わらず携帯端末を向けて快盗少女を記録しようとする医療従事者達、そんな市民に避難勧告をしつつ、つかさは2制射、快盗の足下へ威嚇した。

 

「おわっ、おっおっ」

 

 泥跳ねを避けるようにヒールをステップするイエロー、

 

「おのれぇぇぇ!」

 

 ある程度の距離を保って足を止め避難しない民間人に、跳弾が当たる可能性を否めないこの状況、つかさは銃を収め接近戦を挑んだ。

 

 

 

「ええい、うっとおしい、ここにまで集ってくるのかこいつら・・・・」

 

 救急搬送された黒皮ジャンのややコレステロール高めの男は車内搬入型のストレッチャーを半ば引き出された形で放置されていた。事故現場において、脈の弱い軽傷者として優先の高いタグをつけられ、担ぎ上げられたこの男、救急隊員が左脇に妙な異物感を覚えたが、それも含めた検査を優先させ即座に担ぎ込まれ、そして今民間車の横、賑わう医療従事者に忘れられる形となっていた。

 

「あのマヌケ大使が飛び出して来やがったぜ。」

 

 そのストレッチャーに載った、意識不明のはずの軽傷者の口と目が開く、徐に右の腕がリムジンの方へ伸ばされ、後部座席から身を乗り出したあの大使の胸元に照準が絞られる、

 

「ギャングラーが狙ってるぞ小娘!ここだ!」

 

 声があらぬ方向から聞こえる、小娘と言われた当人、快盗姿のうみかは、声のする方向、即ち救急車ハッチバックに半身を出したストレッチャーを直視、その傷病者のはずの仰向けの者の腕が、グロテスクな見覚えのある化け物の腕に変化していく様が視界に飛び込んでくる。

 

「ダメじゃんダメじゃん」

 

 この時のうみかは神速だった。即座にワイヤーを飛ばし、敵の腕を掠め救急車のボディを刺突、そのままジャンプする形でワイヤーに身を任せて急接、

 

「なんだこの疾さは!」

 

 その動きは真正面から突進していたつかさの足払いを易々躱す、

 

「オレのトゲは1発じゃないぜ!」

 

 上体を起きあがらせ、右肩から数本のトゲを放出するトゲーノの姿はもはや人間のそれではなかった。

 

「アブナイデス」

 

「危ないですっ!」

 

 辛うじてトゲーノの前面へ立ちはだかる快盗うみか、大使を身ごと盾にして十数本のトゲを撃ち落とそうとする、

 

「小娘も危ねえだろ!」

 

 眼前に広がるトゲを数発撃ち落とすも、1人で落とし切れる数ではない、うみかのパートナービークル3機も横合いからトゲを撃ち落とし、辛うじて大使は被弾を免れる、そこかしこの地面や壁にトゲが突き刺さる、

 

 快盗のくせに、市民を助けている・・・・、

 

 つかさはいままで快盗は市民に良くも悪くも興味がないとしか思っていなかった。今の眼前の行為は、むしろ自分が立つべき位置ではないのか?

 

「ギャングラー、人間に化けていたのか!」

 

 両手で握り直した銃を腰だけで射線を変えて撃つつさか。

 

「おっとどいつもこいつもオレに構いやがって。」

 

 ストレッチャーから両足を降ろして立つトゲーノは、左肩からもトゲを十数本発射、

 

「っう」

 

 うみかの右手の甲だった、

 撃ち落とそうとする無数のトゲの一本がうみかに裂傷を与える、思わずうずくまって銃を包むような形で右手を押さえる、だがうみかにとってもっと悲壮な光景が、背後で起こっていた。

 

「オジョウサン・・・」

 

 サルウィン大使の右胸、ループタイの鎖を引き千切って右肺に刺さる一本のトゲ、大使は胸を抑えて膝を折る、ループタイは宙を飛び、さらに跳弾する一本のトゲと衝突反射して大きく放物の軌跡を描いてコンクリートに撥ねた、放物軌道を何度も繰り返し、終いには転がっていった。

 

「なんて事・・・・」

 

 腕を押さえながら先程まで車に同乗していたサルウィン大使に駆け寄る快盗うみか。苦痛に歪んだ大使の顔をみかねて刺さった肺のトゲを引き抜こうとする、

 

「そのままソノママ、」

 

「抜くと危ない!」

 

 それは包囲するようにスマホ片手に野次馬になっている病院の人間達だった。そう彼等こそは事故現場のエキスパート達だった。後の話になるがこの2人、ネット動画でイエロー応援サイト『黄色い世界の暴れん坊』を担う事になる。

 

「じゃあドウスルノ!教えて!」

 

 うみかのヒステリーの混じった声に応えたのは、うみかの仲間の1人だった。

 

「イエロー、そのおっさんは病院の人間に預けな、トゲ抜いて出血を抑えながら傷を塞ぐだろ、餅は餅屋っしょ、病院の中へ搬送してからの方が良い。」

 

 イエロー側近に降り立った影からワイヤーが飛ぶ、

 ワイヤーはこちらに向いたトゲーノの連装銃を絡め取る、

 奪われまいとするトゲーノ、

 綱引き状態となる、

 

「レッド!」

 

 現れたのはルパンレッド、カイリだった。

 

「早く、怪我人を持っていけ!」

 

 トゲーノの反対の腕にも絡まるワイヤー、レッドの対極側には既にルパンブルー、トウマも立っていた。トゲーノは拘束された形になる。

 うみかは半ば失神している大使を起きあがらせようとし、走り寄ってきた数人の病院関係者に取って代わられる形で大使を預け、手を押さえながら立ち上がる。

 

「ありがとう、みなさん。もう、アンタなんかクシャクシャのポイだよ!」

 

 うみかは激情して相手に向かって撃ちまくる、

 

 うみかって、みんな助けたくなるよな、オレと違って、

 

 心中ひとりごちしながらカイリもまたトゲーノに威嚇射撃を隙無く撃つ、

 

「ええいこのオレのコレクションの力で」

 

 トゲーノ・エイブスはグンカンガンの取り回しも、肩のトゲの拡散もままならない身動きできない状況に陥りながらもしかし、まだ余裕を見せていた、それはそうだろう、金庫の中には『熱くなれ』を呼び名に持つコレクションがあるのだから。金庫は光を帯び、トゲーノは肩をゆらしながら笑いをあげた。

 

「そいつに金庫の力を使わせちゃダメです!」

 

 重粒子の弾丸が金庫に一撃、立ち消える金庫の光、後ずさるトゲーノ、

 

「大丈夫なのか咲也!」

 

 叫んだのはやはりトゲの迎撃に手一杯だったつかさ、そしてトゲーノを攻撃したのは、ストレッチャーに載せられ、意識を取り戻し既にスーツを纏ってアイソセレスで構えるパトレン2号咲也だった。

 

「つかさ先輩も、早く、変身を」

 

「私は!私は、そこの快盗に・・・言わせるな!バイカーがあるだろ、渡せ!」

 

 依然続くトゲの跳弾に身を躱して一回転しながら、つかさ、咲也の隣に辿り着く、

 

「ああ、盗られたんでしたっ・・・・」

 

 咲也、腰からトリガーマシンの1つをつかさに手渡す、がその手がスルっと垂れた。

 

「咲也、しっかりしろ!」

 

「奴の、金庫が光ると、落ちてるトゲが全部爆発します。ボクも、それに、やられちゃいましたテヘヘ・・・」

 

 崩れ落ちる2号は再びそのまま失神した。必然、トリガーマシンからの発砲は、その時点で止む事になる。咲也は失神し、つかさはその咲也を横たわらせるまでバイカーを構える事ができない。

 

「フヘヘヘ、撃ち落とそうが足留めしようが、オレのトゲの毒は生きてるぜ、この全部ドッカンで病院ごと要人始末して、そしたらオレのハッピーエンドだぜ・・・?」

 

 いよいよ発砲が止まって調子づいたトゲーノ・エイブス、しかしその金庫をふと見るとライムカラーの虫のようなものが扉に貼り付いてる。よく見ればそれはトゲーノの行動を逐一妨害していたあのミニチュアのヘリ。トゲーノ自身ヘリというモノを知らないが。

 

『9、0、9』

 

「なんだこいつは!」

 

 身体を揺すって振りほどくトゲーノ・エイブス、引き剥がされた形であるが床スレスレで滑空し上昇するサイクロンダイヤルファイター、

 

「こいつめ!」

 

 即座に身体から出せる最後のトゲを放出する、その内一本がプロペラローターに擦って落下、一本は回っているが、一本は完全に停止している、

 

「サイぽんが」

 

 滑り込むようにそれをキャッチしたのはうみか、

 

「ぽんかよ。」

 

 依然ブルーとトゲーノを挟んで相対した形でワイヤーを引っ張るレッド、そこか気にするのは。

 

「汚ねえなまったく、ギャングラー随一のスナイパー、トゲーノ・エイブス様が全てを超越する瞬間を見るがいい!」

 

 金庫が光を帯びる、

 咲也は失神、未だつかさはバイカーを銃へ装填し切れていない、

 3人の快盗達には目くらましで威嚇する程度しか方法がない、

 そして、医療関係者達は知ってか知らずか未だ快盗や武装警察をカメラに収めて円周上に群れて大半が動こうとしない、

 散布された毒トゲが全て爆破されれば、否応なくこの人々全てが犠牲になる大規模災害となるだろう、

 だがしかし、国際警察はもう1人メンバーがいる、

 

「快盗ぉぉぉぉぉ!」

 

 ウィーバーで突撃しながらの二連射、ルパンレッドのマスクスレスレを横切り、もう一発はギャングラーの金庫をヒット、

 

「また邪魔が!」

 

 再び沈黙する金庫にトゲーノの余裕が一切消えうろたえはじめた、

 

「圭一郎、咲也が!」

 

「快盗を逮捕してつかさのビークルを取り返してからだ!足の速い奴め・・・」

 

「圭一郎、バカ!状況を見ろ、まずあのギャングラーの方が危険だ!」

 

「咲也が使えない今、ビークルを取り返した方がギャングラーとの戦いで優位になる!」

 

「ギャングラーは今市民の脅威だが、快盗はそうじゃないっ!この際なんとかとハサミは使いようだぁ!」

 

 つかさに並び立ったのは遅ればせながら追いついてきたパトレン1号、圭一郎だった。つかさと並び、ギャングラー快盗双方に威嚇行動に出ているものの、ここに来て作戦行動に乱れが生じている。

 

「なにやっちゃってるの警察。イエロー、変身してサイぽんだっけ?早いとこ決めちゃいな。」」

 

 カイリは警察の銃撃に極めて冷静に躱していたが、なお冷静にあたふたする警察に呆れていた。このままではギャングラーを取り逃がす可能性も出てくる。だがカイリの目から見てもうみかのレスポンスの鈍さは時間と共に深刻になっている。見ればうみかの利き腕の手の甲には擦傷があり、目前のギャングラーの毒が全身に回ってるのは了解している。了解しているがしかし、カイリはうみかという少女になお快盗としての役割を求めた。それが彼等3人の決めた個人主義だ。

 

「人使い粗いんだから・・・・カイリ、」

 

 レッドの仮面がやや動揺を見せた。警察を二度見して、そのうみかの声が届いてない事を確認する、そしてうみかを振り返り、小声を出した。

 

「なんだっちゅうの?」

 

「うみかね、イエローなのにさっきあの2号さんに助けられちゃった・・・情けなくてしょうがないよ。」

 

 なんとなく2号の負傷と結びつけて得心したカイリ。

 

「そういう事か、ま、おまえそういうキャラだよな。」

 

「だからね、キミの態度、うみかは非常に、助かってるのだよ。」

 

 話半分以上分からなかったが、カイリが受け応えようとするも、その行動はかき消される事になる、

 

 寸断されるワイヤー、

 

「ヒヒ、ありがとよ警察、」

 

 1号から放たれた弾丸がなんとギャングラーを拘束していたレッド側のワイヤーを掠め溶解切断してしまう。

 

「ナニやっちゃってるホント!」

 

 口論耐えなかった2人の警察は、ギャングラーの拘束が半ば解けた事に焦りを覚えた、

 

「ええい、ギャングラーの殲滅を優先する!」

 

 圭一郎は二兎を追う愚をこの時ようやく悟り、ギャングラーの金庫へ銃撃を集中させる、

 

「くそ、く、くそ、」

 

 トゲーノ・エイブスは残るワイヤーを反射衝動のままブルーと引き合いながら狼狽えている。

 

「なんとかとハサミか。なるほどね。」

 

 ここに至ってレッドのマスクは、同志トオマと警察のマントヒヒ女の両者を見比べ、そして決断する。

 

「返すわ、警察のお姉さん。」

 

「おい!おまえふざけるな!!」

 

 当然のトオマの反応だった。トオマが和田アキコ化してまで手に入れたギャングラー必殺のコレクションを、いつのまにか車体から突出したロッドを人差し指と中指で摘んで弄んでいたが、あっさりカイリは警察の男女に放り投げてしまった。

 

「わりぃわりぃ、でもこれしかないっしょ。バカとなんとかは使いようってね!」

 

「レッド!・・・・・後で理由を聞かせてもらうからな!」

 

 といいつつトオマは、

 

 見ただけで警察に対抗心剥き出しだったあいつが、この変化はなんだ?成長という奴かこれが・・・

 

 などとやはり怒りとは何か別の要素を頭に入れているゆとりがあった。

 

「・・・・・どういう事だ?快盗が。」

 

 つかさは受け取ってなお唖然としている。

 

「オレにそんな事を聞くな!わからん!」

 

 圭一郎はともかくもギャングラーを取り逃がすまいと躍起になった。

 

「動くな、ギャングラー!」

 

 明神つかさ、奇しくも自分の手元に還ってきたややクドいピンクのトラックともワンボックスとも分類できない四輪の可愛い奴を掌で眺めた、

 

「ギャンクラー、予告するよ!」

 

 早見うみか、ようやくにして立ち上がり、そのタイミングを見計らったように舞い降りたやや暖かみのあるイエローの双発ローターを握りしめた、

 偶然であったが、双方の目が合う、そして互いに敵の異形へ目を向けた。

 

「警察チェンジ!」

 

「快盗チェンジ!」

 

 つかさは銃尻の握把を左腕に抱え、銃口を上方に構える、右掌にあったトリガーマシン3号を上から刺し、握把を強く握り90度回す、ビークルは小銃下部に位置し、まさにトリガーマシンは、チェンジャーのトリガー部品となった。

 

『3号、パトライズ』

 

 うみかは銃尻の握把を左腕で構え、銃身をやや落とし右掌でなぞるように、握把を強く握り90度回転、ビークルは小銃の照星から照門にかけて装着される形になり、ダイヤルファイターはVSチェンジャーをカタパルトに今にも発進するかのよう。

 

『1、1、6、マスカレイズ』

 

 各々VSチェンジャーから射出された光膜を帯びて蒸着してスーツとなる。

 

「パトレン3号、国際警察の権限において、実力を行使する!」

 

「ルパンイエロー!アンタのお宝いただいちゃうぞ!」

 

 ピンクカラーの重厚なプロテクターを装着したパトレン3号と、軽快にイエローカラーのマントを翻すルパンイエローがほぼ同じくして変身をした。

 

「つかさ!バイカーならグッドストライカーに匹敵する火力を1人で放てる!」

 

「イエロー、サイクロンなら1人でも金庫から掠める事ができるってよ!」

 

 パトレン3号つかさ、いつもの変身装着と同じく銃口を上向きに白バイ型のマシン、バイカーを装着、

 ルパンイエローうみか、いつものそれと同じく銃身をやや落としタンデムローター機サイクロンを装着、

 

『バイカー パトライズ』

 

『サイクロン 3、1、9、快盗ブースト!』

 

 つかさ、バイカーを90度銃身下部へ回し、グリップを両手で握って構える、

 うみか、サイクロンを90度銃身上部へ回し、片手で握って構える、

 

「こんなところで、こんなところでこのオレがぁぁ!」

 

 トゲーノ・エイブスはなおレッドブルーによって拘束され、1号によって威嚇攻撃を受け身動きできない。

 

『警察ブースト!』

 

『9、0、9 いただきストライク!』

 

 2人のトリガーが絞られる、

 バイカーの前輪に光が帯び、光輪の弾丸となって光のロードを疾走する、

 サイクロンの機首に光が帯び、横回転の光輪が淡いライムの熱輻射を放ちながら発射、

 

「うぉぉぉぉぉぉ!」

 

 トゲーノ・エイブスに交差する光芒二筋、

 

 爆破、

 

 光に包まれ、金庫から四肢の先に向かって崩壊していく肉体、物体消失の化学変化が熱となって水蒸気爆破を瞬発させる、

 ルパンレンジャーのマントが棚引き、パトレンジャーが強風を浴びながら不動を崩さなかった。

 

 

 

「これだよ。僕の理想の姿だ。」

 

 天球状の物体は、6人が戦う病院に隣接する大手テレビ局25階に設置された展望室。その頭頂に体幹だけ立ち、ややラフにシャツとベストを着こなして強風をものともせず優雅に佇む彼は、笑顔を絶やさない。

 彼の視界の先には、自らが改良を重ねたアイテムの成果が結晶となって顕れていた。

 

「そう、エックス、この世界でギャングラーと戦うにはまず公の組織が必要だ。しかし公であればこそ立ち入れない領域がある。だから、2つの立場が交差する事がギャングラーと戦い、そしてコレクションを保護する事になるんだ。」

 

 危うげな立ち位置を体感だけで凌いでいるこの優男。その絶え間なく誰に向けて振りまいているのか分からない笑顔にやや陰りが映る。

 

「あれは、早過ぎるな・・・・」

 

 

 

「コレクションが!」

 

 ブルーがまず叫んだ、当然である、ギャングラーと共にコレクションが塵と化したかもしれないのだ。

 

「いや見ろ、ブルー、頭上だ。」

 

「やったねサイぽん、体も全快、明日はホームランだ!」

 

 レッドが指差した方向を見上げるブルーの視界に、ライムカラーの光の円盤が前から後ろへ流れていく。

 イエローの射角からすればブルーは撃破したトゲーノのさらに背後にいる形になる、つまりイエローの光輪が貫通したなら、ブルーに向かって光が走るのは当然。

 病院の壁に突き刺さりなお回転をやめない光輪、その渦の中心に陰りがあった、スーツで強化されたブルーの目はそこにDの文字が僅かに見えた。

 

「無事か。」

 

 前回、アニダラ・マキシモフを警察が巨大化させずに撃破、しかし金庫の中のコレクションは破損し、コレクションの全てを集める快盗の目的が水の泡になるところだった。一方、オドード・マキシモフに対しては快盗はコレクションを奪取したものの、いつものように飽和膨張、巨大化させ、しかもそれを警察に尻ぬぐいしてもらう形でギャングラーの暴走を食い止める事ができた。

 

 あるいは、こうやって奴等を協力していくのもアリか・・・・

 

 そういう考えがブルーの頭を過ぎり、そして、

 

「待て快盗!それは没収だ!」

 

 そしてブルーのマスクを光の重粒子弾が過ぎった、ギリギリ躱したブルー、しかしコレクションとの距離は、ブルーにとってどうしようもない溝をあけられた。

 

「おまえ達、騒乱罪で逮捕だぁぁぁ!」

 

 1号だけである。もはや光輪の膜が消え、壁に刺さったルパンコレクションに向かって八方に威嚇をしながら突進してきた。3号は倒れている2号を抱きかかえ、収容を病院関係者に指示している。

 

「一発擦っただけでも力を奪われるぞ、2人共気をつけて特訓通りにやれよ。」

 

「毒が消えたばかりでヘロヘロなんだぞこのカワイコちゃんはエッヘン!」

 

 マントを翻して1号の威嚇に怯まず前へ飛び出すレッド。3人はレッドの装備除装の件以来、あの警察の弾をいかに避けるか腐心していた。しかし現時点ブルーもイエローもその域には達していない。

 

「快盗、こんな危険な代物を、一般市民のおまえらに渡す訳にいかんのだ!」

 

「そいつを手にした時が一番隙が出来るってね!」

 

 1号が即座に壁を背にして威嚇しつつコレクションを手にする、それは警察にとってVSチェンジャーを片手持ちする事になる、圭一郎、急接してくる赤い快盗に片手撃ちを躊躇う、できないのではない、両手撃ちの訓練の累積量が身体に咄嗟に片手撃ちを拒絶させた。ルパンレッドは、そんな人の習性のようなものを嗅ぎ取っていた。

 

「渡さん」

 

「いただくぜ!」

 

 ルパンレッド、銃身でパトレン1号の手首を叩く、思わずコレクションを落とす1号、やや転がるように1号の腰元を掻い潜るレッド、レッドがコレクションを掴んで銃を向けて威嚇しようとする、しかしその前に1号がショルダーチャージ、2人共姿勢を崩して地面に倒れ、コレクションはルパンレッドの手元から転がり落ちる。

 

「こいつめ邪魔をするな!」

 

「邪魔なのどっちよ!」

 

 互いに互いの顔面を全力で押さえつけもう一方の手でコレクションを掴み取ろうとする。

 

「子供か、こいつら。」

 

 そのコレクションを掬い取ったのはブルー。

 

「おい・・・・」

 

 依然1号とつかみ合いのレッド、その1号の体臭まで一瞬忘れさせる程の危機感を覚えるレッド、

 空間が歪む、

 快盗と警察に向かって薄い透明のジェルが伸びていく、否、空間が歪んでいく、その内2つの人型を形成していく、透明なジェルが表面張力の限界を越えて弾ける、顕れる2体の異形、間違いないそれはギャングラーだった。

 

「早く壊れた金庫回収するよザミーゴ。」

 

 1体はメリハりのある女型のボディ、身体だけならどこの水商売でも金になる、しかしその紫紺の体色は怖気無くして直視できない、弾帯を身体中に巻き付けたような『ゴーシュ』、その背には銀に輝く金庫の扉が見える。

 

「姐さん、ここでやらないんですかい。その為にコレクションをオヤジにねだって、デストラから取り上げたんでしょうが。」

 

 もう1体には左膝に金庫があった。凍てつく体皮の、まるで貝に宿った生き物のようであり、どこかソンブレロにポンチョを着ているように見え無くない。右腕に握るそれは海底の浮遊動物を氷で固めたようなそれはピストル?単筒か?

 

「新手・・・・」

 

「待て!その金庫は国際警察で保護する!」

 

 ギャングラーにとって5人もの敵に囲まれた状況、2体とは言えまるで居ないかのように振る舞う怪人の態度にカイリは訝しんだ、しかし圭一郎はそうではない、1体のギャングラーが2体に増えた脅威が即座に攻撃を踏み出させた。

 両手持ちで数発ギャングラー2体に制射、

 

「憂ざっ」

 

 2体のギャングラー、本来ならパトレンジャーの重粒子弾を食らって怯まないはずはない、ところが数発直撃している男女の異形は意に介していない。女型は平然と金庫を手してささくれた穴を観察している。男型はメキシカンな帽子の鍔に光弾が擦り、数度首を跳ね上げたところで、さすがにうっとおしげに1号を眺めやる。1号はそこで立ち止まる、先の『デストラ』との戦闘経験から強力なギャングラーであると悟り、足を留め警戒した。

 

「コレクション2つゲットするチャンスってか。」

 

「体制を建て直すぞレッド、2体は難しい。」

 

 レッドはこの機を伺い、ブルーはなお傍観している。ただ1人、イエローだけは2体を見て地面に膝を折って、異様に震えていた。

 

「あいつ・・・あいつよ、」

 

「あいつって何?」

 

 とレッドがイエローに首を向けた直後、

 

 氷弾一発、

 

「な」

 

 直撃する1号、氷の単筒から発射された弾丸は胸に直撃し、1号全身を一瞬で氷で包んで、たちまち三角錐の氷壁が出来上がる、哀れ1号氷漬けとなって唖然とした姿のまま凝固している。

 

「圭一郎!」

 

 2体のギャングラーに対して1号の攻撃で隙を見いだした敵に必殺の一撃を見舞う想定をしていた3号、こうもあっさりと仲間が瞬殺され気が動転する。氷弾を避けながらバイカーを乱射するつかさ。突進して氷壁の前面に立ちはだかり、威嚇して氷壁から異形を引き離そうとする。

 

「くそ、どうやってこれを溶かせばいいんだ!」

 

 3号、振り返って、無残にも封じ込められた仲間を見やり、そして思わず氷の壁に指先が触れる、

 砕け塵になり質量を喪失する、

 一瞬にして氷壁だったものが視野から消え、パトレン1号だったものが消失した。

 

「圭一郎まで・・・・」

 

 声を出したのはその程度だった。明神つかさにとって2度めの喪失感だった。

 

 

 

 氷が1号を包んだ時、目撃した3人の快盗は一斉にフラッシュバックした。

 

「あいつか?!」

 

「あいつがか!?」

 

 レッドとブルーが一斉にイエローに問いただした。

 

「あいつだよっ!」

 

 そして3人怖気に襲われながらも一斉に振り返る、

 

「あいつだけは、」

 

「あいつだけはっ」

 

「許さないんだから!」

 

 銃を片手に、メキシカン帽の怪物ただ一点に攻撃をかける快盗、

 右から左へイエローが奇襲、怪人が目を塞ぐ様を見て間髪入れずブルーが肉迫、怪人が単筒をもう1つ現出させて2丁持ちイエローとブルーに同時に氷弾を発射、だが肉迫は攻撃の為ではない、視界を塞ぐ為だ、眼前に迫ったブルーが至近で右へ回避、その背後にやや左から急襲をかけるレッドがいた、至近からバースト3連、思わず怯む怪人は銃を持つ腕をそのまま振り回し、腕を絡めて拘束しようとするレッドの頭を強打、レッドはそのまま数メートル吹き飛ばされバック転で辛うじて姿勢を保つ。

 

「大丈夫だかんね、アナタの仲間の刑事さんもワタシ達がコレクション集めて、取り戻してあげるから!」

 

 たまたま、イエローの着地した位置に、項垂れ両膝を折るパトレン3号が自失していた。イエローはいたたまれなくなり、思わず肩を2回叩いて、またメキシカン帽の怪物に猪突した。

 

 何を言った・・・・?

 

 パトレン3号、つかさは私闘する快盗達を呆然と眺めるだけだった。

 

「ザミーゴ!大人気じゃない、妬けるわね。」

 

 と失笑しながら眺めているのは女型の怪物ゴーシュ。ザミーゴに鬼気迫る集中攻撃を繰り出す敵を横目に、穴の開いた金庫を持ち上げ、さらにもう一方の手を宙に翳す、すると、不思議な事に宙の一点が渦を巻いて中心が拡大していき、無だった空間から大穴が発生する。

 

「姐さん、置いてかないでくださいよ。」

 

 ザミーゴと呼ばれた怪物は、3つの方向からの攻撃にやや翻弄されている。

 

「てめえ!絶対ゆるさねえ!」レッドが死角から回り込んで乱射しながら肉迫、

 

「おまえ寒い」

 

 氷弾発射、寸でで横方向に側転するレッド、しかしマントに着弾、たちまち氷がマントからレッドの身に登っていく、自分のマントに向かってVSチェンジャーを数発放つレッド、砕け散るマント、側転の慣性が収まらず地面に転がり倒れるレッド、

 

「オレの女を返せ!」

 

 思わず叫んでしまっていたブルーもまた肉迫、敵が銃を構え照準を取る前に伐てる間合いと踏んだ、

 

「うざい」

 

 構えず銃を投擲するザミーゴ、構え撃つアクションが無いだけブルーは躱す事ができない、できないまま文字通り面に食らってもんどり打ってひざまずく、

 

「あの時のビビってた私と違うんだから!」

 

 イエローがブルー後方からサイクロンを装填したチェンジャーを既に構えている。

 

「そろそろお暇させてもらうぜ。誰だか知らんが。」

 

 ザミーゴとブルー、イエローの間の大気が蒼白となって集まってくる、霧?水蒸気?そう思った刹那もう既に液体から固体へと凝縮し、そして三角錐の氷柱と化す。透けた中にはなにやらエビに似た人型の異形が仰天したような姿で凍結されていた。

 

「どういう事だ?」

 

 レッドが思うのもつかの間、新たに自らの金庫から単筒を取り出し、そしてグリップを動かしてボディと直線状にするザミーゴ、それを合図に砕け散る氷柱、細かな氷片が周囲に拡散、3人の快盗達は思わず目を手で覆った、イエローなどは充填したサイクロンの必殺砲を天井方向に拡散させてしまう。

 

「うぉぉ」

 

 だがレッドは倒れ様辛うじて見ていた、ザミーゴが氷片飛び散る中、ゆっくりと女型のギャングラーへ歩を進めている事を。

 

「アディオス、おまえらが生き残ってたら、また遊んでやるよ。」

 

 そして女型のギャングラーと共に開けた空間の穴へ消え入ろうとするザミーゴ、

 

「おい、待てよ、いったい何があった?ザミーゴ!てめえオレを凍らせやがって、ふざけんな!ゴーシュもいるじゃねえか!てめえらデキてんのか!てかここはいったいどこだ!」

 

 見るからにエビとしか言いようがない容姿の異形が氷柱から解放されてわめき始めた。快盗達は事態が飲み込めず困惑している。

 

「私の可愛いお宝さん、イセロブを元気にしてあげて。」

 

 空間の穴の奥の闇、ゴーシュの胴あたりからエメラルドの光が滲み、胴から肩、右腕のしなやかな曲線に沿ってまるで銃身のごとき前腕から右掌に集約、ジェルのようなエメラルドの弾丸が撃ち出される、攻撃ではない、それはイセロブの、その金庫に浴びせかけられ、金庫からイセロブの全身にエメラルドが伝って、暴走的に容積が拡充、形状そのまま、快盗達の目線は徐々に上角を見上げる姿勢になり、その内影が3人を覆い、病院の屋上を見る間に越し、隣の放送局と並ぶ程の全長になった時、影から逃げるように快盗達は後退をせざる得なくなっていく。

 

「おいマントヒヒ姐さん!あぶねえぞ!」レッドが未だ呆然としている3号の姿を見止める。

 

「・・・・・、病院が、危ない!」

 

 3号にも影が差す、彼女が目撃するそれが2度めのギャングラーの巨大化である。

 

「ええい、ゴーシュめこんなにしちまいやがって、知らねえぞ!エビフライングミサイル!」

 

 巨大化した異形の大号音が轟き、さらにけたたましい噴射音を立ててイセロブから四方へ無差別にミサイルが放たれる、

 

 爆破する壁、爆破する車両、抉れる車道、炎上がるショッピング街、

 3号のゴーグルは一瞬にして豪火に染まる、

 

「いかん・・・・いかん、やらねば!」

 

 粉塵と炎を振り払いパトレン3号、VSチェンジャーの銃身を軸回転し、元に戻す、

 

『位置について、ヨーイ!ハシレハシレハシレ・・』

 

 チェンジャーを正面に構え、トリガーを絞る、

 

『出動ゥ!乱撃乱打!』

 

 そして快盗のそれと同じく、トリガーマシン3号が射出され、数車線に跨る四輪車として巨大化する。

 

「止めてみせる!」

 

 ただちに搭乗するパトレン3号は全く無駄なく訓練通りの手順で座席に就き、VSチェンジャーをコクピットの右ハンドルとして刺し込み固定。けたたましいサイレンを轟かせド派手のピンクの車体が巨大化したギャングラーの足下へ突撃した。

 

「ええい!ウチワックス!」

 

 巨大化したイセロブ、ウチワエビのような得物を振りかざし、病院を屋上から殴りつけ欠損、欠損したコンクリートは粉々になり、直進してきたトリガー3号に瓦礫の山となって降り掛かる。

 

「ええいこれ以上被害は出させん!」

 

 粉塵の雨を直にウケながらトリガー3号、車首天板ボンベのような円柱を前輪に扇状の軌跡で展開、ロッドにしそのまま突進、横切る形で突き抜ける、足を掬う形で巨大イセロブの向こう脛を伐つ、

 

「おぁぁぁぁ」

 

 テレビ局前路上を転倒し、ペデストリアンを粉々にするイセロブ、甲羅が重いのか起きあがるのに手間取ってもがいている。

 

「すげえな、あのマントヒヒ警ちゃん。」

 

 ルパンレッド、カイリは、避難する市民の波が一段落した病院にポツンと立ちつくしている。

 

「カイリ、オレは行くからな、止めるな。ギャングラーは1人残らずゆるさん!」

 

「カイリ、見てたでしょ、あの人、アタシ達とおんなじなんだよ、目の前で全部粉々になって、助けてあげようよ!」

 

 ブルーとイエロー、それぞれ銃身を捻って元に戻し、銃身上になるようビークルを位置させた。

 

「おいおい、待てって。オレがいつあの女警ちゃん見捨てるっつうた?」

 

 ブルーイエロー、両者ともチェンジャーから流れるリピートをマヌケにも放置してレッドを直視した。

 

「オレさ、思い出してたんだ。オレ等が氷漬けになった兄貴達が粉々になるの見て、呆然としてさ、小暮さんに声かけられるまでさ、あんな風に、周りの事、頭回ったかってさ。やっぱ警察の人ってさ、オレ等と最初の一歩から違うんだなってさ。オレ等みたいに一線越えねえ人種なんだよなあの人等。」

 

『ゲットセット レディ?』

 

 レッドもまた銃身を一旦捻って元に戻し、チェンジャーを上方に構えた。

 

「行こうぜ、あいつの中にもお宝あるかもしんないしな!」

 

『ゴオォォォ!レ、レ、レ、レッドぅ!』

 

 3つのダイヤルファイターが同時に射出され、射出されると同時にスケールを数百倍に拡充、拡充すると共に埋め立て地上空を飛翔した。

 

「快盗?くそ、のこのこと何を。」

 

 スピンターンで折り返し、トリガーマシン3号、倒れたイセロブにさらに突進を掛ける、

 

「奥の手だ!」

 

 俯せに転がってようやく立ち上がるイセロブのその胸に淡い緑の光が差す、 するとイセロブ両腕のアーマーが2つとも放出、イセロブの触角2本に先端で連結し、さながら鉄鎖のように頭で振り回す、振り回した先端の一本がトリガー3号の前輪を引っかけ、易々と持ち上げる、

 

「うぉぉ!」

 

 後輪より後部にあたる大きな穴の部位にフックがけされたトリガー3号のつかさ、体感した事のないGで振り回され、アスファルトに叩きつけられた拍子にマスクの中でよだれを流して失神した。

 

「あの姉ちゃん大丈夫か?」

 

「カイリっっ!?」

 

「カイリ!後ろ後ろ!」

 

 そのイセロブ脅威のフックロープがレッドダイヤルファイターの後方ノズル下部のヘコミへ引っかかる、最大出力を噴射してイセロブヒゲから逃れようとするレッド。

 

「ワッパかけられてからが快盗の本領でしょ!」

 

 さらに錐揉みして上昇、辛うじてフックが外される、

 

「攻撃をかける!」

 

 ブルーダイヤルファイター、立ち上がったイセロブ頭上の死角を落下に近い急降下、そのヒゲに衝突するスレスレで反転急上昇、尾翼に備え付けられたバルカン砲で銃弾の雨を降らせる、

 

「ヒゲ剃ってやる!」

 

 イエローダイヤルファイターはテレビ局を横切る形でりんかい線ゆりかもめの線路に沿って飛行、得物で顔を覆って2号の砲撃を凌いでいる横合いからバズソーを垂らして一直線、

 

「エビフライングミサイル!」

 

 しかしイセロブからの無数の弾頭が近接爆破して視界を失って錐揉み降下、

 

「がんばってイエもん!」

 

 勝手にネーミングしたうみかの思いが届いたか、地表スレスレで2つのローターを吹き付け機首を上げるダイヤルファイター、

 

「かかってこいオラオラ!」

 

 エヘラエヘラと余裕を見せるイセロブを、上空で旋回しながら見下ろす3機、

 

「決め手はなんだ・・・・」

 

 カイリはいつものように決め手に欠けるもどかしさを抱えつつ、それでも錐の一刺しを狙えるめざとさで敵を観察する、

 

「お前ら、手貸してやろうか?」

 

 そのルパンレッドの右肩から覗かせて話しかけるものがいた。今日一日ルパンイエローと行動を共にしていた『グッドストライカー』だった。

 

「グッディかよ、潜り込んでたのか。」

 

「今回はオイラの大親友の頼みで手を貸してやったけど、おまえら見てたらグッときちまったぜ。銃にオイラを装填して撃ち出しな。おまえらのコレクションの力、全部合わせてやるぜ。」

 

「おもしろい。警察みたいなの、頼むぜ。」

 

 ダイヤルファイターの風防を開くレッド、強風に晒されながらVSチェンジャーを構え、飛来するグッドストライカーを左手に捉え装填、

 

『ゲットセット レディ?』

 

 チェンジャーを捻ってグッドストライカーを銃身上にもっていく、

 

『ゴオォォォ!グ、グ、グ、グッドぅ!』

 

 射出されるビークル、先の3機1両と同じく、掌サイズから質量1千トンにおよぶ50メートル四方の戦闘機へ容積を拡充、ビルの谷間を抜け出して、夜景を見下ろす形で飛翔する、

 

「勝利を奪い取ろうぜ!」

 

 大空を舞うグッドストライカーに追随する3機のダイヤルファイター、イセロブの手の届かない高度に上昇、レッドを中央にV字フォーメーションをとる3機のやや後方にグッドストライカーが配置される、

 

『快盗!ガッタイム!!』

 

 グッドストライカー、号令と共に背面飛行、ダイヤルが回り、翼が畳まれ、機首が先割れ、ボディの3箇所に立体ビーコンを発行、

 イエローダイヤルファイター、ダイヤルが回り、機体が中折れ、ビーコンに従ってグッドストライカーに接続、

 ブルーダイヤルファイター、ダイヤルが回り、機体が中折れ、ビーコンに従ってグッドストライカーに接続、

 レッドダイヤルファイター、ダイヤルが回り、機体が中折れ、ビーコンに従ってグッドストライカーに接続、

 それは巨人だった、

 レッドが頭、右腕がブルー、左腕がイエロー、そして胴と両足をグッドストライカーで構成される質量2千トン、全長50メトール近い巨人が宙にあってイセロブを見下ろした。

 

『完成 ルパンカイザー!』

 

 アスファルトに降り立ち、路面を足の接地圧だけで削る、立ち尽くす姿にイセロブも驚きを隠せない。

 

「お、コクピット集まんのかよ。」

 

 レッドがいつのまにか風防のあるガラス天上から、前面モニタだけのスペースに座席ごと移動し、さらに左右後背にブルーとイエローも座席ごと移動している事に気づく。

 

「カイリ、これはロボットの頭か?」

 

 視界からそう判断するトオマ、なんとこのロボット、2足歩行、両手もあり、そして頭部のマスクには丁寧にも目、鼻、口という顔を構成するパーツが揃っている。

 

「カイザーだよ、カイちんって呼んじゃおう!」

 

 はしゃぐうみかの高揚感をカイリも同じように感じてマスクの中で笑みをこぼしていた。

 

「よぉしカイちん、おまえの全力見せてみな!」

 

 カイリ、ルパンカイザーのスロットルレバーを全開に背から噴炎を轟かせ突撃、

 

「くるなくるなクルナァ!」

 

 エビフライイングミサイルを連射するイセロブ、背のバーニア全開のまま速度を落とさず身を捻って躱すルパンカイザーが無造作に間合いを詰める、ウチワックスを振り上げるイセロブ、それを左掌となっているイエローファイターのバズソーで受け止め、前屈みになったイセロブの腹を肘で伐つと軽く持ち上がって一回り転倒、そのまま転げ回って逆にカイザーとの間合いが開く、開いたところでカイザーの右腕となっているガトリングを構え、そのままトドメの態勢に入る、

 

「ええいまだまだ!」

 

 しかし転がった拍子に起き上がって正常の姿勢に戻すイセロブ、ただちにミサイルを振り絞って発射、

 照準に捉えていたカイザーは、敵の余力を見損なった事に驚き、構えはそのままガトリングでただちに弾幕を張り、連射しつつも背後に飛び退く、落とし切れないミサイルがなおカイザーを追随、追随されるカイザーはなお引いて間合いを取って迎撃、最後はもはや宙を飛翔する形で逃げながらバルカンを散布して撃退した。

 

「オレの力を見るがいい!」

 

 イセロブの胸元で緑光が灯り、頭頂部のヒゲが伸びて飛翔するカイザーを追随、両足に絡まってカイザーの推進力を凌駕する力で引き振り回し、某アニメのロボット像に激突粉砕した。

 

「くそ捕まった、」

 

「振り回されるオロロロぉぉぉ」

 

 トオマとうみかが体験した事のない横Gを食らって呻く、

 

「快盗は捕まってもすぐ逃げるさね、」

 

 カイリが生命力を振り絞って操作、左掌のバズソーの刃だけが射出、宙を自在に飛び交うバズソーはカイザー両足に絡まった2本のヒゲを寸断、カイザーを解放する。

 

「イテえじゃねえか!」

 

 さらに胸元に緑光を灯したイセロブ、手先も伸ばした起立の姿勢から体幹を軸にして回転、高速スピンでお台場の大地から離陸急上昇、拘束から解き放たれたばかりの反動でやや姿勢制御の崩れたルパンカイザーに激突、

 

「「「うぉぉぉ!!」」」

 

 コクピットの3人が衝撃に悲鳴を上げる、

 

「危なかったぜ、オイラダメかと思っちゃったじゃないかコノヤロ!」

 

 話しているのはロボットそのもの、巨大化したグッドストライカー、コクピット内にハイトーンの音声が響く。

 敵のスピン突撃にルパンカイザー、姿勢を崩しながら左腕を伸ばして祓おうとし弾かれ、弾かれた拍子に敵の軌道から逸れ、右肩の畳んだ青い翼と襟元の赤い翼が二つとももげる、

東京湾に落下するルパンカイザーはしかし辛うじて命脈を保っている。

 

「またくるぞ。カイリ」

 

「あれもう一発食らったらウチらオシマイじゃん!」

 

 カイザーが見上げるイセロブ、なお回転を止めず上昇し放物線の軌跡でなお突撃してくる、

 

「おいグッディ、おまえ確か鼻ドリルだったな!」

 

 グッドストライカー、車両形態ではセダン然としたボディだったが、両翼を展開し、前方の鼻先を突出させると、途端シャークマウスの戦闘機然となる。その伸ばしたノーズアートの先端がカイリ曰くドリルに見えた。

 

「あんなのただのデザインみたいなもんさ」

 

「対抗しておまえも回れ!やらなきゃ死ぬぜ!」

 

「もー!強引なんだからぁ、知らないぜオイラ!」

 

 ルパンカイザー、両腕を水平に伸ばし、膝までついた水面を跳躍、両足を揃え、体幹を軸にイセロブと同じく回転、その足先からは飛行形態時のノーズを突出させ、全身をドリルと化して上昇、

 先端同士一点で衝突する両者、

 共に姿勢を失って東京湾に落下、

 

「「「ぁぁぁぁぁ!!」」」

 

 コクピットの中で阿鼻叫喚が飛ぶ、

 

「グフ、グフ、ザク、こいつらぁ!」

 

 イセロブは鎧から中に浸水してアタフタしたものの、全身を真っ赤に滾らせて、金庫から発光、横倒れのまま再びスピンをして大波をテレビ局に浴びせながら上空に舞い上がった。

 

「あいつピンピンしてる、」うみかは敵を見上げるしかできなかった。

 

「だからオイラ言ったんだぜ、オイラの自慢の鼻がボロボロだぁ」

 

「おい、3台のダイヤルファイターが合体できるという事は、サイクロンも合体できるンじゃないのか?」

 

 トオマは状況からロジカルにそう推測した。その効果の程は知れない。

 

「おっと、その手があったな。こいつ強力だからな。」

 

 グッドストライカーの音声がそれを肯定する。

 

「こいつに賭ける、てか。おいうみか、持ってるだろ!」カイリのテンションが上がってきた。

 

「ホイホイ、さっきケガしてたけど大丈夫?やれる?お願い!」

 

 うみかの掌で小躍りするライムカラーのコレクションをVSチェンジャーに装填、

 

『ゲットセット レディ?』

 

 コクピットで立ち上がり構えるルパンイエロー、コクピット前面がスライドオープン、風を受けマントが棚引くイエロー、ダイヤルファイターを銃身上に捻り、トリガーを引く、

 

『ゴオォォォ!サ、サ、サ、サイクロン!』

 

 銃身のカタパルトから射出されるダブルローターヘリ。サイクロンダイヤルファイターは掌サイズから瞬く間にイエローの視界をライムカラーへ塞ぎ、全長25メートル、400トンの容積へ伸長、台場の空を宙返りしてイエローにやる気をアピールした。

 

『左腕、替わります』

 

 まず動いたのはイエローダイヤルファイター、カイザーから脱着しそのまま即座に縮小して圧迫的な質量を喪失して掌サイズに、その空いた左肩に入れ替わりサイクロンが飛び込んで合体した、サイクロンはそのままローターが左右分割し半ば二つのソーを携えた腕へと変型する。

 

『完成 ルパンカイザーサイクロン!』

 

 ルパンカイザー、左腕がイエローからライムへチェンジ、その両眼はしっかりと再度上からスピンして降下してくるギャングラーに、

 

「ぐぉぉぉぉくたばれどいつもこいつもぉぉぉ!」

 

 そのフルネームが『イセロブ・スターフライド』である事を快盗も警察も知らないまま終わる事になる。

 

『グッとくるた、つ、ま、き!』

 

 降下してくる敵の回転、その回転にさらにライムの竜巻を浴びせ掛けるカイザー、左腕から発生した竜巻は伸長してイセロブ全身を呑み込み、スピンするボディにさらに回転を加え、イセロブの限界を越えた回転に、姿勢を失いカイザーを反れて、あらぬ海上に墜落、

 

「ぁぁぁぁ、」

 

 イセロブ、辛うじて立ち上がるものの、上半身の動きが定まらず、腕も足もあらぬ方向にねじれ込み、そして金庫から銀の発光が溢れ、金庫自体が赤熱化、

 

「ぉあ!」

 

 爆散、

 巨大ギャングラーの飽和爆発、目も眩むほどの爆光、周辺ビル群の窓が一斉に割れ散り、高波が発生してテレビ局社屋の上から下まで浴びせ掛けられる、

 

「オレ達・・・・・」

 

 カイリは仮面の中でどんな顔をしているだろう、案外素朴な放心顔かもしれない。ルパンカイザーがやや陸地寄りに不動の盾になっていた事が後背の病院施設の被害を辛うじて抑えていた。

 

「さらに巨大化するような事はないよな?」

 

「やったんだよ!うみか達はじめて敵をちゃんと倒したんだよ!」

 

 トオマは周囲への警戒が杞憂である事を悟る、うみかは直感的に今この状況を理解して感情を発露した。

 

「オレ達、ようやくかよ・・・・・」

 

 カイリは脱力してボソとそれだけ言った。

 

 

 

「ありがとう。『ベロニク』。さすがはマスターキー。『クレーン&ドリル』を危うく彼等がうち壊すところだった。」

 

 それは放送局球体に体幹だけで立つ彼から伸びる光線だった。2連結した銀のHOゲージのようなアイテムをスティック状に持ち、今まさに破裂しようとする巨大ギャングラーの胸部、銀の金庫へ一条紅の光線を放つ、光線は金庫の中から一つのアイテムを包んで取り出し、光線に載せて逆行、笑顔を濃厚に絶やさない男の掌にアイテムを修めさせた。

 

「巨大化して飽和限界を超え、金庫の密度が低下したギャングラーなら、遠隔から解錠してコレクションを盗む事ができる。ルパンカイザーで飽和破壊する事もできる。ルパンカイザーで戦う彼等にも後で教えておかないと。」

 

 ジャケットをラフに着こなす彼は、白と黄色の彩りのクレーン車のミニチュアを眺め微笑んでいる。

 

「やあクレーン&ドリル。待たせたね。君の力なら、バイカーやサイクロンを超える力を彼等に与えてくれるだろう。これからよろしく。」

 

 

 

「私は、いったい・・・・」

 

 センパイセンパイセンパイセンパイ・・・

 

 明神つかさは耳鳴りがした。遠くから自分を呼ぶ情けない声が頭の中を何度も揺すぶった。

 

「ここは・・・・病院か。私は失神していたのか。」

 

 つかさの眼前にあったのは、真白い天井だった。見渡せば壁も白くベットもシーツも、まくらカバーまでが白い。身につけている病衣まで白かった。

 

「そうか、私は3号の中で気を失ったのか。」

 

 トリガーマシン3号の中にあって地面に叩きつけられたつかさ、スーツと日頃の蓄積のおかげで頭を強打する事なく、右の腕から背にかけての打撲で済んだ。その症状を眼前の看護師から説明されたつかさは、同時に看護師見習いが顔見知りである事に気づいた。

 

「脳の障害を見られないそうです。あ、朝加さん、強引に退院してしまって、明神さんからももう一度来院してくださるように言ってくださいね。」

 

 親身になっている看護師見習いに、圭一郎がどうなったかまだ公表されていない事をつかさは察した。

 

「あいつは、はっきり言うが出世しないタイプだ。自分を曲げないからな。一生安月給だぞ。それでもいいのか。」

 

「でも圭一郎さんは圭一郎さんですから、っ!そんな、そんなんじゃ」

 

 つかさは彼女の狼狽ぶりにため息をつかざるえなかった。

 

「まあ・・・・今度顔を見せる事があったら、よろしく頼む。」

 

「は、はい・・・・、あ、上司の方から気づいたらこちらを。」

 

 と看護師見習い赤来末那は端末を渡して足早に退室してしまった。以後彼女は圭一郎の訃報をネット動画で見、傷心のまま好きな事を勉強しに海外留学する事になる。

 端末のメッセージに送られた文面で、あらかたの状況をつかさは知った。

 3号マシンが大破した後、2号、咲也が救出作業を行った事、トリガーマシンはつかさが脱出した後掌サイズに収まって、外観は損傷が見られないが機能不全に陥り、パリ本部へ輸送された事、2号はスーツを纏っていたおかげで体力自体が自助回復しそのまま周辺救出活動に立ち廻って死者ゼロに現場を抑え、負傷者はこの病院含めて各地に収容された事、そして快盗がギャングラーを撃破した事。

 

「咲也め、敵を倒すより、私の救出を優先したか。後で呵っておかなくては。・・・・管理官も、大事な事は口頭で言って欲しいものだ、今度赤来さんの顔をどうやって見ればいいんだ・・・」

 

 そして最後に、パリ本部より増員1名の派遣が決定した事が書き記されていた。

 それは同時に、3人1チームで活動する戦力部隊において、殉職による欠員発生が認定された事を意味した。

 

 

 

「あんだけ捜し回らせといて、ここにあるって何それグッディ、」

 

「オイラ最初に言ったぜ、ここにはもうあのコレクションはいないって。それを聞かないで探し回ったのおまえらじゃないか!」

 

 店の扉の真鍮を鳴らすと、そこに厨房だけ明かりを灯して客席に座した彼がいた。

 

「君達、ギャングラーを倒すのに気分を良くして、肝心な任務を忘れちゃ困るな。」

 

「「「エックス!」」」

 

 ジュレにグッドストライカーと共に戻ってきた快盗3人組、ループタイを握り佇む金髪の青年に仰天した。そんな中一際喜色を顕す一機の戦闘機型コレクションがラフにジャケットを着込んだ彼の頭上を周回した。

 

「ノエル~!!」

 

「やあグッドストライカー、」

 

「おまえら知り合いかよ、」

 

「ノエルはオイラの仲間、大親友さ!」

 

「エックス、なぜコレクションをそっちで確保していると言ってくれなかった?」

 

「うみか達さんざん捜したんだから!警察に見つからないように変装してまでさ!」

 

「まあまあまあ、話を整理しよう。」

 

 ノエルと言われ、エックスとも言われた金髪の青年こそは、あのテレビ局のシンボル、球体の展望台の天頂に立って戦いの推移を伺っていた男である。

 彼こそは3人組に快盗のいろはを教え訓練し、なおかつ装備のいくつかを開発し、そしてその修理整備を一手に引き受けている3人にとって頭の上がらない人物である。

 エックスは、3人が巨大ギャングラーと戦っている間、サルウィン大使が落としたコレクションのループタイを確保し、なおかつ彼等の気づかない内に巨大ギャングラーの金庫からもコレクションを一つ確保していた。

 

「君達に与えられた役割は、コレクションの確保、今回はサルウィン大使の家に伝わるこのコレクションを確保する事だった。それを放置して戦い、さらに巨大化したギャングラーの金庫にコレクションが収まっている事に気づかなかった。教えたはずだよ、金庫がエメラルドに光るのはコレクションの能力が発動する兆候だって。ヘタをすると今回の時点で君達はアウトだ。」

 

 3人は青ざめた顔で説教を聞き続けるしかなかった。

 

「オレ等も、捜したさ、後でさ。」

 

「エックスが知らせてくれれれば、」

 

「うみか達、でもギャングラーはじめて倒したんだからさ。」

 

「オイラの力借りてね~、な、ノエルぅ!」

 

 グッドストライカーの一言で言い訳できない状況に追い込まれる3人だった。

 

「君達に預けてあるダイヤルファイター、全て一旦回収させてもらう。」

 

「「「そんな!」」」

 

 エックスは口答えする3人を一切無視してループタイを取り出す。

 

「さて、このコレクション。」

 

 ループタイのカメオを人差し指と親指だけでつまみ、目線の高さに掲げ、そして手首を回しはじめた、するとカメオの直上に紡錘状の奇妙な空白が出現、逆三角錐の内部、光の振動数が絶えず変調して目が眩む空間の中、明らかに光を遮る影が存在しているのが見て取れる、カメオを握るエックス、消失する紡錘の空間、紡錘の中にあった影が、重力に従って落下、エックスの掌に収まった。

 

「シザー&ブレード、アルセーヌが作ったダイヤルファイターの中でも強力な力を持つコレクション。これを君達に預けよう。今回ダイヤルファイターはグッドストライカーと合体した事もあってどこにどうダメージがあるか知れないからね。」

 

「ちょいマっチ、コレクションはそっちって事は、え?そのペンダントは、」

 

 カイリがツッコむとエックスは、含み笑いをしてカメオをちらつかせる。

 

「これは、言わばイミテーション。本来このエックス空間を造り出すコレクションの能力をコピーしたただのアクセサリーさ。それも今使った事で能力をほぼ失った。まあ、この世界の価値で言えばけっこう高価なもののはずなんだけど。」

 

 オイラ、無理矢理しないぜノエル~、などとまとわりつくグッドストライカーを連れ、言うだけ言って扉の真鍮を鳴らすエックス、

 

「ああ、そうそう、今度パリからこっちに来る事になったから、よろしくね。君達。」

 

 もはや閉口して唖然とする3人は、扉を閉める音を聞くしかなかった。

 

「・・・・・、あいつホント上からな。」

 

 数分置いて、ようやくカイリがいつもの小生意気な目になった。

 

「しょうがない、エックスはこの間もオレ達の弾避けの特訓に付き合ってくれた。」

 

「これ飲んだら、超速くなれるから、ボクから奪ってみせなっ、メルシィっ、とか言ってたけどさぁ・・・・・、あのさ、うみか達、絶対ザミーゴ、倒そうよね。」

 

 うみかがボソと切り出した。

 

「ああ、せめて仇ちゅうの?とらせてもらわないとな。そのくらいワガママ言っていいっしょオレら。なぁに、あのグッディちゃん利用すりゃ、ギャングラーなんてもう大した事ねえし、こっちなんかアウトオブ眼中なあんにゃろにも目にもの言わせてやるって。」

 

 カイリは傷つけられた体面の限り掃き出した。

 

 ザミーゴ、ヤツは、氷の山を呼び出す事ができる・・・・・、

 

 トオマは腕を組んでいた。いったい何がひっかかるのか、今日起きた一つ一つの状況を組み合わせると、何か突拍子もない事に思い至りそうな直感を覚えた。

 しかし3人が衝撃の事実に辿り着くまで、まだしばらくの日数を要する事になる。

 

 

 

「オー、きれいナひっぷノかんごしサンデス、」

 

 サルウィン大使は胸に猛毒のトゲを受けたものの、早期に病院スタッフの手に委ねられ適切な処置よって大事には至らず、何より毒を放ったギャングラーを快盗3人組が打倒した事で、ルパンイエローと同じく体内の毒が消え、数日の内に集中治療室から一般病棟へと移った。

 

「先程、お見舞いの可愛い小寺というお婆ちゃんがいらしたんですよ、テレビで見てファンになったと、こちらをプレゼントして欲しいと渡してこられました。置いておきますね。」

 

 と背の高い、大使曰く尻のラインの良い看護師は、用件を済ませると次の患者の世話をする為と言って即座に廊下へ出た。

 大使は病室のディスプレイの前に置かれた小箱を無防備に開ける、

 

「ワォ!ナンテコッタイ!」

 

 それは煙、

 小箱の蓋で栓をしていた圧力が思いのまま体積を膨張、モワと吹き出す白い煙に仰け反って顎に白ヒゲが生えてないか、眉は白く伸びてないかをまず確認する、日本の知識は無駄に深い大使の盛り過ぎなリアクションはさておき、視界が晴れた小箱の中身、その中身を見た瞬間大使の表情が凝固し、次いで口元と目端が緩んでいき、笑顔となった。

 

「グランマー!」

 

 小箱の中身には、丁寧にとぐろ捲きされ、中心にカメオが置かれたループタイと、メッセージカードが入っていた。

 

『変態大使様

    落とし物をお届けします

       キュートな快盗より』

 

 サルウィン大使は歓喜のあまり涙すらした。

 

「アリガト!きゅーてぃーはにー!!」

 

 快盗にとってルパンコレクションのイミテーションに価値はなかった。時価にして億を下らなくても。

 

 

 

「あの男変態だな。オレのケツばかりジロジロ見やがって。」

 

 廊下を出た看護師は、バックルをイジって変装を解いた。うみかは絶対バレるからと断言していた為に、トオマがループタイを送り届けた。そうでなければ、得体の知れない老婆からの贈り物など命を狙われたVIPに届くはずがない。

 

「え、あ、咲也さん!」

 

 何?とトオマの耳に、落ち合うはずの病院のロビーでうみかの声が飛び込んで来た。あの国際警察の緑もいる。緑は寝巻き姿で頭には包帯を巻いている。そんな緑を前に、うみかの声色には怒気も嫌悪も感じられなかった。

 

「うみかちゃ~ん、え、どうして?僕の入院先教えもらったの?ごめんね~」

 

 とただ偶然出くわしただけだといううみかの言う事を、脳に入れる事なくまくし立てる国際警察の緑がトオマには不快でならなかった。

 

「咲也さん、この間はありがとうございます、デヘヘ。」

 

 うみかはそんな男ににこやかな笑顔を振りまいている。ただ距離がやや遠い、うみかが距離を置いているか、否、今日はのめり込むように密接してくるこの緑の方に積極性がない。

 

「この間?なんかしたっけ?」

 

「いや・・・・その、いつもお店をご利用していだだいてるから・・・その、そうです。」

 

「ああそういう事ね!いやいやいつもこっちこそありがとうね!」

 

「またお店に来てくださいね、奮発しちゃいますから。」

 

「やっぱうみかちゃんいいなぁ!でもこれからお店の常連、うんうん、友達としてよろしくね!」

 

「・・・・・、はい?」

 

 うみかの顔の上半分は笑ったまま、下半分はややしゃくれ気味に引きつっている。

 

「僕ね、1人に絞ったんだ、ネットで有名な快盗の黄色の子、ホラ、なんだか見てていたたまれなくなってきて、僕もう彼女が気になってしょうがないだ。僕ね、あの子をちゃんと更正させて、僕が一生面倒見てあげようと思ってるんだ、だからうみかちゃん、期待させちゃったかもしれないけど、ごめんね!」

 

 バカか、こいつは態々言わなくてもいい事をペラペラと、

 

 端で聞いたトオマは吹き出しそうになり腹を抑えた。

 

「え・・・・え?え?」

 

「じゃあね、うみかちゃん、また食べに行くよ!」

 

 と言ってちょうど看護師に呼ばれて診察室に入っていった。

 

「どういう事?・・・・・アタシに何が起こってるの・・・・、アタシをなんだと思ってるのあのチャラ男・・・・、あ、トオマ」

 

 口を押さえてこれ以上無い程笑みを漏らすトオマがうみかの極至近に立っていた。

 

「最高だな、良かったじゃないか、一生面倒見て貰えるそうじゃないか。」

 

「やめてよ!アタシじゃないのよ!イエローの方なのよ!でもそっちもアタシなのよ、なんなのそれ!ふざけんなバカ野郎、アタシはグシャグシャバキバキよ!」

 

 ロビーで看護師が数人出てきて取り囲み、ようやくワレに還ったうみかが、未だ鬼の首を取ったようなトオマに引き摺られ出ていくしかなかった。

 

 

 

「明神つかさ!これより原隊復帰致します!」

 

「つかさんさん、管理官は今咲也さんと出動しています。」

 

 つかさが検査入院から戻って、まず国際警察で敬礼をした。国際警察では室内であっても挙手注目の敬礼である。

 職場復帰したつかさが見た室内は閑散としたものだった。人間が一人もおらず、まんじゅうで作ったパトカーのような事務ロボットがつかさに向かって話しかけてくるだけだった。

 

 管理官が現場・・・・・、

 

 つかさはそこまで逼迫した状況でよくも自分を休ませたものだと管理官の正気を疑った。

 

「管理官まで現場に出るとは、新人の補充はまだなのか?」

 

「つかささん、違うんですよ。管理官ノリノリでしたよ。ジーパンにジャンバー着て、腕捲ってガムなんか噛んだりして。」

 

 ああ・・・・・、売れない芸人が中途半端に似てるモノマネでやらないよりマシとそっちに走るヤツじゃんそれ・・・・・、

 

 つかさは口ごもらずにはいられなかった。

 

「しばらく私が圭一郎の代わりに現場の指揮を執るのだろ?」

 

 とそれだけジムに投げかけるので精一杯のつかさはしかし、あっけなく打ち砕かれる事になる。

 

「いえ、私が聞いた話では、」

 

「オンションテ!」

 

 仰天するつかさ、

 いきなり後背からノックもしないで現れたその金髪のフランス語を口走る青年、しかしどう見ても顔立ちはソース顔の日本人、フランス本部だけが許されるホワイトジャケット、ラインカラーはなんと金、そのさわやかさを売って歩くように振りまく男の顔を明神つかさは知っていた。

 

「高尾管理官、パリからいつ?」

 

 つかさの疑問符をまるで無視して金髪の青年はピンクのアイテムを投擲した。

 

「トリガーマシン3号、確かに授与したよ。」

 

「これは、ありがとうございます・・・・!」つかさはまず社交辞令としてもまず感謝を述べ、それから無礼に気づいた。「大切な装備品を投げるな!いや、投げないでください管理官。」

 

 バック宙、

 戦力部隊詰め所の入り口、ミニマムな空間で何にも触れる事なく目線の高さに跳躍しつつ足を揃えて抱える形で丸まって頭という錘を上から下、そして下上に円運動させ着地、世界でもそうはできない高等技術を金髪の青年は易々とやってのけた。

 

「メルスィー。もう、ボクは管理官じゃないんだな。」

 

 なぜだ、なぜ今回った?なぜそんな平然としている?

 

 困惑するつかさをスルーして事務ロボットは挨拶をした。

 

「これはこれは着任お疲れ様です。高尾ノエル警部補。」

 

 その頭部両端から軟質に腕を伸ばし、高尾ノエルと呼んだその男の腕とがっちり握手を交わした。

 

「警部補?おい、着任とはなんだ?」

 

「ボクが、臨時の戦力部隊の補充要員さ。今後ともよろしく。明神つかさ君。」

 

 高尾ノエルと呼ばれた男は、つかさに手を伸ばす、事態が飲み込めないつかさは凝固して何もできない。

 

 警部補、この金髪野郎に指揮されるのか私は・・・・、

 

「ビズの方がいいかい?ボクの地域は4回だからね。」

 

 日本女性の拒絶するリアクションをむしろ楽しんでいるような金髪の青年だった。

 明神つかさも、そしてジム・カーターも知らない。お台場の戦いの際、テレビ局屋上に彼が登ってその戦いを眺めていた事を。

 

 

 

「さあて、次はど、れ、に、し、よ、う、か、な、て、ん、の、か、み、さ、ま・・・・」

 

 そこは東京湾岸部にある冷凍倉庫、3段12列5島のパレット棚が並び、そこに一枠一枠氷像が整理され陳列されている。

 ソンブレロにポンチョの出で立ちの一見性格の良さげな好青年が、あどけない表情で島と島の間の通路を前から後ろ、折り返し後ろから前にゆっくりと倉庫内を散索していた。

 なぜかその冷凍倉庫にあって、青年は丸みを帯びた卓球のボール大の氷を一塊、親指と人差し指で摘んだ上で時に口に入れて、前歯で少しづつ剥離して氷片を口の中で砕いている。

 

「ねえザミーゴ、イセロブの金庫も海の中からちゃんと回収してきてあげたわよ。おかげで腕が湿気っちゃったじゃないの。」

 

 氷像、その円錐の柱はそれぞれが2メートル大あり、一つ一つに光に屈折して歪んだ人間の姿が映されている、いや、あきらかにそれは氷の柱の中に人間が閉じ込められている。

 

「姐さん、そっちの金庫も修理が必要なんですかい?」

 

 ソンブレロを大きく振り回して声のする方向へ振り返る青年は、振り返った先にいるゴーシュ、あの先に快盗と警察の前に姿を顕した怪物に親しげに話しかけた。

 

「いいえザミーゴ、多少傷はあるけど、こちらはトゲーノの金庫よりもマシだわ。」

 

 ザミーゴ、青年はあの時ゴーシュと共にいたあの快盗と因縁のある敵の名前で呼ばれていた。

 

「じゃあ、早い事この中から次のヤツを選んじゃいましょう。手に入れたばかりのこいつにするか・・・・寒っ。」

 

 青年は一つの氷の柱を触れ、そしてあどけない笑顔を崩さなかった。

 その氷柱にも同じく、人が閉じ込められていた。ただ、周囲の人間達と違うところがある、ゴーグルマスクのスーツ、赤いラインの入った装甲スーツを装着しているところだ。

 

「楽しみだわ。」

 

 ゴーシュと呼ばれた女型の怪物は上品に高笑いした。

 パトレン1号、朝加圭一郎はまだ生きていた。

 

 

 

 

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