快盗戦隊VS警察戦隊に極めて近い世界線のルパンレンジャーVSパトレンジャー   作:bassher

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※この作品は『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』という素材を使って再構築した二次小説です。
※諸処設定等変更ございます。
※オリジナルのスタッフが小説という形で奮起される事を切に願います。



#3 もう一度会うため

 

 

 

『ルパンカイザーっナイト!』

 

 東京世田谷区砧公園。

 既に巨大戦が始まっている、砧の公園に墜落し公園の土砂を巻き上げたのは、どこか鶏の雛、即ちヒヨコを思わせる姿をしている。

 

「ワシの武突参流古武術を受けてみろ!」

 

 目が痛む程の黄色いギャングラーが実にコレステロール高めのおっさん臭い奇声をあげた。

 

「あいつだけは絶対に許せん、あいつだけは!」

 

 そう言うのは巨人ルパンカイザーのコクピット内で息巻くルパンブルーだった。ルパンカイザーの左腕は前回のような黄色いティルトローターではなく、まるでシールドのように黒いV字のステルス機を持ち、そしてブルー乗機のプロペラ機ガトリングの先端に、機首を引き延ばした単発音速機状の剣が握られている。ルパンカイザーは空中にホバリングして、砧公園にクレーターを作ったヒヨコのギャングラーを見下ろしている。

 

「あいつら、見た事ない新しい装備を。先程はブーメランで敵の金庫を貫通させていた。高尾主任、我々は避難作業だけでいいのか本当に?」

 

 東名高架下より覗く男女は、国際警察戦力部隊の制服をしていた。明神つかさは未だ上官に敬語を使えないでいた。

 その上官、高尾ノエルと呼ばれる白地に金ラインのスーツの佇まいは歯並びの良さと相まって、クソ嫌味なほどの“おふらんす感”を醸し出していた。

 

「オゥ、ラ、ラ、」

 

 びっくりしてみせるこの好青年は、ランエボ改の中から出ようとしなかった。

 

「つかさクン、彼等快盗もなりふり構わずギャングラーを倒したいわけじゃないみたいだね、ボクの調べでは、彼等はあの金庫の中のものを奪い取りたいらしい。」

 

「いや、そんな事は最初から解り切っている!問題は、ギャングラー退治をまるでおまえ、いや、主任は黙認しているではないですかという事でありまして!」

 

 つかさは激高のあまり言葉使いの統制がとれなくなる。

 

「じゃあ、君も攻撃すればいい。弱ったギャングラーの金庫を撃てば、通常射撃の連射でも、どうにかなるんじゃないかな。」

 

 おふらんすスマイルを崩さない高尾ノエルにつかさ、

 

 ああ、こいつとはダメだ、こいつに頭を抑え込まれるような生活を毎日やっていけない、たとえ収入が安定した高スペックでも、

 

 などと評定を内心下した。

 

「せんぱ~~ぃ」

 

 なぜ、レオタードを咲也?!

 

 つかさは唖然とした。どういう訳か非番から招集をかけた陽川咲也が緑とピンクで彩られたレオタード姿で半ベソかいてこの後におよんでやってきた。つかさは思わずVSチェンジャーに3号マシンを何度も差し損ねる。

 

 なにがあったんだ、こいつ・・・・

 

 つかさは絶句して何も言えなかった。

 

「やあ、来たね咲也くん、主任から命令だ。ただちに変身してギャングラーを攻撃したまえ。君も存分と貸しを返すといい。」

 

 こいつ、なぜ平然と・・・・、

 

 つかさは勢い斜め差ししてしまった3号マシンが抜けなくなって難儀した。

 

「つかさ先輩!ボヤボヤしてないで早くしてくださいよ!ボク先に攻撃しちゃいますよ!」

 

「煩い!解っている!」

 

 誰のせいだと、とさすがに言う事を控えるつかさだった。

 

「さあ、快盗くん達、グッドストライカーの力で対等になれた君達だが、ギャングラーにはコレクションの力の蓄積がある。一筋縄ではいかないよ。」

 

 高尾ノエルは、誰にも聞こえない独り言を呟いた。

 

 

 

『グッドストライカーぶった斬っちまえスラッシュ!』

 

 ビークルである盾だけの推力で垂直上昇、持ち上がった運動エネルギー全てを上段からの一撃に込め振り下ろす、

 

「おまえは、この私に剣を擦る事すらできん!」

 

 振り下ろしたブレードの刃の軌跡がどういうわけかピョードル寸でで蛇行、公園の地面を抉る、

 

「ウヒョウヒョ、危なかったぜぃ」

 

 ピョードルは立ち上がり、全長50メートルのベロベロバーをしてみせる。

 

「くそ、なんで当たンねえんだ!」カイリはコクピットの中で呻いた。

 

「あれだ、あの怖ろしいヤツの技は・・・・・、」トオマの声はいつにも増して憎悪で満ちていた。

 

 その公園の巨大戦をランエボ改車内で傍観している高尾ノエルは、徐に自らの黄金色に輝くロッドをとりあげた。

 

「咲也くん、この『フランス諸王の富』いや『サンダー』をVSチェンジャーに装填して撃ちたまえ。」

 

「おっ、DD51のプラレールですか?金に光ってらぁ。」

 

 某メーカーの名称を平気で口走るな。

 

「咲也くん、『サンダー』のバイザーを下ろしたまえ。バイパスして能力でなくエネルギーそのものが放出される。口だ。開いた瞬間を狙いたまえ。」

 

「この雪かきですか?」

 

 既にパトレン2号のスーツを纏っている咲也、貰った金の列車のようなVSビークルを装填、チェンジャー下に回して構え、狙い澄ました。

 

「キサマ等、バラバラ」

 

 ピョードルが大きく子音アの連語を開いたその時、

 

「いまだ」

 

「今だぁ!」

 

 VSチェンジャーから雷撃が轟く、まるでナックルでも放ったようにジグザグの軌道を描いてピョードルの開いた口内へ直撃、

 

「!!!」

 

 巨体のヒヨコが口元を両手で押さえ込み言葉にならない呻きをあげた。

 

「警察、あの2号さんがやったよ!」

 

「カイリ、これでヤツに攻撃が通る!」

 

「いくぜ!」

 

 この機を見逃さない快盗。ピョードルの言葉で踊らされていたのだから、口が焼かれればその言葉が無くなる。レッドは操縦桿となったチェンジャーを捻った。

 

『グットクルカイザーぶった斬っちまえスラッシュその2!』

 

 再び水平方向に盾を向け推進、地表ギリギリを横スベリに滑空するカイザー、

 

「・・・・(くそっ)・・・」

 

 敵が猪突するのに慌てたピョードル、大きく手を広げ、全身が緑に発光、緑が白銀に収まるとピョードル全身を包む膜となる、

 激突、

 ピョードルはその圧倒的な威力に肉体ごと持って行かれ上空高く舞い上がった、

 

「カイリ、さっきのコレクションの技だ、敵の防御が上がった、」

 

「構うか、そのまま行く!」

 

 跳躍頂点に達して重力に従い落下、その真下に、シザースの推進力で時間差で上昇してくるカイザー、ブレードで光の膜ごと横薙ぎ、上空ですれ違う、

 爆破、

 

「すごいっ」

 

「スゲー、木が!」

 

 上空で爆破するピョードル、その爆圧で砧公園の大地に土砂風が巻き、何本か植わった樹木が根本から引き抜かれ吹き飛んだ。高架下で停車させていた車両も何台か煽られ横転、ドアやルーフにひっかき傷をつけながら路面を滑った。つかさも咲也も身を縮こませて堪えるしかなかった。

 

「いやぁ、危なかったねえ」

 

 辛うじてランエボ改はひっくり返る事なく無事だったのは、細かな気流の流れがその一帯だけ比較緩やかだっただけに過ぎない。

 

「くそ、快盗め、高尾主任!攻撃するぞ!」

 

「もう遅いよつかさクン。」

 

 ギャングラーを断裂させた快盗ロボは、その慣性のままはるか上空へと飛び去っていった。

 虚しく銃口を外すパトレン3号は、主任の消極性に内心イラだった。

 

 快盗を利用するのは、今の自分達の実力からしょうがない、しかし、まるで捕まえるそぶりすらない、この男は何をいったい考えている?

 

「つかさクン、咲也クン、撤収したまえ。僕は少しこの辺りの被害状況を見て回るから。」

 

 しかもこいつ我々と真意を隠して別行動する、いったい何を目論んでいる・・・・。

 

 つかさはそれでもこの信用のおけない補充要員の命令を聞かざるえなかった。それが国際警察戦力部隊の指揮系統である。

 つかさ等2人が、降車する高尾ノエルに代わってランエボ改で帰路に就くと、残されたこの美青年は独り言を呟いた。

 

「収穫だったな。ピョードルは『七本枝の燭台』を持っていたか。」

 

 ノエルはノエルで抉れた公園の惨状を苦々しく眺めるしかなかった。

 

 

 

 『空洞の針』。

 この闇の世界に建つ洋館の中では、今もギャングラーのボスがワインを燻らせていた。

 

「ボス、もう少しで描き上がりますです。しばらくお待ちください。」

 

 カラフルなカタツムリか、かばんに食われそうなナメクジのようなギャングラー怪人が、右腕に木版のパレットを持ち、左腕のノズルに筆を差してキャンバスの前に立っていた。

 

「ボス、いかがですか先日回収したピョードルの金庫を再生したこのナメーロ・バッチョは。」

 

 相変わらずボス、ドグラニオは洋館の窓に広がる漠然とした闇を眺め、ゴーシュの問いかけに反応はない。

 

「ボス、快盗共に掠め盗られたコレクション、私に命じていただければすぐにでも回収いたします。」

 

 ドグラニオの横に直立するデストラの言葉にも、このボスには届いていないよう。

 

「ゴーシュ、」

 

 沈黙がしばらく流れ、ふと思い出したように、このボスは、デストラに目を向けた。

 

「アレは、どうした?」

 

「アレとは?」

 

 ボスの質問に質問で返さざるえないデストラは、察し切れない自分を恥じた。

 

「ホラ、あの回収しなかった金庫が一つあっただろ。」

 

「あれはボスが回収をしなくて良いと私に直接、」

 

「デストラ、おまえを責めている訳ではない。」

 

 言い訳をしてしまった、とデストラは内心自分に舌打ちした。

 

「ただ、そろそろ遊ばせておくのは勿体無いという事だ。」

 

「あの金庫は警察の手に落ち、いままで奪還する事もなく放置しておりました。ボス、私の落ち度でございます。」

 

「ハハハ、ボス、それなら、デストラでなく、私に言いつけくださいまし。」

 

 ゴーシュは寄り添って肘をボスの肩にもたれかけさせてきた。ドグラニオはというとそれを不快に思っていないようだ。ほくそ笑んでいる。

 

「ゴーシュ、どうせザミーゴあたりにでも言いつけるのだろうが。」

 

 などと言うか言わないかというタイミングで騒ぎ出すカタツムリの怪物だった。

 

「いいね~!ボス、完成でありますです!このナメーロ・バッチョ一世一代の傑作であります!!」

 

 キャンパスを自身から表裏ひっくり返してみせる、その時になってはじめてカタツムリギャングラーの絵を観る事になったボスをはじめ左右の幹部は意識が飛んだのかという程凝固した。

 それはアクリル塗料独特の光沢に彩られていた、顔と四肢はむしろ人間のそれ、いや顔面の三分の二が両眼で占められる人間など絵に描いた世界にしかない、およそ肉感などない絵面としての見やすさのみ追求した6等身、重心もへったくれもないビキニルック、なぜか幼女型の体形、触角のように伸びる栗色の2本の毛、ドグラニオの意匠は僅かに頭の冠と肩がけされたマントのデザインのみ、その奇妙な絵面が片足を跳ね上げてウィンクし、火の粉のように星が飛んでいる。

 

「ドグラニオ様の肖像画であります!いいねえ~!!」

 

 右のデストラ、左のゴーシュはまずボスの顔を見つめ、次いで絵に視線を向け、再度ボスの、その表情を読み取ろうとした。

 

「ん・・・・」

 

 ドグラニオからはなんの感情も読み取れない、ただ肩アーマーである何層ものバズソーをコツコツと持っていた杖の柄で撲っていた。

 まるでキラキラと光る砂金を蒔いたようだった、

 

 ギャァァァァァイイイイイ

 

 金切り音と金切り声が一斉に上がったかと思った刹那、ナメクジかかたつむりかの化け物の体は削り込まれて視界から失せていき、代わりに床一面に液状化した粘着質の物質が広がって、その真ん中に銀色の金庫がゴロと落ちた。いったい何が切り刻んだのか、いくつなのか、目視で捉える事ができない。

 

「ザミーゴに言って次の肉体を用意させろ。」

 

 ボスはそれだけ言った。

 当然巻き込まれる形でキャンバスもチリヂリの切れ端になっていた。

 

 

 

「ですから!快盗は即逮捕すべきです!」

 

「でも彼等の力はギャングラーを倒すのに、現時点でもっとも有効だからね。」

 

「その力は!そもそもグッドストライカーは我々の装備品です!」

 

「取り返すのもいいが、あれは君らトリガーマシンを持つ人間が3人必要だ。今の君達では宝の持ち腐れだ。」

 

「それは技術屋のおま、主任がどうにかできる問題だろ!」

 

「それができないからこうして、彼等を利用する選択を現場指揮者としてとっている訳だ。明神巡査部長。」

 

「奴等の家屋損壊が日を追う毎に増加している!そのデータを知らぬ訳ではあるまい!」

 

「ああ、それは問題だが、君達がたとえバイカーやグッドストライカーであの巨大ギャングラーを撃破したとしても、同じ程度の被害が出るだろうね。」

 

「我々はまだ労災に入っている、快盗共はこの損壊を賠償していない!」

 

「労災保険なんて些末的な言い訳だね。それはつかさ君自身、自覚できていると思うが。」

 

「つかさ先輩、圭一郎先輩みたいですね最近。」

 

「うるさい!圭一郎がいない分、誰かが規律を重んじなければだな!」

 

「つかさくん、僕も悪かったと思ってるよ、圭一郎クンのご両親への報告は、君が適任だと思ったが、僕や管理官もいっしょにいけば良かった。君1人損な役割をさせてしまって。」

 

「私は!そんな事一言も!!!」

 

 国際警察戦力部隊詰め所は毎日のように高尾ノエル主任と明神つかさの口論から始まる。大概は同じ事の繰り返しであり、大概は同じように尻すぼみで終わる。

 

「あのー・・・・みなさん、ギャングラーが出現です・・・・」

 

 今回の水入りは、戦力部隊のマスコット、もといオペレーターロボであるジム・カーターによりもたらされる。イスを回してディスプレイから振り返り、斜め45度から3人を見やった。

 

「場所は、ジム・カーターくん。」

 

 掌を捻って情報を手招きする主任警部補。

 

「大田区羽田空港です、あと・・・・」

 

「ジム!なんだその言いにくそうな態度は、まさかもう!」

 

 半ばつかさのこの手のヒステリーの八つ当たりを被りたくないが故であった。

 

「ハイ、既に快盗と戦っているとの事です・・・」

 

 と言い終わるのも聞かずつかさと咲也は色めき立って室外へ飛び出た。ただ1人、高尾ノエルはじっと事務ロボットのナノマシンの塊であるジェルアームの動きを眺めやっていた。

 

「状況をもう少し詳しく聞こうか?ギャングラーは何の為に国際空港に現れたんだい?」

 

「ハイ、主任。ギャングラーは空港に現れて、国外便一機をなんらかの攻撃で墜落させた模様です。滑走路に落ち炎上し空港機能が麻痺状態、降りられないジャンボ3便が上空旋回中ですが、燃料が尽きるのも時間の問題かと。」

 

「消火と救助は?」

 

「それが、ギャングラーの為に不可能と思われたのですが、快盗達に絡まれる形で、動きを鈍らせ、空港消防隊が鎮火してドクターヘリなども無事着陸したそうです。」

 

「そうか、やってくれてるか。ならば上空の3便、横須賀でも横田でも話を通して誘導してくれたまえ、僕の名前を出せば、承知してくれるはずだ。」

 

 高尾ノエルはウソ臭い笑顔をジム・カーターと入れ替わりコーヒーカップを持って室内に入ってきた管理官に向け、さらにウィンクまでした。

 

「オー、フランスじんハどうせいニモきかいニモアイソ、ヲフリマク。」

 

 

 

「ルパンレッド。」

 

「ルパンブルー。」

 

「ルパンイエロー。」

 

「快盗戦隊!」

 

「「「ルパンレンジャー!」」」

 

 快盗3人は、羽田国際空港管制塔屋上、地上から115,7メートルの高さの円形の大地に立ち、その銃口を眼前の一つ目のコブラの顔面だけ切り取って四肢を伸ばしたような、あるいは巨大なコブラの頭が、黒タイツの人間を上から呑み込んで下半身だけ表に出ているように見えなくない、ギャングラー怪人に向けた。

 

「おのれ!オレ様の腕をどうしてくれるんだ!イテえジャネえか!」

 

 まずイエローがサイクロンをチェンジャーに装填してブースト攻撃し、両腕を寸断、この激痛で、ギャングラーは金庫のエメラルドの光彩を消す事になる、

 

『1、0、6』

 

 次いでいつのまにか床面スレスレから滑り込んだレッドが自身のダイヤルファイターを金庫に押し当てた、

 

『シザー 9、6、3、快盗ブースト!』

 

 そしてブルー、先日エックスより頂いた『シザー&ブレードダイヤルファイター』をチェンジャーに装填、銃身を捻ると、サイクロンのそれとはまるで違う様態を見せる、左腕にはシザーファイターのシルエットを模したV字の盾が出現、そして背負っているのはブレードファイターが両翼を伸ばしたかのようなブーメラン、それは一発の必殺砲ではない、継続的に力を発揮できるオプション装着であった。

 

「くそ、これじゃオレがマヌケジャネーか!」

 

 このギャングラー、頭が冠かチューリップの開いた花びらのようになっている、その中心から次々とエビフライの形をしたミサイルを打ち上げ、照準された3人の快盗に向けて軌道を修正していく、

 

「効かんな。」

 

 ブルーはその場に立ち尽くした、無数のエビフライミサイルに立ち往生した訳ではない、レッドもイエローも咄嗟にブルーの背後に回った、従って全弾、ブルーはその正面からまともに食らう事になる、しかし、ブルーは微動だにしない、その十数本の至近炸裂の熱圧にもなお動じない、なぜか、その黒光りする盾のおかげだ。

 

『1、0、6、いただきストライク!』

 

 腰につり下げたチェンジャーのダイヤルを回して背のブーメランを投擲するブルー、

 

「オレがこの程度避けられねえと思ってんジャネーだろうな!?」

 

 宙を旋回するブーメラン、その旋回の軌道を一つ目で眺め、寸でで躱すジャネーク、ジャネークはさらに隠し玉の目からのビームを放つ、

 

「効かんと言った。」

 

 なお不動で弾き返すブルー、全ては新アイテムシザーの防御力の為せる技、

 

「ボーと突っ立ってんジャネーぜ、」そうして背後を旋回してくるブーメラン特有の挙動を事もなく躱すジャネーク、「まさかネタが尽きたんジャネーな?!」

 

 上気するギャングラーにブルーは整然と応えた。

 

「おまえへの攻撃は、既に終わっている。」

 

「ジャネァァァァ」

 

 突如叫びを上げるジャネーク、ブーメランの軌道を躱した直後、どういう訳か躱したはずのブーメランと全く同一形状の物体が、ジャネークの後背から腹部、金庫の扉をまるで透過するように潜り抜け、さらに旋回して未だ宙を旋回する同一のブーメランと並走し、次いで重なり合い、一体となってブルーの手元に戻ってくる、握りと反対側の刃に光球を帯びている、ブルーがそれをもぎ取るように手にすると光が消え、車の操作盤にステアリングが生えたようなアイテムが現れ出でた。

 

「ルパンコレクションゲゥトーっ」ワシャワシャとハシャぐイエロー、

 

「さあて、敵がデカくなるターンってヤツじゃん。」レッドはグッドストライカーを片手に握った、

 

「最初の頃がウソのようだ、こうもあっさり全て片付くんだからな。興ざめする程だ。」

 

 ブルーはそして、首を下から上へ動かしゆっくりと仰ぎ見ながら、VSチェンジャーに再度同じ漆黒のダイヤルファイターを装填した。

 

「キョダイモンガァァァァァ!」

 

 コレクションのエネルギーによるギャングラー怪人の巨大化が起こった。

 

「おいら、最近おまえ達になんだかグッとこないんだけどなぁ~」

 

 レッドの握るコレクションの一つは、最近の使い回され方にやや苦痛を感じていた。

 

 

 

「遅かった、既に敵は巨大化をはじめている!」

 

 3号は後部座席にあって身を乗り出して羽田の滑走路の惨状を眺めやった。

 

「最近、いっつもそうっスね!」

 

 ランエボ改のステアリングを握る2号も器用に見上げながら鉄柵を潜った。

 

「あれは『夢中にさせる』か。」ノエルが呟いたフランス語は2人の警察官には解釈できなかった。「つかさクン咲也クン、今は空港被害の救難活動を優先、ギャングラーを快盗が引きつけてる間に、救助できる人命を尊重するよう。」

 

 空港は騒然としていた。まず目に入る黒煙をあげて垂直に立つ旅客機は前半分が半ば崩壊している、当然航空燃料による火災が収まらないが群がる赤色の消火車両がその猛威を辛うじて抑え込んでいる、中の人間はどう見ても絶望的だが、あるいは、空港滑走路のダメージと旅客機の破損から見て落下速度がさほどでなかったのかもしれず、それは半ば願望に近いが、少しでも人命が救える可能性があるなら、瓦解寸前の旅客機への困難なアプローチを頭に入れない訳にいかなかった。

 

「引きつけてる?我々は快盗のサポートではない、私は行きます主任!」

 

 圭一郎ならそうする、私が、圭一郎の役目もやらねば、

 

 しかし3号は大災害に対して敵の殲滅を優先、快盗達がビークルを巨大化させるのを見上げながら、自らもVSチェンジャーにバイカーを装填した。

 

『位置について、ヨーイ!ハシレハシレハシレ・・』

 

「つかさクン、君のトリガーマシンもバイカーも障害物撤去にもってこいなんだけどね、」

 

 といいつつも高尾ノエルは無理に引き留める風でもなく、あるいはやらせてみたかったのかもしれない。

 

『出動ゥ!縦横無尽!』

 

 VSチェンジャーより射出されたトリガーマシン、瞬く間にその容積を拡充し、路面の横幅ギリでそのボディを直進させる、3号は即座に乗り込んで前輪を跳ね上げた。

 

「しょうがないな。」

 

 バイカーとその背後に浮かぶ快盗達のダイヤルファイターの巨大化を眺めながら、高尾ノエルは車内後部座席から2号に命令を下す。

 

「咲也くん、君のトリガーマシンで救命士達を塞ぐ障害物を、」

 

 だが咲也、パトレン2号はそれどころではなかった、

 

「もしもし兄ちゃん、兄ちゃん!え?どうしよ、兄ちゃん!ノエルさん!大変です、今兄ちゃんが、あの落下した飛行機の中にいるんです!」

 

 2号は運転中何度もあった着信を、停車した今ワイヤレス操作でバイザーに直接リンクさせ見聞きした。留守電には陽川家長男の毅然としながらも身内が聞けばやや力の無い事が判る声でメッセージが入っていた。それは家に残った男子として正式に家名を襲うよう咲也への遺言と言えるものであり、現在の倒立した機体の内部状況を詳しく説明したものであった。墜落は怪人のなんらかの力で突如機体制御を失った事、辛うじて胴体着陸し、その後胴体が半ばで折れ、後部が跳ね上がって刺さったような態勢になり、現時点微細なバランスでキャビン後部の客達がシートベルトを頼りに長時間釣り下がっている事、折れた前半部は破砕によって確認できずキャビン前半部に集中配置していた搭乗員とも連絡がつかない事が記録されていた。

 

「さすが警視庁捜査一課の有名人だね。的確にして役割を心得てる。」ノエルはそんな他人事のように呟いた。

 

「兄ちゃんが!兄ちゃんが!」2号はマスク越しに半狂乱になっていた。

 

「Un peu de calme!いいかい、今こそパトレン2号の君の力を活かす時だ。まずはボクの通り繰り返したまえ、パトレン2号はお兄さんを助ける、さあ、」

 

「パトレン2号は兄ちゃんを助ける、」

 

「もう一度、お兄さんを助ける、」

 

「兄ちゃんを助ける、ボェェェェ!」

 

「そうだ、君が、トリガーマシン2号の砲撃で障害物を破砕し、優れた防御力のそのスーツで救命士達の動線を確保する、思うままその腕力で通路をこじ開けてきたまえ。」

 

「ボエボエぇぇぇ!」

 

 パトレン2号は気を吐いて未だ火災渦巻く滑走路に駆け出していった。高尾ノエルはその姿をややほくそ笑みながら見やった。

 

「国際警察の人間はどうしてこう頭が、シンプル、なんだろうね。圭一郎クン不在でもこれだ。」

 

 

 

『ゴオォォォ!グ、グ、グ、グッドぅ!』

 

『レ、レ、レ、レッド!』

 

『サ、サ、サ、サイクロン!』

 

『シ、シ、シ、シザー!』

 

『快盗!ガッタイム!!』

 

 快盗達のVSチェンジャーから射出され、容積を幾倍にも拡充させるシャークノーズの戦闘機、後追するのはいかにも攻撃的フォルムの紅い戦闘機、ライムのヘリ、そして漆黒のステルス機、同じく寸法を拡充させ、背面飛行に入るシャークノーズに並び飛ぶ、

 

『縦横無尽!』

 

 しかしそこへ、漆黒のステルスを下方向から追突してくる物体があった、なんと同一スケール比に巨大化した2輪車両、警察のトリガーマシンだった。

 

『完成ルパンカイザーサイクロンバイ、バイカー?』

 

 なんと快盗のダイヤルファイターで構成される巨大ロボの右腕だけが、警察特有のサイレンランプを備えた、巨大なタイヤを掌に抱えた皚々たるモノに差し替えられていた。

 

「いつものように倒すぞグッデ・・・ん?」レッドはしばらく違和感に気づけなかった。

 

「あ、いらっしゃい・・・お!」イエローは2度見してしまった。

 

「いや、まさかこうなるとは・・・・いやいやいやキサマ等!度重なる犯罪の数々、騒乱罪、器物破損、家屋損壊、そして我々のグッドストライカーを窃盗した罪で逮捕する!」

 

 驚いた事に、いつものルパンカイザーのコクピットの内部では本来乗座しているはずのルパンブルーの席に、なぜかパトレン3号がそのまま素通しされてきた。レッドは両手に花を堪能する事も無く、とにもかくにもパトレン3号が構える銃口を上角に向けた、

 

「落ち着きなつうの、こんなとこで撃っても中を飛び回るか穴が空くだけだっつうの、」

 

「そだよ、グッディ可哀想じゃん!」

 

「煩い、愛称なぞつけおって、これは国際警察の装備品だ!」

 

「目の前見ろっつうの!」

 

 もみ合うレッドのアゴで差した先、コクピット前面モニタには依然あのコブラの首に四肢が伸びたようなギャングラーが隻眼でこちらを睨みつけ、ビームが今にもルパンカイザーを射貫こうとしている、

 

「とりあえずあのバケモノぶっ倒してからにしようよおねえさん!カイちんでしか巨大ギャングラー倒せないんだから!」

 

 女同士という事なのか、イエローの一言でやや迷う3号の目に敵の隻眼の光が指向的にこちらに伸びてくる様が飛び込んでくる、

 

「危ないちゅうの、」レッド、3号を両腕で抑え込みながら、小器用に片足でロボの巨体を操作、辛うじて敵の閃光を躱す、「警さっちゃんどうするよ、いつもの台詞いいなよ、ギャングラー殲滅を?」

 

「ギャングラー殲滅を!」

 

 レッドとイエローが続けて吼え、エビフライミサイルの直撃を無防備に受けるカイザーの震動も相まって3号は妥協せざる得なかった。

 

「・・・・・うう、優先する・・・・今回だけだぞ、いいな快盗・・・・」

 

 マスクで隠れているが、3号は顔を赤らめた。

 

「イタイイタイ、早く避けてよ、イタイのよ!」

 

 コクピット内に嬌声が轟く、グッドストライカーは今敵からの大量のミサイル攻撃を満身に受けている、

 

「いくぜギャングラー!」

 

 レッドはレバーを握り回避行動に入る、

 

「激突するぞバカモノ!」

 

 右側転した先に建造物がある、3号が気づいて咄嗟に右手先を勢い滑走路に叩きつけ、その巨体をやや上方へはね上げる、

 

「落下するよぉ、どうしてぇ!?」

 

 22番ゲートを北から南へ高飛びする軌道でそのまま上昇しようとするも、なぜかバランスを崩してコンクリートに叩きつけられるカイザー、

 

「そのまま分解ジャネー!」

 

 イエスなのかノーなのかもはや分からないギャングラーの手先が振るままに、レッド達が操作しないのに立ち上がるカイザー、そのままなぜか両手を左右交互に振り上げる盆踊りをはじめた。

 

「くそ、これはあいつのコレクションの技、」

 

「これじゃ手も足も出ないよレッド!」

 

 カイザーのコクピットでは激しい横揺れに半ばパニックと化した、

 

「おまえら、なんとかならん・・・・なんだノエル今頃、後で始末書はいくらでも・・・撃てばいいのか、分かった、やってみる!」そうして3号が揺れるコクピットの中立ち上がって銃を抜く。「快盗、この前面を破壊してヤツをこいつで狙う、少し破片が飛び散るが勘弁しろ!」

 

 通信でノエルがつかさにした助言は、トリガーマシンで金庫え狙え、であった。

 

「壊す?!いやいやそれなら必要ないっしょ、」

 

 レッド、およそ早合点に近いものの、コクピット前面をスライドし、コクピットに低い気圧の冷たい風が吹き込んでくる、もしそこまで敵に操作されていればと頭が回らなかった事がむしろ幸いした即応だった、

 

「動くんジャネー!」

 

 もはやニュアンスがでたらめなな物言いのジャネーク、眼光が一際輝いた、

 

「快盗、マントがうっとおしい、どけろ!」

 

 乱射乱射乱射、

 

 射撃精度を求めないで数で膜を張ろうとする3号、レッドのマントが視界にちらつくのも構わず、1発めはジャネークを素通しし、2から10発めは肩を擦り、11発めで目元直撃、怯んだジャネークが俯いた事で金庫が真正面に向かい合わせとなり数発を直撃した、

 

「感覚が戻った、」

 

「カイちんいくよぁ!」

 

 金庫からの力を無効にして今右腕を振り上げるルパンカイザー、

 

『グッとくるヨォーヨー!』

 

 吼えるルパンカイザー、吼えてバイカーの右腕を振り抜くと掌に包まれたような前輪が射出、前輪にはリールが繋がっており、右腕の微細な稼働で絶えず角速度を保存する分銅となる、ヨーヨーはジャネークの反撃を許さず連撃を繰り返し、ダメージの累積は巨大ギャングラーの動きを完全に封じる、

 

『グッとくるた、つ、ま、き!』

 

 続いて左腕の2枚のプロペラローターから発する巨大竜巻が、まるで大蛇が蛇を丸呑みするようにジャネークを包んで上空に舞い上げた、

 

『グッとくる、スピィィィィン!』

 

 ルパンカイザー、両腕を水平に伸ばし跳躍、両足を揃え、体幹を軸に回転、その足先からは飛行形態時のノーズを突出させ、全身をドリルと化して上昇、

 刺突、宙にあって風穴が空くジャネーク、落下しない、そのまま宙にあって、一拍、二拍、三拍、爆破、火球が広がる、広がった火球が重力降下、空港滑走路に落下し、尾を引いて跳ね上がり、それがさながらキノコ雲のようになる、

 

『ブイっ!』

 

 謎の威勢を上げていきなり全分離するルパンカイザー、

 

「オイラ、なんだかもうおまえら快盗と遊ぶの飽きたぜ、じゃあな!」

 

 そのまま立体を大幅に喪失させ、グッドストライカー、夕陽の彼方に消えていった。

 

「おいおまえこら!」

 

 レッドもイエローもグッドストライカーに強制的に各ビークルに戻され半ば放り出された。

 

「グォォォォキサマ等ぁぁぁぁ!」

 

 3号などはさらに悲壮だった。宙にあって落下し、コクピット内で上下左右に跳ね返っては衝突を繰り返し、空港滑走路に横倒しになった時は、内部でほぼ失神していた。

 

「圭一郎がいてくれれば私がこんな事・・・・」

 

 

 

「警察のマシンだと!」

 

 ケツから激突され姿勢をどうにか取り戻した時には、既に警察のビークルにカイザーの半分を乗っ取られた事を痛感したブルー、もはや手をこまねいて上空を旋回する状況に陥っていた。

 

「ああなったらカイザーは使えん、あのギャングラーをオレが・・・・いや何!?」

 

 しかし単独で虎の子のシザー&ブレードが戦うというケースに至るという事はなかった。ブルーの視界には映ったのは、墜落し、半ば刺さるように倒立した民間航空機、2体の巨身の喧噪、国内便のバランスが崩壊しつつあるのを目に留める、

 

「くそオレはこんな事をする為に、」

 

 このままでは、尾翼寄りの人間は三階層以上のビルから落下する衝撃に見舞われる、咄嗟にレバーを捻るブルーの機体は、シザーのアームパーツを展開、その名の由縁である先端2つの水平翼をV字に開いて、今にも倒壊しようとするジェット機下部に宛がい、偏向ノズルを浅く下角に向け支える、サイクロンやイエローダイヤルファイターのようなプロペラローターでない機体にホバリングに近い機動を与えるのは、パイロットの手腕一つにかかっている、ただ支えるのではない、支えた尾翼から本体が脆くへし折れないよう、ゆっくりと降ろしホバリング状態を保つ。まこと至難の技だった。

 

「あれは、」

 

 五感をスーツが賄い、平常なら腕の先からはぼんやりとしか認識できない視力も、コクピットから旅客機の幾層もある窓ガラスのさらにその奥の人間の認別と表情を読み取る事ができる、

 

「あれは、お義父さん・・・」

 

 ルパンブルー、宵町トオマは、こんな時に顔見知りを目に留める、婚約者だった大平彩の父である、大平透という。

 

 

 

 ボエホエボーーーーー!

 

『出動ゥ!百発百中!』

 

 トリガーマシンを巨大化させたパトレン2号、

 

「コクピットから避難してください!撃ちます!」

 

 その時、既に旅客機は倒立から快盗マシンの手で正常着陸の態勢になっているものの、その前面、機首周りは墜落の衝撃で滑走路面が抉れて盛り上がり壁を作っていた。

 マシン前面の短筒砲を展開する2号、コクピットを右から左へ貫通する粒子砲、盛り上がったアスファルトごと破砕、旅客機前面部内部が露出する

 

「ボエボエボっっっ!」

 

 転げるように2号トリガーマシンから飛び出す、4つの瓦礫を力づくで破砕し、3つの扉を力づくで突破して救助隊の動線を確保したパトレン2号、

 

「兄ちゃんを助ける、兄ちゃんを助ける、兄ちゃん!兄ちゃん!」

 

 2号は照明の落ちた客席の中、ゴーグルの性能だけで状況を識別する、共に入ってきた救助隊は、まず客室乗務員のシートベルトを大型のボルトクリッパーで強引に断ち切って動線を逆に誘導する、

 

「あれが噂の国際警察、ネットが正しければ緑は、咲也なのか!」

 

「兄ちゃん!いた兄ちゃんすぐに」

 

「煩い!おまえも警察官だろ!オレじゃなく、市民の安全を優先しろ!」

 

 2号、陽川咲也は客室後方にあって、足を引きずりながら動ける乗客の誘導をしている男を見止めた。兄の名は陽川誠、ややロン毛センター分け、やや先割れのシャクレアゴの青年は客席にたまたま同乗し、そしてこの災害に機内で孤軍奮闘していた。

 

「彼は陽川誠よ、決して逃げた事のない男よ!」

 

 被災者のアテンダントの女性が担架で運ばれながら陶酔した目つきで叫んだ。

 

「ボクが支えています!救助の人は早く避難を!」

 

 その彼の兄がストレッチャーで運び出されるまで、パトレン2号は客席の動線崩落を1人食い止めていた。

 

 

 

「やはり、断るべきか。カイリなら、そうするだろうな。」

 

 ルパンブルーは、ダイヤルファイターから飛び降りて空港外殻、人気の無いところで除装、宵野トオマは顔で風を感じた。

 トオマという民間人がこの場、災害発生現場に土足で踏み入っているのは不自然である。それをトオマは十全に理解できる。

 

「車に、誰も乗っているなよ。」

 

 そのトオマの眼前、空港ターミナル内に入る為には、あの国際警察の見慣れたランエボ改を横切らなければならない、そしてトオマには見えないがもし、中に搭乗者がいれば、余計なボロを出してしまうかもしれない。そうなる前にあらかじめこちらがイニシアティブを取る形で断りを入れた方が良いのではないか。あるいは、カイリならば息を吸って吐くように方便を捻り出すのだろうが、トオマという人間はそこまで機転はない、いや人間性で言えばトオマの方がマシなのだが。

 

「すいません、墜落した便の中に、知り合いが乗っていて、安否を確認したいんですが、通して貰っていいですか・・・・・、おまえは!?」

 

 意を決したトオマは自ら公用車にアプローチをかけた、が車内にはトオマにとって意外過ぎる人物の顔があった。

 

「やあ、一番最初に見つかったのが君とは・・・ね。」

 

 執拗にウソ臭い笑顔を振りまく高尾ノエル、しかしトオマ達はその人間を別の名で呼んでいた。

 

「エックス・・・・警察の人間だったという事か・・・オレ達を」

 

「ノンノンノン、君ならそういう反応すると思っていたよ。まあ、手短にしか今は言えないが、実は、国際警察内のコレクションを取り返す為にこうしてパリ本部の人間とすり替わったという訳さ。」

 

「オレ達に黙ってか!」

 

 トオマは疑問を払拭出来ないでいた、何よりあらかじめ用意したような言い訳をされた印象を拭えなかった。言動があまりに軽い。

 

「まあまあ落ち着きたまえ、行動を秘密にするには、できうる限り漏らさない事、君達がそれを知って連携を取れば、それだけで尻尾を掴まれる率が上がる、そういう事さ。」

 

「じゃあ、さっさとあの警察のマシンのセキュリティを解除しろ、技術屋だろ!」

 

「ところがね、ボクもあのトリガーマシンのセキュリティには手を焼いているのさ。潜入してみたものの、奪還する機会がなくて、こうして警察をしているのさ。」

 

 ハハとウソ臭い笑顔をたやさないエックスにトオマは業を煮やした。

 

「・・・・ええい、今はおまえは後だ、通してもらうぞ!おまえが許可した事にしろ!」

 

「民間人がこんな、」

 

 というノエルの制止を振り切るようにトオマは空港ターミナル内に押し入っていった。

 

「彼で幸いだった、まだ騙しやすいタイプだから。トリガーマシンのセキュリティをボクが仕込んだと言ったら、絶対怒るだろうな。」

 

 高尾ノエルという男の見つめる先はいったいどこにあるのだろうか。

 

 

 

「突然だった。最初は乱気流に入ったというアナウンスで安心させようとしたようだが、どの客も数分で機体がヤバいという事が判った。後はパニくった乗客を諫めて逐一シートに固定して回って、ボク自身はこの通り、胴体着陸の衝撃で名誉の負傷さ。」

 

 空港フロントに仮設収容所を設置、キャプテン、コパイロット、アテンダント、そして乗客を一度全て集めて、日本警察と国際警察の捜査部門が聞き取り調査をはじめていた。当事者に身内かどうかは関係ない。警視庁捜査一課所属の陽川誠に対してその態度を日本警察は崩さなかった。ただ、国際警察戦力部隊のあるメンバーは露骨に私情を発露した。

 

「兄ちゃん!兄ちゃん!」

 

「ほ~らほらほら、興奮するな興奮するな。」

 

「お・・・・お・・・・」

 

 陽川咲也はスーツを除装して担架から下ろされ足を急ごしらえで固められている兄、誠に駆け寄って頭からすり寄った。誠はそれに慌てる事もなく、咲也の盛り上がった頭髪を両腕で抱えるようにして撫でつけてなだめた。

 

「ムチャしたらダメじゃないか兄ちゃん!」

 

「なぁに、オレがどうなっても大丈夫だ、陽川に男子はもう一人いる、おまえが継げば陽川は続く。」

 

「兄ちゃん・・・・お・・・お・・」

 

「よぉしよし、最近毛並みが増えたなおまえ。」

 

 頭からすり寄ってくる咲也に陽川誠は髪を撫で、そして顎も撫でてやった。

 

 

 

「犬かあれは、あの刑事の兄?」

 

 それを気まずそうに眺めるトオマ、たとえ少しばかりでも知り合いのあのような姿は正視に耐えない。

 

「実は実家で虐待されてたんじゃないのかあのセンパイ・・・・」

 

 空港仮施設に紛れてブルーシートの上を闊歩するトオマの視界に、顔見知りの夫婦の姿が飛び込んでくる、言葉を失うトオマ。

 

「なんだこんなところに」

 

 感謝の意を示す奥方と真反対にまるで激高したかのような野太い声で割腹の良い熟年男性がトオマを睨みつけた。

 

「ご無事でしたか、お義父さん、ご無事で、良かった。」

 

 彩も喜ぶでしょう、という言葉を咄嗟に呑み込んで緊張を露わにするトオマだった。

 

「私は、おまえの父ではない!!」

 

 あの時と同じ事を言われてしまったトオマだった。

 

『申し訳ありません。彩を失ったのは全てオレ、私のせいです。』

 

 トオマの記憶がぶり返す。大平彩を失ったあの時、両親への報告の義務を通したトオマの性格はそうとしか言えなかった。トオマの中では、あの12月24日、大平彩をあの場所に立たせたのが自分であるとしか言えなかった。

 大学にて教授を務めている彩の父、大平透は、ちゃぶ台を挟んで浴衣で正座していたが、持っていた湯飲みをトオマにぶちまけた。

 

『おまえは!ワシから娘をどうしても奪いたいのか!』

 

 後で奥方から、いつもはあんな人ではないんですけどね、と耳打ちされたものの、その時の大平透の激高は凄まじく、娘を失った哀しみにどういう理屈をもってしても納得させる事はできなかった。全てをトオマのせいにしなければやりきれない感情の発露を受け止めただけで、以降義理の親となっただろうこの熟年夫妻に会う機会を失った。

 

「ワシらの事は放っておいてくれたまえ、君の顔を見ると娘を思い出す。」

 

 それでいい、それでいいんだ、

 

 トオマはそう思った。大平彩が氷漬けになって喪失したなどと言っても信じてもらえないだろうし、まして雲を掴むような方法で取り戻そうとするなどトオマ自身夢想に近いと自覚している。今は理不尽な感情の捌け口に甘んじて憎まれているのが相応しい、そう思った。

 

 オレは彩の両親を失ってまた同じ後悔をしたくなかったから、安否を確認しに来たのか、

 

 今頃になってトオマはなぜ自分が無謀な行動に出たか分かった気がした。

 

「おっ、こんなところで会うなんてトオマ君、奇遇だな。何、知り合い?こんにちは、ボク、トオマ君のパイセンで国際警察やってます。」

 

 その臭い肩をどけろクソ犬め!

 

 なんとそんなトオマに陽川咲也が気づいてじゃれついてきた。トオマの肩に腕を回していきなり密着してきたのである。トオマの不快指数はいきなり振り切れた、が、顔に滲み出る程度に抑えた。努力と忍耐の人宵町トオマであった。

 

「飛行機事故の被害にあったのを知って、その、心配でここに無断で入りました。申し訳ありません先輩。」

 

「そうなんだぁ!いいよいいよカワイイ後輩の頼みなんだからボクが全部オーケー出したって言っておくよ!」

 

 誰もクソ犬に頼んでない、

 

 仮にも陽川咲也は国際警察の目立つ制服を着用している、それがトオマに絡んでいるのである、大平夫妻が訝しむのも当然だった。奥方の方が旦那に顎で促され、知り合いか、トオマが何かしでかしたのか聞いてきた。

 

「いやいや、ボクこいつの先輩なんですよ、古武術の。ボクが世話してやってて。ハハハ。」

 

 奥方から数歩離れてブルーシートにあぐらをかいていた大平透は、銀縁のメガネを光らせて、その間合いを全く意に介さない通った声で咲也に問うた。

 

「彼は警察の君に相談していたのかね?」

 

 それはやや勘違いの向きがあったが、咲也は気にせず笑い飛ばした。

 

「まあ、そうですね!」

 

 おいおいおい、いったいこいつはどこまで調子がいいんだ、

 

 トオマの目の奥の炎をまるで感知しない咲也はそのまま続けた。

 

「バリバリ相談に乗っていますよハイ!」

 

 そんな咲也とトオマを見比べて、大平彩の父は何を思ったか、咲也の方に頭を少し傾けた。

 

「娘を、よろしく頼みます。」

 

 父親はそれだけ絞り出した。

 

「ハイ!お任せください!」

 

 咲也、この時大雑把にしか相手の言う事を聞いていなかった。どこかのズレコントを見せつけられたトオマは当然困惑して両者を交互に見返した。

 

 なんなんだ、こいつ、こんな事で人生渡っていいのか?

 

「お二人共無事で何よりです、それだけ見れれば十分です、失礼します。」

 

 そう言って即座に回れ右をし、咲也を強引に引っ張って空港ロビーを出るトオマだった。

 後日の話であるが、その後奥方から一度連絡が入り、娘の手がかりとトオマの身体を労る言葉だけを貰った。

 

「これが肩書きというヤツ、なのか?」

 

 快盗という世間に顔向けできない肩書きのトオマにとって世間はまだまだ理解し難く、隣にいるこの男にしても、迂闊に侮ってはならない、のかもしれない。

 

 

 

「どうすればいい、なぜ死んだ圭一郎。」

 

 気がつくと滑走路上を投げ出された明神つかさがいた。既に除装し、トリガーマシンもミニサイズに戻っている。意識が覚醒していくと右腕から肩にかけて血流が流れる程に痛みが走る、祖父に鍛えられた防衛術がこの時も働いたという証左だ。

 

「おまえがいなくなって、私が全部、全部やるしかないではないか。せめて悟でもいてくれれば。あの2人とどうやっていくんだ、圭一郎、おまえはどうしていく?国際警察をどうしたい?」

 

 朝加圭一郎が消えてから、それほどの日時は経っていない。

 

「高尾ノエルは、グッドストライカーの説明書に巨大化もトリガーマシンとの合体も何も明記してなかったな、あいつ、何を企んでいる・・・」

 

 が、高尾ノエルがやってきて、否応無く圭一郎ナシに戦力部隊が稼働しはじめた、それでいて圭一郎がいなくなって決定的に成果が上げられない。

 

 私は元々生活の為に戦力部隊に入ったのだ、こんな役割は、圭一郎がやればいいのだ、なぜそんな重荷を私が負わねばならん、

 

 アナタの仲間の刑事さんもワタシ達がコレクション集めて、取り戻してあげるから!

 

 明神つかさ、様々な想いが浮かんでは泡と消え、そして最後に残ったのは、あの、黄色い快盗が言った事だった。

 

「私は酷い女だ、圭一郎を失う事よりも自分の負担が増える事を悔やんでいる、あの快盗の女の言う事をアテにして、自分の甘えを肯定している。」

 

 空港災害は、快盗が敵を抑えた事で、収束を迎えつつある。国際警察戦力部隊パトレン3号明神つかさは、やや痛みが治まった腕をさすりながら、自分で起きあがるしかなかった。

 

 

 

 そこは、冷凍倉庫。

 屋内は徹底した室温管理がなされ、普通の人間なら、吐く息が絶えず白く霞む。倉庫というのは、立ち入りする者がいなければほぼ一切の光が遮断され、機器の正常動作が保証されるランプと、非常口の緑光だけが光源となる。

 

「見つけたぜやっと。」

 

 その小さな物体は、翼を広げたグッドストライカーに似ている、人の片手で掴める程の大きさのそれが、グッドストライカーと違うのは全身のカラーが赤である事、シャークノーズのデザインが機首にない事、故に目も鼻も分からず、何か音声を発しているものの、その機械はどこか余所面で掴み所がない。

 その掌サイズの飛行物体が、氷の塊の陳列する3段12列5島のパレット棚の暗闇を右往左往する。全てが冷気を発している氷塊には全て人間がそのまま保存されており、生きているのか死んでいるのか、定かではない。

 

「ちょうどいいコレクションがあって良かったなパトレン1号、そうでなきゃ、アンタを砕いてでもトリガーマシンを回収させてもらうところだった。」

 

 目の無い機械ではあったが、それを見つけた。氷塊の中でもっとも特殊な見てくれを透き通す、赤いアーマースーツの人間を。

 

「おっといけねえ」

 

 薄明かりが差した、

 

 一つの氷塊を見つめるその赤い飛行物体はしかし、暗闇の倉庫内の視界がうっすらと明けていくのを感じた、それは扉の開く音と共に漏れる外の光、つまり、

 

「姐さん、トゲーノの金庫ようやく修理できましたよ。ほぼ能力はリセットされてますがね。奥底にガラットだった頃の能力が僅かに残ってる程度です。」

 

「あらあらあら、ザミーゴ、ガラットは確か葉たばこを16本指に挟んで同時に火をつけたせいでボスに切り刻まれたんだっけ?」

 

 二つの異形が倉庫の扉を開け、内部に光を差したのである。赤い飛行物体は、音もなく急上昇し静かに天井のH鋼柱に潜り込んだ。

 

「今度はこいつにしますか姐さん?」

 

「こいつにしましょうか、ねえ。」

 

 異形のギャングラー、ザミーゴとゴーシュは金庫を一つ抱えて、今、朝加圭一郎が閉じ込められた氷塊の前に立っていた。

 

 

 

 陽川咲也は通勤して国際警察日本支部の正面玄関を潜ってまず足を向けるのは、当然であるが、更衣室である。更衣室はあらゆるジェンダーの問題が克服されたとしても、なお男と女の間に区切りを設ける事だろう。

 

「はぁ」

 

 陽川咲也の表札のかかったロッカーの隣は、当然同僚のロッカーが並び、さらに先は上司、そのさらに先はジム・カーターのロッカーが見える。隣の同僚の表札を出勤して最初に眺めては口を開けて目に精気を無くしてしまう陽川咲也であった。

 

「お願いしますから、もう処分してくださいませんか管理官。もうボク辛いんです。」

 

 朝加圭一郎が粉々に砕けて、幾日か経過した。即座に遺品を処分するはずが、何の手続きの遅滞か未だにロッカーに収まって放置されている。毎朝の事に堪えきれなくなった咲也は直訴して処分を働きかけた。

 

「ンンジャアキミガせきにんヲモッテ、ヤリタマエ。」

 

 と戦力部隊のルームで委託された咲也、さっそくつかさとノエルを交えて、圭一郎の遺品をどう処理するか決めにかかった。

 

「燃やして供養してあげましょう!」

 

 咲也はもはやそういう考えに脳が支配されていた。

 

「うむ・・・・」

 

 つかさはもっと複雑である、あるいは戻ってくるかもしれないという願望は、ある種の依存の顕れという自覚があり、吹っ切るべきかと心の天秤が傾きつつある、が、同僚であり同期の男の聖域を犯しているかのようにも感じて足踏みしてしまう。その足踏みの具体的理由を、まさか上官から聞くとは思わなかった。

 

「ジスイズディーゾリ、親御さんに送った方がボクは良いと思うよ。」

 

 高尾ノエルは、どこか本気で聞いていない態度につかさには見えた。

 

「そうだ、まず我々がどうするかより、圭一郎の御両親に筋を通すべきだ。」

 

 つかさは引っかかっていたものをそう口にしてみて自分を納得させようとした。

 

「心配ありません、」

 

 咲也、おもむろに懐から1体のソフビ人形を取り出す。西洋中世頃の騎士の鎧のようなボディ、特徴的なのは玉葱のそれのような上に先細りするトサカ、全身をシルバーと紫紺に彩られたその人形は、だが経年劣化でところどころ色剥げがある。それは圭一郎がロッカーの中に半ばお守りのように飾っていた、人生の大切な事を教えてくれたヒーロー番組の玩具だった。

 

「御両親には、ボクがもう連絡済みです、圭一郎先輩の思い出は家に十分にあるから、こちらの品は、ボク等で供養してあげてくださいと、許可は得ています!」

 

 こいつどうやって人が良いだろう圭一郎の両親を丸め込んだ?

 

 つかさが訝しんで眺める、咲也のこの思い込んだら一直線なところは、実はその観察者を含む職場の先輩格から伝染されたものである。

 

「咲也、おまえにしては手際がいいな。」

 

「ボクは、親御さんに返す事を強くお薦めするよ。そう最後まで言っていたと記憶に留めておいて欲しい。それではオールボア、ボクは今日これから行くところがあるから、お先に失礼するよ。どちらにしてもボクは圭一郎君と面識がない。2人程差し出口を挟む訳にいかない。ボクもよく日本人を勉強しているだろ?」」

 

「ではボク等に任せてください!」

 

 逃げたな、

 

 つかさはそうとしか思えなかった。結局は自分が主体となるしかないとつかさは腹を括らざるえない。そして思うのは、圭一郎がいれば自分がこんな目に遭わずに済むという不平、反転して、いかに未だ圭一郎に依存しているのかという事を思い知り、恥への自覚だった。

 

「分かった、ご両親も負担なのだろうな。こちらで供養してやろう。」

 

 そのつかさの一言で今の国際警察は回っている。

 

 

 

 エイギュイユ・クルーズ。

 その洋館は異形の怪物が鎮座し、その右横には屈強なボディーガードが側近くに起立している。

 その眼前のテーブルが歪む、

 否、そのテーブルと異形のギャングラー2体との間の空間が歪み、そしてまた1体、水面から浮かび上がるように揺らめいて女型の異形が現れ出でる。

 

「ボス、ジャネークの金庫、確かに回収して参りました。」

 

 もし頭が人間であったなら、日ごと夜ごと男を弄んでは捨てる事ができるプロポーションのゴーシュ、片掌で金庫を底から持ち、主人の前に料理でも運んできたかのように差し出した。

 

「ゴーシュ、警察のコレクションから受けた傷はどうだ?」

 

 もちろんゴーシュでなく、金庫に対してである。

 

「ダメですボス」ゴーシュは言動に反して喜色を声に乗せている。「金庫に今度のコレクションの定着はしていませんでした。」

 

 ボス、と呼ばれ鎮座するドグラニオ、見事に細工された洋椅子の手すりを力のまま握り潰し、破砕した。

 

「意味がない」

 

 木片の飛散を受けても微動だにしない側近デストラは、主人の方へ向き返った。

 

「ボス、金庫に収め前線に出れば快盗が盗み、警察が金庫の蓄積を消します。このままでは奴等を喜ばせるばかりです。」

 

「ゴーシュ!」

 

 デストラの言動を半ば無視してこの屋敷の主人は叫んだ。

 

「ボス、私にできる事でしたらなんなりと」

 

「警察に預けておいた金庫、あれを使え。」

 

「アニダラの金庫をですかボス?」

 

 『東京ビックサイト襲撃事件』の際、巨大化したオドードの金庫は、あの時デストラが出向いて警察に大損害を与えて回収したが、その一方でアニダラのそれは全く手をつけず放置した。

 

「ボス、警察を殲滅するならこのデストラめが」

 

 側近が一歩出るところを片腕で制止する主人だった。

 

「ゲームのちょっとした障害だと思っていたが、話が違ってくる。おまえ達2人、仲良くやってくれ。まあ、これもゲームという事か。」

 

 単眼の怪物と妖艶の怪物が、ほぼ同時に頭を垂れた。

 

 あの盗人共がコレクションを奪い続けている事をボスはいつも気にしていない、それが微々たるものだからか?

 

 デストラは絶えず主人の思惑を推し量っていた。もちろん、それは主人の期待に応える為にである。

 

 

 

「チュー事で、あんたの釈明っつうの?聞きたいんだよねこっちとしては。」

 

 カイリはテーブルに腰掛け、何故かニヤニヤと意地の悪い顔をしている。ドSなのか。

 

「シルブプレ、今日は小暮さんが来れないから、ボクが代わりにコレクションを受け取りに来たんだけどね。『七本枝の燭台』と『夢中にさせる』、お願いできるかな。」

 

 高尾ノエルことエックス、ビストロ・ジュレの3人組を前に、独特の仮面のような微笑みを崩さない。

 

「待て、それも警察に流すつもりか?」

 

 トオマは今日の仕込みをしつつ皮肉を言った。

 

「オーララァ、今回は君達に誤解を招くような事をしてしまってボクも反省しているよ。」

 

 うみかはというと黙ってただエックスを睨んでいた。

 

「アンタが警察の手先で、警察でできない超法規的な事ってヤツをさ、させる為に、オレら利用しようとしてる、そんな風にオレらが考えてもしょうがない、そう思うっしょエックス。」

 

 ついに頭の上のうっとおしいヤツの首元を抑え込んだかのような高揚感に囚われているのか、カイリのニヤニヤが止まらない。

 

「う・・・・ん」

 

 だが対面するこのエックスの微笑みはさらに面の皮が厚かった。

 

「まあ、そう考えちゃうよね。」

 

 カイリの表情が真顔になる、

 

「てめえ」

 

 そう口走ったのはトオマだったが、

 

「では逆に聞こう。」高尾ノエルは両手を広げた。「君達と協力していく関係と、お互い利用し合う関係、どこに差がある?」

 

 カイリは思わず仰け反った、

 

「ちょちょちょ、エックスなに言ってんのさ、ウチらエックスが信用できるかどうかって話してんのにさ!」

 

 うみかも珍しく声を荒げた、が逆に神妙な顔になっているのはカイリ。

 

 ハハハハハ、

 

 だがなぜか大声を上げて笑い出すカイリだった。トオマもうみかもカイリに振り返る。

 

「傑作だよエックス、そう、確かにオレ等とアンタ等は協力なんかハナからしてねえさ、アンタそういう意味では正直になったって事じゃね?」

 

「やっぱりカイリくんは一番話が早いね。」

 

「じゃあさじゃあさ、オレ等もこれからは堂々と利用しちゃっていいって事で良いよね?2つのコレクション、そっちにくれてやる代わりに、エックス、何かこっちを喜ばせる事してくれないとさ、渡せないって言っちゃって良いよね?」

 

 カイリはニヤニヤとしながら、ある種のゲーム感覚を堪能していた。

 トオマはというと、今晩の仕込みのタッパーにラップをかける手が止まっている、うみかはカイリに訳も分からず同調したような仕草をとってノエルを睨みつけた。ビストロジュレの中、カウンター周りにいる3人と、丸テーブルに座ってアップルティーを一口たしなむ高尾ノエルとの距離は遠い。

 

「君達がギャングラーからコレクションを奪う邪魔を、国際警察にさせないよう抑える、それは君達にとってこの上ないメリットだと思うよ。」

 

 おお、とカイリを振り返るうみかとトオマ、その恩恵はここしばらくの戦闘での実感から理解できた。ところがカイリ、

 

「たまたまっしょ。そんな回りくどい事すんなら、素直にオレ等にあの警察の装備全部渡しゃいいって話になるっすよ。」

 

「あのビークルのセキュリティは、エックスでも解除できんそうだカイリ。」

 

 そう言ったのはトオマだった。トオマはエックスからそう聞いた事を鵜呑みにしていた。

 

「その通り。あのセキュリティはボクでも難解でね。」

 

「じゃあがんばってください。」

 

 カイリはトオマとは違った。

 

「保証はできない。」

 

 即答する面の皮の厚いエックス。

 

「あの警察の装備同等のコレクション回してくれよ。」

 

「手持ちにはない。君達がこれから獲得するコレクションの中にあるラッキーに期待するしかないね。」

 

「本当かねえ。じゃあさ、いっそオレ等がギャングラーから盗んだコレクション、それ相応の買い値を出してくれない?」

 

「調子に乗り過ぎるとカイリくん、別の人間と取引して、君達は用済みって事にもできるんだよ。ボクはコレクションに値をつけるなんて不謹慎な事できないからね。」

 

「じゃあ始末される前に、アンタの素性、国際警察にバラして、アンタ等に言われて仕方なく快盗してましたって言うさ。」

 

 エックス、高尾ノエルは堰を切ったように笑い出した、そしてそんなノエルと対面するカイリもまた同じテンションで笑い出す、トオマはそんな両者を見て呆れ、うみかは目が泳いでいる。

 

「いいでしょう。これから君達への援護はできるだけする、コレクションに値をつけられないが、君達の働きへの報酬を増やす事にする、この店の経費も小暮さんに領収書ナシで切れるようにしよう。トリガーマシンも手に入り次第、君達に供給する事にする。今はそれで勘弁してくれたまえ。」

 

 カイリはそれからずっと無言のまま、エックスに2つのコレクション、銀の鉄道模型のようなモノとステアリングが印象的な2つを引き渡し、無言で見送った。高尾ノエルもまた無言のまま笑顔を崩さず店に背を向けた。

 

「忘れんなよ。アンタが警察で素性隠してる事、オレ等も黙っててやってるってさ。」

 

 カイリはそれだけイジ悪く念押しした。トオマは冷蔵庫の中にいくつものタッパーを収めて、その場は何も言わなかった。

 

「・・・・・・大人の世界、うみか分かりません・・・・」

 

 うみかは異世界のテレビドラマを見ているかのように目がグルグル回った。

 

「七本枝の燭台、ボヘミア諸王の敷石、フランス諸王の富まで集まった。後はイン・ロボレ・フォルチュナのみ。それでボクは快盗も警察も、要らなくなる。」

 

 鈴を鳴らして扉を閉めた高尾ノエル、その瞳に喜色はなく、むしろ深い闇の底に漂っているかのようだった。

 

 

 

 国際警察日本支部の地下金庫に証拠品と同じ扱いでそれは保管されていた。

 

「金庫の中にもっと頑丈な金庫を入れておくなんて滑稽だわ。」

 

 既に、空間を割ってその女の異形は入り込んでいた。ヒールを鳴らして歩み寄り、金庫の最奥の棚の中央の段に置かれたそれを、まず掌でじっくりと撫でる。そうして、反対の掌に掴んだ、汽車のようなミニチュアのコレクションを、いぶし銀に光るその扉を開けて放り込んだ。

 

「やっぱり、コレクションの蓄積がほとんど壊れて不完全だわ。ボス、これを大きくしたら、どんな無差別な事になるか分かっているのかしら・・・・素敵だわボス。」

 

 そうして、異形のギャングラー、ゴーシュ・ル・メドゥは言葉を放つ。

 

「私のカワイイお宝さん、アニダラを元気にしてあげて。」

 

 

 

「ボク、実は圭一郎先輩に夕飯ごちそうしてもらった事ないんです。」

 

 それは国際警察日本支部屋上だった。昼の休憩時間を使う事にした。一斗缶を空にして気孔を空け、ホームセンターで購入した木材を入れ、シュレッダーごみを大量に混ぜた上でVSチェンジャーを軽く1発、炎の上がった一斗缶の中に、朝加圭一郎の更衣室のロッカーのネームプレートをまず入れた。

 

「ああ、呼び出しの関係で余程の事がない限り、我々は昼はいっしょ、夜勤も交代で当直、お互い非常勤の時くらい自分の時間が欲しかったものな。」

 

 制服の上着を一斗缶に投下するつかさ。チリチリと油臭さが沸き立つ。

 

「先輩、ボクの事褒めてくれた事無かったんですよ。」

 

 チノパンを投下。

 

「あいつはアルコールが入るとすぐに脱ぐ癖があった。訓練生時代の話だがな。」

 

 ワイシャツを投下。

 

「え、そんな先輩見た事ないですよボク。動画チューバーのキャラみたいじゃないですか。」

 

 ネクタイを投下。

 

「あいつもプライベートはひけらかさない方だったからな。訓練生時代から知ってるのに、こんな人形を後生大事にロッカーに置いてるなど知らなかった。」

 

 皮の鞄はよく燃えるところを見ると化繊がかなりある安物のようだ。

 

「ボク、もっと知りたかったな。先輩の事。」

 

 通勤用の靴も投下。こちらは焦げる臭いが立つ。

 

「私の趣味は見透かしておいて、ズルいヤツだ。本当にバカで一直線でズルいヤツだった。」

 

 そして人形を一斗缶の上に掲げるつかさ、その手の先が震えた、いやつかさの全身が震えた、この国際警察のビル全体が揺れていた。

 

「なんだ、」

 

 つかさはあらぬ方向に人形を投げて、即座に腰の得物に手を伸ばした、

 

「地震じゃないんですか?」

 

 咲也の方がむしろ正常な判断であり、つかさの直感の方が過剰だっただろう、

 だが次の瞬間、下から突き上げるような轟音と激震が走り、つかさの眼前にコンクリートの欠片が火山の噴火のように吹き上げる、その吹き上げる粉塵と共に地下から突き上げてくる巨大な黒い毛並み、

 

「なんだ、このフワフワのモコモコのくせに威圧的なヤツは!」

 

『リフレッシュパワーっっっっっ!』

 

 大豪声を発して日本支部の地下から家屋の半分を崩落させて突出するそのアルカパの容姿をもった金庫の怪物、巨大ギャングラーが出現した。

 

 

 

「さっきは、う、寒、エライめに遭った。」

 

 ザミーゴ・デルマと自称するメキシカン帽にポンチョの、やや顎が強調した、平均以上の顔立ちの青年が立っていた。

 

「さあさあ、このザミーゴ様にここまでやらせたんだ、ちゃんとしてくれないと寒い事になるぜ、ゴーシュ、の姐さん。」

 

 そこは国際警察庁舎の道を挟んで向かいの商業施設、屋上だった。

 

「ザミーゴ、ドグラニオ様の言いつけはちゃんと守ったんだろうな。」

 

 この奇装な青年の背後に立つ隻眼の巨漢、デストラ・マッチョもまたこの屋上にいた。

 

「デストラ、おまえだけがポーダマンを何万体もその金庫から排泄しないでゴーラムに固める事ができる。一体、ボスに言われてるんだろ。出せよ。早く楽しませろよ。」

 

 デストラはその独特の4連リボルバーメイスの石突をコンクリートに立て微動だにしない。

 

「ザミーゴ、ワタシに指図するな。ゴーシュの小姓のくせに。」

 

 ザミーゴの隻眼は既にその方向を向いていた。

 巨大アニダラが国際警察日本支部庁舎の半分を無作為に破壊するその背後、墓地を踏みしめて向かって来るアニダラと同じ全長の巨石の怪物が闊歩していた。

 それを差してザミーゴは、ゴーラムと言った。

 

 

 

「くそ、ついにここに襲撃してきたか。」

 

 高尾ノエル、まずは戦力部隊の2人がいる屋上に駆け上がった。

 

「ノエル、あいつは以前倒した!」

 

「ボク等がはじめて倒したヤツじゃないですか!」

 

 コンクリート煙が上方へ噴き上がり、庁舎の残り半分の屋上にしがみつきながら眼前の圧倒的な寸借の黒いアニダラ・マキシモフを睨みつけていた。

 

「警察で回収していた金庫に、おそらく、『大きくなあれ』を使ったに違いない、君達は即座に応戦、本部から避難が済むまでここで留まって迎撃!」

 

 ノエルは2人を視界に入れるや、この立つだけで危険な場所からの迎撃を指示。指揮とは指針を提示するだけで、個々の安否は個々の問題であるのはセオリーだ。

 

「ここに留まれだと、言ってくれるなこいつ、おい高尾主任!避難は滞りなくできているのか!」

 

「つかさくん、今管理官とジムで全力を尽くしている、君達がここで牽制するだけでも避難をする余地が生まれる!」

 

「了解です主任、つかさ先輩、ボク撃ちます!」

 

 重粒子弾をアニダラの目元に向かって制射する咲也、

 

「モフモフもっっっっ」

 

 目つぶしを食らって怯むアニダラ巨体、

 

 それを見計らってVSチェンジャーにビークルを装填するつかさ、

 

『パトライズ』

 

「咲也!ゆっくりと後退して階段の方へ向かえ!」

 

 3号となったつかさは、後輩の前面に躍り出る形で、今度は自らが敵を牽制する、

 

『警察チェンジ!』

 

 咲也も2号にチェンジし、銃口を、山のような景観ですらある対手に向けた。

 

「先輩!頭!頭!」

 

「うぉぁ?!」

 

 それは巨大アニダラが見えないながらも横振りした棍棒、それは日本支部屋上をスレスレ素通しする形だったが、その屋上に立つ2人にとって衝突の危機は十分に煽られる、咄嗟に屈み込むパトレンジャー2人、それは同時に牽制が停滞する事を意味する、

 

「モフっっ!」

 

 いつのまにかアニダラの両肩に浮かぶいくつもの小さな綿、

 

「いかん咲也、ヤツへの攻撃を絶やすな!」

 

「ハ、ハイ!」

 

 自分もしてないくせに、と30分後に気づく咲也であった。

 2号3号の重厚な攻撃はしかし、先程のように敵の動きを抑止するには至らなかった、

 

「もふもふもふもふ」

 

 笑っているのか狂っているのか、違う意味で感情の読めない巨大ギャングラーからは、とめどもなく膨大な綿の塊が両肩の上へ噴射されており、アニダラ・マキシモフの上半身を取り囲むように浮遊している、そのアニダラの拳のサイズ程の綿が国際警察2人の制射する弾丸を受け止めては四散、さらに受け止めては四散、さらに受け止めては四散を繰り返し、アニダラ本体へ決してダメージを通さない。

 

「命中確率をコントロール?いやあれは綿のエネルギーをコントロールしているのか、まさか、ドロテ?こんなに早くアタリが来たか?」

 

 階段へのドアに身を隠した高尾ノエルは、アニダラの金庫の緑光を凝視していた。そして次の光景を見たノエルは、自分の予想が的中している事を悟る、

 

「モフゥ!」

 

 アニダラの豪声を合図に、周回している綿のいくつかが1箇所に集まり始める、いや集まるなど生易しいものじゃない、幾十の綿の密度が1つの寸法よりさらに小さく集約していく、色が紅を帯びてきた段階で、アニダラの腕が、その綿をビルに叩きつける、

 

「ぐぁぁぁ!」

 

 十階層あるビルが木っ端微塵に粉砕される、強力な爆圧が天井の3人を宙へ舞い上げる、

 

 死ぬ、のか私は、こんな無力に、

 

 つかさの視界がブラックアウトした、上なのか下なのかまるで掴めない空中で時の流れすら停滞したかのように感じた、これが死の感覚なのかと明神つかさは覚悟する、

 しかし、視界の暗さは、つかさの意識の問題だけではなかった、昼だったはずの日差しで満ちた空がつかさの気づかない一瞬で暗闇に閉ざされた、つかさの目には、ギャングラーの怪物もまたその闇に落ちた変化に戸惑っているように見えた、

 

「う」

 

 慣性のまま落下していたつかさの身体に急激な逆Gがかかる、つかさの肋が軋む、いつのまにかその胴周りにワイヤーのようなものが括り付けられ、宙にあって制動がかかり、そのまま吊られてぶら下がる形になる、

 

「咲也、無事か、上は・・・これはノエル主任か?」

 

 つかさは、すぐ近くに同じくぶら下がって気を失っている2号咲也を目に留め、自らに巻き付けられているワイヤーを上に辿って、クレーンと言うには奇妙に大きすぎるフックとアーム、アームを伝ってやはり奇妙に大きすぎる台車本体を見止めた。ホワイトとイエローのカラーが夜景にやたら映える。

 

「君達、今下ろす、頼むから暴れないでくれたまえ。」

 

 高尾ノエルが巨大クレーン車アームを伸ばした登頂に立ち、アームの端にワイヤーを引っかけてつかさと咲也の命綱を握っていた。

 

 ワイヤーを使ってあんなところに、まるで快盗みたいではないか、

 

 そんなつかさを余所に、自ら繰り出したワイヤーを徐々に緩めて2人を暗闇の地面に下ろすノエル。

 

「エックス空間に引きずり込んだ限り、もう逃げる事はできないアニダラ・マキシモフ、そしてゴーラム、」

 

 暗闇の空間には半ば崩壊した国際警察日本支部と半径1キロあるかないかという周辺の街は見られるものの、人がいない、車も、カラスの泣き声も、植物の香りも、排水管に溜まった汚物の臭気すらない、動くモノは巨大な怪物2体、大地に降りた咲也とつかさ、そしてなおクレーンの登頂に体幹だけで立っている高尾ノエル、そしてそのクレーン車だけである。

 

「ここはおかしい、あれだけあの怪物共が暴れているのに、まるで建物が破壊されない、破片すら飛んでこない、なんだここは?」

 

「エックス空間さ。」高尾ノエル、体幹だけでクレーンのアームを立ち滑りし、宙を3回転しT字ポーズで着地した。「コレクションの力を使って近位相に亜空間を張った。現実世界と近い風景に、任意の者を特定数引きずり込む事ができる。今回は、君達、僕、アニダラ・マキシモフ、そしてあのゴーラムを取り込んだ。もう少し早く僕が気づいていれば、庁舎の被害を抑える事ができたろうに。」

 

 だがそれをニヤニヤと語る高尾ノエルをつかさは胡散臭くてしょうがない。

 

「つまりここでは、我々の世界に影響はないという事か、どうする、2つの敵、」

 

 巨大アニダラは3人の側近にあって、綿を射出しようとする、それを辛うじてクレーンがフックを振り回して牽制している、やや離れた位置から歩み寄ってくるゴーラム、

 

「アニダラの対手はクレーンで、そして、ゴーラムの対手もちゃんと用意している、」

 

『グッドストライカー~ぶらっと参上~』

 

 迫り来る岩の塊のような怪物ゴーラムのその背後、8輪で駆ける黒い巨大ビークル『グッドストライカー』が突進、4つの前門砲から絶え間なく光弾を発射、

 

「いつ快盗から奪還した主任!」

 

「あいつ頑丈すぎる、」

 

 そう2号が言う通り、ゴーラムへかなりの着弾があるものの、当の怪物は動じていない、それどころか、その手首がまるで亀の頭のような腕を3人に向けてきた、

 

「エネルギー集約が来る、」

 

 振り返ると、クレーンのワイヤーフックを金棒に巻き付けて抑え込むアニダラが綿を大量に放出し、そして頭上で全て凝縮していく、二方向から同時にくる、

 

「今回は出し惜しみしない、」

 

 高尾ノエル、懐から銀のステッキを取り出す、それは先に台場襲撃事件で巨大ギャングラーの金庫を解錠したあの列車型二連結のVSビークルに似ている、ただし、先の列車ビークルは機首が赤で彩られていたが、今回は機首が青い。

 

「ジョセフィーヌ、君の初仕事だ。」

 

 ゴーラムの右腕が口を開き光弾を3人に向ける、

 アニダラの縮退した火球を3人に向ける、

 同時に着弾、爆炎をあげる、

 

「伏せろ主任!」とにもかくにもスーツを着ていないノエルの前面に躍り出る3号、

 

「くそぉ!」火弾そのものをその技術の限り狙い撃つ2号、

 

 そのノエル共々2人の国際警察があえなく爆炎に包まれる、

 

「大丈夫、この攻撃は防げる、ジョセフィーヌの『フィールドエッジ』でね。」

 

 いつのまにか目元を利き腕で覆っていた2号が、ゆっくりと視界を確認する、ノエルの差すステッキから溢れる光が帯となって、その前の3号、さらに側近にある巨大クレーンまでも半球に覆った。フィールドエッジは、光の膜の強力な防御力によって2体のギャングラーの攻撃を防ぎ切った。

 

「早く出せ、そんなものがあるなら、」振り返る3号、ややばつが悪かった。

 

「ボク、みんなでいっしょに行くと思いましたよ。圭一郎先輩のいるあの世へ。」2号は引き金を搾り過ぎた人差し指を振っていた。

 

「困るぞ咲也。勝手にあの世なんかに行かれちゃ。」

 

 夢かっ・・・!?

 

「今ドアに肘かけている男が、本当にその人なのか・・・その真実を確かめる勇気が、2人ともわかなかった・・・」

 

「いったい何を言っている主任!」3号は正直煩わしかった。それはそうだ。

 

「どういう事ですか、先輩!」2号が叫ぶ。

 

 クレーン車の右ドアである。

 肘をかけている腕があった、それは2号3号と同じ規格のスーツである事が判る。肩のアーマーは赤、覗くヘルメットも赤である、そこにあっけないほど整然と座っていた、国際警察戦力部隊パトレンジャー1号、スーツを纏った朝加圭一郎がそこに居た。

 

「咲也、つかさ、今はギャングラー殲滅を優先する!」

 

 言われた2人は、しばらく間を置くだけで巨大ギャングラーに向き直った。

 

「「了解!」」

 

 この即応が警察戦隊パトレンジャーの蓄積である。

 

「ボクも援護をするよ。」

 

 高尾ノエル、銀のロッドをアニダラに向けて掲げる、彼等の前面に張った光膜が中央から鋭角的に突出し、薄く巨大な刃となってアニダラ・マキシモフに向かって一直線に伸びる、

 

「ぉあぁっ!!」

 

 1枚の巨大な薄板となった光膜が巨大ギャングラーの右肩から右脇にかけて整然と通過する、ギャングラーから右腕が切断され断面が見える。

 

「今だ、咲也、準備はいいか!」

 

 1号はクレーンに搭乗しアームでアニダラを牽制、3号は同じくアニダラをチェンジャーで牽制、そしてパトレン2号はクレーンの荷台に搭載された、小型のマシーンに搭乗した。これがドリル、つまり『クレーン&ドリル』、車体尻部に引き金を持つ、トリガーマシンである。

 

「ハイ先輩!いつでも!」

 

 クレーン荷台横合いからドリルビークルが飛び出して車体前部の突起、ドリルを回転させアニダラの足下に猪突、

 

「ぉあぁぁっ!!」

 

 脛に火花が散り、思わず片足を上げて悶絶する巨大ギャングラー、

 

「いくぞ、撲滅突破!」

 

 1号が吼える、吼えると同時にクレーンアームが伸び、伸びたアームがアニダラ・マキシモフの鳩尾を突く、巨体が後ずさりする、さらに突く、さらに後退する怪物、怪物の背が何かにぶつかる、それは国際警察庁舎の向かいの商業施設、さらに突いて施設に押し付けるアーム、

 

「をあああああ!!」

 

 半ば足を浮かせて悶える巨大ギャングラー、身体の孔からおびただしい数の綿を放出、再度頭上で集約しようとする、

 

「そうはさせない。頼むよベロニク、」

 

 高尾ノエル、先のスティックの先端を赤いヘッドのビークルと交換し、ただちに光線を発射、アニダラの金庫に着弾、光の筋がビークルと金庫を繋ぎ、金庫の扉を透過して何かの物体が筋に沿って滑ってくる、ノエルは自分の手元までやってきたその物体、まるで金の蒸気機関車のような形状のコレクションを手にした。

 

「やあやはり君だったかドロテ、圭一郎君達、もう心配はない。相手の強力な攻撃をこれで封じた。」

 

 拡散する綿、一旦集約しつつあった綿が四方に離散していき、離散したままクレーンへと漂っていく、

 

 こいつ、これでは、まるで快盗と同じコレクションの窃盗ではないか?

 

 3号はしばし迎撃するのも忘れ、高尾ノエルを眺めやった、しかし直後に轟いた爆音でそれどころでは無くなった。

 

「ぐ!!」

 

「圭一郎!」

 

 それは先にクレーンにまとわり付いたおびただしい綿の連鎖爆破、クレーン内部の1号は激震に声を荒げ、3号は思わず何もかも忘れて1号を再び失う恐怖が脳裏を掠めた。しかし1号は叫ぶ。

 

「咲也!今だ!」

 

「ハイ!一点突破!!」

 

 いつのまにかクレーンアームの上に乗るドリルビークル、そのままアームの傾斜に沿って駆け上げる、

 貫通するドリル、

 アニダラの金庫上、胸部に風穴が空き背後のビルまでも貫通する、

 大きく放物線を描いて、着地しキャタピラでスピンターンするドリルビークル、

 

 爆破!!

 

 四散するアニダラ・マキシモフの肉体、散り散りになりこの狭い空間に四散していく、

 

「あと一体!」

 

 爆風を堪え切って、振り返る3号、

 

「ヤダ早くこっち来てよ、私の股間は限界よぉ!」

 

 叫んでいるのは車両モードで両足だけ展開し、敵ゴーラムの腰をカニ鋏みで拘束しているグットストライカー。

 

「縮んでいっている」

 

 1号は車内天井に頭が付いてはじめてビークルが元の掌サイズに戻ろうとしている事に気づく。

 

「エネルギーを使い果たしたね。まだ微調整の余地がある。圭一郎クン、咲也クン、早く出た方が良いよ。」

 

「うぉわ~もう乗ってたらドリルが縮んじゃってびっくりですよ~」

 

 1号が飛び降り、2号もまた3号の元に駆け寄ってきた。

 

「早くしてよ~ノエル~!」

 

 グッドストライカーに促されたその当の本人は、手に入れた蒸気機関車のミニチュアのようなコレクション、いやVSビークルと言っていいそれを眺めていた。

 

「ゴーラムは金庫もコレクションも持っていない。それでいて金庫の排泄物であるポーダマンの集合体、試してみるには格好の獲物か。」

 

 金の機関車を握るノエルは、それに連結する鉄道車両状のビークルを差す、ビークルは左右扉の無い空洞状の貨車と言っていい形状、貨車の屋根にガトリング砲座のような形状の装備が見える。この貨車を180度軸回転し、ガトリングの砲座の斜角を下げる、まるで銃のような形状に変型させたノエル、さらに先の銀のスティック状のビークルを前後互い違いに組む。

 

「エックスチェンジャー、ボクのボクによるボクの為の改造コレクション。」

 

 半ば呆然としている高尾ノエルを横目に、3人の警察戦隊が前面に躍り出てチェンジャーを構える、

 

「3人で一斉攻撃する!」

 

 3つのVSチェンジャーの銃口を揃え、一斉制射、

 弾き返る粒子弾、

 

「硬い、さっきのアニダラ・マキシモフも少しは反応したのに、」

 

 ゴーラムの花崗岩のようなボディに、チェンジャーの一斉攻撃も跳ね返るのみ、ビクともしない、パトレンジャーが迎えた最硬度の敵が眼前にあった、

 

「心配しなくていい。」

 

 その巨大な敵を前にして、現主任である男は軽く言ってのけた。片手に抱える重たげな銃に、指揮下にある3人はそれが目について仕方ない。

 

「警察チェンジ」

 

 彼の持つ『エックスチェンジャー』、グリップに対して銃身が一軸で接続している、この軸に対して銃身が回転、前面だった金の車首が背面に回り、背面だった銀の車首が前面に回る、180度回った銃身はしかし、ノエルが銃口を上向きにした拍子にさらに半回転させ、つまり360度銃身を回転させ元に戻した、

 

『警察 エックス チェンジ』

 

 頭上に向けて一制射、制射した弾丸は警察のエンブレムとなり上昇、跳躍頂点から重力に従って透過、

 

『パトレンエックス』

 

 汽笛が銃から響く、

 潜った上から下にスーツが蒸着される、色はゴールド、全身を纏った繊維はまるでコートを羽織った紳士、パトレンジャーのそれよりさらに面積の広い肩アーマーもまた金に輝く、金のマスクのゴーグルはXの字を描いている。

 

「気高く輝く警察官、パトレンエックス!」

 

 そう彼は名乗った。

 

「自分で気高いとか言うんだ、」

 

 咲也すらたじろぐ程の異彩を放つ戦士、金のパトレンジャーが銃を掲げた。

 

「君達、ボヤボヤしてると敵がホラ、1撃くらいならそのスーツで防御できると思うよ。ボクはそれほど防御力がないから、壁になってくれたまえ。」

 

 エックスの言う通り、巨大ギャングラーはグッドストライカーに羽交い締めされながらも、両手の亀頭の両口を開く、口から閃光が灯る、

 

「全員バリケードを張る、」

 

 1号の号令一下、エックスの前面に壁となる3人、

 放たれる光の弾、2つの光弾が3人のパトレンジャーに直撃、爆風に呑み込まれる4人、しかし、

 

「スペリオルショット!」

 

 爆風に包まれた中から突き出てくる銃口、それは蒸気機関車をイメージする車首、その先に光が灯って、上角45度、粒子弾が発射、

 

「いや~ん」

 

 その時まで延々とギャングラーの腰に絡みついていたジェットストライカービークルモード、身の危険を感じで咄嗟に突き飛ばし背後へ跳ねた、

 直撃、

 まず充てられた胸元が光によって消失、欠損していく、光が蝕むように胸元から腹部、四肢、頭と全身に広がり光った先から消失し拡がっていく、

 絶叫する間もない程急速に身体を喪失していくゴーラムは、音も無く消え、光の微塵となって拡散した。

 

「グッドストライカーと同等の力があるというのか、」

 

「すげー」

 

「こんなものを隠し持っていたのか、高尾、主任!」

 

 ゴーラムからの攻撃を3人のパトレンジャーが壁になって防ぎ、その背後、パトレンエックスは半ば爆圧の影響を受け取る事なく、攻撃に専心した。これが初の4人のフォーメーションプレイであった。

 

「ゴーラムはあのポーダマンを何体も圧縮してできたものだからね、君達のVSチェンジャーで消滅させる事ができるんだ、僕のこのエックスチェンジャーもそのくらいの事はできるさ。」

 

 ちょっと原理は違うけどね、と高尾ノエルは内心ほくそ笑んだ。

 

「しかしこの空間はなんだ?」

 

「いやそれより先輩、どうして生きてたんですか?」

 

「待て待て、それ以前あの高尾主任のスーツはなんだ?」

 

 矢継ぎ早にパトレンエックスに振り返る3人の国際警察に臨時主任は、肩を竦めるだけだった。

 

「オララァ~」

 

 どこまでふざけてるんだこの野郎、

 

 3人はほぼ等しくそう思った。

 

 

 

 高尾ノエルが変身を解除したと同時に、4人を包む夜の闇が晴れていく、

 同時に鼻につんざく硝煙臭、皮膚に赤外線が刺さるように感じ、そして足下に散乱する瓦礫がいつもの交差点を歩行困難にした。

 

「のえるクンガてきヲウツシテクレナケレバサラニヒガイガカクダイスルトコロダタ。」

 

 半壊した国際警察本部を眺めて呆然としていた圭一郎達に管理官が事務ロボットと共に駆け寄ってきた。

 ヒルトップによると家屋の破壊が派手な割に死者の数は一桁で済んでおり、病院に担ぎこまれた重傷者は二桁に抑えられたとの事である。

 

「死傷者が出たか。もう少し早く気づいていれば。ゼロに抑えられたはずなのに。」

 

 高尾ノエルはやや悔しげであった。

 ほぼ半分崩壊し跡形も無くなった本部庁舎、残った半分も煙が立ち、今だ炎が見える窓枠もある、

 だがヒルトップの説明によると、辛うじて本部の機能は地下ブロックで復元可能であり、人員的に厳しいものの、国際警察日本支部の活動は辛うじて存続できるという。ただ、しばらくは戦力部隊の物資面のバックアップを他支部の支援に大幅に依存する事になるだろう。

 

「トニカク4ニンガブジデナニヨリダッタ。ソシテココさいきんぞうせつシテイタちかそうニほんぶヲウツスコトガデキル。イマきゅうぞうデキミタチニヘヤヲヨウイシテイル。」

 

 そんな管理官を尻目に高尾ノエルは、向かいのショッピングモール、隣のコンビニエンスストアや酒屋に被害が及んでいない事に多少安堵を覚える。ふいに、横断歩道一本の信号を渡ってショッピングモール入り口に入り込む、

 

「エックス!」性長期を越えていない黄色い声だった。

 

「おまえの力でなんとかしろ、エックス。」やはり中学生独特の枯れた上で甲高い声だった。

 

「もうアタシ達の気分クシャクシャのポイだよ~助けてよ~」幼女特有のダミ声だった。

 

 男子2人、女子1人、少年少女が高尾ノエルを見るなりわめき散らした。その手にはそれぞれ1丁ずつ、子供の掌には大きすぎるVSチェンジャーを抱えていた。

 

「コドモード光線だね。」

 

 高尾ノエル、エックスは8歳のカイリ、14歳のトオマ、10歳のうみかを眼前に捉えて、眉間を抑えて笑いを堪えた。

 

 

 

 

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