快盗戦隊VS警察戦隊に極めて近い世界線のルパンレンジャーVSパトレンジャー   作:bassher

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#4 僕らは少年快盗団

 

 

 

「少女もいるぞ、美少女が!」

 

 美少女と自分で言うかこいつ、

 

「おまえ、うみかか?本当にうみかなんだよな?」

 

「何カイリ、小さい時から染めてたってどんだけなのよ?」

 

「うみか、おまえ相当努力したんだな、顔の輪郭が違うぞ・・・」

 

「トオマ、死んだ目つきは子供の頃の方が酷かったのね。」

 

 3人の、およそ子供と呼んで良い範囲の者達が情緒の不安定さを互いに発露し合い、口論、いや痴話ゲンカを延々繰り返していた。

 

「オララ~君達は『子供に戻れる子供』の能力を食らったみたいだね。」

 

 発見した高尾ノエル、エックスは、諸手を挙げて降参の構えをした。

 

「ボインのあるギャングラーだった」

 

「ナマコかウーパールーパーかわからん紫のヤツだった」

 

「嫌味な程ドエロいの!」

 

 それを子供3人から聞いた高尾ノエル、神妙な顔付きで考え込むポーズを取った。

 

「それは、おそらく、かなりの、」

 

 と言いかけたノエルの背後から、

 

「それ、快盗の武器じゃないっすか!」

 

 高尾ノエルが振り返る事なく眉間に皺を寄せた。国際警察戦力部隊最若輩のこの男、おおよそ余計な事をする。

 

「子供達と何をしている!」

 

 と半オクターブ上ずった声で叫ぶつかさもやってきた。その目つきは思い切り背伸びの感がある金髪パーマのカイリ(8歳)にロックオンされている。

 

「オララ~どうやら、この近くで快盗が別のギャングラーと接触したらしい。それを目撃したこの迷子達が、拾ったそうだ。」

 

 なんて流暢にウソをつけるんだこいつ、

 

 トオマ(14歳)は陰湿な目つきをますます険しくしたが、

 

「カイリ、トオマ・・・なんで?」

 

 うみか(10歳)がトオマの腰に肘を食らわせ指差した。

 

「マジかよ・・・・」

 

 変声期前に戻った声にスレた19歳のボキャブラリーで口に出すカイリ(8歳)、その眼前には3人にとっての方が信じられない人物が立っていた。

 

「どうしたノエル主任、君達、迷子か?その持っているものは、」

 

 右肩から赤いラインが縦に走る制服を身につけた、あの朝加圭一郎が、ぎこちない笑顔が瓦焼きせんべいみたいになっているこの国際警察戦力部隊のリーダーが3人の眼前に立っていた。基本圭一郎は子供がつかさと違う意味で大好きだった。

 

 ヒントは与えたよ、君達。

 

 高尾ノエルの心中を6人とも知らない。

 

 

 

 やや時は戻る、

 高尾ノエルが、子供達に足を向けたその時、管理官と3人だけになった国際警察戦力部隊、

 

「ヨクカエッテキテクレタけいいちろうクン。」

 

 その管理官の言葉で2人とも堰を切ったように感情を発露した、

 

「圭一郎先輩!!よく、よく生きて」

 

 咲也は圭一郎に抱きつき顔をすりつけてきた。ニヤけながら引き剥がそうする圭一郎だったが咲也の膂力は火事場のなんとやらが加わって容易に引き剥がせない。

 

「バカモノ、バカモノ・・・」

 

 つかさに至っては、圭一郎達とやや距離を置いて、目元を袖で隠すように漢泣きしていた。

 

「けど粉々になったじゃないですか、どうやったら粉々から元に戻るんですか、先輩根性出したんですか?」

 

「そうだ、圭一郎、おまえのバカは承知しているが、ここまでバカな事どうやってしでかした?」

 

 咲也の寄り過ぎる顔面を手で防ぎ、圭一郎は口を開いた。

 

 

 

 あの冷凍倉庫、3段12列5島のパレット棚が並ぶ中に、パトレン1号のまま氷像にされた朝加圭一郎がいた。

 

「くそ、ちょうど良い時にマズいのが2人来やがった。」

 

 そのはるか頭上、天井のH鋼柱に潜り込んだ赤いグッドストライカーが、圭一郎の氷柱とつい先程やってきた二体の異形の男女を見下ろし伺っていた。

 

「姐さん、やっぱりこいつはまだ勿体無い。」

 

「ええ、またぁ?!これで3度目よ、よっぽどお気に入りなのね。」

 

「じゃあこうしましょう。オキニの一体をトゲーノの金庫に宛がいましょう。そろそろアレの使いどころと思っていたんですよ。」

 

「あらあらあら」

 

 その二体のギャングラーが、足を遠のけたところで、赤いVSビークルはゆっくりと降下する。

 

「今やらねえといつ犠牲になるか知れねえ。」

 

 二体が内扉を潜って倉庫入り口反対側の別ルームに入ったのを見計らい、パトレン1号の氷柱の前に無音でホバリング、エメラルドの光を放つ、それは指向的な電磁波、『熱くなれ』のコレクションと同じ、今パトレン1号の氷塊の表面に雫が幾筋も滴り、気づかない程に徐々に容積が外殻から萎んでいき、肩アーマーが露出するかしないかという薄壁になった時、罅が入り、音を立てて砕け、パトレン1号を包んでいた氷が全て1号から脱落した。

 氷の支えが無くなり、床に崩れ落ちるパトレン1号、落ちた反動で水たまりになっていた雫が飛散する。

 

「おいおい、しっかりしやがれ、この野郎、このオレ様がおまえを迎えに来てやったって言うのによ、早く目を覚ましやがれ!」

 

「赤いグッド・・・・・・」

 

 倒れた拍子に除装し、唇を青くした朝加圭一郎の顔が露呈する、倒れたまま起き上がれず、体のあちこちにできた凍傷の痛みに震えている。

 

「おいおいオレは、『ジャックポットストライカー』、あの形の似たヘンタイ野郎といっしょにするなって、それからよ、もう一度スーツを着た方がいいぜ。体を少しは回復させてくれる。言う事聞かねえと、足の臭い嗅がせっぞ。」

 

 フラフラ浮かぶこのビークルの言葉を反射的にうのみにして圭一郎は、震える指で再びビークルを回転させる。

 

「へへ、感謝しろよ、早くここから脱出だ。」

 

 スーツによって代謝を促進され、四肢の先の感覚が痛みを伴って回復していくのを感じるパトレン1号は、腕の力だけで上体を起きあがらせ、次いで四肢だけで起立の体勢にまで体幹を復元していく、だが血流はまだ伴っていない、頭を高くもってきた為に立ちくらみに襲われる。

 

「いったいオレは、この、中の人々はまだ生きているのか?」

 

 パトレン1号は両眼も徐々に回復して3段12列5島の棚に並んだ壮大な氷のオブジェ達を視界に入れた。

 

「おいおい、今一区画向こうにいる奴等はギャングラーでもトップのバケモンだぞ。余計な事考えんな、奴等が気づく前に脱出するぞ!」

 

「そうか、その2体のギャングラーを倒せば、この中の人々を解放できるんだな。」

 

「おいおい話聞けって、無理だってばよ、おまえら3人、いや快盗と力を合わせてもあいつらには太刀打ちできねえ。」

 

「快盗、犯罪者と連むなどありえん、キサマなんでそこまで知っている、まあいい、とにかく、オレがここから奴等を引き離す、その間おまえはできるだけの人を救出しろ。でなければオレはここ動くつもりはない!」

 

「ええいどいつもこいつもガンコな野郎ばかりだぜ、いいか、適わねえと思ったら、おまえ自身が生き残らなきゃ、この人間達を助ける事も永遠にできねえ。解ってるなおい!」

 

 だがそんなVSビークルに応えもせずパトレン1号はツカツカと怪人達のいるだろう扉の前に立つ。この倉庫内の扉は、倉庫の隅に小さく設置された小区画の入り口であり、扉前に釣り下がっている紐を引けば開く。だが自動扉のモーター音など響かせれば、その時点で相手に一撃与える事もできずに、命盗りになるかもしれない、

 

「扉が、」

 

 奇しくもそのタイミングで、内側から扉が開かれる、まさかの逆に、氷柱の一つに身を隠す事になるパトレン1号とVSビークル。

 

「姐さん、人間のアレは排泄器官だそうですよ。この世界の生き物に似たような鼻をしてるのがいますが、あれとは違います。」

 

「不思議なのよねえ。なんであんなものがついてるのか。しかも雄しかないの。あんな弱い器官を前面に推し出してるのが理解できない。引っ張るだけで悶え苦しむのよ。」

 

「あれで人間は増殖できるらしいですぜ。」

 

「じゃあワタシ達のポーダマンといっしょじゃない。身体から排泄した汚物が増え続けてるのね。」

 

 パトレン1号、2体の異形ギャングラーを見ただけでこれほど身が竦むのははじめての事だった、2体以上のギャングラーと対峙した事は過去にもある、瞬殺された経験があるからか、別格、あるいは赤いVSビークルの言う通り、ギャングラーでも特別という事を皮膚で感じ取っているという事か、

 

「これこれ、オキニの1匹。」

 

 ザミーゴ、餌を捕獲する様のクリオネの怪物は、金庫から一丁、それもまたクリオネに似た氷の銃を取り出し、グリップを捻る、すると、眼前の氷塊が粉々に砕け、中の人間が大量の冷気に塗れながら床に倒れ込む。

 

「服が邪魔。」

 

 倒れ込みそして床に伏す、その時間にして一秒もない刹那、女の怪物の右前腕が歪んで消える、消えたのではない、あまりの高速運動で前腕が視覚に捉えられない、その高速運動が氷の中に入っていた人間のそこかしこをなぞっていく、パラパラと繊維片が床に散らばる、人間の方はというと素肌の全て、上から下まで一糸纏わぬ姿を晒し、それでいて身には傷一つなく、散らばる衣装だった端切れの山に伏した。

 

「姐さん、こいつはたぶん、金庫と相性が良いはずです。見ててください。」

 

 足で俯せの全裸男を仰向けにする、その手には真っ新に修復した銀の金庫が抱えられている、

 

「なんだ、どうする気だ?」

 

「見ても今はしょうがないぞ。」

 

 氷の影にいるパトレン1号が見た光景は、彼の人生に生涯の苦悩と後悔を落とす事になる。

 

 ヲァァァァァァ、

 

 それが仰向けの全裸男の断末魔だった、

 女の異形が片足で喉元を抑え、男の異形が腹に馬乗りになって、そして手にした金庫を胸の中央に押し付けた、不思議なことに、接触した皮膚が液状化してうねり、ズブズフと埋もれていって金庫の扉だけ表面に浮き出て人体に癒着する、断末魔を迎え痙攣の止まった全裸の男の口からはよだれがあふれ、瞳孔は開き、耳から濃い血が垂れ流れている、だがしかし、完全に心肺停止した状態のその身体が、足の親指の力だけで直立する。

 

「目覚めたな、誰が目覚めた?」

 

 男の異形、ザミーゴ・デルマが問うた。

 

「このライモン様を起こしたのはてめえか?」

 

 死んだはずの全裸の男が、振幅のある重低音を響かせる、

 

「『大きくなあれ』のライモン・ガオルファング。金庫の色が、」

 

 女の異形、ゴーシュ・ル・メドゥは、起きあがった全裸の男の胸元を指差した、

 

「鍛えた甲斐がありましたね姐さん、ようやくステイタス・ゴールドにまで育ちましたよ。」

 

 全裸の男の胸筋に埋まった金庫、あのギャングラーの銀の金庫が、この組織の頂点に立つドグラニオの金庫と同じ、ゴールドの色味を放っている。

 

「ライモン、おめでとうよ、姐さんやデストラより上位の幹部になれるかもしれんぜ。」

 

 なんだと言うんだ、ギャングラーとは、

 

 朝加圭一郎は何も考える事ができなかった、

 

「あれは人間をギャングラーに洗脳しているのか?」

 

「そんな生易しいもんじゃねえ。人間の細胞という細胞を素材にギャングラーを作る、外皮、ガワだけ残してな。人間の形したビニール袋にギャングラーが詰まってるのさ。器官も細胞も一辺全部ミンチにして完全に造り替える。金庫を埋め込まれた時点でガワ以外の何ものこらねえ。」

 

 坦々とこの赤いVSビークルは述べた。

 

 お・・・・

 

 嗚咽の酸味が口の中に拡がる、傍観する朝加圭一郎の中で、ゾッとする程の何かがトリガーに指を伸ばさせた。

 

「ギャングラァァァァ!」

 

 思わず飛び出て3制射、

 

「バカ、適う訳ねえだろ、」

 

 赤いビークルは隠れながらも声を出してしまった、

 

「あいつ、どうやって氷から抜け出した」

 

 2体のギャングラーが同時に振り返り、そしてゆっくりと金庫の埋まった全裸の男も1号を見た。

 

「国際警察だ!」

 

 指を千切るような勢いで連射するパトレン1号、撃たれる3体の怪物はしかし、直撃を数発それぞれ食らっているものの、まるで動じていない、

 

 こいつら全員、格が違うのか、

 

 そう直覚するパトレン1号、

 クルネオのようなギャングラー、ザミーゴは金庫から氷の銃を取り出し、パトレン1号へ制射、過去の体験から氷弾を辛うじて迎撃する1号、

 サディステックな含みで嘲笑するギャングラー、ゴーシュが前腕を突き出し骨の弾丸を発射、これも躱す1号、だがしかし避けた先の氷柱に弾丸が衝突、粉微塵に砕け、中の人間もまた粉微塵になった。

 

「キサマぁ!」

 

 あるいは非道への怒りか、あるいは己の無力さの裏返しか、激高したパトレン1号はなおも留まって銃を乱射した。

 

「無理だって。」ジャックポットを名乗ったビークルは1号に密着して、巧妙に敵の視界から隠れている。「堅物は頭オカシくなるかもしんねえが、しょうがねえ。おい、おまえ!」

 

「なんだ、いいかげんにしろ」

 

 纏わり付くビークルも煩わしくなるほど、攻撃に手応えがなく苛立つ1号、

 

「『このままおまえはこの場から逃げる。』」

 

「・・・・、オレはこのままこの場から逃げる・・・・」

 

 突如、銃撃を止め、180度振り返ってただひたすら倉庫出口まで駆け出すパトレン1号、

 

「ダメですよ撃っちゃ姐さん、オレが集めた蒐集が勿体ないじゃないですか。」

 

「でもあの蒐集品も逃がしちゃうわよ。」

 

「じゃあこうしましょう姐さん、ライモン、おまえの力を見せろ。」

 

 3体の怪物が1号に好都合な事に威嚇を緩めている、VSチェンジャーを捻ってトリガーマシン1号を巨大化させる、

 

『轟、音、爆、走!』

 

 全力疾走で飛び乗る1号、全長20メートルの車体はフォーミュラー系の空力ボディ、乗座したコクピットは快盗のそれと共通したバイクポジション、操縦桿代わりにVSチェンジャーを右ハンドル相当の位置に差す、

 

「ズラかるぞ!おまえ!」

 

 ジャックポットもまたコクピットに潜り込んでいる、

 四輪全てが煙を噴いて加速、

 加速するも、なぜかタイヤが路面を空回り、倉庫から半ばだけ身を露出させ甲高い轟音だけ響かせるトリガーマシン1号、

 それは片腕、

 全裸の男、金の金庫を埋め込んだ細身で高身長の青年が、裸足で冷凍倉庫を駆け、一瞬で間合いを詰め、巨大化したトリガーマシンのその最後尾、まさにその巨大な引き金のパーツに片腕を引っかけ、たったそれだけの事でマシンが金切り音を上げて空転し全く動けない。

 

「こんな力が、」

 

「もう人間じゃねえんだ、ブーストかけろ!」

 

 1号、右スロットル、VSチェンジャー銃尻握把を握る、

 スライドするトリガーマシン車体前面、物理的に全長が伸び、前輪の後ろ、さらに2輪露出、内臓された六気筒エンジンがコクピット前面に配されたローラーのブーストで出力を上げる、上がった駆動力を増えた6輪全てで路面に伝達、

 ブーストされた加速力、引き留めている金庫の怪物の腕の方が千切れ飛んだ、

 轟くスピンターン、倉庫から飛び出すと一面東京湾、堤防から後輪がはみ出して宙に浮く、残り四輪で辛うじて路面をグリップし直進、サイレンをけたたましく鳴り響かせ逃走を計る。

 

「ライモン、おまえのせい、なこれ。」

 

「アラアラアラ、逃しちゃったわね。ボスに報告したら、また切り刻まれるかもね。」

 

 冷凍倉庫の扉から、熱気の籠もった外気が差してくる。それがライモンと呼ばれた全裸の男の皮膚に張り付いた霜を溶かしていく。

 

「ザミーゴ、逃がしていいのか。」

 

「オキニだったんだけどなぁ。ま、あいつが生身になった時にでもまた捕まえるさ。」

 

 ザミーゴと呼ばれた怪物の目からは何の意志も読み取れない。

 

「こいつ、昔からそういうところが気にくわねえ。」

 

 ライモンと呼ばれた怪物はそう言って倉庫の廊下に痰を吐き捨てた。

 

 

 

「そんなに大量の人間をいつ掠ったんだ」

 

「人間に金庫を埋めて、許せんギャングラー、」

 

「だからだ、咲也つかさ、これからあのギャングラーの倉庫を包囲して・・・高尾ノエルといっしょにいる子供、あれはVSチェンジャーじゃないか?」

 

 そうして高尾ノエルが3人の子供快盗達と話しているところへ3人で割って入った。

 

「それ、快盗の武器じゃないっすか!」

 

「カワイイ子供達と何をしている!」

 

「どうしたノエル主任、君達、迷子か?その持っているものは、」

 

 この事態に呆然とし、目だけが左右にブレる子供快盗達、だが次の高尾ノエルの発言でガク然とするのである。

 

「拾ってくれてありがとう、これは警察で預からせてもらうよ。」

 

 手早く3人の手からビークルの装填された銃をもぎ取るノエル、その手業はまさに、くすねる、というに相応しい。

 

「てめえ」思わず声に出すカイリ(8)。

 

 その頭を撫でるように抑えつける高尾ノエル。

 

「子供の玩具じゃない、からね。」

 

 その胡散臭い笑顔に、カイリ(8)に煮えくり返って腸が飛び出しそうになった。

 

「迷子ですよねその子達。」

 

「迷子は、カワイイが致し方ない、我々の管轄外だ、致し方ない、警察に迎えに来てもらおう。」

 

 つかさは断腸の思いで拳を握りしめた。

 

 まずい、VSチェンジャーから引き離される、

 

「ママぁ!」

 

 カイリ(8)、唐突につかさの片太股にしがみついた、同情を誘ってなんとしてでも国際警察から移されるのを阻まなければ、

 

「パパァ!」

 

 だが、カイリ(8)の思惑は思わぬ方向に突き進む、隣のうみか(10)が、なんと朝加圭一郎の両足に抱きついた、

 

「ママ、、、、ママかそうか」全身を高揚感に満たされるつかさ、

 

「パパ、・・・・オレは、まだ子供を養育できる程だな、」責任の重圧を仮体験してしまう圭一郎、

 

「え?じゃあ・・・、え、2人は小学生の時に子供を・・・?!」

 

 咲也は両手の指を何本か折っては伸ばし追っては伸ばし、

 

「「そんな訳ないだろ!」」

 

 圭一郎などは赤面している。

 

「じゃあ、どういう事なんスか?」

 

「ええと、そのつまり、僕らの両親が、ちょうどそちらのお二人にそっくりで、弟達がご迷惑を」

 

 咲也の疑問に答えたのは、トオマ(14)だった。しかしそのややぎこちない作り話を見かねて高尾ノエルが口端を歪めながら話を受け継いだ。

 

「まあしょうがない、僕がこの際この子達の調書をとる事にするよ。」

 

「私ではダメか主任!」

 

「つかさも主任もダメだ、オレが捕まっていた倉庫にこれから急襲をかける。国際警察の総力で当たるべきだ。」

 

 圭一郎の言葉で国際警察の他3人が一斉に振り返る、つかさなどは絶望的な表情で圭一郎に訴えている。

 

「オララ~、残念ながら圭一郎君、僕はもう戦力部隊の主任を解任された、今は管理官に戻って、単独の潜入捜査官の辞令を受けた。」

 

「え!いつですか!まだ主任になって数日しか経ってないのに!」

 

「僕は基本圭一郎君が戻って来た場合、臨時の主任職を自動的に解かれる内示をもらっていてね、既に僕の端末に次の辞令が来ているんだ咲也君。」

 

「数時間、いや数十分でフランス本部が認知して辞令を出したという事じゃないか、おかしすぎるだろ!」

 

「フランス本部は進んでいるのさ、つかさ君。」

 

 屈託の無い笑顔を振りまく高尾ノエルを6人総じて怪訝な目つきで眺めやった。

 

「という事で、3人共、ギャングラーの拠点に行ってくるといい。僕は、この子らの相手をしているからさ。」

 

 警察3人組は物言いたげに「出動する!」の主任に返り咲いた圭一郎の号令一過、

 

「カワイイ君、このお母さんを待っているんだぞ」

 

「カワウィお嬢ちゃん、お兄さんね、帰って来たら、拳を口の中に入れるとこ見せるから、どうしたの?顔色悪いよお嬢ちゃん?」

 

 すごすごと子供快盗3人組の視界から消えた。

 

 あの姉ちゃん段々苦手になってきた、

 

 カイリ(8)が振り返ると、うみか(10)は堰を切ったように足を崩してよつんばいになっている、

 

「おい、うみか、ナニがあった?!」トオマ(14)は敵の攻撃を疑った程だ、

 

「・・・・・息止めてて・・・・・あの刑事さん、お父さんと同じ臭いでもう・・・・鼻がもげて、身体が裂けそうだった、うみか、でもがんばってあの足しがみついたんだよ、褒めて、二人とも褒めてうみかを・・・」

 

 子供達の寸劇をほくそ笑みながら放置する高尾ノエルがいた。

 

「のえるクン、イタイタ、きみノモツこれくしょん、ノちからデ、ちょうしゃノ、しゅうふくヲタノンデイタハズダガ」

 

 そして3警察と入れ替わるようにアフリカ系アメリカ人の管理官がやってくる、子供3人とも警察3人組程近しくないこのエディ・マーフィもどきに緊張する、うみかなどはトラウマに近い第一印象にビビりまくっている、

 

「ええ、約束は憶えてますよ。だから僕は警告していたんですよ、襲撃に備えて地上よりも地下設備を充実させた方がいいって。じゃあ、この兄妹達に、少しサービスしちゃおうかな。」

 

 おもむろにXチェンジャーを掲げる高尾ノエル、

 

「警察チェンジ」

 

『警察 エックス チェンジ』

 

 Xチェンジャーの銃身を回転させてトレインゴールドを銃口に、天に掲げ一射、エンブレムが現れ、重力に従って高尾ノエルを上から下にすり抜けていく、出現する金のスーツ、高尾ノエルが装着したそれが、

 

『パトレンエックス』

 

 呆然とする3人の子供快盗、それがはじめて目視する高尾ノエルの警察での姿、それは3人に高尾ノエルがより警察サイドに近しい者であるという印象を与えるのに十分、

 

「オララ~、ぼんやりしてないでそこのおチビくん、これを1度だけ使わせあげよう。」

 

 そんな3人がどう自分を見ているか承知しているのかいないのか、パトレンエックスは、カイリ(8)にVSチェンジャーと金に輝くVSビークルを渡す。

 

「てめえ、」

 

 図々しいにも程があるぞエックス、

 

「さあさあ、ここの修理でこれを巨大化させなければならない、それだけの話だよ。どうした?まるで盗んだバイクで走り出す学生みたいに、キミ本当に8歳?」

 

 チラと警察管理官に目をやってカイリ(8)は苦虫を潰したような顔で、渋々ビークルをチェンジャーに差す、そしてビークルを銃身上に回し込む、

 

『位置に着いて ヨーイ ハシレハシレハシレ』

 

 斜め30度上方に掲げ手際良く引き金を引いた、

 

『出動ゥ!疾風迅雷!』

 

 たちまちの内に手づかみのスケールから、形状通りディーゼル車両レベルに立体を拡充させるビークル、『エックストレインサンダー』、

 

「ごくろうさま、では僕も。」

 

 パトレンエックス、得物を掲げやはり斜め30度上方に掲げ、グリップに対して銃身を横回転2回、

 

『前方ヨーシ 信号ヨーシ 発車ヨーシ 駆けろ駆けろ駆けろ・・・・』

 

 そうして引き金を絞る、

 

『しゅっぱーつ 進行っ!』

 

 得物の銃がひとりでに宙を浮き、4両連結の金と銀の列車形態へと巨大化していく、

 

「自分でやればいいのに、」と口にするトオマ(14)。

 

『エエエ エックス!』

 

「僕は僕の武器以外巨大化できないからね。」聞いているパトレンエックス。

 

 おまえ技術者だろ、その程度どうにかできるだろ、

 

 内心もやもやするしかないトオマ(14)だった。

 

「アデュー~」

 

 と列車がUターンして再接したところ飛び乗るパトレンエックス、

 

「警察なら任務完了ダッチューの!」うみか(10)はこれ以上ないエックスの嫌味にムカついた。

 

 宙に透明なレールを敷いてあるかのように無限に滑らかな軌道を描くそれは『エックストレイン』、4連結の列車は先頭2両が金に輝き、後方2両が銀に光る、並走するのはカイリが巨大化させた『エックストレインサンダー』、

 

「レイモンド、ドロテと連結してくれ。」

 

 4両の内、金の蒸気機関車の機首を持つ2両と銀の高速新幹線の機首をもつ2両が分かたれる、銀の車両は失速から逆走、宙に高く舞い上がっていく、金のエックストレインは、サンダーとなお並走、それはさながら蒸気機関車とディーゼル機関車の並走のように見える、やや上角で並走から左右に先割れするように分かれ、両車とも宙で制止、互いに直線上に並んで互いに逆走、連結する。

 

「いくよ、レイモンド、君の『修復』を存分に見せてくれたまえ。」

 

 パトレンエックスの搭乗するコクピット内部は、ダイヤルファイター、トリガーマシンのそれと規格を同じ両腕のレバーにやや身体を預ける跨ぎ型の乗座、パトレンエックスはレバーを捻って車体を加速させる、

 虹の尾を引くディーゼル機首、

 3両編成になった先頭は金の蒸気機関車、中央は左右扉を外したような空洞化したコンテナに上部はガトリング砲座が鎮座、そして最後尾がディーゼル車両、その光の帯を引き列車は地上スレスレからコイル状に徐々に高度を上げ、庁舎全体を包んでいく、

 ひとりでに浮かぶ瓦礫、互いの瓦礫が引き合って組み合わさり、6面体の1つの形状になるまで無数の瓦礫が寄り集まっていく、ガラスもコンクリートも全ての継ぎ目が見えなくなり、元の庁舎を復元していく。

 

「エックス、ソーユー事できんのかよ、んだけ隠し玉もってんだつーの」」

 

「あれはオレ達のビークルを治す時も使うのか」

 

「なんかうみかもうちんぷんかんぷん」

 

 3人の子供達が呆然と見守る中、列車は汽笛を上げて宙を走る。

 

 

 

「と言っても、内装やライフライン、ケーブルやネット回線、セキュリティなんかはほぼ手作業で復興するしかないんだけどね。この取調室と戦力部隊の執務室はなんとか復興したが、さてはて、全快するのはいつかね。」

 

「んな事聞いてねえ、いつになったら元戻れんノ?」

 

「あのコレクションでビークルも修理しているのか?」

 

「ねえねえ、あの警察1号クンなんであんなに臭いの?お父さんと同じレベルって人間で最低なレベルでしょ!ナニ食ってるの?ねえねえ!」

 

 高尾ノエルことエックスは、国際警察戦力部隊リペイントの金の制服を正し、取調室に子供快盗達3人と対面し席に就いていた。取調室は地下に在り、時に明滅する照明が3人の気を滅入らせる。

 

「オララ~、いくら僕でも3人いっぺんに話は聞けないよ、もう少し整理して、」

 

「「「これからどうする!」」」

 

「オララ~、ギャングラーの幹部クラスだね。もう金庫に含まれている能力だとすると、そいつをおびき出して倒すしかない。まあ気長に待つ事だね。」

 

「気長ってこいつぁ」

 

 そんな4人の居座る取調室のドアが開かれる、カイリ(8)は掴みかかった手を慌てて放し、高尾ノエルは襟を正し、トオマ(14)は咳払いし、うみか(10)に至っては髪を正した。

 

「これはこれはジムくん、先程のバッテリー切れからようやく動けるまでになったんだね。」

 

 それはあの国際警察のデスクワーク用人型まがいのロボット、全身ホワイトカラーのジム・カーターがひょっこりドアを開け取調室を覗いてきた。トオマ(14)などは初見である為に上から下まで眺めやり、こんな執拗にアニメ声にする必要があったのか、とすら内心思った。

 

「高尾ノエル管理官、フランス本部に至急連絡を。なんでも急を要するご用件だとか。」

 

「メルスィー、せっつかれてるのさ。本部からね。次の任務に早く行けと。ちょうど良い。今調書は仕上がったし、ご両親とも連絡はついた、母親が迎えに来るまで、ジムくん、この子達をよろしく。」

 

 え?調書?親?いつのまに、

 待て、オレ達を置いて行くのか、

 ええ、このロボットにくん付け?

 

 困惑する子供達、そして、

 

「ええええ!困ります困ります、私には子供の面倒を見る機能はついていません!」

 

 もっとも混乱しているのは、このカエルなのか鏡餅なのか知れないデスクワークロボットであった。

 

「なんでも母親は今ブエノスアイレスに行ってしまったそうで今日中には戻れないそうだ。1日ここで預かるしかない。」

 

 さらに仰天するロボットと3人の子供快盗。

 

「ええええええ、」と3人に振り返るジム。「え、しかし、ですね、え、この3人、でも、オカシイな、僕の認証システムでこの3人は、え、でもそんなバカな、データが狂ってる、ジュレの3人であるはずが」

 

「優秀だな。さすがメイド・イン・僕。」ロボットにゆっくり手を宛がう高尾ノエル。「音声認識、マスターコマンドプロンプト・エックス。顔認証システムを1日の間30%に低下、この1分の記憶をデリートした後再起動。」

 

 仰天する3人の子供がいた。うみかなどは事の大きさに思わず一筋よだれが。

 

「高尾ノエル管理官、フランス本部に至急連絡を。なんでも急を要するご用件だとか。」

 

「メルスィー。僕は次の任務がある、母親が来る明日まで、この子達をよろしく頼む。」

 

「ええええ!困ります困ります、私には子供の面倒を見る機能は!」

 

「母親がバイアブランカにいてどうしても明日までかかるんだそうだ。これこの子達の調書、よろしく。そうそう、快盗からの押収品、セキュリティの復旧した保管庫か、ヒルトップ管理官が戻るまで君が預かってくれ。それは、解ってるよね?」

 

 高尾ノエルの扉を閉める音が冷酷な程響いた。ドアにすがりついて膝を折るジム・カーター。

 

「なぜ、ボクがどうして・・・・」

 

 この後におよんでまだアニメ声かこいつ、

 

「あ、あの、ロボットさん、僕ら兄妹、このままこの部屋に泊まるんでしょうか・・・」

 

 トオマ(14)が見かねてこの白基調のロボットに話しかけた。

 

「え、あ??どうすれば、どうすれば、人間はここで制止する事などできないとボクの電子頭脳が、充電も手間取るし、一度も停止する事ができない、ああ!人間ややこしい!」

 

「あのちょっと鏡餅」

 

 うみか(10)の声など聞く事すらできない程のパニックに陥ったデスクワークロボットだった。

 

「どうなるのうみか達?」

 

「エックスは母親を用意してくれるみたいだが、ここに閉じ込めたいのか、それとも見捨てたという事か。」

 

「んな事より、ビークルとVSチェンジャー、取り戻そうぜ。」

 

 困り果てた子供快盗達、その中でしかしカイリ(8)は、余裕をこいている。

 

「「どうやって!」」

 

「オレ達ゃ子供なんだぜ、子供はさ、頼りになる大人に、ヒョコヒョコ付いて回るものだろ、だから、あいつの後付いていけば、VSチェンジャーまで連れて行ってくれるさ。」

 

 カイリという人間は、人の機微に聡い。

 

 

 

「いきなりこの間の巨大ギャングラーか!」

 

『クレーン』

 

 厳密に言えばあの無数のポーダマンを固めた金庫の無い巨大クリーチャーゴーラム。

 場所は圭一郎が脱出した湾岸沿いの冷凍倉庫、その倉庫の屋上を紙ペラを突き破るように全壊させてパトレン1号の眼前に突き進んでいく。

 

『警察ブースト』

 

 対峙したパトレン1号、最新の武器である白とイエローのクレーン車のミニカー、トリガーマシンをVSチェンジャーに装填、音声に従って銃身を捻る、

 

「パンレン1号ストロング!」

 

 装着されるのは両前腕、クレーン車の四輪が右前腕を挟み込み、ドリルのキャタピラが左前腕を挟み込む、快盗のシザー&ブレードに匹敵するそれがパトレンジャー強化形態。

 

「ロープアーム!」

 

 右手のフックを伸ばし、ほぼ直上に位置するゴーラム胸部に架ける、ロープをたぐり寄せゴーラムの腹部まで到達、フックがけでぶら下がる、敵の巨腕が身体についた虫のようにパトレン1号を潰そうとする、ゴツゴツとした甲羅か岩盤のような敵ボディを蹴る、フックを軸に振り子運動する形になり、振幅限界から反転、ボディめがけてドリルを構え、

 

「ドリルアーム!!」

 

 左ストレートを放つ、

 剥げ散る甲羅の破片をもろに食らいながら1号、フックがけしたロープが緩み、ジェットコースターで下るように前方に倒れ込む感覚に囚われる、倒れていくのはゴーラム、1号の一撃は10数倍の敵を転倒させた。

 

「とどめだ」

 

 蝿がとまるようにしがみついていた1号、立ち上がり腰のチェンジャーを一度操作し、両の指を組んで腕を頭上に掲げ伸ばす、

 

『一撃ストライクっ!』

 

 1号が両腕を振り下ろす、前腕の両ビークルに蓄積されたエネルギーが全放出叩き込まれる、

 全身が爆散消失、ゴーラムが罅割れ砕け散る、砕け散った先から破片が消失していく、消失が蒸発していった。

 

「圭一郎!」

 

「センパイ、ヒドイですよ、倉庫に入った途端天井が降ってきて、身体が埃まみれですよ~」

 

「つかさ、咲也、すまん、援護するより先に敵の対応に追われた。」

 

「置き土産だ。中はからっぽだ。氷の欠片くらいしかなかった。」

 

「センパイ、一人で倒すなんてすごいですね!僕もそうなるようにがんばりますよ!」

 

 天井の抜けた倉庫から出てきたのはパトレン2号と3号、圭一郎が捕まっていた冷凍倉庫に突入した途端、眼前で巨大化したゴーラムによって瓦礫の下敷きになった。

 

「からっぽ?敵もあれだけあった氷柱も消えたのか?どうやったらこんな短時間、」

 

「いやあ、これで1人で出撃できれば、僕らもローテーションである程度休暇が取れますよねえ、ねえ!」

 

「「煩い!」」

 

 イラついた先輩格二人は後輩にパワハラな目つきで睨みつけた。後輩はショボくれて両の人差し指二本を合わせては放し合わせては放し押し黙った。

 

「考えてみろ圭一郎、私達はおまえが氷漬けになって粉々に砕けたのをこの目で見たんだぞ。それでもおまえはこうして生きている、おそらく、あのポンチョのギャングラーは粉々にした氷を自由にそっくり元通りに別の場所で再構成するか、そもそも粉々にしている訳でなく、転送する時表面だけ氷が剥離するんじゃないかと思う。そうなると」

 

「なるほど、一瞬で全て移動させたか。くそ、」

 

 パトレン1号、クレーン車の纏わり付いた右手を振り上げる、

 

「その地面の物損は、保険が適用されんぞ。」つかさの目もまた悔しそうである。

 

「え?この地面そもそも損壊してるんだから、その上少し壊しても何も変わらないじゃないですか?」咲也は何も考えて無い目である。

 

「私が上に報告する。」

 

「つかさ先輩そりゃ圭一郎先輩に酷ですよ、」

 

「そんな気遣いはいい、オレが自分で報告する!くそっ!!」

 

 振り上げた腕をダラリと下げ、その代わり天を仰いで怒声を上げたパトレン1号だった。

 

 二人とも、生き方ヘタだな、

 

 陽川咲也は自分を据え置いて、両同僚を交互に眺めた。

 

 

 

「ザミーゴ、私の虎の子をよくもこうも簡単に使い捨てにしてくれたな。」

 

「デストラの旦那、まあ興奮せずに。知ってますかい、あの警察と戦って追い込まれた金庫、ライモンが金になったのを。」

 

 そこは港付近に停泊している交易船の甲板、倉庫を取り囲む巨大化したトリガーマシン3両と国際警察を、海上出港する船の上から眺めている。

 ザミーゴはポンチョを羽織った人間の姿で、デストラはその怪人の姿を隠さずに堂々と起立、国際警察が到着した時には既に海上にあり、みすみす見逃す形になった。

 

「金?金庫がドグラニオ様の色になっただと?」

 

 発憤のあまりザミーゴの首を片腕で掴むデストラ、しかしザミーゴは両足が甲板についていないにも関わらず、ザミーゴの薄ら笑みは絶える事がない。

 

「旦那がドグラニオ様を慕うなら、一度徹底的に快盗や警察と戦って、その身を危険に晒すといい、喜ぶぜボスも、ハハハハ、『医者医者』のデストラぁ」

 

 最後はドグラニオの声真似であった。

 

「オレはおまえが気に食わん、ゴーシュよりもだ!ゴーシュの使いパシリのくせに、ドグラニオ様の名を気安く口にするな、私とやり合いたいか!!」

 

 地面に投げ出されるザミーゴ、甲板独特の金属音が船中に響いた。

 

「滅相もない、デストラの旦那やゴーシュの姐さんにオレなんぞが適う訳ないじゃないですかぁ、ハハハハハ!」

 

 ザミーゴはなにがそんなにオカシイのか、狂ったように笑っていた。

 

 

 

『昨日おねしょしちゃったぜ、ルパンレッド(8)!』

 

『田んぼでエロ本拾って持って帰りました、ルパンブルー(14)』

 

『お父さんがお赤飯炊いてくれたよ、ルパンイエロー(10)!』

 

 いやじゃ、それだけはいやじゃ、

 

「何をブツブツ言ってるうみか。」

 

「どうせ変な妄想でもしてんジャね」

 

 国際警察、未だ修復工事現在進行形の庁舎内廊下、カイリ(8)達子供快盗3人は地下に移されただろう戦力部隊執務室前、半開きするドアの前でデスクワークロボであるジム・カーターの動向をひとまずは探った。

 

「ですからアーサー兄さん、ボク困ってしまって、養育と言えばアーサー兄さんかマグ兄さんじゃないですか。」

 

「ジム君、今忙しいんだ、七五三今年は3人なんだから。ああもう日が沈む、5人迎えに行かなきゃ。じゃあ、ジム君、やれば分かるよ、みんなそうだ。」

 

「兄さん!少しプログラムをお裾分けしてくれるだけでいいですから!ボクを助けて!」

 

 執務室の中は地下に移ったものの配置は同じ、机のシマがセンターにあり、奥側のデスクは管理官用、ドアから見て左方の壁はデスクが端から端まで並び、反対の壁センターに3人がけソファがある。

 

「しめた、まだこのドアのセキュリティ回復してない。」

 

 その並びは子供快盗にも既知な配置であり、ほぼいつも通りの左寄り壁際の席で、ロボットが通信マイクに向かって必死の懇願をしていた。

 それを見て舌なめずりをするのはカイリ(8)、

 

「おまえら、チェンジャーを捜してチュ。」

 

「カイリカイリ、見つかっちゃう、」

 

「分かった、ちゃんと引きつけてくれ。」

 

 カイリ(8)は堂々とジム・カーターの背後に歩み寄った。うみか(10)は引き留めようとするもそのうみか(10)をトオマ(14)は制止した。

 

「ねえねえロボットさんロボットさん、その腕はどうやって動いてるの?」

 

「腕のパーツは全てナノマシンの集合体のジェルを詰めてるんだ、だからどんな細かい動きもどんな形状にも、ってえええ!なんでここに!ちょちょっと!君!」

 

 カイリ(8)、敢えてこのロボットに絡みついて二人がVSチェンジャーを見つけ出すまでの囮になった。

 

「ねえねえ、なんでマイクに向かって喋ってるの?コンセント繋げばいいじゃん。」

 

「これはね、データを直接やりとりするとハッキングの危険があるから、僕らロボットはデータを守る為に敢えて一度音声にしたデータを音声から変換し、映像にした映像を敢えてカメラアイで取り込むんだ、だから膨大なデータ入力もこの通りこのジェルアームで手入力して、ってそうじゃないそうじゃない!なんでここに君がいるんだ!取調室にちゃんといなきゃダメじゃないか!!」

 

「ねえねえ、じゃあさ、ロボットさんのお父さんは?」

 

 そんなカイリ(8)の8歳ぶりに、トオマもうみかも唖然と眺めてしまう。

 

「うみか、ボーとするな捜せ」

 

「トオマだって、もう、おーい、イエもん・・・・イエもんやーい」

 

 ボソボソ言いながら執務室を4つんばいで這い回る二人の子供快盗、その内窓際のデスクシマ、隔離された席から小さな物音がするのに気づく、

 

「本当に答えるようになったな、ビークル。」

 

 トオマ(14)は、うみか(10)のビークルをかわいがり過ぎるところに日頃疑問を呈していた。

 

「イエもーん、エライぞ。ここだな、すぐ出してあげるからな」

 

 窓際の席、おおよそ室内に勤務する最高位の役職の人間、この場合管理官の席の、その2つあるワゴンの左の最下段より、僅かにコツコツと音がする、

 

「鍵がかかっている。」

 

 トオマ(14)がその引き出しにぶら下がっているダイヤル式の南京錠を掴む、

 

「よし鍵だ、VSチェンジャーで・・・中だよぉトオマぁ」

 

 半ベソをかくうみか(10)を前にトオマ(14)はただ鍵を見つめている、

 

「うみか、エックスから多少の鍵は自分で開けられるよう教えられただろ。」

 

 トオマ(14)、南京錠をやや強く引っ張りながらダイヤルを回し始める、ケタは3つ横並び、両端からゆっくり回して違和感のあるところで止める、

 

「トオマってスリとか鍵開けとかすごくマジメにやってたもんね。」

 

「くそ、エックスめ、まさか警察に寝返ったんじゃないだろう・・・よし。」

 

 あっさりと南京錠を取り外すトオマ(14)、曲線の閂を小器用に捻ってワゴン最下の引き出しを開ける、

 

「おお、イエ、」

 

 と言ううみか(10)になぜか無反応のビークル達、それもそのはず、うみかの頭共々ビークル達に大きな影が差した、

 

「こぉぁら!!何をしているんだ!」

 

 アニメ声で怒ってる、

 

 トオマ(14)は頭上の白い物体を見上げた、

 

「つい、さっきの玩具を」

 

「どうしてこんな事をするんだ!君達どうやって開けた?管理官また適当に仕舞ったのかな?全く、セキュリティカメラが回復したら君達がいたずらしようとしてるところがばっちり入ってきて、あぶないあぶない!」

 

 それは回線の復旧に伴うモニタチェックを行ったタイミングが、実に見事なほどトオマが鍵を取り去ったその時であった。

 見つかったトオマ(14)とうみか(10)は、まずカイリ(8)を睨んだ、睨まれたカイリ(8)は目線を斜め上に外して口笛を吹くようなポーズを取ったが、しばらく考え観念したような渋い顔でいきなり泣き出した。

 

「ウァァァァぁボクあのオモチャでまた遊びたいよぁぉぉぉぉおにいちゃんおねえちゃんにおもちゃとってよぉぉぉぉとってよぉぉぉぉ!!!」

 

「お、弟がどうしてもと言って、僕が、その弟に手を焼いてる間に見つけ出して、鍵を引っ張ったら、普通に、その、えー、開いてしまって、」

 

 トオマ一生分のウソであった、

 

「いいかい、ダントン君、シモーヌちゃん、ロベール君、ちょっとしたデキ心で犯罪者になってしまうんだっ、僕は哀しい!これは歴とした窃盗未遂だ、君達は未成年だし僕は逮捕権限がないから、今回だけは大目に見てあげるけど、いいかい、これから君達はお母さんのアントワネットさんが迎えに来るまで、厳重にセキュリティのかかった部屋で行動を制限させてもらうからね、いいね!」

 

 そもそもロボットであるから表情というものが無いのであるが、その感情を読み取れない鉄のデザインが故に何かが怖ろしい、

 

「うわぁぁぁぁ、ロボットさん怖いよぁぁぁぁお母さんよりコワイヨぉぉぉぉ!!」

 

 泣き出して誤魔化そうとするカイリ(8)、

 

「いいかい僕を怒らせると怖いんだぞぉ~、実は等価交換で肉体を失って魂だけをこの鎧に定着させたんだぞぉ~。」

 

「マジ?コワイヨぉ・・・コワイヨぉ・・・・」

 

 うみか(10)、おまえってヤツは、

 

 真に受けて震え、身体を丸めて伏せ、両耳を掌で塞いでいる。

 

 アニメ声で厨ニ設定をひけらかすロボットなんて作ったのかエックスは、というかあいつどんな調書を適当にこさえたんだ・・・・、

 トオマ(14)はどん引きになってこの状況を眺めていたところへ、であった。

 

「やあボウヤ待たせたな!」

 

 けたたましい音を立ててドアが開いた、制服にところどころピンクのラインの入った戦力部隊3番目の女が、来るなりカイリ(8)を目ざとく見つけ捕まえて抱き上げた、

 

「エ・・・・」

 

「ママが帰って来たぞ!」

 

 既に明神つかさの頭では8年分の妄想が完了している。ひきつった顔をつかさの手前無理に抑えてとびきりの愛嬌を向けるカイリ(8)はしかし、怯えた目だけはトオマ(14)達に向けた。

 

 頼む、なんとかしてくれ、

 

 おまえの尊い犠牲は無駄にはしないぞ、

 

 トオマ(14)達の目はそう訴えて、最敬礼した。

 

「なんだボウヤ、顔が少し汚れているぞ、そうだ、いっしょにお風呂に入ろう。」

 

 真顔で言った。

 カイリ(8)の顔に絶望感が満ちた。絶望感に満ちた子供を抱きかかえて明神つかさは、速やかに執務室を出て地下シャワールームに足を向けた。

 

「フガフガフガ(どうだいちびっ子たち、拳を口の中に入れて来たぞ)。」

 

 続いて制服に緑のラインが入った戦力部隊2番目のチャラそうな男が入ってきた。

 

 うわ・・・

 

 咄嗟に目を合わせずトオマ(14)の影に隠れるうみか(10)、もはや視界に入れる事すら忌むべき存在だった。

 

「おいおい君達、管理官が捜していたぞ。全くつかさもしょうがないな。許してくれ君達、あれはカワイイものを見ると手がつけられないんだ。ま、そういう時のあいつもカワイイもんなんだがな。」

 

 ふん、オンナを知った風な口きくヤツは、その内手痛いシッペ返しを食らうぞ、

 

 リア充経験豊富なトオマ(14)は、最後に入ってきた朝加圭一郎が女性経験量が圧倒的に少ない事を看過した。

 

「フガフガフガフガ?フガフガフガ!!」

 

「咲也、いい加減それを止めろ、ジム、代わろう、まだ充電が完了していないんだろ。この子達の事はノエルと管理官から聞いている、母親が来るまで地下に移した仮眠室なんだろ。引き継ぐ。」

 

 トオマは死んだ目でこのカオスの中に身を置いている自分を恥じた。

 

 

 

 洋館『空洞の針』。

 ドグラニオ・ヤーブンは、肘掛けイスに座して絶えずワイングラスを燻らせてる。

 

「デストラ、今回のゲーム、どうもハードルが高すぎるようだな。誰1人このオレの課題に答えたものがいないではないか。」

 

 隻眼の巨漢デストラは、やはり洋館にあって主人の右側に立ち尽くしている。

 

「奴等が不甲斐ないだけです、たかだか快盗や警察などに邪魔された程度で、こうも」

 

「アッシはいつ、出番があるんですかい?ドグラニオ、の旦那。」

 

 扉が開いた、いや蹴破られた、金の金庫を埋め込まれた全裸の男、ここまで裸足で歩いてきた。

 

「誰だ?金の金庫だと」

 

 デストラは咄嗟に得物のロッドをドグラニオと全裸の男の間に差し挟んだ、

 

「ふん」

 

 全裸の男の肉質に変化が顕れた、その皮膚は紫に爛れ、次いで白と赤の角質が鱗のように前方から後方に流れるように生えていく、五指の爪が鋤のように伸びる、そしてその顔面はネコ科ヒョウ属、動物の王というイメージの強いオスの鬣を帯びた。

 

「おまえ、ライモンか。」

 

 ややドグラニオは上気したようにデストラには見えた。

 

「アッシはどこを任されるんですかい?ドグラニオの旦那?」

 

 徐に巨大な骨のようなステッキを取り出ライモン、縦向きに口に咥えて口から放す、息を吸って吐くのとリンクした動作をするとライモンの鼻孔から煙が出てきた。

 

「キサマ、ボスの御前だぞ!」

 

「ライモン、このオレが煙が嫌なのを記憶していないんだよなぁ?」

 

 ドグラニオがそのローブ留めを杖の端でコツコツと叩く、あの目にも止まらぬ殺戮サークルソーがいくつもライモンの周囲を取り囲む、一見ただキラキラと埃かなにか反射したかのようにしか見えない、

 

「バカの一つ覚えかよ」

 

 ライモンの骨型シガレットリキッドが握った前腕ごと消える、いや消えるほどの速さで動く、一瞬だけ消えた後、再び骨を咥えて鼻から煙を立てる、

 

「ほぉ、これは」

 

 ドグラニオ、自らの杖を眺める、杖には無数の小さなサークルソーがいつのまにか突き刺さっていた。

 

「ドグラニオ様への無礼はゆるさん!」

 

 思わずその得物を振り上げる巨漢デストラ、

 だがデストラの首は既にライモンの5本の爪に強く握られている、

 有無を言わさず背を床に押し付けられた、

 

「もうすぐキサマは、オレ様の横で突っ立てるのが仕事になるんだぜ。無礼はキサマだろ。」

 

 ハハハハハハハ、

 

「良いだろう、ライモン、1から23の内好きな番号を選べ。そのシマがおまえの持ち分だ。デストラはオレ様のお気に入りだ、これで許せ。その代わり、次はオレ様の前で煙を出すな。」

 

 ライモンになにやら放り投げるドグラニオ、それはブレスレッドにブレスレッドを絡めたような奇妙な形をしたコレクション。

 

「気前がいいじゃねえか、旦那。ヘヘ」

 

 骨のシガレットリキッドを縦から横に咥え直したライモン、転がったコレクションを自らの胸の金庫を開いて装填した。

 

「ドグラニオ様の前で醜態を、よくも、」

 

 倒れて未だに起きあがらないデストラの隻眼には、ライモンの金庫の扉がドグラニオと同じ金に輝いて映る。

 

 

 

 都電には路面電車がある。路上に埋め込んだ感動的なほど際限なく平行する2本の専用軌道を、道路交通法に則って走行する1両の電車、大型路線バス相当の容積は乗車から降車まで固定料金で利用できる。

 

「大人1人、5歳未満が2人、1歳が2人です。ガクは、自分でやるんだいいね。」

 

 果たして大人として扱っていいのかこいつを、

 運転手が唖然と眺める、当たり前だ、白い積み木を重ねたような自律型ロボット、アーサーG6が親ヅラして5人の子供達を引き連れ、都電荒川線の車内へ早稲田から乗り込んだ。ベビーカー2台でも大所帯なのに、さらにその積み木デザインのアーサーの体躯は狭い車内に圧倒的な存在感を放つ。

 

「ほらケン、またはしゃいで、他の兄妹達と違ってどうして君はそうなんだ、あのお父さんとお母さんから生まれたとは本当に思えない、」

 

 そんな平成初期までなら許される説教を、クドクド言うロボットは構造上曲げる事ができない腰に代わって大脚を開いて横曲げで指刺す。

 

「さくらトラムだから!」

 

「みんな荒川線って言ってるよぉ~だ」

 

 大塚を通過し、西巣鴨をいつのまにか通り過ぎて王子に至る、電車特有の車体の連なりもなく、一駅ごとに独特の風習があってそれをレールが繋いでいる訳でもない、ただ単に昭和年代に構築された街並を抜けていくこの路面電車、内部としても屋内面積の広い路線バスに近い、

 

「またカズミとケンカしてるのかケン!弟と妹の面倒をみなさいと言ってるだろ。七五三を迎えたんだから、2人ともお兄さんとお姉さんとして振る舞いなさい!」

 

 ところが、この昭和の醤油と味噌が混じった匂い漂う街並が原体験である世代にとって、この街がいずれ東京圏特有の効率重視の高層住居群、オフィスビル、奇抜にも程がある平成デザイン建築物に圧し潰されるのではないかという喪失危機を煽られ、夕陽の日差しと共にこの世界にノスタルジーを一駅ごとレールで繋いで喚起していく。

 

「アーサー、フミヤが泣き止まないよ」

 

「ガク、君は長男だからもっと落ち着くんだ、フミヤが泣き出すとレミもうるさがって泣き始める、これはオムツだな。」

 

 その白いロボットの腕からは到底考えられないレベルで小器用にオムツを交換し、体内のダストボックスに収納する、

 

「こら!ケン、カズミをそのカメレオンの玩具でからかっちゃダメだって言ってるだろ!ガク!ボクがフミヤを見てるんだから、他の弟達を見てなきゃダメじゃないか!」

 

「ケンもカズミもボクなんかの言う事効かないよアーサー・・・・」

 

「ガク、また黙り込んじゃって。君は怒った時のお父さんそっくりだな。いつもいつも考え事してボクにもお母さんにも相談しないで。長男はしっかりしないといけないぞ。」

 

「煩いな」

 

「ガク、そんな口をボクに」

 

「長男長男煩い!僕好き好んで長男に生まれてきたんじゃない!!」

 

「ガク、君は」

 

 そんな時、乗客全てが急なGを受け前のめりになる、急ブレーキ、つり革や座席にしがみつく乗客達、だがあの特有の金切り音はごく僅か、原因は古びた路面電車内部でなく、外部にあった、

 

「お、おばけっっ」

 

 背を丸めて次男の後ろに隠れてしまう長男、

 

「ガク、何を見た?外側、窓の外?何を見たんだ!?」

 

 兄妹3人が窓から外側を注視している視線を眼で追った養育ロボットは、必然、自分の背中側の窓を眺めやる、極めて濃い緑色をしていた、広葉樹の葉である事は明白だった、しかし無気味な事にその葉がゆらゆらと風もないのにヘビかなにかのように蔓を伸ばして車内に侵入してくる、

 

「なんだこれは!」

 

 慌てて窓を閉めるアーサーG6、蔓の先端が断ち切れ、断面がウネウネと窓にへばりつく、千切れた先端は不可思議なほど即効で枯れていった、

 

「早く、乗客全員ボクの言う事を聞いて、窓を閉めるんだ、侵入を許すな!ガク、弟達を守るんだ!」

 

「アーサー、電車が、電車の車輪が!」

 

 閉めた窓に頬を押し付け、ケンが見たものは道路一面拡がる樹木とその蔓に路面電車の車輪が絡みついて制動をかけている様だった。蔓は見る間に路面電車を覆って窓の高さまで鬱蒼と繁っていく。

 

「どうしてこんな事に、」

 

 それをアーサー等含む路面電車の乗客と乗務員が知る術は無い。

 鬱蒼と繁る蔓が荒川区全体を覆って密林どころでない際限なく絡まり合う暗緑の世界へ変貌させていく、それもアーサー達視界を遮られた者には知る由もない。

 いったい何故?

 

 

 

 その答えは、ただちに国際警察の知る所となった。

 

『いいかそのへんで板向けてる奴等!それがカメラなのを俺は知っているのだ!参ったか!よく聞け、今からこのアラカワは俺のシマだ、俺は他のヤツのようにチンタラ隠れてやらねえ、堂々とおおっぴらにショバ代をアラカワの人間共からせしめてやる!ここをおまえらが正式に俺、ウィルソン様のシマと認めれば、このへんの住民の命だけは保証してやる!ヒョ~ホホ。』

 

 たまたま周辺にいた市民からの多元一斉ネット配信であり、様々なアングルからこの怪物、ボディがタヌキの顔面の意匠のギャングラーである事は間違いない者の要求は、東京都民、ひいては日本国民を震撼させ、ただちに国際警察の速やかなる対処を求められた。

 

「まだ理由は分からないが、いままでの統計データが保証された形だな。ジム、」

 

 国際警察戦力部隊執務室。あるいは詰め所。ほぼ崩壊した地上階でなく、地下に仮設され、おそらくそのまま本設置となるこの応急措置された室内で、各自配られた無線のパッド端末だけで会議となった。

 

「待てその前に圭一郎、咲也が来ていないし、管理官もいない、」

 

「俺達は仮眠室、咲也は自宅へ帰って6時間程というところじゃないか。管理官はここの復旧の雑務に回っている、俺達にはこの解決に専念しろと正式に命令を受けている。つかさ、あの子に危害を加えてないだろうな?」

 

 あの管理官も人がいいな、つかさはニヤニヤした顔付きを引き締めて頭を切り換えた。

 

「失敬な、私はだな、あの子を手厚く保護してあげただけでだな、」

 

「事は急を要するんですが、いいですかお二人共」

 

 差し挟んだジム・カーターの音声は、どこか嫌味すらあった。高機能ロボットである。

 

「いいですか、ギャングラー達の活動は、1体、それぞれ東京23区のいずれか1区に限られるという事は予想の一つにありました。ただ、」

 

「待て、ここで巨大化したアニダラは、確か豊島区から江東区の埋め立て地に現れたではないか。ヤツと組んでいたオドードも。」

 

「ですから例外もかなりあるので、可能性が低いと思われていました。」

 

「頻繁に顕れるようになった女型のギャングラー、そしてオレを凍らせた奴、有明で俺達が手も足も出なかった奴、そしてトゲーノか。」

 

「いえ、むしろ他のギャングラーのように1つの場所でなく、様々な場所で活動が記録されたトゲーノの存在が、この予想の柱でした圭一郎さん。この荒川区日暮里に出現したギャングラーの発言がこれを裏打ちした形です。ギャングラー共は、それぞれ1つの区に棲み分けていると。」

 

「どういう事だ?確かあいつは品川駅から江東区の埋め立て地じゃ、いや待て」

 

「そうですつかささん、品川駅付近は実は港区、あの放送局も江東区にギリギリ近い港区なんです。」

 

「なるほど、東京ではありがちだな、新宿駅はほぼ渋谷区、東京ディズニーランドは千葉だからな。」

 

「つかさ、まだ独りディズニーランドやってるのか。」

 

「わ、わ、わたしが非番にどこに行こうとだな、」

 

「咲也にそんな態度を見せるとナメられるぞ。しかし、実に見事な程荒川区の領域に沿ってジャングルを構築したものだあのギャングラー。おまえならどうするつかさ?」

 

「そう、それよりだ!やはり威力偵察しかないだろ、日本警察が荒川区の領域に沿ってバリケードを張ってくれているがアテにならん、早期に対策を立てる為にも敵の出方を対手への攻撃を以て見極める、」

 

「そうだな、中の人間達がどうなっているか不明だが、当たって砕ける以外無いか、」

 

 ボクは人間と認められてないんだな、とやや哀しくなったデスクワークロボ、二人から半ば目も耳も人格もある存在であると微妙に認められていない事を悟った。

 

「センパーイ、申し訳ありませんでしたっっっ!」

 

 制服は着ている、一応襟まで正している、しかし就寝の際装着しているであろうボンボン付きのニット帽とアイマスクをそのままの陽川咲也がやってきた。

 

「咲也・・・・・、よし、出動だ!」

 

「オウ!咲也、説明は後だ!私達についてこい!」

 

「え?何も聞いてないですよ、え?え?」

 

 国際警察は一路荒川区日暮里駅へランエボ改を走らせる事になる。

 

「アーサー兄さん、あれからすっかり連絡切っちゃって、もぉ、僕がこれだけ大変なのに。」

 

 ジム・カーターというデスクワークロボットでも災害の全容を即時に掴む事はできない、それこそが災害なのだ。

 

 

 

「うみか・・・・頼むから背中のソコに踵で重心を置くな・・・・、そこは小学生の時組体操の下段で傷めたところで・・・」

 

「もうちょっと、もうちょっと開くんだってばサ、」

 

 トオマ(14)とうみか(10)の二人は宿直室に外側から電子ロックで施錠されて約2時間、天上通気口を脱出口と見て奮闘していた。不幸な事に3人の内もっとも手先の器用なトオマ(14)は今もっとも体重があり、カイリ(8)は妄想お姐さんに囚われの身、結局のところもっとも不器用なうみか(10)が手が届くか届かない高さにムチウチのような首の痛みに耐えながら、たまたま持っていたヘアピンを変型させてネジを回している。2時間経過後肩車に堪えきれなくなり、さらに今度はよつんばいの土台となって休み休み作業を続けた。

 

「外れたよトオマ、あぶ」

 

 音がした、そして両眼はしっかりと開かれていた、トオマはたらいだろうがなんだろうが頭に何かぶつけるとき瞬きをしない事に定評がある。

 

「下りろ、うみか、しばらく休んでまた肩車でおまえが飛び乗れ。」

 

「オーケェ!アイアイサーっ!」

 

「だから、早く、下りてくれ、うみかぁ!!」

 

 そして1時間経過後、

 

「抜けない、、、動けないよトオマ、、、」

 

「穴が小さ過ぎた・・・」

 

 宿直室、実に1時間の間うみか(10)、天上に下半身をぶら下がり続けるという醜態を晒す、肩車をして果敢に空いた通気口を昇るうみか(10)、両肩を入れた段階から奇妙な閉塞感と窒息感を覚えた彼女であったが構わず昇り続けたところ、ある瞬間から昇る事も降る事も前後左右に動く事も適わなくなる、まさにどういう訳か中国で頻繁に起こる『狭所にハマり込んだ幼児』の図だった。

 

「なんとかなんないのぉトオマぁ!」

 

「換気ダクトから喚起するうみか、なるほど、」

 

 などというやりとりでさらに1時間、うみか(10)は脂汗を流しながらぶら下がり続け、両足を引っ張るトオマ(14)の精も根も尽き果てたところ、その頭に全体重を以て衝突し、

 

「トオマ!トオマ!ゴメントオマ!!」

 

 両眼をカと開いたままトオマ(14)は1時間失神した。

 この1時間、うみかは汚れた身体をせめて変装バックルで見た目だけ汚れていないように見せる以外何もできなかった。

 

「くそ・・・・あの悪魔の女め・・・・」

 

 全身を奮わせ傘を一本いずこから拝借してそれを杖に宿直室へ入ってきたのはカイリ(8)、

 

「カイリが怯えてる、カイリが怯えてるわ!」

 

「カイリ、何があった」

 

 ちょうどその時である、トオマ(14)が目を覚ましたのは、

 

「イヤだ!思い出したくない!!」

 

 カイリ(8)はそのまま宿直室の変な臭いのする敷き布団に倒れ込んだ。

 

「悪魔の女・・・・・デビルマンレディて事ね・・・」

 

「カイリ、何があった」

 

 うみか(10)は口元を抑え、トオマ(14)は言葉を失ってその恐怖体験の程を推し量った。

 

「なんにしてもよく帰って、帰って?待て、ドア!」

 

 カイリが入ってきたドアロックが、再び閉じる小さな音を聞き逃さないトオマ(14)だった。

 

「ホエ?」

 

「うみか!カイリが扉を開けたんだからそこから出られたじゃないか!!」

 

「おお、ガッテンガッテン、えカイリ、もう一度・・・・・トオマ、カイリ失神しちゃってる・・・・・」

 

 カイリ(8)となにかテンポズレしたうみか(10)を交互に見やり、なにもかも脱力してトオマ(14)も横になった。

 

「もういい、疲れた、もう腰も肩もボロボロだ、少し寝る。」

 

 カイリが解放されたという状況の意味をもう少し考えるべきだったと以後反省する事になるトオマ(14)だった。

 

 

 

「なんだこのゴースは!?」

 

「先輩、ゴースはイギリスあたりです、素直にジャングルですよ。」

 

 バカに限って人の落ち度に小うるさかったりする、

 高速を伝って王子ICを降下した段階で、荒川区の異様な光景を3人は目の当たりにした。

 

「圭一郎、どうする?あの巨大な蔓の中に大量の市民が人質に」

 

「今田端で日本警察が敵ギャングラーと接敵したと連絡を受けた、敵を倒せばこのゴースも消える。」

 

「ジャングルですよ、全然風景が違うじゃないですか。」

 

 一路ランエボ改の後輪をけたたましく高鳴りさせる咲也。

 

「ヒョホホホホ、よい子のみんな、大虐殺のはじまりだよぉ!」

 

 合板を何層も折り重ねたバウムクウヘンの1/4カットのごとき盾を前面に、本体である金庫の付いた左脛を曲げて前傾姿勢気味、右腕に徳利か何かを傾けたようなラッパ銃で数台のパトカーを破壊する熊系の顔面が胴の形状であるこの怪人、ウィルソンを名乗った。

 

「ウィルソン!」国際警察戦力部隊はご丁寧にもちゃんと固有名詞で叫ぶ。「国際警察の権限において、実力を行使する!」

 

 ひさしぶりだ、

 

「「「警察チェンジ!」」」

 

 そう言えば先輩達と揃っては、

 

『パトライズ 警察チェンジ』

 

 圭一郎達3人はしばらくぶりだな、

 

『パトレンジャー』

 

 VSチェンジャーを上向きに放つとエンブレムが出現、エンブレムが自然降下で上から下へ3人を素通しすると、スーツが3人を包む、

 

「パトレン1号、」

 

「パトレン2号、」

 

「パトレン3号、」

 

 1号をセンターに銃をウィーバー気味に構え、その左手側に2号が、右手側に3号が、同じく銃を下角に構える、数日ぶりの3人並んでのみえきりだった。

 

「警察はバリケードを形成して市民を避難させて!ギャングラーは我々に任せて!」

 

 日本の丸棒数十人が囲んだ中を割って入り、その警官隊を守るように前面に躍り出る3人、

 

「マホ!」

 

 3人の武装警官の粒子弾を食らい、怯むウィルソンだが、その歪曲した盾で受け流し、四方に弾を乱反射させる、

 

「観念して荒川区の人質を全て解放しろ!」

 

「追ってきなさい、密林の恐怖を教えてあげてあげましょう」

 

 ウィルソン、そのままカウンター気味に徳利銃を連射させつつも後退し、そのまま蔓の壁の中へ埋もれていった。

 

「よぉし、目にもの言わせてやるぞアライグマ頭め、」

 

 アライグマもタヌキも分からなかった、

 

「待て咲也!圭一郎、分かっているだろ、対手はあっさり引き過ぎだ、」

 

「手の内を見る為の威力偵察だ、今回は突入する!」

 

 今回も突入する、だろ、

 

「先輩、足に蔦が!」

 

 1号が先行気味に密林に突入、蔓を銃撃で焼くように突き進む1号、焼かれるというより銃撃を食らったポーダマンの消散に似ている蔓の先端を見てこのままの突入を決意する3人、しかし、その消失したはずの蔓がなお急激に伸張して得物を握るその前腕に絡みついてきた、

 

「復元が早いのかこの蔓は!」

 

「クソクソクソ!」

 

 1号の腕に絡まった蔓ごと方円に銃を乱射する3号と2号、断ち切られる形で1号の腕の蔓がスルリと抜けそして光に拡散する、だがその断ち切れた先がまた伸びて今度は2号の足に絡みつく、互いに互いをガードしても牛の歩みのように遅滞する3人だった。

 

「圭一郎、拉致があか」

 

 3号の奇声はしかし、さらなる苦難にかき消される、

 

 チャカチャカっ!

 

 ギャングラーの下級兵が何体も密林の中から短銃とナイフを抱えて飛び出してくる、

 

「ポーダマンだと!」

 

 1号が叫ぶ前に身体が反応して応戦、霧散する寸前ポーダマンの凶刃は1号の肩、2号の胸に一太刀小さなダメージを与えていた。

 

 チャカチャカっ、

 チャカチャカチャカ!

 

 前後左右、茂みの中から突如湧いてくるポーダマンのナイフはこの狭い空間の中、国際警察の装備よりなお取り回しが良く、VSチェンジャー一撃で処理されるものの、ごく僅かずつだが確実にダメージを蓄積させていく、

 

「圭一郎、撤退しか、」

 

「イヤ、まだだ、咲也、使え」

 

 1号が投げたのは最近手に入れたビークル、他のビークルよりミニマムであるが、その威力はバイカーの破壊力に匹敵すると聞いている『ドリルビークル』、1号は片手、3号は片腕を蔓に囚われている、今両手がフリーなのは2号のみであった。

 

『ドリル』

 

「圭一郎先輩、撃ちまぁす!」

 

『警察ブースト』

 

 チェンジャーに装填し、ビークルを銃下部に回すパトレン2号、既にビークル先端三角錐のドリルが回転し周囲の大気を巻き込んだ黄色い渦が2号を中心に時計回りしている、

 

 なにか忘れていないか我々は?

 

「待て咲也、この中で撃てば」

 

 発射される渦、

 3号の制止を無視する形になった、

 黄色い渦は衝撃波の広がりそのものが弾道となる、2号から離れる程に円錐状に広がり続ける弾道、前方10数メートル先の蔓を隠れているポーダマンごと消滅させ、ようやく顕れた荒川区のアスファルトを抉り、信号機をなぎ倒し、そして路上に停車していたメルセデスSクラスディーゼルの右半分をえぐり取った、

 

「バカモノ!!この周囲に囚われた人間がいるかもしれんのだ、巻き込める訳ないだろ!」

 

「つかさ、中を見ろ、左に運転手がまだ乗っている、援護する、蔓が伸びてくる前に救出しろっ!」

 

 半分になった高級輸入車は、ラッキーな事に左ハンドル、抉れた右サイドでなく、なお残った左に運転席があり、初老の男が縮こまって震えているのが見える、

 

「おう!」つかさ、前転受け身でメルセデスの右側面に躍り出る。「他に搭乗者は!」そうして老人の腕を掴んで無理矢理引っ張り出した。

 

「ス、スキデス」

 

 初老の男は唖然としている、3号が注視する限り、後部座席にも周辺にも人はいない、だがゴーグルの中のサーモセンサーが異常を示した、

 バッテリーの水素が気化して爆発的に燃焼している、燃料タンクも加熱し、内部で燃焼しながらも炎に紛れて小さな爆発が時折起こる音がする、燃料タンクがちょっとした燃焼室となり、素材の融点を突破して酸素がタンクに入り込み、そして半ば圧縮されていく、

 

「引火している!咲也救助者を頼む!」

 

 粉塵爆破!

 

「つかさ先輩!」

 

 起こるフラッシュオーバー、咄嗟に背を向け老人を覆うように庇う3号、後頭部に飛散したメルセデスの車輪が直撃するも不動を保ち、老人を駆け寄った2号へ受け渡したところで3号卒倒した。

 

「つかさ、くそ、オレの判断ミスだ」

 

 1号もまた応戦しながら3号の元に駆け寄り、両腕に抱えた。

 

「圭一郎、て」

 

「分かっている、撤退する咲也!」

 

「先輩、お姫様ダッコですね、でへへ。」

 

 腰に老人を抱えた2号にそんな事を言われたせいなのか1号、肩で3号を担ぎ直し、片腕をフリーにVSチェンジャーを乱射しながら元来た道を逆進した。

 

「他の人質は大丈夫、なのか。」

 

 1号は事の難しさを理解した。

 

 

 

「アーサー、それよりお腹すいたよ、もう一個食べさせてよ!」

 

「ケン!何度言ったら分かるんだ、ここに閉じ込められて電車の中の人間で食糧をできるだけ分けなきゃいけないんだ、ボク等はミネララルウォーターをたまたま買い込んでたから双子のミルクはボクが温めてどうにかする、だけど、他の客からもらっても全員で1日分の食糧しかない、これをできるだけギリギリ空腹にならない程度に分けて食べるんだ、ケンはさっき食べただろ、茶髪のお兄さんも、ニット帽のおじさんも、君と同じ量を食べて我慢してるんだ、」

 

「ケン、お兄ちゃんの分をあげるよ」

 

「ダメだガク!君は逆にもっと体力をつけなきゃ、ボクに何かあったら、君が弟達の面倒を見るんだ、みんなと同じ量を食べる事、それから、オムツの換え方をちゃんと覚える事!」

 

 乗客は5人兄弟の他にもう一人メガネの子供計6人、女性運転手1人、大人の男性は3人、女性が5人、そしてロボットが1体、路線バスのような単一車両に閉じ込められてかれこれ5時間、双子の赤子と3~7歳児を抱えたロボットは、他の乗客の視線が冷たくなっていくのを感じられた、それほど高機能な蓄積があるにも関わらずどうする事もできない閉じ込められた路面電車で、実はこの原因も外の状況もこのロボットはかなり把握していた。

 

「ジム、やはり君の仕事の案件なんだなこの事態は。君の自慢の国際警察は長期戦で伺ってる状態なのか、今ここに閉じ込められた人間達に知られる訳にいかないな。パニックになってしまう。」

 

 アーサーは超高性能養育ロボであると言える。独自のコネクションとそれとは知られず連絡を取り、ギャングラーの仕業である事も知り、荒川区占領に巻き込まれた事も極めて早い段階で承知していた。

 子供達はか弱い、が同時にか弱いものは足手まといとなる、そしてどうしようもなくなった人間は限られた環境の中で自分より弱いモノへ攻撃性を示す、そして攻撃性をか弱いが故に向けられない情も、か弱いが故にそれに当たり散らして恥ずかしいプライドを持っている事も知っている。そして情もプライドもゆらめく薄い氷の壁でしかない事も知っていた。

 

「ジムにこの植物の組成は既に送って調べてもらっている。国際警察がボク達を救出してくれる。それまで我慢しましょうみなさん。」

 

 そう乗客達には説明していた。

 6時間、7時間と過ぎていく内に人間達の視線が子供達に険悪になっていくのを感じた。

ケン玉片手のイケメンが神業を披露したもののさすがに1時間でネタが尽き、ニット帽子の毛深そうな男性も声を荒げるようになり、自称歌舞伎役者という割に毛先を遊ばせた茶髪の青年も裏声を頻発し出した。

 子供は事態に正直であり、長男は不安を隠せず、次男はムダにはしゃぎ、長女と末の双子の泣き声は不安の上塗りをした。

 

 子供を黙らせろ!人形!

 

 叫んだのはニット帽。胃と腸の中になにもないながら空腹感のないストレスが弱者に向けられる。

 

「ケン!大人しくしろって!お兄ちゃん達が大人に呵られるだろ!」

 

 長男が次男を珍しく叱りつけた。養育ロボットはしかし大人達への謝罪よりも子供達への対処を最優先する、

 

「ダメだガク、それじゃケンの為にならない、君は双子達をあやして。カズミ、君はもう双子達のお姉ちゃんだぞ、ケン、我慢できないのは君だけじゃない、お兄ちゃんや大人達の顔をよく見てみるんだ、今それを勉強するんだ。」

 

 と呵った上で、

 

「すいませんみなさん、お騒がせしました。」

 

 低頭した拍子であった、曲げた肩が手すりに引っかかり、そのまま手すりが壁の接続部2点からもげ落ちた。

 ロボットには表情がない、その無言の圧力は、何をしでかすか分からない恐怖を喚起させ、大人達を黙らせるのに十分だった。

 

「ガク、君は自分の世間体を全部弟に背負わせようとしたんだ、分かるかい?」

 

 一旦ケンとカズミに双子の面倒を見させて、ガクとロボットは電車の一方の運転席側で差し向かいになった。長男の両肩に冷たい金属の腕を置くと涙を流す長男だった。

 

「どうしてボクばっかり、そんなの長男だからっていっぱいできないよ、」

 

 ホロホロと泣く長男に養育ロボは目線の高さを合わせた。

 

「ボクがガク、君に頼むのは、今ボクは君しか頼れないからだ。」

 

「アーサーが?ボクを?」

 

「だから、ボクが困った時や、ボクがいなくなった時はガクがやるしかないんだ。」

 

「いなくなった・・・?」

 

 そんな二人の居るドアと反対側のドアから、運転手だろうか、奇声があがった、

 

 人だ、人影だ、助けが来たんだ!

 

 蔓が複雑に絡んだジャングルがガサガサと動いた、中から手のようなものが飛び出してきた、確かにいままでの蔓と違う挙動であり、人が掻き分けて出てきたと分かるものだった、

 

「おかしい、そんなはずはない」

 

 アーサーは知っていた、今国際警察も日本警察も敵の出方を伺って取り囲んで持久戦の体制に入っている事を。

 

 人だ、

 助けだ、

 

「え、助けに来たって!」

 

 ニット帽の男と茶髪の男が、早合点してドアを開けた運転手に続いて蔓のジャングルの中を飛び出していく、その大人達に釣られる形で、兄弟の次男坊も喜び勇んで降車、

 

「やめるんだ、それはもしかして!」

 

 制止しようとする白い機械の腕、アーサーはガサゴソと飛び出した頭にベレー帽が乗っている事も、身体のアチコチに孔が空いている事もこのロボットは視界に捉えていた。

 

 チャカチャカッ、

 

 それは3体だけだった、だが人間をはるかに超える膂力と武具は、大人達、路面電車の乗客、そして子供達、外に出ているケンの足を竦ませ動けなくするのに十分な威圧を放った、

 

「あぁぁ!」

 

 反転する大人2人、捕まってあっさりとジャングルの中に押し込まれる運転手、竦んで動けない子供の次男を見て、ロボットは外へ一歩踏み出す、

 

「ガク、ボクが出たら、運転席のここを押してドアを閉めるんだ、ボクが良いと言うまで開けないでくれ、」

 

 大人二人と扉ですれ違う形で、アーサーは両足を地面につけた、

 

「アーサー!」

 

 長男は養育ロボの鉄の掌を掴む、

 

「大丈夫、ボクはどうせ君達の親じゃない、何も惜くはないよ、早く扉を閉めるんだ!」

 

 閉めたのはガクでなく、戻ったニット帽子だった。見届けたアーサーはそれでも良しと思い振り返った、

 

「ケン!手を出すな!」

 

 アーサーは泣きじゃくる次男に寄ってくる3体のポーダマンに体当たりして次男から遠退けた、

 

 チャカ!

 

 怒気を顕わにしたポーダマンは2蓮短剣と2連銃を振り回し、アーサーを攻撃する、装甲厚だけでこれに耐えるアーサーは徐々にケンを背に回す形で敵に立ち塞がる、

 

「アーサーフラッシュ!」

 

 目である、その車の丸ヘッドランプのような目が輝いてレーザーが発射された、乱れ飛ぶ光芒に1体は直撃して風船のように弾け、2体は避けようと互いが互いに衝突して倒れる、

 

「コワイよ!」

 

「来るんだケン!」

 

「ヤダ、ヤダぁこわいよ!」

 

「やればできる、勇気を持つんだケン!!」

 

 泣きじゃくる次男を片手で抱えた養育ロボットは、ポーダマン等が起きあがらない内に路面電車への逃走を図る、がしかし、あと5メートルもない距離、そんなアーサーの胴体に蔓が巻き付いてきた、蔓の防衛本能がアーサーの攻撃で触発された形だ、無差別に荒れ狂う蔓は2体のポーダマンすら捉えて呑み込んでいく、

 

「くそ、蔓のムチめ」

 

 首を180度反転させてレーザーで蔓をなんとか焼き切ったが、新たなムチが数本身体中に巻き付いてくる、今度は首にも巻き付いてしまった為にレーザーを撃てない、辛うじて動くのはケンを抱えた右腕パーツのみ、路面電車まで距離にして3メートル、

 

「開けてくれ、ガク!ドアを早く!」

 

「うん!」

 

 中に居る長男が運転席に駆け寄る、茶髪の大人が開けさせまいと捕まえるが、噛みついて振り払い、ドアを開ける、

 

「まずケンを投げる、身体ごと受け止めるんだガク!」

 

 襟首を掴んで5才の子供を投げる鉄の腕、やや緩やかな放物、投擲された先もまたさほど体格差のない長男、次男は縮こまった状態が功を奏して丸まったボールのようになって長男に体当たり気味に電車の中へ、長男は両手を広げて胸で受け止め、次男の体格を受け止めきれず尻餅をつき、そのまま電車の反対側のドアに身体をぶつける形になる、

 

「閉めるんだ、ガク、」

 

 首に巻き付いた蔓を両腕で引き離そうとする養育ロボットは、自らを見捨てる事を兄弟に命じた。

 

「アーサー早く!」それが最初呑み込めない長男は頭を振って扉前に立つ。

 

「ボクの計算では、これ以上開けては君達が危ない、早く閉めるんだ!」

 

「「「アーサー!」」」

 

 次男も長女も何かを感じてドアの前で叫びを上げた。

 

「君達は、ボクのみ、ら、いだから」

 

 締めあげる蔓、ついには五肢がもげる、首がもげ、腕は肩から折れ、足はモモから千切れる、手足は何が引火したのか爆発的な発火が上がり四方に拡散、反動で胴が一旦地面を跳ね偶然にも路面電車のドアに飛び込んで来た。

 

「「「アーサー!!」」」

 

 ドアに身を乗り出していた3人の子供は、仰け反って激突したロボのボディの衝撃を受けた、アーサーだったボディは地面からドアに向かって倒れ込む形で車外にあり、3人の子供は即座にしがみついてボディだけでもと力を合わせて引っ張り込もうとする、

 

 どうせ壊れてんだろうが、

 

 それを蹴って押し出しドアを無理矢理閉めようとするニット帽の男、子供達を今度は宥めるように諦めさせようとする茶髪の男の二人は、ドアと蔓だけを交互に眺めていた、

 

「アーサーはボクらの3番めの親なんだぁ!!」

 

 子供達だけではそれに抗う事ができずアーサーを諦めざる得なかったろう、

 

 子供の邪魔をするなよおっさん達、

 

 とけん玉を動かしながら空手有段者のイケメンが大人二人をあっさり殴り倒す、

 

 てめえおっさんじゃねえお兄さんだ!

 見て分からないのかガキが、

 そう、オレ、子供だから、わからないね、

 

 などと若干大人達の口論があったものの、イケメンの補助でなんとかボディを引き入れる、イケメンはその間大人二人を足払いで寄せ付けなかった。大人二人がやった事はせいぜいその後ドアの開閉ボタンを押す事くらいだった。

 

 

 

「頭の後ろを5針ですか、」

 

 オレの判断が甘かった、

 救急搬送の世話になるのももはやお馴染みの国際警察戦力部隊、あれほど負傷と無縁だったつかさがついに王子駅近く救急病院送りとなる。医者は内出血の心配はない事、外傷が残る事がむしろ幸いだ、などと気休めを言ってくれたものの、なお後遺症があるかどうか経過を見たいという。

 

「人質の存在を失念していたオレの責任だ」

 

 国際警察戦力部隊は、撤収後直ちに長期戦を見こして仮設の詰所を設置、その段取りをある程度形にした上で後は咲也に任せて一人来院した圭一郎、待合室で項垂れるしかなかった。

 

「後先を考えずただ敵を倒せばいいと思ってしまっていた。なまじ強力な装備を持って浮かれてしまったんだ。」

 

 スマッシュ、

 右拳が圭一郎の右こめかみに炸裂する、もし五体満足で足先から腰までの合力であったなら一撃で意識を断たれていたろう。

 

「弱気になってどうする圭一郎!」

 

 頭髪を全て包帯の中に収め、顔面だけを露出させた明神つかさが背後に立っていた。

 

「つかさ、おまえまだ立てる訳が」

 

「なにが浮かれただ、いつもおまえはそうではないか、今更後の事を考えてどうする、やった後の事は、このワタシに任せておけばいいのだ!」

 

「だが悟の時もオレが」

 

「煩い!その悟がワタシに頼んだのだ、圭一郎を頼むと、う」

 

 と病院ロビーで大声を上げてつかさは頭を抑えて片膝を折る、

 

「まだ検査入院が必要だ、諦めて精密検査をしていろつかさ。」

 

 腕を組んで、片腕だけでつかさを立たせる圭一郎だった。

 

「圭一郎、おまえの背中はワタシが見る、おまえは余計な事を考えるな、おまえが間違っていたら、ワタシがだな。」

 

「もう分かった、今はあの高尾ノエルが対策装備を持ってくるまで、待機任務に入った。それだけを伝えに来た。」

 

「なに?!アイツ、いやあの管理官は転属したんじゃないのか?」

 

 その名前はつかさの後頭部の傷を刺激するのに十分だった。

 

「管理官権限でこっちに命令してきた。これでは」

 

「これでは命令権限が格上になっただけではないか、なにが転属だ、これからも直接こっちに干渉するつもりかあいつ。」

 

「とりあえず引き延ばし交渉の為尾久の派出所を借りて、咲也を詰めさせてる。」

 

「分かった、ワタシもすぐに、」

 

 だがしかし、つかさは結局精密検査でその後数時間前線を離れる事になる、看護師が2人、病室を抜けだしてきたつかさを連れ戻しに来たからだ。圭一郎はつかさの意志を無視して看護師に身柄を引き渡した。

 

「圭一郎、すぐに合流するからな!」

 

「この際身体の隅々までチェックしておけ、それが終わってから、オレの背中を守ってもらうさ。」

 

 圭一郎は割と自分でもキメたなと思ったが、

 

「ワタシが退院する前に事件を解決しろ、分かったなバカモノ!」

 

 そうつかさに言われ、振り返らず片手だけ軽く振る朝加圭一郎だった。

 

 

 

 うみか(10)が瞼を開けると、男子2人の顔が自分を覗いていた。

 

「夜だ、いくぞ起きろうみか。」

 

「見ないで!」両掌で顔面を思わず覆った。「すっぴん見ないでもう!」

 

「何をヌカしとるんだ、年端もいかない背格好のくせに。」

 

 カイリ(8)に言われたくないとうみか(10)は思った。

 

「早くしろ、まずカイリ、どうやってここに入ってきた?」

 

 ニヤニヤとする様は8歳の見てくれでも憎たらしいカイリ(8)、うみか(10)の膨らませた頬をスルーして、ポケットから1枚の透明なゴミを取り出す。否、それはセロファン、セロハン、セロファン粘着テープなどと言われる透明フィルムに糊を塗った文具の欠片、カイリ(8)はそれを2枚糊が内側になるよう貼り付けている。

 

「ここのセキュリティは、3つの内1つ、奴等のICカード、3ケタの数字入力、そして、指紋。」

 

「そうか!指紋を手に入れたのか!あの女か!」

 

「スマホだ。あのおっぱいおばけめ、さんざんオレを弄びやがって、あいつ容易にオレを近づけた事を絶対後悔させてやる、痕跡残しまくってやるからな・・・・」

 

 口元に悪魔の笑みを浮かべる8歳児だった。

 

「カイリが嗤ってる、カイリが嗤ってるわ!」

 

「自分の武器を最大限に利用している、という事か。」

 

 うみか(10)もトオマ(14)もどん引きながら、カイリ(8)がいともあっさり扉を開くと、距離を置きながら追随せざる得なかった。

 

「保管庫もこいつでチョチョいさ。」

 

 あらかじめ調べはついていたのだろう、カイリ(8)はスイスイと警察署地下階を迷わず堂々進んで、保管庫のプラカードを掲げた扉まで簡単に行き着く。

 

「おいカイリ、奇妙だ、人の気配がない。」

 

「出撃があったから。もうかれこれ4時間くらいかな。」

 

「それを早く言え!」

 

 平然と答えるカイリ(8)にトオマ(14)は頭を抑えつけて激怒した。傍目成長のズレというスペック差を良い事に弟を叱る兄のようである。

 

「だって、そりゃもうしょうがねえじゃん。チューか、あのエックスがコレクション破壊されるの見逃すはずねえって、思わなくね?」

 

 頭を抑え込まれ、その状況に次男坊カイリ(8)は幾分慣れている育ちなのか、やや余裕があった。トオマ(14)は手を放す。

 

「確かに、オレもおまえが帰って来た時に、奴等の出撃を考えるべきだった。」

 

 こういう時、何もできないのがうみか(10)だ。幼少から独り抜きんでた天才は対等相手とコミュニケーションを取る累積が全くない、凡人の心が分からないのである、怯えるだけしかないうみか(10)はしかし、視線を外した天井に、見慣れたあるものを。

 

「あ、サイぽん」

 

 天井スレスレを滑空し、2機とも急降下でカイリ(8)とトオマ(14)に割って入る軌道でうみか(10)を旋回する、

 

「おっと」

 

 思わず仰け反ったカイリ(8)はうみか(10)の肩に乗ったそのライムのヘリ、墨色のステルス機、のミニチュアを睨んだ。

 

「いままでどこにいたんだこのダイヤルファイター、おまえ達がいれば」

 

 サイクロンはうみか(10)が撫でるとボディを左右に振って喜びの仕草をし、シザー&ブレードはトオマ(14)に恐る恐る周回する、

 

「エックスのとこにいたの?」話をとことん逸らすつもりのうみかだった。

 

 サイクロンのコクピットに位置する直上、レーザー光数本を逆デルタの円錐状に放射、ごく短距離の大気をイオン化して多彩な色彩をコントロール、小さなホログラムウィンドウが開く、その画像にはOUI、つまりフランス語のはい、イエスの活字が映し出される、

 

「そんな機能がついたのか。」

 

 今度はシザーがOUIをウィンドウに表示し、ブレードは笑顔の表情を線画で作った。

 

「おおアスキーアート、エックスも最近変な改良するようになったね。」

 

 そんな二人とはカイリ(8)、僅かにテンションが違った。

 

「てめえ!てめえらのせいでテープどっかいったじゃねえか!」

 

 カイリ(8)の人差し指、先程まであったはずの明神つかさの指紋のついたテープがない。サイクロンが飛んで来た拍子にどこかへ飛ばしてしまった、一度無くすとこの手のものは見つけ辛い。

 

「大変だぁ!捜せよ男子!」うみか(10)もさすがに焦った。

 

「カイリ、落ち着け」トオマ(14)は一人立ち尽くしている。

 

「ふざけんなトオマ、あれがねえとどうにもなんねえぞ、しかし床汚ねえな!」カイリ(8)はよつんばいで探し回った。

 

 一方のトオマ(14)、人差し指一本動かしてシザー&ブレードを招き掴み、

 

『9、1、3』

 

 徐にドアに這わせる、

 

「ダメダメトオマ!VSチェンジャーで撃たないと」

 

 といううみか(10)を一切無視してトオマはドアノブ上に設置された3×3のマスを913でタッチ、ドアからやや長めのビープ音が響いた。

 

「ダイヤルファイターがいれば、オレ達は今夜ムダに時間を浪費しなかった、変な改良なんかしないで、一機回せばいいものを、エックスの奴、恨むぞ。」

 

 とドアを開け放つトオマ(14)は保管庫に立ち入り、もはやただの8歳児と10歳児の素直さでトオマ(14)に仲間2人が続いた。さらなる悲劇が待ち受けている事も知らず。

 

「あの野郎!」

 

「エックスは、オレ達を解放する為にダイヤルファイターを寄こしたんじゃないのか。」

 

「どいう事?ね、ね、カイリ、トオマ、イエもんどうなってるの?うみかに分かるように教えてよ」

 

 保管庫、うみか(10)などはダイヤルファイターの愛称を叫ぶも、数時間前の執務室のように反応がない、しょうがなく3丁が入りそうな容器を次々と開けて辿り着いた最奥の銀のボックス、

 

 お宝は返してもらった 孤高の快盗エックス

 

 のカードがカラッポの銀のボックスの中に刺さっていた。

 

 

 

 宇都宮線尾久駅はとても山手線と並走する都内と思えない寂れ方が味であり、南側の鉄道センターがこの駅の必要性の全てであるかのよう。北側の明治通りがジャングルの蔓を食い止める為、バリケードが東西に敷かれ、車通りすら無くなった。

 この駅近くの交番を詰め所として間借りした形の国際警察戦力部隊、リーダーである1号朝加圭一郎が3号明神つかさの症状を伺っている間、陽川咲也が常駐していた。

 

「いやあ、牛乳おいしかったよ、君、気が効くねえ!」

 

 やや天パーの交番巡査が湯飲みで出した牛乳を、立て続けに飲み干し3度ゲップを吐いた咲也は、緊張する丸棒巡査に同じ敬礼で返す。なぜこの巡査にシンパシーを感じるのか分からないまま、時に出てくる敵ギャングラーへの対応をするのが今の咲也の役割だ、

 

 出てきました、

 

 警視庁からこの交番の責任者として出向してきた組対所属の警部補は、緑のネッカチーフにスーツをきめて、咲也にとって兄と同じ臭いの苦手な男だった。

 

「うん、ぼ、ボクあいつらの扱い慣れてるから、ま、任せて」

 

 右にも左にも果てしなく明治通りに沿ってジャングルが拡がり、咲也がいる対面の蔓が自然に掻き分けて、あのタヌキ顔胴体のギャングラーが出てくる、

 

「マホ!このシマを渡す気になったのかボケ!」

 

「いったいなんでそんな事をする必要があるんだこのマヌケ!」

 

 ギャングラーウィルソンとパトレン2号陽川咲也の低いながら同レベルの交渉であった。

 

「フハハハハ、我々ギャングラーは、おまえらが23に分けたシマの一つを占領する事でボスの後継者候補に指名される、そしてこのシマを拠点として、キサマ等人間社会を根こそぎ搾り取るんだぁ!」

 

 この話を聞き出すまでに、あほんだらの応酬で20分、バカという奴をバカという奴がバカのやりとりを軽く30分済ませた上での対話だった。既に朝日が昇りつつある。

 やや現実感がある人間なら、橋頭堡をこの世界に確保した部下を取り立てるのだと理解し、この荒川区全体からギャングラーが徒党を組んでやってくる未来図が読めたであろう。しかし陽川咲也というその場その場で国際警察戦力部隊を過ごしている人間にとって、そこまで頭が巡らなかった。

 

「キサマ!もう半日以上が過ぎている、荒川区の人達がちゃんと生きているという保証はあるんだろうな!朝ごはんは!食事はちゃんととらせているのか!」

 

 という発想くらいである。だがしかし重要でないという訳ではない。むしろギャングラーと人間が相容れない存在である驚愕の事実を咲也は引き出した。

 

「はぁ?何言ってんだテメエ。ショクジ?オレは、奴等からショバ代をせしめる側で、何かくれてやる事なんかネエ!ガハハハハ」

 

 ギャングラーは金庫が本体である事は国際警察すら周知の事実であったが、栄養素を摂取するという概念がなかった。考えてみれば生物でないのだから、それは念頭に入れてみるべき事であった。

 咲也とギャングラーの対話を端で聞いてた緑のネッカチーフの刑事は絶句していた。

 

 10時間以上水と食糧を断たれた人間がいるかもしれない、

 

 事態は予想以上に深刻だった。

 

 

 

「アーサー、」

 

 依然荒川線車内に閉じ込められた状態にある大人数人と子供達、

 半ば絶句であり半ば叫喚だった。今5人の子供達は3人目の親もまた犠牲となった事をはっきり認識していた。長男次男は涙を堪え、長女は泣き続け、むしろベビーカーの双子は黙して大きく口を開いていつまでも表情を動かさなかった。ニット帽と茶髪の大人がいつまでも哀しみ続ける5人の子供を怒鳴り散らして沈めようとしたが、そんな冷たい大人達の事など子供達の視線に入らない。

 

「アーサーの頭がもっていかれるよぉ」

 

 なお電力が残っていたのだろうか、次男ケンが窓を覗くと、方々四散した養育ロボのパーツの一部、頭部パーツがなお稼働しているように見えた。

 

「もっていかれるよぉ」

 

 次男はそのまま頭を取りに、未だ蔓のジャングルに覆われ昼夜の区別すらつかない外界へ飛びだそうとする、

 

「ダメだケン」

 

 制止するのは長男、長男は7歳ながらこのドアを一瞬でも開ける事の危険を洞察していた。していたが、次男が涙ながら訴える形相を見て思わず手を緩める。

 

「だからボクが」

 

 ふざけんなガキ共、

 

 と2人の子供の襟首を掴んで宙に浮かせるのはニット帽の男、その後散々子供に当たり散らして床に叩きつけた。ちなみに子供達に同じく不快を示していた茶髪男は、彼女らしい京言葉の女子にその地方独特の粘着力のある小言で説教されていて意気消沈していた。このニット帽の男もやはり同じく帯同していた小柄な女子が間に入ってふりかぶる拳を抑えようとしたが言う事を聞かない。

 

「これだと、通信機はここにあるな。」

 

 その時である、この黒縁眼鏡の少年が興味深げに養育ロボットの壊れたボディに触れてきた。年齢は5人兄弟の長男よりやや上、二桁の年齢に達したかどうかというところか。

 

「父さん怒ると手がつけられないんだごめんよ。けどこのボディすごいな。この間見に行った自衛隊の車みたいな頑丈さだ。とても市販のあり合わせで作ったロボットじゃない。こんなすごい性能のロボット、いったい誰が作ったんだい?ねえ君達?」

 

 その黒縁眼鏡の男子は、ニット帽子男女の子供を名乗った。

 

「お父さん。」

 

 長男がそう言うと黒縁眼鏡は目を輝かせた。

 

「すごいな!」

 

 長男は父親を褒められて顔を赤らめた。黒縁眼鏡はそのメガネを直しつつ言った。

 

「あった、通信機だ、ボディにしまわれていた。もしもし、」

 

 メガネは偶然にもリダイヤル機構を操作した。

 

『兄さん!どうしたんだ!ボク何度も通信したんだよ。』

 

 国際警察のジム・カーターとのそれがホットラインになる。

 

「ボク、タローです。」

 

 このメガネ、名前はタローだったのか。

 

『タロー、なぜ君がこの通信機を持っている?』

 

 長男が代わる、

 

「ボクは長男のガクです、アーサーが、アーサーがボク等を助ける為に壊れてバラバラに!」

 

『なんだって!ええと、落ち着くんだ、ええとええと、ボクらロボットは人間と違ってメモリが残っていれば完全修復する事ができる、かもしれない・・・』

 

 兄弟達はこの萌え声の弟ロボットに一喜一憂する、胴体と頭部にシステムが独立したアーサーという養育ロボットは、相互にバックアップとしてメモリデータが存在し、どちらかが無事ならば、ボディの修復で全機能が回復するという。

 

「やっぱり頭がないとダメなんだ、」長男が呻いた。

 

 だが動力が入ればシステムが稼働するはずのボディパーツは反応がなく、残る選択肢はただ一つ、予備の動力でまだ生きているらしい頭部を確保しなければならない。危険極まりない外界に足を踏み出して。結局は最初の危険を裏打ちされた形で冒険しなければならなくなった。

 

 バカじゃねえのかこいつら、たかだかロボットに、

 

 そういう大人2人を余所に次男が、

 

「やっぱりボクがとってこないとアーサーが本当に死んじゃう!」

 

 途中で遮る長男だった。

 

「ボク、行くよ。ボクが長男だから。」掌は脂汗でいっぱいだった。

 

「兄ちゃん!」

 

「ケン!おまえは次男だ。ボクがダメだった時、妹達をおまえが守ってやるんだ!」

 

 しかし長男のその表情は半泣きだった。

 ケン玉の木と木が打ち合う音がした、

 あの空手有段のイケメンがドア前で長男を制止し、涼しい笑顔を向け、ドアを開け放つ、騒然となる荒川線車内、あまりに速い身のこなしに誰も、あの蔓すら追随できず、転がっていたアーサー頭部を即座に拾い上げ、地面に蹴りを入れるように反転、バスの入り口に疾走、しかし蔓の海に腕が絡まり、なんとケン玉を落としてしまう、

 

 あ!ケン玉がぁ!

 

 頭部を車内に投擲したとほぼ同時にたえず携行していたケン玉が落ちた拍子に砕ける、たちまち気力を失って両膝を折ったイケメンはその場を動かなくなった。

 

 バカヤロ?!何をやってんだ!

 

 一瞬で何十歳も老いたように口元が乾燥し、目は失望に窪み、やつれたようにすら見えた。荒川線の車内で何度呼んでも軽く手を振るだけで、そのまま蔦の波に呑み込まれる形で跡形も無く消えた。

 

 あああの人がぁ!

 かっこいいのに!

 貴重なイメケンがぁ!

 変なおっさんが犠牲になればいいのに!

 

 荒川線車内は一連の行動を黙して眺めていた女性陣の叫声で満ちあふれた。何よりニット帽や茶髪がショックを受けたのが、自分の連れの妻や彼女が熱狂的に叫んでいる事であった。

 

 後でアドレス交換しようとオモタノニ!

 

 

 

「僕は今君達どころじゃなくなったから、迎えが来てくれたのは大変ありがたい事なんだ、ようやくお母さん、・・・・・ええええ!つかささん!いやアナタがアントワネットさん!本当につかさささささ、僕の認証システムが狂ってるのかぁ!」

 

 国際警察庁舎の復興が曲がりなりにも形になってきた早朝、子供快盗達の母親と名乗る人物が迎えに来る。容姿はまさに明神つかさそのものであり、それが清楚なベージュのセーターにややくすんだグレーのスカートを履いて、黒髪に薄味のメイクで微笑んでいる。

 

「誰だ」

 

 庁舎の玄関先、ごく僅かな台数枠の駐車場まで連れてこられた3人の子供快盗達は、昨夜のドタバタで目の下に隈ができるほど憔悴し切っていたが、そのありえない‘ボク達の母親’を眼前に捉えて国際警察デスクワークロボットよりもなお仰天した。

 

「どうもワタクシの息子達が大変お世話になりました。ロベール、シモーヌ、ダントン、いきますよ。」

 

 エックスのネーミングセンスはキワモノを超えている。妙な手つきで話すつかさモドキを呆然と見つめる3人と1体だった。

 

「ママぁ!」

 

 きつねにつままれた顔から一転、カイリ(8)が駆け出しつかさモドキにしがみついた。そうせざるえない。トオマ(13)もうみか(10)もそれに続いた。

 

「さあお車で帰りましょう。ありがとうございました。ジム様。」

 

 つかさモドキは、用立てたスズキソリオ中古に3人を押し込んでそそくさと庁舎を後にした。

 

「全く、」女声のくせにしわがれたトーンを出すつかさまがい。「苦労しましたよ。この中古を調達するのに。」

 

「小暮さん、そういう問題?」

 

 呆れながらカイリ(8)は看破した。

 

「ディテールは大事と言ってあるでしょ。」

 

 バックルを操作すると、つかさの顔面の像が失せ、ヘッドの貧しい若老人の顔面が見えてくる、タキシードでも布手袋でもないが、あの小暮だった。

 

「全てはディテールです、つかさくんの顔立ちで母親と言うと若作りしてもアラサー設定、それでいて上は13の息子がいるのです、逆算すると高校の時はもう一人産んでいる設定です、そうなると高校中退かヤンチャしているかどちらかです、ヤンチャ設定として高校時代の仲間内で結婚しそのまま続いて2、3人生まれるとなると、同年代、おそらくヤンチャしている高校中退の男子、そのスキル範囲から職業は配送業、そんな相手に落ち着くでしょう、旦那はトラック持ち、嫁もヤンチャの果てに運転技術があり、5人家族用の自家用車を運転し子供の足にしているはず、本当はトヨタのノアが欲しいものの辛うじて4WDで溜飲を下げ、スズキのソリオ、しかも紫にしたいところ近所の目を気にして中古レッドパールに落ち着きます、警察に行く際はカラフルな髪を黒に染め、カラフルな普段着を極力抑えて古傷を抉られないようにこの出で立ちでやってきた設定です、いいですか、全てはディテールです!」

 

 なるほど、と嘆息するトオマ(13)や二行目で睡魔に襲われたうみか(10)を余所にカイリ(8)は冷めた目を変えない。

 

「トオマ、欺されんなって。小暮のおっさんオレら誤魔化したいだけなんだから。ちゅうかエックスどこよ?知ってんしょ?小暮さん?」

 

 欺されるというワードに発作を起こすトオマ(13)をやはり無視して小暮はミラー越しに3人を眺めた。

 

「エックスは今別件を終えて荒川区に向かってます。君達も合流するように私が今連れて行くところです。詳しくはそちらで。」

 

 

 

 おまえらのつまらんポンコツのせいで、犠牲になったんだぞ!!

 

「でも修理すべきだと思うよお父さん。ボク等がここから出る時、この頑丈さは役に立つよ。目からビームが出るし」

 

 メガネのタローは、荒ぶる父親に冷や水を浴びせるよう坦々とビニールテープを巻いた。

 先のイケメンを失った哀しみで、車内はむしろ女性陣達の無言の圧力に苛まれる事になった。

 

 生意気に息を吸って吐くな、

 

 そう女達の目が言ってるように長男ガクは無意識に怯えた。

 

「繋いだ、たぶんこれで、」

 

「ランボウハ、イケマセンエン」

 

「しゃべった!アーサー生き返った!」

 

 頭部と胴の配線を繋いだだけであり、あるいはでたらめに繋いだのかもしれないが、タローは鼻の下をこすって自慢げであった。

 

「さっき国際警察に聞いた通り、とりあえずこれでこのロボット自体が故障を検索してどうにかできるようボクに教えてくれるはず。」

 

「オマカセロリ~」

 

 絶えずニッパーやテープ、ハンダなどを携行してる小学生タローがたまたま乗車していけなれば、ここまでワンオフの養育ロボが回復する事は無かったろう。兄弟はたった3つほどしか違わない年上の少年を尊敬の眼差しで見た。

 

「ともだちん」

 

「ええい!出てこい!その中の奴がオレのポーダマンをやったのは分かっているんだ!!」

 

 騒然とする車内、

 養育ロボのとんちきな音声に被せるように轟声が響いた。車内全員が思わず客席の下側に潜り込んで車外から見えないよう伏せた。

 

「あれ、ギャングラーって奴か」

 

 ポンコツタローは、その狸頭ボディの怪物を指して囁いた。

 

「わかんない、けどスマホに出てた奴」

 

 メガネと長男次男が向き合って怯えた、

 

「クソが!オレのシマで勝手なマネすりゃどうなるか思い知らせてやるからな!」

 

 一撃その徳利のような形状の銃を撃ち放つ、荒川線車両の左から右へ貫通する穴、悲鳴を上げる乗客達、もはや運転する知識すら無いものの集まりでしかない彼等はどうする事もできず怯え、せいぜい耳と目を塞ぐ事しか出来なかった。

 

「お兄ちゃん」妹が長男に泣きすがった。

 

「ケン、フミヤとレミもこっちに。みんなでいっしょにアーサーの傍にいるんだ。」

 

 長男は兄弟を覆うように纏めて抱きしめ、それはちょうどギャングラーウィルソンに背を向ける形になる、

 

「出てこい!」

 

 さらに徳利ガンを1発2発、7歳の子供の背中側から肩を掠めていく弾丸はそのままやはり荒川線車内を貫通していった。

 

「もしもしっ、警察さんですか?!今さっき連絡したポンコツタローです!今怪物がここにいて、ここってここはさくらトラムの中です!」

 

『今乗客のGPS情報とダイヤからの停車位置を取得している最中だ、もう少し待って、くれぐれも敵を刺激しないで!』

 

 そのマイク越しのロボットの指示は、連射される敵銃の発射音によって虚しくかき消されていく、

 

「イタ」銃弾が徐々に兄弟の身に近づいていく、長男の肩に生々しい擦過傷が残る、「アーサー、ボクもうダメだよ」

 

 そろそろ荒川線車内に伏せる人影が見えるかどうかといった穴がいくつも拡がっていく、タヌキのギャングラーは広げた穴の一つに照準を絞り、直接見せしめを作ろうとする、ブルブル震える幼少の7歳児の背を狙う、

 

「ボクじゃまだまだだ、アーサー、助けてよ、」

 

 7歳の子供は必死に兄弟達を庇った、

 

「それでいい、ガク、君はまだ7歳の子供、大人に助けてもらうのが仕事さ。」

 

 突如稼働するメカニズム、胴体パーツから砲身が180度跳ね上がり、奇しくも発射されたウィルソンの弾丸をその砲身で弾き、車両内を跳弾、大人達は悲鳴を上げて身を震わせる、

 

「変型!アースカノン!」

 

 それは配線を露出した頭がようやくプログラムを回復させた養育ロボの変型だった。砲身の露出によって、胴は全て一直線の大砲となる。

 

「アーサー!!」

 

「アーサー!生きてる!!」

 

 歓喜する子供達、だが養育ロボは一言謝罪だけ済ますと、子供達を急いた。

 

「離れているんだ、ターゲットロック!」

 

 その射線は奇しくもウィルソンへと向けられている、

 

「ファイヤァ!!」

 

 轟音が車内に響き、大人達すら重心から背筋を伝って脳をゆする振動が轟く、貫通する荒川線車両、大穴を開き咆哮する先、異形の怪物が圧倒的な光量に凝固して呑み込まれていく、怪物を呑み込んだ光はそのままジャングルを刺し貫いて傾斜角5度で緩やかに上昇する軌跡を残す、

 

 やったぁぁ、

 助かるぞっ、

 死んだわ、キモイやつ!

 

「アーサー、すごいよ、やったよ!!」

 

 車両に大穴が空き、その先には抉れた地面、そして足を向けて倒れる異形の怪物の姿が見て取れた。もはや誰もが息絶えたと思った。

 

「・・・・・イテエじゃねえか」

 

 片足を上げると金庫が見え、その次に腹筋だけで上体が起きあがる、被りの付いた頭を振って五体満足のウィルソンがこちらを睨みつけた。

 

 だからそっとしておけと言ってたじゃないか!

 なにやってくれてんだガキ共!

 アンタ達のせいで今日は全てが台無しよ! 剥がれた爪返して!

 

 怯える車内の大人達の恐怖が最高潮に達する、

 

「アーサー、ダメだ、逃げられないよ、」次男もまた怯えた。

 

 アーサーG6のアースキャノン、威力の問題ではない、相性の問題である、ギャングラーに対して国際警察や快盗の装備が特効なのである、

 

「大丈夫だ、ケン、ボクは奴を倒そうとしたんじゃない、」

 

 それは金色の巨大な光芒、

 南から北へ、ギャングラーの右サイドを背中から前へ、もはや損壊しつつある荒川線車両を半分乗客ごと金色に呑み込み、そしてその軌跡上の蔓をことごとく包んで消失させていく、

 

「こいつはなんだ、オレの力が枯れていく!」

 

 仰天するギャングラー、

 

「あれ、ボクら、なんともない、」

 

 真逆の意味で仰天している長男を含む乗客達、その光はどれだけ威力があろうと人間に全く無害だった、

 

「ボクは呼んだのさ、ここにいるって合図を打ち上げてね。」

 

 アーサーG9が放ったのは言わば発光信号、敵の核心がここに居る事を伝える合図だった。

 

「メルスィー、よくやってくれた、さすがメイド・イン・ホシカワ、おかげで『密林へようこそ』のありかを知る事ができた。」

 

 金色の戦士がそこに居た、既に過去形である、ギャングラーは声がする後背に振り返るとその振り返った背に激痛の火花が走った、それも既に過去形、さらに腕を上げて振り返り様銃を放つウィルソン、しかし金色の何かの影がチラと見えただけ、そう既に金色の影は距離を置いて正面から金と銀に彩られた銃を三連射していた。

 

「てめえ、舐めた真似を!」

 

「気高く輝く警察官、パトレンエックス。」

 

 金色の戦士、パトレンエックスのそれが急襲であった。

 

 

 

 やや時は戻る。

 場所は尾久駅交番仮詰所。

 

「咲也!今到着した。」

 

 いつものランエボ改は咲也の足として尾久にあり、ビークルを巨大化させる程の緊急性がないと判断し、律儀にも交通費の領収証を切ってもらいやってきた。

 

「センパーイ!大変なんですよ!聞いてください!」

 

「どうした?!敵の動きに変化があったのか!」

 

「もうあのおいしい牛乳が呑めないんですよ!あの交番巡査、突然お父さんが退職届けを出したそうで!」

 

 どうやら緊急事態ではない、という事だけは圭一郎は呑み込んだ。

 

「咲也!目の前に人質を取って街全体で立て籠もってるんだぞ、弛んでるんじゃないのか!」

 

 いやあようやく話が分かりそうな人が、

 

 などと警察側の出向責任者、緑のスカーフの警部補が割って入って、状況を説明し出した。敵は競争制でこの世界、日本の東京の一自治体区域の支配を狙っている事、頭目の後継者の座が賭けの対象である事、人間の生理現象、あるいは生物としての機能を相手は理解していない事など挙げた。

 

「じゃあ今この時もただ拘束されて、飢餓に見舞われている人々がいるという事か。」

 

 ここに来て緊急性を帯びてきた事を圭一郎は即理解し、マジマジとクレーンビークルをその掌に握りしめた。

 

「こうなると強引にこいつの破壊力に賭けるしかない、高尾ノエルを待っている時間は」

 

「待ちたまえ圭一郎クン」

 

 それは異様な反響をする声の響きだった。音源が直覚で読み取れない。

 

「どこだ、高尾ノエルか!?」

 

 確かに声が耳元でする、しかし圭一郎の耳元に聞き覚えのあるふざけた顔は見えない、派出所の外に出てみた、右も左も見渡した、しかし見つからない、

 

「あそこだ!」

 

 なんでそんなところにいる必要が・・・・、

 咲也が声を飛ばす方向、振り返って派出所の屋根を見上げる、まさかと思い2度見する、確かに派出所の屋根に登って、向い風を受けて体幹だけで立っている。

 

「とぉぁ!」

 

 倒立四回転で着地、それは昭和の昔赤と青のヒーローの登場に比肩する身体能力だった。

 

 こいつどこまでマジなんだ、

 絶句する圭一郎を尻目に馴れ馴れしく戯れる咲也にも変人を観察する冷たい目つきの圭一郎、ふと横を眺めると口を空けて凝固する緑のネッカチーフの警察責任者がいた。

 

「さて、圭一郎クン、この蔓を破壊力でなんとかしようと思っただろ?」

 

 飛行船のミニチュアを手にした高尾ノエルは、それを徐に懐へ仕舞い込み、代わりに消防車のミニチュアを取り出す。その後端にはトリガーがある事を認めた圭一郎だったが、飛行船のそれにダイヤルがついていた事までは見ていなかった。

 

「どうして、いや、しかし、それしか」

 

「だから、ボクが早めに任務を終えて、ここに来た。」

 

 そして圭一郎へその消防車のミニチュアを手を取って渡す高尾ノエルだった。

 

「これはなんだ?」

 

 一向無視する高尾ノエルだった。

 

「レイモンドは、本来『修復』する能力だが、『集約』して過剰に採らせる事でこの蔦を枯れさせる事ができる。」

 

 こいつ、コレクションの列車にニックネームをつけてるのか?そもそも人の話を聞いているのか?

 圭一郎は『エックストレインサンダー』を握った高尾ノエルに冷ややかな目を向ける。

 

「『修復』は無機物に対して有効だが、人体には影響ない。だから、ボクがこの蔓の一掃を承る。」

 

「蔓は有機物じゃないか」

 

 そんな圭一郎を無視して高尾ノエルは得物を掲げる、

 

『警察 エックス チェンジ』

 

 既に握られたエックスチェンジャー、グリップを握りながら銃身を回転させる、マズルに位置するのは蒸気機関車の機首、頭上に向け一射、上空にエンブレムが放出され跳躍頂点に達して降下、高尾ノエルの身を潜る、ただちに蒸着される金のスーツ、襟を立て、仮面が覆う、その名も、

 

『パトレンエックス』

 

 平成のは、派手だなぁ、

 警察側の責任者はもはや顎を外してるかのよう、

 

「待て!」

 

 圭一郎ではない、咲也ですらない、

 

 右手にタクシー代の領収書、左手にあの『グッドストライカー』を握りしめ、ピンクのラインの入った制服の、明神つかさがロングの髪を靡かせてやってきた。

 

「ごめんよ~ノエル、見張ってたら、逆に見つけられてこの女にここまで連行されちゃったんだ、ホントにごめんよ~」

 

 と大型戦闘機の容貌を持つこのVSビークルはもがけどもつかさの握力から逃れられなかった。

 

「オララ、こうならないように抑えにしておいたのにグッディ、グッディってニックネームで呼ばれるようになって、少し緩んだんじゃないか。」

 

 カードは揃った、

 と口元は綻んでいる仮面の奥のパトレンエックスだった。

 

 つかさに見張り?そんな必要はないだろう、いままでだってそんな事してなかったのに、

 

 いぶかしむ圭一郎を余所に、パトレンエックスは振り返る、

 

「管理官としての命令だよ、ボクがウィルソンを君達の射線上に誘い出す、グッディを使って、君達がトドメを差したまえ。つかさクンも早くチェンジした方が身体が保つと思うよ。」

 

 その時である、

 発砲、

 尾久駅から見たやや北東、轟音が響いた、

 国際警察4人が一気に緊張を走らせた、

 

「聞こえるかい、ジム、君の方でも探知したかい?」

 

『あれは、ボクの兄です、アーサー兄さんです!ギャングラーと交戦した模様です。』

 

「なるほど、メイド・イン・ホシカワなら、あの威力は分かる。しかしジム、それがポーダマンでなく、他のギャングラーでなく、ちゃんとウィルソンだろうね?」

 

『直前に、子供達から連絡がありました、その時わずかですが、雑音の中に咲也さんとコンタクトしたギャングラーと同じ声紋を拾いました!』

 

「敵の位置が確定したな。」

 

 そして蒸気機関車のマズルを北方に向ける、

 

「スペリオルショット!」

 

 パトレンエックスのワンハンドショット、北方に向けてエックス左右の幅10メートルほどの間隔が直線上に拡がる、消失するのはあのウィルソンの金庫より発せられた蔓のみ、直線上に覆われていた荒川市街地が露出、遠くキロ単位で離れた前方に荒川線車両が僅かに露出した、ポカリと空いた直線上のビルから窓を開けて太陽を覗く市民達が散見される、

 

「すげ」

 

 咲也は口元からよだれが垂れるままに呆然とした、

 

「じゃあ」エックスは腰元に銃を下げた。「エネルギーチャージ!」

 

 パトレンエックスの姿が金色に輝く、右脚を前方、左脚を後ろにポージング、全身の光が足先に集約していく、

 

「頼むよ君達、これから連戦だからね。」

 

 後ろ脚を擦り付けるように蹴る、刹那消える金色のスーツ、両の足跡だけを煙を残してエックスの姿が跡形も無く消えた。

 

「焼けるぜ『イン・ロボール・フォルチュナ』、ノエルとぞっこんじゃねえか、すごい瞬発力だぁ。」

 

「瞬発力、高速で動いたとでも言うのか。」

 

「さすが管理官、訳が分からないですね先輩、欲しいなボクもアレ。」

 

「圭一郎とにかくチェンジだ!」

 

「「「警察チェンジ!」」」

 

 国際警察3人がスーツを纏ったのは、実にパトレンエックスが接敵した後であった。

 

 

 

「メルスィー、よくやってくれた、さすがメイド・イン・ホシカワ、おかげで『密林へようこそ』のありかを知る事ができた。」

 

「てめえ、舐めた真似を!」

 

「気高く輝く警察官、パトレンエックス。」

 

 金色の戦士、パトレンエックスのそれが急襲であった。

 エックスがパトレンエックスの姿になるに際してのVSチェンジャー『エックストレインゴールド』即ち『イン・ロボール・フォルチュナ』、その本来の能力は『エネルギー集約』、パトレンエックスの膂力の一部、あるいは武具の一部に全身のエネルギーを集約して高め力とする、脚に集約すれば超絶的なスピードを、そして、

 

「いくよドロテ!」

 

 パトレンエックスの右手一点に光を集約させる、

 

「はぁ!」

 

 間合いはエックスの銃撃によりむしろ離れている、下がった状態から振り上げる手刀、光の斬撃が対手の右腿を裂く、皮1枚だけ残して辛うじて繋がる胴と右脚、もんどり打って倒れ、起きあがろうとすると、ぶら下がるだけの金庫を地面に引き摺り体液が溢れた、

 

「てめぁテメエぁ!」

 

「もはやそれでは動けず金庫のコクレションを発動できまい。」

 

 敵の停滞を見定めて、パトレンエックス、自らの銃の銃身を半回転させる、

 

『快盗 エックス チェンジ』

 

 銃身の前後を入れ替え、銀の高速鉄道の機首をマズルに、片手持ち斜め下の角度で一制射、銀のエンブレムが躍り出でてパトレンエックスに蒸着する、

 

『ルパンエックス』

 

 ルパンを名乗ったエックス、金より銀のボディへとチェンジし、肩アーマーの硬質感と相まってメタリックな鎧を纏ったかのよう。

 

「近づくなぁぁぁ!」

 

 倒れながらもトックリボルバーを乱射するウィルソン、

 

「試させてもらおう君の実力を、ジョセフィーヌ。」

 

 むしろ、悠然と歩み寄るルパンエックス、数発は確実に着弾している、そのことごとくをメタリックのスーツは弾き飛ばし、着弾ポイントに光の波紋が逐一拡がる、そしてルパンエックスの歩みは全く整然としている、これが高速鉄道のボディを持つエックストレインシルバー、即ち『七本枝の燭台』の効果『フィールドエッジ』、光膜が全ての攻撃を遮断する、

 

「来るな来るな来るな!」

 

 トックリボルバーの連射で視界すら奪われるルパンエックス、バリアで跳ね返す事に飽きたのか一足跳躍、

 

「いくよ」

 

 そのまま鋭角的なトツ型放物線の軌跡を描いて、倒れるウィルソン側近に着地、ベルトのバックルを外す、バックルは二つ折りの構造、開くと折り畳みガラケーのような画面とテンキーの合わせ面になっている、

 

『6、1、8』

 

「このスーツの解錠機能を試させてもらうよ。」

 

 ルパンエックス、倒れるウィルソンの金庫にバックルを密着させると、ルパンレンジャーのVSチェンジャーと同じ作動で金庫のナンバーを読み取っていく、そのままバックルを元に戻すエックス、

 

「やられてたまるか!」

 

 いつのまにか足を癒着しているギャングラーウィルソン、エックスに盾を一撃食らわし、トックリボルバーで後ろに向きながら乱れ撃ち、必死に蔦の中へ逃走しようとする、

 

「いけない!」

 

 跳弾が路面電車にまで達したのを視界に入れたエックス、一跳躍前転でギャングラーと電車の間に立ち、そして向かって来る弾丸を全て受け止める、

 

 かっけーっ、

 スゲー、銀ピカスゲー、

 あんなのイケメンでないとできないわぁ!

 

「圭一郎クン、準備しておきたまえ。」

 

 本当に救いが来たと狂喜する荒川線車内の子供と大人達に、エックス、指2本だけで会釈する余裕を見せる。

 

「スペリオルエックス!」

 

 銃のグリップをボディと水平にする、ベルトから身体を伝って右手の銃へ『フィールドエッジ』が伝わり、銃全体を半月状の薄い膜で包む、疾走し、半ばスライディング気味にウィルソンの金庫、足の脛に背後から半月の刃を入れていく、刃はウィルソンの肉体を素通りし、金庫を横薙ぎにする、

 

「てめえ!」

 

「こっち世界に来てもらうよ!ウィルソン!」

 

 両者の前面に等身大の鏡台のような光膜が突如出現、ルパンエックス、滑り込みつつもギャングラーを圧し込んでいく、

 透過、

 

「頼むよ諸君!」

 

 光膜になんの抵抗感もなく潜り抜ける、潜り抜けた先には全く違う風景、尾久の駅前ターミナルと、まだ蔓に覆われていない朝焼けの空が拡がり、

 

「「「一撃ストライクっ!」」」

 

 そして既に3色に彩られたパトレンU号がグッドストライカーを構えて仁王立ちしている、

 

『一撃ストライク』

 

 放たれる一撃、既に距離を置いているルパンエックス、金庫の飽和が始まり発光現象をはじめたウィルソンを現象ごと推し流していく、

 

 ぉぉぉぉぉ!

 

 跡形も無く消失する本体、転げ落ちる金庫は煙を噴き、U号の放った一撃は荒川区の路上に一筋跡を残す、

 

「お疲れ様。」

 

 ルパンエックスは、枯れ散った蔓の砂塵を受けながら、荒川区全土に朝日が差すのを眺めていた。

 

「銀の、パトレンエックス?」

 

「ノエルさん?ですか?」

 

「とにかく、後は頼んだ・・・・」

 

 パトレンジャー達は既に融合から分離、1号の手元から翼を広げグッドストライカーは離れていき、2号は銀の姿のエックスに見とれていたものの、隣で肩膝を折って倒れる3号に慌てて手を添えて起きあがらせた。

 

「だがごめんよ君達、敵の増援が来る、圭一郎クン、ビークルを準備してくれたまえ。」

 

 エックスの持つ得物、その光膜のいつのまにか付着した先端から、噛み合わせた爬虫類の顎の骨のようなケースを取りながら命令した。

 

「しかしつかさをこのままでは、いやおまえの格好それはまるで」

 

「金庫を回収しに、ゴーシュがやってくる。」

 

 エックスが荒川区の路上、何もない位置を指す、なぜだろう、目の錯覚かと疑うほど風景が歪んで見えた、

 

「あの女ギャングラーか。」

 

『クレーン』

 

 人の良い1号はエックスに言われるままにビークルをVSチェンジャーに装填する、前腕に追加武装する1号、

 エックスが指差すその空間、透明な膜か水面のように歪み、それによってなにかが前へ突出してくるのが理解できる、そう空間自体が歪んでいる、

 

「ワタシのカワイイお宝さん、ウィルソンを元気にしてあげて」

 

 出現する女型ギャングラー、正式にゴーシュ・ル・メドゥと名乗った事は、快盗の前でも警察の前でも無い。グラマラスな女型ギャングラーは整然と4人の前に出現し、背面にある金庫を閉めた上でエメラルドの光を片腕に発する、

 

「世田谷の時のように巨大化させるつもりか!させん!」

 

 だが度々金庫自体をその手で回収するか、『大きくなあれ』を使って金庫を巨大化=飽和再生を果たそうとする姿が目撃されている、今回も破壊されたウィルソンの僅かにリセットされていない細胞を増殖させようとする、1号がクレーンを伸ばして阻止しようとするも、マシンガンの片腕がクレーンのフックを弾き返す、

 

「待っていたよ、ゴーシュ。マスターキーを残しておいて良かった。」

 

 その背後からの出現である、

 金庫へ差し込む、

 差し込まれるのは透明なフィールドエッジの刃、

 

「あ、あ、・・・あ」

 

 恍惚にすら聞こえる断末魔、

 ルパンエックス、出現したゴーシュ・ル・メドゥのさらに背後より突如出現し、敵の金庫の扉へ向けて得物を差し込む、破壊されるでもなく透過していくフィールド・エッジは、引き抜く時もまた金庫の扉を透過していく、ただ先端はある程度ふくらみを持ち、うっすらと短銃のようなシルエットが中に見える、それは金庫から抜き取った『大きくなあれ』。

 ルパンエックスの快盗としての能力はマスターキー、即ち『ボヘミア諸王の敷石』の能力が大きく占める。マスターキーの力を使えば、コードを探る事なく無条件で金庫を解錠する事が適う。ダイヤルファイター全ての上位互換の能力であった。

 

 

 

「七本枝の燭台、イン・ロボール・フォルチュナ、ボヘミア諸王の敷石、フランス諸王の富、有用なコレクションをエックスに渡し過ぎたんじゃないですかい。」

 

 暗い空間が拡がる中、『空洞の針』、洋館は静かに建っている。

 

「ゲームとは、そういうものだ、そしてある程度勝ち続けさせてやるのも、ゲームの醍醐味だ、そうだろ、ザミーゴ。それにしてもウィルソン、口が軽いな。人間に余計な情報を入れなくても良かろうに。」

 

 洋館の中では、景色が暗黒に閉ざされ意味を失った窓を眺めているドグラニオがいる、今はどういう訳かポンチョを羽織った人間がいる、そうこの異形の館に、人間の姿をした者がいる、2人も。

 

「ドグラニオの旦那。いいかげんオレにも出番が欲しいですね。そろそろ金庫の回収役を、このオレに回して貰えないもんですかね。」

 

 全裸の男がドグラニオの対面に立ち、赤ワインをラッパ呑みしていた。食道へ通す時僅かに逆流させ口元から溢れる液が、顎から首、胸元へと滴り、その肌を赤く染めていく。

 

「ライモン、ゴーシュに与えた。ゴーシュはあれで中々役割は果たしている。」

 

「ですから旦那、今日でそのゴーシュの役目も終わるんじゃないですかい?」

 

 ドグラニオの顔が僅かに動き、全裸の男を直に見た。

 

「ゴーシュもしぶといと思うがな。あれはあれで。」

 

「デストラまで回してやったんでやしょ?姐さんの為に。」

 

 ポンチョの男が言った。それを受けて全裸の男が高笑いした。

 

「いやだなぁ、旦那も思ってるって言う事じゃないですか!オレ様なら、いつでもエックスとやらを始末できますぜ旦那ぁ」

 

「ほほぉ、金の金庫になると、そこまでゆとりと自信ができるものなのだな。ザミーゴ、ライモンにシブヤの街を紹介してやれ。」

 

 ドグラニオは相変わらず、無愛想にワインを燻らせるだけである。

 

 

 

 あれは、まるで快盗じゃないか?

 パトレン1号は戸惑った、戸惑ったがしかし、優先順位がギャングラーである事だけは念頭にあった、VSチェンジャーの引き金を引く、前腕にエネルギーが充填されていく、

 

「待っていたよ、ゴーシュ。マスターキーを残しておいて良かった。」

 

 ルパンエックスはゴーシュ・ル・メドゥから『大きくなあれ』を抜き取り、1号の射線から横退きしようとしたまさにその時である、

 

「ノエル、背後にまだいるぞ、奴だ!」

 

 叫んだのは1号、背後を振り返るエックス、そのゴーグルと、単眼が一瞬だけ対峙する、ゴーシュが空けた空間の歪みが未だ閉じていない事にエックスは気づくべきだった、単眼のギャングラーは四連装ランチャーのハンマーが握られている、

 

「デストラまで」

 

 横薙ぎで叩きつけにくるデストラ・マッチョ、

 

「ノエル!」

 

 1号、自身の組み合わせた両の手を金色に輝くゴーシュから僅かに射線を外す、

 一撃放つ1号、鎚を伐たれ飛ばされながらもシールドエッジを張ってガードするエックス、1号の全霊の衝撃波を掌低一つで受け止めるデストラ・マッチョ、そして、

 

「ダメだ、今はゴーシュが優先だ、くそ」

 

 ビッグバンプログレスぅぅぅ!

 

 ルパンエックスのエネルギーによって容積を数十倍に肥大化していくゴーシュ・ル・メドゥ、急激な巨大化によって体幹がブレ、よろめいた拍子に尾久派出所が踏みつぶされてしまう、

 

「ドグラニオ様から許可を頂いた、おまえ達全て、この手にかけて良いとな、ドグラニオ様のお目障りになる者達よ、纏めてこのオレが始末してくれる!」

 

 1号をまるで無視して倒れるエックスに足先を向ける隻眼のギャングラー、

 

「圭一郎クン、威嚇で構わない、ボクと攻撃を合わせて!」

 

 エックスが倒れながらも銀の銃身の引き金を引く、光弾は人間の全長を越える大きさの三角錐へシンメトリカルに変型、

 

「クレーンを弾くなんて、相変わらずどういう敵だ!」

 

 既にVSチェンジャーにビークル1号を差して3点バースト、エックスの放った光のトライアングルは、デストラごと1号の弾丸を呑み込み閉じ込める、

 

「おのれ!」

 

 閉じ込められたデストラはその場を動けなくなる、その上、同じく閉じ込められた数発の弾丸が三角錐内部で反射を繰り返し、跳弾となってデストラの肉体に全包囲からダメージを与える、

 

「全員、エックス空間に来てもらうよ」

 

 そして立ち上がる銀のエックス、天井方向にチャージした弾丸を撃ち放ち、巨大化したゴーシュ、国際警察、そして自らをくるむカーテンのようなものが天井方向から下がってくる、

 

「先輩、急に夜になっちゃいましたよ」

 

「ノエルがこの間の位相空間にあのギャングラー達ごと俺達を運んだんだ、しかしだ、それより、なんだ!ノエル!その能力は!まるで、」

 

「その通り、実はボクは快盗でもあったのさ。」

 

 こともなげに言ってのけるルパンエックスだった。

 

「だから、こうやって、彼等のVSチェンジャーは彼等に戻す。」

 

 どこからか取り出す3丁の銃、小器用に持って、1号と2号に見せつけた挙げ句、交番向いの五階層ポケットビル屋上へ投擲した、

 

「アンタさ、オレらなめるのさ、いい加減辞めてくれってヤツな訳よ。」

 

 赤い細身のタキシード(19)が立っていた、

 

「エックス、事と場合によっては、オレ達全員がゆるさんぞ、」

 

 青い肩幅の広いタキシード(24)がそれに並ぶ、

 

「エックス、帰ったらクシャクシャのポイだからね!」

 

 黄色いフリルの装飾のジャケット(18)がやや前屈みに舌を出した、

 全員、マスク越しにエックスを睨みつけた、

 

「「「快盗チェンジ!」」」

 

 元の年格好に戻った快盗達が、エックスが呼び込んだ『エックス空間』の闇の中でマントを棚引かせた。

 

「あ、ボクのイエローちゃんだ!」

 

「なぜここに快盗が?」

 

 と国際警察の男子達が口走るのも無理はない。

 遡って、少年快盗団が国際警察庁舎より解放された早朝、

 

「エックスは今別件を終えて荒川区に向かってます。君達も合流するように私が今連れて行くところです。詳しくはそちらで。」

 

 中古ソリオ車内で顔だけショボくれたハゲオヤジに戻した小暮は一路高速道に乗って王子から明治通りを東へ向けた。

 

「どこまで行くんだよコグレさん、ちゅうか、このままで行って大丈夫ってヤツ?」

 

 カイリ(8)が並走するエメラルドグリーンの新幹線に何故か激しい嫉妬心を覚えながら眺めやった。

 

「そうですね、この辺まで来れば一足で行けるでしょう。」

 

 明治通りがやや渋滞気味になる左サイドで停車するソリオ、

 

「エックス、ノエルくんの能力で扉に一度だけエックス空間を潜れるシールドエッジを付加しています、右の扉を開くと、」

 

 ほえぇ!

 右側のロックを外すうみか(10)、足を踏み出すと、そこは漆黒の闇が拡がる小さなビルの屋上であった。眼前に駅のようなものも見える。マヌケにもうみかは吼えた、吼えて何か視界の風景が微妙に変化していく事に気づいた、

 

「うみか、顔が整形後に戻ってる!」

 

「カイリとトオマが老けていく!」

 

 風景が変わったというよりも、観察者の視点が刻々と変化し続けている、

 ちょうどそれはエックスがゴーシュを刺し貫いた瞬間だった、若年化の能力はゴーシュの金庫に記憶されたものであり、ゴーシュを一旦でも倒す事でその能力が消え去る。

 

「では。みなさんごきげんよう。」

 

 カイリの背後にあった扉が自動的に閉められる、消えるソリオ後部ドア、快盗3人はVSチェンジャーもなく暗闇の中放り出された恐怖感が身体を駆け巡った、だが事態はそれどころではなくなる、あの巨大化したゴーシュを筆頭に、エックスや警察達が闇の街に突如現出する、慌ててバックルでタキシードに仮装する3人、その眼前にVSチェンジャー3丁が投擲される、

 あれほど骨を折って届かなかったお宝を、横からかっ掠っていった張本人が、まるで遊び飽きたかのようにこちらに放り投げてきた、内心必死のパッチで掴み取った3人だった。

 

「「「快盗チェンジ!」」」

 

 マントを棚引かせ、五階層の駅前ビル屋上から直接エックスの元へ降下する快盗達、

 

「あ、ボクのイエローちゃんだ!」

 

「なぜここに快盗が?」

 

 こうして、エックスを挟んで快盗と国際警察が対峙した。

 

「警察も来てたのか、全く暑苦しいチュウの!」

 

「キサマ等、我々を欺していたノエルも含めて全員逮捕する!」

 

「今度こそおまえ達のコレクション獲らせてもらうぞ」

 

「イエローちゃん、また遭えたね、ボク等縁があるよね!」

 

「コワ!てめえ嫌われてんだぞこの緑のたぬきめ、気づけよネションベンたれ!」

 

 ルパンエックスを間に挟んで対峙する快盗と警察、快盗はワンハンドで、警察はアイソセレススタンスで銃口を突き付け合う。

 

「む?」気づいたのはブルーである。「あの硬い女がいないぞ。」

 

「あの身体以外褒めるところが無いネエちゃんがいないだと」内心胸をなで下ろすレッド。

 

「いくら本当の事でも言っていい事と悪い事があるだろ!」2号は追い打ちをかけている自覚がない。

 

「いやあ、あれはあれで良い所があるだろ、男気とか」1号も褒めているかというと微妙である。

 

「あ、顔が赤いパトレンちゃんだ~」イエローは少女マンガのテンプレを口にした。

 

「顔が赤いわけ、オレはスーツが赤いんだ!」

 

「まあまあ、君達落ち着きたまえ、まずあの巨大化したゴーシュを、この空間に閉じ込めたからと言って、あのまま放置できないだろ君達、」

 

 そして声を揃えて5人から一斉に言われる、

 

「信用できん!!!」

 

 オララ~、などとお手上げのエックスは、それでも巨大化して放心したように立ち尽くすゴーシュ、そして自らが張った格子の牢獄で未だ跳弾の反射でズタズタにされるデストラを眺めやった、そして見逃さなかった、呆然としていたゴーシュの巨体の影が徐々に5人に迫ってきているのを、

 

「君達、どきたま」

 

 咄嗟の事である、油断する5人の前面に躍り出て、足だけでも数倍する重量物をルパンエックスはその全身に受ける、

 

「ノエルぅ!!おまえらバカヤロー、オイラの友達以上になんてことすんだよぉ!!」

 

 ルパンエックスは対手の蹴りを受け、なおかつフィールドエッジの全てを消耗して力を圧し返しつつも宙に両足が浮いて頭部から落下、

 即座に頭上に向けて牽制する国際警察2人、 イエローは反撃のグッドストライカーを掴もうするもかいくぐられ、思わず腰を変な方向に捻る、

 ブルーは倒れたルパンエックスを引き摺って退避、

 

「グッディ!こっちじゃないよ、あっちだよ!」

 

 レッドはエックスに群がるグッドストライカーを片手で掴み活きのいい魚のように踊るVSビークルを両手で押し黙らせようとする、そして顎でブルーから促され、グッドストライカーをチェンジャーに装填する、

 

「ブルーくん、レッドくんもいるんだね、すまないがもうボクは長くない、ブルーくんはグッディと共にゴーシュの対手を頼む、そして済まないがあのデストラをレッドくん、警察といっしょに倒してくれ、くれぐれも金庫を3つ回収して」

 

「おい、しっかりしろ、エックス、いろいろ聞く事がある!」

 

 ブルーには気球船のような見慣れないダイヤルファイターを手渡し、

 

「ふざけんなちゅうの!なんであんな」

 

「ふふふ、マジックとファイヤーをゲットする為に昨日から骨を折ってね、頼むトオマくん、そしてカイリくん、」

 

「ここで言うか、キサマ、それは脅しているのか、」

 

「頼む、トオマくん、マジックがいれば、グッドストライカーと君だけであのゴーシュと戦う事ができるはず、そしてカイリくん、協力してデストラを倒してくれたまえ、どうか信じて欲しい、ボクの全ての行動はただ一つ、ギャングラーの殲滅の為にあると」

 

 決して滑らかでなく途切れ途切れの語り口だったがエックスは仰向けになりながらもブルーとレッドの手をしっかりと握り、そしてその握力が徐々に弱まって両腕ともダラリと下がる、咄嗟に脈を測り、心臓に耳をあてるとブルーが首を横に振った。レッドは立ち上がる。

 

「オレがしっかり倒してやるよエックス、最後まで人を食ったヤツめ。グッディ!」

 

『ゲット セット レディ』

 

 ダイヤルとトリガー両性を持つビークルも友人の死を目の当たりにしてドスを効かせて吼えて飛び出した、次いでブルー、手にした『シザー&ブレード』をレッドに手渡し、自らはレシプロ機のダイヤルファイターを射出、

 

『とべ!とべ!とべ!』

 

 容積を数十倍に拡充したダイヤルファイターを目で追いながら、先に渡された飛行船型の、丸みが逞しい白いミニチュアをチェンジャーに装填、

 

『ゴオォォォ!!マ、マ、マ、マジック!』

 

 まるで水素を吹き込まれた風船の膨張であった、巨大化した計3機のダイヤルファイターは未だ理性が復元せず暴獣でしかないゴーシュ・ドゥ・メドーに次々体当たりを敢行、闇の世界で仰け反って倒れこの世界の国際警察庁舎を崩壊させる巨大ギャングラー、その隙を突く形で、上昇する3機、

 

『快盗!ガッタイム!』

 

 グッドストライカー機首が先割れし両脚パーツが伸びる、グッドストライカーに映るアバター映像がビーコン代わり、右腕にブルーダイヤルファイター、左腕にイエローでなくマジックの蒼白の機体が合体、マジックダイヤルファイター後尾翼だけが分離して頭部らしき形状に変型、機体を辛うじて人の形にする、

 

『完成!ルパンカイザーマジック!』

 

 白と黒の地味な色合いがいつものトリコロールカラーを押し殺すようなそれがルパンカイザーマジック、左腕の綿手袋をしたようなマニピュレーターが印象的な、ルパンカイザーの標準の4機合体を越える最小3機合体のロボだった。

 

 

 

「全く、エックス、変な宿題押し付けやがって、おい警察ちゃんよ!」

 

 ルパンレッドから見える光景は、警察2人の手を必死に躱して逃げ回ってるルパンイエローの図だった、

 

「助けてよ、レッド!赤いキツメ目と緑のマヌケがしつこいぃ」

 

「カワイイ快盗ちゃん、ボクが保護してあげるよ!一生!」

 

「キツメ目と言うな!もう1人の快盗も大人しく縛についてここから避難を!」

 

 いつものように銃口を向けてもまるで意に介していないかのような同カラーの快盗に違和感を朝加圭一郎は覚えた。

 

「快盗!キサマ、」

 

「死んだよあいつ」

 

「何を言っている?!」

 

「あっち見ろよ、エックスだっちゅうの、ふざけんなアイツ、散々マウントとっといて死に逃げやがって、」

 

 絶句して言葉もない1号、仰向けで動かないエックスを二度見した、

 

「エックス?ノエルの事か、訳の分からないヤツだったが、最後はオレ達を庇って殉職したという事か」

 

 それだけなんとか言葉にできただけでも上出来である不器用な男に、もう1人の男は襟首を掴んだ、

 

「気取った事言ってんじゃねってノ!アンタみたいなのが一番腹立つ、だがやるしかねえっしょ、死んだ人間が言い残したんだ、全く本当にイヤな宿題残しやがって!」

 

『9、6、3、快盗ブースト』

 

 ルパンレッド、VSチェンジャーに黒いデルタ戦闘機を装填し、ダイヤルを回し、そして銃身を捻る、

 

「快盗待て!キサマは」

 

 1号の制止も構わず引き金を引くレッド、発射された光のカードはレッドを周回するように包み、そして実体化、左腕全体を覆う黒いV字盾、背には巨大ブーメランが装着される、レッドによるそれが『シザー&ブレード』の初装着だった。

 

「エックスの張ったバリアがヒビは入ってるって、警察さんとしては止めなきゃダメっしょ。」

 

「待てと言っている!」

 

 レッドと1号がいつもの諍いを起こしている間、2号とイエローも痴話ゲンカしていた。

 

「なにこの変態!」

 

「ボク君に嫌われるような事一つもしてないだろ?」

 

 本気で言っているのだ、それが陽川咲也だ。

 この2人が揃って沈黙したのは、一度の撃音が耳に響いたからだ。

 

 ヴォォォォォォ!

 

 半瞬で割れ散る三角錘、出現する緑のパイナップル弾の塊、満身創痍となった単眼の怪物はまず緑と黄色の獲物を認めた、

 

「ゆるさんぞキサマ等!!」

 

 その独特の四連ランチャーを片手で振りかざし迫る大物ギャングラー、

 

「離れてイエローちゃん、」

 

 両掌でイエローの身体を押し飛ばそうとする2号、

 

「離れんのオマエだこの!」

 

 突き飛ばされても上半身だけ反り返るイエローは両脚を揃えて2号をドロップキック、突き飛ばされたのは2号の方、自分も反動で反対方向に離れた、

 

 クソォォォォォ

 

 四連ランチャーを空振りするデストラは、まず同色の対手に目をつけやはりランチャーを振り回し差し迫る、

 

『ドリル』

 

「逃げるんだイエローちゃん、ボクがここはなんとかするからね」

 

 気楽な言い回しは2号がイエローを安心させたい一心だったが、場に合わない素っ頓狂なテンションはむしろイエローの不安を煽った、煽った手元から無意識にワイヤーが飛ぶ、

 

「できるわけないでしょ」

 

 飛んだワイヤーはデストラの得物の軸を絡め取り、イエローとデストラの間に細く強い鉄の玄が張られた、

 

「これがなんだ」

 

 軽く振った、右肩を回した、肩の力だけでイエローの全身が浮かび上がり、イエローの視界が天地動転し、背に衝撃を覚えた、気がつくと本来なら良い匂いなのに無神経に多量に振りまいた香水の悪臭に包まれていた、緑色が目についた、そうルパンイエローは、ワイヤーで拘束するどころか、投げ飛ばされ、地面に落下するところ、パトレン2号に抱き留められたのだ、

 

『警察ブースト!』

 

「捕まっててねイエローちゃん!」

 

「生理的にもうイヤ」

 

 イエローを抱きかかえながら、VSチェンジャーの銃口をデストラに向け放つ、

 急進する巨大三角錘、先端がデストラの大胸筋に直撃、受け止め不動のまま堪えるデストラ、なお回転は止まずデストラを制止させ続ける、

 

「ぉうぁっぉ!!」

 

 デストラの大胸筋がさらに隆起し、回転から生じるベクトルと真逆にドリルが跳ね返る、つまりそれは抱き合う2号とイエローに向かって来るという事、

 

「あ」

 

「伏せて」

 

 イエローの頭だけでも両手で覆う2号、イエローの身体が激震する、

 

「うそ」

 

 2号の身体の激震を肌を通して伝達した、いつのまにか2人して地面に投げ出されている、イエローは2号がクッションになって、地面に倒れた衝撃を緩和されていた、

 

「うそ!」

 

 だが激震の原因はそれではない、見上げるといつまでも顎を沿って首をこちらに向けない2号が見える、黄色い手袋で2号の頭をこちらに向けた、手袋が紅く染まった、イエローの身体の芯を通る神経が左右から絞り込まれた感覚がした、

 2号のマスクは、自ら放ったドリルの逆回転をまともに喰らい、マスクどころか顔面から流血するほどの負傷をした。

 

 まただ、どうしてこの人、この人、こんな、イヤな事ばかりするの!

 

 ルパンイエローは身体の震えが止まらなかった。

 

 

 

『完成ルパンカイザーマジック!』

 

 トオマは単身コクピット中央に上座した。

 

「カイリめ、少しどころか風景が違うぞあいつ。」

 

 いつもと違う3つある席のやや迫り上がったセンターポジションからの風景に満足するルパンブルー、その眼前の巨大ギャングラーは左腕をこちらに向けてくる、掌には大きな孔が空いている、全身をくるんでいるドラムマガジンが動き出す、

 

「おまえらのせいでこんな姿になったじゃないの!!」

 

 敵ギャングラーは無意識から既に覚醒しており、ありったけの殺意を眼前の同全長のロボに向けて乱射する、

 

「おっと」

 

 咄嗟にコクピットでグリップを引くトオマ、左の白いマニピュレーターが小器用に動き出し、五指の内の2本を使ってスナップする、たちまち白い煙に包まれるカイザー、弾丸のことごとくが煙の中を入って素通りし、周辺の仮想のビルが被弾、

 

「ええいどこよ、レディに優しくないわね!」

 

 スナップ、

 暗闇の擬似位相空間のビル群がいくつも一人でに動き出す、まるでスライドパズルのようにめまぐるしくギャングラー、ゴーシュ・ル・メドゥを取り囲み、全包囲から突進して圧し包む、

 そうした上でやや離れた地面一点から刹那的に水蒸気爆破が起こって、白いもやと共に出現するルパンカイザー、

 

「これはすごい、瞬殺ではないか」

 

 一際甲高い振動音がビルの塊から轟く、

 貫通、

 一直線にカイザーに白光が前から後ろに貫通、

 右腕が寸断して降下、

 

「JSがレーザーでビルを破壊してみた!!!」

 

 圧搾していたビル群を強引にレーザー光で裁断崩壊させたゴーシュは、光をそのまま伸ばしルパンカイザーに貫通させた。

 

 

 

「かかってこいよ、頭悪そうなデカブツ、オマエみたいなの部下にしてるくらいだから、ボスもさぞや頭悪いんだろうな。」

 

 レッドは挑発して盾を構えた、

 

「キサマよくも咲也を!いくぞギャングラー!」

 

 1号は問答無用に突進した、

 

「バカかホント警察ちゃんが」

 

 レッドは1号の猪突ぶりに呆れながらも、組み合いする敵の隙を伺い、背中の得物に手をかける、

 

「蝿のごときキサマ等が!」

 

「早く咲也を起こせ怪盗の娘!」

 

 レッドが思う程1号は考えナシな訳ではない、それまでの経験からただのVSチェンジャーの銃撃では通じない、近接した距離から、負傷した胸元に畳みかけねば倒せない、そうする事でせめて眼前の一つ目を抑止する、

 1号がほぼゼロ距離から放つ胸への一撃で怯むギャングラー、しかし致命打にはならず、1号へ片腕でミサイルロッドを振りかぶる、

 

「だったら、こっちにおびき寄せればいいってヤツじゃね、警察ちゃん?」

 

 投擲、

 組み合いになる1号とデストラの隙間を縫う形でブーメランを投擲するレッド、刺さる左肩、

 

「患わしい!」

 

 痛みすら意に介さないデストラは、肩に刺さったV字の刃を持ち主に投擲し返す、

 

「どういうヤツなんだ」

 

 盾で弾き落とすレッド、地面に落ちたブーメランを片足で掬って掴むレッドは、こっちに向かってくるデストラに盾を構える、その姿をマジマジ眺めてやや違和感を覚えた。

 

「真っ新じゃねえか。」

 

 デストラ・マッチョ、ルパンエックスの張ったバリアに閉じ込められ、脱出した際は、1号が放った跳弾により全身を負傷していたはずである、

 

「回復ハンパねえっテカ、冗談じゃねえぞオイ」

 

 間違いなくデストラはこの戦闘中であっても、肉体の回復が快盗や警察のダメージを追い越している。本質的にギャングラーに対して特攻効果がある1号の攻撃に対して至近だろうが背中からだろうが全く意に介してない。どう攻略すべきか。

 

「快盗、逃げろ、こいつは我々警察の仕事だ!」

 

「うっせえわ!オレらもギャングラーには貸しがあるちゅうんだ、」

 

 ブレード、即ちブーメランを再度投擲するレッド、デストラの死角へ回り込んだ段階で、刃は二つに分離、後背左右の軌跡でデストラを挟撃、

 

「おまえ達全てを殺す!」

 

 右腕だけで振り回したロッドが竜巻を産む、それは奇しくもブーメラン2刃を煽り弾く、

 

「ふざけ」

 

 レッド、盾でガードするも踏ん張りが効かず地面を抉って足跡を作る、

 

「後は警察がやる、快盗と言えども守る市民だ、早く避難するんだ!」

 

 1号、背後から撃ちながら疾駆、全ての粒子弾を受けながらまるで意に介しないデストラだったが、距離が縮まる事でそうもいかなくなってくる、振り返って、

 

「小煩い」

 

 ロッドで祓う、

 

「もうその手は食わん!」

 

 これを1号、さらに懐に飛び込んでロッドの根本で身体ごと受け止める、そうして逆にロッドを抑え込んで密着したゼロ距離の銃口を胸に撃ち込む、

 

「触れるな汚い!」

 

 胸で受けてなお平然としているデストラ、既に胸元の傷も癒えて、左腕だけで1号の首を掴んでレッドの元へ身体ごと投げ飛ばす、レッドは盾で1号の身を受け止める事になる、

 

『快盗ブースト!』

 

「許さないから!」

 

 ぐわ、

 

 だがその脅威のギャングラーの攻勢が一旦停滞する、それは倒れる2号の元から離れずうずくまっていたイエローの逆鱗に近い攻勢、

 

「目が、小娘が」

 

 サイクロンダイヤルファイターでの風輪攻撃は、シザー&ブレード、クレーン、ドリルの攻勢をはね除けたデストラ・マッチョにとってさしたるものではない、しかしイエローは天に愛されている、目だ、たまたま放った攻撃はデストラの顔面、あの一つ目にクリティカルヒットする、デストラは目元を抑えて悶絶した、

 

「OK、あいつにも攻めどころあんじゃん、畳みかけるぜ警察ちゃんよ」

 

 レッドは立ち上がろうとする、しかし1号は逆に制した、

 

「ここからは我々警察の仕事だ、これ以上危険な目に合わせる訳にいかない」

 

 1号の抑えた手をレッドは振り払おうとするがスーツを備えた1号の握力はスーツを備えたレッドのそれを凌駕している、

 

「うちのイエローはノびた緑のやつ守ってる、ブルーもグッディとデカパイ女と戦ってる、今更何言ってんだっつうのっ」

 

「既にそれなりの装備品で対抗できている、いままで、今この状況が異常なんだ、国際警察も国民保護法の範囲を準拠している、おまえ達犯罪者でも文民に変わりはない、我々はおまえ達でも守る責務がある!」

 

 1号はさらに強く握った、

 

「法律が言い訳になるか!」

 

 レッドは人類の社会生活の根底を否定した、

 

「言い訳」

 

 1号はなぜかその氷山の一角でしかない一言でレッドの言わんとしている事を完全に理解した、

 

「利用すりゃいいんだよ!死んだエックスみたいに」

 

「高尾ノエルがどうしたって」

 

 そうしてレッドは両手で強引に1号のやや緩んだ手を振り払う、

 

「オレ等はオレ等でギャングラーに恨み晴らしてやる事やるさ。オレ等を止めたいなら、ギャングラーを先に倒してみせな!」

 

 レッド、振り払った手で再度ブレードを投擲、

 

「ボスを貶したなキサマ!」

 

 デストラは顔面を拭ってたまたま視界にレッドを認める、死角から伐ちに来る分裂したブレードを今度は手で振り払う、

 

「聞いてんじゃねえか」

 

 うぉ、

 

 しかしその祓ったブレードでないものが、デストラの顔面を直撃する、

 

「やっぱ守りなんて柄じゃなかったねって話っしょ」

 

 それは盾、レッドは左腕のシザー、盾すら投擲してきた、さらに弾き返って戻ってきたブレードをジャンプ一番キャッチして反動で再度投擲、そして盾が弾かれた方向にビルの壁を横走りでダッシュして掴み、宙で2回転して投擲、再度ブレードを投擲、再度シザーを投擲、この波状攻撃を顔面に集中させるレッド、デストラがその豪腕を発揮する暇を与えない、

 

「こわっぱが」

 

「いただくぜお宝」

 

 そうして連撃し、肉迫して掴んだブレードで顔面を叩き殴るレッドは、怯んだデストラの右肩へダイヤルファイターを宛がう、

 

『7、5、2』

 

「空いた、空いた?」

 

 レッドの眼前で既存の経験則外の現象が起こる、デストラの本体である銀の金庫がダイヤルを宛がっただけで独りでに開いた、

 

「どうして」

 

「ふん」

 

 それはデストラにとって軽い上半身だけのショルダーチャージであったが、開いた金庫そのものを胸倉で受けたレッドのウェイトは、デストラのウェイトと比するまでもない、突き飛ばされ頭を強くアスファルトに打ちつける、

 

「コレクション使ってねえって反則だろ」

 

 理不尽な事をボヤいている自覚の無いレッドは、意識は辛うじて保っていたが肉体か痺れて動かない、

 

「グォォォォ」

 

 そこに右腕一本で四連ランチャーを振り上げるデストラ、インパクトの瞬間ランチャーからミサイルを射出爆破すれば圧搾し火力を集約してダメージもまた集約する、

 

「快盗より先に!」

 

 そこに割って入る、体当たり気味にデストラのミサイルロッドを食い止め、そしてミサイルの一基に銃口を押し当て、ゼロ距離から発砲、

 暴発、

 ゼロ距離のミサイルの爆破は、デストラのロッドを破壊、爆流は開いた金庫の中も傾れ込み、デストラが悶絶する、

 

「バカだろケイちゃん」

 

 レッドもまた至近にあって得物全てを弾かれ、脳震盪気味の視界でデストラと1号交互に眺めた、

 

「タオス、ギャングラーを・・・・」

 

 デストラは悶え苦しみ、パトレン1号は大の字になって失神し、その手には銃口の先割れしたVSチェンジャーが握られていた。

 

 

 

 貫通する右腕、それはダイヤルファイター2号と同義である、

 

「くそ」

 

 落下する青きプロペラ機、しかし落下する寸前、粉々になる、ただ粉々になる訳ではない、粉々になったパーツ一つ一つが花びらへと姿を変え、そして落下から舞い散る形で拡散、再度中空で花びらが自律的に集結して、ダイヤルファイター2号の形へと変貌していく、そうして大きく旋回して再びカイザー右腕となって合体する、

 

『だからあぶないといっただろ』

 

 というフランス語の画面がコクピット前面に展開する、

 

「本当に、余計な機能を付けたなエックス!」

 

 ブルーダイヤルファイターはマジックの能力で被弾を免れ再装着した。

 

「誰に見せてるのよいったい誰に!」

 

 対峙するゴーシュ、なお掌の孔から小火力の弾丸を連射、

 スナップするカイザー、

 

『あり得ない事が起こる、よ、か、ん』

 

 弾丸がことごとく鳩となって着弾する前に空へ上昇していく、

 

「ええいイライラする!」

 

『女のヒスはたまらないわ!』

 

 性別を超えたコレクションがヒスりながら左腕、その先端の拳に当たる硬球を振り回す、

 

「顔はやめてよ!」

 

『大してパーツ無いじゃない!』

 

 なぜだろう、今までに無い不思議な劣情に充てられているような、

 そんなブルーの油断なのか、コクピット内部の天地が動転する、

 

「フフフ、転んでやんの転んでやんの!」

 

 ゴーシュ、単に左腕を不器用に振り回すカイザーを軽く避けただけである、そして指を差して冷笑している、

 

『ああ!ムキッー!』

 

 そうしてゴーシュ、掌を倒れたカイザーに向けて一発、

 スナップ、

 直撃を受けるカイザー、しかし破壊されるのでなく、そのボディ全てが花びらとなって拡散、

 

「奇妙な術を!」

 

 拡散した花びらがゴーシュを迂回するように再び結集してカイザーの姿へ変貌する、

 

『さあて小娘におしおきよ!』

 

 スナップ、

 カイザーが左指を鳴らすと、地面からわき出てくる3人の人影、

 

「ヘドリアン」

 

「アマゾンキラー」

 

「ゼノビア」

 

「「「昭和3大悪女!」」」

 

 威嚇しながらゴーシュを取り囲む3女傑、ゴーシュ、なぜか本能的に身を竦めて動けなくなった、

 

「ちょっとアンタ、最近生意気らしいわね」ゼノビアが肩で対手の背中を小突いた。

 

「最近の子は何?ちょっとスタジオ入ってアテて終わり?顔出しもしないの?何考えてんの?」アマゾンキラーは肘を何度も何度も脇にかましてくる。

 

「お、や、め、平成の若いのが萎縮しちゃってるじゃないか。」

 

 ヘドリアンが振り向き様その北欧の女神のそれのような触角を振り回しゴーシュの顔面にヒットする、思いの外のダメージでよろめくゴーシュ、

 

「ヘドリアンの姐さんはやさしく言ってくれてるけどね、うち等の時代は顔出し、肩出し、生傷が当たり前だったんだよ!」

 

 ついには杖から念動力を発揮するゼノビア、ゴーシュは哀れ無空の腕に揺り動かされるように翻弄される、

 

「なんの苦労もない平成のお子様が!」

 

 短剣を拳に充てて光を発するアマゾンキラー、怪光線に痺れるゴーシュ、

 

「アーバクラタラリンクラクラマカシン!」

 

 無空の腕で前後を揺すられ、まるで数秒間巻き戻しと早送りを交互に繰り返すように前後に振り回されるゴーシュ・ル・メドゥ、三女傑が立ち消えた後もなお地に平伏して腕の力で辛うじて動いている、

 

「何がなんだかよくわからんがいくぞ!」

 

 ブルーかコクピットで必殺技のグリップを掴む、

 

『グッドストライカー驚いちまえイリュージョン』

 

 カイザーの左腕、鉄球となった掌の像が二重にダブる、その内一つの水晶のような光玉が遊離、しゃぼん玉のようにユラユラと倒れるゴーシュに向かって近づいていく、

 

『ルパンマジック、ご贔屓ボス!』

 

 しゃぼん玉の中にはっきりと分からない人影が伺える、

 

「ボス!助けて私を!」

 

 朦朧とする意識の中、ゴーシュ・ル・メドゥはその幻影を何者かと勘違いし、手を差し伸べた、

 

『いいぞ、おまえにはこれをくれてやろうゴーシュ、』

 

 幻影の玉から何かが飛び出す、それは白い短刀だったり、携帯電話だったり、双眼鏡だったり形に統率がないが、どうもルパンコレクションらしい、

 

「アハ、アハハ、嬉しい、これは次の実験に使える、」

 

『いいぞいいぞ、これもやろう、あれもやろう、』

 

 実験台を放り投げる影の男、

 

「ああ最高!このバージョン欲しかったの!さすがボス、」

 

 玉に両膝を折り、両の手を掲げるゴーシュだった、

 

『これも、これも、これもだゴーシュ』

 

 そして数個の金庫をゴーシュの周りに投擲する、

 

「もうサイコー、これで死んでも良いわ!」

 

『そうか、では死もくれてやろう』

 

「え゛」

 

 瞬間、水晶のような玉が爆破、幻覚の手術台も、コレクションも、金庫も一斉に爆破爆破爆破、

 

 ギァぁぁぁぁ、

 

 そしてゴーシュも炎に捲かれ、きりもみしながら絶叫をあげた、

 

「絶対ニィィィィ戻ってェェェェ」

 

 断末魔をあげて木っ端微塵となり、ルパンカイザーの足下、ゴーシュの金庫が転がった。

 

 

 

「ツカサくん、ツカサくん、シッカリシタマエ。」

 

「スーツによるとバイタル正常の範囲です、病院でのカルテと加味して考えると貧血による昏睡かと思われます。」

 

 ぼんやりとした意識の中、明神つかさ、パトレン3号の視界が徐々にはっきりしてくる、

 私はいつ倒れた?

 記憶を辿るつかさの脳が、眼前にいる者が上司とデスクワークロボである事を認識する、

 

「ツカサくん、きヅイタカ、たテルカネ?」

 

 青ざめた顔の上司、ヒルトップはパトレン3号を抱きかかえて、チェンジャーからビークルを引き抜いた。外気に皮膚が触れて大きく深呼吸するつかさはようやくそこが尾久駅前である事を承知する。

 

「管理官、皆は?」

 

「現在、高尾管理官が造り出した擬似空間で戦闘中、2体の内1体は生命反応が途絶えました。」

 

「ジム、では圭一郎達は、」

 

「咲也さんは今重症を負って動けないそうですが、ノエルさんによると快盗達と協力して守っているそうです、」

 

「快盗と協力?高尾ノエル、いったい快盗とどんな関係が、圭一郎は?無事か?」

 

「いえ、」ジムはやや口ごもった。「圭一郎さんも昏睡状態にあります。」

 

「そうか。それは対手のギャングラー、気の毒だな。」

 

 意外に冷静な態度のつかさを見て、オフィスロボットのルーチンは想定外の計算にフリーズしかけた。

 

「どういう事ですか?圭一郎さんが危ないと。」

 

「圭一郎は、無我に達した方が容赦ないからな。」

 

 つかさは立ち上がれない足をもどかしく思った。

 

 

 

「タオス、マモル」

 

 朝加圭一郎の眼前は白く靄がかかったようにデストラ・マッチョ以外の風景が見えない、いやむしろデストラだけが異様にはっきり一挙手一投足を捉える事ができた、

 

「危険なヤツめ、おまえを生かしておけばドグラニオ様の為にならぬ!」

 

 煙を噴き上げた金庫を閉じ、1号に狙いを定めて右前腕を叩きつけようとするデストラ、

 

「スゲー、ケイちゃんなんであんな動きが取れるんだ、」

 

 レッドが目を見張るのも無理はない、根本的に1号の動きが違う、まるで立ちくらみのように体幹をユラリと待ちながら、対手の攻撃が向かってきた途端視覚に捉えきれない程の速い回避、デストラの巨体の隙間に敢えて前転で飛び込んで数ミリ間隔のすれ違いを演じ、一回転対手の即背に躍り出て蹴りで足を祓おうとする、

 

「サカしい」

 

 ビクともしないデストラの強筋、そのまま腰を捻って光の灯った右拳を叩きつける、しかしそれも地面を抉るのみ、振りかぶった脇下を1号前転で飛び込んで再び背面に、

 ぐぉ、

 そして叩きつけるのはデストラの顔面、

 

「ケイちゃんオレのシザーを」

 

 1号、デストラの猛攻を神がかり的に回避しつつ、地面に転がっていた盾、シザーダイヤルファイターをいつのまにか拾い上げ右腕に装着した、装着してそのまま盾の硬度の限りデストラの隻眼へ見舞った、怯むデストラ、さらに見舞う鉄拳、いや鋼拳、いやいや鋼盾、1号跳躍力を加味してデストラをやや頭頂から連撃、

 

「ケイちゃんやりすぎっチューの、こんなの持ってんだから、使わなきゃ損だろって。」

 

 一方レッド、ただ呆然と眺めているだけでは無かった、1号がデストラと相討ちした際、拍子に落としていたビークルを目聡く回収していた、それはつい先程高尾ノエルが朝加圭一郎に渡したトリガーマシンスプラッシュ、

 

『スプラッシュ』

 

 レッド、機能を知らない癖に迷う事無く賭けに出る、チェンジャーに装填し、銃身をいつものように捻る、

 

「くそ、上向けるとトリガー引き辛え」

 

『快盗ブースト』

 

 やや下ろし気味に一制射、発射された弾丸はカードを形成し、拡大、反射しレッドを透過していく、レッドの左肩に真紅の盾、それはシザーと違った逆L字の装甲、腰には1メートル以上の得物が横一文字に携えられている、ルパンレッドスプラッシュフォームとも言える姿となる。

 

「クお、なんだその」

 

 デストラは、拳と腕からの砲撃で執拗に攻撃をかけるものの、小器用に躱し、かと思えば盾で受け止め、そしてどういう場合もデストラの緩急を狙っての反撃を確実に極めてくる1号に次第に防戦一方となる、なるものの、そのレッドの姿を視界に捉えて警戒し、1号の攻撃をほぼノーガードの脇に喰らい、ほぼその脇に盾が抉り込みながらも耐え、そして身からエネルギーが迸るのも構わず1メートル至近で掌から砲撃を爆裂させる、

 

「死ねぇ、ドグラニオ様の礎となれ!」

 

 爆圧をまもとに喰らうレッド、刹那、噴煙に包まれる、

 

「シザーでも手痺れてたのに、こいつぁスゲー」

 

 しかし、吹き飛ばされるでもなく、増してや粉々に砕けるでもなく、不動のままレッドは受け止めていた、左肩の紅い盾はなお光沢を保っている、

 レッドは、腰に差したロッド、いや折り畳みのカービンライフルを掴む、ひと振りすると、折られたボディが展開し、銃口がハシゴ車のそれのように外枠から芯が飛び出す、全長2メートル50を超えるロングバレル、その長竿の先端をデストラの斬撃された左脇に押し付ける、

 

「解ってるぜ、アンタ、左腕ほとんど動かねえんだろ、死角はそこだよな、さっきケイちゃんから喰らってさ。」

 

「キサ」

 

 極至近、密着した銃口、そして敵は未だ回復しない傷口、

 

『一撃ストライクっ!』

 

 貫通するデストラのボディ、振り払おうとした左腕の動きは鈍く、発砲と同時にデストラのボディに亀裂が走る、独眼に亀裂が走る頃には、既に肩から下の全てが四散霧散していた

 

 グオッッッッッ!

 

 四散しながら単眼が自らの身がもはや首とそれに僅かに接続する左肩しか無い事を自覚する、自覚して光芒の中消えていった。

 あのデストラとゴーシュ、その両者を討ち取った快盗と警察だった。

 

 

 

「晴れた」

 

 漆黒の空間に光が差す、エックス空間が消失し、快盗も警察も元いた尾久の駅前に戻ってくる、

 

「いい加減起きて、うみか、もう目の前で人がこんな風になるのイヤなの!」

 

 気絶したままの緑のスーツの男を揺り動かす黄色いスーツの女、少女と言ってもいいかもしれない。結局のところ少女の快盗は、この倒れた男を見捨てる事ができず側近で守り続けるしかなかった。

 

「快盗!咲也から離れろ!我々の装備を盗ませる訳にはいかん!」

 

 そこになんとか回復したパトレン3号が銃口を向けてやってくる、同僚のマスク、特にバイザーが割れた奥の出血に意識が持って行かれる、

 

「ジム!速く手配を頼む!応急措置する事はないのか!」

 

 通信に気を奪われた一瞬、

 

「大した事ないよね?絶対だよね!」

 

 銃口を切り返した時には、既に黄色いスーツを纏った少女の姿は無く、3号は耳に少女の悲鳴のような音を拾った気がした。

 

「快盗め、逃げ足の早い、ジム!本当に圭一郎のバイタルは安定しているんだろうな!・・・、快盗がほぼ倒した、協力してくれたという事になるのか。」

 

 パトレン3号が見渡す限り、既に3人の快盗の姿は無く、巨大化したVSビークルが4台、轟音を立てて飛び立っていく様を眺め暴風を受ける事しかできなかった。

 

 

 

 4台。

 

『気分はサイコーっ』

 

 ゴーシュを粉砕したルパンカイザーは、ただちに分離、ダイヤルとトリガーの両方を持つグッドストライカー、飛行船を模したマジックダイヤルファイター、レシプロ戦闘機を模したブルーダイヤルファイターの、3台に分離、即座に縮小してミニチュア化する、

 

「レッドっ!」

 

 その縮小化しつつあったレシプロファイターから降下して側近に着地するのはゴーシュを討ち取ったブルー。レッドは既に除装し、トリガースプラッシュを持て余すように自分の掌から掌へ放っている。レッドの視線は真横に同僚が来てなお、対立者の警察に向けられている。パトレン1号はデストラを粉砕した一撃の余波で吹き飛ばされ、電信柱に背中からぶつかり再度動かなくなった。

 

「来たか。」

 

 ブルーに対してではない、盾だった姿から元に戻ったシザーがブレードダイヤルファイターと合体し、ルパンブルーを周回して肩に留まった。

 

「別のギャングラーは?」

 

「こいつが、吹き飛ばした。」

 

 片手にした消防車ミニチュアをチラつかせたレッドは、そのVSビークルをなぜか倒れて動かない警察に投擲した。

 

「またか、」

 

「持たせておいた方が」

 

「利用価値がある、だろ、どうせまた発信器があるだろうからな、用事が無いなら引く・・・・」

 

 4台、

 パトレン3号が1号に駆けつけたのはその時である、そして上空の彼方から銀の高速鉄道ようなものが見えないレールの上を滑走、まるで遊園地のコースターのように滑らかな動きで急降下してくる様が見えた。つまりVSビークル4台をパトレン3号は視界に入れた。

 

「高尾ノエル!」

 

「やぁ、くるりんぱ」

 

 高尾ノエル、ルパンエックスがいけしゃあしゃあと列車から降下してくる、手に抱えたのは一つの金庫、エックスは3号に差し出した。3号はこれまでの経緯を半ば知らない。

 

「高尾、管理官、いままでどこに」

 

「これは巨大化したギャングラーの金庫だ。ジムに預けてくれたまえ。くれぐれもスーツを着たままで取り扱ってくれ。それから」

 

 ルパンエックス、さらに3号へ一台のビークルを渡す。

 

「ベロニクを飛ばしてくれないか。」

 

「あ?ああ」

 

『ゲット セット レディ?』

 

 国際警察戦力部隊構成要員に共通するのは、お人好しである。今回もまた銀のエックスの胡散臭さ据え置いて愚直にも言う事を聞いてしまう。

 

『ゴオォォォ!ファ、ファ、ファ、ファイヤーっ!』

 

 巨大化したエックストレインファイヤーが、同寸法で上空を旋回しているエックストレインシルバーと交差連結する。

 

「いったいこれがどうしたと言う?敵がこの状況で出現したケースは過去に無い、」

 

「ボクは小用があるのでこれにて失礼。」

 

「待て」

 

 ルパンエックスは再び快盗共用アイテムであるワイヤーを列車後尾に引っかけて3号の制止も聞かずに跳び去った。

 

「・・・・あいつめ、全くどこまで掴み所が無いんだ。とにかく圭一郎だ、」

 

 3号、失神して動かなくなったパトレン1号を揺り動かし、反応が無いので顔面を叩き、そして持っていた金庫で2度3度頭部を横殴りして叫び続けた。

 

「圭一郎!起きんか圭一郎!」

 

「・・・・なんだ、つかさか。」

 

 頭を振ってようやく目を覚ました1号は、上体を起きあがらせた拍子に何か胸元から転げ落ちたのを皮膚で感じ、思わず拾い上げた。

 

「さっき高尾ノエルから貰った、ギャングラーをつかさ、おまえがやったのか?これを使って。不確定要素が多いと思ったが。」

 

「イヤ、私が到着した時には、2体共居なくなっていた。高尾ノエルからそれを聞こうとしたんだが、」

 

「快盗がやったのか・・・・、自分の言い訳にしてるのかオレは」

 

 1号はヘルメットの中で辛うじて籠もった声を発した。

 

「何か言ったか圭一郎、いや、まずそれより咲也だ、ギャングラーの攻撃で、重症を負った。今救急搬送された。」

 

「命に別状ないのか、不甲斐ない、オレはオマエ達を危険に晒してばかりだ。」

 

「もう言うな圭一郎、私達3人全て生き残っている。」

 

「なあつかさ。」

 

「ア?」

 

「警察は、法律を盾にして何をやってもいいと見られてるんだろうか。」

 

「何を言っとるんだキサマ。」

 

 つかさは、同僚が思うように戦績を挙げられない事に弱腰になったと思った。

 

「ん?高尾ノエル?高尾ノエルは先程、いない!高尾ノエルは殉職したんじゃなかったのか!おいつかさ!」

 

「圭一郎落ち着け、何を言っとるか」

 

 二人はいつまでも噛み合わない対話を繰り返すしかなかった。

 

 

 

 ルパンエックスがエックストレインシルバーを巨大化させる必要があるのか?

 

「頼むよグッディ、君の嗅覚が頼りだ。」

 

「任せな親友!オイラの鼻でもう一つもゲットさ!」

 

「ゴーシュの金庫とデストラの金庫、これ以上復活させればボクでも今度は抑えられるかどうかわからない。早く、」

 

 ルパンエックスには空間を縫うように距離を詰める事が可能である、それすらなく、最大限の武装で目的の物体を散策するのは、

 

「臭うぜ、そのまま南西、あのデカイ鉄道が走るすぐ下だ!」

 

「新幹線?」

 

 そこはもはや荒川区から外れた、標準軌と狭軌が並走する上中里平塚城跡。空中から降下してW7系下りと偶然にも並走、

 

「オレ様がこんなヤツをよ」

 

 菅原神社前、ここまで飛ばされてきたのは銀の輝きがくすんだ金庫の埋まった上腕、そしてエックスの思った通り、ギャングラー2体が先回りしてその上腕に触れるかどうかというところに立っていた。一体は獅子のごとき面構えであり、もう一体はタツノオトシゴのそれである。

 

「ライモン、敵が上から来ている。」

 

 2体のギャングラーを覆うように影が差す、それは急降下、それも減速の無い、2体に向けての明確な突撃だった、

 

「このまま蹴散らす、グッディ、足下に伏せるんだ」

 

「OKノエル!」

 

 地面に対して斜角30度で容赦無く轢き飛ばそうとするエックス、しかしエックスはその身で強烈な反動を感じた、おかしい、反動があるものの推進力で圧し切れるはず、それが奇っ怪な震動を響かせながら、半ば中空で制止した、

 

「おいおいおい、けっこう強いじゃねえか。」

 

 まさに標準軌で疾駆できる車体を持つエックストレインと、たかだか2メートルほどしかない人型のギャングラーが拮抗している、ギャングラーライモンが両腕を伸ばしてトレインの衝突を抑えている、そして半笑いである、

 

「ライモン、遊ぶな。我々が命じられたのは回収だけだ。」

 

 ナリズマ・シボンズが空前の現象に興味無さげに金庫の埋まった左腕を拾い上げて、無空に渦を起こす、大気ではない、空間を流動させる、その流動の隙間に溶けるように入り込むナリズマ・シボンズ。

 

「ベロニク、ジョセフィーヌ、力を合わせるよ。」

 

 2連結したエックストレインの機首が鋭角的に白光、さらにボディに炎を纏って全出力が機首に接する小さな人型の異形に振り向けられる、

 

「がんばってるじゃねえか、ご褒美にこいつをやるよ!」

 

 だが微動だにしないギャングラーライモン、その金庫下腹部から無数の弾道か射出され、極至近で無数の爆破が起こる、全出力を上げているトレインが斜め上方に機首を向け、ライモン自身その業火に焼かれるものの、高笑いを上げている、

 

「分離する!」

 

 思わず奇声を上げる高尾ノエル、シルバー後部のファイヤーが分離して両機が斜角低めで上空へ逃れようとする、サイズもやや縮みつつあった、

 

「ケッ!つまんねえな、あのボスが目かけてる敵だってのに、手応え見せてみろよ!」

 

 その極微小の対手が両の爪を交互に振りかぶる、ファング衝撃波、波動的に急拡大して、高速鉄道車両を模したVSビークル2両を斬撃、

 仰け反って投げ出されるルパンエックス、姿勢を崩して落下、しかし寸前で手足を縮こませて背を丸め3回転、着地はT字ポーズを取った。

 

「すまない、ベロニク、ジョセフィーヌ、もう少し耐えてくれ。」

 

 半ば独り言のルパンエックス、初めて等身大でその敵を正面から見据えた。

 

「ステイタス、ゴールド。成長が早過ぎる、」

 

 その敵、ライモンの胸板には金色に輝く金庫が埋まっているのが見える、

 

「ボスがしきりに気にしてた蝿は。オレ様なら問答無用で始末するがな、こうやって!」

 

 先と同じように両の爪を大きく振りかぶるゴールド金庫のライモン、

 

「だ~めですぜ、旦那」

 

 その背後、渦となった無空の空間から、氷の弾丸が二発、ルパンエックスにではない、その手前、ギャングラーライモンに直撃、言葉無く氷漬けになるライモン、一瞬で砕け散り半ば見えない霞のようになって無空の渦に流れ込んでいく。

 空間の渦から、腕だけを出して影がルパンエックスを睨む。

 

「来たか」

 

 微動だにしないルパンエックス、互いににらみ合い、ある距離で全く間合いを詰めないままで棒立ちしている、

 

「今回は、アンタの勝ちだエックス。アディオス!」

 

 そして、影はそのまま深く沈むように空間に溶けていき、痕跡をまるで最初から無かったかのように消した。静寂と人間にも認知できる一切の無の空間となった。

 

「おいてめえ!どういう事ってヤツだっての!死んだフリなんかしやがって!」

 

「やあレッド君、来ていたか。」

 

「あいつを知っていたのか!俺達とあいつの因縁を知っていながら、なぜヤツを知っている事を黙っていた!」

 

「やあブルー君、最近、少し交戦したんだ。」

 

 いつのまにかルパンレッドとルパンブルーがエックスの左右に立って、VSチェンジャーを突き付けた、エックスは次から次へとコンマ数秒で軽い言葉を受け答えし、手にする銃を2つの車両に分離させた。除装され、高尾ノエルの涼しい顔が見える、眼に心ナシか力がない。

 

「ありがとうベロニク、ジョセフィーヌ。よく我慢してくれた。」

 

「エックス!聞いてんのかよ!」掴みかかるレッドだった。

 

「すまないカイリ君。もう少し君達に付き合ってもらう必要がでてきた。」

 

「オレ等ナシで全然やれんじゃんかよ!用済みなのか!オレ等遊んでたのかよ!大体なんだこの格好は、あいつら警察と色違い着やがって!」

 

「落ち着けカイリ、」

 

「トオマ騙されんな!俺達こいつにおちょくられてんだぞ!」

 

 フリーズしたブルーに目を向けたレッドのほんの一瞬を掻い潜って、

 

「警察チェンジ」

 

『パトレンエックス』

 

 金のスーツを纏って、

 

「じゃあボクは荒川一帯をレイモンドで修復しなければならないんでね。どちらでもいいから頼むよ。」

 

「「オレ達の話は」」

 

 終わっていないにも関わらず逃げようとするエックス。

 

「捜したよ2人共、イエモンが見つけてくれなかったら、うみか迷子になっちゃうとこだったよ、ねえ聞いてよ、あいつバカなんだよ」

 

 そこにワイヤーに捕まって飛び降りてくるイエローが合流してきた、全く天に恵まれたタイミングである。

 

「じゃあ頼むよ」

 

 とエックストレインサンダーを放り投げられ、反射的に受け止めるイエロー、片言で言われた事を直覚で巨大化するものと解釈し、身体がほぼリモートでVSチェンジャーに装填して銃身を2度捻った。

 

『出動ゥ!疾風迅雷!』

 

 たちまち巨大化する2つの車両、そう既にパトレンエックスは自らの車両を巨大化させ乗り込んでいる。

 

『エエエ、エックス!』

 

「てめえ!くそ覚えてろ!」

 

 朝日と言って良いのか分からない時間に差し掛かった大空に、金の機関車が弧を描いた。見送るルパンレッドは、負け惜しみのような捨て台詞を吐くしかなかった。

 

 

 

 ギャングラーによる未だかつてない規模の『荒川区総占拠事件』は、国際警察戦力部隊の身を厭わない奮闘によって鎮圧された。

 

「兄さん!こんな姿になってしまって」

 

「身体を半分持っていかれたよハハハ」

 

 ネット動画ではとりわけパトレンエックスの活躍が取り沙汰されており、高尾ノエルという単語がヒットワードに昇るのはそれほど時間がかからなかった。その高尾ノエルが、同じくヒットワードに昇った「奇蹟の絆の兄妹」の養育ロボを修理する映像が広まった時、世間は兄妹とノエルを連日称える大騒ぎとなった。

 

「子供達、よく自分を信じて最後までやり遂げてくれた。でもね、辛かった事や辛かった人を悪く思わないで欲しい。」

 

 5人の子供、男子2名、女子1名、そしてベビーカーに乗った赤子が2名、半ば損壊し首と胴が応急処置されてもげそうなロボットにまとわりついている。

 

「でもアーサー、アーサーこんな目に遭ったのに、バスの中の人達は助けてくれなかった、ボク達あの人達を許せないよ。」

 

 言った長男の右腕は弟の胴を掴んで抑え込んでいた。

 

「ガク、みんなも聞いてくれ。君達は世の中のいろいろな面をいっぺんに見過ぎてショックを受けたんだ。うん、分かるよ。でもガク、人はみんな同じように弱い心がある。君達もだ、ケンが飛び出したのもガクが自信を持てないのも同じ弱い心だ。」

 

「でも」

 

「ゆっくり勉強していこう、そして恨まず、蔑まず、他人の弱さに惑わされないように勉強していこう。世間と接していくというのがどういう事なのか、みんなで考えて行こう。」

 

 兄さん、壊れた胴と配線が繋がっただけの頭で子供達を見上げながら言っても、

 

 そんな風に見えるジムだったが、子供達は意外な程素直な反応だった。

 

「アーサー!ボク、ちゃんとアーサーを修理できるようになるよ!」

 

 長男も、

 

「ボク、あのムチャ強いお兄ちゃんみたいになって今度はアーサーをこんな目に合わさないよ!」

 

 次男も泣き叫び、長女や双子も泣き止まない。国際警察の事務用ロボットはいっしょに生活するという事は、あるいはこういう事なのかと学習する事にした。

 荒川区民、都内都外の通勤者を含む103名の行方不明者を数え、およそギャングラー犯罪上最大の被害者を産んだ事件であり、様々な人間に恐怖を植え付け、なにより都内在住の人間である限り無差別に被害対象となりうる事を世間に知らしめた大事件であった。

 

 

 

「グランデ!デリーシャス!圭一郎クン達は実に良い店をご存じだ。」

 

 朝加圭一郎は黒系の型通りウインザーノットのネクタイに前ボタンを留め、明神つかさはネクタイが首元をややはだけさせ、そして高尾ノエルに至っては半袖シャツに袖無しチョッキを着込んでいた。

 

「キサマがフランスの家庭料理を食いたいというから連れてきたが、仮にもフランス料理を食うのにそんなに騒がしくていいのか高尾、管理官。」

 

 3人がいるのは、あの『ビストロ・ジュレ』であり、先程危険なやりとりをしていた店員3人のかりそめの笑顔に応えながら、真実を知ればとても危うくて食べられない料理を口に運んでいる。いやたった1人、この全ての真実を承知しながら平気でフレンチを嗜む高尾ノエルがいた。

 

「圭一郎クン、フランスの一般家庭で黙食なんか無いね。あれは高級フレンチのマナーで、家庭料理はもっと気さくなものさ!」

 

 時に高尾ノエルもあてずっぽうでモノ言いするのではと圭一郎は思わないでもない。

 

「高尾、管理官、すまんが、私にもう一度さっきの話を聞かせてくれるか?」

 

「つかさクン、ボクはフランス本部の情報を元にさる裏オークションに潜入し、詐欺グループの摘発とそこで取引されていたコレクションの確保の任務に就いたのさ、そこでマジックを競り落とし、奪い返しに来た詐欺グループを一網打尽にし、その彼等から情報を掴んで、スプラッシュの取引現場を抑え、そして荒川総占拠事件に駆けつけたという訳さ。幸運だった。あの強力なコレクションと出会えたのは本当にラッキーだったよ。ギャングラーの幹部連中と互角に渡り合えるメドが立った。」

 

「買い取った?それはどこから捻出、いやそのそもそもつまり詐欺グループは、そもそも快盗達をええと」

 

「おまちどおサマ~アッシ・ド・ブフ・パルマンティエで~す。」

 

 ショートカットの女店員がメインディッシュを運んでくる。顔なじみである警察2人は愛想を良く礼を述べた。

 

「見た目はトレビアン、味は、んん、セボン、実にちょうどいい、これは派手な味にすればイイというものではない、そのへんをシェフは良く分かっている。」

 

 極めて多弁な高尾ノエルに店内の面識ある5人は揃って鼻白んだ。

 

「あの~、もう1人の、若い男性刑事さんは?」

 

「おそらく彼は戦力部隊から転属になるだろう。」ひょうひょうと高尾ノエルは言ってのけた。

 

「今治療して退院すれば、すぐに復帰できるさ!」朝加圭一郎は拳を握りしめた。

 

「圭一郎、悟と同じだ、悟は背骨をやったが、咲也は目だ。日常生活に支障を来す程の視力になれば、ガンナーとしてのあいつの力量は絶望的だ。」明神つかさの矛先はむしろ同僚に向いていた。

 

「え、えへへへ」

 

 愛想笑いと顔面の痙攣は傍目でさほど違わないのだが、人間社会ではその微妙な差をかなりの確率で見分ける事ができる。早見うみかの表情の変化を気にするものは、この場では奇しくもいなかった。

 

「へえ、あのノーテンキな兄ちゃんそんな大変な事なっちゃってるスネ。しっかし上手くいかないもんスネ、この間までそこの刑事さんがいなくて。いつになったら揃ってうちの店に来てくださるんです?」

 

 そこに夜野カイリが3人の水を足しにやってきた。

 

「オレの場合、捕まってたのを脱出しただけだ。カイリくん達にも心配をかけたようだな。」

 

「え?じゃああのネットで拡散してる氷漬けになって粉々になった動画フェイクなんスか?」

 

 カイリは敢えて低頭に言葉を選んでいるつもりだ。

 

「不思議なんだが、オレはこの通り生きている。そうとしか言えない。」

 

「圭一郎、捜査情報をみだりにだな!」

 

 そんな警官達にシェフである宵町トオマがタルトフランベを両手持ちのピールに載せたままテーブル中央に差し出した。

 

「直接手でお取りください。」

 

 2人共出来たてのタルトの温度に悪戦苦闘しながら小皿に盛ってとろけるチーズの伸びをかじりつきながら堪能した。

 

「メルスィ」

 

 警察管理官はというと、店員2人の顔をウソ臭い笑顔で眺めていた。

 

 

 

「カイリ、洗い場が溜まってるぞ。」

 

「それうみかにイエちゅうの」

 

「うみかはテーブル直しじゃないのか」

 

「客全部掃けたんだから、それないっしょ。オレはレジ締めてっから。」

 

「じゃあうみかはどこだ?」

 

「こっち聞きてえっテノ!」

 

 閉店間際のジュ・レは毎日が戦争である。今日とりわけ厄介なのが、ピークを越えてから洗い場が全く稼働せず、調理器具が山のように放置されて、いや半ば洗い場に転がっていた。

 

「まあいいさ、今日オレ機嫌が良いだぜトオマ。」

 

 夜野カイリの心からの笑みはデビルスマイルになりがちだ。

 

「うみかがサボタージュでカイリが率先して洗い場なんて、今日はどうかしている、本当に散々な一日だった、いや二日だった。エックスに振り回されて、結局何も得るところがない虚しい日だった。」

 

 トオマは傍目で笑顔が解り辛いムッツリである。

 

「そうでもないぜ。トオマ。」

 

 カイリはパスタ鍋をフタといっしょに食洗機にかけた。

 

「ケイちゃん、戻ってきたんだぜ。目の前で、粉々になったのにさ。」

 

 トオマはカイリに並んで、一拭いした皿と小鉢を食洗機桶に立てていたが、その手が思わず止まった。

 

「どういう事だ、あの刑事のホンモノは実は死んでいて、偽物のギャングラーが」

 

「そりゃねえって。今日1日オリャずっとあのケイちゃん観察してたんだから。間違いない、あんな人の良いバカで力づくなヤツどうやってもマネできねえって。」

 

「では粉々になった人間が、いやしかしそんな事。待て、あのエビのギャングラーが出現した時、氷に閉じ込められていた、そういう事か!」

 

「対手はコレクションでどんな不思議な事もしでかしてるギャングラーだぜ。つまりさ。オレ等、ものスゲー裏技知ったって事になんじゃね?」

 

「ザミーゴ、あいつか。」

 

「コレクション全部エックスやコグレのおっさんの言う通り集めて願い叶えたら、オレ等が失ったもん取り返せると信じてきた。でもさ、ザミーゴが兄貴達殺してなかったら、全く話は別になってくる。」

 

「そうか、そういう事か。」

 

 希望を持つ者の論理は時に飛躍する。敵を討つ事と、失った者が生存している可能性はイコールではない。ましてや敵が如何なる目的で彼等の親族知人を拉致したか全く彼等快盗は知らなかった。

 

「イケるかもだぜ。万が一の裏技。オレ等はザミーゴ倒せば、取り戻せるかもしんねえ。失ったもんを全部さ。」

 

 だが彼等は希望にすがりついて、快盗の道を選んだ者達である。快盗になった時点で何かが麻痺している人間である。

 

 

 

「うそ」

 

 マスク越しに涙が止まらない少女だった。本人に声が聞こえないように口を両掌で必死に抑えた。だが震える口元を抑える掌もまた震えているのである。

 

「誰ちゃん?なんだかカワイイ子の気配が」

 

 陽川咲也の所在を突き止めるのは、天に愛されている早見うみかにとって、まるで最初から導かれたかのように容易な事だった。ネット情報で陽川咲也の担ぎ込まれた王子駅近辺の病院はおおよそ見当がつく、病院に目星をつけると、あの苦手意識のある咲也達のヒゲの上司をたまたま見かける、近づいて耳を欹てているとたまたま部屋番号が聞こえ、早見うみかはそこに忍び込む為のアイテムを一揃えあらかじめ携行しており、そして侵入する為の窓が、夜風にカーテンを揺らしながら開いてたのもまるで必然のように早見うみかを導いていた。

 

 どうして、

 

 感情があまりに溢れすぎて自嘲だろうか半笑いするうみか、続いてマスク越しに溢れる涙が止まらなくなり、唇の震えを無理矢理手で抑えこもうとするも、その両掌もまた震えてしまっている。

 

「ねえねえ、誰かいるよね、看護師さん?」

 

 早見うみかの眼前に居る男は、ベットに横たわり、頭全身を装具によって固定、首にもコルセットが巻かれ、なにより、両の瞼が幾重にもガーゼと包帯で塞がれて、男の上ずった喜色が否が応でも悲壮感を増した。

 男、陽川咲也は半ば固定されたベットの手摺りを必死で捜したがどういう訳か手にヒットしないもどかしい動作を繰り返し、声を張り上げている。

 

「来てやったぞ、なっさけない姿だなバカ刑事。」

 

「あ、その声はボクのイエローちゃん!」

 

 手を掴んで手摺りにいざなってやるうみか、うみかの声はマスクによって誤認されるようになっているが、この咲也という男はこのズラした声を脳内で快盗の女と正確に認識していた。

 

「目が見えないのか」

 

「嬉しいなぁ快盗ちゃんが来てくれるなんて!大丈夫大丈夫、君がケガしたらボクはずっと悲しかったもの、気にしなくていいから。」

 

「おまえ本当にバカ刑事だ。」

 

 うみかは涙声になりそうなのを必死で誤魔化していた。

 陽川咲也は、目を失うという事の恐ろしさ、いままで培って努力してきた警察戦隊の一員という肩書きを全て失ってしまう事を全く想像できないのか、それともそうと心配させない為に態と明るく振る舞って、対面した相手がその事を気づかないだろうと思っているのか、どちらにしても絵に描いたような馬鹿者であると女は言い当てた。

 

 こいつを治してやらないと、治らなかったら、アタシがこの人の目になってやらないと、

 

 心の中でうみかは誓った。

 

 

 

『空洞の針』、『エイギュイユ・クルーズ』、

 

 そこには、座する頭目の横に戯れる女ギャングラーも、近衛となって警護する単眼のギャングラーもいない。

 

「ライモン、おまえに与えた“シブヤク”、そこをどう取り仕切るつもりだ?」

 

 だが1人の若い男は、座する異形を眼前にして、その全裸を隠そうともしない。

 

「オレ様の力を見せつけてやるだけでさぁ、オヤジ。」

 

 全裸の右腕が目で捉えられず消失、全裸のその右腕がいつのまにか座するギャングラーの喉元に差し込まれようとする、右腕はいつのまにか長く爪が伸びている、自らに刺し込まれようとしている爪を黙って眺めているギャングラー、

 

「ボスへの失礼は許さん」

 

 その右腕がギャングラーの数ミリ手前で制止する、制止される、それもまた豪腕だった。

 

「来たか、デストラ。」

 

 いつのまにか起立していた、あの2人のレッドと激闘を繰り広げ半ば金庫だけになったあのデストラ・マッジョが五体満足で立っていた。

 

「さすが『医者医者』のデストラ。回復力そのものが根源の力。回復する度に力を増す。」

 

 全裸ライモンの背後である、ポンチョとテンガロンハットの人間の男がいつのまにか立っていた。相変わらず軽い嘲笑をしている。

 

「もう一度やるかデストラ。」

 

 握られた腕を振り払おうとする全裸イモン。しかし意外な程強い抵抗にライモンは訝しむ。

 

「やめておけライモン。おまえはシブヤをたっぷり遊べばよかろう。」

 

 そのドグラニオの一言で、ようやくデストラはライモンの手を離す。

 

「金の金庫のライモンの旦那。ここは一つ、条件を追加しましょう。エックスが今回奪っていったゴーシュの姐さんの金庫、上手く回収した上で、シブヤのゲームクリア。ボス、いかがですか?」

 

「おもしろいな。まぁ、いいだろう、そう思うだろライモン、金の金庫ならそのくらいのハンデはあっても。」

 

 前後に挟まれたライモンは、むしろ余裕の笑みを浮かべた。

 

「いいだろうオヤジ、簡単な事だ。このオレ様にとってはな。」

 

 全裸の男は、ドグラニオに背を向けた。

 

「オヤジ、貰うぜ。その席。」

 

 そしてポンチョの男を押しのけ、自ら空けた空間の孔に向けて歩みを進めた。

 

 

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