黄色と赤の水玉模様の看板に書いてあった『ツボツボのお店』は、リーフィアの目の前にあった。
目の前にあるそのお店は、全体的に大きくて丸い切り株のような形をしていて、丸い窓がたくさん付いた不思議な形をしている。赤くて楕円形の屋根の端には、ストローのような先が曲がった形の黄色の煙突(飾りかも知れない)が付いている。
「フィア……!」
お店に辿り着いたリーフィアは、お店の丸い扉をゆっくりと頭で押して開く。それにあわせてゆっくりと開かれていく扉の向こうから、ふんわりした不思議な香りがしてくる……。
「……ツボツボ?ツボ!」
お店に入ってきたリーフィアに気付いたのだろう。お店の入り口の正面に置かれた棚の上にいるツボツボが、リーフィアに向かって前足をパタパタと振る。
「フィア~……!」
しかし、お店に入ったリーフィアは、ツボツボの様子には気付かずお店の棚を見てただただ驚いて口を開く。
「フィ……?」
ツボツボのお店の棚は、丸太を横から切ったような不思議な形!
しかも、棚から木の芽のような物が生えている。いったいなんの芽なのだろうか?
「フィアー!」
ツボツボのお店の棚にはこれでもかというほどたくさんの木の実が並んでいる!
どれも美味しそうな実だけれど、この森では見ない真っ赤でトゲトゲした木の実もある。辛そうだけどあの実は食べて大丈夫なのだろうか?
「……ツッボ!……ツッボ!」
お店の中を自分を無視して、クルクルソワソワとあちらこちらへ歩いて行くリーフィアを止めたいのだろう。棚から身を乗り出して必死で手を振り、鳴き声をあげる店員のツボツボ。(なかなか気付いてもらえない!)と一生懸命に鳴き声をあげる。
「……フィア?」
夢中で店内を歩き回っていたリーフィアは、やっと自分がツボツボに声をかけられていることに気付いたのだろう。不思議そうな顔をしたままツボツボのいる棚を見上げる。
「ツボ!」
そうして、このお店に入ってはじめてツボツボと顔を合わせる。
(ツボツボ……?)
ツボツボを見たところで、リーフィアはふとなにか大切な用事を忘れていたような気がして首をかしげる。
(そうだ!きのみじゅーす!)
きのみジュースのことを思い出したリーフィアは、持って来た木の実を2個ツボツボに渡し(きのみじゅーすと交換してください)と身振り手振りで伝える。
「リィ!」
「ツボツボ!」
リーフィアの伝えたいことが分かったのだろう。棚の上のツボツボはリーフィアから木の実を受け取ると嬉しそうな顔をして、ゴソゴソと棚に並べられたジュースを手に取り始める。
(なにしてるんだろう……?)
ツボツボは棚の上を右に行ったり左に行ったり。
右で苦そうな緑色のジュースが入った瓶を手に取ったかと思えば、左で真ん丸な瓶に入った甘そうな桃色のジュースを手に取ったり……。
「ツボ……!」
そうして(満足のいくジュースを2つ手に取り終えたのか?)と思えば、今度はツボツボの形に似た瓶に、2つのジュースを入れるとグルグルと混ぜ始める。
「リッ!?」
リーフィアが(それは美味しくないんじゃ!?)と、見ていたツボツボの行動を慌てて止めようと思ってもツボツボは高い棚の上……。
「ツボ~!」
もちろんリーフィアにツボツボの行動は止められない!
ツボツボが手に持った魔法の枝で、グルグルグルグルとジュースをかき混ぜる。その度に美味しそうだったジュース2つが混ざりあい不気味な紫の色になっていく……。
「フィア~……!?」
見ていたリーフィアは思わず鳴き声をあげるが、ツボツボはきのみジュースを作るのにとても真剣。周りを見ずに一生懸命にジュースをかき混ぜる。
「……!」
ジュースの色がオレンジ色になってきたら最後の仕上げ!
ツボツボはとっておきの木の実を棚から取り出す。その木の実をどのポケモンにも内緒の技と一緒にジュースへ入れて素早くかき混ぜる。
「ツーボ!ツーボ……!」
そうして、やっと『ツボツボのきのみジュース』が完成した!
「ツボー!」
出来上がった『きのみジュース』を高く掲げたツボツボはにっこりと笑う。きっと満足のいく出来になったのだろう。
「フィア~……?」
その様子を棚の下から見上げていたリーフィアは、ツボツボの持ち上げたジュースが見えず少し背伸びする……が、ツボツボが持ち上げているためきのみジュースは見えない。
「ツボ!ツボツボ~。」
そんな棚の下のリーフィアの様子に気付いたツボツボが、きのみジュースを甲羅の中に入れてゆっくりと棚から降りてくる。
「ツボ!」
そうして、ジュースをこぼさないようにそっとリーフィアの目の前にそっと完成したきのみジュースを置く。
「フィ~……!」
リーフィアの目の前に置かれたツボツボのきのみジュースは、オレンジの色をしている。それに、よく覗いてみるとオレンジの色のジュースの中には、ツブツブとした星の形の赤い木の実が混ざっている。
ふんわりとお日様の香りがする不思議なジュースだ。
「ツボボ……!!」
ツボツボが(さぁ、どうぞ!)とばかりに両足できのみジュースの入った入れ物をリーフィアの前に差し出してくる。
「フィッ!」
ツボツボに入れ物を差し出しされたリーフィアは、さっそくそのジュースに口を付ける。
(アマイ?)
一口ジュースを飲んだリーフィアは、口の中が急に甘くなったのを感じてジュースから口を離す。
「フィア~……!?」
とても甘い!?ジュースのオレンジ色で酸っぱい味がしそうだと思っていたのに甘い!
ジュースの予想外の味に少し驚いたリーフィアは、目をパチパチさせてジュースの色をもう一度確認する。だけど、ジュースの色は相変わらず酸っぱそうな弾けるオレンジ色だ。
「ツボ……?」
リーフィアがジュースをジッと睨んでいるのを見て、ツボツボが不思議そうに首をかしげる。
「フィッ……!」
リーフィアはもう一度きのみジュースを飲む。
さっきは見た目の色と味の違いに少し驚いたけれど、今度は驚かない。じっくりゆっくりと味わって飲む。
「……。」
オレンジ色のジュースは甘い。
「……。ツボボ……。」
だけど、赤い木の実が酸っぱい!
「…………?」
リーフィアの知らない木の実の味がする。不思議な木の実の味だ。だけどそれでも美味しい……。
「………。……ツボ!」
お日様の下でポカポカひなたぼっこしてる時の気分になる。ツボツボのきのみジュースは素敵な味だ!
「……フィア!」
……いつの間にか夢中できのみジュースを全部飲んでいたらしい。リーフィアは、空っぽになった入れ物を見てペコリとツボツボに頭を下げる。
「ツボッ!」
リーフィアの挨拶にツボツボは片足をあげて笑ってみせる。ツボツボは嬉しそうな顔だ。
「……リィー!」
(ツボツボのきのみジュースは美味しかった!)
ツボツボとお店の中を見回し満足してから、リーフィアはゆっくりとお店から出た。
「ツボツボボ~!」
トコトコとリーフィアがお店から出ていくのを、ツボツボはパタパタと手を振って見送っていた。