一月一日のおはなしになります
先日書かせていただいた「距離(https://syosetu.org/?mode=ss_detail&nid=305786)」の元作品に影響を受けている作品になります。
一月一日──。
「あ、ルフィ!」
「おー、ウタ!」
まだ時刻は六時にもなっていなかった。
玄関を出た二人は、顔を突き合わせるなり、手を挙げてお互いの名前を呼んだ。
別段、約束をしていたわけではない。
特に毎年恒例というわけでもない。
ただ単に、偶然、近所の幼馴染が、同じ時間に家から出て鉢合わせた。ただそれだけである。
お互いに「あけましておめでとう」と笑顔で新年のあいさつをする。
「今年もよろしく!」
「楽しい一年にしよう!」
なんて、普段は言わないような言葉が出てくるのは、やはり正月ならではなのだろう。
「それにしても、ルフィがこの時間に出て来るなんて珍しいじゃん」
「初日の出を見ようと思ってよ!」
珍しい、とウタは目を見開いた。
去年もルフィは正月だからと構わず寝っぱなしであり、日が昇ってからようやく、サボとエースに初詣に連行される始末だったのだ。
こう自発的に起きてくるとは、何か悪いものを食べたのではないかと心配になる。
「珍しいね。エースとサボは?」
「もう先に行っちまった」
「二人があんたを置いて行くわけ……って、そっか、あんた普段行かないから」
呆れたようにウタが言い、ルフィがしししと笑った。
「ウタも初日の出か?」
「そんなとこ」
白い息を吐きながら、ウタが言う。
「ルフィは、どこで見ようとか決まってるの?」
ウタの問いにルフィはうんにゃと首を振った。
「とりあえず山登ろうかと思ってよ! 高いとこからなら見えるだろ?」
相変わらずの無計画っぷりに、ウタは思わず苦笑を漏らす。
そんなウタの表情を見たルフィが、少しだけむっとしたように言う。
「なんだよー。ウタはどこかアテがあるのか?」
「当たり前でしょ。……ルフィも行く?」
────
ウタが連れて来てくれたのは、海岸だった。
薄っすらと白んできた空は、既に夜の色ではない。
日が出る数分前の暁の空は、東の水平線の彼方をオレンジ色に染めていた。
朝焼けだ。
さすがにいつものビーサンで来たのは、少しだけ失敗だったのかもしれない。
寒くはないが、足の裏に当たる砂粒が、やけに冷たく感じる。
「そういやこないだ──」
「うわ、ホント? それって──」
「ししし!」
「あはは!」
太陽が昇るまでの時間。
いつものように、二人はどちらからともなくくだらない話題を見つけては、意味もない会話に花を咲かせる。
おもむろに、ウタがスマホを確認してから、にやりと笑いかけて来た。
「ルフィ、あと五分くらいで日の出らしいんだけど、勝負しない?」
「今年の初勝負か! いいぞ! なんのだ?」
笑って、ウタの言葉に応える。
そう来なくっちゃ、とウタは嬉しそうに言う。
「先に初日の出の瞬間を見つけた方が勝ち!」
「よし来た!」
じゃあ行くよ、とウタが言う。
「よーい! 三、二、一!」
いつもの掛け声とともに、勝負を始める──といっても、別にじっと水平線を眺めるわけではない。
いつものようになんでもないような談笑をして、ふざけ合いながら、日の出の時間を待つ。じっとして待つだけなんて、詰まらないから。
一分が経ち、二分が経ち──、四分が経った。
「あっ」
ウタの顔が輝く。
比喩的な表現じゃない。
水平線の縁から溢れた、金色の光が、日の出を見つめるウタの顔を照らしたのだ。
海風に、彼女の髪が揺れる。
まばゆい太陽の輝きに、穏やかな目をして見惚れるウタの横顔。
それが、なんだかとても綺麗に思えて、目が離せなかった。
「きれい……」
桃色の唇が小さく動き、波音よりも小さく済んだ声を零す。
──ああ、こいつも大きくなったんだな。
なんて、らしくもないことを考えた。
「へっへー! 今年の初勝負はわたしの勝ち! ……って」
ようやく視線に気が付いたのか、子供のころから変わらない笑みで振り返ったウタが、小さく首を傾げた。
「何? わたしの顔に何か付いてる?」
怪訝そうな声に、小さく首を振った。
「いやー、ウタも大きくなったもんだなァと思ってよ」
「はァ!? あんたそれ、年上が年下に言うセリフだからね!!?」
いつものように、ウタが怒る。
なっはっは、と笑いながら、視線を明るい方へと向けてみた。
黄金色の大きな星は、すでに半分以上姿を見せていた。
揺蕩う波面に、きらきらと輝く光の帯が、こちらへ向かって伸びて来ている。
とても、とても綺麗だった。
「なァウタ」
なに、とウタが口を尖らせて言う。
……まあ、今更言うことではないのかもしれないけれど。
「今年もよろしくな!」
笑顔を向けて、ウタに言う。
きっと、ウタと一緒であれば、今年ももっといい一年になるだろう。
なんとなく、そう思った。
「…………ばァーか」
呆れたように、しかし少しだけ照れたように、ウタが再び海の向こうへと顔を向けた。
しばらく二人で、全身に太陽を浴びる。
ウタが海風に赤くなった頬を両手で張って、よしと呟く。
「じゃあルフィ、次はどうする?」
「そうだなァ、このまま初詣でも行くか?」
「いいね。……だけどあんた、お賽銭持ってるの?」
「あ、持ってねェ」
「じゃ、一回家に寄ろうか」
二人で、踵を返して歩き出す。
太陽に背を向けて。
波音を背に聞いて。
初詣でわざわざ神サマに祈るようなことなんてないけど。
だけど、今年だけは少しだけ祈っておこう。そう思った。
この一年が、みんなに──ウタにとっていい年でありますように!
お読みいただきありがとうございました。
連載作品の方の映画編も現在制作中ですのでしばらくお待ちください。
本年もよろしくお願いいたします。