さあ、我らの奇譚を始めよう 作:人入りロッカー
この物語は、本人の知らぬ場所で勝手に語られる昔ばなしである。
日本某所、丹下会傘下華鏡組事務所兼日本エビフライ協会本部での事だ。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼ 神よ‼」
実に不思議な事だが、日本各地に点在する日本エビフライ協会直営店には神棚が存在し、そこには真澄鏡のレプリカが祀られている。
さらに不思議な事を言えば、この華鏡組では黒服と着用に加え、頭部にはエビフライの被り物の装着が義務付けられている。
さらに、さらに不思議な事を言えば、この本部には奥まった部屋に祠があり、エビフライ協会本部長はけたたましい奇声を上げながら崇拝している。立派な狂信者ではあるが、組の連中からは人畜無害のツチノコと呼ばれている。なお、その所以は祠の前から動こうとせず、普段は誰もその姿を見ないからだそうな。
「本部長、今日は一段と叫んでますね」
「今朝方嬉しそうに書初めをラミネートしてたからなぁ」
事務所のソファーに座っている兄貴分と珈琲を現在進行形でドリップしている子分は、聞き慣れた奇声を聞きながら呟くように言う。
「え、見たんですか⁉」
「ああ、目一杯拡大して書初めの画像をラミネートしてたのをな。エビFlyと謹賀新年って書いてあった。飾ってるだろうなぁ」
事務所内はエビフライ頭の黒服だけである為、誰が誰かなど、すぐわかる物ではないのだが、ここでは一人だけギャグ世界のような行動をとれる人物がおり、質量をもった残像のように高速移動し始める為、それが本部長であるとすぐにわかる。
年始早々から社が燃やされ、今は大半の構成員が社の修復に駆り出されており、残った兄貴と子分は留守番だ。
「本部長って、何者なんですか?」
「んん~……さてなぁ、とりあえず華鏡よさり様を崇め奉っていること以外は分からん」
今現在Vtuberとして活動されている華鏡よさりという人物の支援団体がこの華鏡組に該当するわけなのだが、そこのトップは正体不明の狂信者だ。一日中叫んでいるようなトップなのだが、配信を見ている間は決まって無言になる。
この華鏡よさりというVtuber、デビュー3週間目にして初の飲酒配信で盛大にやらかして虹を掛けるゲロインへとなったウサギ耳が特徴的な水色の髪の付喪神であり、昨年末にチャンネル登録者数2000人を突破した今勢いのある新人Vtuberである。
なお、デビュー早々に虹を掛けてしまった為か、虹スパを掛けられる事も珍しくない。さらに言えば、黒服達がスパチャを投げすぎてしまい、お金の大切さを訴えるお気持ち表明されるなど、リスナー思いな素晴らしい付喪神なのである。
合言葉は「さあ、我らの夜を始めよう!」だ。これは「かっこいいの」として浸透している。
「それ、情報が無いのと同じですよね」
「そうなんだが、ここも訳が分からない連中の巣窟だからなぁ……何しろ、華鏡組の大本はどこぞの忍者の一派が源流らしくてな、何でも、大昔に紛失した鏡を探していた連中が母体になってるとかなんとか」
「なんで忍者の末裔がエビフライを揚げてるんですか」
「そればっかりは何とも……ああ、そう言えば戦国時代の表舞台によさり様の本体、祭ってある真澄鏡の本物が姿を見せたことがあるんだが、知ってるか?」
「それ、本当ですか?」
「そう言う言い伝えがあるんだよ」
華鏡よさりは真澄鏡の付喪神である。神社に奉納されていたが、ある時それが盗まれ、人の手を転々と渡り続けた。長い歴史があり、多くの人々の手に渡る中で、歴史に残る場面に出くわしていても不思議ではない。
淹れたての珈琲をテーブルに置くと、一体どういう風に飲んでいるのかさっぱり分からないが、エビフライの被り物越しに兄貴は珈琲を啜る。どう考えても不自然な光景なのだが、どういう訳か、この被り物は視界良好、飲食も装着したまま可能という物理法則を無視した代物なのだ。
余談だが、着用が義務付けられている黒服はガラスを突き破っても破れない生地が使われているらしく、訳の分からない予算の使い方がなされている。
「言い伝え?」
「まあ、聞いていけ。大体450年ぐらい昔、あれは1577年の晩秋の事だ。松永弾正久秀っていう戦国武将が居た。戦国時代でも有名な梟雄だな。知ってるか?」
「いいえ」
「モノを知らん奴だな。凄い人だぞぉ、東大大仏殿を焼き払ってるからな、その人」
「それぇ……我々とどっこいどっこいでは?」
その言葉に兄貴は言葉を失う。そう言えば、今日も今日とて焼かれた神社の修復に人を出している事を思えば、妙な親近感を覚えてしまう。
「いやいや、凄い人だったんだって、ホントホント、だって、一代で成り上がったエリートだから、2回ぐらい謀反してるけど。茶の湯ってか、茶道に通じててな? 当時風に言えば数寄者って言われる人だった。有名な人の名前を出しておくと、茶道の神様の千利休の師匠に茶道を教わってたらしいからな、とにかく、スゲー優秀な人だったんだよ」
「そんな人と、よさり様がどう関係してくるんですか?」
「当時はまだ真澄鏡だったんだよ、人間の形になれなかったんだよ。分かるか? 当時、経緯は不明だが、その時はその松永弾正が持ってたんだよ。1577年の信貴山城に」
信貴山城は今現在、奈良県生駒郡平群町に跡地として存在している。位置的には奈良県北西、大阪と奈良の境目近くに存在している。
「どうして場所まで?」
「言っただろう。歴史の表舞台にって。当時、松永弾正は5年ぶり2度目の謀反を起こしてなだな、信貴山城に立て籠もった。場所的には大体大阪と奈良の間ぐらいの城だな」
「……なんでオリンピックみたいな謀反頻度なんですか」
「比叡山焼き討ちした織田信長はしょっちゅう謀反起こされまくってたんだよ」
なお、1578年には荒木村重が謀反を起こし、1582年には本能寺の変が起きている事から、如何に織田信長が謀反を起こされ続けているのかがよく分かる話である。
「信長の家臣だった人なんですか」
「まぁ、そこは色々あるんだが、三好家ってとこから織田家の鞍替えした人だ。大和国、今の奈良県を収めていた人だ……話を戻すが、後生大事にされていたのかは不明だが、あの有名な平蜘蛛と一緒に信貴山城にあった訳だ。聞く限りでは天守閣に持ち込まれていたそうだから、それはもう大事にされていたんだろう」
「あれ、今さっき謀反したっていいませんでした?」
「だから、謀反を起こして信貴山城に立て籠もったんだよ。1577年の10月に。あと、平蜘蛛っていう茶釜と一緒に天守閣に持ち込まれたんだよ。んで、織田軍に包囲された。今風に言えば、そうさな、松永久秀、お前は既に包囲されている。平蜘蛛を渡せば謀反は許してやる、大人しく投降しろ! 的な感じだな」
ちなみに、この松永久秀という人物、本当に有能であった為に一度目の謀反は許されており、二度目の謀反の際にも平蜘蛛と言う茶釜を渡せば許すと言われていた。
「投降したんですか?」
「いや? 茶釜に火薬を詰めて盛大に爆死した。戦国のボンバーマンだな」
「あの、よさり様は?」
「爆発の余波で空を舞った。なんでも、フリスビーみたいに天守閣から放り出されたそうだ。あそこって確か山城だったはずだから相当長く空を舞ったんだろうなぁ……これのせいでまた長らく所在不明になったらしくてだな? 一説によればこの爆発で鏡が欠けたんじゃないかって言われているんだが、そこはまだ判明してないんだよ」
「よく割れませんでしたね」
「同感だ。穏便に事が運べば信長の手に渡り……いや、最悪本能寺の変で寺と一緒に燃えてたかもしれんな。いや、それはそれでなんか大丈夫そうだな」
事あるごとに燃える神社の事を思いながら、2人は珈琲を啜る。
さあ、我らの奇譚を始めよう。
ちなみに、松永弾正久秀が茶釜に火薬を詰めて爆死したという話はフィクションで、そういう脚色がされただけです。