さあ、我らの奇譚を始めよう 作:人入りロッカー
1577年の師走、ようやく見つけた真澄鏡を奉納した神社が炎に包まれ、また行方知れずとなった真澄鏡を探す日々へと逆戻りとなった鏡衆は日夜犯人探しに追われていた。犯人を見付け足して一族郎党八つ裂きにしてやると息巻いてはいたが、犯人の足取りは捉えられず、控えめに言っても優秀と言っていいはずの忍び達は意気消沈と言った様子だった。
「神よ、おおおおおおおおお、我が神よ‼ この失態、何と詫びればいいのか、必ずや、必ずや下賤な匹夫を探し出し、あらん限りの罰を以て悔い改めまする‼」
もはや誰も居ない神社跡地にて棟梁はただ一人、後悔の念に苛まれていた。
執着心と言うべきか、それとも強烈な信仰心と言うべきか、いずれにせよ、狂っている事には間違いないのだが、こんなマッドでさえ、この神社に火が放たれるまでの期間は心穏やかに過ごせていたのだ。
何しろ、毎日のように参拝し、庵では物静かに茶を啜り、余生を過ごしていた程だ。何事も無ければそのまま隠居生活に入るような勢いだった。
何処の世界に神社が燃えたから天候を変えて雨を降らせる怪物が居るだろうか。神か悪霊かのどちらかかと思えば、これは立派な魑魅魍魎の類なのだが、では退治しないといけないのか、と聞かれても、あの安倍晴明であっても退治できない程度には厄介な妖怪だ。と言葉が返ってくるのはまず間違いない。
「某が居りながら、何と不甲斐ない。何度詫びても、何度悔やんでも足りませぬ。これが人間のやる事かあああああああああああああああ‼」
まるで地下で作り上げたアートを台無しにされた人間の悲痛な叫びのような声を上げるが、今回限りは彼は立派な被害者だ。これから加害者になろうとしているが、それはそれだ。
真夜中に焼けた神社跡で何をやっているんだと言われれば、ただの不審者なのだが、この男の場合、見つかったら見つかったで煙幕を撒いて文字通りの意味合いで空を駆ける為、不審者を見かけたというより、妖怪が出たという都市伝説の方が広がるだろう。
「誰だ、そこに居るのは」
その時、風と気配を感じた。
誰だ、誰だ、誰だ。誰も居ないはずの神社の跡地で、棟梁は辺りを見渡す。
魑魅魍魎の類を他言している訳ではないが、そもそも最近は頭にエビフライみたいな幻影を纏っている立派な妖怪だ。そんな男が夜な夜なこんな場所で発狂していよう物なら、近寄るどころか、一目散に逃げ去る事だろう。
万が一にも、近づくような事があっても、それは彼に話しかけなければならない鏡衆だ。
しかし、その時ばかりは違った。
「……」
正体不明の気配と、頭にエビフライの幻影を纏った男、どちらが恐ろしいかと言えば、断然後者だろう。と言うより、まだ鬼火とかそういう類の妖怪の方が安心できる。何しろ、どこが正面かもわからないが、気配があった方向に首をグルっと向けたのだから。
「おお、おおおおおおおおおおお、神よ‼」
ウサギの様な耳を持つ水色の髪をした神を見たという話が後世に伝わらなかったのは諸説あるが、究極的には完全にイカレてしまっている人物が「ト〇ロいたもん」的な発言をしてしまった末に、周りがそれを信じなかったからだと思われている。
この時、この妖怪エビフライは確かにその姿を朧気ながら見えていたのだが、ウサギの耳が生えたような少女の幻影だっただけに、周囲はとうとう彼が壊れてしまったと落胆し、しばらく休暇を取ることを強く勧めたとか。
現代、華鏡組も時流に適応してテレビ会議を行う風習がある。
と言っても、組織内でテレビ会議などしようものなら、頭がエビフライの黒服が画面に並ぶだけの珍妙な光景を広げる事になる。ならばいっその事カメラなど投げ捨てて、音声だけで会議すればいいんじゃないかと言うのが誰もが思うところだろう。
しかし、音声会議にするとそれはそれでうるさいわけで……
『クハハハハハハ、チャイナ服が良いに決まっているであろう‼』
『この匹夫めが‼ メイド服の奥ゆかしさが分からぬというのか‼』
と、既に会議が始まって6時間、日暮れが早い今日この頃、既に夕日が沈みかけている。
会議は踊る、されど進まず。と言う言葉を体現したかのような会議の状況に会議出席者の黒服たちは疲労困憊と言った様子だ。しかし、全く疲れた様子を見せず、4時間以上言い合いをしているのが本部長と、支部長である。
日本エビフライ協会の上2人が何を話し合っているかと言えば、お嬢に似合う服装という議題であり、恐らく日が沈み、また昇ってくるまで終わらなさそうな議題だ。
と言うより、既に似たような議題で5回以上日を跨ぐどころか、地球が一回転している。話が一周するまでに地球が一周するとは、誰も考えすらしなかっただろう。
では、会議を長引かせている馬鹿2人の首を挿げ替えた方が良いのかと言われれば、そうではなく、何故か日本エビフライ協会の経営状況はよく、ちゃんと合法だ。ただ、エビフライの被り物をした黒服の集団がそこに詰めているだけで、エビフライ専門店の評判は良い。
そう、外聞だけは良いのだ。悪くないのだ、残念なトップが居るだけで、基本的には良い人たちばかりだし、優秀な人も多いのだ。
「兄貴、まだ会議やってるんですか?」
黒服姿にエプロンを着用した子分が差し入れのエビフライを揚げながらそう聞いてくる。
「明日の朝まではやるだろうな」
兄貴は遠い目をしているであろう感じにエビフライ頭で天を仰ぎ、そう呟く。兄貴は兄貴でタルタルソースを作っている。
余談だが、タルタルソースにピクルスを入れるかどうか、はたまたらっきょうか、たくあんか、いぶりがっこか、紅ショウガなのかと言う議論に関してはいまだに結論が出ていない。それが原因で内部抗争にまで発展しかねない所まで激化したこともあったが、一旦はピクルスを入れるタルタルソースが標準という形で落ち着いた。
そんなこともあり、兄貴が今現在作っているのは卵、マヨネーズ、玉ねぎ、ピクルスの具材に調味料を加えたタルタルソースだ。
「え、でも今日配信有りますよ?」
「じゃあ絶対終わるな、21時までには」
数秒前の発言は何だったのか、と言う次元の高速手のひら返しを見せる兄貴だが、絶対に配信がある時は配信を絶対に見に行くというのがこの組織の根幹にある。
それだけに、会議がある日は配信がある日に限る、と言うのが主流な意見だ。そう思っていない黒服が2名ほどいるが、それが誰なのかなどと、口にする人間は居ない。そりゃ、組織のトップ二人の口論だけで24時間以上消滅するから、などと口が裂けでも言えないだろう。
「上納金スパチャするんですね」
「するだろうな」
差し入れのエビフライでも食べながら本部の面々は配信を見るに違いない。このご時世では中々考えにくいが、配信が終わるまでは家に帰らず、エビフライをつついているだろう。エビフライ頭で、エビフライを食べるという共食いにも似た光景を見せながら、配信を楽しむ。傍から見れば異常この上ない光景だが、もはや見慣れた光景である。
「ギフトも投げつけるんでしょうね」
「ああ、開発課がギフト転送装置の開発に成功したからな。丁寧に梱包された黒服とこのエビフライの被り物がギフトを受け取ると同時に転送される。いい時代になったな」
「しれっと開発しますよね、テレポーテーション装置」
「妙な物開発するからなぁ、ウチの開発課。ほら、さっさとエビフライ揚げちまえ、お嬢がトラブったら追加でエビフライ揚げる事になるんだから、一旦程々にな」
本人はコメント欄をエビフライで油まみれにされているだけだと思っているのであろうが、実際にエビフライが揚がっている事など知る事はないのだろう。
さあ、我らの奇譚を始めよう。今日はきっといい夜になるはずだ。
配信ある日に投稿するかな、とか思ってたら唐突に配信枠が立ったので、書き上げました。話と現実が部分的にリンクさせるのはちょっと楽しい。