さあ、我らの奇譚を始めよう 作:人入りロッカー
「兄貴、支部長と本部長は長い付き合いだって聞きましたけど、何時からなんです?」
「分からん。俺たちは基本的にコレだからな、互いの素性なんて物は、分かる訳がない」
我らがお嬢、あるいは彼らのお嬢と言うべきか、窮境的には「推しが喉を壊して活動を休んでいる」という状況下において、いつも以上に静かな本部で子分と兄貴は喋っていた。
兄貴は自分が被っているその被り物、エビフライを親指で指さして言う。全員並んだとしても、精々身長差がある程度で、個体差があるエビフライに過ぎない。服装も一緒である為、このエビフライたちはフィーリング以外で識別など出来るはずもないのだ。
「いや、そうですけど」
「付き合いは長いと聞いているが、古株であること以外は分からん。最古参と言うか、創設メンバーらしいんだが、本部長はアレだし、支部も何処にあるのやら……ぶっちゃけ、支部とは名ばかりで海運系だし、何かエビの養殖にも手を出してるとか何とか」
華鏡よさりが一時的ではあるが活動休止している現在、日本エビフライ協会こと、華鏡組は窓ガラス突入訓練を行いはしたが、トップ二人はと言えば、一病息災を祈願して山へと向かった。山伏の格好をしたエビフライ頭の2人組が、笑いながら山中を跳躍しながら駆け巡る姿が目撃されたというニュースがちらりと流れてきたりもしたが、それは何かの見間違いだと信じたい話だ。
「なんでそんなフワフワしてるんですか」
「極端な話、俺たちは秘密結社に近い立場なんだぞ? 互いに互いの素顔すら分かってないんだ。組織の詳細何て、一体誰が全貌を把握しているのやら……」
さあ、我らの奇譚を始めよう。
さて、世界1周の偉業を成し遂げたフランシス・ドレークを知っているだろうか、海賊としても知られるかの人物は、5隻の艦隊を率いて世界一周に繰り出し、最終的には1隻の船でイングランドに戻った。これが1577年から1580年に掛けての事だ。
その道中、インドネシアのモルッカ諸島にも立ち寄っており、イギリスには大量の香辛料を持ち帰っている。
時は西暦1580年、あるいは天正8年、日ノ本。
「Now,Let us begin our night」
その男は、海を越えてやってきた。
そう、大西洋を渡り、太平洋を渡り、モルッカ諸島から北上し、そいつは現れた。
スペイン船を襲い、倭寇を蹴散らし、乗ってきた船が難破船となりながらも、その男は黄金の国ジパングに足を踏み入れた。
船を失った海賊を山賊と言うべきか、あるいは海賊と言うべきかはさておき、その男は単身で窃盗団を締め上げ、立派なお山の大将へと成りあがった。
余談だが、1580年にイギリス船が平戸、つまりは長崎県にやってきている。
さて、そんな男は夜な夜な町を駆ける。唯一無二の真澄鏡を抱え、ビームを避けながら。
「日ノ本言葉喋れ南蛮人‼」
その男は運があったから日本に辿り着く事が出来た。しかし、運がなかったからエビフライ頭の怪物に襲われることになったのだろう。
約2年間、真澄鏡を探し続けた鏡衆はついに見つけた。まさか野党の類に渡っていたとは驚かされたが、いくつかの忍び衆を壊滅させ、川や海を汚し、山で土を掘り返してきた甲斐があったという物だ。
棟梁はと言えば、最近はとうとう服装までも幻影に包まれるようになり、奇妙な動きも相まってこの戦国の時代にパントマイムをするエビフライ頭の黒服が現実の物へとすり替わってしまった。
「鏡置いてけ、それ鏡だろ、お前。鏡置いてけ、なあ‼」
摂津国、一向一揆の本拠地にて、どう見てもその連中とは関係なさそうな2人が争っていた。
史上最悪の鬼ごっこと言うべきか、あるいはエビフライごっこと言うべきか、英国からやってきた元海賊の山賊はエビフライの怪物に追われて数日、うっかり足を踏み入れてはいけない場所に迷い込んでしまったのだが、周囲はそんなことを気にする様子も無ければ、余裕もない。
そう、英国産のローストミートを作ろうと追いかけて来るのは、刀を振る度にビームを撃ち出し、山も町も焼き払ってやろうというエビフライの怪物だ。比叡山焼き討ちなど比ではないと言いたげな程に苛烈な怪物がそこにいる。だから、南蛮人が寺の敷地に迷い込んだなど知った事ではないのだ。
「フハハハハハ、所詮はセイバークラスよ、ビームを撃ててもノーコンではなぁ‼」
異邦人の英国産山賊が片言の日本語で何を言うかと思えば、数百年時代を先取りした言葉であった。
抱えている鏡を大人しく渡せば、文字通りの意味で地の果てまで追いかけられることも無いのだろうに、獲物は渡さんとばかりに走り続けているこの男も、十分に化け物だ。
石山が信長の手に渡るか渡らないかと言うこの段階で妖怪大合戦という珍事に陥っているのは、この2人がぶっちぎりでイカれているからだとしか思えない。
「この、罰当たり目があああああああ!」
町の建物の上で、飛んだり跳ねたり、切ったり避けたり、斬撃と言う名のビームを放ったり、それを避けたり、このご時世、大仏殿を焼き払ったり、山その物を焼き払ったりする人間が居ないでもないわけだが、命がけの鬼ごっこで町を焼き払おうという輩は古今東西どこを探したとしても、この2人、主に1人しかいないだろう。
これを形振り構わないというのだが、今しがた棟梁が大上段から放った一撃が石山本願寺を焼き払った直接的な原因になっている。それが後世に正しく伝わっていないのは、これを説明するだけの語彙力が無かったからに違いない。この珍事を説明しうるだけの知識が無いに決まっている、そうでなければおかしい。
「フッ、寺に火を放ったか、この怪物は‼」
「寺社が燃えるなど、何ほどの事でもないわ」
一閃、それはもう見事な横薙ぎ一閃だったと付け加えておこう。あの塚原卜伝もニッコリする様な見事な太刀筋であり、ある意味で邪心も余念も無く、清らかな心で振るわれたと言ってもいい。尤も、行き過ぎた信仰であったという事は、言い含めておかないといけないのかもしれないが。
その一閃は扇のような形のビームへと変わり、文字通りの意味合いで視界一面を火の海へと変える。
陸に上がった海賊は不敵な笑みを浮かべ、クハハハハとそれはもう豪快に笑いながら火の海となった町を駆ける。
一向一揆の本拠地である石山本願寺が三日三晩燃え続けて全焼したと言われているが、その光景を説明するに足るだけの地獄絵図がしっかりと警世されている。
なお棟梁の言い草では、まるで寺のみならず、神社も燃やす勢いなのだが、それが何を意味しているのかは分からない。そう、今はまだ、分かっていないだけだ。
「この怪物、神をも恐れぬ所業だな‼」
「神ならば、そこに居られるという事が、分からぬか‼ この匹夫めがああああ‼」
と言ってはいるが、その神様ごと焼き払う勢いで切りかかっている。
町を丸々焼き払ったこの鬼ごっこは一通り、文字通りの意味合いで、石山本願寺とその周辺を火の海に沈めるまで続いた。迷惑以上に、世紀の大事件になったが、この小競り合いの決着は意外な形で終わりを見ることになる。
この史上最悪の鬼ごっこの最中、英国産山賊がうっかり唯一無二の真澄鏡を淀川に落としてしまい、それに気づいたのが少し後だったからだ。山賊はそのまま逃亡し、棟梁は怒り狂ったまま淀川で大捜索という運びになったのだが、石山本願寺が全焼し、跡形もなくなるまでの三日三晩探し続けてもついには見つかることはなかった。
これにより、鏡衆は長い長い真澄鏡探索を続行する事となった。
実際に燃えたらしいですね、石山本願寺