ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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侵入者

週明けの昼休み。

教室の席に座り、ぼーっとクラスの様子を眺める。

 

「探したぜ、綾小路。こんなとこに居たのかよ」

 

教室のドアが勢いよく開き、1人の生徒が入室する。

 

「Dクラスの石崎くんじゃない?怖そうでちょっと苦手なんだよね」

 

「うちのクラスに何しにきたんだろ」

 

教室にいた生徒たちがざわめく。この学校で他クラスの教室に入っていくことは稀で、当然警戒される。

どの学年クラスにでも友人がいる櫛田でさえ、他クラスに用があっても入室する前には確認を取っていた。

 

そんな周りの反応は全く気にすることなく、石崎はズカズカと机の間を進み、オレの前までやってくる。

 

「今度の土曜日によ、誕生日会をやるから、お前も来いよな。綾小路が来たら絶対喜ぶぜ」

 

「誕生日会?」

 

今月誕生日で、石崎が祝うような相手……同じクラスで姐さんとまで呼んでるひよりか?

確か21日だったな。

 

「おう!アルベルトのやつ16日が誕生日なんだ。アルベルトも綾小路のこと気に入ってるから、良いサプライズになるぜ!」

 

「そっちか」

 

「そっち?あ、もしかしてひより姐さんのことか。もちろん合同開催で盛大に祝うに決まってんだろ。龍園さんの時はケーキの予約ミスったかんな。今回はすでに特注のケーキを手配してんだ」

 

誕生日のサプライズ……みーちゃんにとっての平田が、アルベルトにとってのオレか。

素直には喜べない。

だが、ひよりのお祝いはしたいな。

オレの誕生日は茶道部で盛大に祝ってくれた上に、個人的にプレゼントもくれた。

受けた恩を返すなんて仰々しいものではないが、たまには損得抜きで人らしい行動をしてみるのもいい。

 

「わかった」

 

「綾小路なら来てくれるって信じてたぜ!サプライズだから2人には秘密な!」

 

言うだけ言って用事が済むとこれまたズカズカと歩きながら退出する石崎。

 

「他クラスまで来て騒がしいやつだったな」

 

「そう言うあんたは何なわけ?」

 

「ん?」

 

むすっとした声で横から話しかけられたため、そちらを向く。

声をかけて来たのはBクラスの姫野だ。

何だかんだ話すのは初めてだが、一体何の用だろうか。

 

「そこ、私の席なんだけど?」

 

「え?ここ渡辺の席じゃなかったか?」

 

「あ、悪りぃ綾小路。新学期初めに席替えしたんだよ」

 

少し先で森山と談笑していた渡辺が補足する。

 

「ってことだから」

 

「それは悪かった」

 

「別にいいけどさ」

 

慌てて席を立ち、姫野に明け渡す。

 

「さすが委員長制度を自主的に作ったクラス。席替えも自由なんだな」

 

「席替えはプライベートポイントでできるんだよ。それと委員長関連の話だけど、今となっては黒歴史だから触れないでもらえるかな」

 

チラチラとこちらの様子を伺っていた一之瀬がやっと話しかけてきた。

ポイントで席替えができるなら、堀北の隣から解放されるな。

帰ったら平田あたりに提案してみるか。

 

「おはよう、一之瀬委員長」

 

「んー綾小路くん?んんん?」

 

「ああ、こんにちは、の時間だったな」

 

「私も怒るときは怒るよ?」

 

「怒った一之瀬か、ちょっと興味がある」

 

少しムーッとした表情で可愛く不満を主張する一之瀬。

 

「あのさ、痴話喧嘩なら他所でやって欲しいんだけど」

 

「ご、ごめんね、ユキちゃん」

 

姫野からの苦情が出たため、一之瀬に引っ張られ教室の隅に場所を移す。

 

「……痴話かぁ」

 

「一之瀬?」

 

クラスメイトから苦言を受けたにも関わらず、少し照れくさそうにしている一之瀬。

 

「あ、なんでもないの。それにしても、うちのクラスに馴染んで何してたの?」

 

「勉強だな」

 

「勉強?綾小路くんが?」

 

「Bクラスから学ぶことは多い」

 

「そうなんだ、なんだか自分のことのように嬉しい……」

 

合宿で見事な空気を演じていたBクラスの面々。

その日々の過ごし方を観察すれば、オレも波風立てない平穏な学生生活を送れるかもしれないからな。

Bクラスはそういう意味でお手本の集まりのような環境。

クラスで昼食をサッと済ませ、しれっとBクラスに入室して(元)渡辺の席に座り観察させてもらっていた。

 

「綾小路、ちょっといいか?」

 

今度は神崎が話しかけてくる。

自分のクラスで話しかけてくる男子は平田、啓誠、明人ぐらいなものなので、なかなか新鮮だ。

 

「合宿中は綾小路クラスの身体能力の高さに驚かされた。聞いた話だと日頃からクラスで鍛えているらしいが、本当なのか?」

 

「確かに体育祭の名残でクラスで集まって身体を動かしてはいるが、鍛える、という程のものではないな……人によって取り組み具合も違うしな」

 

成果は出ているがスズーズブートキャンプを続けたからと言って誰もが須藤のような身体能力を手に入れられるわけではない。

あくまでも基礎体力と士気の向上が目的。

もっとも愛里や啓誠のように自主的に追加トレーニングをしている連中は別だが。

 

「謙遜する必要はない。となると、一之瀬、最近ジムに入ったのは、そういった綾小路クラスの動きに対抗するためなんだろ?」

 

「え?あ、うん。そうだね。さすが神崎君、お見通しかー」

 

なぜか突然ジムに入った一之瀬だったが、そういうことだったのか。

 

「俺も何かしらの対策をしなくてはいけないと思っていた。一之瀬だけが動けるようになっても、綾小路クラスには対抗できない。ここはクラス全員でジムに入会するっていうのはどうだろうか」

 

「えーと、うん、いいんじゃないかな。まだ通って数日だけど、トレーナーさんも親切だし、設備も整ってるし、友だち紹介制度もあったはず」

 

「なら、早速クラスに共有しよう。今日からみんなでジム通いだ」

 

……おかしい、オレの参考にしたい学生像から逸れ始めた。

 

「だったらみんなの入会費と月謝は、例の貯金から払うよ」

 

「……いいのか?」

 

「うん、クラスのために使うものだし」

 

「いや、そっちの意味もなくはないが、綾小路の前だぞ」

 

「綾小路くんならそのぐらい気づいてるだろうし、今更だよ」

 

「……何の話だ?」

 

見当はついているが、まるで分らない風にとぼけてみる。

 

「えーと……聞かなかったことにしてもらっていいかな?」

 

「一之瀬、言いづらいんだが、綾小路の前だと警戒が緩む傾向にないか?」

 

「そそそそんなことないよ?」

 

動揺する一之瀬。ちょっと面白くなってきたな。

 

「これまで何度も助けてもらってきた件もある。気持ちはわからないでもないが、あくまでも他クラスの生徒だ。成績の伸びから見ても綾小路クラスが俺たちの敵になる日も近い」

 

「神崎君、その言い方はないんじゃないかな。確かに私が迂闊だったけど、それとこれは別の話だよ。綾小路くんは敵じゃない」

 

「それは同盟関係だからか?だとすれば、いつ破棄されてもおかしくない状況に変わってきたことを自覚してもらいたい」

 

オレ達のクラスは、同盟成立当時は相手にするまでもない成績だったが、徐々にクラスポイントを増やし、Bクラスとの差も縮まってきている。オレにその気はないが、ここぞの場面で寝首を搔かけば逆転も有り得る。

 

「そうじゃないよ。同盟がどうなっても綾小路くんは私…たちの味方なんだから」

 

「そんな都合のいい話があるわけがない。よく考えてみてくれ」

 

少し険悪な雰囲気になってしまったな。このあたりで止めておくか。

 

「神崎、Bクラスがプライベートポイントをみんなで貯めているって話ならオレも予想はしていた。あと、オレ個人はAクラスになることに興味がないんだ。生徒会仲間の一之瀬を応援してもいいと思っている」

 

2人で24億ポイントを稼ごうとしている、なんて話はできないため、抽象的な説明となる。

 

「それは本当か?」

 

「でなければこんなに自然とお前たちのクラスには居ない。敵意がない証拠だと思ってもらえれば嬉しいんだが……」

 

「確かにこれまでの綾小路の行動を考えても言っていることの辻褄は合う。だが、綾小路には何のメリットもないように思える」

 

オレのメリットか。これをどう表現すれば神崎は納得するかと考えていると――

 

「これだから神崎君は堅物って言われるんだよ」

 

「そうそう。綾小路くんが協力してくれる理由なんて一つしかないし、それだけで十分な理由じゃない」

 

「僕もその意見に賛成です」

 

「私は認めてない……けど帆波ちゃんの力になりたい綾小路くんの気持ちはわかる」

 

網倉、小橋、浜口、白波が話に加わってきた。

何か勘違いをしているような気もするが、この場がそれで収まるならわざわざ指摘する必要もないか。

 

「俺には何のことかわからないが、みんなが納得しているのであれば、俺がおかしいんだろうな……。すまなかった、綾小路。疑うような真似をして」

 

「いや、当然の反応だ。気にしなくていい」

 

むしろウェルカムな態度の他のメンバーの心配をした方がいいのではないだろうか。

 

「とんでも副会長を味方につけちゃうなんてさすが帆波ちゃんだよね」

 

「ねー。未来の会長と副会長ペアだろうし、エモすぎる」

 

「うちらのクラスもAクラスが見えてきたって感じ」

 

安藤、南方もやってくる。

気づけば教室内にいた生徒のほとんどがが聞き耳を立てていたようだ。

 

「ふぅ、いい汗かいたぜ。お、綾小路、遊びに来てたのか。もうちょい早く来てくれたら誘ったのによ」

 

昼練でもしてきたのだろうか、サッカーボールを抱えた柴田が教室に入ってきた。

 

「何の話してたんだ?」

 

「柴田は知らない方が幸せな話だ」

 

「余計気になるやつじゃん」

 

渡辺がよくわからないフォローをしたところで予鈴が鳴ったため、仕方なく自分のクラスに戻る。

結局、途中から騒がしくなってしまい観察不十分な結果に。しばらく通うしかなさそうだ。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

そんな昼休みを過ごした後、放課後は茶道部の活動があるため、みーちゃんと一緒に茶道室へと向かう。

 

「清隆くん、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな」

 

人通りが少なくなってきたところで、みーちゃんが切り出す。

 

「なんだ?」

 

「今度、ひよりちゃんクラスの一部の人たちで、山田くんとひよりちゃんの誕生日会を開くって聞いて」

 

「そうらしいな」

 

「まさかとは思うんだけど、清隆くんは参加しないよね?」

 

とても奇妙な言い回しをするみーちゃん。これではまるで――

 

「参加したら何かまずいのか?」

 

「あぁ、やっぱり……。確認して正解だったよ」

 

オレからの返答を聞きみーちゃんは「うーん」と悩み始める。

 

「何て言えばいいのかな……。個人的な意見だけど、清隆くんにはその他大勢の1人としてお祝いをして欲しくない、というか……」

 

「ん?どういうことだ」

 

「この件は伝え方が難しくって……。そう、ひよりちゃんが一番喜ぶ誕生日の祝い方を考えた時に、清隆くんが1人でお祝いしてあげるのが一番って感じ、かな」

 

「誕生日はみんなに祝ってもらう方が嬉しいんじゃないか?」

 

「清隆くん、頭良いのにこういうところはちょっとダメだと思う」

 

確かに石崎が集めた面々にお祝いされても戸惑いそうではある。

あのクラスの人間関係を正確に把握しているわけではないが、野暮ったい男どもの集団にひよりをひとり放り込むことになるかもしれない。

それならなおのこと、安心して話せる保護者枠として参加した方が良い気がするのだが……。

 

「何というかあまり慣れていないんだ。すまないが後学のために、みーちゃんの思うオレの取るべき行動を教えてくれないか」

 

この手の話は現状のオレでは考えてもわかるものではない。

参考例を聞いてみるのが一番だ。

 

「簡単なことだよ。まず、合同の誕生日会は欠席して、ひよりちゃんに21日の予定を空けておくように伝えて、一緒にどこかに行って、ケーキでも食べて、プレゼントを渡して――それだけで十分なんじゃないかな」

 

「特別なサプライズは必要ないのか?平田は?」

 

これまで誕生日=サプライズで取り組んできた身からすれば、衝撃的な話。サプライズのない誕生日祝いが成立する場合もあるのか。

 

「下手なサプライズなんかよりもずっと喜ぶと思う。それに平田くんも万能ではないから、ひよりちゃんには効かないよ」

 

「そうなのか……。しかし、ここまでひよりのために助言してくれるなんて、みーちゃんも友だち想いだな」

 

「そんな大したものじゃなくて、なんていうか……ひよりちゃんには後悔して欲しくないというか、人生には泥棒ネコがたくさんいるっていうか……」

 

お互いコミュニケーション能力に自信があるタイプではないため、要領を得ない会話となってしまう。

 

「とにかく読書仲間、茶道部仲間として盛大に祝うことにする」

 

「……うーん、50点」

 

「みー先生の採点は厳しい」

 

「これはひよりちゃんも大変だね」

 

石崎とアルベルトには申し訳ないがそういうことなら辞退するしかないな。

元々アウェイだった上に、目的のひよりのためにもならないなら気も進まない。

 

「何が大変なんですか?」

 

ひょこっと後ろからひよりが現れた。

 

「あうわ!?ひよりちゃんいつからそこに?」

 

「『うーん、50点』からですね」

 

「ええと、うん、それなら大丈夫。絶対50点以上にしてみせるね」

 

「…?テストか何かのお話でしょうか?」

 

「それより清隆くんからお話があります。私は先に茶道室に行ってます。ではっ!」

急に他人行儀になって走り去っていくみーちゃん。

 

「みーちゃん、どうしたんでしょうか?」

 

「茶道部の活動が楽しみで待ちきれなくなったんじゃないか」

 

「なるほど、そうかもしれませんね。ところで、お話とはなんでしょう?」

 

まるで準備ができていない状態で放置されてしまったな。

こんな時、気の利いたことでも言えればいいんだろうが……ないものねだりをしても仕方がないか。

 

「あー、ひより、21日は何か予定はあるか?」

 

「いえ、特別な予定は何も。いつも通り図書館や書店に行くんじゃないでしょうか」

 

「なら、そのまま空けておいてくれ。まだ詳しくは決まっていないが、どこかに行けたらと思っている」

 

「え……は、はい。わかりました」

 

ひよりが俯いてしまったので、沈黙のまま茶道室を目指す。

 

21日は木曜日。放課後の時間でできるひよりが喜びそうなことを企画する……読書以外に思いつかない。

ここは発想を変えるか、ひよりが今まで触れたことのないジャンルに挑戦して、新しい発見を提供する、という方向性ならどうだ。

 

何が良いだろうかと考えていると茶道室に到着してしまう。

 

「また近くなったら相談させてくれ」

 

「はい、待つのは得意ですので、無理はなさらないでくださいね」

 

目を合わせず、ひよりにしては早口で話して、茶道室に入っていく。

 

どうやらオレたちが最後だったようで、すでに茶柱先生まで座って待機している。

 

「先週と比べ顔色が良くなったな綾小路」

 

「ええ。ようやく切り替えられました」

 

「そうか、お前のポチに対する想いは十分伝わった。そこでチャンスをやろうと思うんだが」

 

「チャンスですか?」

 

「あぁ。私も鬼ではない。犬好きのよしみだ。学年末の筆記試験、クラスのために勉強会を開きクラス平均を上げるというのなら、ポチに会わせてやってもいい」

 

「ぜひ」

 

そんなことでポチに会えるならお安いご用だ。

しかし、テスト結果次第ではクラスポイントも獲得できるとはいえ、特別試験ではなく、そっちの対策を条件に出すとは……。

すでに茶柱先生は2年次のことを考えはじめた、ということだろうな。

少しでも学力が高いように見えた方がいい試験が、来年度の最初にでも来るのかもしれない。

 

「良い返事だ。ポチと会うのは21日の放課後、この日なら時間が作れる」

 

「嘘だろ……」

 

21日は、ひよりと約束したばかり。

先ほどの会話を傍受し、わざと日程を被せに来ているのではないかと疑いたくなる。

 

「正確には予定外の会議が設定されてしまってな。ペットシッターからポチを引き取って、散歩とエサやりを任せたいんだが」

 

「……」

 

急な変更でペットシッターの時間延長ができなかったため、オレを利用しようとしている魂胆が透けて見えるな。

 

「不満か?」

 

「いえ、そんなことはありませんよ」

 

ひよりが不安そうにこちらを見ている。結論はひとつだろう。

 

「ひより、犬は好きか?」

 

「わんちゃんですか?名犬ラッシーなどは好きですよ。あとは小さい頃はパトラッシュにも憧れました」

 

思った通りの反応。

どうやらひよりもリアルの犬には疎そうだ。

それなら21日はひよりとポチをモフモフする日に決まりだな。

 

「茶柱先生、その話、引き受けます。ひよりも同行しますが問題ないですよね」

 

「ああ。椎名がポチに乱暴を働くとも思えんし、問題ないだろう」

 

「ということだ。21日はポチデーだ、ひより」

 

「わかりました。清隆くんが楽しそうなので、私も楽しみです」

 

上手く話がまとまった。

遂にポチと会えるのか……この感じは、入学当初の高揚感を彷彿とさせるな。

あとは当日までにプレゼントとケーキを用意するだけ。

 

一応、アルベルト用のプレゼントも探しておくか。

ひよりや櫛田のように明確に喜ぶものがわからないのが難点だが……。

 

そうしてお茶を点てながら、2人に何を贈るか悩むこととなった。

 

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