ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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私が知りたいたった一つのこと

AM 5:00

私、一之瀬帆波の朝は早い。

というより、ここ最近寝つきがあまり良くなくて、朝早くに目が覚めてしまうだけなんだけど。

 

今日も妙な夢を見た気がする……。

すでに記憶は曖昧だけど、坂柳さんがドヤ顔でうちのクラスに攻め込んできて私の罪を糾弾してきたような……。

この前は、生徒会を辞めるなんていうありえない夢を見たこともあった。

夢って本当に不思議。

 

こんな風に目覚めてしまった朝は、なんとも言えない気分を払拭するために外を散歩することにしている。

クラスの事、試験の事、生徒会の事、将来の事……好きな人の事、朝の澄んだ空気を吸いながら考えることはたくさんある。

一時期は自分の罪から目を逸らすために何でもがむしゃらに取り組んでたんだと思う。

でも今は違う。こんな私でも認めてくれる人がいる、仲間がいる。

それがわかったから、今はとっても前向きに物事に向かい合うことができている。

 

 

AM 10:30

日課になってしまった散歩を終え、身支度を整えたら、今日みたいな休日はジムへ行く。

 

「あ、一之瀬ちゃんおはよう!休日の朝から偉いね」

 

「秋山さんおはようございます。今日も指導よろしくお願いします」

 

トレーナーの秋山さん。ジムには女性スタッフさんもいるので安心して取り組める。

 

すでに先客がいたようで、ベンチプレスのコーナーから話し声が聞こえてくる。

 

「ハッハッハ、葛城ボーイ、キミの限界はそんなものかい」

 

「まだまだぁぁっ!」

 

高円寺君と葛城君が仲良くバーベルを上げている。

大きな重りがついてるけど、あれ何キロあるんだろう……。

 

「葛城くん、今日はお友だちを運ぶ?必要がないらしくって、とことん筋肉を追い込むって意気込んでたよ。あの2人は、なんかもう高校生って感じじゃないね」

 

「私も負けないように頑張ります」

 

そうして着替えを済まし、持参したマイグローブを装着。

サンドバックの前に立ちファイティグポーズをとる。

 

「一之瀬ちゃんもだいぶ様になってきたね。最近は特に気迫が違うって感じがする」

 

「ちょっと色々ありまして」

 

「その顔は悩める乙女かな?一之瀬ちゃんにこんな顔をさせるなんて罪な男の子がいるねー」

 

「ホントッ!まさにっ!!その通りですっ!!!」

 

挨拶がわりに、左ジャブからの右ストレート、反動を利用して左フックのコンビネーションを叩き込む。

最近はインパクトの瞬間にサンドバックから気持ちの良い音が少しだけ出るようになってきた。

 

「フォームもいい感じだね。じゃぁまずはこの調子で20セットいってみよう!」

 

「よろしくお願いします」

 

この前、また変な噂を耳にしたので自然と拳にも力が入る。

うん、やっぱりジムに入ったのは正解だったかも。

 

サンドバッグ打ちの他にもランニングマシンやトレーニング器具などでしっかりと汗を流す。モヤモヤしたものが吹っ飛んでいくようで心地がいい。

 

トレーニングをしているうちに麻子ちゃんたちクラスメイトも続々とやってくる。

休憩中におしゃべりしたりはするけど、基本的にみんな真面目に取り組んでいて、改めてこのクラスで良かったと感じる。

みんなで頑張れば越えられない壁なんてないんじゃないかとそう思えるだけの一体感が私たちのクラスにはある。

あとはそう、リーダーの私がしっかりするだけだ。

 

 

PM 1:00

いつもならトレーニング後はみんなと食事や遊びに行ったり、最近は学年末試験が近いから勉強会をしたりするんだけど、今日は午後から予定があるから、ひと足先にジムを抜けて約束の場所へと向かう。

 

ケヤキモールを歩いていると雑貨店に陳列してある妹が大好きなパンダのキャラクターグッズが目に入ってくる。

 

私だけこんなに贅沢をしていいのかな、ってふとお母さんと妹のことを考える。

 

食い扶持が1人減った分、少しは生活が楽になってるといいんだけど……。

 

この学校に来て初めて体験することって結構あったりする。

ジム通いはもちろんのこと、友だちとの買い食いやカラオケ、カフェで過ごす時間に、コンビニ利用。

オシャレな服や小物を買って、香水つけて、ちょっと身なりに気をつけてみたりして……。

こんな形で憧れていた普通の学生生活ができるなんて思ってもみなかった。

 

だからAクラスで卒業して家族にもこんな生活をしてもらえるように頑張る、これが入学当初からの私の絶対的な目標。

 

思い返せば、この学校の入学はそんな綺麗事だけじゃなくて、再起を図るためだったり、誰も私のことを知らない場所に逃げ込むためだったり、ネガティブな部分もあったけど、おかげさまで今はそんな後ろめたい気持ちに悩まされることはなくなった。

それもこれもみんなや彼のおかげ――

 

「おはよー!綾小路くんっ」

 

「あぁ。おはよう一之瀬」

 

ケヤキモール内のとあるお店の前で待っていると、遠くからやってくる綾小路くんの姿が見えて、思わず大きな声が出てしまう。

今日はある目的があって、綾小路くんと会う約束をしていた。

 

「相変わらず早いな。待たせてしまったか」

 

「ううん、私もさっき来たとこだから」

 

30分前はさっきって言っても大丈夫だよね。

実際、綾小路くんを待ってる時間は全然苦じゃないわけで、多分何時間でも待てる気がする。

 

「それならいいんだが……じゃあ行くか」

 

「うんっ!」

 

これから2人っきりで、で、で、デート……というわけではなくて、あくまで生徒会の仕事の一環。

先日オープンしたこの店の視察にやってきた。

 

「イグちゃんっ!!」

 

入店してしばらくした後、お店の人が手渡してくれたイグアナのイグちゃんを抱きかかえる。

相変わらず愛くるしい。

今日は運営に問題がないか、そして綾隆の販売についてなどの話をするために綾小路くんと『爬虫類カフェ』にやってきた。

 

「相変わらず一之瀬に懐いてるみたいだな」

 

「綾小路くんのことも覚えてるんじゃないかな」

 

イグちゃんを綾小路くんに手渡す。抱きかかえじっとイグちゃんを見つめている。

 

「やはり子犬と違ってひんやりしてーー」

 

「子犬?」

 

「いや、イグちゃんは可愛いなー」

 

「そうだねー」

 

そう言ってイグちゃんを撫ではじめる綾小路くん。

これは何かを誤魔化そうとしているときの綾小路くんだね。

ちょっとずつだけど、無表情な綾小路くんの考えてることがわかるようになってきた……気がする。

 

「それにしても休日返上で視察なんて、さすが一之瀬だな」

 

「誘致した責任もあるし、一回は来ておかなきゃと思って。むしろ綾小路くんこそ、今日は付き合ってくれてありがとう。一人じゃ入りづらかったんだ」

 

「一之瀬には日頃世話になってるからな。ただ、一之瀬が誘えば誰でも同行してくれそうだが……」

 

「生徒会案件だしね」

 

「それもそうか」

 

綾小路くんは思慮深い人だけど、何というか世間知らずな一面というか……そう!純粋で素直なところがあるから、割と無茶苦茶な理屈でも信じてくれたりする。

 

「お待たせしました。あっ、一之瀬さん、今日も来てくれたんだ。イグちゃんたちも喜んでますよ」

 

「……一之瀬?」

 

顔なじみのスタッフさんがドリンクとイグちゃん用の餌を運んでくる。

……実はオープン当日から一番乗りで来店してるし、時間ができたときはよく顔を出している。

綾小路くんを誘う口実として初の視察、1人じゃ入りづらくて……と説明していたので、当然綾小路くんも今の言葉に疑問を持つ。

生徒会との視察としては初来店だし、初回は1人で入りづらくて麻子ちゃんや千尋ちゃんと一緒に来てたしで、嘘は言ってないんだよ、うん。

 

「いやぁ、イグちゃんは可愛いねー」

 

「そうだなー」

 

そんなやり取りを交わすとなんだか可笑しくなっちゃって思わず笑ってしまう。

 

「にゃははは……ごめんね、実は何度か来てたんだけど、綾小路くんにもぜひ来て欲しかったんだ」

 

「普通に誘ってくれても来たと思うぞ」

 

「うーん、そう言ってくれるのは嬉しいんだけど……生徒会として視察したいのも本当だしね」

 

普通に誘う勇気があればこんなことにはなってないんだけど、今の私じゃ理由をつけなきゃ無理だったんだよ、なんてことは言えない。

放課後や休日のお出かけも、昔はもっと気軽に誘えていたはずなのに、意識し出すと上手く誘えなくなってしまった。

そんな経験これまでなかったから本当に戸惑うばかり。

 

「そうだな。イグちゃんたちと戯れながらお店の様子を見てみるか」

 

「うんっ!」

 

綾小路くんとイグちゃんたちに餌をやったり、お店の人に話を聞いたり、綾隆の取り扱いの交渉をしたりして過ごす。

 

「経営も問題なさそうだ。休日限定で綾隆の販売許可も貰えたし、また一歩目標に近づいたんじゃないか」

 

「だね」

 

 

PM 3:30

2時間があっという間に過ぎてしまった。

いけない、楽しんでいたら本題を切り出し損ねている。

なんとかして綾小路くんを引き止めなきゃ。

 

「綾小路くん、まだ時間大丈夫?少し話したいことがあるんだけど……」

 

「なら、今度は普通のカフェにでも行くか」

 

「えっと、あんまり人に聞かれない場所がいいかなって」

 

「そうなると、あそこがいいか」

 

すぐさま行き先に見当をつける綾小路くん。

万が一他の人に聞かれると良くないのは本当なんだけど、この条件ならもしかしたら綾小路くんの部屋で~なんてことになるかも、と期待していた時期が私にもありました。

それにしても頑なに自室へは招待してくれないのは……もしかして、部屋が相当散らかってたりするからなのだろうか。

いくらでも片付け手伝うんだけどなぁ。

 

「ようこそお越しくださいました、綾小路様」

 

「ああ。今日は個室をお願いしたいんだが」

 

「もちろんでございます。お二人は当店で結ばれた公認カップル。最大限のサービスをさせていただきます。……その代わりと言ってはなんですが、後程、演奏の方をお願いできますでしょうか」

 

「構わない」

 

「ありがとうございます。それではお部屋にご案内いたします」

 

例のピアノのあるレストラン。

責任者の方がわざわざ出迎えて個室に案内してくれる。

演奏したり、サプライズしたり、踊ったりした結果、すっかり覚えられてしまい、2人で利用するときはいつもこんな感じに。

 

「完全にVIP待遇だよね」

 

「色々誤解もされてるけどな」

 

なんでも当店自慢の天才ピアニストがプロポーズを成功させた店、として売り出したところ、この施設で生活している大人に人気の告白スポットとなっているらしい。

他にもあの高円寺コンツェルン御曹司御用達の店という宣伝もしていて中々に強かだ。

でもそのおかげで、ここに来たら高円寺くんに遭遇してしまうと思われているのか、同学年の学生は寄り付かなくなっているので、密談をするには適した場所になっている。

 

「それで改まって話って言うのは?」

 

「うん……。あー、そうそう、24億ポイントの件なんだけど」

 

「なるほど。オレもそろそろ相談しようと思ってた」

 

生徒会に入って出来た私と綾小路くんの目標。

最初は勢いでやるぞーって感じだったけど、日が経つにつれてその難しさを痛感するばかり。

 

「綾小路くんも頑張ってくれてるけど、この数ヶ月で貯まったのって……」

 

「数百ポイントだな」

 

「……だよね。やっぱりそろそろ打って出る必要があると思うんだ。例えばだけど、南雲先輩みたいに極悪非道の悪徳領主みたいなやり方で同級生からポイントを巻き上げてても、1億ポイントもいかないよね」

 

「多くても月600万ポイントぐらいの収入だろうからな。年間7200万ポイントぐらいか。特別試験次第だが、1年で1億いくかいかないか」

 

「つまりあれだけ無茶しても限界があるってことだよね。だとしたら、特別試験の評価方法を生徒会権限で上手く変えて学年全体のクラスポイントを底上げしてみるっていうのはどうかな?」

 

「一つの手として試してみる価値はありそうだが、学校にも予算はあるからな。上手くいっても残り2年間で24億は不可能だろう。それに南雲みたいに巻き上げる仕組みがなければ効果も薄い」

 

「となると、やっぱり外部からの収入を得る方法の確立が必須だと思うんだ。そこで提案なんだけど、この前のコウィケの結果から、動画配信に挑戦してみるのはどうかな」

 

「奇遇だな。オレも同じことを考えていた。実はいくつか企画も準備してある」

 

「さすが綾小路くんだね」

 

考えが同じだったことも嬉しかったけど、企画まで構想してくれていて、綾小路くんの本気度が伝わってくるようでより嬉しくなる。

 

「そこで一之瀬にも協力してもらいたい」

 

「もちろんだよ、なんでも言って」

 

「助かる。ここ最近、人気のYou●uberやチャンネル、ジャンル、動画企画等を有識者のアドバイスをもとに研究していたんだが」

 

「うんうん」

 

「今から参入して、しかも限られた敷地内でしか活動できないオレたちが人気チャンネルを作る方法は限られている。本来は、新規参入するなら流行に乗るのが短期間で成果を出すコツらしい」

 

「知らなかったー。言われてみれば、話題の〇〇に行ってきた、みたいなのは確かに無理だね。新商品とかも取り扱いが少ないから取り寄せになって届く頃には一歩遅れそうだし」

 

「流行系ができない以上、それ以外で再生数を稼げる可能性のあるジャンルをピックアップした」

 

「すごいね、綾小路くん」

 

「まずはオレがピアノを弾こうと思う。撮影場所は雰囲気重視でこの店を借りる。今まで演奏してきたのはクラシックだったが、話題のドラマやアニメの主題歌を演奏することで流行性をカバーできる」

 

「センスが良いね!綾小路くんの腕ならきっとみんな観てくれるよ」

 

「だが、当然世の中にはもっと腕のいいピアニストがたくさんの動画を投稿している。普通にやっていたら差別化できず埋もれていくだろう。そこで、一之瀬には隣でその作品に関するコスプレをして立っててもらいたい」

 

「そうなんだー、って、え?」

 

「一之瀬には隣でその作品に関するコスプレをして立っててもらいたい」

 

「違うの、聞こえなかったわけじゃなくて……」

 

とんでもないことを言い出す綾小路くん。

私もそんな感じの動画を見かけたことはあるけど、結構セクシーな格好をしていた気がする……。それを全世界に配信することになるのだから、簡単には頷けない。

 

「効果を不安視しているのなら大丈夫だ。他の動画と比較してみても、それだけで再生数がケタ違いに伸びる。さらに現役の女子高生、そして一之瀬の魅力があれば、向かうところ敵なしだろう。本来は演奏者がコスプレするのが一番なんだろうが、オレが着飾ったところで意味がない。ただそこはカメラの正面に立ってもらい、よりコスプレの視認性を高めることで、むしろ他との違いを出せると考えている。もちろん、演奏の方も手を抜くつもりはないが、最初に動画をクリックしてもらわなければ何も始まらない。そのためには思わず再生してしまいたくなるサムネが重要だ。そういった意味でも一之瀬のコスプレは合理的と言えるな」

 

「……綾小路くん、それ誰に吹き込まれたの?」

 

「年間何千本もの動画を視聴していると自負していた外村の意見をベースにしている。もちろん、本当かどうかはオレも検証して確認しているから安心して欲しい」

 

「わかった、外村君は今度始末……お礼をしておくね」

 

男子がそういうことに興味があるにしても、その趣向を綾小路くんに押し付けるのは看過できない。

さっきも言った通り綾小路くん純粋なところがあるから、それが普通だと思っちゃったら取り返しのつかないことになってしまう。

 

「でもね、綾小路くん。いくら再生数のためとはいえ、風紀が乱れそうなことを生徒会が進んで行うのもどうかと思うんだ」

 

「そうか……内容が内容だけに無理強いをするつもりはなかった。この企画は再検討だな」

 

「うん。何でも手伝うって言ったのに、ごめんね」

 

意外にもすんなり諦めてくれたので、ホッとする。

綾小路くんにだけならまだしも、人前でコスプレをして、全世界に配信する勇気は私にはない。というより、私がそんな格好をしてもそんなに効果はないんじゃないかな。

 

「気にすることはない。それで次の企画だが、ずばり子犬の日常を撮影して投稿するのはどうかと考えている」

 

「あ!それはいいね!……念のために聞くけど、犬のコスプレをして一緒に散歩して欲しいとか言わないよね?」

 

「何を言っているんだ一之瀬?子犬がメインで、たまにその飼い主の姿がたまたま偶然意図せずにまさかまさかで映ってしまうかもしれないぐらいで特別なことをする予定はないぞ」

 

「そ、そうだよね、ごめん、ちょっと考えすぎだったよ」

 

「動物系のジャンルも安定した人気があるからな。一本はそんな企画があってもいい」

 

生徒会の仕事でも、試験でもないのに、色々考えてくれている綾小路くん。

本当に頼りになる。感心しつつも、気になることが出てきた。

 

「ところで子犬といえば、この前さ、綾小路くんが子犬を使って椎名さんにセクハラしていたって噂を聞いたんだけど……」

 

この施設内に子犬なんていないよね、と思って、悪質な噂だと信じていなかった話。

綾小路くんが子犬に心当たりがあるなら話が変わってくる。

 

「……この手の噂ってどうして事実が捻じ曲げられて広がっていくんだろうな」

 

「というと?事実とは違うの?」

 

「そうだな。確かにわけあってひよりと子犬の世話をしたことはあったが、散歩やお手をしていただけでセクハラなんてした覚えはない」

 

じーと綾小路くんの目を見る。

相変わらずの表情だけど、少し動揺しているような……これは判断が微妙なところだけど、どのみち信じるしかないからこれ以上追及はしない。

 

「そうだったんだね。噂を流した人がわかったら注意しておくよ」

 

「そうしてもらえるとありがたい」

 

でも椎名さんと2人で一緒に居たのは本当のことなんだよね……。

ってダメダメ、別に私は綾小路くんの彼女ってわけじゃないんだから、いつどこで誰と一緒に居てもそれは自由なわけで……。

頭ではわかってはいるんだけど、胸のあたりがキュッと締め付けられて、何とも言えない気持ちになる。

自分の新たな一面を発見できた、なんて楽しむ気持ちにもならない。

これは明日もジムコースだね、うん。

 

「話は逸れたが、子犬以外にもさっきの爬虫類カフェに協力してもらって、他の動物の動画もいいかもな」

 

「それはいいね。お店の宣伝にもなるだろうし」

 

「そして最後の一つは、高円寺と葛城に筋トレでもしてもらおうと思う」

 

「……それ需要あるかな?」

 

「コウィケの配信で反響が大きかったからな。家庭でできるトレーニングの仕方などを解説する動画もそれなりに人気はある。あの2人がやれば説得力もあるしな」

 

「確かにジムに通ってみてわかったけど、鍛え方の知識があるのとないのではかなり差はあるよね。ただ、高円寺くんは出演してくれるかな?」

 

「基本的に肉体美を披露することは好きなヤツだ。解説はしてくれないだろうが、そこは葛城がカバーしてくれるだろう」

 

「そう言われるとウケそうな気もする」

 

ジムでの2人の姿を思い出す。

真剣にトレーニングしたい人にも良いし、あのキャラクターならネタとして楽しむ人もいるかもしれない。

 

「出だしはこんな感じで当たった企画を広げていくイメージだな。軌道に乗れば他にも企画を募集していくつもりだ。人気チャンネルになればオリジナルグッズの販売なども視野に入って来る」

 

「夢が広がるね!」

 

「それでも24億は難しいだろうが、元手が増えれば稼ぐ手段も増える」

 

「うん!まずは何事もやってみなきゃだしね」

 

「ひとまず、学年末の筆記試験、特別試験が終わってから撮り始めて、春休み中にどんどんアップしていきたいな」

 

「了解だよ。そこまでに機材とか編集とかの知識を深めとくね」

 

「ああ」

 

 

PM 8:00

綾小路くんの演奏のお礼にとお店から食事をサービスしてもらって、すっかり遅くなってしまった。

 

「美味しかったね」

 

「だな」

 

ケヤキモールから学生寮への帰り道。

夜空を見上げると星が輝いているけど、いつか無人島でみた星空と比べたら少し寂しげだ。

こんなにチャンスがあったのに、まだ私は綾小路くんに聞きたいことを聞けていない。

 

「マフラー使ってくれてるんだね」

 

「まだまだ寒いからな。重宝している」

 

レストランから外に出たところで、クリスマスイブにプレゼントしたマフラーを巻いた綾小路くん。

 

「……」

 

「一之瀬、何か悩みでもあるのか?」

 

「ええっ!?ど、どうして?」

 

「なんとなくだが、いつもの一之瀬と違う気がして気になっていた」

 

「あー……」

 

表情や態度に出していたつもりはなかったんだけど、綾小路くんに心配をかけちゃうなんて不甲斐ない。

 

でも切り出すなら今がチャンスかも。

 

綾小路くんと目が合った。

 

思わず逸らしてしまう。

 

「えっと、悩み事というほどでもないんだけど、来週から始める相談の仕事が上手くできるかな、って」

 

「あの話か」

 

堀北先輩から引継ぎをお願いされた仕事を来週から実施する。

 

生徒の悩み相談。

 

懺悔室の様なレイアウトになった生徒会相談室で匿名生徒から相談を受ける役割。

堀北先輩に話を聞いてもらって救われた、って話を耳にしたこともあって、とても大事な仕事だ。

 

堀北先輩曰く、自分が好きで始めたことだから一代限りで後任を作る予定はなかったみたいなんだけど、この前の焼肉の一件の後、私にならと託してくれることとなった。

 

元生徒会長の仕事を引き継ぐのは、かなりの重責で私に務まるのか不安はある。

だけど、あの堀北先輩が私にならできると背中を押してくれた。

それなら少しでも迷える人のため最善を尽くしていきたい。

 

「学はできないことを任せるような人間じゃない。オレも一之瀬以上の適任者はいないと思っている」

 

「あ、ありがとぅ」

 

「困ったことがあれば力にもなる」

 

「うん……」

 

結局まだ本題に入れない。

自然にできていたことが綾小路くんを前にすると困難極まりない出来事に感じてしまう。

 

会話ですら緊張しちゃって途中『さしすせそ』に頼ってしまった。

でもそろそそ聞き出さなきゃ、逃げてばっかりの自分は卒業したんだから。

寮が遠くに見えはじめたところで、もう何度目になるかわらかないけど、覚悟を決める。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

すっかり暗くなった夜道を一之瀬と2人で歩く。

今日の一之瀬の様子は何だか妙だった……最近は目を逸らされることも増えてきた。

 

特に本人からその理由を打ち明ける様子はないため、オレも深く追及はしない。

 

一之瀬は気づいていないだろうが、仮にあらゆる手を使って24億稼げたとしても、クラス移動に使用する許可は学校から降りないだろう。イベントごとや退学救済など、学生のために使う契約のもと外部からの利益を得ることができているからな。

 

混合合宿でひよりのクラスにポイントを貸したのは、あくまで実験。

 

ひとつは、どこまでなら学校から使用許可が出るのかの検証。

 

もうひとつは、返済されたポイントの扱いについて。

チャバンクに預金されたポイントの使い道は制限されても、一度ひよりたちに渡り、その後返済されるポイントはオレのプライベートポイントとなり、結果、問題なく使用できた。

平たく言えば資金洗浄のような行為だが、この学校のルール上は問題ない――というより、前例がないため取り締まるルールが定められてないだけだが、それを上手く利用すれば、契約の穴をつけるわけだ。

 

ただ、当然ながらこの方法は返済の見込みがなければ意味がなく、24億を貸しても返せる相手など存在しない。

 

そう、だから初めからこの資金集めは――――

 

「あ、綾小路くんっ!」

 

「どうしたんだ?改まって」

 

「その、えーと、なんていうか、その、好きなスイーツ……とかある?」

 

何気ない雑談にしてはタイミング的にも突拍子もない話題。

そして返答も難しい。

 

「そうだな……これまで食べた中だと、ソフトクリームとか、ケーキはモンブランよりはショートケーキ派だな」

 

「ほ、他には?」

 

「他か……基本的には好き嫌いはある方ではないからな」

 

「えーと、じゃあ、例えば、チョコレート、ガトーショコラ、マカロン、クッキー、マフィンがあってひとつだけ選べるとしたら何が食べたい?」

 

グイグイ来る一之瀬。

何かの心理テストだろうか。

深く考えても仕方がないので、素直に答えることにする。

 

「そうだな。マカロンは食べたことがないから興味はある」

 

「マカロンだね!わかった!うん、ありがとう」

 

オレからの返答を聞き、嬉しそうに何度も頷く一之瀬。

 

「ところでこの質問は何の意味が――」

 

「今日は付き合ってくれてありがと!綾小路くんのおかげで楽しい1日を過ごせたよ。またねっ!」

 

学生寮の目の前に迫ったことで人目を気にしたのか、別れの挨拶を済ませて、寮へ駆け出す一之瀬。

 

相変わらず様子はおかしいが、元気になったようなので良しとするか。

 

オレはオレで動画の企画を詰めていかなくてはいけない。

コスプレは一之瀬に断られてしまったため、ここはやはり元グラビアアイドルの力を借りるしかないな。

どうやって説得するかを考えながら、オレも寮へと進んでいく。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

PM 11:00

「あぁぁあー」

 

枕に顔を埋め、午後からの出来事を振り返る。

 

「変な子に思われなかったかな。支離滅裂な会話だった気もするし、最後は強引すぎた気もする……」

 

何とか目的は達したものの、自分の行動を思い出すと頭から湯気が出てきそう。

 

でもでも、これで綾小路くんが欲しいものもわかったし、あとは2月14日に向けてマカロン作りをひたすら特訓するだけ。

 

「喜んでくれるかな……」

 

でも、あれ……、こういうのってどうやって渡すんだろう。下駄箱?郵便受け?ううん、勢いでバーって渡せば……最近それができなくて困ってるんだよね、私?

 

あぁ、どうやら今日もぐっすりとは眠れそうもない。

 

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