ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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99%カカオなバレンタイン 前編

今日は2月14日のバレンタインデー。

 

キリスト教圏のお祝いで、主に欧米の文化で恋人が愛を祝ったり、家族や親友が家族愛や友情を祝ったりする日のはずなのだが……なぜだか日本では『女性が男性にチョコレートを贈る日』となっている。

 

詳しく調べてみれば、チョコレートを渡して告白する本命チョコがあったり、日頃の感謝の気持ちだけを込めて渡す義理チョコがあったり、友情を確かめ合う友チョコがあったりなど目的も様々だ。

しかも、それらを見分ける手段は渡してきた本人からの自己申告しかないそうで、仮に申告がない場合、普段の関係性から相手の意図を汲み取る必要が出てくる何とも難解なイベントと言える。

 

お菓子の販促のために始められた商業的背景からできた独自文化。

渡すのはチョコレートでも何でも良いという自由さも、この国を体現しているようにも思えないこともない。

 

どうも年頃の男子にとって気が気でないイベントのようだが、フタを開けてみれば母親や姉や妹など家族からしか貰えなかった、そんな結末がお約束らしい。

この学校では一部を除いてその家族からのチョコも貰いようがないため、非常に残酷なイベントかもしれない。

 

かく言うオレ自身も、貰えるあてなどない。

 

可能性の話をすれば

友チョコなら、恵や綾小路グループの愛里や波瑠加、読書友だちのひよりから。

義理チョコなら仕事仲間の一之瀬や茶道部の面々、誰にでも配ってそうな櫛田など期待はできるか。

あるいは、麻耶なら本命チョコをくれるのかもしれないが、一度フラれた相手にそんなものをくれるとは限らない。

 

そもそもポイントが貴重なこの学校生活で、わざわざチョコなど配らないかもしれないしな。誰からも貰えなかった時はそういうことにしよう。

 

……これじゃまるで期待しているみたいだな。自分にそんな欲求があったことに少し驚く。

もう何度この感想を抱いたか不明だが、ホワイトルームでは起こり得なかったイベントであるため、それも仕方がないか。

 

そんなことを考えていると携帯が振動しチャットが届いたことを知らせる。

朝から誰かと思えば、愛里からだった。

 

『清隆くん、朝からちょっと時間あるかな?部屋にお邪魔してもいい?』

 

「問題ない」と返信する。

 

直前までバレンタインのことを考えていたため、否が応でも意識してしまう。

実際は先日出演OKを貰ったコスプレの話あたりだろう。衣装の採寸とか色々話しておきたいことはある。

 

程なくしてチャイムが鳴る。

 

「き、清隆くん。お、おは、おははよう」

 

玄関を開けるとかなり緊張した様子の愛里の姿。

 

「おはよう、愛里。朝からどうしたんだ?」

 

「えっとね、その……」

 

もじもじして続く言葉を出せないでいるようだ。

 

「まだ登校時間まで余裕はある。中でコーヒーでも飲んでいくか?」

 

「ううん、ここで大丈夫。……はい、これっ!良ければ受け取ってくれない、かな?」

 

手渡してくれたのは綺麗に包装されたハート形の箱。

本当に貰えるとは思っていなかったため、こうして渡されると感慨深いものがある。

 

「ありがとう。開けてみても?」

 

「うん」

 

受け取った後、どう対応するのが普通かわからなかったため、誕生日プレゼントをもらった時を参考にしてみたが、どうやらおかしくはないようだ。

 

開封すると、マドレーヌが出てくる。

 

「あの……篠原さんたちと一緒に作ったんだ。口に合うと嬉しいな」

 

試しに一つ、口に運ぶ。

しっとりとした食感とバターの香りが広がってくる。

 

「うん、美味いな。市販のモノにも負けないと思うぞ。ちなみにこれは――」

 

「えっと、明人くんや啓誠くんにもプレゼントしなきゃだから、また学校で!!」

 

「あ、ああ。わざわざありがとな」

 

本命なのか、義理なのか、友チョコなのか、確認しようとしたところで、顔を真っ赤にしながら立ち去っていく愛里。ただ、明人たちにも渡すのであればこれは義理チョコか友チョコなのだろう。

 

朝から思わぬ収穫を得たことで、これで今日一日虚しい気持ちにはならずに済みそうだ。

 

その後、登校の支度をして、エレベーターに乗ると、中には平田だけが乗っていた。

 

「やぁ、おはよう、綾小路くん」

 

「珍しいな、平田がこんな時間に登校なんて」

 

朝の愛里とのやりとりがあり登校時間は遅くなっている。

普段、平田は早い時間から学校にいるため、登校時間が重なることは滅多にない。

 

「えっと……色々あってね」

 

意味ありげに言葉を濁す平田。

オレのように誰かから連絡がきてチョコをもらっていたのだろうか。平田ほどの人気者であればその可能性もありそうだが、偽装とはいえ恵との交際はまだ続いている。そんな相手にチョコを渡すかは疑問だ……。

 

「でも綾小路くんも他人事じゃないかもしれないね」

 

「どういうことだ?」

 

尋ねたところでエレベーターが一階のロビーへ到着した。

 

「おはよう平田くん!こ、これバレンタインの……」

 

「平田くんに彼女がいても私の気持ち受け取って欲しくて」

 

「迷惑かもしれないけど、せめてチョコだけでも」

 

エレベーターから降りるや否や、待ち構えていたのか6名の女子生徒が平田に寄ってきて次々に箱やら紙袋やらを渡していく。恋愛ごとに疎いオレですら、それが本命だとわかるほどの熱量。

 

「ありがとう。嬉しいよ」

 

浮気とも取られかねない状況だが、いつも通り爽やかに贈り物を受け取る平田。

相手を傷つけないための配慮と誠意を感じる。

 

だが、こんな様子を恵にでも見られようものなら、修羅場になること間違いない。

いや、だからこそ登校後は恵の目があるため、渡すならこのタイミングしかなかったわけか。

 

オレもいくつかこの手の死線を潜ってきたことで、ある程度わかるようになってきたな。

 

「平田は罪作りな男だな」

 

ギャラリーが落ち着いたところで平田に声をかける。

 

「それ、綾小路くんが言っちゃうの?」

 

「どういうことだ?」

 

今日はこんなリアクションばかりだな。

 

「あの、綾小路くんっ」

 

他人事として見ていたが、こちらにも何人か女子生徒が寄ってくる。

六角を始めとしたAクラスとDクラスの女子の集まり。

まさか……そういうことなのか?

 

「これ、良ければ受け取ってください」

 

差し出されるプレゼント。

 

これが生徒会パワーか。

入学当初のままなら、あまり話したこともない女子から突然チョコをもらう、なんてイベントは発生しなかったはずだ。

ありがたく頂戴することにしよう。

そう思い、受け取ろうとした時だった。

 

ピピーッと笛の音がロビーに鳴り響く。

 

何事だろうかと、その場にいた全員が音のする方ーー入り口を向く。

 

「そこのあなたたち、綾小路王子への贈り物はファンクラブ経由でまとめてお渡しするルールをお忘れですか?」

 

少し怒気を含んだ声で忠告するのは、諸藤。首から笛を下げ、手には竹刀が装備されている。

 

「なんだ、そのルール?」

 

「王子、おはようございます!今日のバレンタイン、王子は人気者間違いなしですからね、一人一人対応していたら大変だと思い、こちらで預かって放課後お届けするルールを決めておいたんです。女子には事前に周知していたにもかかわらず、やっぱり不届者が現れました」

 

それはつまり

 

『綾小路くんへチョコレートを贈る予定の人はファンクラブまで持参ください』

 

みたいな連絡が全女子生徒に届いたってことか?

オレ、かなり痛いやつみたいになってないか?

そんなこと他に言いそうなのって南雲ぐらいだぞ?

 

今日はもう学校休むか……。

 

「何よ、諸藤さん。自分だけ綾小路くんの役に立つアピールしちゃってさ。誰だってちゃんと自分の手で渡したいって思うじゃん。それのどこがイケナイの!?勝手に決めないでよ」

 

「浅ましいっ!ファンクラブで採決して決めたことです。あなたのその身勝手な行為が王子の迷惑になることを自覚なさっては?」

 

「はぁ?」

 

「今この瞬間、平田王子と2人で清いバレンタインを過ごしているにも関わらず、あなたたちと言ったらなんて愚かなことを」

 

「バカ言わないで!綾小路くんも平田くんもノンケよっ!!」

 

「理解していないのはあなたたちの方でしょう。これ以上は無粋と知りなさい」

 

バシッと竹刀を地面に振り下ろす諸藤。

 

「お、覚えてなさいよっ!」

 

鬼気迫る諸藤のプレッシャーに気圧され立ち去っていく六角達。

恵に突き飛ばされてオドオドしていた諸藤はどこに行ってしまったんだ……。

 

「ということで私は通学路をパトロールしてきますね。安全は確保しておきますので、安心してお二人でゆっくりご登校ください」

 

先ほどまでとは打って変わって、それはそれは素敵な笑顔でオレ達を見つめ、宣言通り外へと出ていく諸藤。

 

「あはは……綾小路くんは綾小路くんで大変そうだね」

 

「オレの知らないところで色々問題が起きてそうで怖いな」

 

ただ、仮にファンクラブ会員の女性全てから直接手渡しされた場合、最初の数回はちょっとした男女のイベントとしてオレも楽しめそうだが、その後、数十回繰り返されるとなると面倒に感じてしまいそうだな。

そういう意味では、やり方はともかく諸藤の行動は有難いことには違いない。

いずれにせよ、もう後の祭りだ、前向きに切り替えよう……。

 

「とりあえず僕はこれを部屋に置いてくるよ」

 

腕一杯に贈り物を抱えた平田がエレベーターへ向かうと丁度降りてきたようでドアが開く。

 

「あっ……」

 

エレベーターから降りてきた人物を見て平田が固まる。

間の悪いことに、彼女さん(偽)が登場したからだ。

 

「こ、これは違うんだ、軽井沢さん」

 

何も悪いことをしていないはずの平田が弁明をはじめる。

オレは逃げ出す準備をはじめた。

 

「んー?別に良いんじゃない。ていうか、私のせいで平田くんに不自由させちゃってごめんって感じだし」

 

「……軽井沢さん」

 

恵の意外すぎる反応に、感動する平田。

これは逃げ出さなくていいパターンか?そっと気配を戻す。

 

「いまから置きに戻るの?だったらこれ、私から」

 

「わぁ、わざわざありがとう」

 

平田の腕の中のプレゼント群に小さな箱を乗せる恵。

 

「あと清隆にもあるわよ、ほら」

 

「くれるのか?」

 

平田と同じものかと思ったが、こっちの方が二回りぐらい大きい気もする。

 

「言っとくけど、義理オブ義理のギリギリチョコだから。勘違いしないでよね!」

 

「どれだけ義理を重んじているんだ」

 

「べ、別にあんな痛いメール送っといて0個だったらあまりに惨めだと思っただけだし、あたしからの救済処置ってやつよ」

 

「……気遣い痛み入る」

 

「お礼は1000倍でよろしくー」

 

渡すだけ渡して満足したのか、恵は上機嫌でロビーから出ていく。

 

「僕の彼氏役ももうすぐ終わりかもしれないね」

 

「確かに今日みたいな日が続いたら命がいくつあっても足りなさそうだしな」

 

「ん?あぁ、そっちは自分で選んだことだからね、このぐらい何ともないよ」

 

さっきのを苦ともしないのか、流石平田だ。

学校を休もうかと考えていたオレと比べて、なんて強靭なメンタル。

 

「なら、どうして彼氏役が終わるんだ?」

 

「あー……そろそろ急がないと遅刻しちゃいそうだね。僕も早く部屋に戻らなくちゃ」

 

平田は足早にエレベーターに乗り込んでいった。

理由はともかく、彼氏役が終われば、みーちゃんをはじめ、先ほどプレゼントを渡していたような平田ファンの女子たちは大喜びだろうな。

 

恵から貰ったプレゼントをカバンに入れ、オレも学校に向かうことにした。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

念のためスムーズにチョコを受け取るシミュレーションをしておいたのだが、学校に着いてからは平穏なもので、諸藤の影響なのか、オレにチョコを渡そうとしてくる女子は現れなかった。

 

何なら女子から避けられている気がするのだが、考えすぎだと信じたい。

 

だが、そんな空気に良くも悪くも関心がなく、我が道を進むヤツはいる。

 

「綾小路くん、コレ」

 

放課後になるや否や、隣の堀北からチョコを渡される。

 

「悪いがオレへのチョコはファンクラブを通して渡してもらおうか」

 

堀北からの贈り物は受け取らないことにしている。

受け取ったが最後、代わりに何かを要求してくるのがこの女のやり口だからな。

焼肉以来ずっと沈んだ顔をしていたが、今日は久しぶりに目に光が宿っている。

コイツなりに何か答えを出したのだろうが、それがこれからオレを巻き込んで何か企んでいる何よりの証拠と言える。

 

「何ふざけたことを言っているのかしら。そもそもあなたにチョコをあげるわけないでしょ」

 

「今まさに渡されたこれは?」

 

「私の代わりに兄さんに渡して来てちょうだい」

 

あー、そういうパターンもあるのか。

確かに堀北が普通に持って行ったところで学は受け取りそうにないな。

 

「別に渡すのは構わないがーー」

 

「何か言いたそうな顔をしてるわね」

 

「渡すのはこの普通のやつでいいのか?てっきり等身大鈴音チョコぐらい贈るんだと思っていたんだが……」

 

「馬鹿ね、綾小路くん」

 

「そうだよな、いくら堀北もそこまでーー」

 

「それは実施済みよ。中1の時に贈ったのだけど、兄さんから散々怒られたから、今回は見送ることにしたの」

 

そうか、すでに渡したことあったのか。中3の学はそれをどうしたんだろうな。

 

「……念のために確認するが、変なものは入ってないよな?」

 

「変なもの?」

 

「この場合は惚れ薬や髪の毛といった類のものを指す」

 

「馬鹿ね、綾小路くん。兄さんの体に害を及ぼすものを入れるわけないじゃない」

 

「だよな」

 

「ただほんの少し、すっぽんやらマムシやらの粉末を隠し味で入れただけよ。愛のスパイスというやつね」

 

コイツのブラコンはいつもオレの想像を越えてくるな……。

 

「……責任が持てなくなった。自分で渡してくれ」

 

というより、堀北自身が渡さなくては、もしその場で学が食べてしまったら、その後餌食になるのはオレになるかもしれないだろ。

 

「私が持っていっても受け取ってもらえると思うの?」

 

「だとしてもだ、やはりこういうものは自分で渡すべきだ」

 

「ファンクラブ経由で受け取ろうとしている人に言われたくないわ」

 

「止めてくれ堀北、その口述はオレに効く」

 

的確にこちらの急所を抉り返す堀北。

バレンタインはもっと甘いイベントなのかと思っていたら、とんでもなかった。

 

「……本当に辛そうね、ごめんなさい。綾小路くんも必死だっただけなのよね」

 

「謝罪するか貶すかのどっちかにしてもらえるか?」

 

「あそこまでしてチョコが欲しかった綾小路くんに、代わりに渡せというのは酷だったわね。わかったわ、自分で渡すことにする」

 

「それでこそ堀北だ」

 

見事な蔑みにこちらも賞賛を贈ることしかできないな。

 

「ただ、私が普通に持って行っても拒否されるのは目に見えてるわ。せめて渡すアシストをお願いできないかしら」

 

「案外、髪をバッサリ切って気持ちを一新しましたって言えば受け入れてくれるかもしれないぞ」

 

「男子が坊主にするのとは訳が違うのよ。それに兄さんはね、ロングヘアーの女性が好みなの」

 

「それは2年前までの情報だろ。今はセミロングのお団子頭がブームなんじゃないか?」

 

「……一理あるわね。これからカットしに行って間に合うかしら」

 

そう言って美容室の空き状況を確認しはじめる。この隙に逃げるとするか。

 

「お願い綾小路くん。どうしてもこれを渡して、兄さんに想いを伝えたいの」

 

こちらの動きを察した堀北がコンパス片手に脅迫、もとい懇願する。

堀北兄妹の関係修復。オレが知らないだけの可能性もあるが、オレには兄弟はいない。

身近で兄妹関係であるのもこの2人だけ。

つまり、兄妹としての在り方を学べるのはこの機会以外にはもうないかもしれない。

今のところ、異常なブラコン、シスコン具合しか観察できていないのは勿体ないかもな。

 

それにこの場で堀北との会話を続けるのは得策ではない。

案の定、堀北と話している様子を少し離れたところから櫛田が観察している。

 

目が合うと『う・ら・ぎ・り?』とでも言いたそうな目をした表面上はとても可愛いスマイルが飛んでくる。

 

『ノンノン た・い・が・く』と気持ちを込めて見つめ返す。

 

伝わったかどうかは不明だが、目を逸らされたので納得してくれたということにする。

こちらとしては堀北のブラコンに巻き込まれているだけなので、完全にとばっちりなのだが、これ以上の会話は、櫛田から毒入りのチョコを渡されるリスクを覚悟しなくてはならないだろう。

 

「わかった。付き添いぐらいはする」

 

「それでこそ綾小路くんね」

 

結局面倒ごとに巻き込まれるわけだが、何となく、このままのぎこちない兄妹関係のまま学には卒業して欲しくなかった。

 

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