土曜日。
クラス内投票実施日がやってくる。
枕がなくなったため寝つきが良くなかったこともあり、早めに目が覚める。
とは言っても投票前に坂柳との勝負の続き――相手が誰を狙っているかの予想が控えているため、前向きに捉えるならちょうど良かった。
そうして、いつもより早めに登校し職員室に寄って茶柱先生に預けておいた箱――ターゲットを記した紙の入った箱を受け取る。
「こんな日でもお前はいつも通りだな、綾小路」
「特別試験と言っても投票するだけですし、今更どうこうしても変わるものではありませんから」
「頼もしいと思う反面、教師としてはもっと学生らしい葛藤を期待したいところでもある」
「これでも日々葛藤だらけですよ」
「なるほど、この一年で冗談の精度が上がったことは確かなようだ」
担任から何とも言えない評価をもらう。
それなりに充実し、変化を続けてきたつもりだったが、外野から見れば微々たるものなのかもしれない。
そんなことを考えながら特別棟へと移動する。
「おはようございます、綾小路くん。とても素敵な朝ですね」
「……葛城はいないんだな」
普段なら踊り場あたりに待機している葛城の姿が見当たらない。
「ふふ、最初に気にかけるのは葛城君のことですか。少し妬いてしまいそうです。彼はそうですね、ちょっと車検に出している、といったところでしょうか」
「……なるほど」
単純に考えれば、葛城はこの場に連れて来れる状態ではなかったということ。
肉体はあの通り頑丈そのものであるため、原因は精神面か……。
そうなると、タイミング的に特別試験と結びつけたくなる。移動手段として重宝されている葛城を退学にするとは考えづらいため、葛城にとって親しい相手が今回の坂柳のターゲットになってしまったという図式が浮ぶ。
だが、それはこちらがそう考えると裏を読んだ坂柳の罠の可能性もある。
つまり葛城をこの場に連れて来ないことで、直前までこちらを揺さぶる戦略を取ってきたようだ。
攻撃的な姿勢とも取れるが、どちらかと言えばこの場に葛城が平然と立っていた方がこのあとの選択に戸惑いが生まれたかもしれない。
実際は戦略云々以前の問題で、坂柳は葛城を連れて来たくとも連れて来れなかったと予想している。葛城の表情からオレが情報を読み取るリスクをなくすことができなかったのが本音だろう。
でなければ、わざわざ徒歩でここまでやってくるとは思えないし、坂柳なら葛城を連れてくることでオレへのブラフとする戦略の方を好む、と分析している。
それなら坂柳がターゲットとして記入した生徒は――。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
特別棟から職員室へ再び箱を預けたのち、教室に入る。
時刻は8時30分を過ぎたところ。クラス内投票は9時丁度から実施されるため、何か行動を起こすなら最後のチャンスだろう。
意外だったのは平田が沈黙していること。
表情は暗く、自分の席でじっと目を閉じている。
流石の山内も今日は余裕がないようで、先ほどから誰も寄せつけず、貧乏ゆすりを繰り返していた。
「あなたは余裕でいいわね、綾小路くん」
「生徒会だからな」
「そうね、あなたは兄さんのおこぼれにあずかって賞賛を受けているものね……」
いつもの軽口のはずだが、どことなく力もキレもない堀北。
「……訂正させてもらうわ。この試験で綾小路くんが退学する恐れがないのは、これまでのあなたの実績の結果。それは平田くんや櫛田さんにも言える……私が反省すべき点だわ」
「やけにしおらしいな。変なものでも食べたのか?例えば自作のチョコとか」
「心身ともに極めて良好よ。でも……私に万が一のことがあったら、クラスのことは任せるわ」
昨日は強気に出ていたものの、堀北自身、退学の可能性を拭いきれていない様子。
それにしても堀北退学の仕掛け人にあとのことを頼む妙なマッチポンプとなってしまった。
「兄貴と過ごせるようになるから嬉しいんじゃなかったか」
「少し前までならそうだったでしょうね。でも、今は兄さんの側にいることだけが全てじゃない、そう思えるようになったの」
誕生日プレゼントとしてもらった髪留めに手を添えながら、すっきりとした表情を見せる。
入学当初の他者を受け入れない刺々しさは薄れ、柔らかさすら感じさせる。
「みんな、ごめんね。投票前に聞いてほしい音声があるの。これを聞けば、どうするか迷ってる人も考えが固まると思うから」
ここ数日と比べ静かな教室。
このまま何事もなく投票時間を迎えるかと思われた頃、櫛田がそう言って携帯を操作し、音声を流しはじめた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
さて綾小路くんとの勝負結果は待ち遠しいですが、その前にクラスの話を進めなくてはいけません。
「坂柳……」
「葛城くんはまだそんな顔をなさっているのですか」
クラスの前で、私を待っていた様子の葛城くんが近寄ってきます。
「みなさんに発表する前に私の考えを見抜いたことは流石マイカーだと賞賛いたしますが、そんな調子では肝心な時に足元を掬われてしまいますよ?」
「わかっている、わかっているんだが、アイツにもチャンスを与えてやれないか」
「投票開始まで残り30分。これからクラスの皆さんに批判票の投票先を指示します。ただ、強制もしませんし、賞賛票については自由にしていただく予定です。説明後は、残り時間でみなさんに何を言っていただいても構いません」
「……感謝する」
「ふふ、仮に葛城くんの努力が実を結んでしまったら、綾小路くんとの勝負に負けてしまいますね」
ちょっとからかっただけのつもりでしたが、困った顔をする葛城くん。本当に良くも悪くも真面目ですね。
ただ、そんな事態になったのなら私の読みがその程度だったということですし、その程度の人間では彼を葬り去るなんて夢のまた夢。
「みなさん、お待たせしました。批判票の投票先ですが、私の考えに賛同なさってくださる方は戸塚弥彦くんに投票をお願いします。残り2票と賞賛票の相手はご自由にどうぞ」
クラスの皆さんは静かに私の話を聞いてくださいました。
ですが、もちろん、1人だけ例外はいます。
「な、納得できない。なんで俺なんだ、坂柳」
戸塚くんがわなわなと震えながら立ち上がります。
「そんなに難しい話ではありません。戸塚くんの実力がAクラスに遠く及ばないことは、これまでの試験で皆さんも把握なさっていますね。それだけなら情状酌量の余地もあったかもしれません」
「なら――」
「ですが、南雲生徒会長にクラスや学年の情報を渡す裏切り行為を許すわけにはいきません」
「なっ……。だとしても、直接クラスの不利益になることをしたつもりはない。俺だってその程度は弁えていたんだ」
「あなたに情報の精査が出来たとは思えません。あの手の輩は言葉巧みに誘導し情報を抜き取るものです」
実際どのぐらい戸塚くんがあの男と関わっていたかはわかりませんが、リアルケイドロで味わわされた屈辱だけで十分退学に値します。
「これ以上の言葉は不要でしょう。それではみなさんよろしくお願いいたしますね」
何か言いたそうな戸塚くんを放置して席に着きます。
これから消えるモノの言葉ほど聞くだけ無駄なものもございません。
「みんな、坂柳はああ言っていたが、少しだけ俺の話も聞いて欲しい。弥彦は確かに成績が振るわないこともある。だが、この学校で大事なことはそれだけじゃないはずだ。そもそも裏切るきっかけになったのも――」
葛城くんの力説が始まります。
お涙頂戴とでも言えばいいのでしょうか。必死になって戸塚くんの良い所や彼を残すメリットを語りかける葛城くん。
これが、たとえばBクラスのようなクラスであれば効果もあったかもしれません。
ですが、このクラスには感情論で簡単に流されるほど甘い覚悟の生徒はおりません。
マイカーから流れる演説を聞き流しながら、投票時間を待つことにいたしましょう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「じゃぁ、みんなで神崎くんに批判票を集めて、そのあと2000万ポイントで退学を取り消すね」
綾小路くんから不足分のポイントを融資してもらえたことを伝え、クラスの方針を固める。
批判票の集中先は神崎君が名乗り出てくれた。
「本当に良かったのかよ、神崎。別に誰が退学になっても救済すんだから、票を集めなくてもいいんじゃないか」
「柴田、それだと試験が終わったあとに退学に選ばれた生徒が傷つくことになるかもしれないし、本当に救ってもらえるか不安になるヤツもいるかもしれない。それを防ぐために投票先のコントロールは必要不可欠だ」
「あー、なるほど?ま、とりあえず終わったらみんなで打ち上げいこうぜ。もちろん、恩人の綾小路も誘ってさ」
「それもそうだな。綾小路に感謝の場を設けるのは同意見だ」
ポイントを借りた日以来、綾小路くんとゆっくり話す機会はなかったから、私としても誘う口実ができるのは有難い。
坂柳さんとのことも気になるし……。
「そうだね、綾小路くんも誘って、みんなでお礼をしよう!」
理不尽な試験前とは思えない程、クラスが湧き上がる。
これで良かったんだ。改めて自分の判断を肯定する。
ただ……他クラスからでてしまう退学者のことを考えると胸が痛くなる。
どうすることもできないとは言え、自分の無力さに悔しさが募る。
今はただクラスメイトを守れたこと、その事実を喜ぼう。
拭いきれない小さな不安から目を逸らし、安堵するクラスメイト達を見つめる。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
受け入れた風で諦め開き直った顔をしているリカ。
本当は今にも泣き出したいくせに……いつからかリカはリカらしくなくなってしまった。
私はどうしても許せなかったから、高校に入って、まさかの同じクラスで、ついお節介をしてしまっていたのだけれど、夏を境にリカは変わった……正確には元に戻った。
あの頃の眩しかったリカがやっと帰ってきたような気がして嬉しかったのに、また逆戻り……どうして世の中はこんなにもうまく行かないことだらけなのか。
今日までできるだけのことはしてきたつもりだけど、山内ってやつを含め、どれだけ当てになるかわからない。
だからといって突然私が声を上げたところで誰も見向きもしないだろう。
何か、何かリカを救うチャンスを……。
そう神頼みにするぐらい焦燥しはじめた時だった。
1人の生徒がゆっくりと教壇に移動したかと思うと、決して大きくない、だけど不思議とクラス全体に届く声で話し始める。
「皆さん恐れ入ります。元々この試験は各々の考えにお任せする予定で静観していましたが、このままで本当によろしいのですか?」
「どういうことだよ、ひより姐さん」
「いえ、何か皆さんに伝えたいことがある方がいらっしゃったら、その場を設けることぐらいのお手伝いはしようかと」
どういうわけかこちらを見ながらそんなことを話す椎名。
学力面からリーダーになったのかと思ってたけど、なんだかんだクラスの事をみていることがわかった。
「だったらさ、私、言いたいことがあるんだけど」
この機会を逃したら、リカが退学になる。
それを黙ってみていられるほど、私は大人にはなれなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「伊吹、あんたってさ、男の趣味悪いよね」
「はぁ?」
「おまけに語彙力もないから『はぁ?』しか言えない脳筋ペタンコアホ毛女」
急に立ち上がった志保ちゃんが唐突にクラスメイトを貶しはじめる。
昔っから口は悪かったけど、根は優しい彼女が、こんなことをする意味……。
「他の女子もさ、たかがバレンタインぐらいで逆恨みとか馬鹿ばっか。ホントに好きならどんな方法でも渡すことは出来たんじゃない?その程度の想いのくせして人のせいするとかマジないわー」
「し、志保。その辺にしときなって」
「あんたたちは黙っててよ」
止めようとした山下さんや藪さんの手を跳ねのける。
「へらへらしてる男どももきもいんだよね。女子への点数稼ぎのつもりかもしんないけど、下心が見え見えすぎて吐き気がする」
どんどんクラスの空気が悪くなっていく。
「志保ちゃん!もういい、やめて!!」
「何よリカ。陰キャ眼鏡のアンタには関係ないでしょ」
「関係なくない!こんなの、こんなのおかしい」
「私は思ってることを言ってるだけだし。第一このクラスは馬鹿しかいなくて嫌気がさしてたんだよね。いつも卑怯な手ばっかでさ、ロクな策もなくて暴力暴力、勘弁してよね」
私の言葉を聞いてくれないだけじゃなくて、あろうことか龍園くんを見ながらしゃべる志保ちゃん。
「クク、真鍋。お前よほど退学してーみてえだな」
そんな志保ちゃんの態度を面白そうに笑う龍園くん。
「退学?したいわけないでしょ。でもね、私はもう自分の気持ちに見て見ぬ振りはしない、言いたいことは言わせてもらうから」
「その覚悟は評価してやるよ。だが、挑発にしては安っぽすぎたな」
そう話す龍園くんはもう笑っていなかった。
「お前も馬鹿の内の1人ってことには違いないってことだ。馬鹿は馬鹿らしく言いたいことをはっきり言ったらどうだ?」
「……」
龍園くんの問いかけに唇を噛みしめる志保ちゃん。
「聞いてるコイツらも馬鹿なんだ。このままじゃ、何も変わんねえ。ま、別に俺はどっちが退学になろうが構わないんだぜ」
「――がくにして」
「あ"?」
「代わりに私を退学にしてって言ってんの!」
志保ちゃんは、そう叫びを上げた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
私とリカは小さい頃からの知り合い、いわゆる幼馴染ってやつだったりする。
別に隠してたわけじゃないけど、特に言う機会もなかったから高校でこのことを知っている生徒は多分いない。
小さい頃の私は、何というか――人に馴染むのが苦手だった。
口が悪いだけでなく、思ったことをすぐ口にするタイプ。
だから当然と言っちゃ当然なんだけど、友達もいなくって……。
でも、他のヤツにお世辞を言って媚びを売ったりするのは自分に嘘をつくようで許せなかった。
そんなだったから、小学生の時、クラスメイトの筆箱がなくなったときに、一番に疑われたのは私だった。
無実を訴えても信じてもらえない中で、唯一味方をしてくれたのがリカ。
当時のリカは明るくて活発でクラスのみんなと仲が良かった。
そんなリカが眩しすぎて私は好きになれなかったし、味方してくれるのも良い子ちゃんアピールだと思っていた。
『私ね、志保ちゃんはカッコいいと思ってるんだ。そんなカッコいい人が悪いことするわけないもん』
聞いてもないのに教えてくれた理由はあまりに根拠がなさ過ぎて、子供ながらに呆れてしまったことを覚えている。
……それと同じくらい嬉しかったことも。
クラスメイト達の非難や疑いの声にも負けず、最後まで信じてくれたリカ。
結局、筆箱は他の子が持っていたことをリカが突き止めて事件は解決。
この子は自分が信じたものを最後まで貫き通せる人なんだと憧れた。
このことをきっかけにリカは何かと私に構ってくるようになって、面倒だとは思いながらも満更じゃなくなっていった。
「一時的な感情でリカを退学にするのは間違ってる。リカって成績以上にすごい力を持ってるんだから」
「ハッ、そんなすごさ感じたこたあねえな」
龍園が笑いながら否定してくるが気にならない。
私が誰よりもリカのすごさを知っている。
「まず、生徒会副会長の綾小路くんと特別なコネクションを持ってるじゃない。これからの試験、上位クラスを倒すのであれば、下位のクラスで協力できる場面もあるはずよね。そんな時、クラス・学校でも権力を持っている生徒と仲が良いのは確実に役に立つでしょ」
「クク、それぐらいならひよりでも十分だろうよ」
「確かに椎名も綾小路くんと仲良しなことは否定しない。けど、ファンクラブを率いているのはリカ。上級生含めてあれだけの人数に顔が利く生徒はこのクラスにいる?一之瀬や櫛田のような人材はこのクラスにいないよね。今後、その力が必要になることあるんじゃない?それにファンクラブの運営で少なからず綾小路くんも感謝していると思う。交渉の際に他の生徒より融通は利くはずよ」
「なるほど、そいつは一理あるかもしれねえな。なら諸藤じゃなくて真鍋、お前に投票するってことでいいんだよな?」
自分で退学になりに行く行為。
私自身何やってんのかわけがわからない。
それでも、そうだとしても――――。
中学に上がる頃には私も少しずつ周りとの付き合い方を学び、人並みに友だちもできるようになった。
色々意地を張ってたのは思春期独特の何かで、今となってはお世辞も言えるし、空気も読めるようになったと思う。
だからちょっとだけ調子に乗ってしまった。
人付き合いで舐められないようにするちょっとしたコツみたいな感じ。
相手の弱みを見つけて先にこちらから攻めておく。やられる前にやってしまえばいいってこと。そうすれば大抵の人間は従順になる。
そんなことをしているうちに私は中学校でカーストの上位になることができて気分が良かった。少しはリカに追いつけたかもしれない、そんな達成感。
でも、クラスが分かれて疎遠になっていたリカは、気づいた時には昔のような輝きはなくなってて、カーストの下の方、その他大勢の目立たない生徒になっていた。
私の憧れがそんなんでいいはずがない。
中学時代の私はそのことを上手く消化できなかった。
そうしてリカが何か悩んでいるとわかっていたはずなのに、向き合えずにどんどん距離をとってしまった。
私が1人の時は傍にいてくれたのに、リカが1人になった時、私はリカのことを見ないようにした。
高育に合格して中学を卒業して、もう会えなくなる状況になって、やっとそのことを後悔した……。
高校の入学式、リカがこの高校でしかもクラスメイトだと知って、私がどれだけ嬉しかったか、きっと誰も想像できない。
離れていた月日は長くて、ぎこちないながらもその距離を縮めていった矢先、リカが軽井沢に突き飛ばされたと聞いて頭に血が上った。
でも、それを助けてくれた人がいたと目を輝かせながら語るリカを見ていると、軽井沢のことはどうでもよくなって、綾小路くんとの仲を全力で応援したくなった。
『なんだか昔の志保ちゃんに戻ってくれたみたいで嬉しいな』
豪華客船で綾小路くんと平田くんとプールで遊び終わった後、リカがそんなことを言ってきた。
私は私でリカに対してそう思っていただけになんだかおかしかった。
「大体さ、このクラスで自分の主義主張をしっかりできる人ってどんだけいるの?みんな強いやつにヘラヘラ頭下げて従ってるだけじゃん。それでいいわけ?」
「俺らは好きで龍園さんに従ってんだよ、なめんじゃねえぞ」
「おいおい石崎、せっかくの真鍋の力説だ。静かに聞いてやれよ」
「へい」
「ほらね。それに比べてリカは誰にも負けず行動してきた。簡単なことじゃないってのはみんなわかるでしょ」
リカの綾小路くんへの想いは、最終的に変な方向にいっちゃったけど、それでも昔みたいに生き生きしているリカを見ることができたから、なんだか自分が許されたみたいで満足だった。
そんなの都合が良すぎるよね……。
結局、今日まで私はリカのために何にもしてあげられなかったわけで、元気になったきっかけは綾小路くん。
元気になれたのはリカの熱意と努力。
きっとリカは、やっとこの学校の生徒らしくなってきたばかりで、もっともっと活躍してくれる存在。
だから自信をもって伝えることができる。
「リカはこのクラスに必要な存在、だから考え直して欲しい。もし納得できないなら代わりに私に批判票を入れたらいい。だからリカのことをみんながもっと知るチャンスを作ってよ」
そう叫んだところで、教室に担任の坂上が入ってくる。
「試験の開始時刻だ。名前を呼ばれたら、指定の教室に来るように。これより投票完了まで私語は一切禁止だ。いいな」
何かを言いたそうな顔をしていたリカに向かって念を押す坂上。
投票が終わってしばらくした後、再び坂上が入ってきて淡々と結果を発表する。
「――賞賛票、3位は山田、2位は金田、1位は椎名だ。後ほど椎名にはプロテクトポイントが贈呈される」
聞こえてくる声がどこか遠い場所で発せられているように感じる。
何だって構いはしない。大事なのはこの後の発表だけ。
「――残念ながら批判票が一番多く投票されたのは……真鍋、お前だ」
ああ、よかった。これでリカは退学にならないんだ。
「これから手続きがある。職員室まで来てもらおう。他の生徒は解散だ」
廊下へと出ていく坂上。
「志保ちゃん……」
近寄ってくるリカ、でも涙が溢れて続く言葉は出てこない。
馬鹿ね、泣きたいのは退学になった私の方でしょ?ホントにしょうがないんだから。
「リカ、別に今生の別れじゃないんだから大袈裟。2年後、もっとリカらしくなった姿を見せてよね。私だって頑張るからさ」
「うん……約束する。私も頑張る”ぅっ」
ぐしゃぐしゃになった顔で頷くリカ。その後ろから山下と藪の2人がやってくる。
「志保、あんた……」
「何ていうか、この閉鎖された環境には飽き飽きしてたっていうか。これから、いろんなことして遊べるしラッキーだわ。……ま、アンタたちと馬鹿やってた1年間も悪くなかったけどね」
「卒業したら一番に連絡するから」
「私も。そしたら、また3人で一緒に『リカー』って叫ぼうね」
「あはは、悪くないじゃん。そのためにも、途中で退学なんかしないでよね」
「志保に言われたくないよ」
「ホントね」
廊下から坂上の咳払いが聞こえてくる。
もう時間のようだ。
「んじゃ、そろそろ行くわ」
廊下へ向かおうとしたところでリカが抱き着いてくる。
やめてよ、私まで涙が出て来るじゃない。
今度こそ、私は私として胸を張って生きることができるんだから、何も後悔はしてないはずなのに……。
ゆっくりとリカの手を解く。
こんなこと言葉にすると解釈違いって怒りそうだから口にはしないけど――
『みんな、これ見てよ!やっぱり志保ちゃんは筆箱を盗ったりしてなかった。ほら、志保ちゃんに謝ろう』
信じてくれただけで十分嬉しかった。
『志保ちゃん、聞いて!王子様は実在したんだよ』
知ってる、だって私にとってリカは――――
泣きじゃくるリカの顔を見つめ、頭をそっと撫でて、教室を出る。
バイバイ、私を救ってくれた王子様。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
クラス内投票開始時刻まで残り5分、櫛田の再生した音声が鳴り止んだ。
その頃には櫛田の言ったように、山内など当事者を除くクラス全員が投票する生徒を決めた、そんな表情をしていた。
色々設定を勝手に追加しているため、ちょっとだけ補足解説的なものを活動報告に記載してます。
興味がございましたらそちらも。