ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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綾小路清隆の憂鬱

この学校に通い、曜日を意味あるものとして実感できる日々には、少なからず思うところがあったのだが……こんなに気の重くなる日曜日は初めてだ。

 

「さ、王子もうすぐ開宴ですよ。笑顔、笑顔」

 

「いや、オレが笑顔で入ってきたら逆に驚かれるんじゃないか?」

 

「そうですか、喜ぶと思いますよ?」

 

ニコニコしながら諸藤はそんなことを言ってくる。

だが、オレには会場が凍るイメージしか沸いてこない。

 

「……まぁいつも通りが一番だ」

 

諸藤の期待を裏切ることになるが、例えオレが普段から平田のようにスマイルを振り撒く爽やかボーイだったとしても、今この状況で笑顔を作れる自信はない。

 

「それでは皆さんお待たせしました。我らが綾小路王子のご入場です」

 

ひと足先に入室した諸藤が、イベント司会者さながらのアナウンスで会場を温める。

 

「……非常に入りにくい」

 

目の前にあるのは茶道室の入り口。見慣れたはずの戸が、今は開かずの間のように感じられた。

 

だが、このまま突っ立っていても状況は変わらない。

むしろ時間が経過すればする程、入りにくくなるもの。

 

オレは意を決して足を踏み入れることにした。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

遡ること数日前。

ケヤキモールのカフェの一角でオレは諸藤を呼び出し、ある相談をしていた。

 

「それにしても悪いな、司令塔になって大変だって時に」

 

「大丈夫ですよ。戦略面は椎名さんが主導してくれているので、司令塔は意外と時間がありますから。それに王子から相談があるなんて言われたら、いつどこへだろうと飛んでいきます」

 

言葉に嘘は感じられず、笑顔まで見せる諸藤。

先日、真鍋が退学になったばかりで、多少なりとも落ち込んでいるのかと思っていたのだが……。

 

「なんだか不思議そうな顔をなさってますね」

 

「正直、思っていたより元気で驚いた」

 

「……志保ちゃんのことですよね。王子が心配してくれるなんて志保ちゃんも喜ぶと思います」

 

真鍋のことを心配したわけではないが、諸藤が倒れる度に発していた「リカー!」の叫び声が聞けなくなるのは残念だな。

今後諸藤が倒れたらクラスメイトから粛々と回収されるだけになるのだろうか……。

 

「私、もっと自分らしく生きるって志保ちゃんと約束したんです。これもその一環ですので、これまで以上に頑張りますから、よろしくお願いしますね、王子」

 

「あぁ」

 

あぁとは言ったものの、一体何をよろしくお願いされたのかはよくわからない。

平田との関係の進展でないことを祈るばかりだ。

 

「話が逸れてしまいましたね。実は王子のお悩みを解決する方法があります」

 

「そんな策があるのか。ぜひ聞かせてくれ」

 

日曜日が近づくにつれ頭を抱えていた案件。

オレでは解決策を見出すことができなかったが、諸藤にとっては問題にもならないようだ。

 

「――といった感じです」

 

「なるほど、それなら現実的ではあるな」

 

諸藤の策を聞き、素直に感心する。クラス内投票で諸藤が退学にならなかったのは渡りに船……。

二度と会うことはないだろうが、犠牲になった真鍋にも感謝の意を表したい。

 

そうして、そこからしばらくは昼休みや放課後を使って諸藤と計画を進めていった。

途中、南雲から卒業式の業務をこれでもかと押し付けられたり、六角から告白されたり、なぜか変装した橘と一之瀬に後をつけられたりと色々ありはしたが、無事準備を済ませ、今日にいたる。

 

さて、現実逃避の回想はこの辺りにして茶道室に入るか。

今の状況と比べたら先日、月城と対峙した時の方が何倍も気が楽だったな。

 

重い足を無理やり動かし入室する。

 

オレの姿が見えるや否や大きな拍手が茶道室に響き渡った。

 

「ただいまより綾小路王子主催のホワイトデーイベント開催です!」

 

諸藤のアナウンスでさらに歓声が増す。

そう、今日は3月14日、俗にいうホワイトデーという日だ。

 

ここしばらく、バレンタインデーに大量の贈り物をもらってしまった関係で、この日のお返しをどうしたらいいか考えていた。

 

そもそも論だが、数えてみると50個以上あり、全員にそれなりのものをお返しするとそれだけで大量のポイントが必要になる。

かと言ってお返ししなかったり、適当なものを渡したりした場合、どうなるかは想像できない。というより、想像しない方が身のためだと判断し早々に選択肢から外した。

 

渡す方法も考えもので、日曜であるが故に直接全員のもとを訪れるのは困難。

寮のポストに投函していくだけでも、部屋の照合しながらの作業となりそれなりに時間もかかり、誰かにその様子を見られるのにも抵抗があった。

 

本当はレジェンド平田に相談する予定だったが、クラス内投票の一件で相当堪えている様子だったため「ホワイトデーはお返しどうするんだ?」などと聞ける雰囲気ではなかった。

 

そこで白羽の矢を立てたのが諸藤。

ファンクラブ経由でもらったのだから、ファンクラブ経由で返すのが自然だろう。

諸藤の精神状況も定かでなかったが、呼び出すだけ呼び出してダメそうなら他の手を考えればいいだけのこと。

 

結果、諸藤から提案されたのがこの集まり。

イベントを開いて、そこでもてなすことでお返しの品はそれなりでも誠意が伝わって満足してもらえるという寸法。

 

しかも、バレンタインにファンクラブ経由で渡した生徒のみが参加できるというルールにすることで、ルールをちゃんと守った者にはリターンがあることを示し、来年以降、ルールを無視する生徒への牽制まで兼ねることができる戦略。

 

失敗から学び有効な改善策を立てる、やるな諸藤。

 

ただひとつ難点があるとすれば、これはこれで非常に恥ずかしいことだな。

ホワイトデーに自分のイベントを開くなんて南雲でもやらな……南雲はやりそうだが、他の生徒は絶対にやらないだろう。

 

「それではみなさん事前にお配りした番号札順に並んでください」

 

諸藤の案内に従って並んでいく。

 

「これから、わくわく!綾小路王子と握手タイムのお時間ですっ!」

 

高らかに開催を宣言する諸藤。

オレはわくわくしていないので、タイトル詐欺ではないだろうか。

 

「制限時間はおひとり様30秒です。限られた時間ですが存分に楽しんでくださいね」

 

握手会という文化には初めて触れるため、30秒が長いのか、短いのか定かではないが、この前半の部では30人が茶道室に入っている。

つまり、これから15分間握手をし続けることになるわけで、なかなかの長さだ。

ちなみに、茶道室のキャパシティの関係で前半、後半と分かれているため、このあと同じくだりをもう一度やるという追い打ちが待っている。

 

「あ、綾小路くん。その、よろしくお願いします」

 

握手会の第一号は、何の因果か六角。

少し照れくさそうに手を差し出してくる。本人の宣言通りファンは続けていくようだ。

 

「ああ。今日は来てくれてありがとう。ささやかだが、受け取ってくれ」

 

手を握り返し、お返しのチョコを渡す。

諸藤指導の元、市販のチョコを溶かして型に入れて固めただけのものだが、諸藤曰くこのぐらいでちょうどいいらしい。

 

「嬉しい……。これからも綾小路くんの活躍、応援してるね!」

 

そんな感じで始まった握手会。

普段話さない生徒からよく見知った生徒まで様々だが、慣れてくるとそこまで悪いものでもないな。

 

「きよぽんも偉くなっちゃったよねー」

 

「言っておくが好きでやってるわけじゃないぞ?」

 

握手中の波瑠加がからかい気味にそんなことを言ったため念を押しておく。

 

「ホントにぃ?なんか手馴れてるし、まんざらでもなさそうだけど」

 

「今は親しい間柄の相手で安心しているだけだ」

 

「ちょっときよぽん、そういうのは……愛里に言ってあげてよね」

 

「この場にいるのは波瑠加だからな」

 

バレンタインに直接プレゼントしてくれた愛里には、残念ながら今回のイベントの参加権がなかった。

 

「ホント罪な男だよね……」

 

「ん?」

 

「何でもない。ファンクラブより綾小路グループの方が大事だーって宣言ぐらいして欲しいなって言っただけ」

 

「この場でそれを宣言する勇気はないな」

 

「だよねー」

 

この場にいる波瑠加以外の女子生徒へ宣戦布告するようなもの。

それが危険な行為であるということはこの一年でわかるようになった。

 

「はい、30秒です。次の方ー」

 

諸藤の案内で波瑠加は自分の席へ戻っていく。

日頃は時間を気にせずだらだらとしゃべっている仲であるため、この30秒は一瞬に思えた。

 

「こんにちは、清隆くん」

 

「今日は茶道室を騒がしくして悪いな」

 

続いて登場したのはひより。

茶道室とひよりは珍しい組み合わせではないが、この集まりにひよりがいるのは不思議な感じがする。

 

「いえ、たまには賑やかな茶道室も良いものだと思います」

 

「それならよかったんだが……とりあえず、時間もないし握手しておくか」

 

「は、はい……」

 

なかなか手を出してこないひよりの手をこちらから握りに行く。

 

「……なんだか改めて手を握られると……その、緊張しますね」

 

「そうだな」

 

ひよりが恥ずかしそうにしているため、こちらとしてもなんだかやましいことをしているような感覚になる。

諸藤、はやく30秒経過を宣言してくれ……。

交わす言葉もなく、お互いの手の温もりを感じるだけの時間が続き、今度の30秒はとても長く感じることとなった。

 

そんなこんなで30名分の握手をなんとか済ませたが、不思議なことに混合合宿で3.6キロ走ったあとよりも疲労を感じている。

 

「みなさまお楽しみいただけましたでしょうか。続きましてグループごとに王子がお茶を振る舞います。茶道界の超新星が生み出す綾隆をぜひご堪能ください」

 

こちらも諸藤の提案。

会場として茶道室を茶道部指導員の権限を使って押さえることができたときに、せっかくならと企画することになった。

一度には難しいため、5人6グループに分けて振る舞う。

 

「茶道のお茶って初めてだから楽しみ」

「お茶点ててる綾小路くん、かっこいい」

「今日は写真も動画も撮ってもいいんですよね!?」

「作法とか知らないけど大丈夫かな」

「なにこれめっちゃ美味しい」

 

などと色々な声が飛び交う中、黙々とお茶の準備をしては振る舞っていく。

一般生徒には珍しい体験だったようでこちらの企画も好評のうちに幕を閉じた。

 

「では最後に集合写真を撮ってイベントは終了です。みなさん王子を囲んでください。それじゃ茶柱先生、カメラのシャッターをよろしくお願いしますね」

 

ファンクラブ会員に囲まれたオレを、実は最初からいた茶柱先生がにらみつける。

 

「……もしかして私はこのためだけに呼ばれたのか、綾小路?」

 

「そんなわけないですよ。顧問の先生が立ち会わないと生徒だけでは日曜日に茶道室を使えなかったんです。すみませんが時間も限られてますし、大人しく茶ッターを押してください」

 

「チャッター?」

 

「噛んだだけです」

 

渋々といった様子で写真を撮る茶柱先生。

だが、生徒に紛れてちゃっかりお茶を楽しんでいたため文句を言われてもな。

 

そうして前半の部が終了する。

後半の部も同様の進行で、やってきた麻耶や朝比奈などは楽しそうに過ごしていた。

 

 

イベントが無事終了し、後片付けを終える。

終わってみればちょっとした達成感も出てくるから不思議だ。

だが、今回を乗り切っても来年以降のこともある。

今後、諸藤に退学のリスクが迫るなら陰ながら振り払うことも検討するか。

 

「ところで個別にお返しを渡したい相手がいるんだが、イベントを開いた手前、やっぱりまずいか?」

 

「なるほどなるほど、ふふふ、お相手は平田王子ですね!プライベートで渡す分は王子の自由だと思いますので気になさらなくって結構ですよ」

 

「それならよかった。受け取ってくれ」

 

「え?」

 

諸藤に封筒を渡したが、きょとんとしている。

 

「これは諸藤へのお礼だ。色々と手伝ってくれて助かった」

 

「そ、そんな。当然のことをしただけですから。……開けてみてもよろしいですか?」

 

「もちろん」

 

「ここここここここれはッ!!??」

 

「ちょっと前に平田と一緒に撮った写真だ。限定感を出すために2人でサインも入れておいた」

 

「尊死っ!」

 

「……」

 

鼻血を出して倒れた諸藤。周りを見渡す。

真鍋はもちろんだが、他に誰もいない……ならオレが言うしかないか。

 

「りか~」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

諸藤の意識が戻ったことを確認できたため、やっと帰宅できる。

 

これまで体験できなかった分はおろか、一生分のホワイトデーを過ごした気分だが、まだ個別にくれた面々へのお返しが残っている。

 

「あ、ハーレム小路お帰りなさい。どう楽しかった?世界広しと言えどホワイトデーにハーレムイベントを企画する高校生は綾小路くんぐらいだねっ」

 

「いや、南雲もいるだろ」

 

「いくら南雲生徒会長だって……うん、やってるね、きっと」

 

「だろ」

 

自室へ戻ると櫛田からの辛辣な出迎えを受けたものの、部屋にいてくれたのは探しに行く手間が省けるので助かる。

 

「って話を誤魔化さないでくれる?アンタは節操がないのよ、節操が。女なら誰でもいいわけ?」

 

チョコのように甘くはないブラックな櫛田さんまで登場か。だが、関係ない。どちらの櫛田に渡してもリアクションは変わらないだろう。

 

「櫛田、バレンタインのお返しだ。受け取ってくれないか」

 

冷蔵庫に隠しておいた包みを取り出し、櫛田へと渡す。

 

「殊勝な心掛けじゃない。ま、一番に私のところに持ってこなかった点はマイナスだけどね」

 

なんだかんだ言いながらも受け取り、包みを開けていく。

 

「……何これ?」

 

「見てのとおり『1/10 鈴音チョコ』――名付けて『チョコ北』だ」

 

牛乳パックを型として使い、直方体にチョコレートを固め、ホワイトルームで培った彫刻のスキルをふんだんに用いて堀北を再現させてもらった自信作。

 

「はぁ?喧嘩売ってんの?」

 

「むしろ喜ぶと思って作った。本人には無理でも、このチョコ北なら叩き割るなり、退学にするなり自由だ」

 

と解説したところで、櫛田はチョコ北の頭と足をガシッと掴み、腹から真っ二つにしてかじりつく。

 

「あはははーサイコーだね、このチョコぉ!」

 

笑顔でチョコ北と戯れる櫛田。自信作のチョコ北は見る見るうちに砕け散っていく。

ある程度予想していたとはいえ、恐ろしいものを見てしまった……。

 

「あとはごゆっくり……」

 

なんとなくいたたまれない気持ちになり、残りのチョコを持って部屋を出る。

 

続いて軽井沢恵の部屋――の前まで来たが、直接渡すのは避けることにする。

偽装ではあっても彼氏持ちの相手に堂々と返すのは誰かに見られた場合あらぬ誤解を招く。そうでなくとも、この部屋の中で偽装工作の一環でホワイトデーを平田と2人で過ごしている可能性もゼロではない。ということでドアノブにチョコの入った紙袋をかけて退散するとしよう。

 

決して捕まったら面倒くさそうだ、とはこれっぽっちも微塵たりとも思っていない。

 

「あっ……」

 

「ん?」

 

振り返るとそこには恵の姿。

 

「……ホワイトデーのお返しだ。大したものじゃないが良ければ受け取ってくれ」

 

観念して紙袋を渡す。恵のことだから「G●DIVAじゃないわけ?」とか「贈り物にもセンスがいるのよ、あ、これはおまけして10点ってとこね」とか、色々言ってくるに違いない。

 

「てっきりこの前の誕生日と一緒にしたのかと思ってた。……ありがと」

 

「ああ」

 

「しかも手作りなんだ。……大事に食べるから。じゃ、また明日」

 

中を確認し元に戻すと、紙袋を抱きしめて、サッと部屋の中に入っていく。

 

「普段からこのぐらいしおらしければ……」

 

あえて口にしてみたが

 

『聞こえたわよ、清隆っ!』

 

と戻ってくることはなかった。

予想と違った動きをした恵の様子から、自分がまだまだ異性というものを理解していないことがわかる。

 

なんにせよ、受け渡しがスムーズに完了したことは喜ばしい。まだまだあとがつかえている。

 

「ということでバレンタインのお返しを渡しに来た」

 

今度は愛里の部屋を訪れてお返しを渡す。

 

「え、あ、わわっ、あ、ありがとう。バレンタインでズルしちゃったからもらえないんだと思ってて、その……嬉しい」

 

「愛里にお返しを渡さないわけないだろ」

 

ファンクラブ会員に渡しておいて、友人の愛里に渡さなかった場合、綾小路グループでの立ち位置が危ぶまれる。

 

加えて愛里には今後の動画活動で活躍してもらう予定であるため、良好な関係を続けておくに越したことはない。

 

「渡さないわけがない……。そ、それってつまり――ふしゅぅぅぅぅぅ」

 

ボンッと音が出そうな勢いで顔を真っ赤にして倒れそうになる愛里。となれば、アレの出番だな。

 

「あいりー」

 

「へ……??どうしたの清隆くん?」

 

気を失うかと思った愛里だったが、踏みとどまり、不思議そうな顔をしている。

 

「とある伝統芸の担い手がいなくなって消滅の危機に瀕しているんだ。せめてオレが使うことで認知度を上げていこうと思っている」

 

「そうなんだ。よくわからないけど、清隆くんは意識高くてすごいね」

 

「愛里も良ければ使ってくれ」

 

「うん。任せて!」

 

これで諸藤が倒れても愛里が近くにいれば……うーん、諸藤のために叫んでいる姿は残念ながら想像できないな。

 

愛里にも無事お返しを済ませたところで、次の相手だが……。

ここにきて少し考えることになる。

どう渡すのがいいのか、見当がつかない。

 

そんな時だった。

『今から会える?』と携帯にメールが届く。

丁度こちらからも接触する予定だったので丁度いい。

 

「それで堀北。こんな夜中に呼び出すなんて何の用だ。まさか、バレンタインのお返しを寄越せって言うんじゃないだろうな?」

 

呼び出しに応じて堀北の部屋までやってきた。

最初はオレの部屋での会合を希望されたが、今はとてもじゃないが堀北だけは呼べない状況だからな。

 

「起きたまま寝言を言えるなんて綾小路くんも器用ね」

 

「そうか、ならこの『チョコ北 バージョン学』は、橘にでも譲るか。こっちも自信作だったが、受け取りたくない相手に贈るつもりはない。もしもし、橘せ――」

 

電話を掛けようとしたところで、堀北が素早く奪い取り電源を切った。

 

「……ら?」

 

「ら?」

 

「いくら欲しいのか聞いてるの」

 

「お前の兄貴への愛情はポイントで買えるのか?」

 

「いいえ、プライスレス!」

 

「だろ。一応堀北からもバレンタインもらっていたからな、ちょっとしたお返しだ。もちろんポイントを取るつもりもない。それに、もしかしたらこれが最後になるかもしれないしな」

 

「縁起でもないわね。……まぁでもそういうことなら、チョコ兄さんを受け取ってあげるわ」

 

「あぁ、遠慮はいらない」

 

そうして『チョコ北 バージョン学』を受け取る堀北妹。

だが、当然ただの善意で用意したわけではない。この前は無理やり面接に付き合わされたし、これまでも堀北には散々やられてきたからな。

これは文字通りの『お返し』で、甘さなんて一切ない苦さ100%なチョコとなっている。

 

一口食べれば口内に爆発的な苦味が広がり、しばらく悶絶するだろう。

味見したとき、オレも川の向こうで山内が手招きする幻覚を見たほどだ。

 

「あぁー、流石は兄さん。チョコになってもなんて凛々しいのかしら。食べるのがもったいないけれど……」

 

「もったいないけれど?」

 

「……何でもないわ。流石に続く言葉を自重しただけよ」

 

「……」

 

兄さんを味わえるとか、ひとつになれるとか、そんなことを言おうとした……わけじゃないよな?

 

「とにかく頂くことにするわ」

 

そう言って着脱可能にしていたメガネ部分を取り外し、口に運ぶ。

 

「ぐっ、綾小路くん、このチョコ……」

 

お前はどんな表情を見せてくれるんだ、堀北。

 

「とてもいいわね。この決して甘くないところが兄さんをよく表現できているわ。見た目だけでなく中身も再現するなんて、綾小路くんも兄さんのことをわかってるじゃない」

 

「そ、そうか。気に入ってもらえてよかった」

 

そういえば堀北は兄貴のことに関しては無敵だったな。

 

「気分も上がったところで本題に入るわ」

 

「ん?ああ、そういう話だったな」

 

興味がなかったため、すっかり忘れていた。

 

「これが今回の私たちのクラスの種目よ。今日、学校に提出して承認が下りたわ。面接に付き合ってもらった以上、一応報告しておこうかと思って」

 

「なるほど……」

 

堀北から種目とルールが記載された紙を渡される。

 

・バスケ

・弓道

・水泳

・卓球

・アームレスリング

・サッカー

・カラオケ

・テント組み立て競争

・男女混合リレー

・早口言葉

 

無事リレーは採用してあったので一安心だが……。

 

「なあ堀北……」

 

「Aクラスが学力系で攻めてくることを見越して、こっちは運動系をメインに据えたわ」

 

「それは悪くないと思うが……」

 

「何?あなたのリレーも採用しているのだし、文句はないはずよ」

 

「いや……デュエルはどうしたんだ?」

 

リストを見る限り、種目人数1名はアームレスリングとなっている。

 

「……悔しいけれど、学校側から却下されたわ」

 

「それは、まあ仕方がないんじゃないか。誰もが知っている種目が前提だったわけだし」

 

「いいえ、その点は私のプレゼン力で突破してみせたわ。近年のカードゲーム市場の伸び、競技者人口にアプリのダウンロード数、アニメ視聴率や単行本の売り上げなどの各種データはもちろん、世界大会も開かれている立派な競技であることを主張したの。eスポーツがスポーツ競技であるようにデュエルも立派な競技なのだと」

 

「そこ、そんなに力を入れるところなのか?」

 

この数日は試験対策に時間を使っていたんだよな?デュエルの許可をとるためだけに動いたわけじゃないよな……。

 

「当然じゃない。ただ、種目にする以上、相手がもしデッキを所持していない場合、残り一週間でカードを買い、デッキを作る必要があるわ。相応の金額になるし、欲しいカードが入手できるとも限らない。個人の培ってきた実力ではなく、そういった外的要因で差がつく可能性のある種目は認められないと断固として首を縦に振らなかった。全く、カードの入手も実力の内だと私は思うのだけれどね」

 

理解できないといった表情で早口で語ってみせた堀北。

 

「それで代わりに入れたのが、アームレスリングなのか。種目提案の面接のときにはなかったよな?」

 

これ以上デュエルを語らせるのは、兄貴の話を語らせる次ぐらいに長くなりそうなので話題を変える。

 

「私はデュエルを通す気でいたから……締め切りまでの時間で思いつくのがこれしかなかったのよ」

 

「……まさかとは思うが、出場候補者は――」

 

「お察しのお通り、高円寺君よ」

 

「なかなか思い切ったな」

 

「彼が真面目にやれば、あるいは手を抜いたとしても負けることがない種目だと判断したわ。それに下手に人数を増やすと負けたのは他の生徒のせいだと言い訳するでしょうけど、自慢の肉体で競う種目でのタイマンなら、プライドが高い彼は案外のってくるんじゃないかしら」

 

「何とも言えないところだな」

 

『すまないねぇ堀北ガール。今日は上腕二頭筋が痛むから辞退させてもらうよ、ハッハッハッ』と元気に笑いながらサボる姿が目に浮かぶ。

 

「もちろん、彼の様子を確認しながら、当日の採用可否は考えるわ。彼に頼らなくても勝つ道筋はあるわけだし」

 

「それがいいだろうな」

 

高円寺の実力は体育祭でAクラスも認知しているはずだが、それだけに勝ち目がないと最初から捨て種目とする可能性はある。

こちらも切ったところでどうなるかわからないカードなだけにブラフにもならない。

 

「いずれにしても明日のAクラスの種目発表次第ね」

 

「坂柳がどう攻めてくるかは見ものだな」

 

「まるで他人事みたいね。坂柳さんを倒す約束、忘れたとは言わせないわよ」

 

「まぁやるだけやってみるさ」

 

「まったく……緊張感がなさすぎるわ。その余裕は私も見習いたいところね」

 

さっきまでチョコ北で暴走したり、デュエル採用に奮闘していたコイツにだけは言われたくないな。

 

その後「いつまでいるつもり?用件は済んだわ」と部屋から追い出された。

こちらも長居するつもりはなかったが、もう少し優しく追い出してくれてもいいんじゃないかと思わないでもない。

恐らく一刻も早くチョコ北を楽しみたかったのだろう。

 

 

残るチョコはひとつ。

 

時間も遅くなったしな、ポストに投函でも許してもらえるだろう。

 

そう言い聞かせてロビーへ降り、ポストに向かう。

対象の生徒の部屋番号が記された場所に包みを入れた。

これで今日のミッションは無事完了だな。本当に長かった。

 

さあ部屋に戻ろう、と思ったところで寮の入口からやってきた一人の生徒と目が合う。

 

何か見ちゃいけないようなものを見てしまったような一之瀬の表情。

 

「あ、えっと、綾小路くん、こんばんは。珍しいね、こんな時間に」

 

「ああ。ちょっとな」

 

「えっとその、私はジム帰りなんだ、麻子ちゃんと一緒に行ってきて……ね、麻子ちゃん。ってあれ、麻子ちゃんどこ!?……お、おかしいな、さっきまで一緒に居たはずなんだけど、あははは……」

 

「休日も運動なんて偉いな」

 

「ちょっとサンドバックを叩きたい気分だったというか……身体動かしてリフレッシュできた、かな」

 

「そうか、それは何よりだ」

 

「うん」

 

「……」

 

「……」

 

会話が途切れて何とも言えない空気になる。

オレがポストに何かを入れていたのはわかっているはずだが、オレがポストの前にいるため確認できない状況。

 

「あー、えっと、どうぞ」

 

このままではどうしようもないため、ポストへの道を譲る。

一之瀬は会釈してポストの中を確認する……当然オレの入れたお返しが出てくる。

 

「見てたならわかると思うが、その、お返しだ」

 

包みを手にした一之瀬は、じっとそれを見つめ固まり動かない。

 

「警戒しなくとも堀北のように変なものを入れたりはしていないが、不安なら捨ててくれて構わない」

 

「そんなこと絶対にしないよ。固まってたのは、その違うの……」

 

改めてこちらを向く一之瀬。

 

「せっかくだし、少し話せないかな。……ほら、明日は対戦クラスの種目の発表だし、色々試験に対する考えとかなんかその辺りの話をしたいかなって」

 

「普通、種目が発表されてから意見交換するものじゃないか?」

 

「あー……そうとも言えるし、そうとも言えないね!発表前だからこそ、予想とかして盛り上がったりもできるんだよ」

 

なるほど。試験対策と考えれば効果が薄くとも、会話を楽しむネタとしては今が旬なわけか。

 

「椎名さんたちの戦略、私なりに予想を立ててみたんだ。ぜひ綾小路くんに聞いてもらいたいな」

 

「……それに対して何かしらの意見を求めているなら――」

 

「違うの、違うの。聞いてもらうだけで、意見とかアドバイスが欲しいわけじゃないから。綾小路くん、こういう話は嫌いじゃないよね?」

 

「確かに嫌いではないな」

 

同じものを見ていても、自分と他人では着眼点や発想が異なるもの。

より多くのデータを集めることは『人間』という生物を紐解き掌握することに繋がる。

 

「じゃ決まりだね!綾小路くんの部屋にお邪魔してもいいかな?」

 

「あー……今ちょっと散らかってて人を招くのは難しいな」

 

バラバラになったチョコ北が散乱している可能性が高い。という以前に櫛田がまだいるかもしれないため、連れて行くのは危険だろう。

 

「綾小路くんが部屋を散らかすって意外だね?」

 

「昨日友人が遊びに来てたんだ」

 

「……」

 

じーとこちらを覗き込む一之瀬。

綾小路くんが友人を自室に招く?そんな親しい友達なんているのかな?とでも疑っているのか……。

昔は溜まり場になっていたが、最近では退学狂(櫛田)ぐらいしか寄り付かないからな、残念ながらその読みは正しい。

 

「悪い、本当はチョコを作るのに苦戦して結果、色々散らかしたままだったんだ」

 

「私こそ変な詮索をして言いにくいこと言わせちゃったよね、ごめん」

 

もちろん、そんな事実はないが、こう言えば一之瀬はこれ以上追及できなくなる。

 

「それなら私の部屋でって言いたいところだけど、女子部屋の門限はもうすぐだし……散歩しながら話そうか!」

 

「ああ」

 

気づけばいつの間にか一緒に話をすることになっている。

 

3月の夜道。少しずつ暖かくなってきたとはいえ、流石にこの時間は少し冷える。

 

「あ、ちょっとコンビニ寄って良いかな?」

 

「問題ない」

 

通りにあったコンビニへ入っていった一之瀬を入口付近で待つ。

 

「お待たせ。はい、これ」

 

一之瀬が渡してきたのはホットココアの缶。

 

「寒いときはこれだよね」

 

「もらっていいのか。この前の件でポイントにあまり余裕がないんじゃないのか?」

 

「このぐらい大丈夫だよ。無理言って付き合ってもらってるし、そのお礼」

 

そういって一之瀬は先に進んで歩いていく。

ここまで来たらとことん付き合うか。部屋でチョコ北の惨状を眺めているよりは有意義だろうしな。

 

「こっちこっち、こっちだよ、綾小路くん」

 

先を歩いていた一之瀬が振り返り、手招きする。

だが、そこは道から少し外れた街路樹の中。

 

「……そこが目的地なのか?」

 

「うん、ここ、ほら座って座って。そしたら意外と隠れて見えないからさ」

 

確かにそうかもしれないが……。

 

「一応、今日は男女が2人でいる姿を見られるとまずいかなって思って」

 

ホワイトデーに男女が夜遅く一緒にいたとなれば、それはそういうことだと疑われても仕方がない。

こんなところに座り込む日が来るとは思わなかったが、絶妙に木々で身体が隠れて、道から外れているので小声で話す分には誰かに気づかれることもなさそうだ。

 

……なんでこんな場所を知っているんだ?いや、こんな場所を一之瀬に吹き込む人物は1人しか思いつかない。

 

『一之瀬さん、張り込みをするにはこの場所がベストですよ、えっへん』

 

自慢げにそう話す橘の姿が頭に浮かぶ。

 

「ココア、あったかいね」

 

「そうだな」

 

オレの隣に腰掛ける一之瀬からは、ロビーで遭遇した時にはしなかったシトラスの香りが漂ってくる。

 

「それで、試験の予想についてはどうなんだ?」

 

「あ、え、そうそう、そうだったね!綾小路くんは先日椎名さんと龍園くんが揉めて決裂した事件は知ってるかな?」

 

「ああ。噂好きの女子たちがそんな話をしていたのを小耳にはさんだ。一之瀬が格好良く仲裁したらしいとも聞いたぞ」

 

「かっこよかったかは置いておくけど、その結果、椎名さんと龍園くんの派閥でバラバラに試験対策するみたいなんだ」

 

事実だとすれば非常に効率の悪い話。

どちらも譲歩しなければ10種目を決めきれたかどうかすら怪しい。

 

「だけど実際問題、龍園くんが強硬手段に出た場合、椎名さんはそれを防ぐことはできないと思うんだ」

 

「だろうな」

 

ひよりがいくら理詰めで攻めようと、龍園が暴力に訴えればひよりでは抗う術がない。

 

「ということは椎名さんたちのクラスの種目は、色々あったとしても、あのクラスが一番得意な肉体的な力で押してくるものが本命だと思うんだ。例えば、空手とかボクシングとか格闘技系で来るんじゃないかな」

 

「なるほど」

 

「しかも勝ち抜き戦とかのルールにされちゃうと、私たちのクラスじゃ太刀打ちできる可能性がぐっと低くなる。アルベルト君はもちろんだけど、龍園くんや伊吹さんを倒すのは困難だと思うんだ」

 

一之瀬のクラスの主戦力と言えば、柴田や神崎あたりだが、リアルケイドロで龍園たち相手にボロボロになった姿は記憶に新しい。

 

「つまり、私たちが勝利するためには、そこを何とかしないといけない」

 

概ね一之瀬の予測は正しい。

だが、それは前提条件が正しければの話。

 

「って、今までの私なら思ってた」

 

「ということは、今は違う考えなのか?」

 

少し興味が出てくる。

 

「うん。だって、相手はあの椎名さんだよね。混合合宿では南雲先輩を欺いて綾小路くんの策を成功させたような生徒が、何の捻りもなく私が見ている前で仲間割れするとは思えないんだ」

 

一之瀬の言う通り、ひよりと龍園が仲違いをしていなかった場合、前提が崩れる。

 

「なら、一之瀬は何の意図があって仲違いしたように見せた、と思うんだ?」

 

「そうだね……シンプルに考えるなら、龍園くんの動向を注視させたい、とかじゃないかな。あくまで予想だけど、明日の種目は、椎名さん派と龍園くん派の種目が半々で入ってくると思う。そこで私たちを龍園くんたちの種目だけに注意を引き付けたところで、本命の椎名さんたちの種目で攻めて来るとか」

 

「ない話じゃないな」

 

「だよね。ただ、さらにその裏をかいて龍園くんたちの種目で攻めてくるかもしれない。あの茶番劇を見せられた時点ですでに椎名さんの術中にハマっちゃったわけだね」

 

「それでどうするつもりなんだ」

 

「もしそうなるなら今回は完全勝利を諦めるしかないね。相手の種目の中から1勝できた方の勝ち、そんな戦いになると思う。だから、ある程度的を絞って、椎名さん側の攻略班と龍園くん側の攻略班で分けて対策をするよ」

 

単純だが、相手の誘いに乗らない堅実な対策。

問題があるとすれば、考えたところでそもそもの突破手段があるかどうかだな。

 

「そこで綾小路くんに提案なんだけど、私と賭けをしない?」

 

「賭け?」

 

「うん。明日の種目発表で、私の予想通り比率が半々だったら私の勝ち。違ったら綾小路くんの勝ち。わかりやすいように、身体を動かす種目とそうでない種目って区分かな」

 

10種目中5種目ずつで来るという一点張り。

確率にすれば相当低い。例え仲違いしていなくとも、運動系の種目を6つにしている可能性もある。

 

「一応聞くが、何を賭けるんだ?」

 

「私が勝ったら、試験までの残り一週間で神崎くんたちをできるだけ鍛え上げて欲しいんだ、理想はアルベルト君を倒せるぐらいに」

 

「割と無理難題だな」

 

屋上での戦闘を見ていた一之瀬がそう思うのも仕方がないかもしれないが、一般人を一週間鍛えただけでアルベルトを倒せるようにできるならホワイトルームなんていらなくなる。

 

「0%が10%になるぐらいでも構わないよ。このまま何もしなければどうしようもないし、綾小路くんなら出来ると思う」

 

「ちなみにオレが勝った場合は?」

 

「あ、考えてなかった。えっと、綾小路くんの望みを何でも叶える、とか?」

 

「とんでもないことを言ってないか?」

 

「そ、そうかな。でもポイントももうないし、他に差し出せるものはないよ」

 

「なら、オレのピアノ演奏の隣で、ポニーテールでコスプレして踊る動画に出演してくれ、とお願いしてもOKしてくれるってことか?」

 

「う、うん」

 

「一之瀬の覚悟はわかった。条件はそれで構わない」

 

いずれにせよ、オレに損がある話でもない。

オレの指導でどこまで他者を強化できるのか、という経験をしてみるのも面白いかもしれない。

 

「ありがとう、これで勝ち目が出てきたよ」

 

「それにしても話を聞くだけじゃなかったのか?」

 

「ん?約束通り意見やアドバイスは求めてないよ?」

 

「……最近の一之瀬はなんだかしたたかになったな」

 

「立ち止まるわけにはいかないからね」

 

ちょっとした嫌味のつもりだったが、透き通った瞳で見つめられ、力強い返事がきた。

 

そこからはちょっとした世間話をして過ごし「そろそろ帰ろうか」と立ち上がった一之瀬に続いてオレも立ち上がる。

 

「でも相手が同じ金欠の椎名さんクラスで助かったよ。ポイントでの戦略が絡んでくると、いろいろ厄介だから」

 

「大富豪からの貧乏生活は苦労しそうだな、うちのクラスは経験済みだから気持ちはよくわかる」

 

「なら私たちのクラスも負けてられないね。綾小路くんたちみたいに乗り越えてみせるよ」

 

「まぁうちのクラスは一之瀬からの借金で支えられただけだけどな」

 

「あははは、そうだったね」

 

一之瀬は知る由もないが、クラス内投票で龍園は大量のポイントを入手している。

教えるべきか……いや、その必要はないな。

 

一之瀬には悪いが、今回の試験、ひよりのクラスが負けた場合、諸藤の退学が決定する。

それはオレにとって好ましい展開とは言えない。

 

現状の情報だけで判断するなら、わざわざ介入する必要もないが、ポイントの情報が勝敗を左右する可能性は大いにある。

 

楽しそうに笑う一之瀬の笑顔が試験終了後もそのままだと良いと思う反面、どうでもいいことだと切り捨てようとする考えも存在する。

ノイズでしかないような相反する思考が自分の中にあることが、最近は面白いと思えるようになっていた。

 

一度捨てたはずのぬいぐるみがなぜか手元に戻ってきている。

そんな展開は、ホラーかトイスト●リーぐらいなものだろうが、貴重な体験という意味では興味深い出来事だ。

これからどうなるのか、せっかく戻ってきたのなら見守っていくのも悪くはないだろう。

 

 

こうしてオレの気の重くなる一日は、明日以降の楽しみを残しながら幕を閉じていった。

 

 

 

 

ちなみに部屋に戻ると櫛田はおらず「あのチョコ定期的に作ってね!」とメモが残されていた。

 

 

 






原作の種目を読み返してみると割と謎の多い、堀北クラスの種目。

バスケ5人 弓道2人 タイピング1人 が確定情報で、同じ人数の種目は設定できないルールなので、卓球とテニスは団体戦でもするつもりだったのか、ただそうなると須藤くん以外で勝ち星があったのか、などなど……。
ピアノでどんな勝負をする予定だったのかも気になったり。(ブラフかもしれませんが、学校側が承認した以上、明確な勝敗のつくルールがあったはず……。ミスしないで演奏とか?)

デュエルは採用したかった気持ちで一杯ですが、どう考えても学校が許可しないだろうなということと、ただでさえ複雑な展開を文字にするのは書き手も読み手もきつそうなので断念しました……。

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