ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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本番前の準備運動

月曜日の朝のホームルーム。

対戦相手Aクラスが準備した種目が発表された。

 

****************

 

英語テスト  参加人数:8人

試験時間50分間で1年度における学習範囲の問題集を解き合計点で競う。

司令塔は1問だけ代わりに答えることができる。

 

数学テスト  参加人数:7人

試験時間50分間で1年度における学習範囲の問題集を解き合計点で競う。

司令塔は1問だけ代わりに答えることができる。

 

現代文テスト 参加人数:4人

試験時間50分間で1年度における学習範囲の問題集を解き合計点で競う。

司令塔は1問だけ代わりに答えることができる。

 

社会テスト  参加人数:5人試験時間50分間で1年度における学習範囲の問題集を解き合計点で競う。

司令塔は1問だけ代わりに答えることができる。

 

チェス  参加人数:1人 

一般的なチェスのルールに準ずる。

司令塔は任意のタイミングで1分間の休憩時間を申請できる。

 

囲碁   参加人数:3人1体1の対局を3局同時に行う。

司令塔は任意のタイミングで1手だけ助言できる。

 

バレーボール 参加人数:6人

10点先取 3セットの試合でルールは一般的なバレーのルールに準ずる。

司令塔は任意のタイミングでメンバーを3人入れ替えることができる。

 

大縄跳び 参加人数:20人

2回の挑戦でより多く跳べたクラスの勝ち。

司令塔は一度だけ対戦相手の並び順を変更できる。

 

ドッジボール 参加人数:18人

10分3セットの試合。一般的なドッジボールのルールに準ずる。

司令塔は任意のタイミングでアウトの生徒を1名コートに戻せる。

 

テニス   参加人数:2人

男女混合のダブルスで3セットマッチ。一般的なテニスのルールに準ずる。

司令塔は一度だけ任意のタイミングでサーブ権を変更することができる。

 

****************

 

テストからスポーツまで様々なジャンルの種目が用意されているが――対戦人数が1名の種目はチェスか。

 

「つまり坂柳さんはチェスでの勝負をご所望のようだけれど、あなた経験は?」

 

「喜べ堀北。チェスなら腕に覚えがある」

 

「なんだか綾小路くんから前向きな言葉が出る方が不気味ね」

 

チェスはホワイトルームの課題で取り組んだことがある。

特に思い入れがあるわけではないが、対戦相手がAIだけになるまでは比較的興味深く取り組んだ課題だった。

 

ただ坂柳がチェスを選んできたということは、向こうも自信があるということ。

思い返せば最初にこの学校で出会った時、やたら細かく再会までの時間を語っていたが、あの発言に偽りがなければ、オレがチェスの課題に挑んでいた姿を目撃していたことになる。

 

少なくとも当時のオレの実力を把握した上で、勝負を仕掛けてきたわけだ。

 

「……意外と苦戦するのかもしれないな」

 

「ちょっと……今のはいつもの嫌味じゃない。わざわざ言い直さなくても……。その、傷つけてしまったのなら謝罪するわ。そうね、自信に溢れた綾小路くんも悪くないわよ」

 

「何の話をしているんだ、堀北?」

 

「そうそう、あなたはそのとぼけた感じが1番似合ってるわ」

 

なぜか堀北からホッとした顔で見られているが、こいつの言動を気にしていても仕方がない。

 

「それより、問題は他の種目だろ」

 

「ええ。早速クラスで戦略を立てましょう」

 

そうして席を立ち教壇へ向かう堀北。

クラスメイトに呼びかけ、種目経験の有無などを確認し始めた。

 

クラスの話し合いに耳を傾けながら、少しだけチェス以外の種目について思考を巡らせる。

 

学力テストが多いのは、互いのクラスの学力差を考慮してのものだろうが、それだけではなさそうだ。坂柳は他クラスには公開されないはずのオレの1学期期末テストの結果を把握していた。今回の試験のためにCクラス全員の成績を入手していても驚かない。その上で、勝てると判断したと考えておくべきだろう。

 

Aクラス相手のテスト対決でも、こちらの成績トップ陣をぶつければ1勝はできるだろうが、堀北は司令塔で参加不可。平田はこちらのサッカーのキーパーソン、同様に櫛田は早口言葉、高円寺は語るまでもない。オレもチェスでの参加が決まっていることから、こちらの種目との兼ね合いも考慮する必要があり、相手の種目対策も一筋縄ではいかない。

 

堀北がどう戦略を組み立てるか見物だな。

 

「大体出揃ったわね。さっそく今日の放課後から特訓開始よ」

 

「しゃぁっ、鈴音、バスケに出る奴らの指導は任せろ」

 

「ええ。必ず勝てるチームに仕上げてちょうだい」

 

須藤がいつも以上にやる気に満ちているのは、池と同じ理由だろう。

 

「ただ、誰がどの競技に出るかは最重要機密事項よ。大声で叫ぶのは控えるように」

 

「お、おう」

 

「でもよ、Aクラスにバレないように練習なんて難しくね?」

 

池にしてはもっともな指摘をする。

 

「ある程度は仕方がないと思っているわ。対策の1つとしてその種目に参加しない人もブラフで練習してもらうつもりよ。それにこのクラスには頼れる権力者がいるから隠せる部分もあると思うの」

 

池へ回答をしながら、目線をこちらに向ける堀北。

 

「まさかとは思うが……」

 

「ええ、そのまさかよ。生徒会副会長権限で特別棟の3階を放課後1週間貸し切ってくれるわね?」

 

「お前は生徒会をなんだと思っているんだ?」

 

「できないとは言わせないわ。ホワイトデーに私用で茶道室を貸し切ってハーレムを満喫したそうじゃない」

 

「は?爆発しろ」とでも言いたげな男子生徒たちの視線が痛い。

 

「あれは茶道部指導員権限だ」

 

「他にも、年越しパーティーのために体育館を貸し切った生徒会役員や学校だけでなく周辺施設まで貸し切って大規模イベントを開催した生徒会長もいたわよね?」

 

「……」

 

「クラスのために副会長さんは何もしてくれないのかしら」

 

まるで何もしないオレに非があるように話を進める。

下手に貸切の前例があるため、そんな権限はないと断ることもできない。

 

「わかった、善処する」

 

「ということで、種目別にグラウンド、体育館、特別棟で特訓するわ。振り分けは後から伝えるけど、くれぐれも他言しないように。念の為、本人以外は誰がどの種目に出るかクラス内でも曖昧なままにしておく」

 

裏切りまではいかなくても、何気ない日常会話から情報が漏れる場合もある。

最初から確定情報を持たせないことで、それらを防ぐ目論みだろう。

 

オレまで躊躇なく使うあたり、勝つためにできることは何でもやるという姿勢が伝わってくる。その姿勢自体は嫌いではない為、一肌脱ぐことにするか。考えようによっては特別棟の貸し出し申請なんて楽なもの。クラスメイトの勉強を見て一週間でAクラスより点を取れるようにしろ、とかじゃないだけマシだ。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「なるほどー、大体予想通り……みたいだね」

 

対戦相手のDクラスが選んだ種目一覧をクラスメイトと共有する。

 

****************

 

神経衰弱   参加人数:4人

一般的な神経衰弱のルールに準ずる。全員で同時に戦い、最終的に多くの札を獲得したクラスの勝ち。カードを選ぶ順番は、司令塔が参加生徒を選んだ際の順番とし、1番目の生徒同士がじゃんけんをして勝った生徒のクラスから交互に選んでいく。

司令塔は、一度だけクラスメイトに代わりカードを選ぶことができる。(2枚揃った場合は、そのまま外すまで継続)

 

しりとり  参加人数:13人

基本ルールは一般的なしりとりに準ずる。ただし、使用できるワードは学校内に存在する固有名詞のみ。1人持ち時間5秒以内に有効回答を答えなければ失格。最後の1人が残っていたクラスの勝利。

順番は種目決定後に司令塔が参加生徒を選んだ際の順番とし、1番目の生徒同士がじゃんけんをして勝った生徒のクラスから交互に選んでいく。(お互いのクラスを合わせた順番で円になって座る)

司令塔はゲーム中、一度だけ参加者の1名の順番を任意の順に変更できる。(その間、5秒カウントはストップするが、10秒以内に変更場所を指定する必要がある)

 

山手線ゲーム 参加人数:9人

一般的な山手線ゲームのルールに準ずる。課題は学校が用意したものをランダムに発表。1人持ち時間5秒以内に有効回答を答えなければ失格。最後の1人が残っていたクラスの勝利。

順番はゲーム開始前にランダムに数字が割り振られ、数字順にお互いのクラスが交互に回答していく。(お互いのクラスを合わせた順番で円になって座る)

司令塔はゲーム中、一度だけ参加者の1名の順番を変更できる。(その間、5秒カウントはストップするが、10秒以内に変更場所を指定する必要がある)

 

百人一首   参加人数:7人

一般的な百人一首のルールに準ずる。1対1の勝負を同時に7組行い、勝った組が多いクラスの勝利。対戦順番は司令塔が生徒を選択した順番になる。

司令塔は、7組のうち3組まで任意のタイミングで、札の並びを変更することができる。

 

イエスノーゲーム 参加人数:2人

出題者と質問者に分かれ、出題者は学校が用意した複数の解答から1つを選ぶ。質問者は対戦相手の出題者に20回までイエスかノーで答えられる質問をすることができ、解答がわかった時点でその旨を伝え、正解なら残りの質問可能回数分の得点を得る。不正解の場合質問可能回数が2回減り、0になった時点で終了。計3回繰り返し、最終ポイントが高い方の勝利。同点の場合は、正解までにかかった時間の合計が短いクラスの勝ち。

司令塔は各解答に対して、1度質問することができる。この質問は回数を消費しない。

 

空手      参加人数:5人

一般的な空手のルールに準ずる。勝ち抜き戦

司令塔は、一度だけ勝負を無効にし、再戦することができる。

 

柔道       参加人数:3人

一般的な柔道のルールに準ずる。勝ち抜き戦

司令塔は、一度だけ勝負を無効にし、再戦することができる。

 

ボクシング    参加人数:1人

一般的なボクシングのルールに準ずる。3ラウンド戦。決着がつかなかった場合はサドンデス。

司令塔は、一度だけ勝負を無効にし、再戦することができる。

 

棒倒し      参加人数:16人

一般的な棒倒しのルールに準ずる。3セットマッチ。

司令塔は、一度だけ勝負を無効にし、再戦することができる。

 

相撲       参加人数:6人

一般的な相撲のルールに準ずる。勝ち抜き戦

司令塔は、一度だけ勝負を無効にし、再戦することができる。

 

****************

 

「一之瀬、どう見る?」

 

種目を確認した神崎くんが難しい顔をしている。

 

「格闘技の攻略と椎名さんがどこに出るかがポイントになりそうだね」

 

南雲先輩が開催したリアルケイドロのミッションで神経衰弱をした椎名さんが無双状態だったと聞いている。なんでも勝てたのは綾小路くんと坂柳さんだけだったとか。

それが今回の種目に入っているのは見過ごせない。

ただ、彼女はDクラス内で学力も高い生徒。私たちが選んだ種目は全て学力テストだから、その対策でこっちの種目に出てくる可能性もある。

 

「一つ俺からも注目したいポイントがある。椎名派の考えたであろう種目は司令塔の介入の影響が大きく、龍園派の方の種目は司令塔の介入は最低限だ」

 

「そうだね。うーん、これは……」

 

椎名さんクラスの司令塔は、諸藤りかさん。彼女の能力に信頼をおいているかどうかの違い、じゃないはず。

 

「これはあからさまな誘いなんじゃないか?」

 

「どういうことだよ、神崎」

 

神崎くんも私と同じ考えみたい。

ピンと来ていないクラスメイトを代表して柴田くんが聞き返す。

 

「先日のDクラスの内輪揉めは演技で、椎名派の種目から目を逸らすための作戦だったと俺たちは結論づけた」

 

「一之瀬の話だとそういうことだったよな」

 

「だが、言葉を選ばずに言うが、一之瀬と諸藤が勝負すれば、一之瀬の勝率が圧倒的に高い」

 

「うん!帆波ちゃんが負けるはずないよ」

 

自信満々に答える千尋ちゃん。嬉しいけどちょっと恥ずかしい。

 

「つまり、普通なら司令塔の介入が極力影響しないルールで作ってくるはず。それがそうなっていない時点で、龍園派の種目で勝負します、と言っているようなものだ」

 

「あー、ってことは、この前のはやっぱり演技じゃなくて龍園たちが司令塔を無視できるように準備してるってことか」

 

うんうんと元気よく頷く柴田くん。

既存の情報だけみると、龍園くんたちが自分たちのクラスの種目を担当する攻撃チーム。椎名さんたちが私たちの種目の攻略を担当する守備チームに分かれている、と捉えた方がしっくりくる。

だけど、今回は相手が相手……。

 

「残念だけど、そこまでシンプルじゃないかもしれないよ。ただ、私たちの方針は変わらない。どの種目を選んできても対応できるように特訓するだけ。私も司令塔として頑張るから、みんなもよろしくね!」

 

「おー!」とクラスメイトから活気に満ちた返事を貰えた。

司令塔としてクラスの役に立てる場面が多いならそれに越したことはない。

椎名さんたちは奇をてらったつもりかもしれないけど、このくらいじゃ私たちは迷わない。

 

これまでがそうだったように、みんなで協力し合えばきっと乗り越えられる。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

放課後の生徒会。

どの学年も特別試験期間中で部活動は休みだが、生徒会は卒業式の準備があるため活動していた。

 

「綾小路、お前、字が綺麗なんだってな」

 

なんちゃって学風の南雲がニヤリと笑いながら話しかけてくる。

つまりロクな話じゃない。

 

「それでオレに何をさせたいんですか?」

 

「まだ褒めただけだろ」

 

「南雲先輩が褒めるなんて裏があると考えるのが普通ですから」

 

「チッかわいくねー野郎だ。ま、その通りなんだが」

 

この無駄なやり取りを省きたいと本題に入るように促したのに、結局一言二言と多くなっていく。

全くもって面倒だが、少しでも会話を長引かせ、相手から情報を引き出す、南雲の処世術なのだろう。

それならそれでオレも然るべき対応を取らせてもらうだけ。

 

「喜べ綾小路。デジタル主流の現代社会じゃ出番が少なくなったその特技を活かせる場をやるよ」

 

「ワーイ、ウレシイナー」

 

「卒業証書に卒業生の名前を書く重要で名誉ある仕事を任せる。なんと言っても高育の卒業証書だ、一生の宝にするヤツも多いんだぜ」

 

「ワーイ、ウレシイナー」

 

南雲はいつものしたり顔で卒業生のリストと大量の卒業証書に筆ペンを目の前に置いてきた。

 

「ちなみに予備はないから書き損じるなよ」

 

「ワーイ、ウレ……予備がないなんてことあり得ますか?」

 

「資源は無駄にできないからな、SDGsってやつさ」

 

ただの嫌がらせのための言い訳にされるSDGs。

何でもSDGsといえば許されると思ったら大間違いだ。

 

とはいえ、書き間違いが生死を分ける環境で育った身としては、このぐらいの作業で書き損じることなどそれこそあり得ない。

 

南雲としては嫌がらせのつもりなんだろうが、お安いご用というやつだ。

 

「今回の卒業式用の特注品だからな。ミスったら発注し直し。式までの納期を考えると特急仕上げの追加料金で最少100枚からの注文になる。もちろん、ミスったヤツの自腹だぜ」

 

早速書き始めると、無駄とは知らずにプレッシャーをかけてくる南雲。

外見が変わっても中身は変わらなかったな。

 

「これが上手くいったら、卒業式の演出で書道パフォーマンスさせてやるよ。大きな紙にドデカくエールの言葉を書くなんてどうだ?」

 

「え!?それは良いアイディアですね、南雲先輩」

 

のるな、一之瀬。

遠巻きに様子を伺っていた一之瀬もこちらに寄ってくる。

……ここであえて書き損じて、話をなかったことにした方が楽か?

いや、書道パフォーマンスをサプライズで実施すれば、少なくとも橘は喜んでくれそうだな……。

 

「あー、卒業式の立看板とかも綾小路に作ってもらうかー」

 

「いいですね、綾小路くんクオリティなら先輩方も感動すると思います」

 

順調に書き上げているのが気に入らないのか、次々と仕事を追加してくる。

よほど、この学スタイルにさせられたことを根に持っているのか。

 

だが、何を言われようと動揺することはない。

 

Aクラス分が終わり、Bクラスの最初の1人の名前を書こうとした時だった。

 

「頼もうっ!!」

 

勢いよく生徒会室のドアが開き、振動と大きな声が室内に響き渡り、閉め切っていた生徒会室に風が入り込む。

 

「あ……」

 

その風圧で卒業証書の束が数枚ふわっと浮き上がる。

 

そして、お約束の展開とでも言えばいいのか、狙ったかのようにオレの手元にサッと舞い落ちてくる。

 

すでに筆ペンを持った手は真下の証書に文字を記す体制に入っているが、今から引きあげて間に合うか、どうか。

 

と、その時だった。

 

オレの真後ろで様子を見ていた一之瀬が左手で素早く紙を押さえ、もう片方の手でオレの手を握り、卒業証書にペン先が接触しないよう見事止めてみせた。

 

もちろん背後でそんな動きをされれば、必然、背中に別の温もりを感じることとなる。

 

「わわっ、ごめんね。危ないと思って咄嗟に」

 

ちょっとだけ間を空けて、ハッとしたように一之瀬が飛びのく。

 

「いやこちらこそ助かった」

 

たとえ一之瀬が人類最速の反射神経の持ち主だったとしても、あのタイミングで防ぐことは難しいのではないだろうか。

例外があるとすれば、事前にそうなると予測していた場合のみ……。

 

しかし深く考察するまでもなく、その疑問は生徒会室へ入室してきた人物たちを見て解決する。

 

「柴田、騒がしいぞ。生徒会の皆さん、すみませんでした」

 

「ちょっと気合入り過ぎちまった」

 

入口には神崎と柴田をはじめとしたBクラスの男子が数名立っている。

 

「みんなお疲れ!待ってたよ。それじゃ綾小路くん、行こうか!」

 

「行こうか?」

 

「うん、約束通りみんなを鍛えてもらいたくて」

 

「なるほど……」

 

昨日の賭けの話か。ここまで話題にしてこなかったことを不思議に思っていたが……この話しぶりだと賭けは一之瀬の勝ちだったようだ。

 

「おいおい帆波、綾小路には卒業証書を書くっていう仕事が――」

 

「別に急ぎじゃないですよね?最悪前日までにあればいいもののはずですし」

 

「そりゃそうだが……」

 

「安心してください、南雲先輩。綾小路くんの実力ならそんなにお待たせしないのは見ての通りですから」

 

既に完了している3年Aクラス分の卒業証書を指さす。

 

「まぁそうだな。なら今やってしまっても――」

 

「そういうことで今日はこの辺りで失礼しますね。お疲れ様でしたー」

 

元気よく挨拶する一之瀬は「行こっ」とオレの手を引っ張り、生徒会室から退室する。

 

「なぁ神崎、俺たちわざわざ生徒会室に来る必要あったか?玄関で待ち合わせとかでも良かった気がすんだけど……」

 

「そうだな、生徒会の仕事に追われていた綾小路を連れ出すきっかけが欲しかったとかじゃないか」

 

「なるほど、さすが一之瀬だぜ」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

そうしてやってきたのは武道場。

 

「これが椎名さんクラスが選んだ種目だよ」

 

横にいる一之瀬がグッと近づき、携帯の画面を見せてくる。

以前一之瀬に匿名の生徒へのポイントの振り込み方を教えた時を思い出し、その時とは似て非なる行動になんとも言えない気持ちになる。

 

「綾小路くん?」

 

「いや、なんでもない」

 

至近距離で不思議そうにオレを見上げる一之瀬から視線を携帯画面へ移す。

確かに運動系の種目とそうでない種目が半々だ。

だが、それ以上に注目する点はいくつもありそうだな。

 

「具体的なコメントは控えるが、一筋縄じゃいかないだろうな」

 

「だよね……。ただ私たちは私たちのやり方を貫いて勝負するつもり。考えすぎたら相手の思う壺だから」

 

「そう決めたならそれでいいんじゃないか」

 

「うん。だから神崎くんたちのことはお願いするね」

 

「約束だからな。ただ、絶対に勝てるようになる、という保証はできない」

 

仮に、確実にアルベルトを倒す実力を一週間で身につけるカリキュラムを組んだとしたら、本番前に全員力尽きて不戦敗になる。

 

「綾小路、俺たちも先月からジムに通い始めて基礎体力は向上している。遠慮なくしごいてくれ」

 

「あいつらにはリベンジしてやりたいと思ってたんだ、ド派手な必殺技とか教えてくれよ」

 

神崎と柴田をはじめ、他の男子もやる気に満ちていた。

クラス全体の前向きな姿勢とモチベーションの高さは、他クラスとは比べ物にならない。

それだけに惜しいクラスとも言える。

 

「綾小路くん、あとはよろしくね」

 

「一之瀬は……他の種目のケアか」

 

「うん。司令塔としてやることが多いから、なるべくみんなの練習に顔を出すことにしたんだ」

 

「そうか。大変だな」

 

「そんなことないよ。みんなの力になれるならこれぐらいなんてことないから。それに……今日はたくさんパワーをもらえたし

 

「ん?」

 

「ううん。それじゃ、またね、綾小路くん」

 

「ああ」

 

元気よく走り去っていった一之瀬。

 

「さて……」

 

こちらの指導はどうするか。一週間でできることは限られている。

 

「今の実力を測りたい。全員で構わないから、本気でかかってきてくれ」

 

「え、マジで?この人数だぜ?」

 

「遠慮はいらない」

 

オレも久しくちゃんと身体を動かしていなかったからな。鈍った感覚を取り戻す準備運動ぐらいにはなるだろう。

 

その日からしばらくの間、放課後になると武道場から様々な断末魔が絶え間なく聞こえ続けることとなった。

あとから知ったが、近くを通った生徒たちの証言から、地獄の門が開いていたとか退学者の亡霊が集まっていたとかそんな怪談話として噂になったらしい。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

綾小路くんに格闘技対策チームを任せて、私は他のクラスメイト達の元へ向かう。

まずは、しりとり対策チームの麻子ちゃん、渡辺くんたちのグループ。

 

「お、一之瀬!丁度いいところに来てくれた。Dクラスの戦術がわかったかもしれない」

 

「ホント?」

 

自信たっぷりに渡辺くんが報告してくれる。

 

「ああ。学校内にある固有名詞ってところがポイントだと思うんだ。普通しりとりって固有名詞はナシの場合があるのに、今回逆だから不思議に思ってさ」

 

「そうだね。人の名前とかアリにしちゃうと収拾がつかなくなっちゃうし」

 

「特別試験として、ただのしりとりだと範囲が広すぎて時間の制約上、許可されなかった。だから、学校内の固有名詞って範囲を絞ってOKをもらったんじゃないかなって」

 

麻子ちゃんが経緯を補足をしてくれる。

 

「でも、わざわざ固有名詞にしたってことは意味があると思うの」

 

「そこでみんなで考えたんだけどさ、Dクラスが企んでるのは、当日色んなものを教室に置いておくって戦略なんじゃないかって」

 

「例えば、しりとりで難関の『る』なら、お茶の『ルイボスティー』とか風邪薬の『ル●』とかお菓子の『ルマン●』を準備しておけば簡単に答えられるよね」

 

「ってことで、俺たちも攻撃用に最後の文字が同じものをたくさん用意して、一点突破で相手の準備したワード切れを狙うってのはどうよ」

 

渡辺くんと麻子ちゃんが交互に説明してくれる。攻略の糸口を掴むことができた興奮が伝わってきて、私も嬉しくなってくる。

 

「うん、これはすごい良い作戦だと思う。みんなに任せて正解だったよ。この調子でよろしくね!」

 

「おう」

 

その後、しりとりの練習に付き合い、司令塔の介入のタイミングをみんなで相談していく。

山手線ゲームもだけど、この介入ルールは、答えがパッと浮かばずにアウトになりそうなクラスメイトを救うためのもの。誰を残すかも含めタイミングが重要になる。

 

次は神経衰弱のグループ。

ここは千尋ちゃんと夢ちゃんが率先してまとめ役をしてくれていた。

 

「あー、またハズレ。トランプの柄が全部帆波ちゃんだったら覚えられるのに……」

 

「でもアタリは隣のカードだったし、惜しかったよ」

 

「みんな調子はどう?」

 

「帆波ちゃん!」

 

「わわっ」

 

有無を言わさず千尋ちゃんが抱きついてきた。

こういう時の千尋ちゃんはストレスが溜まっている時。優しく頭を撫でる。

 

「実は椎名さんの攻略方法が全然思いつかなくて。とにかく練習しながら考えていこうってことになったんだけど……」

 

私の胸に顔を埋めたままの千尋ちゃんに代わって、夢ちゃんが状況を教えてくれる。

 

「なるほど……。シンプルな分、抜け穴的な攻略方法がないってことだよね。うーん、だったらこっちはチームワークを活かして戦うのはどうかな?」

 

「どういうこと?」

 

むくっと顔をあげた千尋ちゃんが尋ねてくる。

 

「今のところの脅威は椎名さんだけだよね。でもこの種目は4対4だから、椎名さんの番になる前に、その時点で判明している札を全部取っちゃえば、椎名さんは運に頼るしかなくなる」

 

「わぁ、さすが帆波ちゃん!」

 

「でも私たちにそんなことできるかな……」

 

「そこでいざとなったら司令塔の私の出番だよ。椎名さんに回るまでになるべく多くの札をめくってもらえたら、椎名さんの直前で司令塔の介入を使って大量にゲットする。上手くいけばそのリードを保つだけで、追いつけなくできるかもしれない」

 

「それだよ!それでいこうよ、みんな」

 

「うん、私たちも賛成ー」

 

まさか生徒会で頻繁にトランプをしていた経験が、特別試験の役に立つ日が来るとは思わなかったよ。

ありがとうございます、橘先輩。きっとこういう事態を予測して私たちに経験を積ませてくれてたんですね。

 

「あとはその練習だね!私も付き合うから頑張ろう」

 

最後に訪れたのは、イエスノーゲームの対策チーム。

これは浜口くんと別府くんのコンビにお願いしていた。冷静に物事を見れる浜口くん向きのゲーム。

彼なら上手く答えにたどり着けると見込んでのもの。

 

「一之瀬さん、お疲れ様です」

 

「お疲れ!うまくできそう?」

 

「はい、何度か模擬戦をしてみましたが、コツを掴めば答えにたどり着くこと自体は難しくないですね」

 

「そっか。浜口くんたちにお願いしてよかったよ」

 

「あとはどれだけ質問数を残して答えられるか試行錯誤あるのみだと思います」

 

「うん。出題は学校がする以上、不正はできないだろうし、これもシンプルな実力勝負になりそうだね」

 

「同意です。この種目を用意したということは、自信のある生徒がいてのことでしょうから」

 

「司令塔にも質問権があるから、練習に付き合うよ」

 

「ぜひ」

 

こうして各対策チームと練習に励んでいたら、あっという間に1週間が過ぎていって、いよいよ試験本番の日がやってきた。

 






各種目で原作に出てきたもの、似たようなものはルールを簡略化して記載しています。
(各種目制限時間などもありますが、チェス以外に特にそれが話に絡むこともなかったため割愛しています)
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