ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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運には頼らない

選抜種目試験。

1戦目の男女混合リレーで、まずは1勝することができた。

 

ただ、あくまでこれは運良く条件が揃ってできた奇策に過ぎない。

これからが本当の勝負。

 

「なかなかどうして食えないところがあるな、堀北」

 

「そうかしら?Aクラスが相手ならまだまだ足りないぐらいと思っているのだけど」

 

「フッ、違いない」

 

さっきの策は葛城くんたちの裏をかいたつもりだったけど、すでに次の種目へと切り替えが済んでいるようで、全く動揺を感じさせない。

 

一筋縄ではいかない相手だと再認識する。

安定感のある葛城くんを崩すには、こちらのペースに引き摺り込むしかないわね。

 

「次はどんな策を見せてくれるか楽しみだ」

 

「策?そんなものはないわ。私はただクラスメイトを信じるだけよ」

 

「他クラスの俺が言うのもなんだが、ブラフにしてはお粗末だぞ。お前にはあまりに似合わない台詞だ」

 

「失礼ね、誰が『兄さん大大大大好きな一途で可愛い妹を貫きすぎてぼっちになってるお前には似合わない台詞』ですって!?」

 

「っ!?そんなことを言った覚えはない」

 

「冗談よ。葛城くん、あなた綾小路くんよりもノリが悪いわね」

 

「……それは貶されているのかどうか判断に苦しむな」

 

「そうね、参考までに綾小路くんなら『それは間違いだ。オレの方が学のことを大大大大尊敬してて他には何も必要ないからお前よりもぼっちだぜぇ』と言ってくれるわ」

 

「綾小路……そんなやつだったのか」

 

「ええ、私が保証する」

 

混乱したように頭を抱える葛城くん。

これで少しは集中を乱せたかしら。

 

「お前には少なくとも俺という友がいる、ということを今度伝えてやらんとな」

 

真顔でそう答える葛城くん。意外としぶといわね。

 

「はいはーい、おしゃべりはそこまでー。次の種目の抽選結果が出るよー」

 

星之宮先生が軽い口調で進行していく。

 

モニターに目を移すと、2戦目の種目が表示された。

 

『テニス』参加人数2人

 

今度はAクラスから種目が選出された。

 

「それじゃ、テニスに参加する生徒を選んでくださーい」

 

「ではAクラスからは、テニス部の橋本と元土肥に出場してもらうか」

 

「わざわざ宣言してくるなんて、葛城くんも良い性格してるわね」

 

「先ほどのお返しだ」

 

選出時間は1分ほど。

悩んでいる時間はないのだけれど、このタイミングでこの種目が出てくると判断が難しい。

 

男女混合ダブルスを指定されているこの種目。

1週間で色々ペアを試してみたけど、1番強かったのは須藤くんと小野寺さんのペア。

このペアならテニス部相手でも勝てる見込みは十分ある。

 

ただ、須藤くんはバスケ、小野寺さんは水泳のキーパーソン。

どちらの種目も2人が抜けると勝率が著しく下がってしまう。

 

かと言って、温存してこの後どちらの種目も選ばれなかったら元も子もない。

 

目先の1勝を確実に拾うか、後の2勝の可能性のために温存するかの選択。

 

……一番最悪なのは、こちらが最高戦力を投入し、相手が橋本くんたちを使わず種目を捨ててきた場合。

 

元土肥さんはともかく、橋本くんは器用に何でもこなすタイプ。

ここで消費してもらうのはこちらとしてはマスト。

 

葛城くんもそれがわかっているから、私のリアクションを見て、主力を投入するか、しないかを見定めるつもりなのだろう。

 

「困ったときは綾小路くんを投入して勝ちを拾うことにしているの。女子は軽井沢さんあたりにしておこうかしら。エア・ケイでも見せてもらいましょう」

 

適当なことを言ってこちらの考えは読ませない。

慎重な葛城くんなら、無謀な賭けに出て負ける可能性のある選択はできないはず。

 

「それじゃ出場選手の発表でーす」

 

Aクラスからは宣言通り、橋本くんと元土肥さん。

私たちのクラスからは、高円寺くんと軽井沢さん。

 

「なるほど、高円寺を投入してきたか。橋本たちを選んだのは正解だったな」

 

やたら高円寺くん評価が高い葛城くんだけど、私としては捨て種目としての選出。

何かの気まぐれで彼が本気を出してくれたら儲けもの、ぐらいの感覚。

 

『テニスなんて久しぶりだねえ』

 

しばらくして、モニターにはテニスコートで、なぜかテニスボールをラケットの側面に乗せ、そのボールの上にさらにラケットを乗せてバランスをとっている高円寺くんが映し出される。

 

「流石高円寺だ。あんな芸当ができるのは前腕筋群をしっかり鍛えている証拠だろう」

 

あのバランス感覚は、筋肉の問題なのかしら……。

 

『ちょっと、そろそろ私のラケット返してよね』

 

『キミには不要な物だろ、避暑地ガール』

 

『ひしょちがーる??』

 

『まあ私の美しいプレイを見ていたまえ』

 

『ザベストオブ3セットマッチ 高円寺サービス トゥ プレイ』

 

コントみたいなやり取りのまま試合開始が宣言される。

 

『おいおい、高円寺のやつ何するつもりだ?』

 

橋本くんが慌てた様子でツッコミを入れる。

 

それもそのはずで、ボールを乗せたラケット(軽井沢さん分)を地面に置き、構えはじめた。

 

『ショータイム』

 

自分のラケットで、軽井沢さんのラケットを掬い上げ、ボールとラケットがそれぞれ宙に舞う。

 

かと思ったら、自分のラケットを上に放り投げた。

 

それが軽井沢さんのラケットに当たり、さらに上昇した軽井沢さんラケットがボールに当たり、ボールは空高く飛んでいく。

 

その後、高円寺くんは高々と跳躍し、自分のラケットと軽井沢さんのラケットを左右の手でそれぞれキャッチ。

 

そこから空中で一回転しながら、ちょうど頭上に落下してきたボールを相手コートに打ち込む。

 

目にも止まらないスピードで強烈なサーブが相手コート(と橋本くんのみぞおち)に突き刺さる。

 

何が起きたか認識が追いつかなかったのだろう。

音もなく倒れる橋本くん。

 

「どう?これがエア・ロクスケィよ」

 

ひとまず予定通りという空気を出しておこうかしら。

 

「くっ、高円寺はやはり要注意人物だったな」

 

「色んな意味で要注意人物であることは否定できないわね……」

 

とは言っても、このまま橋本くんが起き上がらなければ、試合続行不可でこちらの勝ちだわ。

 

『えー、高円寺選手。ラケット2本使用により反則。よってこの試合、橋本・元土肥ペアの勝ちとします』

 

「……」

 

「……まぁ、あれだ。高円寺も悪気はなかったんだろう。魅せプレイが好きなヤツだからな」

 

なぜか敵であるはずの葛城くんからフォローされてしまう始末。

 

『ハッハッハッ、これはケアレスミスをしてしまったよ。まあ私はルールに縛られる男じゃないからねえ』

 

『えー……』

 

絶対わざとね。

試合をさっさと終わらせるために、反則行為を実施。

もしラケット2本が注意程度で済んでも、橋本くんを倒しておけばどちらにしろ試合終了。

勝敗は関係なくどっちになっても一球で終わらせる算段。

 

……元々捨て試合と思ってたわけだし、はやく忘れて次の種目に切り替えましょう。

 

3種目は『英語』参加人数は8人

 

ここで攻めるか、捨てるか。

学力勝負は、主力を全員ぶつけて勝てるか勝てないかのギリギリのライン。

 

どうするか思考していると葛城くんから話しかけてくる。

 

「堀北、知っているか?世界的なデータでは、男子より女子の方が様々な科目を得意とし、この英語も得点がいいらしい。あくまで傾向があると言う話だが、参考にしてみたらどうだ」

 

「馬鹿を言わないで。男女差別するような発言はどうかと思うわよ」

 

「差別ではない。これは差異だ」

 

「葛城くんは生徒会を目指しているのよね。もしこれが歴代最優秀な前生徒会長であれば、差だの何だのなんて関係なく、どんな相手でも助けを求められれば平等に接して、救いの手を差し伸べたわ。そんな風に屁理屈を述べて人を区別する思考をしているうちは生徒会入りなんて不可能よ」

 

葛城くん、全く話にならないわ。坂柳さんも大変ね。

 

「グッ……。確かに堀北の言う通りだ。お前を揺さぶるためとはいえ、思ってもいないことを言ってしまった、それも不適切な内容で。謝罪させてくれ、すまなかった」

 

「やけに素直ね」

 

「生徒会に入りたいからな」

 

もう兄さんはいないのに、葛城くんも物好きとしか言いようがない。

 

「それにしても、俺も妹を持つ身だからわかるが、こんなに兄想いの妹がいて堀北元生徒会長は幸せ者だな」

 

「葛城くん、今度兄さんに生徒会入りを推薦しておくわ」

 

兄さんと同じで、葛城くんも妹好きとしか言いようがない。

全く、葛城くん、話の分かる人じゃない。坂柳さんが羨ましいわね。

 

そんな会話をしながら、英語テストに参加する生徒を選んでいく。

 

「へぇー、これは良い勝負になるんじゃない?」

 

「星之宮先生、私見は入れないように」

 

「はーい。じゃあ参加生徒の発表でーす」

 

モニターに生徒名が表示された。

 

「幸村、平田、王、櫛田、松下……勝負を仕掛けてきたか」

 

「ええ、ここを勝ってリードさせてもらうわ」

 

王さんが得意なのは英語で、他は人よりできるレベル。

他の科目では戦力が1人分減ることになるから、勝負するならここだと考えていた。

 

「だがAクラスも簡単には負けない」

 

Aクラスも勉強が得意な生徒を厚めに選出しているように見える。

ただ当然だけれど坂柳さんは入っていなかったり、主力を全員投入しているわけではない。

テスト系の種目を多めにしている関係で、そのあたりのバランスが難しいのだろう。

付け入る隙はそこしかない。

 

「――テストの集計結果を発表する。Aクラス730点、Cクラス740点で、この種目はCクラスの勝利とする」

 

坂上先生が結果を発表する。

 

「わー、Aクラスを勉強で倒しちゃうなんて、Cクラスすごいねー」

 

星之宮先生が褒めてくれるが、目が全然笑っていなかった。

 

「これは俺の判断ミスだな」

 

「さすがのAクラスも余裕がなくなってきたんじゃないかしら」

 

「そうでもない。そちらのクラスで学力が秀でた生徒は綾小路以外、全員出場した。つまり今後のテスト種目で俺たちのクラスは勝てるからな」

 

「そう都合よく行くといいけれど」

 

「ふっ、それもそうだな」

 

葛城くんの言う通り、先に戦力を投入しきる欠点で、その後の種目で優位に動かれてしまう点はある。

ただ、それを差し置いても、ここでの1勝は大きい。

 

チェスに頼らずとも、残りの私たちの種目で確実に勝つことで、特別試験の勝利を手にすることができる。

 

「次の種目の発表でーす」

 

相変わらず軽いノリで進行していく星之宮先生。

ただ、少しだけ笑顔に含みがあるような気がする。

 

4戦目の種目は――弓道 参加人数3名 の私たちの種目。

 

Aクラスに弓道部員も経験者もいないことはリサーチ済み。

弓道部で唯一経験のある三宅君の活躍で難なく勝利することができた。

 

これで3勝1敗。

 

5戦目は数学テストで参加人数7名。

 

先程の葛城くんの発言通り、残りの生徒では太刀打ちできるはずもなく、あっけなく敗北し、3勝2敗。

 

ただ問題はない。

予想が正しければ、各クラス3種目は選ばれるはず。

よってここで選ばれるのは、私たちの種目。

 

須藤くんも小野寺さんも温存できているため、勝率は高い。

 

6戦目は――テント組み立て競争で参加人数6人。

 

池くんの熱意を信じての採用だったのだけれど、勝負が決まる大事な局面で選ばれたのは不安がないと言えば嘘になる。

 

いくら練習で完璧だったとしても、勝負所に立ち会った経験値が少なければ、余計な緊張で思わぬミスを招くことはある。

 

理想は、そんな勝負どころの経験値が豊富な2人が担当するバスケか水泳だっただけに、くじ運の悪さは否めない。

 

それでも、面接のときに感じ取った可能性。

それをないがしろにしては、このクラスの成長はなくなってしまうような気がした。

 

 

それにもしここで負けてしまっても――彼がいる。

当てにするのは癪だけれどね。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

グラウンドの一角にこの種目用のスペースが建設されていた。

 

「みんな練習どおりやるだけだ!勝ってAクラスのヤツ等を見返してやろうぜ」

 

「おう!やっぱり池はキャンプ系の時だけは頼りになるな」

 

「そうでござるな、池殿が覚醒してるでござる」

 

出場生徒の本堂や博士が笑って応えてくれた。

めちゃくちゃ緊張して今にも吐きそうだけど、信じてくれた堀北のためにも、クラスのためにも何としても勝ちたい。

 

そして、春樹の分まで頑張って、卒業したらアイツんとこまで自慢しに行ってやるんだ。

 

「テント道具一式はここに置いてある。5つ先に組立てた方のクラスが勝ちだが、こちらで確認して、基準に満たない雑な立て方をしたテントがある場合は、その分立て直しとなる。また、道具は必要分しかないため、壊したり、紛失したりしないよう注意するように」

 

審判を担当する先生がマニュアルを見ながらルールの再確認をする。

 

「道具を粗末に扱うクラスには勝ちはないってことっスね」

 

「そういうことだ。勝負開始まで10分時間を取る。これから道具の確認をし、万が一足りない場合は申告すること」

 

「わかりました」

 

Cクラスの設置スペースへ移動して、みんなで道具の点検を始める。

 

「ロープよし、ペグよし――」

 

「池殿、ホントに見違えておりますな。さっきも普段の池殿なら無駄な質問で流れをぶった切るのがお約束でござろう?」

 

「だよな~」

 

「え、俺そんな風に思われてんの?」

 

「でも今日は頼りになる証拠でござるな。練習通り、的確な指示をよろしく頼みますぞ」

 

「もちろんだぜ」

 

そうして点検をしていると、足音が聞こえ顔を上げる。

 

「おわっつ!?」

 

「……随分なご挨拶だな」

 

顔を上げたすぐ先にAクラスの鬼頭の顔があって思わず声が出ちまった。

神室ちゃんや他の参加生徒も来ているっぽい。

 

「いやいやいや、顔上げたら急に鬼頭の顔はきついって」

 

「消すか?」

 

「やめときなさいよ、こいつの主張も一理あるって」

 

「そうか……」

 

神室ちゃんに止められ外そうとした手袋をすっと戻す鬼頭。

 

「しょ、勝負前に脅しに来るなんて卑怯じゃねーか」

 

「そ、そうでござるー。それがAクラスのやり方でござるかー」

 

本堂や博士が抗議してんだけど、それなら俺の後ろに隠れて言うんじゃなくて、俺と鬼頭との間に入って言って欲しいんだよな……。

 

「勘違いするな。勝負前に挨拶にしに来ただけだ」

 

鬼頭が右手を差し出してくる。

 

「……カチコミって意味の挨拶じゃないんだよな?」

 

「そちらに変更するか?」

 

「じょ、冗談だって。よろしくな」

 

「ああ」

 

鬼頭の右手を握り返し、握手に応える。

鬼頭のことはよく知らねーけど、一応正々堂々的な感じなのかもしれない。

 

言葉通りの挨拶を済ませるとAクラスの陣地に帰っていった。

 

「いやー、勝負前に死ぬかと思ったぜ」

 

「暴力行為禁止、とはルールに書いてござらんかった。つまりそういうことかと焦ったでござる」

 

「さすがにそれはねーよ、ねえよな?」

 

向こうにその意図があったかどうかはわかんねえけど、プレッシャーのかかる場面で見事集中を乱されている。

 

「気にすんなって。ルールに書いてないからってやって良いことと悪いことはあるだろ」

 

「まあそうだよな」

 

Aクラスの訪問でちょっとした騒ぎにはなったけど、その後は特に問題もなく、10分間の確認時間が終了する。

 

「それではこれより種目を開始する」

 

審判がスタートの合図でスタート用のピストルを鳴らした。

Aクラスは鬼頭の指示のもと、テキパキと道具を運び組み立て始める。

優等生で協調性の高いクラスだから連携はしっかりしているようだった。

 

でも連携なら俺たちも負けない。この一週間、本気で練習してきた。

 

「予定通り、本堂と博士で道具を配置していってくれ。準備が整うまでは残りメンバー最初の1つを組み立てる」

 

効率重視の分業で複数のテントを並行して作っていけるように作戦を立ててきた。

テントの組み立てにはいくつか工程があるから、それぞれ特訓してきた担当工程を割り振っていく。

 

「池殿、2つめのテント広げ終わったでござる」

 

「オッケー、ポール組、引継ぎよろしく!」

 

「了解」

 

博士たちが3つ目のテントを広げはじめ、ポール組は2つ目のテントにポールを通りはじめる。

 

そうして順調に組み立てていく。

 

このペースならAクラスよりも早く出来上がりそうだ。

 

心に余裕が出てきたからか、無人島試験でテントを張った時のことが頭に浮かんできた。

 

『マジでテント立てんの上手いじゃん、寛治』

 

『へへ、小さい頃からよくやってたからな』

 

『俺だって、探索中に右手さえ痛めてなけりゃ、寛治にも負けねえスピードで組み立てられるんだけどよ』

 

『ホントかぁ、春樹?』

 

『マジ、マジ。絶対役に立ったって』

 

『ってあれ、ペグが一本ねえや。さっきまであったと思ったんだけどな』

 

『これのことか?』

 

『そうそう、それだよ。サンキュー』

 

『なっ、役に立ったろ』

 

『お前さ、右手で普通に渡してきたけどよ、痛いんじゃなかったか?』

 

『あっ……いてててててー。無理しすぎたわー、あと頼む』

 

『ったくしゃーねーな』

 

いつだって春樹はくだらない嘘やいたずらで場を和ませてくれたし、なんだかんだやるときはやる男だった。

 

……おまえの分まで頑張るからな、春樹。

 

最後のテントも完成が見えてきた。

ちらっとAクラスの様子を見た限り、あっちは最後のテントに取り掛かりはじめたばかり。

俺たちがリードしている。

 

「よっしゃ、このまま勝とうぜ」

 

「勝てる勝てる勝てる」

 

「ござるござるござる」

 

ペグを地面に打ち込み、固定していく。

 

「あれ、そっちにペグってある?」

 

本堂が何やら慌てた様子で博士に尋ねた。

 

「ん?ござらぬよ」

 

「池!やばい、ペグが1本ねえよ」

 

「は?ったく、どこやったんだよ、おい春樹も探すの手伝ってくれ、得意だろ」

 

「池殿……」

 

「あ……わりぃ。ま、みんなで探せばすぐ見つかるって」

 

動揺して変なこと言っちまった。

仕方ないだろ、2週間ちょっと前までは当然のようにいたんだからさ……。

 

「だよな。風で飛ばされるもんでもないし、きっとテントの下とか中に紛れ込んでるんじゃないか」

 

「まだAクラスとの差はござる、焦る必要はないのでござるよ」

 

直前の微妙な空気をなかったかのように取り繕うメンバー。

すぐ見つかると考えてたけど、いくら探しても見つからない。

 

それさえあればもう完成するってのに。

 

「おい、ちゃんと運んできたのかよ」

 

「はぁ?そっちこそチェック段階で見落としたんじゃねえか」

 

あれだけまとまって動いていた仲間たちに亀裂が入る。

 

『じゃじゃーん、俺が隠し持ってましたー。やっぱさ、ちょっとぐらいピンチを演出して接戦感を出しときたいじゃん』

 

きっと春樹なら必死になって見つけ出したペグを、そんなこと馬鹿言いながら渡してくれた、よな。

 

それを俺たちは余計なことすんなって笑いながら叩いて――。

 

「そこまで。Aクラスのテントが完成し、張り方にも問題はなかった。よって、この勝負、Aクラスの勝利とする」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「最後の方、Cクラスが急に失速したようだったが――」

 

「さぁ、なんか道具でもなくしたんじゃない?」

 

「そんなことがあるのか?だが、それがなければ正直勝てていたかどうか。思わぬ強敵だった」

 

「ま、私たちの方が運が良かったってことでしょ」

 

「……そうだな」

 

納得はしてなさそうだけど、鬼頭は教室に帰っていった。

 

「はぁー」

 

思わずため息が出る。

 

Aクラスで居続けるためには、勝負に勝つためには、キレイごとだけでは不可能だ。

 

きな臭い噂が多い2年の南雲先輩やキレイごとばかりで成果を出せないBクラスがそれを証明している。

 

坂柳はそのあたり柔軟に対応できるリーダーだから、弱み云々を差し引いても、渋々付き合ってきた。

 

でも今回の試験は、坂柳は綾小路に夢中でクラスのことには無関心。

葛城も鬼頭も真面目過ぎて話にならない。

橋本はそもそも信用できないし……。

 

だったら私が汚れ役をやるしかない。

 

泣き崩れるCクラスのヤツを横目に、さっと隠し持っていたペグを戻してグラウンドを後にする。

 

反則行為として相手の道具を使用してはいけないという項目がない以上、何かの間違いでこっちに道具が紛れ込んでいても罪にはならない。

 

罪悪感はない。

こっそり盗み出すことなんて、この学校で坂柳に見つかるまでは平然とやってきたことだ。

 

ただ――昔はそのスリルが心を満たしてくれる気がしたのに、なぜだか今回は全く満たされることはなかった。

 

「……退屈させないでくれるんじゃなかったわけ」

 

行き所をなくした気持ちを無意識に呟いていた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「惜しかったな、寛治」

 

「俺たちAクラス相手に善戦できたってだけでもすごいって、だからそろそろ元気出せよ」

 

「……」

 

教室に戻ってきた池を須藤や本堂が励ましている。

 

話を聞く限り、最後の最後に道具がないことに気づいたらしいが、事前のチェックで問題がなかったのであれば、可能性が高いのはAクラスの妨害工作だろう。

 

『単純な種目としての勝負』としか認識していなかった池たちでは対処しきれなかったか。

 

確かに池は成長していたし、この種目に限って言えば勝てるだけの力もあった。

だが、それだけではこの学校で勝つことはできない。

 

堀北としては自分たちの力で勝つことで成功体験を経験させておきたかったのだろうが、これはこれで良い経験になったのかもしれない。

 

ともかくこれで3勝3敗。

特別試験の勝敗は最後の種目に預けられた。

 

そして最後の種目はもちろん――『チェス』 参加人数1名。

 

モニターに種目名が出てきたかと思うと、すぐ画面が切り替わり参加生徒の名前が表示された。

 

Aクラス 坂柳有栖

 

Cクラス 綾小路清隆

 

席を立ち、指定された会場へと移動を始める。

 

「勝てよ、清隆」

「頑張ってね、清隆くん」

「ふぁいと~きよぼん」

「清隆なら坂柳にも負けない」

「よろしく頼んだよ、綾小路くん」

「清隆くんなら大丈夫です」

「清隆、案外坂柳さんはザコなとこあるわよ」

「清隆くん、今日もカッコイイ」

 

教室から出るまでに、綾小路グループや平田、みーちゃん、恵、麻耶をはじめとしたクラスメイト達から声援を受けながら送りだされた。

そんな応援されることでもないと思ったが、申し訳程度の拍手しかもらえなかった一年前の自己紹介から考えると変われば変わるものだと感慨深いものがある。

 

ただ、中には

 

「綾小路くん、もちろん勝って欲しいけど、別に負けちゃっても誰も責めないから、うんうん、負けちゃって大丈夫だよ。気にしないでいいからね。退学~」

 

とオレの敗北を熱望する声も混ざっていたような気もしないでもない。

 

「綾小路くん、お待たせしました。自家用車を使えないというのは不便でいけませんね」

 

チェス会場の前で待機していると少しして坂柳が到着した。

 

「わざわざここで待っていてくださったということは聞きたいことでもあるのではないですか?」

 

察しの良い坂柳の言う通り、会場の様子はカメラで撮影されているため、ちょっとした音声は拾ってしまう。

遠慮なく話すならこのタイミングだけだった。

 

「大した話じゃないんだが、やはり、7戦目をチェスにする権利をポイントで購入していたのか」

 

「もう隠す必要もございませんね。おっしゃる通りです。あなたとの勝負をくじ運で流されてしまうわけにはいきませんから」

 

「この学校でポイントで買えないものはない、か」

 

「さすがに5種目全部採用する、といった類のものは無理でしたが」

 

1年の集大成であるこの試験で、ポイントの利用ができないはずがない。

 

堀北を通して茶柱先生に確認したが、7戦目の優先権などは残念ながらCクラスの手持ちポイントで購入できる額ではなかった。

 

勝つためなら借金でもしかねない堀北も、両クラスが購入した場合は競りになる、ということもあって早々に購入を断念していた。

 

そして1戦目もそうだが、途中でチェスが出てこなかったのは、この7戦目で確定していたから。

だからこそ、坂柳は1戦目のリレーで相当焦ったと思ったのだが、今のところ何も言ってこないな……。

 

「よくここまでするな」

 

「それだけ本気でこの勝負を楽しみにしていたことが綾小路くんに伝わって良いじゃありませんか」

 

「その分のポイントをくれればチェスぐらいいつでも付き合ったんだがな」

 

「……次回があれば検討しましょう。言質取りましたよ?」

 

「俺は安くないぞ」

 

「はい、知っていますよ。最高傑作さん」

 

嬉しそうに軽口を叩く坂柳。

来年度はレンタル綾小路くんをして、ポイントを稼ぐのもアリかもしれない。

ファンクラブがあるぐらいだ、それなりに需要も見込めるだろう。

 

そんな馬鹿なことを考えながら、チェスの会場に2人で入場した。

 




※原作ネタバレ注意



本当は橋本くんのすぐ隣を掠めていくぐらいの予定だったボールが彼のみぞおちに直撃へ変更したのは、原作2年生編10巻のせいです、高円寺くんがやってくれました←


あと意識したわけではないのですが、綾小路グループの勝率がえぐいことに……来年はクラスカーストトップ集団か……?


以下、補足解説になります。

7戦目の権利を購入できた仕組みについてですが、ルール上ランダム選出になっているため、6戦目まではチェスがない状態で抽選され、7戦目だけ残り種目の札がすべてチェスに置き換えらた状態で抽選されるといったような仕組みを買っている形になります。

※基本的な抽選の仕組みは、1戦目は10種目の中からランダム、2戦目は9種目の中から~と出た種目が減っていき、同クラスから3種目でた時点で、対戦相手が3種目出るまで残り2種目は抽選候補から外れる、という抽選システムを想定しています。

また、裏ルール(独自解釈部分)の『公平性を保つため、両クラス3種目は絶対に抽選される』関係上、坂柳さんがいっていたように、5種目をAクラスの種目にするなどといったものは購入することはできません。

上記のシステムの都合で『●戦目を自クラスに』という条件で購入できるのは1、2、3、7戦目(購入金額は異なります)。またこんな権利を購入できる理由づけとしては、この権利が買えるほどのポイントを保有していたのも実力のうち、という考えとなります。
とは言っても、余程の策がなければ、わざわざ7戦目以外を購入するメリットはないのかもしれません。

ちなみに、坂柳さんは、7戦目が自クラスになる権利とチェスを7戦目にする権利を合わせて購入しています。

資金源は月々のポイントだけでなく、干支試験やリアルケイドロで荒稼ぎした分を当てていますが、さすがに貯金が少なくなってきました。
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