ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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Bクラス VS Dクラス その③ チェーホフの銃

私たちBクラスが3勝2敗で迎えた6戦目のしりとり。

 

参加メンバーが次々と会場に入っていく。

 

この種目で勝てなければ……。

 

さっき参加生徒を選ぶ画面をみて気づいたこと――このしりとりまでで、すでに38人の生徒が出場したという事実。

 

クラスの人数は司令塔を除くと39名だから、残りは時任くんだけ。

本当は千尋ちゃんを残しておく予定だったけど、この後の最悪の事態を想像した時、どうしても変更するしかなかった……。

 

ひよりさんのクラスは、真鍋さんが退学したことで1名少ない。

つまり、全員出場済みだから次の種目から2週目になって、誰でも選択できるようになる。

 

そしてポイントでの7戦目の権利の購入。

ポイントで権利が買える可能性を考えて星之宮先生に確認したら、案の定購入が可能だった。

 

直前に救済で2000万ポイントを使ってしまった私たちには到底払うことができない程の高額の権利。ただ、相手も同じくらい金欠のひよりさんクラスだから、問題はないと考えていた。

 

それが甘かったのかもしれない。

 

以前、龍園くんが南雲先輩からポイントを借りていたという話は聞いてたけど、その後、混合合宿で南雲先輩と決別した話も聞いた。

 

だから、ポイントを借りて用意する、なんてことは不可能だと決めつけていたんだよね……。

 

落ち着いて考えれば、南雲先輩なら条件次第では面白がって貸し出してもおかしくないし、他にも私が知らないだけでポイントを持っている人のツテがあって借りることができたかもしれないのに。

 

そうなった時、この後に待っているのは、7戦目ボクシングでアルベルトくんとの一騎討ち。

 

どう頑張っても勝てるはずがない……。

千尋ちゃんにそんなトラウマを植え付けるわけにもいかず、申し訳ないけど、時任くんに出てもらってすぐ降参してもらう。

 

今更気づいても、もうそのぐらいしかできることがなかった。

 

なんでこうなるまで気づけなかったんだろう……。

いや、いまはそんなことを考えているときじゃない。杞憂かもしれないし、このしりとりで勝てば、特別試験には勝つことができるのだから。

 

私は司令塔としてこのしりとりで勝てるように精一杯努めよう。

 

会場では円形に並べられた椅子に座り終えた参加生徒が、審判の先生からルールの説明をされていた。

 

『――それでは、回答はDクラスから座席順に交互に行ってもらう。最初の文字はしりとりの「り」だ。それでは、はじめ』

 

最初の生徒はDクラスの時任裕也くん。

私たちのクラスの時任克己くんとは遠縁って話だけど、2人が話してるところは見たことがない。

 

『……龍園翔』

 

使用できるワードは学校内に存在する固有名詞のみ。

もちろん名前も認められるんだけど、あの時任くんが龍園くんの名前を出すとは意外だった。何か心情の変化でもあったのかな。

 

次は渡辺くんの番。

たくさん特訓したしりとりメンバーの中心人物。

 

特に『る』の対策はしっかりしてきた。

 

『ル●ク』

 

購買部にチョコレートの「ルッ●」が置いてあるのは確認済み。

 

持ち時間5秒以内に答えなければ失格になっちゃうから、ハイテンポな戦いになる。

 

私たちは、購買部で売っているお菓子を中心に覚えて、足りないものはスーパーやコンビニ、ネットで買い足して教室に置いてある。

お菓子などの飲食物でジャンルを絞ることで、悩まずパッと答えやすくする作戦。

 

『櫛田桔梗』

 

『う●ぎパイ』

 

『一之瀬帆波』

 

Dクラスの野村くんから、私の名前が出たことで千尋ちゃんが野村くんを睨みつけている。

私は少しも気にしてないから、そんなことしちゃ駄目だよ千尋ちゃん。

 

『ミンテ●ア』

 

『綾小路清隆』

 

んんん?誰かな、綾小路くんの名前を勝手に使った人は……矢島さんかぁ、うん、覚えたよ。

 

って違う違う。

Dクラスは名前で攻めるつもりなのかな?だとしたら、すぐに限界が来るはず……。

 

『亀●の柿の種』

 

よし、良い回答だよ。

私の記憶している限り、『ね』から始まる苗字の生徒はいないはず。

 

『ね、ね、ね……寧々森?』

 

『藪菜々美アウト。席を移動するように』

 

審判からの指示で藪さんが失格者の待機席へ移動する。

藪さんが失格になったため、隣の中西くんから再スタート。

 

『ねるねるね●ね』

 

『ね』で続けて攻撃するナイスなチョイス。

 

『ネ●ター』

 

ネク●ーは確かに購買に売っている。

当然だけど、Dクラスは人物名以外にも準備していたみたいだね、簡単には倒せない。

ちなみに伸ばし棒の場合は直前の文字、この場合は『た』から始まる言葉を回答する必要がある。

 

『たこ焼●亭』

 

『姫野ユキ、アウト』

 

『え?』

 

『残念だが、た●焼き亭の正式名称は「元祖●こ焼き亭」となる』

 

これは仕方ない。

そうしてしりとりは続いていき、お互いに人数は減らしながらも、現在Bクラスの方が生き残り人数が多い状態で、1巡目Dクラス最後の生徒――椎名さんの出番が回ってくる。

 

「司令塔の介入をします」

 

諸藤さんが真嶋先生に申告する。

しりとりでの司令塔介入は『ゲーム中、一度だけ参加者の1名の順番を任意の順に変更できる』権利。

 

諸藤さんは椎名さんを直前に回答した千尋ちゃんの左隣、つまり1巡目をスキップして2巡目のDクラス最後の生徒になる位置に移動させた。

順番はBクラス最後の麻子ちゃんに移る。

 

「こんなところで介入権を使っちゃうなんてもったいないんじゃない?」

 

「そうでもないですよ。これでもう少しだけ勝負を楽しんで頂けます」

 

それって椎名さんが出たら勝負にならなくなるってこと?

 

「随分挑発的だね」

 

「そうですか?」

 

椎名さんが何をしてくるかはわからないけど、要は手の内を晒さないための移動。

どんな奇策を持ってきていても、1周してくるまでに私たちも対策は取れるわけで、なるべく人数が減るまでは温存したいってとこかな。

 

そうしてBクラス残り8人、Dクラス残り3人で今度こそ椎名さんの順番になる。

 

直前のワードは『ブレンデ● ボトルコーヒー』だから『ひ』。

 

椎名さんは悩むそぶりもなくサッと答える。

 

『緋色の研究』

 

……ん?

何だろうと思ったけど、審判の先生がストップをかけていないため、校内にあるもので間違いはなさそう。

 

『え?……えーと、う、う、う、うま●棒』

 

動揺した千尋ちゃんだけど、なんとかやり過ごす。

 

緋色の研究って聞き覚えはあるんだけど、なんだったっけ……。

 

3巡目の椎名さんの回答『誰の死体?』

 

4巡目の椎名さんの回答『Xの悲劇』

 

5巡目の椎名さんの回答『さらば愛しき女よ』

 

これってもしかしなくとも本のタイトルだよね。

『さらば愛しき女よ』は少し前に2年生の間で流行ってたって聞いたことがある。

 

6巡目を迎えるとBクラス残りは渡辺くん、麻子ちゃん、千尋ちゃんの3人。

Dクラスは椎名さんと時任くんだけになっていた。

 

順番は時任くん、渡辺くん、椎名さん、千尋ちゃん、麻子ちゃんの順番。

 

『わ…渡辺……お前下の名前なんだったけ?』

 

『時任裕也アウト』

 

『紀仁だよっ!!』

 

『あー、そんな感じするな。悪い、椎名。粘ってみたがここまでだ。後は任せた』

 

『ええ。任されました』

 

これであとは椎名さんだけなんだけど……。

 

『吾輩は猫である』

 

渡辺くんも気づいたようで、椎名さんのマネをして本の名称を答える。

普通なら数が少ない『る』のワード……。

 

『ルパン最後の恋』

 

ノータイムで回答する椎名さん。

 

「もうお気づきかと思いますが、椎名さんは大変読書家で、本人曰く、図書館にある本のタイトルならほぼ全部把握しているとか」

 

諸藤さんがそんなことを言ってきた。それが本当なら何万ものワードを椎名さんは操ってくることになる。

もちろん、私を焦らせるブラフの可能性だってあるけど、それを感じさせない余裕のある諸藤さんと椎名さん。

 

敗北の不安が私を包みこーー

 

『い……一之瀬、帆波ちゃん、大丈夫、頑張って!!』

 

『白波千尋アウト。一之瀬帆波は2回目だ』

 

元々しりとりの予定じゃなかった千尋ちゃんは対策不足。

何も思いつかず、でも最後まで諦めず、私のことを気遣って叫んでくれた。

 

「千尋ちゃん、ありがとう」

 

気持ちを切り替える。本当に私にはもったいない仲間たちだ。

 

『いちごみ●く』

 

『「く」かー、えっと……』

 

麻子ちゃんが「いちごみる●」(飴)と回答し、渡辺くんの反応をみたところで、真嶋先生に声をかける。

 

「司令塔の介入をします」

 

司令塔権限で渡辺くんを椎名さんの次へ。

2人だけになったらほぼ意味がなくなるから、使い所はここだろう。

 

『では、椎名から「く」で再開だ』

 

渡辺くんが移動して、椎名さんの順番になる。

 

黒後家蜘蛛の会(くろごけぐものかい)

 

『また「い」かよ。えっと……伊豆の踊り子?』

 

なんとか思いついた文学作品を言ってみた感じだけど、図書室にあったみたいで失格にはならない。

 

『コカ・コ●ラ』

 

『ライ麦畑でつかまえて』

 

『て……手札抹殺?』

 

『渡辺…紀仁、アウト』

 

『待ってくださいよ!デュエリストがいたら誰か絶対持ってるって』

 

『残念だが、Sシステムを流用したチェックプログラムが該当なしと示した場合は、例外なくアウトとなる』

 

『そ、そんな……。てか俺の名前一瞬忘れてませんでした、先生?ひどいっすよ』

 

渡辺くんが必死に抗議してるけど、受け入れてもらえない。でもこれは次の麻子ちゃんのために時間を稼いでいるんだと思う。抗議を続ける渡辺くんの隣で、麻子ちゃんも難しい表情をしていた。

 

『これ以上抗議するなら遅延行為でBクラスの負けとする』

 

『すみません、やめます』

 

失格者待機スペースに向かう渡辺くん。

 

『それでは網倉から再開するように』

 

じっと悩む麻子ちゃんが出した回答は……

 

『……テキサス●チェーンソー』

 

そういえば、最近ホラーにハマってるって言ってたっけ。問題はDVDなりなんなりがこの校内にあるのかどうか……。

よかった、審判からアウトのコールはない。

順番が椎名さんに回り、麻子ちゃんと椎名さんの一騎討ち。

 

『そして誰もいなくなった』

 

『た、た、た……』

 

橘茜……なんてサッと出てくるのは生徒会役員だからだよね。麻子ちゃん、お願い。

 

『タンスにゴン●ン!!って、あ……』

 

『網倉麻子、アウト。よってこの勝負、Dクラスの勝ちとする』

 

これで3勝3敗。

どんなにみんなで協力しても、圧倒的な個に敵わない……。

そんな認めたくない現実に蹂躙されていく。

 

そうして私の脳裏にはあの時のあの言葉が過ぎりはじめる。

それを必死でかき消しては浮かび、かき消しては浮かび……。

 

言うまでもなく、しりとりで一生懸命戦った仲間たちに落ち度はない。

椎名さんの策を読み間違った私に責任がある……。

 

みんな、ごめん……。

 

涙が溢れそうになるのだけは必死で堪える。

 

お願い、奇跡でも何でもいいから……。

7戦目の抽選がはじまり、藁にもすがる思いで手を合わせて祈る。

 

 

7戦目の種目は――――――

 

 

「えっ……」

 

祈っておいて言うのもなんだけど、事態が飲み込めなくて、思わず目を擦ってからモニターを見直す。

 

 

そこには間違いなく『英語』参加人数3人 の表示がされていた。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

今頃一之瀬スポンサーはどんな反応をなさっているのでしょうか。

 

表示された英語の種目を見て想像を膨らませます。

 

心からの安堵、絶望の淵からの生還、勝利の確信……。しかし、少し落ち着いたところで疑念を抱く、そんなところでしょうか。

 

そうして試験内容が発表された後の龍園くんとの相談を思い出します。

ふふ、種明かしの回想なんて推理小説みたいでワクワクしますね。

 

「逆にこちらには龍園くんが獲得したポイントがあります。その優位性を利用して、購入して欲しいものが2つあるのですが……」

 

「俺に身銭を切れと?」

 

「もちろん、タダでとは言いません。龍園くんにとって十分な見返りを用意いたします」

 

「クク、その見返りで俺が満足できるかどうかは興味がなくもない。いいぜ、話ぐらい聞いてやる」

 

「ありがとうございます。では、まず購入してもらいたいものですが、1つ目は『7戦目が私たちのクラスの種目になる権利』、2つ目は『これまでのBクラス全員のテスト結果』です」

龍園くんは少し目を細めたものの、黙って話を聞いてくださっています。

 

「私の仮説が正しければ7戦目はポイントで購入できるはずです」

 

「最低でもこちらの種目で勝てば4勝できるってわけか。だが、机上の空論だ、戦力不足で実現できるとは思えない。仮に種目を工夫しても、必勝の種目を5つ作れるほど俺たちは層が厚くない」

 

「逆にBクラスはどこをついても弱点らしい弱点はなく、どんな種目でも平均以上の戦績を残されるでしょうね」

 

「そういうこった」

 

「でもそれだけです。勝ち星を狙える生徒が少ないなら、何度も出場してもらえばいいんです」

 

事前に用意していた人数のパターンを記載した紙を龍園くんに渡します。

 

「クク、確かにこれなら最低でも7戦目までに1週はするな。相手次第じゃ3週目もあり得る」

 

「ええ。ただ、ここまではあくまでも7戦目を購入できた場合の話。勝利を確実にするための2つ目です」

 

「それでテスト結果か」

 

「おそらくBクラスは学力主体の種目を用意してくる……いえ、もしかしたらそれだけで10種目埋めてくるのではないかと考えています。向こうの得意分野と、私たちの苦手分野が重なっていますから」

 

「ククク、最もすぎて反論の余地もねぇな」

 

「テスト結果をみれば、Bクラスの得意不得意科目、どなたが主力なのかなど事細かに分析できますので、向こうが最終的に選んでくる5科目を予想できるかと思います。そのうえでこちらの得意科目と照らし合わせ、勝ち目のある順番に3科目に絞りテスト勉強をする、というのが現実的な対策かと思います」

 

「3科目押さえておけば、最低1種目は抽選されるからな」

 

「はい。私たちの上位数名が得意科目で挑めれば、Bクラス相手でも勝ち目はあります。学力トップの一之瀬さんが司令塔で不参加ですしね」

 

「これが上手くいけば勝てる可能性は高い。だが、こちらの狙いに気づかれたら向こうの動きも変わってくる」

 

「そうならないようにする考えもございます。あのクラスで注意すべきは結局1人。一之瀬スポンサーが機能しなくなればいいんですから」

 

そうして残りの策と龍園くんへの見返りを伝えます。

 

「ハッ、ひよりにしちゃあ大胆な策だな」

 

「普通に挑んでいては敵いませんので。引き受けていただけますか」

 

龍園くんは少し考える素振りを見せたのち、ニヤリと笑い口を開きました。

 

「そうだな、俺の答えは――いいぜ、乗ってやる」

 

快諾を頂き、種目発表が行われたあと、早速坂上先生の元へ交渉に行っていただきました。

ところが――

 

「テスト結果は200万で購入したが、7戦目の権利、あれは買えたもんじゃねえ」

 

なんでも購入額が700万ポイント、さらに指定の種目にしようとすれば300万ポイントかかるそうです。

 

「残念ですが仕方ありませんね」

 

確実に勝つことはできなくなりましたが、それでも勝てる見込みは十分あります。

そう切り替えようとした時、龍園くんがニヤリと笑いました。

 

「だがな、残りの300万で『指定した種目がどこかで必ず選出される』権利なら購入してきた。しりとりを指定してある。これで十分だろ?」

 

「はい!」

 

こうして龍園くんの機転で準備が整いました。

 

今日の出目次第では化学のテストでも勝てた可能性があったのですが……こればかりは仕方がないですね。

回想したところでリアクションをとってくれる相手がいないため真新しい発見はなく、興味は次の事柄へと移ります。

 

あとは諸藤さんがお願いしたセリフを上手く伝えてくださるかどうか。

諸藤さんには、パターンごとの種目の参加者案を渡して、あとは『いつもの諸藤さんらしく振る舞って、思わせぶりな言葉を一之瀬さんに投げかけ続ける』ことをお願いしてありました。

また、それとは別に、7戦目にもしBクラスの種目が選ばれた場合のセリフもいくつか状況別に用意して渡してあります。

 

最後のダメ押しの一手ですが、念には念を入れておくにこしたことはないですから。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「えっ……」

 

「自分のクラスの種目なのに随分驚かれるんですね」

 

予想外の結果に思わず驚いていてしまったところを諸藤さんは見逃さなかった。

 

「だって――ううん、諸藤さん達が何か策を巡らせていると思ってたからさ」

 

「もちろん、巡らせていますよ?一之瀬さんはまた勘違いをしてますね」

 

「……聞かせてもらえるかな?」

 

ここで取り繕っても仕方がないから素直に話を聞いてみる。すると諸藤さんは、まるで他の人の言葉を代弁するように話しはじめた。

 

『英語で私たちに勝てる、と思っているようですが、本当にそうでしょうか?あなた方の英語の成績のトップは、一之瀬さん、あなたです。司令塔の介入でどこまで助けられますか?次点は神崎くんですが、空手で疲労しきっている彼が果たして好成績を出せるでしょうか?そしてあなたのクラスの残りの生徒は……時任くんは、英語の成績は普通。彼を選ばなければ、残り2人を選べない中、こちらはすでに全員出場しているためベストメンバーで挑めます』

 

……確かなのはDクラスは私たちの学力の成績を完全に把握して、この試験に臨んでいたということ。

そして私たちは時任くんを選ぶ必要があって、神崎くんには無理をさせられないから、ベストメンバーでないことも事実。

 

「だからって、勉強では負けないよ。この種目はひとり舞台で突破できるようなものじゃないし……」

 

時任くんの分は私が司令塔の介入でカバーできる。ボクシング&アルベルトくんみたいなどうしようもない状況じゃない。

 

「まもなく出場選手締め切り時間だ」

 

真嶋先生の言葉で会話は打ち切られ、私は時任くんを選択後、神崎くんを除いた英語成績上位2人を選んだ。

 

モニターに参加者が表示される。Dクラスのメンバーは、椎名さん、金田くん、そして――。

 

「知っていますか、一之瀬さん。Dクラスの学年平均点は学年最下位ですが、それは多くの生徒が平均を下げているだけで、一部生徒は得意科目でなら高得点を取っていたりもします。当然と言えば当然ですが、英語のテストで言えば、アルベルトくんは毎回すごいんですよ」

 

それでも、テストをやってみるまではどうなるかわからない。

 

 

テストがはじまる。

 

わたしもしれいとうとして、もんだいを、ひとつでもおおくとかなくちゃ……。

 

 

とかなくちゃ、いけないのに、なんだか、いつもいじょうに、あたまがまわらない……。

 

 

 

でも、わたしががんばらなきゃ、これまでのみんなのどりょくがむだになるのは……ううん、そもそもこんなことになったのはわたしのせいだ。

 

 

 

なんとか、なんとかしなくちゃ――――。

 

 

「テスト結果を発表する。Bクラス250点、Dクラス280点で、この種目はDクラスの勝利。よって特別試験は4勝したDクラスの勝利だ」

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

静かな図書館の片隅でお気に入りのブックカバーに包んだお気に入りの本を広げます。

 

今日はどの学年も特別試験のためか、どなたもいない貸切状態。

 

特別試験の勝利が決まった瞬間のクラスのみなさんの盛り上がりようは、この学校生活が始まって一番の賑わいだったように思います。

 

特に印象的だったのは

 

『龍園、空手は見事だった。この勝利はクラス全員で掴んだものだ』と時任くんが龍園くんへ右手を差し出し

 

『クク、今までで一番いい嫌味じゃねえか』と握手に応じた場面でした。

 

諸藤さんも真鍋さんの想いを証明できたと喜び、クラスメイトも受け入れていました。

 

頑張った甲斐があるというものです。

 

もしかしたら清隆くんがくるような、そんな気がしていましたがいらっしゃる気配はありません。

 

もう少しで図書館の閉館時間。

 

そんな時、図書館のドアが開きます。

 

「探したよ、椎名さん」

 

「……もう体調はよろしいんですか、一之瀬スポンサー」

 

「少し休んだらこの通りだよ」

 

試験終了と同時に一之瀬スポンサーは気を失ってしまい、保健室に運ばれたそうです。

勝負の世界とは言え、少し追い詰めすぎてしまったと心配していましたが、回復された様子で安心しました。

 

「それで病み上がりの中、ここにいらっしゃったのは――残念ながら本を借りに来た、というわけではないのですよね」

 

「うん……。どこまでが椎名さんの策だったのか、よければ教えてくれないかなって思って」

 

さてどうしましょう。もし真実を話せば彼女をさらに追い詰めてしまうことは目に見えています。

 

「対戦相手にこんなお願いをするなんておかしいのはわかってる。でも、お願い、これからのために、どうしても知りたい、いや知らなくちゃいけないんだ」

 

頭を深々と下げる一之瀬スポンサー。

負けた悔しさはあるはずなのに、プライドを捨て、これ以上傷つくことも覚悟して来た――その想いを蔑ろにはできません。

 

「策、というほど、大層なことはしていません」

 

「そんなことはないと思うよ。実際、私は負けちゃったわけだし……」

 

「……私は種を蒔いて水をあげただけです」

 

うまく芽を出し育ってくれたのは、たまたまでしょう。

 

「種?」

 

「一之瀬スポンサーは、チェーホフの銃、という言葉をご存知でしょうか」

 

「たしか……ストーリーの中に出てきた銃は、展開の中で必ず発射されないといけない、みたいな話だよね」

 

「ええ。概ねその通りです。物語に出てきたからには何らかの役割を持たせる必要があるわけです」

 

「でもそれは創作物での話だよね?試験と何の関係があるのかさっぱりなんだけど……」

 

「そうですね。ですが、逆にこう考えてみたんです。現実でそのようにならないのは、そもそも拳銃が出てこないから。なら、予め拳銃を置いておいたらどうなるのか」

 

「……それが種まき?」

 

「はい。一つの予想を立て、そうなった時に理想の展開になるのに必要なものを逆算して準備しておいたに過ぎないんです」

 

「でも……」

 

「おっしゃりたいことはわかります。例え目の前に拳銃が置いてあっても一之瀬スポンサーは撃たないでしょう。でも、もし目の前に拳銃がある状態でゾンビが襲ってきたら、一之瀬スポンサーだって身を守るためその銃を手に取ることと思います」

 

「……つまり、いくつかの作戦を用意しておいて、私がそれに嵌るように仕向けた、ってことかな?」

 

「覚えはございませんか?」

 

「少しも……」

 

「そうですね、例えば私たちのクラスの司令塔の介入を見た時、一之瀬さんはきっと自分が頑張らなければと対策に多くの時間を使ったのではないでしょうか?」

 

「そうだね……」

 

「私たちが採用しなかった種目の司令塔の介入が結果に影響力を与えるように設定したのは、あなたに対策チームとの練習に時間を費やしてもらうため。1週間、5種目分の練習に参加し続け、そして一之瀬スポンサーのことです、自分のクラスの本命5種目のテスト勉強も並行しておこなっていたのではないでしょうか。みんなの役に立つために全力で取り組む、そんな姿が浮かびますね」

 

「その通りだよ」

 

「それはとても美しい生き方です。でも、それは明らかにキャパオーバー。結果、こちらの狙いに気づく機会を失ってしまっただけでなく、今回の試験、最後までスタミナが持たなかった」

 

「……」

 

疲労がたまった状態で臨んだ試験では、テストの種目の度に60分間一緒に問題を解き、意味ありげに聞こえる諸藤さんの会話の相手もする。

試験中も度々見せてもらった友情劇。仲間たちのために勝たなくてはいけないと増々背負い込み、極度のプレッシャーとストレスにさらされ続けて、それでも必死に仲間のためにと頑張った結果、どんどん思考は鈍っていったことでしょう。

 

彼女は仲間のため、と言いながら、その実、ただの自己犠牲の塊。

仲間を信じ頼っているようで頼らない。だからこうなってしまう。

「みんなで戦う」のみんなの中に、なぜか彼女だけ含まれていない。

 

「最後の種目が英語になったのはたまたまですが、もしあなたが万全の状態でサポートできれば結果はわかりませんでした」

 

本当に皮肉なものです。

仲間を誰よりも大切にして守ってきたがゆえに、負けてしまったんですから。

仲間を信じる、信頼するというのは、どういうことなのでしょうか。難しい問題ですね。

 

「私たちの前で、龍園くんと決別したように見せたのも、その一環なのかな?」

 

目を閉じてじっと何かを考えていた様子の一之瀬スポンサーですが、やがて重そうな瞼を開き、唯一消化できなかった部分なのか、そんなことを尋ねてきました。

 

「いいえ。あれは別です。仲の良いBクラスのみなさんにはわからないかもしれませんが、私たちのクラスは3つの派閥に分裂し、例え特別試験だとしても協力することすらままなりませんでした」

 

正直に言ってしまえば、Bクラスに勝つだけならあんな回り道は必要ありません。

 

「ですが、ああやって決裂すれば、少なくとも対立している派閥の仲間同士では協力して試験に挑めます」

 

あのまま試験の準備をはじめれば、龍園くんがいる限り何を言っても時任くんたちは賛成せずにボイコットしていたでしょう。

一之瀬スポンサーに仲裁してもらったのは、時任くんたちクラスメイトにあれが演技ではないと信じてもらうため。

 

「……椎名さんと龍園くんたちだけでも勝てたんじゃない?」

 

「一之瀬スポンサーには申し訳ございませんが、それも可能でしょう。ですが、それではただ勝つ意味がないのです」

 

「意味?」

 

「肝心なのは各々が全力で試験に臨んだ結果、勝利するということです。そうすれば来年度に向けてクラスはひとつになる」

 

不思議なもので例え対立していた相手だとしても、クラスのために正々堂々と頑張っていた姿をみせ、その上で最終的に勝利することができれば、共に戦った仲間だと勝手に心を許し、打ち溶けあうもの。もし、時任くんたちがボイコットした状態で勝利したとしても、ああはなりませんでした。

 

「私たちのクラスの最優先事項はクラスを団結させること。あなたたちが何のことでもないように行っていることが私たちには死活問題だったんですよ」

 

この一年で起こりえなかったクラスの一体感。私たちのクラスに必要だったもの。

来年度以降、戦っていくために必要なのはポイントでもただの勝利でもなく、団結力。

 

Bクラスにとって当然すぎるが故に、こちらの考えは読めなかったのでしょう。

仲良くなるために特別試験を利用する、なんて冗談にしか聞こえないでしょうから。

 

「そっか。本当に色んな事を考えていたんだ……。悔しいけど、今回は私の負けだよ。話してくれてありがとう」

 

聞きたいことは聞けたのでしょうか。力なくお礼を述べた一之瀬スポンサーは図書館を後にしました。

 

まもなく図書館の閉館時間。清隆くんには会えませんでしたが、私も帰ることにしましょう。

 

荷物をまとめて最後に携帯を確認すると龍園くんからメールが届いていました。

 

開いてみると『今度はそっちの番だぜ』の一言。

 

龍園くんらしいですね。

私が見返りとして約束したのは『一致団結したDクラスという戦力』といずれ来るであろう『清隆くんと龍園くんの勝負の際に全力で手を貸すこと』の2つ。

 

『ハッ、お前は綾小路と仲良くやってるじゃねえか。信じられないな』

 

『いいえ、お友だちだからこそです。友だちが退屈しているのであれば、最高の遊び相手になるのが務めではないでしょうか?』

 

『だがな、その結果、お友だちがお遊び済まない状態になっても知らないぜ』

 

『仮にそんなことになったら清隆くんは喜ぶと思いますよ』

 

『ククク、ひより、お前も大概ぶっ飛んでやがる。いいぜ、そういうことなら利用してやるよ』

 

清隆くんは時折遠い目をしている気がします。

そしてそれは日に日に増えてきているような……。

 

それはどこか、名作のシリーズが完結してしまった時のような、もっと続きが読みたいのに読めないもどかしい気持ち、そんな類の感情に似ていて。

 

上手く言語化できないのは私の人付き合いの少なさからかもしれませんが、私はそれをどうにかしてあげたい、いつからかそんな気持ちを抱くようになりました。

 

「クラスのためにと言っておきながら、私もひとのことは言えないかもしれません」

 

清隆くんから誕生日にもらったブックカバーを付けたお気に入りの本を胸に抱いて図書館を後にします。

 

そう、大切なお友だちですから……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

図書館から出て、荷物を取りにBクラスの教室へ戻る。

 

足取りは重い。

 

起こった出来事と椎名さんの話を要約すると、私が狙われて見事ハマったから負けてしまったということ。

 

参加人数の多い種目が二つも採用されていたことに深く注意していれば……。後悔することは多い。

 

こちらの思考を読みきり張り巡らせられた椎名さんの策に、一瞬だけ綾小路くんを重ねてしまったのも、なんだか悔しい。

 

でも問題はそんなことじゃない。

 

38人が選ばれたあの画面を見た瞬間、私は、わたしは――。

 

「帆波ちゃん!よかった、元気になったんだね」

 

千尋ちゃんが勢いよく抱きついてくる。

いつの間にか到着していた教室の中には、クラスのみんながいた。

 

「……みんなごめん」

 

「謝ることはねーよ、一之瀬。俺らも空手で勝てなかったしな」

 

カラ元気かもしれないけど、柴田くんが明るく励ましてくれる。

 

「そうだ、確かにDクラスの策には驚いたが、空手で勝てていれば、そもそも問題はなかった」

 

傷だらけだけどいつも通り冷静に分析している神崎くん。

 

「私もしりとりでてんぱっちゃって変なこと言ってたし……」

 

「まさか本の名前で攻めてくるなんて、ドヤ顔で作戦を看破した気になってて恥ずかしい」

 

麻子ちゃんも渡辺くんも、誰一人として私を責めない。

 

「今回はダメだったけどさ、退学者も出てないし、クラスポイントもちょっと減っただけで、クラス落ちしたわけじゃないし、全然大丈夫だって」

 

「また来年度からみんなで頑張ろう!」

 

ポジティブな声が広がっていく。

 

「うん、そうだね!まだまだこれからだよ!来年度もAクラス目指して頑張ろう!」

 

「「「「「おー!」」」」」

 

いつもならこれで元気をもらっているのに……。

晴れない心とは裏腹な、明るい笑顔を作りあげ、そう返事をしたことで、私たちの学年末の特別試験は幕を閉じた。

 

 




※合計人数から司令塔分の人数を引くのを忘れていた結果、数が合わなくなり、すみませんが、しりとしりを14人から13人に変更しています。


今回のひよりさんの策についての詳しい解説はもう一方の試験が終わった際に、活動報告にでも……。興味がある方はぜひ、後日そちらを。


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