ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

128 / 172
理想の相手

選抜種目試験、7戦目。

 

種目はチェス。司令塔の介入は、任意のタイミングで1分間の休憩時間を申請できると言ったもので、勝負の行方を左右するほどの影響力があるものではない。

 

とは言っても、今回は試験時間の関係で持ち時間は1時間と定められているため、1分間でも熟考したいという局面が出てくる可能性もある。

また、休憩中はインカムを通して司令塔と話すこともできるらしいが、チェス未経験の堀北からアドバイスが来ることはないだろう。

 

会場のドアを開け、坂柳の歩行に合わせてゆっくりと入室する。

 

「この種目をポイントで購入こそいたしましたが、その他には文字通りの盤外戦術などございませんのでご安心ください」

 

「勝負はあくまでもチェスの盤上で、ってことか。随分と腕に自信があるんだな」

 

「ふふ、そうかもしれませんし、そうでもないかもしれません。ひとつ確かなことは大変楽しい時間になる、ということだけです」

 

部屋の真ん中には机とその上にチェス盤が配置してある。周りにカメラが設置されているが、席からは少し距離が離れているため、小声であれば音声を拾われずに済みそうだ。

 

映像でチェックしているからか、審判を務める教師はいないようで、スピーカーから流れてきた坂上先生の指示に従い、着席をする。

 

「さあ、綾小路くん。早速始めましょう。さぁさぁ、お好きな方を選んでください、さあ」

 

坂柳は、白と黒のポーンをオレから見えないように隠して左右の手に一つずつ握り差し出してきた。

指す順番を決める手段のひとつ。ここで選んだ駒が白のポーンであれば先手となる。

 

一般的に先手の方が有利とされているが、深くは考えず坂柳の左手を選ぶ。

 

「先手は綾小路くんからですね。ふふふ、どんなオープニングを展開してくださるのか楽しみで仕方がありません」

 

先手でも後手でもオレにとっては些細なことだったが、坂柳も同じだったようだ。

 

『それでは、先手の綾小路からスタートするように』

 

坂上先生の開始の合図で持ち時間を示した時計が進み始めた。

 

「白番が一手目に指せる手は全部で20種類ございます。そこから序盤の戦略となる型――オープニングが予想できるわけですが、綾小路くんはどれを選ばれるのでしょうか」

 

こんな表情もできるんだな、と思うぐらいには今の坂柳からは、なんというか生き生きと無邪気にはしゃいでいる、そんな印象を受ける。

 

「気に入るかはわからないが――」

 

白のポーンをc4へと進める。

 

「イングリッシュ・オープニングですか。私の返しの選択に関わらず、比較的自由に様々な手を展開できる……実に綾小路くんらしい一手と言えそうです」

 

坂柳の一手目を見て、こちらの展開に変化をつけることができるオープニング。

どう応えてくるか観察させてもらおうと思ったが、坂柳は迷うことなく、黒のポーンをc5へと進めた。

 

シンメトリカルディフェンス――オレと同様の動きを再現する、堅実な返しの手。

 

「少し意外だな。もっと攻めてくるかと思った」

 

坂柳の返し方次第では、オレの手をいくつか封じ、展開を絞らせることもできたはず。

こちらの嫌がることをしつつ、自分の戦略を通してくる、坂柳の性格からして、そんな展開のイメージがあったのだが……。

 

「あっという間に終わってしまっては面白くありませんから。この至高の時間をじっくりと堪能したい、それだけです」

 

相手の出方を見ていくつもりだったが、どうやら先に仕掛けてこい、ということのようだ。

 

そうして序盤はゆっくりとした展開で互いに中盤以降のタネを撒いていく。

 

「やはりチェスはいいですね。お互いの戦略・戦術を読み合い、その上で己の策を通す戦い。勝負とはこうでなくては」

 

「そうだな」

 

「正直、私たちはお互いに勝つだけならいくらでもやりようはあります。私は綾小路くんに流行りものの話題でクイズを仕掛ければいいだけですし、綾小路くんは私に運動系――そうですね、例えばリレーなんて開催されてしまえば手も足も出ません。ですが、そんな勝負など勝負ではない、違いますか?同じ土俵でせめぎ合ってこそ、純粋な実力での戦いになり優劣が明確になる。勝ちだけを優先するなど風情のかけらもない、つまらない生き方です。そうは思いませんか、綾小路くん?」

 

もっともなことを言っているようだが……要は1戦目の混合リレーに対する当てつけだよな、これ。

わざわざモニター越しで見ている連中にも聴こえる声量で言ってくるあたり、相当根に持っていたと推察できる……。

 

となると、あの一件でオレは無関係、すべて堀北の独断だったとしっかり主張しておく以外に選択肢はないな。

 

「その通りだな。オレも坂柳とはこういう勝負をしたいと思っていたのに、勝負が何たるかを理解できないブラコン司令塔のせいで――」

 

『Cクラス、ここで司令塔の介入権使用。これより1分間の休憩とする』

 

無罪を主張しようとしたところで、坂上先生の声に遮られた。

 

「……おい」

 

『何かしら?』

 

インカム越しに堀北へ苦言を呈する。

 

「何かしら、はこっちのセリフだろ」

 

『綾小路くん、このまま言われっぱなしにするつもり?もちろん坂柳さんに反論してくれるのよね?「そんな風情のかけらもないオレたちの策にまんまとハマった気分はどうだった?」ぐらいは言ってやるのよ。きっと悔しがって思考が乱れるわ』

 

さらっとオレを共犯にするのはやめて欲しい。

 

「そんなことを伝えるために貴重な司令塔の介入を使うやつがあるか」

 

「あなたに休憩なんて不要でしょ」

 

「どんなブラック企業だ……」

 

『冗談よ。チェス未経験の私が不要なタイミングで休憩をとって、良い流れを止めてしまったり、坂柳さんに考える時間を与えてしまったりする方がリスクだと判断したの。……それに、この勝負には私の退学がかかっている』

 

「だからどんな手を使っても勝ってこい、と?」

 

『いいえ、そうじゃないわ。私の退学の件は忘れてくれて構わない。この一戦はあなたのやりたいように全力で戦ってきて。その結果なら、どんなことになっても受け止めるわ。本格的に対局が始まる前に、それだけは伝えておきたかったの』

 

なんともわかりにくいが、堀北の退学がプレッシャーとしてオレの足枷にならないように、という配慮なんだろうな。ただ堀北には口が裂けても言えないが、元々その点はあまり気にしていなかった。

 

「その点はあまり気にしてなかった」

 

『負けたらコンパスよ』

 

「おい」

 

好奇心を抑えられず口が滑ったが、前言撤回するの早すぎるだろ。

 

『こっちも冗談よ。言いたいことは伝えたわ。兄さんチョコ楽しみにしてる』

 

「最後に本音が漏れてるぞ」

 

『それじゃ』

 

「ああ」

 

『それじゃ手筈通り、坂柳さんへ「あまり強い言葉を使うなよ。弱く見えるぞ」の台詞から試合再開頼んだわよ』

 

「……」

 

『休憩時間終了だ。すみやかに試合再開するように』

 

最初の部分は冗談じゃなかったのか……。

台詞も、より煽ったものに変わっていて、これこそ本当に口が裂けても言えない。

 

1対1のチェスの勝負中に、なぜか、あっちを立てればこちらが立たずの板挟み状態に陥る。

 

「……坂柳、さっきの話だが、堀北も大層感激していた。思わず司令塔権限を使ってしまうほどだ」

 

「それは何よりです」

 

最後の堀北の言葉は聞こえなかったことにした。

嘘は言っていないが、勝ってもコンパスが飛んでくるかもしれない。

 

どっと気疲れしたような気もするが、なんと表現すればいいのか、なぜだか休憩前よりも落ち着くことができている。

 

そんな調子で試合は再開したが、結局、序盤はどちらも大きく動かない、ゆるやかな展開となる。

 

「チェスは会話でもあります。それは時に言葉を交わすよりも深くお互いのことを知ることができます」

 

「一理あるな」

 

相手の戦略を読む訓練として有用だとホワイトルームのプログラムで採用されていたくらいだ。慣れてくると相手の好む思考なども見えてくる。

 

「ただ、こうして向かい合うだけではなく、一歩踏み込み、触れ合うことで人は温かさを知ることができます。それはとても大切なもの。人肌のぬくもりも悪いものではありませんよ」

 

どういうことだ?と聞き返そうとしたところで、ホワイトデーの握手会を思い出す。

確かに触れ合うことで感じることもあったな……。

 

さらに卒業証書に名前を記入していた時の出来事――背に当たった一之瀬の一之瀬さんの温もりも思い出したことで、駒を持つ手が一瞬固まる。

 

「いかがなさったんですか。綾小路くんらしくない挙動のように見えましたが?」

 

穏やかだった坂柳の表情に陰りが見え、盤上の展開も一転、攻撃的になる。

 

「もしやとは思いますが、すでに人肌のぬくもりがなんたるかを学習されていらっしゃる、なんてことはございませんよね?」

 

尋問を受けている気分になるほどの気迫。

盤面も押され始め捌くことが厳しくなってきた。

これが人肌の温もりを知る(代償)、ということか。

 

「いや、先日のクラス内投票後のあの一件で、坂柳がオレにくっついて離れなかったのは人肌の温もりを感じていたからかと納得しただけだ」

 

「はうっ」

 

ほんのり頬を赤く染めた坂柳の手は乱れ、その隙に持ち直すことができた。

このまま形勢逆転まで――。

 

『Aクラスの申請により、これより1分間の休憩とする』

 

「さすがマイカーは優秀ですね。乗り手が休みたい時にオート運転でサービスエリアに駐車してくれます。それにしてもこの部屋は暑いですね。坂上先生、空調の温度調整を希望します」

 

ふぅと呼吸を整える坂柳は、冷静さを取り戻したように見える。

 

「司令塔権限をお互いに使い切りました。これで一切の邪魔なく勝負に集中できます」

 

予定通りとばかりに振る舞う坂柳が少し可笑しかった。

 

「……あなたからその表情を引き出せただけよしとしましょう。全く、これでも綾小路くんに色々教えて差し上げるのは私の役目だと楽しみにしていたんですよ」

 

「何の話だ?」

 

「こちらの話です。さあここからは正真正銘の真剣勝負。あらためてよろしくお願いいたします」

 

「そうだな。こちらこそよろしく頼む」

 

休憩が終わり、中盤戦となる。

 

「これはいかがですか?」

「なるほど、綾小路くんはそんな選択をなさるのですね」

「ではこちらはこの手でお返しいたしますが、どう対処するのでしょう?」

 

一手進めるごとに新しい発見でもしたかのように目を輝かせている坂柳。

自分で言っていたとおり、チェスを通じてお互いの理解が深まっている、と感じているのかもしれない。

 

オレは黙って駒を進めていく。

 

「あらゆる試合の棋譜は頭に入っています。今の綾小路くんの様な基本に忠実で堅実な手では私を倒すことはできませんよ」

 

「ならこれでどうだ?」

 

準備が整ったところで、以前、ホワイトルームのプログラムで数多のプロ棋士をチェックメイトまで追い詰めた一手を放つ。

 

あの日のオレが生み出した、ホワイトルームの性質上、皮肉にも門外不出となっている戦術。

 

「あぁ、これです。やっと使ってくださいましたか。この手への返しを見つけ出すまでに長い年月がかかったんですから」

 

そう言って、坂柳は難攻不落と思われた盤面へ、笑みを浮かべながら駒を指す。

 

その瞬間、理解し、息を呑んだ。

序盤の守りの動きは、この手へ対抗するための布石。

今の返しの一手でこれまで遊んでいた駒に役割が加わり、こちらの自由を奪われる。

 

素直に敬意を表したいと思わされる一手。

 

駒が盤上を縦横無尽に駆け巡る予定だったのだが、そうもいかなくなった。

 

「なるほど。やっぱり、あの日おまえは見ていたんだな」

 

「はい。あの日以来、私はいつかあなたと対局できると信じてチェスを嗜むようになりました」

 

「そこまでよくやるな。こうしてこの場にいること自体、かなりの偶然が重なった結果にすぎない」

 

「確かにこの学校で出会えたのは偶然ですが、綾小路くんとの再会はいつか訪れる運命として決まっていました」

 

「こんな場でなければロマンチックな台詞なのかもしれないな」

 

「私も乙女ですから。それで、そろそろ返しの手は浮かびましたか?あなたはこの程度で終わる人ではありませんよね」

 

長考を悟られないように会話を続けてみたが、お見通しだったか。

小手先の技は無意味と切り捨て、その分、試合そのものに力を注ぎ集中することにする。

 

そうしなければ勝てないほど、実力が拮抗している相手。

 

「ああ。ちょうど勝つ算段がついたところだ」

 

長考の末、導き出したオレの答えに、今度は坂柳の手が止まる。

 

直前までの笑みは消え、じっと考え込み、1分、2分と時間が経過していく。

 

「本当に見事です、綾小路くん。私が長年考えた対抗策をこうもあっさり破ってしまうとは……。ですが、それでこそ待った甲斐があると言うもの」

 

坂柳が指した力強い一手によって、再びチェックメイトへの道筋を書き直さなくてはならなくなる。

 

それに応戦すると、向こうも負けじとさらに返してくる。

そうして、二転三転していく攻防をひたすら繰り広げ、次第にお互いの口数は減っていき、チェスを指す音だけが会場の静寂を破り響いていく――。

 

「これでチェックです」

 

気づけば終盤戦に突入し、坂柳のクイーンがこちらのキングへチェックをかける。

 

投了以外で、オレが取れる選択肢は3つ。

 

チェックしたクイーンを取るか、ナイトを犠牲にしてキングを守るか、キングを動かしチェックを避けるか。

 

それぞれの選択肢の先に待つ未来を予測する。

 

ここからは一手のミスも許されない。

 

「ナイトを犠牲にしましたか。やはり、綾小路くんはそういう方です」

 

こちらは最善の手を指したつもりだが、なおも坂柳の攻撃の手は緩まない。

自分の駒を消費しつつも確実にこちらの駒を減らし、追い詰めてくる。

 

「先ほどの選択では、ナイトを生かす道を選ぶこともできました。しかし、そうしないのは、あなたは自分(キング)さえ生き延びれば、他の駒がどうなっても構わない、そういった思考をなさっているからではありませんか?」

 

「何が言いたい?」

 

「私も似たような考えですのでお気持ちはわかります。ただ、勝負はキングだけでは勝てません。私と綾小路くんの違い――駒は駒として大事に扱うことも必要、ということです」

 

言うほど坂柳は駒を大事にしているか?という疑念はさておき、再び追い詰められ、チェックをかけられる。

 

「……その通りだな」

 

「わかってくださいましたか」

 

「だが坂柳、いつまで勘違いしているんだ?」

 

「勘違い?」

 

「オレたちのクラスのキング(司令塔)は堀北だ。アイツはどんなに無謀でも遠慮なく突っ込んでいくぞ」

 

オレはその言葉通り無謀とも思われる位置へキングを移動させチェックを躱す。

 

「そんな小手先の逃げは策ですらない、それを理解していない綾小路くんではないでしょう?」

 

「オレならな。ただ知ってるか?堀北は無策なことも多いんだ」

 

「私とのひと時で、他の女子生徒の話をするのはいただけないですね」

 

坂柳の追撃をすんでのところで避け続ける。

 

「そんな無謀な行動の尻拭いは、悲しいことにいつもオレに回ってくる」

 

「これは……」

 

坂柳の攻めの隙をつき、キングを動かすの止め、白のポーンを前進させたことでビショップの移動範囲が広がり、坂柳の動きを牽制する。

 

「……私がこんな見落としをするなんて」

 

坂柳はチェスを通してオレを理解できたと感じていたようだが、所詮チェスはチェス。

こんなもので()を理解できるはずもない。

 

形勢は逆転し、こちらがチェックメイトへの道を進んでいく。

 

「綾小路くんがこんな手を?そんなはずは……あなたは一体――」

 

これまで坂柳の夢見る『理想の綾小路清隆』を見せ続け、坂柳の思考から徐々に他の戦術――本来の俺を排除していった。

 

「あなたは一体、どなたですか?」

 

「おかしなことを言う。オレは俺だろ。それ以下でもそれ以上でもない」

 

坂柳はオレに時間を与えすぎた。

本気でオレを葬るつもりなら、もっと早く無理にでも勝負を挑んでくるべきだった。

 

相手への強い執着は時に原動力になるかもしれないが、それは同時に大きな欠陥、弱点となる。

もし仮にオレたちが正真正銘の初対面でチェスの勝負をしていたら、こんな結果にはならなかったはず。

 

「チェックメイト」

 

「……参りました」

 

最後まで逆転の手を探していたようだが、それがどうやっても叶わないと悟ると、穏やかに敗北を認めた。

 

『この勝負、綾小路清隆の勝利。よって選抜種目試験は、4勝3敗でCクラスの勝ちとなる』

 

スピーカー越しに坂上先生が特別試験の終了を宣言し、解散などの指示を出している。

オレも一刻も早く教室に戻り、堀北が来る前にアイツの机からコンパスを回収しておかなくてはならない。

 

そう思って席を立つと案の定、坂柳が話しかけてくる。

 

「今回は私の負けです。……キツネにつままれた気分ですが」

 

「二度は通用しない手だけどな。そうでもしなければ勝てるかどうかは半々だった。それだけチェスの実力は拮抗していた」

 

ペーパーシャッフル以降、坂柳に対する警戒度を上げて観察し、クラス内投票の勝負で試験、調整した結果、ある程度、『坂柳有栖』という人間の分析を終わらせることができた。

 

趣味趣向、思考、行動原理を解体、理解して、導き出した感情を利用した策を講じる。

 

一年前のオレならそんな不確定で回りくどい策を実行しようと思わなかったし、実行したくてもできなかっただろう。

クラス内投票での勝負に続き、まだまだ試験段階とはいえ、なかなか面白い結果になったと言える。

 

「乙女心を利用するなんて、本当に情け容赦のない方ですね、綾小路くんは」

 

「一応相手は選んでいるつもりだ。だが、もし気に障ったなら軽蔑してもらっても構わない」

 

仮に愛里やみーちゃんみたいな女子生徒に同様の手を使ったら、よくて絶縁、最悪刺されても文句は言えないだろう。

ただ坂柳なら――。

 

「いえ、それだけの相手とあなたが気にかけてくれたことは、私としても嬉しい事実です。それにこれからは本当のあなたを知っていけるという新しい楽しみができたじゃありませんか」

 

思った通りの回答が返ってくる。

 

「とはいえ、勝負はしばらく控えてもらえるか。理由はお察しの通りだ」

 

「ええ。そうですね、私としても邪魔をする気はございません。Aクラスのリーダーとして綾小路くんへちょっかいを出すのはしばらく控えさせていただきます」

 

そこまで言うと坂柳はニコリと笑った後、急にカメラを向いて声のボリュームを上げる。

 

「綾小路くんの()()()、坂柳有栖としては、これからはよりお側にいて幼馴染として相応しい親密な関係を築いていけたらと思っていますので、今後もより一層よろしくお願いしますね」

 

最後の最後にとんでもない発言を残していく坂柳。

こんなことをするとは読めていなかったため、感情の理解の完成もまだまだ道のりは長そうだ。

 

おかげで一気に教室に戻りたくなくなった。

今頃教室はこっそりコンパスの回収ができる空気ではなくなっている可能性が高い。

戻るなり質問攻めに合う未来が待っていることは、一年前のオレでも予想ができる。

 

そんな未来を想像し気落ちしていると、こちらに向き直った坂柳は先ほどの思い切りの良さは鳴りを潜めており、少し躊躇いながら口を開いた。

 

「最後にひとつだけ教えてくださいませんか。休憩時間に見せてくれた……あの笑み、あれも私を騙すための演技だったのですか?」

 

「笑み?何のことだ」

 

「……そうですか。変なことを聞いてしまいましたね」

 

オレからの返事を坂柳がどう捉えたかはわからない。

ただ、会場を出ていく坂柳が鳴らす杖の音は、入室した時と何ら変わらない音だった、そんな風に思えた。

 





※月城さんが介入していない為、原作とは異なり司令塔と選手とのやりとりは本人たちの声で普通に行っています。


チェス、難しすぎ問題。
素人なりに色々勉強してみましたが、綾小路くんたちレベルの試合を描写するのは不可能という結論に至りまして、チェスならぬチェヌぐらいの感じで読んでいただけますと幸いです……。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。