ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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長くなってしまったため前後編に分けております。
前回のあとがきであと2話で2年生編予定とお伝えしましたが、今回含めあと3話となります。



データひより 前編

「茶柱先生、ポチの動画を撮らせてください」

 

「どうした藪から棒に。……なるほど、おまえの魂胆は読めた。綾小路もポチを24時間いつでもどこでも愛でたくなったんだろ。気持ちは理解できる、ポチは可愛いからな」

 

「いえ、今度開設予定の高育チャンネルにアップしたいんです」

 

「……何の話だ?」

 

「生徒会活動の一環で、来年度から高育を宣伝するチャンネルを開設します。そのこと自体は校長から許可も得ています。そのコンテンツの一つとしてポチの動画も上げたいという話ですね」

 

「この学校の宣伝とポチは全く関係ないんじゃないか?」

 

「高育生が自由に発想して動画を作る、というのも一つの宣伝、そして学びの過程ですから。それにポチの可愛さなら人気動画になると思います」

 

「その点については疑問を挟む余地はない」

 

「でしたら考えてみてください。せっかくチャンネルを作ったのに誰も見てくれなかったら関わった生徒たちが悲しむと思いませんか?その時、教師として手助けができたはずなのに、しなかった茶柱先生の立場は――」

 

「ひ、卑怯だぞ、綾小路。教師としての立場を引き合いに出すとは」

 

「ご迷惑はお掛けしません。ちょっとご自宅にカメラを設置させてもらったり、ポチを散歩に連れて行って動画を撮らせてもらったりするだけです」

 

「いま、さらっと聞き捨てならないことを言わなかったか?」

 

「ポチの成長記録、特に子犬の可愛い時期を映像に残せるのは茶柱先生にとっても悪い話ではないと思うんですけどね」

 

「何と言われようとダメなものはダメだ……と言いたいところだが、今度の種目選抜試験、対戦相手のAクラスに勝利することができたのなら、考えないでもない」

 

「お約束の交換条件ですか。今回の試験、単純にオレひとりが活躍したところで1勝にしかなりません。クラスの力が必要、それだけで難易度が跳ね上がります。それでもどうにかしようというんです、『考える』ではなく『許可する』ぐらいでないとオレとしても割に合いませんよ」

 

「つまり、許可する、と言えばAクラスに勝つ策があると?」

 

「どうでしょう。ベットするかどうか判断するのは先生です。というよりAクラスに勝ったら茶柱先生にもオレにもメリットしかないんですから賭けにすらなりませんね」

 

「……良いだろう。もしそうなったらポチの撮影とその動画の投稿を許可しよう」

 

「ありがとうございます。うちのクラスもAクラスに近づけて、チャンネルも盛り上がって、良いことだらけですね。オレたちの担任が茶柱先生でよかったですよ」

 

「薄っぺらい世辞はAクラスに上がってからにしてくれ」

 

「なるほど、そうします」

 

「お前な……」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「――という会話があったのがおよそ3週間前だ。結果はひよりも知っての通り、堀北の活躍でなんとかAクラスに勝利し、撮影の許可をもらえた」

 

「この撮影機材はそういう理由だったんですね」

 

「わんっ」

 

4月を迎え、春休みも残り数日。今日は動画企画を進めるため、撮影道具を片手に、ポチとそのリードを持ったひよりの2人と1匹で公園へ向かっている最中。

 

「ポチ、俳優デビューですよ」

 

「わんっ」

 

たまに散歩など面倒をみていることもあって、ひよりにすっかり懐いているポチ。

この様子なら良い画が撮れそうだ。

 

ポチを借りる際に茶柱先生から自宅に設置させてもらった固定カメラとSDカードも回収済み。残念ながら自宅に生徒が上がり込むことは問題があるということでカメラの設置は茶柱先生が行ったため、一抹の不安はあるが、予想では逆にそれが味のある映像になっている、と考えている。

 

「主役はポチだが、ひよりと遊んでる様子も撮影予定だ。ひよりもよろしく頼む」

 

「そうなんですか?……私が映ってしまったらお邪魔ではないでしょうか」

 

「そんなことはない」

 

首を傾げそんな疑問を口にしたひよりに対し、しっかりと否定しておく。

 

「むしろ、ひよりが映ることに意味があると考えているぐらいだ」

 

「そうですか。でしたら、はい、私も頑張ります」

 

「助かる」

 

あくまで人気動画の傾向などを分析した予想でしかないが、ひよりと子犬のコンビなら、先日撮影した愛里とのピアノ動画にも負けない再生数になるんじゃないだろうか。

 

動画投稿に今から参入するのであれば、既存のコンテンツをなぞるだけでは勝てない。

せめて要素を掛け合わせ相乗効果を狙うぐらいの工夫はしておきたい。

 

実際にどの動画がどれだけ再生数を稼げるかは未知の世界、検証のし甲斐がありそうだと考えていると、公園が見えてきた。

 

が、同時に前方からゆっくりとこちらに向かってくる人物が嫌でも目に入ってくる。

 

「やぁ、いい天気ですね。わんちゃんの散歩にはもってこいだ」

 

「こんにちは。えーと、理事長の代理でいらっしゃった方ですよね?」

 

「ええ、そうです。月城と申します。君は椎名ひよりさんでしたね」

 

「どうして私の名前を?」

 

「これは驚かせてしまったようで失礼しました。大した理由ではありませんよ。理事長の代理が務まるように生徒一人一人のことはしっかりと覚えてきただけですから。学校が学校ですから、年甲斐もなく張り切っているというわけです」

 

「そういうことでしたか」

 

ご近所さんがそうするように、当然の如く気さくに声を掛けてきた月城。

すぐにでもこの場を離れたいところだが、ひよりにとっては新しい学校の代表がフレンドリーに話しかけてきた認識で避ける理由がない。

 

「綾小路くんとはすでにお会いしていますね」

 

ひよりから視線をこちらに移し、微笑みを浮かべオレへと話を振る。

 

「理事長代理も散歩ですか。健康的で結構ですね。中高年の健康維持を邪魔をしてもいけませんのでオレたちはこれで失礼します」

 

「釣れないことを言いますね。せっかくお会いしたんです、2人で少し話をしませんか?」

 

事情を知らない生徒と一緒のタイミングを狙うことでオレの逃げ道を塞いできた。

要はひよりとポチは人質。

容赦なく坂柳と葛城へ危害を加えた前例もある。誘いを拒否すれば、月城がどんな行動に出るかわからない。

この場から逃亡するのは簡単でも、残りの学生生活のことを踏まえるとデメリットが勝るか。

 

「また生徒会がらみで仕事の依頼ですか?今日はオフなので手短にお願いしますよ」

 

念のため、理事長代理という地位の人間がオレと話を希望する理由づけをしておき、ひよりに不信感を抱かれないよう配慮する。

 

「よくわかりましたね。実はお願い事がありまして、一般の生徒には聞かれたくない内容ですから……」

 

予想通り月城も話を合わせてきた。

ひよりをちらっと見ると、笑顔こそ崩さないが、席を外すようにという無言の圧がある。

オレとしてもできることならこちらの事情に周りを巻き込みたくはない。

 

「ひより、悪いが、先に公園に入って待っていて欲しい。あと撮影道具も預かってくれると助かる」

 

カメラやSDカードをひよりに渡す。

月城がこちらへの嫌がらせで撮影機器を没収すると言い出しかねないし、万が一このあと襲ってきた場合でも身軽な方が対処しやすい。

 

「わかりました。行きましょう、ポチ」

 

「くう~ん」

 

ひよりは余計な詮索をすることもなく、道具を受け取って公園へと向かった。思うことがないわけではないだろうが、こういった配慮の出来るところは素直にありがたい。

 

「デート中すみませんでしたね」

 

「そんなんじゃありませんよ」

 

「でしょうね。あの施設で育ったあなたが人並みの恋などできるはずがない」

 

「人払いが済んだ途端これですか。デートではないですが、こっちにも都合があります。早く本題に入りませんか?」

 

「用件は私の話したいタイミングで話します。不服ですか?」

 

人払いをしたと言っても、いつ誰が通りかかるともわからない。

だが、月城にこちらへの配慮などあるはずもなく、主導権を渡さない腹積もりのようだ。

 

「わかりました。ご自由にゆっくり話してください。オレも目上をいたわる気持ちぐらいありますから」

 

「それは大変良い心がけですね。ではお言葉に甘えて、恋バナでもしましょうか?」

 

人並みに恋などできないなどと言っておきながら、そんな話題を提案してくる。

オレの反応をみて楽しむつもりだろうが、こんなくだらないことで感情が動くはずもない。

 

「乗り気ではないようですね。せっかくあなたに妹が生まれた話でもしようかと思ったんですが」

 

「冗談でも笑えないですね。特に、妹には良い印象がありません」

 

『まじかー、あのオヤジいい歳こいてやりやがった』とは思わない。

あの男の女性事情など興味もないが、わざわざ『妹』と言ってきたあたり、暗にこちらの学校生活を詳細に把握していると示してきている。

ただ、それで動揺を誘えると考えているのなら無駄な努力だろう。

 

「なるほど、なるほど。では、私も暇ではありません、本題に入らせてもらいましょう」

 

月城も大して効果があるとは思っていなかったのか、オレの反応を確認するとすぐに話題を切り替える。

 

「どうでしょう。この休暇を最後に父上のもとへ帰るというのは」

 

本題と言いつつもまだ無駄話をしたいようだ。

 

「生憎ですが、学校を自主退学するつもりはありません」

 

「そんなにホワイトルームに戻ることが嫌なのですか?」

 

「オレはこの学校を気に入っています。一人の生徒として普通に卒業したい、それを願うのはおかしいことでしょうか?」

 

「確かにここは良い学校です。ただ、この場所を気に入っている理由は他にあるのでしょう」

 

「というと?」

 

こちらを見透かしたような顔で話すため、あえて続きを促してみる。

 

「先ほどは普通の恋などできないと言いましたが、少し語弊がありました。日頃から随分と多くの女子生徒を侍らしているようで。ハーレムを普通の恋とは言わないでしょう?これがホワイトルームでは体験できないこと、というわけですか。いやはや否定できませんね」

 

茶化すように笑う月城。

 

「そんなつもりはないんですが」

 

「ご謙遜を。さすが最高傑作、あのお方のご子息と言ったところでしょうか。あの手この手で女子生徒……いえ、生徒たちを堕としていく姿は、ドロドロの昼ドラを鑑賞しているようで楽しませてもらいましたよ」

 

なぜか女子生徒を生徒と言い直す月城。

これじゃまるで男女問わず口説いているみたいじゃないか。いや、そもそも誰も口説いてはいないのだが。

 

ところで耳慣れないワードが出てきた。隠語の類か?

 

「ヒルドラ?」

 

「……ホワイトルームの事情を抜きにしてもジェネレーションギャップというヤツでしょうね。私もハッとさせられましたよ」

 

「理事長代理の感傷理由はわかりませんが、話が済んだならこれで――」

 

「そんな君の好色っぷりを見てあなたの父上も考えを改めました。休暇明けにホワイトルームに戻ってくださるのなら、特別に女性とのあれこれもプログラムに組み込むとのことです。確実にここで学べること以上のものを体験できるとお約束します。なんならこの学校からお気に入りを2~3人連れて行っても構いませんよ?閉鎖されたこの空間で数人行方不明にすることぐらい訳がないことはあなたにもわかりますね」

 

本気で言っているのか、オレをまだ茶化しているのか、月城は本心を読ませないことに長けているようで、判断は難しい。

ただ1つ確実なのは、やろうと思えばこいつらならできてしまうこと。

 

「まぁわざわざ攫わなくとも、事情を話せば自らついてきそうな生徒はいそうですがね」

 

「前提が色々とおかしいですが、少なくとも監禁状態に近いあの施設についてくる物好きはいないと思います」

 

「本心で言っているのであれば余程ですが、残念ながらあなたの様子からはどちらかさっぱりわかりません」

 

「それはお互い様でしょう」

 

元よりお互いに相手へ不要な情報を与えるつもりのない会話。

本心が見え隠れしているようで、蓋を開けてみれば最初から存在すらしない。

月城は、ただ事実を並べていき、オレに立場を理解させようとしているにすぎない。

 

「さて、父上はここまで譲歩したんです。あなたからも歩み寄るべきではありませんか?」

 

「譲歩というならあと2年待つくらいして欲しいですね」

 

「正直なところ、私にはわざわざコストをかけてまであなたを優先する必要性は感じられません。再稼働したホワイトルームではすでにあなたを超える人材の育成に何人も成功しているんです。父上があなたにこだわるのは最高傑作だからではなく親心から、それを理解されてはいかがですか?」

 

「今度は面白い冗談です。本当にオレを超える人材ができたのであれば、あの男がこちらに構うことはなくなりますよ」

 

「あくまで態度は変わりませんか。平和的な解決がお互いのためだと思ったのですが、これ以上は徹底的にやり合うことになります」

 

「それも仕方がありませんね」

 

「まるで自分が負けるとは考えていないようだ。その傲慢さが身を滅ぼすことになると学んだ方が良い」

 

「仮にそんなことになっても、それこそ良い勉強になったと思うだけですから」

 

暖簾に腕押し、平行線を辿っていく。

元より向こうも説得など無意味とわかっているはず。

それでもわざわざ出向いたからには別の目的がある。

 

「プロテクトポイントに、2000万ポイントを超える資金――あなたを退学にしようと思ったら3度も退学に追い込む必要がある。だから安全だとタカをくくっているのでしょうか。それはあくまで学校のルールに従えば、ということをお忘れなく。理事長代理の権限を使えばいくらでも抜け道は作れます」

 

「そうでしょうね。ルールそのものをオレを退学させることに特化させてしまえば、成す術がないかもしれません」

 

例えばプロテクトポイント無効の試験を実施した上で、退学取り消しにはプライベートポイントだけでなくクラスポイントも必要になることから、敗北時に大幅にクラスポイントを失う試験を用意するなど。

 

「とは言ったものの、非常に骨が折れる上、費用もかかる。私もできることならこんな面倒な仕事は早く済ませてしまいたい」

 

「それなら辞退すればいいのでは。今なら高校生に敗北したなんて情けない結果で経歴に泥を塗らずに済みます」

 

「それができないのが大人の辛いところです。あなたの父上の怒りを買ってこの業界で生きていくのは難しい」

 

「月城理事長代理ほどの人があの男を恐れるとは思えませんがね」

 

これは半分本音。少し話しただけでも月城が相当な実力者であることが伝わってくる。

月城とあの男との関係性は不明だが、よほどの大金を積まれたか、何かしらの利害の一致があったのか、少なくともシンプルな上下関係ではないはず。

 

「意趣返しですか。随分と口が達者になりましたね。入学当初の君は頓珍漢な言動で見るに堪えない偽りの高校生でした。それがどうでしょう。ある時から高校生として自然と周囲に馴染み始めた。良いサンプルでも見つけましたか?」

 

「そうですね、ここはリアルなサンプルで溢れていますよ」

 

ある時と濁しているが生徒会に入会した後、ということだろう。

入学当初は一般的な高校生の像がわからず、苦労したことを思い出す。

そこから表面上でも変わることができたのは、生徒会を通じて多くの人間と関わり学習してきたから。

 

そんな今だからわかることは、入学前、『高校生のデータが欲しい』と言ったオレに松雄が用意した現代高校生の資料――高校生活を舞台にしたいくつかのライトノベルと漫画は、全く正しい情報ではなかったということ。

それが松雄のチョイスが悪かったのか、創作物が当てにならないのかは不明だが……。

 

それにしても先ほどから月城は、オレが過ごしてきた学生生活の一部始終を見てきたような口ぶり。

実際、監視カメラの録画記録などデータを用意することは可能だろうが、理事長代理に就任してからのわずかな期間で、この1年間のすべてを確認してきたのだとしたら、早く仕事を済ませたいと嘆く気持ちも理解できなくもない。

 

「ですが順応力が高いのは他のホワイトルーム生も同じこと。あなたの奇行の反省から、一般的な高校生としての教育は十分しています」

 

「それは何よりです。どうです、オレがホワイトルームに戻らない方が、そちらにも利益をもたらすのでは?」

 

「それを判断するのはあなたではありません。あなた自身もサンプルのひとつに過ぎないことをお忘れなきように」

 

親心で連れ戻すと言ってみたり、サンプルにしか過ぎないと言ってみたり、主張が支離滅裂であるにも関わらず、そのどれもが真実のように語り聞かせてくる。

情報を偽ることに長けた技量。

あの男が刺客として送り込んでくるだけのことはある。

ただ、ここで月城が何を言おうが鵜呑みにすることはない。

 

「そこで一つ勝負をしませんか?」

 

「勝負ですか」

 

急に南雲みたいなことを言い出す月城。

オレのこれまでのデータ資料を見すぎて南雲因子に感染してしまったのかもしれない。

 

「実はあなたに引導を渡すために、新入生の中にホワイトルーム生を招き入れます」

 

「そんなことオレに話してよかったんですか?」

 

「問題ありません。あなたも想定していた範疇でしょう」

 

オレ自身、理事長権限で入学できた身。

月城も同じことができるだろうとは考えていた。

実際、穏便に退学させるなら、生徒という同じ土俵の人間にやらせるのが一番手っ取り早い。

だからと言って、今の話を信じるか信じないかは別問題だが。

 

「その子はターゲットである『綾小路清隆』を退学にするため動きます。君にはぜひ、ホワイトルーム生が誰であるかを突き止めて欲しい。期間は4月中。不正解なら自主退学をしていただく、というルールでいかがですか?」

 

「話になりませんね。こちらが勝負を受けるメリットがありません」

 

生徒間ならポイントはもちろん、合意があればあらゆる権利を賭けることもできるだろうが、理事長代理と生徒が賭け事をするだけでも問題になる。

仮に月城からポイントを受け取ろうものなら、その履歴を利用してオレを退学処分にすることなど容易いだろう。

 

「なるほど、もっともです。では、君が勝負を受けている限りこちらも強硬手段は取らない、と約束するのはいかがですか」

 

手段を選ばないなら、寝込みを襲ってそのまま拉致する、食事に毒を混ぜ倒れたところを搬送、坂柳理事長にしたようにオレの不祥事を捏造するなど、学校の最高権力者として潜り込めたからこそできる作戦もあるだろう。

その警戒をいちいちしなくて済むのであれば、悪い話ではない。

 

ただ、そもそもそんな手を使う予定はないと踏んでいる。

オレの意に反する強硬手段を取ったことで、ホワイトルームに戻ったのち、プログラムや実験の参加に非協力的になってしまえば意味がない。

そのリスクを回避するために、退学の合意や戻ることを納得させるほどの敗北、ここよりもホワイトルームの優位性を示すなど、オレの意思も少なからず必要となってくる。

 

だが、真偽はさておき、仮にその約束が守られた場合でも別の問題は発生する。

 

「それだとオレが負けるまで勝負を続けるとも聞こえますね。残りの学生生活を理事長代理との勝負で潰されたら、意味がありません」

 

「おかしな質問です。この戦いに期限があることには気づいているのでしょう?」

 

「坂柳理事長が復帰するまで、ですか」

 

無実の罪で謹慎中であるため、月城側もいつまでも抑え込むことは難しいとは思っていた。

 

「ええ。ですからそれまでの間、私はあなたが敗北するまであらゆる勝負を持ちかける。あなたはそれに応じる。今回の提案はその第一弾というわけです。もちろん、第一弾で済めばそれに越したことはありませんが、何事も絶対はありませんからね」

 

念入りに準備はしているだろうが、その上でなお慢心はないということ。

 

「理事長代理の主張はわかりました。ただ、やはりこれは勝負になりませんよ。オレが正解を言い当てたとしてもしらばっくれることはできる。他にも、ホワイトルーム生を招き入れたということ自体が嘘だったら茶番もいいところです」

 

勝負はお互いに平等な立場か、信用できる第三者の仲介があってこそ初めて成り立つ。

答えを後から好き勝手書き換えられる相手と勝負する馬鹿はいない。

 

「そうおっしゃると思ってお互いにとって信頼するにたる人物に仲介を頼んであります」

 

「……」

 

「検討がつかないようですね」

 

「少なくともオレにそんな人間の心当たりはありませんから」

 

学校のルールに公平という意味で当てにしてもよさそうなのは坂柳理事長ぐらいだが、『お互いに』の部分がそれを否定する。

 

「あなたも敬愛している、南雲生徒会長ですよ」

 

「……」

 

一番ダメな奴を引っ張ってきたな。

 

「もちろん、我々の事情は伏せてありますのでご安心を。彼にはこの学校のレベルを測るために、新入生を使って、生徒の代表である生徒会の副会長で試させて欲しいとお願いしてあります」

 

「きっと二つ返事でオーケーしたんでしょうね。見返りは、学校のルールについて何らかの変更の許可あたりですか」

 

「ご明察の通りです。勝負結果次第であなたが退学になるとお伝えもしましたが気にも止めていないようでしたよ」

 

「でしょうね」

 

「これで懸念事項は払拭されたと思いますが」

 

「南雲生徒会長自身はあくまで仲介人、今回の勝負に参加するわけではない、ということで間違いありませんか?」

 

「ええ。あくまで自主退学をしていただくのは、ホワイトルーム生を当てきれなかった時のみ。言うまでもなく彼はただの一般人ですから」

 

反射的に馬鹿げた人選だと思わずにはいられなかったが、よくよく考えると悪くはない。

南雲は勝負中毒者ではあっても、退学狂というわけではないからだ。

あくまで自分の手で相手を負かし支配することを好んでいるだけ。

あの学年の大量の退学者はその結果のひとつに過ぎない。

現状、オレとの勝負が主目的であり、ポイントや立場も確立されていることから下手な買収もされないだろう。

オレの分析では、南雲自身の手で実行するならともかく、第三者の不正に加担する形でオレを不当な退学へ陥れるとは思えない。

 

「状況はわかりました。確かに南雲生徒会長ほど仲介人に相応しい人物はいませんね。ただ、オレにも勝利した時の見返りぐらいあっても良いんじゃありませんか?」

 

南雲と理事長代理の交渉した実績が先にあるのであれば、オレと同等の交渉があっても、それを理由に退学にはできない。

 

「それであなたが勝負を受けてくれるのであれば安いものです。では、万が一最後まで勝ち続けることができたなら、私の権限内でできることなら叶えてあげましょう」

 

約束が果たされたなら、オレの計画の達成が楽になる。多少面倒ではあっても選択肢が増えることは歓迎すべきこと。

 

「随分と簡単に約束してくださいますね」

 

「どのみち我々に敗北などありませんから」

 

「わかりました。少なくとも今回の勝負はお受けします」

 

「良いお返事が聞けて嬉しく思います。詳細は後日念書にでもしてお渡しします。あなたが呑気に犬の散歩をしている間に、牙を研いでいるあの子の活躍が楽しみでなりません。どうか残り短い学生生活を十分満喫してください」

 

「それではこれで」と、こちらが勝負を受けたことで満足したのか、月城は散歩の続きでもするようにゆっくりと立ち去っていった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

その頃、刺客として選ばれたホワイトルーム生は、作戦遂行のための準備に取り組んでいた。

 

対象の綾小路清隆を退学するための指令は『周りにいないタイプの女性を演じて堕とすハニートラップ』という馬鹿げた作戦だった。

 

それでも命令なら実行しないわけにはいかず、データを分析した結果『幼馴染』属性の女子生徒は周りにいないことが判明。

そのため、何かと構って面倒をみてくる気心の知れた女子像を作る方向で、月城からの承諾も得ていた。

 

正直、この決裁を取るところまでも苦労した。

一般的に人気の高いとされる明るく元気で親しみやすく距離感の近い素直なタイプは一之瀬帆波という生徒が持っていて、容姿端麗で勉強もできるのに嫌味がなく、努力家。

対象と同じ生徒会に所属し、ちょっと訳ありの過去で庇護欲までくすぐってくる。

 

おまけに巨乳。

 

ここまで属性がありながら恋仲に発展していないのだから、このあたりは対象には響かないのだろうという結論になり、他の属性を探すことに。

 

その対極にありそうなタイプは、クラスで対象と隣の席で入学当初から会話のあった堀北鈴音。

クールで高飛車な性格で対象に度々暴力を振るったり、問題ごとに巻き込んだりとドSな一面が見られるが、時折みせる弱さや素直じゃないデレはギャップとして威力を発揮する。

こういった女性を口説き落とすことに魅力を見出す場合もあるはずだが、一番目立つブラコン属性が課題なのか、対象から異性として見られているかすら怪しい。

 

といった具合に対象と交友のある女性を分析したところ、ギャル系やら幸薄系、ダウナー系、ツンデレ系に不思議系、小動物系、退学系や残念系教師などなどあらゆるタイプの女性に囲まれていることがわかった。

 

そもそもファンクラブなどといったふざけた集まりのせいで、対象の女性関係の幅がクラス、学年問わず広がっているのも手間のかかる要因。

ただこれに関して言えば、最高傑作の実力を見せつけられたら、有象無象のモブ女子なら夢中になっても仕方はないか、とも思う。ある意味当然の帰結である。

 

そんな苦労を経て、やっとの思いで導き出した幼馴染系でキャラ作りを進めていた。

 

にも関わらず、先日『自称幼馴染』が唐突に現れて、しかもそれが全く対象に効果がなさそうだったため、あえなくこの設定は見送られ、別の属性を探す羽目になった。

ふざけるのも大概にして欲しい。あの女は、おもしろロリ系ではなかったのか。

幼馴染というのであれば、本来、同じ施設で育った自分こそそれに相応しいはずだ。

 

こうして思わぬ妨害を受けたものの、任務にトラブルはつきもの。

気を取り直し、代替案で導き出したのは『ちょっと裏がありそうな大人系清楚女子』。

 

実力を大っぴらにしない姿勢で自称事なかれ主義の対象から共感を得て、簡単に内面を見せないことで興味を引く算段。孤独な対象への良き理解者を目指す。

こちらは対象の事情も把握しており、同じくホワイトルームで育った身であるため、むしろ『幼馴染系』よりもやりやすい。

考えてみれば、ホワイトルーム生の精神年齢は並の大人以上。対象も女子高生は子供にしか見えないのだろう。

 

これならいけると再び申請して、月城からの許可も得た。

入学まで時間もない。

今はこのキャラ作りを完璧にするために学習をしている最中。

 

自称幼馴染も大概だが、今度こそ唐突に出てくるタイプの設定ではない。

このキャラ作りがどこまで対象に通じるか、自分の実力を試す時がやっと来たのだと、刺客のホワイトルーム生は胸を躍らせていた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

さて、気を取り直して、ひよりたちの待つ公園に行くか。

 

茶柱先生の撮った動画内容の確認もしておきたいし、ポチの動画撮影も日が明るいうちに済ませてしまいたい。

 

月城の姿が見えなくなったことを確認して公園の方角へ身体を向けると、今度は意外な人物、クラスメイトの松下が近づいてくる。

 

何用かと考えようとしたところで待ったをかける。

松下との交流はこれまでほとんどなかった。

先ほどは視認できなかったが、オレの後方に待ち合わせの人物でも現れたのだろう。

こういう時に勘違いして自意識過剰だと思われるのは月城と同じくらい避けたい案件だ。

 

だったら松下のことは気にせずに、さっさと公園に向かうのが吉だな。

 

「ね、ちょっと話さない?」

 

「……」

 

「おーい、綾小路くん。スルーは酷いって」

 

「すまない、まさかオレに用があるとは思わなかった」

 

自意識過剰じゃなかった。

また月城から茶化されそうだなと現実逃避を済ませ、素通りしようとした足を止め、松下と目を合わせる。

 

「だとすると、少し待たせてしまったみたいだな」

 

松下が現れたタイミングを考えると月城との会話が終わるのを待っていたことになる。

気配を感じる距離にいなかったことから内容までは聞かれていないと思うが、接触して来た理由に心当たりがないため、ひよりとポチには申し訳ないが少し会話に付き合うことにした。

この判断が後ほど悲劇を呼ぶことになるとも知らずに……。

 

「そんなことまでわかっちゃうんだね。うん、だったら単刀直入に聞くけどさ、2年生から綾小路くんがクラスリーダーにならない?」

 

「リーダーなら洋介や堀北がいる。あの2人を差し置いてまでやる必要は感じられない」

 

何かと思えば、クラスの動向に関してか。

松下には悪いが堀北と茶柱先生で胃もたれしそうなほど間に合っている話題。

 

珍しい会合に対する興味が冷めていく。

 

「そうかな。私の見立てでは綾小路くんがリーダーになった方がAクラスに上がれる確率が高いんじゃないかって思うんだけど」

 

「それは見当違いじゃないか?これまでクラスをまとめてきた洋介に、堀北もこの前の種目選抜試験では立派に司令塔を務めてみせた。申し分ないと思うぞ」

 

「それでも綾小路くんには及ばないよ。安定感の違いというか、あの2人には弱点があるっていうか」

 

「弱点か……」

 

あの2人がクラスメイトからどう見られているか、その点は気になるな。

少なくとも弱点があってリーダーに相応しくないと否定的な意見を述べる生徒は初めてだ(退学狂は除く)。

 

失いかけていた興味に熱が戻ってくる。

 

「よければ松下の考えを聞かせてくれないか?」

 

「うん」

 

こちらが意見を求めたことを前向きに受け取ったのか、嬉しそうに返事をする。

 

「綾小路くんならもう気づいていると思うんだけどさ、例えば平田くんの場合、Aクラス昇格のチャンスがあったとしても、誰かが退学になるリスクがあるなら、現状維持を選びそうなんだよね。確かに退学者が出るのは嫌だけどさ、この学校はそんなに甘くない、保守的な考えだけじゃAクラスには上がれないって私は考えてる」

 

「なるほど」

 

「次に堀北さんだけど、彼女のパワーの源って結局お兄さんなわけじゃない?前回の試験も卒業前に良いところ見せたかったからだろうし、体育祭のリレーもお兄さんがアンカーじゃなかったらあそこまでの走力が出ていたかどうか。堀北さんが活躍してた他の試験だって似たようなものだし、Aクラスを目指すのもお兄さんが理由って言ってたよね」

 

「まぁアイツのブラコンが異常なパワーを引き出していることは否定できない。ただ動機は不純でも結果的に活躍しているなら良いんじゃないか?」

 

「問題はそこだよ。そのパワーの源であるお兄さんが卒業しちゃったから、今後モチベーションが下がらないとも限らない。他にも、例えば生徒会長になるとか、お兄さんへのアピールがAクラス昇格以外に見つかったらそっちを優先する可能性もある。そんな人に信じてついて行けるかな?私はちょっと遠慮したいって思うんだけど」

 

「ごもっとも」

 

「その点綾小路くんなら、実力は言うまでもなく、リーダーとして必要な決断も躊躇なく行える。私ならそういう人にクラスの命運を託したい」

 

驚いたのは松下の観察眼。

周りより少し優秀な生徒という印象がガラッと変わった。

人柄や結果に惑わされず、よくクラスの現状が見えている。

 

Aクラスに勝ったことで浮かれているクラスメイトが多い中、先を見据えて行動できるのは貴重な人材と言える。

 

「松下はこの1年、実力を隠して来たってことか」

 

「バレちゃったか。優秀だとさ、面倒ごとに巻き込まれる機会も増えるし、私なりの処世術ってやつかな」

 

共感できる部分はある。

オレも生徒会に入っていなければ、面倒ごとを回避するため、いまだに目立たない行動をとっていたはず。

 

「Dクラススタートで昇格は諦めていたが、風向きが変わり始めたことで考えを改めたわけだ」

 

「すごい、なんでもお見通しなんだ。その通りなんだけど、もし綾小路くんがリーダーになってくれるなら、これからは私も全力を出したいと思ってる」

 

「そうすればAクラスに上がれると?」

 

「うーん、というより、綾小路くんもその方が楽じゃないかと思っての提案かな」

 

「楽?」

 

「今ってリーダーでもないのに色んな人から頼られて大変じゃないかなって。だったらいっそのこと正式にリーダーになって、私がその補佐役になる。そしたら、クラスの要望、方針とかのとりまとめは私が担当するから、綾小路くんは最終的な判断をするだけで良くなる――どう良くない?」

 

自分の希望だけでなく、こちらの問題を解決できるような提案。

なるほど、交渉の初歩はしっかりと押さえている。

これが堀北だったら、オレに何かを奢った後か、コンパスを握って睨みを利かせるだけに違いない。

 

オレがAクラスを本気で目指しているわけでないことも、なんとなく察しているみたいだしな。

 

そこを含めて自分が補佐役になることでコントロールできる、そんな自信が見え隠れしている。

 

松下の中にはオレを上手く操りAクラスに上がる未来が出来上がっているのだろう。

仮に失敗したとしてもそれはリーダーの責任となるため松下にダメージはないしな。

 

オレにメリットがあると話しているが、一番美味しい所を持って行けるのは松下で抜け目がない。

その点はむしろ好感が持てる部分ではあるが。

 

「面白い話だな」

 

「でしょでしょ」

 

最後の一押しと言わんばかりに松下は笑顔で頷く。

 

だが――惜しむらくは話を持ちかけたタイミング。

入学当初に似たような提案があれば一考の余地はあったかもしれない。

 

状況にもよるが、有能な補佐役のおかげで成り立っている形だけのリーダーになら、なっても良かった。

松下がオレを操り隠れ蓑にしているようで、その松下を隠れ蓑にすることで、オレも裏で動きやすい環境を作れたはず。

 

実際は当時のオレがリーダーになるなんて言っても誰も賛同しないだろうし、そもそも松下がオレに目をつけるなんてこともないため、訪れることのない仮定。

 

「ただこの話にはひとつ前提がある」

 

「……なんだろう」

 

「補佐役を任せられるほど、本当に松下が優秀かどうかだ。ここまでのやりとりで他のクラスメイトよりも秀でた部分があることはわかった。だが、もしオレがリーダーを引き受けるとすれば、生徒会との両立で忙しくなり、手が回らなくなる可能性もある。その時に補佐役が機能しなければクラスは窮地に陥るかもしれない」

 

「つまり先に私の実力を見せて欲しいってこと?」

 

「話が早くて助かる」

 

「まずは信用してもらうトコからか。こればっかりは実力を隠してきちゃった弊害だね。うん、いいよ。焦る話でもないし、綾小路くんのお眼鏡に叶うよう頑張るね」

 

「ああ。楽しみにしている」

 

これでいい。

ここで断るのは簡単だが、適当にあしらえばリーダーを堀北としてまとまりつつあるクラスの輪を乱す存在になる可能性も捨てきれない。

それならばいっそ前向きに検討する形で話で進めておき、松下には存分に活躍してもらった方がクラスのためだろう。

 

それでもし松下が堀北や洋介よりも有能なら、オレも方針を変えればいいだけの話。

 

「それじゃオレはこれで――」

 

「待って、あと一つだけ大事なことを聞きたいんだけど」

 

立ち去ろうとした矢先に道を塞がれる。

なかなか反射神経も良いみたいだな。

 

「大事なこと?」

 

「うん。その……綾小路くんは櫛田さんと付き合ってるの?」

 

「いや、そんな事実はない」

 

疑う理由は波瑠加と同じだろう。

またその話題かとは思いつつ、初見だったら少し思考に時間を費やした可能性もあるため、経験が生きた形となる。いや、こんな経験は何度もあってほしくはないのだが。

 

意外と気にする人間がいることがわかったため、今後櫛田に弁当を用意してもらうのは遠慮しておこう。

 

「じゃあ一之瀬さんと?」

 

「聞きたいことはひとつだけじゃなかったのか?」

 

「濁すってことは……」

 

「誰とも交際はしていない。そんなに大事なことか?」

 

「大事だよ。リーダーがフリーかどうかで変わることって多いからさ」

 

「だったら洋介なんかどうなんだ?彼女がずっといるだろ」

 

「早い段階で軽井沢さんとくっついちゃったのは惜しかったよね……。もし平田くんがいまだにフリーだったら、今頃は私たちのクラスはBクラスぐらいにはなってたと思うよ」

 

「嘘だろ……」

 

「アピールするために頑張る乙女のパワーはバカにできないからねー、馬鹿みたいだけど」

 

少し呆れたように肩をすくめて見せる。

この話が本当であれば、この1年あらゆる策を講じるまでもなく、洋介と恵を破局させただけで、茶柱先生と堀北のご機嫌を取れたことになる。

 

「堀北はどうなんだ?フリーだぞ」

 

「それこそ良い例だよ。あの須藤くんがここまで変わったんだから、ブラコンさえなければもっと影響してたと思う」

 

「なるほど……」

 

不良で勉強嫌いだった須藤が、堀北に惚れてからは急成長した。

堀北のブラコンは修正しようがないため男子側はともかく、須藤並みの成長速度でクラスの女子の大半がパワーアップしたのであれば、向かうところ敵なしだろう。

 

「やっぱり綾小路くん、この手の話題は疎いみたいだね。よければ私が手取り足取り教えてあげようか?」

 

「いや、遠慮しておく」

 

「即答はちょっと傷つくよ?まぁこの朴念仁っぷりならひとまず安心かな」

 

「悪いが愛犬が待っているんだ、今度こそ失礼する」

 

「え?あ、うん、呼び止めちゃってごめんね。新学期からよろしく」

 

松下はまだ話したりなさそうな雰囲気だったが、後方に少し気掛かりができたため、念には念を入れ強引に立ち去ることにした。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「綾小路先輩って本当はもっと勉強とかスポーツができるんじゃないですか?気持ちわかるなー、私も一緒だからさ」

 

そう言って、そっと肩を寄せる。

 

「私なら綾小路先輩のこと、ちゃんとわかってあげられるよ?」

 

ゆっくりと包み込むように優しく手を握る。

 

親交を深めた後、一歩踏み込む際のフックはこんな感じでいこうかと、ホワイトルーム生は設定したキャラクターとして自然に振る舞えるように試行錯誤していた。

 

並の高校生ならこれで十分だろうが、相手が相手だ。いくら準備しても不足することはない。

 

そんなとき、携帯電話が着信を知らせる。

 

未登録の番号だが、この数字の並びは月城が連絡してくるものの一つだ。

 

「はい」

 

瞬時に切り替えて応対する。

 

『申し訳ございませんが、あなたが取り組んでいる『ちょっと裏のありそうな大人系清楚女子』ですが、あれも見送る方向でお願いします』

 

「参考までに理由をお伺いしても?」

 

『今しがた対象が似たようなタイプの女生徒と接触しましたが、軽くあしらわれていました。その路線では効果が期待できません。なんなら子犬の方がまだ好感を持たれているように見えたぐらいです』

 

「そうですか……」

 

『入学式まであと少し。それまでに他の役作りをよろしくお願いします。では』

 

月城からの通話が切れると、少女は黙って携帯を投げ捨てた。

 





過去の話からの話題が多い回だったので、期間があいてしまったこともあり、一応、振り返り用に関連する話の話数も記載しておきます。


綾小路くんが撮ると言った動画について 105話「私の知りたいたった一つのこと」
→ピアノと子犬は撮っているので、あとは……

ポチとひよりについて 104話「2人と1匹の物語」


ハニートラップについて 117話「ミーティング」
→あれからちゃんと準備を進めていた刺客に悲しき現在


月城と南雲の密会 110話「冗談じゃない」
→この話で密会をした際に話した内容の一部が今回月城理事長代理がはなしていたことになります

堀北さんが活躍したリレーについて 54話「生きています」
→思えばこの辺りからブラコンが生徒の間で周知の事実になりました

ちなみに松下さんが平田くんに疑問を持ち始めたのはクラス内投票の一件からです。
※特に描写はしていなかった、はず……


今回のサブタイトルは原作のデートひよりをモジっています。

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