ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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協力し合うことの美しき姿

無人島試験1日目の夜。

BクラスとDクラスのキャンプ地で大きな焚火を囲み、合同で食事を取っている。

井戸の近くをベースキャンプに選んだため、水に困ることはなさそうだ。

ちなみにDクラスはここから少し離れた場所にある川辺のスポットを占有してはいるが、ベースキャンプはこちらを指定している。ルールブックのどこにも自クラスの占有スポットをベースキャンプにしなければならない、とは書かれていなかった。

スポットは占有クラスの許可がないと使えないため実質不可能というだけだ。許可があれば問題ない。

 

「この提案を聞いたときは驚いたけど、Dクラスの人たちも協力的だし、人数が増えるとそれだけ楽しいね」

 

隣で焼魚をおいしそうに頬張る一之瀬。

試験とはいえ、Bクラスの方針には「楽しむこと」も組み込まれている。クラスメイトも和気あいあいとしていて、結束力が強い。その空気に当てられて、ここまでDクラスもいがみ合うことがなく過ごせている。良い傾向だ。

 

生徒会で過去行われた無人島での試験データを確認し、オレはいくつかの戦略を立てていた。その一つがBクラスとの共闘だ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

試験開始直後、平田にこちらの作戦を伝える。

 

「平田、実はさっき星之宮先生からBクラスの伝言を預かった。Dクラスと共闘したいらしい」

 

「それは本当なのかい、綾小路くん」

 

「あぁ。平田もさっきの様子は見ていたろ」

 

「なるほど……それで具体的にはどう協力していくのかな」

 

「詳細はこれからだが、ベースキャンプを共有することで仮設トイレやシャワーなど必要な設備を共有し、その費用を折半するのが主な内容だ。頼りになるBクラスと一緒なら、サバイバルに不慣れで不安になっているうちのクラスも安心できると思う」

 

一之瀬に共闘の話はこれから持ち掛けるので、まだそうなる予定の話だが、一之瀬がこの話を拒否する可能性はないため、些細な問題だろう。

 

「確かにそうだね。仲の良いBクラスは、みんなのお手本になると思う」

 

Bクラスの環境は、平和主義者である平田の理想とするところだろう。それを間近で体験できる機会を逃したくはないはず。

 

「共闘にあたっていくつか条件が提示されている。初日のベースキャンプと食料の確保はBクラスが担当する代わりに、オレたちは島中を散策してスポットや地形の情報収集だ」

 

「つまりBクラスには積極的にスポットを獲得していく作戦があるんだね」

 

平田は賢い生徒だ。ある程度の説明でいろいろ察してくれる。

 

「そうなるな。だが、共闘の可能性をAやCクラスに悟らせるわけにはいかない。だから情報収集は他クラスの目を誤魔化すため、Dクラスは仲間割れを装い、いくつかのチームに分かれて動いて欲しい」

 

「でもそうすると、どうやってBクラスのキャンプ地に合流すればいいのかな?」

 

もっともな疑問だ。Bクラスのキャンプ地を知る方法がないため、森の中で迷子になる可能性が高い。

 

「それについても考えてある。30分後、茶柱先生に『綾小路がベースキャンプを決めた』と伝えて欲しい。そうすれば、あとは任せてもらって大丈夫だ」

 

「わかった。綾小路くんを信じるよ」

 

こんなわけのわからない指示にも関わらず、平田が受け入れてくれるのはBクラスの信頼度か、オレを信頼してくれているのか……どちらにせよ、説明で無駄な時間を使わなくていいのは助かる。

 

「すまないが、平田はみんなに上手く説明してもらいたい。あとはテントだが森に入ってしばらくしたら放置して構わない。あとでこっそりBクラスに回収、設置してもらう予定だ」

 

うなずく平田の目を見る。無茶な依頼だったが、それを苦にすることなくやり遂げる、そんな意思を感じ取れた。

 

「オレはこれからBクラスと交渉してくる。クラスの代表にはふさわしくないと思うんだが、生徒会役員だからだろうな、向こうから指名されてしまった」

 

一応取り繕っておいたが、平田相手には無駄だろうな。

 

「そういうことにしておくよ。綾小路くんも気をつけて」

 

平田に見送られオレは森の中に入り、一之瀬との集合場所を目指す。

 

「やっほー、綾小路くんっ」

 

しばらく森を進んだところで一之瀬と合流できた。

 

「すまない、待たせたか?」

 

「ううん、大丈夫。さっき来たとこだよ」

 

「……実はスルーされる可能性も考えていたから来てくれて嬉しい」

 

「いやいや、スルーは絶対しないよ!……えっと、それにしても面白いこと考えついたね」

 

ちょっと頬が赤く染まったことを誤魔化すように話題を逸らした。

面白いこと、というのは星之宮先生を伝言役に使ったことだろう。元々、こっそりBクラスに乗り込むかと考えていたが、都合良くやってきてくれた。これで他者からはBクラスが共闘を申し込んだ様に見える。ちなみに、星之宮先生に渡したメモには、共闘したい旨と集合場所を記しておいた。

 

「それで共闘の内容だが——」

 

先ほど平田に説明したような内容に、Bクラスのメリット、このあとの戦略案を伝えた。

 

「うん、いいね!交渉成立だよ。1週間よろしくっ」

 

「こちらこそよろしく頼む」

 

そうして握手を交わす。ふと、一之瀬と握手をしたのはあの日以来か、などと思い出さなくていいことを思い出してしまった。どうやら向こうも同じことを考えていたらしく、目が合うと一之瀬は苦笑した。

 

ともかくこれで準備は整った。

一之瀬の案内でまずはBクラスのキャンプ地を訪れる。このスポットは、井戸で水の確保ができることが魅力だな。サバイバルで水の確保は最優先事項だが、苦労する部分でもある。ポイントで水を買うこともできるが、クラス人数分を毎回購入していてはそれだけでポイントはなくなるだろう。そこが解決できたのなら、食料や寝床の確保など次の行動にも移りやすい。

 

一之瀬から支給品の懐中電灯を受け取り、Bクラスのメンバーに軽く挨拶をする。

これまでBクラスで交流があったのは一之瀬を除くと神崎のみ。仲の良いクラスという情報はあったが、実際に見てみると想像以上だ。

井戸の周りは木が多く、テントを何個も配置できるスペースはない。キャンプするための整備は苦労しそうなものだが、男女で協力し合う姿はもちろん、誰一人文句も言わず各々の仕事をしっかりとこなしている。

入学からまだ3ヶ月経ったばかり、一体何をどうすればここまで団結できるのか。

 

Dクラスと共闘することは先ほど伝わったばかりだというのに、部外者であるオレ疑わず快く迎えてくれているのもありがたい。

 

ただ……

「え、彼が綾小路君?」

「きゃー」

などと女性陣からやたら好奇の目で見られた……もしやこれがモテ期ってやつなのか。Dクラスではあり得ない反応に少しどぎまぎしてしまった。

 

そんなに居心地の良いものでもないため、一之瀬にいくつか言伝を残し、次の目的地ーー崖の上にある洞窟を目指す。船上から地形を確認した際に、まずスポットとして押さえておきたいと思った場所。

だったのだが、到着して中を覗いてみると既にAクラスが占有していることがわかった。

 

どうやらAクラスも船上でここに目星をつけていたようだ。周辺に人はいなかったため、ベースキャンプにすべくここに移動中なのかもしれない。

そうなるとここに留まるのは得策ではないな、周囲とスポット占有の表示を確認し、少し離れたところで待機する。予想ではそろそろ時間のはずだ。

 

「見つけたぞ、綾小路」

 

生い茂った草木の間から姿を現したのは茶柱先生だ。ジャージ姿で額にはうっすら汗をかいており、学生にはない艶かしさがある。

 

「お疲れ様です、茶柱先生」

 

「平田からお前がベースキャンプを決めたと聞いたが?」

 

担任は点呼やポイントでの物資購入のため、クラスのベースキャンプ近くに滞在する必要がある。そのため、ベースキャンプを決めたら担任にやってきてもらうという仕組みだ。

 

「ええ、その予定だったんですが、残念なことにAクラスに占有されてしまいました」

 

「フッ、それは確かに残念だったな」

 

このあとの地獄を知らずに呑気に嘲笑する茶柱先生。恐らく洞窟が占有されたのもオレの策のうちだと思っている。あながち間違いではないが、これからの策に自分が組み込まれているとは微塵も思っていないだろう。

 

「来てくださったばっかりで申し訳ないんですが、実は次の候補地を櫛田が見つけてくれたらしいので、櫛田の所へ移動をお願いします」

 

 

「なんだと?」

 

そう言いながら、携帯を取り出す。生徒全員が着けている腕時計のGPSで、教師陣は誰がどこにいるのかを確認できる。

 

つまり——

 

「おい、綾小路。なぜ後をついてくる?」

 

「いえ、たまたま方向が一緒なだけですよ」

 

「まさかお前——」

 

「ルール上、問題ないですよね?」

 

こちらの目論みに気づいたところで早めに釘を刺す。

 

「……確かにルール上は問題ないが、私からの印象は最悪だぞ?」

 

「先生がどうしてもと言うなら辞めますが、これはこの試験で勝つ為に必要な策ですよ?」

 

「くっ、卑怯だぞ、綾小路!またそれか!」

 

「それはさておき、櫛田のところに着くまでにポイントで買いたいものがあるんですが……」

 

不平不満には聞く耳を持たず、話を進めさせてもらう。

 

「……それは構わないが、カタログも持たずに注文するのか?」

 

非常に不服そうだが、教師としての務めは果たしてくれるようだ。

 

「そっちも後で頼みますが、今回オレがお願いしたいのはプライベートポイントを使用してのものです」

 

そう、この無人島試験では携帯を没収される関係で、これまでのようにプライベートポイントで何かを買うことはできない——と思われている。

だが、それは間違いだ。なぜなら携帯は目の前にある、そう茶柱先生の携帯が。

 

オレは生徒会で過去の試験データ確認した際に、無人島試験に関するデータも見つけることができた。

ただし、試験内容は例年バラバラで、無人島生活をする中で課題をクリアしていくものや島からの脱出タイムを競うもの、島中に隠された宝を探すものなど様々だ。

今回、何を行うか予測するには難しい良い塩梅の情報。

試験内容に統一性はないが……先ほどのように、安全性の問題から何らかの形で生徒の状態、場所を学校が把握しているなど共通点はいくつかあった。

 

そこでオレはその共通点の1つ、必ず携帯が回収されていることに注目した。

携帯が回収されるのはサバイバルゲームの特性上、連絡手段、情報検索、光源、娯楽など便利すぎるからだろう。しかし、回収されるからといって、この学校の特徴を考えると、どの試験でも平等にプライベートポイントを使えるように設定していてもおかしくない。設定しているということは自分の携帯がなくともポイントを使う抜け道があるということ。

 

それを実証するため、船上で一之瀬からポイントを借り、その全てを茶柱先生に預かってもらった。預かってもらう権利もポイントで買う必要があったのは、いい商売しているなと思ったが、それができた時点で、無人島で茶柱先生に預けているポイントを使うことが可能だと踏んだ。

 

「やはりそういうことだったか。生徒会に入った強みを存分に活かしているようだな。それで何を買いたい?」

 

「今日のDクラスの点呼、その場所を自由にして、時間を20時『に』ではなく、20時『までに』変更してもらいたいんです」

 

「ちょっと待て」

 

携帯で何やら確認する茶柱先生。以前テストの点を10万ポイントで売ってもらったことがあるが、この学校のルールに関わる部分、その金額をただの教師の一存で決めたとは考えにくい。対応マニュアルようなものがあり、そこに対応の可否と、その金額でも記載されているのだろう。

 

「それをした場合、1人につき1000ポイント、つまり4万ポイント使うが大丈夫か?」

 

「えぇ、問題ありません」

 

「私にはそれだけ価値のあることには思えないが……まあいい。確かに4万ポイントで条件を変更した」

 

「ありがとうございます」

 

『点呼の時間までにベースキャンプがない』という状況を他クラスに見せることで、こちらの戦略を誤認させることができる。頭のキレるやつほど、こちらが既にポイントを使いきった状態だと考えるはずだ。そしてこれからの不可解な行動をみて、答えの出ない思考の泥沼にはまってしまう。この試験でプライベートポイントを使用する、というのは意識の外にある。仮にもしやと思っても検証できないこの環境では真実にたどり着く方法はないからな。

結局、可能性を消去していった結果、DクラスはポイントをすべてBクラスの物資に使用し、スポット獲得と他クラスのリーダー偵察の兵隊として残り続けている、という結論に至り、それを警戒した行動を余儀なくされる。

 

 

「ちなみにちょっとした質問なんですが、もし全てのスポットを占有した場合、他クラスはベースキャンプを設定できるんですか?」

 

「お前ならその状況を作り出せると?」

 

「さぁ、興味本位の質問ですよ」

 

「まぁいい。非常に困難極まることは前提だが、答えられる範囲で言うと、占有地の範囲外の土地が島にあったなら、そこに設定することは可能だ」

 

「なるほど……」

 

流石に即全員リタイアにはならないか。ただ、そんな場所があるのかどうかまだわからない為、一つの手段として覚えておいてもいいかもしれない。

そうしているうちに櫛田のいるグループの元へ到着した。何事だろうと言う顔でこちらに近づいてくる。

 

「櫛田、一応聞くがお前がベースキャンプを見つけたと綾小路から聞いたんだが?」

 

 

「えっと……」

 

疑問顔の櫛田に目配せをする。

 

「その予定だったんですが、すみません、ちょっとまだ決めきれてなくて」

 

ジロっと茶柱先生が睨みつけてくる。

 

「櫛田のグループがダメな場合は、堀北のグループが決める手筈になっているので、今頃発見してますね。次は堀北のところにお願いします」

 

「綾小路、お前……」

 

「保険をかけて他にもキャンプ地探しをお願いしておいて良かったです」

 

このままクラス全員分回っていく予定だ。グループ構成はわからないが、早めに会うべき人間の名前を挙げていき、あとはそれまでのグループにいないメンバーを指名していけばいいだろう。

ありがとう茶柱先生、便利なナビとして働いてくれて。カーナビを文字ってチャーナビとでも名付けるか。

 

「それとここで点呼もお願いしますね」

 

櫛田のグループは、櫛田の他に、みーちゃんや前園など仲良しメンバー6人で構成されていた。これを20時までに繰り返す。

 

「綾小路、教師を何だと思っているんだ?」

 

「教師としての仕事以上のお願いはしてませんよ」

 

渋々点呼を始める茶柱先生。疑問に思うクラスメイトたちだが、ひとまず点呼に応じてくれた。

そしてチャーナビが次の目的地を目指して進んで行ったことを確認し、櫛田に現状とBクラスのキャンプ地を伝える。

 

各グループで更に班を分けてもらい、順番で一度キャンプ地に顔を出してもらう。少数グループとはいえ、全員動くと目立つ上、島内の探索チームが減るからな。

キャンプ地での休憩を挟み、再度探索に出てもらうことで、正確なキャンプ地の把握と人数問題を解決する。

体力的な面を考えて女子グループや運動が苦手な生徒から早めに合流し同様の指示をしていくつもりだ。

逆に池や須藤、平田など探索である程度成果を上げそうなチームは後回しにする。

 

ちなみに櫛田が最初である理由は、先にBクラスと合流させても問題なく交流でき、後から来るDクラスのグループとのクッション役になってもらうためだ。

 

「何かすごいことになってるんだね。綾小路くんが全部まとめてるの?」

 

驚いているようで、探りを入れてくる櫛田。

昨日の一件があったとは思えない自然な対応。Aクラスを目指す協力関係にはなっているものの、特別指示を出しているわけではない。

何がオレの役に立つと考え、どう動くのか、少し興味がある。

そのため、これまで通りの接し方を変えるつもりはない。

 

「いや、一之瀬の提案に乗っかっただけだ。オレはただの伝書鳩だな」

 

「そうだとしても一之瀬さんが交渉相手に指名したってことは、綾小路くんがDクラス代表として認識されてるからじゃない?」

 

「それは違うと思うぞ。生徒会の信用度とかじゃないか?」

 

「うーん。そうかなぁ」

 

人差し指を唇に当て首を捻る櫛田。計算され尽くした可愛い動作だろう。

 

天然の一之瀬と比べこちらは努力の賜物。みんな違ってみんないい。

 

「チャー……柱先生を見失うとまずいからそろそろ行くな。あとのことは頼んだ」

 

そう言い残し、チャーナビの後を急いで追う。そこまでの速度では歩いておらず、すぐに追いついた。

 

「言っておくがこれで成果を出せなかったら覚悟してもらうぞ」

 

教師が生徒を脅すなんてとんでもないな。

 

「先生もいい運動だと思って頂ければ。普段こんな森を歩くことはできないじゃないですか」

 

「まだ若いお前たちにはわからないかもしれないが、これは明日以降の業務に響くやつだ」

 

「社会人の研修で実際やってるプログラムって話ですし、先生も大丈夫ですよ。それにこの島に来たのは初めてじゃないんでしょ」

 

この学校出身の茶柱先生も生徒として無人島試験を体験しているはず。

 

「だからこそ、こんな無茶苦茶する生徒がいることが信じられないんだがな」

 

「想定できることをしているうちはAクラスなんて夢のまた夢だと思いますけどね」

 

「それは……」

 

当時の自分達と重ねているのか、これまでの生徒たちを思い出しているのか、急に黙ってしまった。軽口のつもりだったのだが、どうやら触れてはいけない部分だったらしい。まだコミュニケーションというのはよくわからない部分があるな。

 

そんな状況ではあったが、しばらくして堀北たちのグループに合流した。

 

「茶柱先生と綾小路くん、嫌な組み合わせね」

 

まだ散策をはじめて2時間も経っていないタイミングだったが、あまり顔色が良くない。いつもの小言にも切れがないぞ、堀北。

 

「説明はあとで綾小路がしてくれるだろう。ひとまず点呼をとる」

 

櫛田のグループと同じ手順で進めていこうと思ったが、ささっと点呼を始める茶柱先生。

 

先ほどの会話で思うところがあったのか、チャーナビとしての覚悟を決めたようだ。

 

こうして繰り返していき、無事にクラスメイト全員と接触することに成功した。

途中、池たちが見つけた水場が良いスポットだったため、占有して魚の確保をお願いした。Bクラスと合流の際に手土産がある方がいいからな。ちなみに茶柱先生がいるため、道具の購入もスムーズだ。担当スタッフに連絡をして水場まで投網や釣り竿を届けてもらった。

 

そうして島中を歩き回ったのち、Bクラスのキャンプ地に戻ってきたオレとチャーナビ。

 

「では、Dクラスのベースキャンプはココということで」

 

「やっと終わったか……」

 

「ありがとうございました。今度お礼にお茶でも点てますよ」

 

「今はお茶より、冷たい水が欲しい……私は休ませてもらうからな」

 

もう何もしてくれるなよ、といった様子で睨んでくる。

おかしいな、生徒と担任が協力してAクラスを目指すという美しい構図のはずなのだが——

 

だが、茶柱先生の地獄はまだ終わらない。

 

「サエちゃーん」

 

テントから飛び出し、茶柱先生に抱き着く星之宮先生。

 

「1週間一緒に過ごせるなんて嬉しいねー。学生時代に戻ったみたいじゃない?」

 

Bクラスのキャンプ地なのだからもちろんこの人もいるわけで……

喜びの表現なのか、満身創痍の茶柱先生の両肩をつかみ前後に揺らしている。この人、本当に保険医か——わざと……じゃない、よな?

 

ご愁傷様ですと心の中で合掌し、2人の元から離れ、一之瀬の元へ向かう。

 

「綾小路くん、おかえりー」

 

「ああ。ただいま」

 

『ただいま』なんて初めて使ったな。必要性を疑っていた言葉のひとつだが、実際に使ってみると悪くない。この学校に来てから、知識としてしか知らない言葉を実際に使う機会が増えてきた。

 

一之瀬に現状を確認したところ

Dクラスの探索チームが適時戻ってくることで島の情報が更新されていき

野菜や果物など食料を発見した場合、Bクラスが確保に向かうことができたそうだ。

しばらく食料に困ることはないとのこと。

 

キャンプ地に関しても、山歩きに疲れた生徒がサポートにまわったことで作業が進み、見た感じ十分生活していけるだろう。途中歩きながら茶柱先生に発注してもらった各設備も無事に設置されている。

 

「最初は戸惑う人も多かったみたいなんだけど、櫛田さんが上手くお願いしてくれたみたい」

 

「なるほどな」

 

「それとお願いされてた件だけど、ここに来てからはテントで休んでもらってるよ。……やっぱり熱があるみたいで——」

 

「気遣ってもらってすまなかったな。堀北は強情だから誰が説得してもリタイアしないと思うぞ」

 

「うん。心配だけど症状は熱だけみたいだから、しばらく休めば元気になると思う」

 

心情的にはリタイアを勧めたいが、ポイントが絡むだけに強く踏み込めなかったのだろう。

乗船してからあれだけうろついていたにもかかわらず、堀北の姿を見なかったことを疑問に思っていた。

アイツの事だから部屋に引きこもっている可能性も捨てきれなかったが……やっと姿を見せたのは島に上陸した時。だが、好き勝手動いているオレに小言の1つもないなんて明らかにおかしいだろう。

念を入れて、一之瀬に堀北がキャンプに来たら様子を確認するようお願いしておいた。

こんなところでリタイアさせるわけにはいかないからな。

 

「あと、実はひとつ謝りたいことがあって……Cクラスの金田くんって生徒がいるんだけど、クラスで揉めちゃってキャンプ地を追い出されちゃったらしくってね……」

 

「……保護したのか?」

 

「うん。千尋ちゃんと同じ美術部ってこともあって、無下にできなくて。共闘関係なのに相談もせずに受け入れちゃってホントにゴメンね」

 

「いや、いいさ。困っていたのなら手を取ることは間違いじゃない。ただ——」

 

「うん、わかってる。神崎君に頼んで怪しい行動がないか見張ってもらってる」

 

神崎の姿を見ないと思っていたがそのためか。

正直このタイミングで他クラスがやってくるのは、スパイと疑われても文句は言えないだろう。

しかし直接間者を潜入させるとは龍園も大胆な戦略をしてきたな。

オレが言えたことじゃないが、点呼の問題がある。

決めつけはよくないが、こちらのブラフとは違い、龍園は本当に0ポイント作戦を実行しようとしているのかもしれない。

 

「それならいいんだ。疑いたくはないが、リーダー情報はこの試験の肝だからな。警戒は大事だ」

 

「だね。ちなみに私たちの間でもリーダーは秘密ってことで大丈夫なの?」

 

「ああ。下手に共有すると疑心暗鬼になるからな。それじゃ楽しく過ごせなくなる気がしたんだ」

 

「にゃはは、綾小路くんもそういうこと考えるんだね。うん、仲良く楽しく頑張ろっ」

 

ちなみにDクラスのリーダーは平田にお願いしてある。

スポットを狙っていく都合上、運動能力のある生徒である必要があったからな。

 

 

時刻は20時を回り、無事Bクラスの点呼が終了する。それからしばらくして最後のグループ、池たちが大量の魚を手土産に合流してきた。

 

「えー、これ寛治君たちが捕ってきてくれたの。ありがとう」

 

「ホントだー。Dクラスの男子ってすごいね!」

 

「お、おう。アウトドアなら任せてくれよな」

 

「頼りになるー!」

 

さっそく櫛田が迎えに行く。それに続いてBクラスの女子生徒たちもその釣果に喜んでいた。

普段、Dクラスでは3バカと呼ばれ、滅多に褒められることがない池、山内、須藤たちは「でへへへ」とかなりご機嫌だ。

 

と、そんな3人の後ろから見慣れぬ生徒が姿を現す。

Cクラスの伊吹澪だ。顔を腫らしてバツの悪そうな顔をしている。

 

「ここに金田ってやついないか。追い出されたのを心配して探しに来たらしいんだ」

 

「Cクラスの野郎、伊吹が金田を探すっつったらキャンプから追い出したんだってよ」

 

「森で倒れてるところをオレたちが発見しなかったらマジやばかったよな」

 

3人が事の経緯を説明する。金田を追ってきた、か。

どうやらCクラスは、各クラスにスパイを送ろうとしていたのだろう。

 

伊吹は昨日船上でオレの尾行していたからな。

自由に遊ぶ姿を見せつつ、あえて一之瀬との取引は目撃してもらった。

その後、佐倉や櫛田などのブラフを挟んだことで帰っていったため

 

心置きなく本命の茶柱先生と密会することができた。

 

結局、Cクラスには帰ることができないということで、2人ともこのキャンプに滞在することとなった。

 

こちらがBクラスと合流した後にも追加でスパイを送り込んできたということは、龍園は徹底抗戦の道を選択したようだ。

それもいいだろう。Bクラスさんの力を思い知ってもらうだけだ。

 

 

余談だがいつのまにか高円寺がリタイアしていた。

元々Bクラスとの点差をどこかで調整したいと思っていたので丁度いい。

クラスの連中も散々山を歩き回って疲れていたからか、怒る気力もないようだった。

 




原作の設定を見ていると意外なキャラが意外な部活動に入っていたり。
ずっと(恐らく)男嫌いな白波千尋のもとに金田をフォローに向かわせた一之瀬の指示が謎だったのですが、同じ美術部所属ということがわかり納得。双方に気を使った采配だったようです。あとは料理部の篠原とか神室も美術部とか。


ちょっと怖い話。一之瀬と櫛田について。
この頃ぐらいから帆波ちゃん、桔梗ちゃんと呼び合っていたはずの2人ですが……2年生編8巻で久々に話したと思ったら、一之瀬さん、櫛田さん呼びになっていて。いったい二人の仲に何があったんでしょうか。この作品では怖いので初めからお互いに苗字呼びで統一することにしました。
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