ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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ここからいよいよ2年生編です。

この中に、ホワイトルームの刺客がいる。というキャッチコピーなだけあって、原作2年生編前半の目玉は、刺客の正体みたいなところがあります。

当時のワクワク感を懐かしいと思いつつ、この作品では恐らく原作よりも早めに誰が刺客か判明してしまう可能性が高いため、ネタバレを気になさる方はご注意ください。

また、いるかどうかはわかりませんが、原作未読の方もいらっしゃる可能性もあるので、恐れ入りますが感想などコメント頂く際はそのあたり少し注意いただけますと幸いです。


波乱の幕開け

朝が来た。

起床時間は同じでも、これまでとはまるで違う朝。

 

「……綾小路清隆」

 

決意のような感傷のような、あやふやな心境と対峙し、対象の名前が思わずこぼれる。

 

覚醒したての頭で、この感情は何かと分析しようとしたが、考え直す。

私はただ任務を全うするだけ。余計なことを考える必要はない。

 

身体を起こし、支度をしなくては。

 

入学式は明日だが、相手が相手。準備はいくらしても足りない。

 

ベランダのカーテンを開け、任務が完了するまで――少なくとも綾小路清隆の在学中は滞在することになる学園を眺めた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

昨日と何ら変わりない1日の始まりでも、世間的には今日から2年生ということになる。

 

1つ学年が進んだことで、昨年までとどう学校生活が変わっていくのか、あるいは変わらないのか。

 

目下、楽しみのひとつは後輩ができること。

例えその中にホワイトルームからの刺客が紛れていたとしても、新しい風を吹かせてくれる存在には違いないからだ。

交流していく中で『先輩らしさ』みたいなものを実践する機会があれば試してみるのも悪くないかもな。

 

そんな他愛のないことを想像しながら普段の通学道具一式に加え、お節介好きな先輩から託されたトランプをポケットに忍ばせた。

 

登校の準備が整い、一息ついたところでチャイムが鳴る。

 

「自称幼馴染の登場か……」

 

前回同様、ダメもとで居留守も検討したが、こちらが出るまでドアの前に自称幼馴染を抱えたマッチョが待機し続ける絵面を想像して、早々に観念する。

 

こういう新しい風はすぐ止んで欲しいと思いながら玄関を開けると

 

「退学ー!今日も良い退学だね、清隆くんっ」

 

自称幼馴染でも、マッチョマンでもなく、高育屈指の退学っ子が、物騒な言葉とは裏腹にそれはそれは素敵な笑顔で登場した。

 

「あぁ、退学。新学年にふさわしいさわやかな退学だな。それじゃ」

 

自然な挨拶を済ませてドアを閉めようとしたが、気に入らなかったのか、ドアに足を挟まれ阻止される。

 

「あれれ?一緒に登校する約束したよね?春休み中も、一緒に退学しない?って誘っても断るし、今日は逃がさないよ?」

 

長期休暇でよほど退学が溜まっていたのだろう。

櫛田の全身から退学が漲っている。

 

……そろそろ退学がゲシュタルト崩壊しそうだ。

見なくても正しく認識できなくなるというのはひとつの発見だな。

 

「降参だ。カバンを持ってくるから少し待っててくれ、桔梗」

 

「……うん」

 

退学語を使わなかったから返事の歯切れが悪くなった、というわけではないのだろう。

明後日の方を向く櫛田を尻目にカバンの元へ向かう。

 

だが、目を離したたった数秒で事件は起きた。

 

「これはどういうことか説明していただけますか、櫛田さん?」

 

「えっと、坂柳さん達には申し訳ないんだけど、綾小路くん、今日は私と登校したいって言ってて。もちろん、特別な何かってわけじゃないよ?これからのクラスのことで相談があるみたいで、協力して欲しいって頼まれちゃって」

 

「それしきのことは登校後でも良いことです。朝のひとときは幼馴染の特権。私に譲っていただきましょう」

 

「それだと綾小路くんも困っちゃうと思うし。坂柳さんと幼馴染っていうのも否定してるって聞いたけど?」

 

「まさか櫛田さんも幼馴染などとおっしゃるつもりでしょうか?幼馴染は2人も存在していいものではございません」

 

「いや、いる場合もあるんじゃないか。お隣さんがひと組とは限らないし、兄弟がいれば――」

 

「マイカーは口を慎みなさい」

 

真面目な葛城の正論を一蹴し、櫛田へ微笑む坂柳。

櫛田は櫛田ですっかり外行きモードで「困ったなぁ」と苦笑いしているが、腹の中は……想像したくない。

笑っているが笑っていない選手権をしたらここが決勝の場だろう。

 

「朝からすまないな、綾小路」

 

「そう思うなら運んでこないで欲しいんだが」

 

「それが無理な相談だと言うことは幼馴染のお前ならわかるだろう」

 

坂柳の幼馴染発言を信じて疑わない葛城がこちらに気づき、挨拶をしてくる。

 

「綾小路くんはもちろん幼馴染を優先なさいますよね?」

 

「クラスのことが優先だよね?」

 

強気な坂柳と遠慮がちな櫛田に見つめられる。

 

「悪いが言い争うならオレは1人で登校させてもらう」

 

玄関先で対峙する3人の間を抜け、鍵を閉めてエレベーターへ向かう。

 

「ちょっと置いてかないで、綾小路くん」

 

「仕方がありません。今回は櫛田さんの同行も許しましょう」

 

慌てて後を追ってくる3人。

 

春休みが明けて、再び学校生活が始まったことをこんな形で実感したくはなかったが、オレ自身こんな展開も慣れたもの。この程度では動じることはなくなった。

 

などと思っていたのだが――。

 

「おはよーきよぽん」

 

「き、清隆くん、おはよう」

 

「「せっかくの新学期だし、一緒に登校しない?」」

 

エレベーターを降りたところで、どうやらオレを待っていたと思われる、波瑠加と愛里が合流する。

 

「王子!修正した会報ができました。チェックをお願いします」

 

そして、エントランスを出たところで、諸藤に捕まり

 

「綾小路くん、おっはよーー!いい天気だね」

 

なぜか自販機裏から一之瀬が元気よく飛び出してきて

 

「清隆くん、昨日発売の新刊はチェックなさいましたか。まだでしたらこちらに」

 

と、寮を出てすぐのベンチに座っていたひよりが目を輝かせながら寄ってきて

 

流石にもうネタ切れだろうと思ったら

 

「勘違いしないで欲しいのだけれど、これはあくまで兄さんの言いつけを守ってるだけだから」

 

と、ブラコン堀北までやってくる始末。

 

結果、気づけば移動手段である葛城を除くと女子生徒を大勢引き連れて登校するヤバいやつになっていた。

 

「今日が入学式じゃなかったことだけが救いだな」

 

すでに同級生や3年生からは好奇の目に晒されていたが、幸か不幸か彼らとしても、もはや珍しい光景ではないのだろう。

二度見、三度見はされても、あぁまた生徒会が変なことをやってるな、ぐらいの感じで、何事もなかったかのように登校していた。

 

だが、相手が新入生となれば話は変わってくる。

第一印象が大事なことは、昨年の自己紹介で痛感した。

ここで変な印象を持たれれば、限られた交流機会の中で払拭することは難しいだろう。

 

学校に到着する前に、明日は絶対に1人で登校することを主張しておかなくてはならないな。

並び順で揉める坂柳と堀北の仲裁をしながら、馬鹿みたいな話だが死活問題になりかねないため、どう説得するか思考を巡らせる。

 

「あれっ?見慣れない子だけど、新入生かな?」

 

一之瀬のそんな言葉が耳に入り、前方を確認する。

 

明日に備えて通学路の下見でもしていたのか、学校の方から長髪の女子が1人歩いてくる。

今年度から導入するOAAで1年生のデータを作成した際に確かに見た顔であるため間違いなく新1年生だ。

 

当然、迫り来るこちらの総回診だか大名行列だかわからない軍団を目の当たりにすると目を見開き、脇へ逸れて道を譲る。

 

「ご、ごめんねー」

 

「いえ、お気になさらず」

 

すれ違い様、諸藤と先頭を歩いていた一之瀬が謝罪するが、悪い意味で印象に残っただろうな……。

 

いや、この集団の中で悪目立ちするのは葛城を乗り物にしている坂柳じゃないか。

そちらに視線が奪われ、オレの印象は残らない可能性も……。

 

そう思い1年生の様子をチラッと確認するとバッチリ目が合ってしまう。

少なくとも今この瞬間は坂柳よりオレに注目していたことが確定する。

 

終わった……。

噂が広まり、新入生の中でハーレム先輩とかあだ名をつけられ、白い目で見られる――そんな未来が広がっていく。

 

こんなことなら、見つかる前にオレもひよりを背負って葛城と並び乗り物と化していれば誤魔化せただろうか。

 

「どうしました、清隆くん?なんだか遠い目をなさってますよ」

 

オレの視線に気づいたひよりが尋ねてくる。

 

「いや、ちょっとした現実逃避をしていただけだ。ひよりも歩き疲れたらいつでも言ってくれ」

 

「ありがとうございます。ですが心配無用です。たくさんの本を持って歩くのは慣れていますから」

 

そう言って、新刊を詰め込んできたことで普段より膨らんでいるカバンを上下させ「ほらこのように」と余裕をアピールする。

まさか自分が肩に乗せられそうになっているとは思ってもみないひよりの笑顔が眩しかった。

 

「さっきの1年生、可愛い子だったけどさ、ダメだからね、きよぽん?」

 

この一団が件の新入生から少し離れたタイミングを見計らって、さっと隣にやってきた波瑠加がジトっとした目で訴えてくる。

 

「あのな、オレのことを何だと思ってるんだ」

 

「え?天然ジゴロ?」

 

「酷い誤解だな」

 

とは言ってみたものの、側から見ればそう思われてもおかしくない状況であり、全校生徒でどちらの意見が正しいか多数決を取ったら敗北するだろう。

 

「でも綾小路くんが年下の子と仲良く話してる姿はイメージできないなぁ」

 

「あー、きょーちゃん、それわかるー」

 

櫛田の意見に頷く一同。

残念ながら否定はできないため黙るより他にない。

コミュニケーション能力もさることながら、自分より年下の人間は未知の存在でもある。

 

「ですが、生徒会や茶道部に後輩が入ってくれば自然と話す機会もあるかと」

 

「ええ、ファンクラブも1年生獲得を狙っていますので、王子の魅力が伝わるのも時間の問題かと思います」

 

ひよりや諸藤が可能性を示し、幾人か表情が硬くなる。

 

「ふふ、どのようなお相手が来ても幼馴染の絆に敵うものはございませんから」

 

「クラスの絆の方が上だよね?」

 

「グループの絆が1番じゃない?」

 

「生徒会の絆だって負けないよ」

 

「くだらないわね、兄さんを敬愛する絆が最強よ」

 

各々の主張を口にし出す一向。

 

「男の友情も立派な絆だ」

 

「乗るな葛城、お前は乗られる側だろ」

 

急な葛城の参戦に思わずツッコんでしまう。

 

「むむ、これは一本取られたな。はっはっはっ」

 

「解釈違いですッ!王子には切っても切れない固い絆で結ばれた相手が――あ、これはオフレコでしたね。葛城さんもほどほどに」

 

「ふむ、よくわからないが善処させてもらおう」

 

「ええ、それが良いかと思います。個人的には真面目な葛城さんには、不良というか少し荒っぽい方などが合うんじゃないかと。そう思いませんか、一之瀬同志」

 

「ん?そうだね、葛城くんが上手くリードしてくれそう」

 

「同志はそちら派ですか。私としては逆も――」

 

ここまで乗り物に徹し、沈黙を守っていた葛城が口を開いたと思った結果、妙な化学反応が起こり始めた。

 

仮にもAクラスのリーダー格で見た目も屈強な葛城に対して、一切物怖じせずに主張を通す諸藤。

さらにはBクラスのリーダー一之瀬に同志として意見を求めた上で持論も展開している。

……今なら恵に突き飛ばされても返り討ちにできそうだな。

 

「それで綾小路くんはどの絆が一番だと思ってるのかな?」

 

熱く語る諸藤をスルーし、櫛田が話を戻すと一同の視線がこちらに集まる。

 

「正直なところで言えば――」

 

ごくりと息をのむ音が聞こえ、謎の緊張感が漂う。

 

「もう帰りたい。ほとぼりが冷めるまで引き籠るつもりだ。もしその間に特別試験が始まったら呼んでくれ」

 

「あー逃げたー」

 

「大したヘタレっぷりね。兄さんが聞いたら悲しむわよ」

 

たとえ変な噂が流れても、そんな人物を見かけなければ冗談か何かだったのだとすぐに忘れ去られるだろう。

先程の女子生徒も徐々に記憶が曖昧になり、見かけたのがオレだったとは断定できなくなるはず。

 

「引き籠る幼馴染を叱咤して登校を促す、そういうことですね、綾小路くん」

 

「綾小路、悩みがあるなら俺が聞くぞ。お前は一人じゃない」

 

「今度は綾小路くんが部屋から出られるように私が頑張る番だね!任せてよ」

 

「き、清隆くん。大丈夫!?えっと、あ!この前の写真あげたら元気になるかな、波瑠加ちゃん」

 

「愛里、それある意味元気になるけど余計部屋から出てこなくなるかも」

 

「時間ができるということは長編で勧めづらかったシリーズものを読むチャンスですね、どの本からいきましょうか……」

 

「平田王子を呼んでこなくては!愛!愛の力が必要です」

 

おかしい、より面倒なことになりそうだ。

 

「気が変わった。頑張って登校するから、今日みたいな団体行動はこれっきりで頼む」

 

「ええ、そうでしょう。私としても不本意な状況です。皆さん、おわかりですね?」

 

「うん。これから生徒会で忙しくなるし、綾小路くんは私と一緒に登校するのが効率的だね」

 

「一之瀬さん?」

 

「何かな、坂柳さん?」

 

火花を散らすという表現のお手本のように一之瀬と坂柳が睨みあっている。

そういうのは特別試験でやって欲しい。

誰が何をどう争おうと構わないが、共倒れで全滅しない限り、勝者にオレの登校時間を占有されてしまうのが悲しいところ。

 

「……副会長の権力を行使して『学生の登下校は1人で行う』というルールを作るしかないか」

 

「一之瀬さん?」

 

「もちろん、生徒会として全力で阻止するよ。みんなで仲良く登校するのは大事だからね!」

 

なぜこんな時だけ息ぴったりなんだ。

 

「このままでは平行線よ、朝の貴重な時間をこんなくだらないことで消費したくないのだけれど」

 

協調性のない堀北がこの瞬間だけは有難く感じるな。

 

「仕方ありません、妥協案を提案しましょう。ここはひとつ王道の解決策などいかがですか?」

 

坂柳の発案に各々頷いている。

だが、一体それがどんな策なのか、オレには見当がつかない。

 

「王道ってどうするつもりなんだ?」

 

「多分、曜日ごとに一緒に登校する人を振り分けるってことじゃないかな」

 

「なるほど……。いや、それはそれでどうなんだ」

 

櫛田の補足説明に納得しかけたが、女子生徒を日替わりでとっかえひっかえしながら登校する姿が与える印象は、この団体行動と大して変わらないんじゃないか。

後輩から南雲のような先輩だと思われることだけは御免だ。

 

「でも、その作戦は人数的に厳しいんじゃないかな?」

 

「不思議なことをおっしゃいますね、櫛田さん。あなたが綾小路くん登校するのはクラスの相談事がある今日だけのはずでは?」

 

「うーん、毎日でも相談事はあるんじゃないかな。うちのクラス問題児ばかりだし」

 

「殊勝な心がけね。なら、私は櫛田さんと一緒の曜日で構わないわ」

 

「堀北さん、冗談はブラコンだけにしてね」

 

「私も愛里と一緒の曜日でいいけど」

 

「うん!」

 

上手く妥協案をまとめようとする動きが始まったが、ここまで。

月曜から金曜までの5日間では、ここにいるメンバー、堀北&櫛田、坂柳&葛城、一之瀬、ひより、愛里&波瑠加、諸藤の内、まだ一組溢れる。

 

そのことを意識してか、集団の緊張は緩まない。

ここで下手な発言をすれば残りのメンバーから集中砲火をくらう可能性がある。

 

ここはひとつ、不平等を理由に一緒に登校するのは控えるよう誘導するか。

 

「その……私は新刊をいち早く清隆くんと共有したかっただけですので、毎週一緒に登校する必要はございません。皆さんにお譲りします」

 

と、こちらが口を開くより先にひよりが優しく微笑み提案した。

 

「ふふ、そうですか。それではこれで決――」

 

「ひより、信じていた」

 

「き、清隆くん!?」

 

坂柳の発言を遮り、健気な献身を称えるようにひよりの手を両手で包む。

すると――

 

「その手で来たかぁー、やっぱり椎名さんも油断ならない相手だね」

 

「やられたっ、愛里、ごめん」

 

一之瀬と波瑠加がいち早く反応する。

 

「綾小路くん、私も辞退するよ。困らせちゃ意味ないから」

 

「私たちも。登校後、いつも通りグループで集まればいいし」

 

「私も会報チェックがあるときだけで構いません。そもそも王子と2人で登校は解釈違いですから」

 

と、これまでの争いが嘘のように次々と辞退していく。

ひよりの行動を利用させてもらい、一緒に登校するよりもしない方がオレの印象が良くなることを提示し、この状況を作ることに成功した。

 

これで平和な登校時間を取り戻すことができる。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……おい」

 

「どうなさいました、綾小路くん」

 

「ここは全員辞退する流れだろ」

 

「これしきの波でマイカーが流されるはずもありません」

 

「さすが坂柳だ。春休みに取り組んだ大腿四頭筋の育成に気づいていたとはな」

 

この2人はもうダメだ。

元々月城対策で、という話ではあったからな、他のメンバーの手前、本当の理由を濁しているんだろう、きっと。

 

「櫛田たちは?」

 

「え?クラスのためなんだよね?だったら辞退するのはおかしいし」

 

「櫛田さんに同じよ」

 

『クラスのため』という捏造した理由に振り回されていた櫛田だが、最終的にそれを盾に強引に押し切るつもりらしい。

この逞しさを他で活かしてくれれば……。

そして堀北は一体なんなんだ……。

 

まぁこの2組とであれば3人での登校となるわけで、そこまで変な噂も立たないか。

こちらとしても落としどころはこのあたりだろう。

 

だが、ことある毎にこんな調子では身が持たない。

根本的な解決を目指すなら手っ取り早い方法はひとつ――恋人を作ればいい。

 

新学年のスタート、まだ登校しただけにもかかわらず、疲労を感じながら校舎へと足を踏み入れることとなった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

始業式はあっさりと終わり、大きく変わったことと言えば、現状は黒板や教科書がデジタル化したことぐらいなもの。それについても生徒会として事前に情報が共有されていたため驚きはない。

 

個人的にありがたかったのはプライベートポイントを使った席替えの結果。

コンパス装備のブラコンから解放されただけでなく、廊下側の一番後ろの席を確保できたことで、放課後になればすぐ教室から逃げ出すことも可能だ。

また、この教室に近づく者を把握しやすいことも、刺客からの防衛という点で優れている。

 

翌日。

入学式の準備で早いからと1人で登校することに成功した。

その入学式も、卒業式とは違い何か演出があるわけではなく、装飾等の準備が済めば在校生代表の挨拶がある南雲以外は式に立ち会うこともない。

 

つまり、この日も変わったことは起きなかった。

強いて言うなら、新1年生を学校の施設内で見かけるようになったぐらいで、特に接触をしてくるような生徒もいない。

 

月城との勝負は、今月中に新1年生に紛れ込んだホワイトルーム生を特定すること。

 

これに関してはすでにいくつか釣り糸を垂らした状態。

あとは餌に食いつくかどうかだが、一番面倒なのは何もアクションせずに潜伏されること。

 

その場合、刺客を特定するためにこちらから積極的に新一年生を探る必要が出てくる。

 

そのための一歩として大事になってくるのは、この時間なのかもしれない。

 

「1年生の皆さんお待たせしました。これから部活動の入部説明会を始めます」

 

始業式から3日目の放課後。

第一体育館に進行役の一之瀬の声がスピーカーを通して響き渡る。

舞台上には部の代表者が並び、オレはステージの舞台袖でそれを眺めていた。

 

昨年は部活に入る気はないが友達作りの口実に、という口実で部活動というものを知るため、堀北を誘って参加したことを思い出す。

あの時の進行は橘だったな。

 

最後の1人で学が生徒会の勧誘をする前に黙り続け『みなさんが静かになるまで●分かかりました』みたいなことをやっていたのは今になって振り返ると面白い。

 

まぁ当時は堀北含めかなりの生徒が萎縮してしまっていたが……。待てよ、俺たちの代の役員が少ない本当の理由はこれのせいなんじゃないか?

 

現生徒会長である南雲がどうするかは見物だが、今年は先日撮影した紹介ビデオがあるため少なくとも別の空気にはなるだろう。

 

そんな回想をしている間に、様々な部の代表がアピールをしては降壇していく。

 

そして茶道部――3年生の中に混ざっていたひよりの番が回ってきた。

茶道部の部長は3年生だが、3年生は基本全員飲み食い専門であるため、部の存続の功労者であるひよりが推薦された形だ。

 

「こんにちは、茶道部です。茶道は作法など厳しいイメージがあるかもしれませんが、この学校の茶道部はとてもアットホームです。顧問の先生は生徒みたいに馴染んでますし、指導員は生徒ですがプロ顔負けの実力者で教え方も丁寧です。活動はその指導員の方がすごい腕前で入れてくださる美味しいお茶とみんなで作った茶菓子を楽しみながら過ごします。他にも、本もたくさん読めますし、ゲストで子犬がやってくることもあります。どなたでも歓迎しますのでぜひ皆さんも一緒に活動しましょう。入部お待ちしています」

 

茶道と関係がないワードが出てきた気もするが、ひよりのほんわかした話し方も相まって、信用できない言葉の代名詞『アットホーム』の胡散臭さが抜け、本当にアットホームに感じられた。会場の反応をみる限り1年生からも好感触なようだ。

 

その後も部活動の紹介は続き、ついに最後のひとつ――生徒会の番が回ってきた。

 

が、壇上には誰もいない。

 

次の瞬間、体育館の照明が落ち、真っ暗になる。

 

何事かとざわめく新入生のことはお構いなしに壮大な音楽が流れ始めた。

 

そして、スポットライトで照らされた壇上に一人の生徒が立っている。

 

「こんにちは、新入生のみなさん。私はこの学校の生徒会長を務めている、南雲雅と言います」

 

目立つ金髪をなびかせて語り始める南雲。

 

「さて……生徒会も新しい役員を募集しています。どなたでも応募は可能です……が」

 

独特の溜めを作り、イノベーションな発表でもしそうな雰囲気を出す。

 

「私の代ではこの学校に様々なイノベーションをもたらしていきます」

 

……本当にイノベーションって言ったな。

 

「私たちが求めているのは、それを共に成し遂げる人材です」

 

私たち?

 

「とは言っても、最初から能力の高い人間だけを求めているわけではありません。この学校に入学できた皆さんはそれだけ可能性を秘めた存在です。今はまだ自覚がなくとも、生徒会に所属することで才能を開花させることもできます。疑う方もいるでしょう。そこで皆さんにはそんな生徒会の一員である、ある生徒の成長記録をご覧いただきましょう」

 

これ、紹介動画の前振りか。……まずいな。

 

南雲の合図でスポットライトが消え、降りてきたスクリーンに映像が映し出される。

 

桜の花びら舞う中、校門付近で校舎を眺めるオレの後ろ姿。

次のカットでは校門を背に正面からオレの顔と『いよいよ始まった憧れの高校生活』というナレーションが流れ、『1年Dクラス 綾小路清隆』とテロップで紹介される。

 

 

『でもスタートダッシュをミスった僕は、友達ができず』

エキストラの殿河や溝脇が仲良さげにしている教室のすみで寝たふりをしているオレ。

 

 

『勉強も微妙な成績で』

全教科50点の答案用紙が映し出された。

 

 

ここまでは、当初の台本通りに編集しておいた。が、問題はここから。

 

『運動でも目立ったところがなかったため』

運動場で100m走を走っているが、どう見てもそれなりの速度が出ているように見えたため、編集でスローにしておいた。ちなみに一緒に走った南雲を置き去りにした方の映像を採用したため、のろのろとスローで走るオレより遅い南雲が後方にちらっと映り込んでいる。

 

「は?」

 

壇上から南雲の声が聞こえた気がする。

 

 

『ボッチで冴えない毎日を送ることに……』

本来はトイレの個室で食事するシーンだったが、やはり衛生面に疑問が残ったため、例のレストランでピアノを弾いている映像と、そこで食事をした際の映像に差し替えておいた。

 

 

『そんな僕を変えてくれたのは生徒会でした』

生徒会室で迎えてくれる素敵な先輩たちの映像も南雲が悪目立ちしてあまり素敵には思えなかったため、橘を見送った日に撮影した学と橘の入った生徒会メンバーの集合写真を採用した。

 

 

『生徒会に入った途端、テストではオール満点!』

全教科100点の答案用紙に加え、橘が用意してくれたテスト問題なども入れ込むことで勉強を教わった感を出しておく。

 

 

『体育祭でも大活躍!』

棒倒しのシーンではなく、最初の100m走の対比として最後のクラス対抗リレーで接戦からの桐山、南雲が脱落、オレと学が競り合っている場面を選んでみた。

 

 

『学年問わず友達ができて』

桐山と肩を組む映像では説得力がないと判断し、卒業式のあと、色んな卒業生と撮って共有してもらった写真をエフェクトをつけて次々と表示していく演出にしてみた。

 

 

『ファンクラブもできて、もうウハウハです!』

例の騒動でファンクラブ会報を持って喜ぶシーン自体撮影できなかったので、ホワイトデーで撮影した集合写真を採用した。

 

 

『さぁみんなも僕……いや、オレと一緒に生徒会で活躍しようZE』

ジョ●ョ立ちのキラーク●ーンのポーズでキメル、南雲の様子をみているオレの姿が出てくる。

テロップで『身体を張ってくれる愉快な生徒会長もいます』と補足しておいた。

 

 

テロップ:生徒会はみなさんの入会をお待ちしております

 

END

 

 

ゼロからモノを作るのは不得意でも、幸い南雲がベースを用意してくれたため、改良することはいくらでもできる。

あの時、カメラマンを務めた桐山に、NG集や舞台裏を紹介する可能性もあるので、撮影前後少し長めに録画するようにお願いしておいたことで、素材も豊富にあった。

 

ただ、南雲があんな前振りをするとは思っていなかったため、若干の齟齬が生まれてしまったのは残念だな。

 

新入生も、ネタなのか本気なのか判断できず、何とも言えない空気になっていた。

 

「……愉快で楽しい仲間たちに囲まれながら綾小路のヤツはあれでも副会長になって活躍している。ま、生徒会長の俺ほどじゃないけどな。お前たちの入会も待ってるZE!」

 

とジ●ジョ立ちを決めて締めくくった南雲。

 

南雲の機転で、生徒会が作った新入生を楽しませるためのネタ映像と判断したのだろう。

会場が一斉に笑いと拍手に包まれた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「と、まぁお前が好き勝手編集しやがったせいで、誰もブースに来ねえぞ、綾小路」

 

各部活の紹介が終わり、現在は割り当てられたブースで入部希望者を募ったり、詳細を聞きたい新入生への説明時間となっている。ブース外でもチラシを配ったりと積極的に活動し賑わっている中、生徒会ブースだけは閑古鳥が鳴いていた。

 

「そうは言いますが、元々あの映像で集客するつもりはなかったんじゃないですか?」

 

南雲にとってあの映像はこれまで上がり過ぎていた生徒会のハードルを下げる(ついでにオレの評価も落としておく)ことが目的だった。なら、オレだけでなく南雲の評価が落ちても似たような結果になると予想し変更させてもらった。

どちらにしろ、これで準備は整ったのだから問題ないだろう。

 

「……言うに事を欠いてそれかよ、ったく」

 

不機嫌そうにするが否定はしない。

どんな形であれ『生徒会に入って変わりました』などと言われても何も知らない1年生からしてみれば信憑性に欠ける。

 

あの内容をそのまま信じる生徒がいたら、疑うことを知らないよほどのお人よし――この学校で生き残ることはできない種類の人間ということになり、南雲の求める人材とは異なる。

 

「だがな、俺の指示を無視したことの罰は受けてもらうぜ。外回りして一人でも1年を捕まえてこい。捕まえれなかったら1年が担当するはずの雑務は全部お前にやってもらう」

 

「……わかりました」

 

いずれにせよ、1年生の様子は観察しておきたかったため承諾する。

 

「このあと俺は予定がある。ブースの方は桐山と帆波に任せるぜ」

 

そう言って南雲はブースから去っていった。

予定があるなどと言っていたが、あんなことがあった後だ、この場に留まっていたくなかったのかもしれない。

 

「じゃあオレも行ってきます」

 

「いってらっしゃい、綾小路くん」

 

「こっちは任せておけ」

 

一之瀬と桐山に見送られ、1年生の呼び込みへ向かう。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

ブースを出て、少し歩くとあちこちで多くの部活動が新入生を獲得するため必死で勧誘していた。

 

オレも声を掛けようと試みたが、周りの気迫と知らない1年生に何と声を掛ければいいかわからず、歩き回って様子見に徹することに。

映像であれだけ目立っていたため、そもそも生徒会に興味があった生徒は声をかけてくるかもしれない。

 

と、そんな時、意外な人物から声をかけられた。

 

「ヌフフフ、綾小路殿ではござらぬか。先ほどの映像、なかなか楽しめましたぞ」

 

「外村?どうしてここに?」

 

ここは部活に所属していない2、3年生には縁のない空間。無所属の外村がいる理由は不明だ。

 

「実は拙者アニメ研究会を発足しようと思い、そのために必要な部員を探しているのでござる」

 

「なるほど」

 

新しい部活動、同好会も、人数や顧問等の条件が整えば作ることはできる。

 

「ここで会ったのも何かの縁、ご一緒してもよいでござるか?」

 

「構わないが残念ながらオレは戦力にならないぞ」

 

現在まで新入生に声を掛けた人数も掛けられた人数も0だ。

 

「ふふふ、イケメンがいるだけで目は引きますからな。そこをうまく利用させてもらうでござるよ」

 

「そういうものなのか」

 

上手くいくかどうかはともかく、オレとしても外村の後に「ついでに話を」と声を掛けるのであればきっかけが掴みやすいように感じた。

 

すると、早速1人の女子生徒と目が合う。

見覚えのあるこの生徒は――。

 

「そこのお嬢さん、アニメ研究会に興味はござらぬか?」

 

すかさず声を掛ける外村。

 

「私ですか?すみませんが、あまり興味はないです。せっかく声を掛けて頂いたのにごめんなさい」

 

「そうでござるか……」

 

取り付く島もなく断られ、肩を落とす外村。

 

「なら、生徒会はどうだ?さっきの映像と違って割としっかりした組織なんだが……」

 

オレもダメもとで声を掛けてみる。

見た目からは真面目な印象を受け、外村との受け答えでも適正はありそうだと判断した。

 

「……たしか、綾小路先輩でしたか」

 

「ああ」

 

先程の映像の効果で名前は憶えてもらったようで、少なくとも無関心ではないことがわかる。

ここは押し時か?

 

「ボクは、綾小路先輩が邪悪で薄汚く節操のない人なのではないか、そう思っています」

 

そんな期待を吹き飛ばす、強烈な一言が飛び出してくる。

言葉だけでなく余りにも真っすぐで迷いのない眼をこちらに向けてくる。

 

何をもってそんな風に……いや、心当たりならある。

先日の登校時にすれ違った1年生は、この女子生徒――七瀬翼だった。

 

真面目な生徒ほどあの光景を忌避、嫌悪するのは理解できる。

 

「すみません、忘れてください。先輩に対して失礼な物言いでした」

 

「いや、そう思われても仕方がない。だが、一つ言わせてもらえるなら、あれは不慮の事故のようなものだったんだ」

 

「不慮の事故?そのせいで……ボクが、ボクたちがどんな目に合ったか」

 

七瀬はぼそぼそとつぶやき「用事があるのでこれで失礼します」と去っていった。

 

「誤解は解けなかったか」

 

「いやはや、綾小路殿、貴重な出会いでござったな」

 

「貴重?」

 

「ボクっ娘とリアルで会ったのは初めてでござる。しかも毒舌もちとは希少でござろう」

 

「ぼくっこ?」

 

外村が聞きなれない言葉で七瀬を表現した。

 

「一人称でボクを使う女性のことでござるよ。この学校には様々な個性あふれる生徒がいても、ボクっ娘はおらぬゆえ感動してしまったでござる」

 

「なるほど」

 

これまでいなかったタイプの女子生徒か。

 

「勧誘は失敗でござったが、幸先は良いということ。さぁ次に行きましょうぞぉ!」

 

興奮冷めやらぬ外村の様子が面白かったのか、ふらふらと近づいてきた髪色の派手なツインテールの女子生徒が話しかけてきた。

 

「もしかして、せんぱいってオタクさんですかぁ~?おもしろ~い」

 

薄い笑みを浮かべ、蠱惑的というか、語尾にハートマークでもついていそうな独特の口調。

 

「大変でござる、綾小路殿!!」

 

「今度はなんだ?」

 

さらに興奮した外村に引っ張られ、女子生徒に背を向ける形で小声で話される。

 

「め、メスガキでござるよ!!よもや高校生にもなって出会えるとは」

 

「雌牡蠣?」

 

「一見は百聞に如かず。とくとご覧あれ」

 

「おーい、せぇんぱいたち、きいてるー?」

 

「お待たせしもうした。拙者は外村秀雄。アニメ研究会設立のため部員募集中でござる」

 

「ふーん、やっぱりオタクせんぱいなんだ~」

 

「名乗ったにもかかわらず、拙者を舐め腐ったような呼称、たまらんでござるな」

 

「もしかしてアブナイ人?こわ~い」

 

言葉とは裏腹に、愉快と言わんばかりの態度で外村を小ばかにしている。

未知の存在だな。

 

「拙者は紳士でござるから安心してくだされ。それよりも、アニメ研究会への入会をかけてジャンケン勝負を受けてくれぬでござらんか」

 

「えーどうしようかなぁ」

 

突然の外村の提案に、右人差し指で自分の唇に触れながら、一瞬オレへと視線を移したのち、外村を見つめて返答する。

 

「まぁかわいそーだし、特別に1回だけだよ」

 

「フフフ、感謝するでござる。さぁわからせの時間でござるよぉぉぉ!!!!さいしょ、からぁっ!!!」

 

恥も外聞もなく、勢いよくパーを出した外村。

が、女子生徒はそう来ることを読んでいたように、チョキを出していた。

 

口ほどもなくあっさり敗れ去ったが、なぜか外村は不敵に笑い、指で眼鏡をクイッと上げる。

 

「お主の次のセリフは『あははーオタクせんぱい、ズルしたのに負けちゃうなんてざこすぎ~、なっさけな〜い』という、でござる」

 

「あははーオタクせんぱい、ズルしたのに負けちゃうなんてざこすぎ~、なっさけな〜い ……はっ!」

 

外村に自分のセリフを言い当てられ驚く女子生徒。

 

「どうでござるか?綾小路殿、これがメスガキでござる」

 

「どうも何もこの子のノリが良かっただけじゃないか?」

 

「そうではござらぬ。メスガキである以上、あのような煽りを言わずにはいられぬ定め、お約束なのでござる」

 

……お約束か。

 

「メスガキ、メスガキって、負けたくせにちょーしに乗りすぎ。私には天沢一夏って名前があるんですけどぉ」

 

「これは失礼した天沢殿。それで拙者たち相性は良さそうでござるが一緒に――」

 

「ざんね~ん。私、よわよわな先輩には興味ないんだぁ。付き合ってあげただけ感謝してよね~バイバ~イ」

 

そう言って天沢は去っていった。

生徒会へ勧誘するタイミングを損ねたが、あの調子なら誘うだけ無駄だろう。

 

「部活動勧誘サイコーでござるな」

 

「お互いまだ何の成果もあげられてないんだがな」

 

「まぁまぁここからが本番でござるよ。三度目の正直というでござろう」

 

二度あることは三度ある、とも言うぞ……。

 

「次は陰の者を狙っていきたいところでござるが……むむ、あの子が良さそうでござるな」

 

外村が目を付けたのは体育館の隅で棒付きの飴を舐めている女子生徒。

部活動には興味がないようで、この場に居ながら何をするわけでもなく携帯をいじっている。

加えて、ギャル寄りの外見であることから、あまり期待はできそうだが……。

 

「見るからに勧誘は厳しくないか?」

 

「恐らく高校デビューした元オタクのギャル、あるいは、オタクに優しいギャルだと拙者のセンサーが告げているのでござる」

 

よくわからないが希望的観測のような気がしてならない。

だが、臆することなく話しかける外村の雄姿を止める理由もない。

 

「ちょっとよいでござるか?」

 

「……私?」

 

「うむ、一目見てピンときたでござる。貴女はアニメ研究会の柱となる存在でござると」

 

「すみません。部活には興味ないんで」

 

「ぐぼぉ」

 

バッサリと切られた外村。

 

「なら生徒会は――」

 

「面倒なのも嫌いなんで」

 

「そうか」

 

それだけ言うと再び視線を携帯に戻す。

すると、後ろから男子生徒が声をかけてきた。

 

「椿、悪い待たせたな。ん?何か用か……ですか」

 

「いや、丁度済んだところだ」

 

「早く行こ」

 

付き添いか何かだったようで、椿と呼ばれた女子生徒は男子生徒を連れて体育館の出口へ歩きだす。

 

「ダウナー系、いや、無気力系女子でござるか。これまた珍し……女子生徒では珍しいでござるな」

 

「男子ならいるみたいな発言だな」

 

「綾小路殿は自分のキャラクターをご存じないので?」

 

「……なるほど」

 

オレは第三者からみるとあんな感じなのか?

だが、オレに似た性格かつ女子生徒にはいなかったタイプということか……。

 

「やれやれ、今年の新入生は良いキャラが揃っておりますな」

 

「結局メスガキっていうのはよくわからなかったけどな」

 

「メスガキは奥も業も深いでござるよ、興味があれば今度その真髄を伝授いたそう。あぁ、ただし、一之瀬殿には秘密でござる」

 

外村は満足しているようだが、このまま成果なしで終わってしまうと南雲がうるさい。

入会とはいかなくても、ブースに一人ぐらい誘導したいものだが……。

 

「す、すみません!!生徒会の綾小路先輩ですよね!?」

 

「ああ、間違いない」

 

「先ほどの映像見て、自分感動したっす。よければお話聞かせてくださいですっす」

 

緊張した様子ではあるものの、元気よくそう話しかけられた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「全然人来ないですね、桐山先輩」

 

「そうだな……昨年は、一之瀬や葛城をはじめ、数名は話を聞きに来てくれたんだがな」

 

「懐かしいですね」

 

綾小路くんと南雲先輩がブースから出たあとも残念ながら新入生はやってこなかった。

 

「南雲はああ言っていたが、映像自体は堀北先輩も出てきて生徒会をよく表現できていたように思う」

 

「そうですね、綾小路くんのすごさと生徒会は仲良し、ということは伝わってきましたよね」

 

「だとすると、ここに人が来ないのは、アピールが足りないんだろうか」

 

「そういえば昨年は『生徒会』って書いた横断幕があったような……」

 

「橘先輩の自作のやつだな。今年も使わせてもらおうかと思ったんだが、どこにしまわれたのか、見つけることができなかった」

 

「……もしかしたら、置いてある場所わかるかもしれません」

 

橘先輩が生徒会室以外で置いていくとすれば、あの部屋にある可能性が高い。

 

「ほんとか!」

 

「恐らくですが。ちょっと見てきますね」

 

「ああ。頼む」

 

ブースを桐山先輩に任せて、秘密の部屋を目指すことにした。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

生徒会室前まで到着すると、中で何やら話し声が聞こえてきたため、準備室の方から秘密の部屋へ入る。

 

中を探してみると案の定、棚の奥にそれらしき箱があり、例の横断幕が入っていた。

多分だけど、手製だから残すか残さないか迷って、ここに置いて行ったんじゃないかな。

 

橘先輩らしいなと思いながら大事に抱える。

 

とにもかくにもこれを飾れば目立つことは間違いない。

早く戻って桐山先輩に渡したいところだけど――少し気になることができた。

 

一体誰が生徒会室を使っているのか、ということ。

 

綾小路くんと桐山先輩は勧誘、他の役員先輩方は会の運営を手伝っている。

となると、用事があると言って抜け出した南雲先輩が怪しいんだけど、生徒会室には複数人いる気配がした。

 

いつもながら南雲先輩が悪だくみをしていないとも限らない。

そう思って生徒会室の様子を確認するため、秘密の部屋に設置されているモニターの電源を入れた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「お前たち1年のクラス代表に集まってもらったのは他でもない。これからお前たちには特別試験に挑戦してもらいたいと思ってな」

 

生徒会室には生徒会長の南雲、少し離れて南雲と向かい合う形で横一列に並んでいるのは各クラスから内密に集められたクラスの代表者たち、Aクラス石上・高橋、Bクラス八神、Cクラス宇都宮、Dクラス宝泉、七瀬の計6名。

 

そして南雲の後ろには月城理事長代理が動向を見守るように静かに座っていた。

 

「初歩的な質問で恐れ入りますが、特別試験とはどういうものですか?」

 

聞きなれない特別試験という言葉に対し、代表して八神が挙手し質問する。

 

「この学校は、学力や運動の成績以外にも、お前たちの実力を測る様々な試験が行われる。そうしてクラス単位で競い合っていく仕組みなのさ。今回のもそのひとつってわけだ」

 

「なるほど。ありがとうございます」

 

各クラスの代表というだけあり、明かされた学校の仕組みの一端を聞いても必要以上に騒ぎ立てることはなく、南雲の話の続きを待つ一同。

 

「試験内容はシンプルだ。2年生の中からランダムに選ばれた生徒1名を、手段を問わず退学にするってだけだ。参加メンバーは、ここにいる生徒――BとCクラスはこのあともうひとり追加してもいい。見事、対象を退学にできたクラスには、このとおり2,000万プライベートポイントを進呈する」

 

南雲が1年生に見せた携帯の送金設定画面には2,000万のポイントが表示されていた。

 

「手段は問わねえってことは、極端な話、暴力でねじ伏せても構わねえってことか、会長さんよ」

 

今度は1年Dクラス、宝泉が不敵な笑みを浮かべながら問いをぶつける。

 

「ある程度なら子どもの喧嘩ってことで目を瞑るさ」

 

「ハッ、ただの学校じゃねえとは思っていたが、だいぶ終わってんな」

 

南雲の回答を聞き、口元を歪め、面白おかしそうに笑う。『ある程度の暴力には目を瞑る』生徒会長の言葉だけでは話半分で聞き流していたかもしれない他のメンバーも、傍にいる理事長代理がその発言を否定しないことで信じる他なかった。

 

「それで抽選で選ばれた2年生っていうのが、2年Cクラス所属の綾小路清隆。コイツを退学に追い込んだクラスの勝利だ。期限は2学期の始業式までだが、対象が退学した時点で終了し、理由が特別試験であったことは周知される。ただし、それまでこのことを他言することは禁止だ」

 

スクリーンに綾小路清隆の顔写真と共に試験のルールが表示される。

 

「綾小路先輩は、生徒会の一員だと記憶していますが、よろしいんでしょうか」

 

対象の発表を受け、七瀬が確認を取る。

 

「生徒会を仕切る立場としては誠に遺憾だぜ。だが、抽選じゃ仕方ねえ。それに綾小路にとっちゃいい試練さ。腐っても副会長だぜ?お前たち1年の方が気の毒かもな」

 

「しかし教育の場で誰かを一方的に退学に追いやる学校の意図が読めません。本当は、僕たちが不正に加担する生徒かどうかを見極める試験と言われた方が理解できます」

 

正義感からか八神が疑問を呈する。

 

「疑う目を持つことは悪くない。だが、ちゃんと意図はある。この試験はお前たちの実力を測るだけでなく、下から狙われることで2年の気を引き締める目的があるのサ。今の2年は退学者が過去一番少ない学年だ。退学者が出ないということは危機感が薄れてぬるい学校生活を送ることになる。それを防ぐ人柱が今回は綾小路だったが、今後もいつ誰がターゲットになるかわからないと自覚すれば、ちょっとは生活態度も変わるだろ?」

 

「それはそうかもしれませんが……」

 

説明を受けても釈然としない様子の八神だったが、南雲は話を続ける。

 

「ってことでお前たちがあまりに通用しなかった場合、2年にとっての課題にならない。そこで今回は俺も参戦させてもらうことにする」

 

「それはいくらなんでも厳しすぎないか……です。この学校を知り尽くした生徒会長が参戦したら俺たちの勝ち目は薄い」

 

ここまで沈黙を守ってきたうちの1人、宇都宮が口を開く。

 

「そうッスよ。俺たちの参加は茶番で生徒会長が勝つために作られた試験みたいじゃないッスか」

 

高橋も宇都宮の意見に賛同する。

 

「雑魚どもは自信がねえらしい。安心しろよ会長さんよぉ、アンタが出るまでもなく俺がそいつを潰すぜ」

 

三者三様の反応の中、宝泉だけは好戦的な姿勢を崩さない。

その宝泉の煽りに対して宇都宮が睨み返し、一触即発の空気が漂う。

 

「まぁ落ち着け。宇都宮や高橋の意見ももっともさ」

 

南雲が一言でその場を収めた後、そんな状況を楽しむように薄い笑みを浮かべる。

 

「俺より先に綾小路を退学させた奴には、追加で個人的に1,000万ポイントをやるよ。ま、それだけじゃハンデにはならない。俺が勝つために、お前たちの策を邪魔はしないって縛りも付ける」

 

「随分と自信があるんですね」

 

七瀬が南雲のつけた条件に驚くのも無理はなかった。

競争である以上、如何に相手の策を妨害するかも大事な要素。

そもそも邪魔をしない、ということはそれぞれが展開する策を看破しておく必要があり、邪魔されたと主張されないための材料を作らなくてはならない。

 

「俺とお前たちの間にはそれだけ実力差がある。しばらくは様子見してやるから、やるなら急ぐんだな」

 

「速攻を仕掛ける可能性もない、と」

 

言葉遊びに過ぎないが、元々この特別試験の開催を知っていた南雲なら、すでに準備を済ませてあり、このあとすぐに綾小路を退学にしてしまう策を実施することもできるはず。それなら誰も参戦していない状況であるため、他の参加者の邪魔をしたことにはならない。

暗にその手も使用しないと伝えた南雲の意図を七瀬はすぐに汲み取った。

 

「今年は遊び甲斐のある1年が揃ったようで何よりだ」

 

参加するもしないも自由で、負けても基本的にはリスクのない特別試験。

逆に、南雲以外が勝利した場合、勝者には3,000万ものポイントが入り、今後のクラス争いで圧倒的な差が生まれてしまう。

 

少なくともこの場では参加を辞退する1年生は現れなかった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「……そんな」

 

とんでもない話を聞いてしまった。

綾小路くんを退学にする特別試験を学校公認で実施するなんて……。

 

信じがたい出来事に情報の処理が追いつかない。

 

いや、いまはそんなことどうでもいい。綾小路くんにこのことを伝えなきゃ。

 

事前にわかっていれば綾小路くんならどうとでも対処できるはず。

逆に言えば、いくら綾小路くんでも突然襲われたら足元をすくわれる可能性はある。

 

生徒会室での説明がまだ続いていることを確認して、秘密の部屋を抜け出し、そっと準備室の扉から廊下に出た。

 

綾小路くんはまだ体育館にいるはず。

 

急がなきゃ。

 

校則違反覚悟で走り出そうとした瞬間だった。

 

「少しよろしいですか、一之瀬帆波さん」

 

人の気配なんて全然しなかったのに、柔らかくも冷淡な声に呼び止められ、一歩も足を進めることができなくなった。

 

喉の渇きを感じながら、ゆっくりと振り返ると、そこにはいつの間にか生徒会室から出てきた月城理事長代理がにこりと笑顔で立っている。

 

その優しげな表情は、どこからどう見ても人の良さ、善良性を感じさせる……はずなのに、どうしてだろう、その心の奥には別の感情が渦巻いているように思えて仕方がなかった。

 






新一年生登場までと思っていたら普段の3倍ぐらいに……。長文失礼しました。
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