鬼龍院先輩がやってきて、どこかで見たような事件が起こるため、先の方の原作(2年生9巻)のネタバレ注意です。
前回のあらすじ
「鬼龍院先輩が生徒会室にカチコミに来た」
「か、カチコミでありますか!?み、みなさん、逃げるっす。自分、弾よけぐらいにはなります!!」
オレの戯言を真に受けて、すばやく立ち上がり震えつつも両手を広げる波多野。
「すまない、大袈裟に言っただけだ」
「あ、安心したであります」
へたりと座り込む波多野。
「いや、綾小路が言ったこともあながち間違いじゃない。場合によってはひと暴れさせてもらうつもりできたからな」
「やはり危険であります!!みなさん、退避を!!あぅっ……」
腰が抜けたのか、今度は立ち上がれずよろめく波多野。
「生徒会も随分愉快な坊やを入れたものだ」
一連のやり取りで、殺気立った鬼龍院の毒気が少し抜けたようだったので、波多野には拍手を送っておきたい。
「あまり後輩をいじめないでやってください」
「ほぅ……」
珍しいものを見た、という表情で鬼龍院がこちらに視線を向ける。
「鬼龍院。何の用か知らないが、今は立て込んでいる」
そんな騒動を収めるべく、南雲が面倒くさそうに声をかけた。
「アポイントはとってある。桐山に確認したら昼休みに来るよう言われたんだが?」
「俺は何も聞いてないぞ、桐山」
「すまない、今日も南雲の武勇伝披露ために召集されたのかと思ってな。それなら鬼龍院に来てもらっても問題ないと判断したんだ」
「チッ、身から出た錆ならしかたねえか。っておい」
「ドンマイです、桐山先輩。今回はタイミング悪かったみたいですが、ナイストライだと思います!」
一之瀬のフォローの通り、本来なら南雲の無駄話を中断できたかもしれない。
桐山にしては珍しく良い仕事をした、となるところだったが、何の因果か今回の南雲の召集は真面目な話だった。
「帆波まで……俺の味方はいないのか?」
「自分は南雲生徒会長の武勇伝、聞きたかったっす」
「……波多野ぉ。あぁ、そうだな、心ゆくまで聞かせてやるよ。焼肉は好きか?行きつけの店がある、奢るぜ」
「おごりなんて恐れ多いっす」
「気にすんな。まずはそこの焼肉店でレコード記録を叩き出した話からするか」
「レコード記録!?わくわくする響きっす!」
「んんっ」
わざとらしく鬼龍院が咳き込みをしたことで、南雲が我に返る。
「……ま、状況は理解したが、見ての通り今は大事な会議中だ。後から聞くから出直してくれ」
「見ての通り?私にはコントをしているようにしか見えなかったんだが?」
的確な返しに静まる生徒会室。
なんとも言えない空気が漂うが、引く気配を一切みせない鬼龍院。
そもそもあの鬼龍院がわざわざ生徒会室に乗り込んできたということは余程の事情なのだろう。
「桐山の落ち度とはいえ、アポを取ってたなら迷惑な来客でも無下にできないのが辛いところだ。ただ、俺に用なら他の役員はいらないだろ。波多野、綾小路、さっきの件、今から対応しにいけ。残りは桐山以外解散だ」
南雲も鬼龍院の説得は不可能だと切り替えたようで、そんな指示を出した。
これでこの場は収まると思われたのだが――。
「待て。南雲は信用できないし、桐山は頼りにならない。証言に齟齬が出ないよう、証人として他の役員にも立ち会ってもらいたい」
「おいおい、勝手が過ぎるぜ、鬼龍院。ここは俺の生徒会、仕切れるのは俺だけだ」
鬼龍院の一方的な提案には南雲も流石に待ったをかけた。
「これは君のための提案でもある。お互いに言った言ってないだの無駄な時間は過ごしたくないだろ」
「南雲、俺もさわりしか聞いていないが、鬼龍院の提案に賛成だ。今回の話はお前にとっても聞き捨てならない内容になる」
鬼龍院の意見に、珍しく桐山が賛同した。
なんだかきな臭くなってきたな。
「私たちも大丈夫ですので鬼龍院先輩の話を優先してください」
空気を察した一之瀬の言葉に他の役員も頷く。
「……手短に話せよ」
いつもなら桐山の進言に耳を貸さない南雲だが、真剣な桐山の表情にただならぬ気配を感じたのか素直に応じた。
「では、本題に入るが、私としても決めつけることはしたくないからな。ワンクッション置かせてもらう」
南雲の言った『手短に』を受けた上で、ワンクッション挟むらしいことから、話が長くなる予感がしてくる……。
「私に対して、悪質な嫌がらせを第三者に指示し決行させたのは誰だ」
「悪質な嫌がらせ?抽象すぎてさっぱりわからないな」
鬼龍院がやれやれと首を振る。
「ならハッキリと言わせてもらう。私を下劣で卑劣な行為――万引きの犯人に仕立て上げようと、手下を使って謀略したのは君か?」
鬼龍院から出たのは『万引き』という思わぬワード。
その言葉にいち早く反応したのは一之瀬だった。
平静を装っているようで、その表情には陰りが見られた。
自分の過去の罪を想起させる言葉に胸を抉られたのかもしれない。
「万引き?ますます話が見えなくなったな」
とぼけているのか、本当に心当たりがないのか、南雲の様子からは読み取れない。
「俺から補足させてもらう。鬼龍院は昨日の放課後、ケヤキモールで万引き犯にされかけたらしい。化粧品店で買い物中に、3年Dクラスの山中が背後から忍び寄って、鬼龍院の鞄に未会計の口紅を入れようとした。それに気づいた鬼龍院が何のつもりかと山中に問い詰めたところ、南雲からの命令だったと証言した、ということらしい」
事前に話を聞かされていた桐山が簡潔にまとめたことで全貌が見えはじめ、鬼龍院がここまで乗り込んできた目的も理解できた。
「俺としては、お前がそんなことをするはずがないと思うんだが、クラス争いのこともある。Bクラスにトドメを刺しに来たと疑う者も出るだろう。事が大きくなる前に鬼龍院に来てもらったんだ」
確かにこのまま放置すれば、憶測から事実に反した噂が流れる可能性もある。
真偽に関係なく対応を誤れば南雲だけでなく生徒会の評判にも影響を与えかねない内容。桐山も見過ごせなかったのだろう。
「生徒間で問題を解決するのが生徒会の仕事だったな。だが、そのトップが自ら事件を画策し、訴えられても取り合わず、あまつさえ揉み消したともなれば、生徒たちはどう思うだろうな」
鬼龍院もその点はわかっているようで指摘してきた。
「俺がそんなことをするとでも?」
「前会長の堀北学ならいざ知らず、君ならやりかねない。これは上級生の共通認識じゃないか?」
「俺のことを何もわかってないな、鬼龍院。俺は生徒会としての仕事で手を抜くことも、不誠実な行いもしたことはない」
……混合合宿で桐山の退学を目論んでいたことは、不誠実にカウントしていないんだな。
まぁ南雲視点で見れば、自分の邪魔をしてくる役員の排除は当然と言えば当然か。
「なら今回が初犯というだけ。なぁ、犯罪を正当化するのが君の作りたかった生徒会なのか?」
鬼龍院が放った、相手を揺さぶるための問いかけは、南雲よりも一之瀬の良心にクリーンヒットした。
一度は乗り越えた過去とはいえ、一之瀬にとって耳の痛い、どころの話ではないだろう。
「生徒会は公平な立場を崩すことはない。それを踏まえて言うが、お前が脅して吐かせた山中の供述だけじゃ証拠不十分だ。山中が苦し紛れに吐いたデタラメかもしれない」
南雲は明確な回答を避け、あくまでも生徒会としての視点で考えを述べるにとどめている。
「そうやってシラを切るつもりか。君が犯人だと口にするリスクぐらい山中もわかっていたはずだ」
罪をなすりつけるならもっと適した相手を選ぶ、という話。
権力、実力ともに備わった南雲を何の意図もなく名指しするのは愚策だろう。
「俺も目立つ存在だからな。鬼龍院に怯えた山中が咄嗟に名前を出したとしてもおかしくはない」
「そこまで言うなら、南雲、君自身の行動にも不審な点はある。最近、3年の大半に色々と指示を出していたようだが、このためだったんじゃないか。潔白ならどんな指示を何のために出していたか、ここで開示してもらいたい」
山中の証言ではこれ以上進展は見込めないと感じたのか、鬼龍院は別のカードを切る。
「指示を出していたことは認めるが、開示はできない。言えるのはこの件とは無関係ってことだけだな」
何かしらの企みは認める南雲だが、詳細を明かさないところからも鵜呑みにはできない。
「それで信じろという方が無理がある」
「それは俺のセリフだ。難癖をつけられている気分だぜ」
結局、確実な証拠がない以上この話は平行線を辿るだけ。
固唾を飲んで動向を見守っていた他の役員たちも緊張からか疲労が見え始める。
「このままじゃ埒が明かないな。解決方法を提案する。私はこの事件の調査を綾小路に依頼したい」
「は?」
第三者として眺めていたオレに急な流れ弾が飛んでくる。
よし、避けよう。
「すみませんが――」
「生徒間の問題を解決するのが生徒会なんだろ。これは私と南雲の問題だ。正しい判決を頼む」
オレの言葉を遮り、鬼龍院は南雲からこちらへ向き直ると、おおよそ人にモノを頼む姿勢とは思えない堂々とした様子で告げた。
「何度勝手をすれば気が済むんだ。調査はともかく指名は受け付けない」
そんな奔放な鬼龍院に再び待ったをかける南雲。
正直、やましいことがないのであれば今の提案に待ったをかける理由も不明だが、こちらとしても巻き込まれたくはない。
今から初めて南雲を応援させてもらうことにする。
「悪いが綾小路以外、南雲の手下でないと断言できない。いや、ここは私から胸襟を開く場面か。私がこの学校で信用できる、頼ってもいいと思えるのはこの男だけだ」
オレに近づき、向き合ったかと思えば、力強く両肩に手を置かれたため、近距離で見つめ合うような形に。
「……じゃじゃ馬に随分と気に入られているみたいだな、綾小路」
いつもなら南雲より先に、『綾小路くん?』と一之瀬から冷たい笑顔が飛んでくる場面。
「南雲会長が嫌われすぎなだけなのでは?」
その一之瀬は、俯き、じっとしている。
こちらのことを気にする余裕もなくなっているのだろう。
「だがな鬼龍院、綾小路は別件で大事な仕事を抱えている。たかだか万引き未遂ぐらいで騒ぎすぎじゃないか。お前らしくない」
南雲の発言が気に障ったのか、鬼龍院は再び南雲へ詰め寄る。
「君こそ私をわかった気になっているだけだ。生憎、万引きのような行為が非常に嫌いでね。バレなければ何をしても問題ない、そんな心理から自己中心的な犯罪を正当化し、他者を顧みない行為には反吐が出る」
自称淑女はなんなその、言葉通り吐き捨てられた悪態は嫌悪感で満ちていた。
ここまでの口ぶりからすると鬼龍院は一之瀬の過去を知らないのだろう。
遠慮なく振り回される正論の刃に切り刻まれ、一之瀬の表情はさらに曇って、どんどん暗くなっていく。
そんな変化に南雲も気づき、話を遮る。
「わかった、お前の主張は理解した」
一之瀬が思い詰めないよう、あえて万引きを軽く扱ったことがアダとなってしまったな。
「なら認めるんだな。君が、万引きという罪を、許されない犯罪行為を、私に着せようとしたことを」
「それはまた別問題だ」
それでも認めようとしない南雲の様子を見て、何かを察したという表情で鬼龍院が提案する。
「未遂で済んだこともある。君から謝罪と反省の言葉が聞ければ大事にするつもりはない」
3年の支配者で生徒会長の南雲の立場を考えた譲歩案。
「言いたいことを言い終えたならお引き取り願おうか」
だが、冤罪だからなのか、逃げ切る自信があるからか、それでも南雲は強気の姿勢を崩さない。
「ならば徹底抗戦だ。謝罪の言葉を聞くまで、逃がしはしない。覚悟は出来ているな?」
「覚悟ね……。望みどおり話を続けてやってもいいが、条件がある」
ここまで受け手に回っていた南雲からの提案に、鬼龍院も興味を持ったのか、言ってみろと促す。
「帆波、綾小路と担当を代われ。それで波多野を連れて、今から行ってこい」
南雲の条件は意外なものだった。
直前の決定を取り消し宝泉への対応を一之瀬に任せる判断は、この件から一刻も早く一之瀬を解放してやりたいという、ただそれだけの感情からだろう。
「何のつもりだ?」
当然、一之瀬の背景を知らない鬼龍院にとっては南雲に何かしらの企みがあるものと疑うことになる。
「深い意味はねえさ。俺と綾小路がいれば問題ないってことだろ。ご希望通り綾小路をこの件の担当にしてやる。だからこれ以上続けたいなら他のやつは解散だ」
「フッ、存外部下想いなのか?私としてもこの事件の存在を周知できた。他の生徒の休み時間をこれ以上奪うのは本意ではない」
生徒会役員全員が認知したことで、南雲がこの件を放置するという選択肢を潰せた――最低限の目標を達成した鬼龍院も同意した。
「ってことだ。こっちのことは忘れて、2人とも行ってこい」
南雲は一之瀬と波多野へ退出を促し、事情を飲み込めていない波多野は戸惑いながら、一之瀬は南雲に一礼してから退出した。
「あの……オレへの意思確認は?」
勝手に話を進める2人に対し、無駄だとは思いつつも、一応言ってみた。
「「不要だろ」」
こんな時だけ息ぴったりで2人から返事が来る。
「オレとしては南雲生徒会長が犯人でも困ら――」
困らないと投げ出そうとして、考えを改める。
この件が本当に南雲の犯行であれば、場合によっては退学処分だろう。
そうなると一番得をするのは誰かといえば――月城じゃないか。
南雲をオレとの勝負の仲介人にしたのは勝負を受けさせるための建前で、あとから南雲を退学にしてしまえば勝負は不正し放題になる。
面倒なことになったな。
「――ないこともないかもしれませんので、公平に調査させてもらいます」
「「それでいい」」
可能な限り南雲を無罪にする方向で進めていかなくてはならない。
最悪の場合、替玉の準備も検討すべきか……。
「特別試験中だからな。こんな事件、さっさと解決しろよ」
「そうですね」
「解決の目途が立ったら鬼龍院を呼んで、生徒会役員の前で審議を行い、判決を出す。それで構わないだろ」
「ああ。だが、その前に気が変わって謝りたくなったらいつでも受け付けていることは忘れないことだ」
「余計な気遣い痛み入るぜ」
南雲と鬼龍院の間で合意がなされる。
「俺からもひとついいか。この件は綾小路に依頼したんだ。鬼龍院も南雲も、解決するまで山中に接触するみたいな、証拠を隠蔽したと思われかねない行動は控えるように決めておかないか」
「桐山、君にしては良い提案じゃないか」
「俺もそれで構わないぜ」
鬼龍院を連れてきた手前、その後も残り続けていた桐山も加わり、取り決めをいくつか決めてこの場は解散となった。
「ったく、放課後は全員で入会希望者の選定を行う予定が、鬼龍院のせいでそんな状況じゃなくなっちまった」
鬼龍院が生徒会室から立ち去った後、南雲がぼやいた。
「この件が片付くまで採用はお預けだ。だが、あまりに遅らせるとそれはそれで問題になる。そこで提案だが、俺とお前でひとりずつ入会希望者を選ぶ。それで互いに文句はつけないってのはどうだ?」
南雲がニヤつきながらそんな提案をしてきた。
つまり駒にしたい生徒を選ばせてやるから、こっちの邪魔もするな、という話だろう。
昨年は葛城や一之瀬といった入会希望者が南雲の傘下に入らないよう学が妨害していたからな。
その反省というわけか。
「それでいいですが、この件で南雲生徒会長が退学、もしくは辞任にならないことを願ってますよ」
「当然だろ。さっきは何かたくらみがあるのかと警戒して答えを濁したが、俺は無罪なんだからよ」
「素直にその言葉を信じられれば話は簡単だったんですけどね」
「本当にな」
信憑性に著しく欠ける南雲の台詞に、桐山と2人でため息をついた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「それで君はどう思った?」
生徒会室を出たところで、廊下で待ち構えていた鬼龍院に声をかけられた。
「オレからポイントをカツアゲした人の発言とは思えませんでしたね」
学年末の特別試験の後、ペナルティで一文無しになった鬼龍院へ渡したポイントは返ってこないまま。
カツアゲをした人間が万引きを非難する資格があるのかどうかは疑わしい。
「誤解を招くことを言うものじゃないぞ。あれは来月ポイントが入ったら返済させてもらうのだから」
ちょっとした嫌味も通じないことが確認できたため、話を早く終わらせる方にシフトする。
「犯人の目的が鬼龍院先輩を陥れることと考えると、ポイントに困った鬼龍院先輩が思わず万引きしてしまった――筋書きとしては十分ですね。山中先輩に気づかなかったら、そのまま万引き犯として厳重注意――最悪の場合、退学になっていたかもしれません」
可能性のひとつとその結末を提示する。
「ああ。この一件、犯人の動機が私への復讐、もしくはBクラスの排除なら、その推理通りだろう」
「他に気になる点でも?」
「3年Aクラスは独走状態。リスクを負ってまで今更Bクラスをどうこうするとは思えない」
実際、鬼龍院が退学になればBクラスはクラスポイントも最大戦力も失う。
だが、残り1年間で逆転できない程の差があるなら、わざわざトドメを刺す必要はない。
「復讐の線は否定しないんですね」
「不思議なことに私の行動は理解されないことが多い。他者からの評価など気にもしてこなかったが、器の小さい者からは恨まれることもあるかもしれない」
「否定はできませんね」
本人に自覚があるなら遠慮なく同意しておく。
「ただ、それは主にクラスメイトに当てはまる。Dクラスの山中個人に恨まれるおぼえはない」
「Bクラスに山中先輩と繋がっている人間がいる可能性は?」
「ほぼないと言ってもいいだろう。山中のことに詳しいわけじゃないが、あんな命令をされて大人しく従う相手は、それこそ生殺与奪の権を握られている南雲ぐらいだ」
「結局、南雲に行き着くと」
狙いが鬼龍院であれば、山中個人の犯行とは考えにくく、山中に命令できる生徒は南雲しかいない。
「動機も南雲であれば、今まで勝負を拒否してきた嫌がらせ、あるいは自身の支配下に入らないことへの制裁等、いくらでも考えられる」
「まぁ南雲も利益度外視で行動するところはありますね」
なぐもん先輩に吹っかけられた勝負で、これまで多くのポイントを献上してもらったことを思い出す。
嫌がらせや見せしめのためだけに大金を使用して山中を操ってもおかしくはない。
「だが、それにしてはやり方がお粗末と言わざるを得ない」
「ええ。これなら鬼龍院先輩でなく山中先輩を陥れたかったと言われた方が納得できますね」
鬼龍院は身体能力A+というOAA上の数値もさることながら、勘の良さなども含め、最初から素人の山中がどうこうできる相手ではない。
「その線もなくはないのか……山中への制裁と私への嫌がらせをまとめて行ったと」
「可能性だけならいくらでも考えられる以上、そこから絞り込むのは不可能ですね」
「ならどうする?」
「他に目撃者はいませんでしたか?出来れば第三者からの話も聞いておきたいんですが」
視野を広げるためにはより多くの情報が必要になる。
少なくとも当事者以外からの情報も欲しいところだ。
「私の発言を疑っているのか?」
「あくまで生徒会は公平な立場で物事を見る必要があります。可能性だけなら、鬼龍院先輩が山中先輩と結託して南雲をハメようとしている、という線も除外できませんし、南雲が犯人であればその点を指摘して言い逃れするとは思いませんか」
クラス順位の逆転が不可能であるのはあくまで南雲がいればの話。
南雲が退学になれば、状況はいくらでも覆る。山中がクラス想いの生徒で捨て身の覚悟があれば策として実行するかもしれない。
もしくは南雲退学のため月城が山中を買収し、どんなことがあっても山中の身の安全は保証している可能性もある。
「フッ、さすがだな。やはり君になら安心して調査を任せられる。実のところ、目撃者もいるし、何かあった場合の証言もお願いしてある」
そう言って鬼龍院はOAAを開き、目撃者の生徒を示した。
「試す余裕があるなら自分で解決してください」
結局、ここまでの会話はこちらの実力を測るための行為。
お眼鏡にはかなったようだが、鬼龍院なら単独でも解決できるのではないかとも思う。
「なんとなくだが、これはそういう類のものではない気がしてな。私は大人しく見守らせてもらう」
南雲の手前、ああ言っていたが、鬼龍院自身、どこかこの事件には裏がありそうだと感じているのだろう。
騒がしくしていたのは、オレに調査をさせるための演技も含まれていたのかもしれない。
「だったら全て水に流してなかったことにしてもいいのでは?」
「それは私のプライドが許さない。先ほども言ったが犯罪行為を何とも思わないやつにはそれ相応の裁きが必要だ」
騒がしくしていたのは演技ではなく素だったのかもしれない。
「正義感ですか?」
『そうは見えませんが』という言葉は飲み込んでおいた。
「私のことが気になるのか?なら、この件が無事解決したら話してやろう」
鬼龍院は嬉しそうにそう提案した。
「頑張り甲斐が出てきました」
オレはいつも通り返事をした。
「そういう発言はもっと嬉しそうに言うものだぞ」
「表情に出ないだけです」
「内心にも、を追加すべきだな」
笑いながらそんな鋭い言葉を残し、これ以上は不要だと立ち去る鬼龍院。
この種の手合いは敵に回すと面倒なだけ、オレの判断は間違っていなかったと図らずも実感することとなった。
「それにしても……」
あえて鬼龍院との会話では出さなかったが、他にも気になる点はある。
例えばピンポイントで『万引き』という犯行を選んだこと。
鬼龍院を犯罪者に仕立てたいなら、他に有効な方法はいくらでもあったはず。
まるで一之瀬の過去を知っている誰かが、一之瀬を追い詰めるために糸を引いているようにも思える。
報復、あるいは警告か。
視点を広げれば見えてくるものもあるが、手持ちの情報だけでは断定するのは難しい。
まずは捜査の基本、足で稼ぐ情報収集しかないか。
ひよりがいたら目を輝かせていそうだなと思いながら、鬼龍院から聞いた目撃者、1年Bクラスの八神と1年Cクラスの宇都宮のもとを訪ねることにした。
前回の話で堀北さんについての指摘をいただいたので活動報告で補足をしてみました。
ささやかな内容ですが興味のある方はそちらもご覧いただけますと幸いです。