ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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日があいてしまったので時系列をまとめみました


4月1週目
月:始業式、綾小路くんハーレム登校
火:入学式
木:部活動勧誘、裏で綾小路くんを退学にする特別試験説明(一之瀬目撃)、波多野くん登場
金:波多野くん正式入会
土:高育チャンネル正式リリース

4月2週目
月:綾小路くん自称幼馴染と登校、OAA&特別試験発表、堀北さん1年Aクラスに交渉へ 一之瀬さん主催で1、2年の交流会を体育館で実施、生徒会入会希望者殺到
火:綾小路くん退学狂と登校、堀北さんから宝泉くんの妨害について聞く、放課後ケヤキモールで鬼龍院先輩の万引き擦り付け事件発生
水:生徒会でも宝泉くんの問題が議題に、鬼龍院先輩が生徒会室へ乗り込む、綾小路くん調査のため目撃者のいる1年生の教室へ←イマココ


今後の見えている予定

4月4週目
特別試験の筆記テスト実施

5月1日
特別試験、結果発表



この後ファンクラブ会員が急増したらしい

「あの、綾小路先輩ですよねっ!試験のパートナー探しなら、ぜひ私と!!」

 

「悪いがパートナーを探しているわけじゃないんだ」

 

といった具合に1年の教室に近づくにつれ、声をかけられる頻度が増してきた。

 

試験とは言え、見ず知らずの上級生に臆せず声を掛けてくる1年生が多いことに驚かされる。

 

「これが普通……なのか?」

 

昨年の自分との比較ほど無駄なことはないと思うが、今年はたまたま洋介や櫛田のような生徒がたくさん入学してきただけ――とわずかな可能性を願わずにはいられなかった。

 

そんなこともあり、つい1ヶ月前まで使用していたフロアが、滞在する生徒が変わるとまるで違う場所になるという不思議な体験ができた。

 

――同じ場所でも人が変われば変わる。

それはここだけに限った話ではない。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「すまないが八神はいるか?」

 

目的地の1年Bクラスに到着し、入り口付近にいた女子生徒に声をかけた。

 

「えっ!あ、はい。八神くん、呼ばれてるよー」

 

「僕ですか?」

 

教室の後方で、クラスメイト数人と談笑していた生徒が反応し近づいてくる。

入り口で待機していたオレと目が合うと少し驚いたようだが、すぐに朗らかな笑みを浮かべ軽く頭を下げた。

 

「はじめまして、ですよね、綾小路先輩」

 

「どうやら自己紹介はいらないみたいだな」

 

「先輩は生徒会の映像で目立ってましたから。色々と衝撃的でしたよ」

 

爽やかにはにかむ姿は、嫌味を感じさせず、どことなく洋介を彷彿とさせた。

 

「突然尋ねてきて悪いんだが、ちょっと聞きたいことがある。少し時間いいか?」

 

「はい、大丈夫です」

 

周りに聞かれることを避ける為、八神の了承を得て人通りの少ない階段下まで移動する。

 

「それで聞きたいことだが――」

 

「察するに鬼龍院先輩の話、でしょうか?」

 

こちらの話を先回りして当ててくる八神。

判断材料を渡した覚えはないのだが……。

 

「話が早いのは助かるが、そう思った理由を聞いてもいいか」

 

「試験のパートナーを探している様子ではありませんし、そうなると生徒会関連の話かなと。心あたりは、入会についてか、昨日の事件かでしたが、入会決定の知らせを副会長自ら足を運んで伝えに来るのも妙ですから」

 

「なるほど。学力Aに偽りなしの推理力だな」

 

「いえ、予想がたまたま当たっただけです」

 

謙遜しつつも、こともなげにそう話した八神。

だが、鬼龍院は生徒会に訴えず、南雲に直談判した可能性もあった。

オレに調査を依頼したことを鬼龍院から聞いていないのであれば、あらゆるパターンを想定しての発言となる。八神は少なからず頭の切れる生徒のようだ。

 

「例の事件については生徒会で預かることになった。鬼龍院先輩から事件現場に居合わせたと聞いたんだが、間違いないか」

 

「はい。僕と……Cクラスの宇都宮くんもいました。良ければ呼んできましょうか?」

 

「いや、宇都宮にはあとで話を聞いておく」

 

「なるほど……わかりました」

 

すぐに納得したことからオレの意図を察したようだ。

こちらとしては別々に聞くことで2人の証言に齟齬がないか確認しておきたい。

目撃者が犯人と繋がっている、もしくは犯人自身である可能性もあるため、2人のことを手放しで信用はしないということ。

暗にそれを伝えることで、虚偽の発言への牽制をする――そんなこちらの意図を汲めるかどうかで、相手の力量を測ることもできる。

 

事件については、すでに口裏を合わせていた場合はどうしようもないが、それはそれで手がかりになる。

 

「それで何からお話ししましょうか」

 

「当時の様子を最初から聞きたい」

 

ここで八神の証言と鬼龍院の証言が食い違えば前提が崩れる。

まぁ2人、もしくは3人が共犯の場合、鬼龍院が証人として紹介してきた時点で手遅れではあるのだが……。

 

「わかりました」と頷き、八神は話し始めた。

 

「昨日の放課後、所用でケヤキモールを歩いていたのですが、事件を目撃したのは化粧品売り場でした。挙動不審な方がいて、なんとなく気になって目で追っていたら、そのあとすぐ買い物をしていた鬼龍院先輩に忍び寄って、こっそりバックに何かを入れようとしたんです。それに気づいた鬼龍院先輩が腕を掴んで取り押さえた、という流れでした」

 

ここまでは鬼龍院から聞いた話と一致する。

 

「周囲に他に人はいなかったか?」

 

「見えた限りですが、店員さんを除くと僕らだけでした」

 

八神の証言が事実なら、現場にいた犯人と繋がる人物は山中だけだったことになる。

 

「そのあと僕たちを見つけた鬼龍院先輩から、証人になって欲しいと頼まれた形です」

 

「なるほどな。その時、八神と宇都宮は一緒にいたのか?」

 

たまたま居合わせたものだと思っていたが、八神の口ぶりからするとどうも違うらしい。

 

「ええ。……実は特別試験に関することで、ある人と会うために宇都宮くんと2人でケヤキモール内の待ち合わせ場所に向かっていたんです。ただ、すみませんが、これ以上は――」

 

「ああ。詳細は話さなくていい。どこのクラスにも秘密にしたい戦略はあるだろうし、それを邪魔するつもりはない」

 

誰とどんな話をしたかをオレに漏らせば、密会相手から裏切り行為、違反行為と見なされてもおかしくはない。

むしろ『1年BクラスとCクラスの代表が誰かと密会した』という情報は話し過ぎたぐらいだ。

八神ならいくらでも誤魔化せたはずだが……これが意図的なら少し厄介だな。

 

「こちらに配慮していただき助かります」

 

聞きたいことは大体聞けたが、ここですぐに話を切り上げると密会の詳細を話さなかったため八神に見切りをつけたように思われ、気まずい空気になる恐れがある。

 

「話は変わるが、八神も生徒会入会希望なんだな」

 

何か話題はないものか考えた結果、先程目的から逸れるため流した八神の入会について触れることにした。

オレが面談したメンバーにはいなかったことから、先に南雲が面談した半数の中にいたのだろう。

八神の学力はAと高く、1年次の南雲と同じBクラスであることから優先して面談したのかもしれない。

 

「ええ。こう見えて中学時代は生徒会長を任せて頂いたこともあります」

 

「それは即戦力になりそうだな」

 

「ですが倍率が高そうですし、僕以外にも生徒会経験者は多いみたいです。こんなことなら様子見せずに波多野くんみたいに即入会届を出すべきでした」

 

「八神が優秀なのはわかる。南雲は実力主義だからな、そこが伝われば採用されると思うぞ」

 

「それは良い情報を教えていただきました。この事件、僕にできることがあればぜひ協力させてください」

 

「いざという時は頼む。ただその結果、南雲が退学になる可能性もあるかもしれないが……」

 

南雲にアピールするために事件解決を手伝った結果、犯人が南雲と判明したら徒労もいいところ。

 

「生徒会長が犯罪行為を教唆するとは考えたくありませんね」

 

「まぁ南雲だからな……」

 

だが、八神はさほど気にしていないのか、生徒会長という肩書を信じているのか、その点は問題視していないようだった。

 

オレとしても極力部外者は巻き込みたくはないが、状況によっては人手が必要になる場合もある。

八神が最終的に生徒会役員になるのであれば多少巻き込んでしまっても問題ないだろう、ということにする。

 

それよりも気になることを聞いておかないとな。

 

「ちなみに中学時代の生徒会では、やっぱり風紀委員と戦ったのか?」

 

「……?いえ、僕のいた中学に風紀委員会はありませんでしたから」

 

「……そうか」

 

結局、微妙な空気の中、八神とは別れることになってしまった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「あの、ちょっといいですかー?」

 

続いて1年Cクラスの宇都宮にも話を聞こうと1年生のフロアに戻ってきたところ、背後からどこか間延びした声で話しかけられた。

 

振り返ると、声の主は部活動勧誘で外村が声をかけた女子生徒――1年Cクラスの椿桜子だった。

あの時のやり取りから積極的に話しかけてくる印象ではなかったため、少し意外だ。

 

よほどの用事だろうかと足を止めたことで、こちらから了承を得たと思ったのだろう、椿はオレの返事を待つことなく話を進める。

 

「ここに来たのは試験のパートナー探しですか?」

 

「いや、別件だ。ペアについてはまだ決めるつもりはない」

 

「そうですか。まぁ綾小路先輩が学力C‐の私なんかと組んでくれるとは思ってませんけど、一応立候補だけはさせてください」

 

「わかった、覚えておく」

 

パートナーの希望を名乗り出たにしては、やけにあっさりしているというか、興味がなさそうな態度の椿。

 

これが外村の言うところの無気力系たる所以なのだろうか。

 

「用が済んだならこれで――」

 

「ひとつ綾小路先輩に聞きたいことがあるんですけど」

 

直前までのけだるげな雰囲気から一変、少し熱のこもった声で引き留められる。

 

試験の話は建前で『聞きたいこと』というのがどうやら本命らしい。

 

「答えられることならいいんだが」

 

椿の圧が強く、何を聞いてきても問題ないように保険を掛けることにした。

 

「坂柳先輩が幼馴染っていうのは本当ですか?」

 

警戒していた網をすり抜け、全く想定していなかった問いが飛んできた。

何かの冗談かとも思ったが、椿は真剣な表情で、こちらの一挙手一投足も見逃すまいという気迫まで感じる。

どうやら無気力系女子ではないっぽいぞ、外村。

 

「どこで耳にしたか知らないが、あれは坂柳が勝手に言っているだけで、オレとしては承認してはいない」

 

「そうですか……。それを聞けて安心しました。綾小路先輩にはもっと相応しい幼馴染がいる、そういうことですよね?」

 

「どういうことだ?」

 

話の見えてこない椿の返事。

 

やはりオレをからかっているのだろうか。

まさか自分の方が相応しい幼馴染だと名乗り出るつもりか?

ホワイトルームで一人だったオレに幼馴染などいるはずもなく、これ以上自称幼馴染が増えるのは笑えない冗談だ。

 

詳細を求めるオレに対し、椿は少し考える様子で視線を下げ黙り込む。

 

何かしらの葛藤があったようだが、意を決したようで口を開こうとした時だった。

オレの背後から衝突音といくつかの悲鳴が聞こえてきた。

 

「ゆ――えっ……は、波多野くん!?」

 

オレと向き合っていた椿には一部始終が見えていたのだろう。

驚いた表情で声を漏らす。

椿、意外と表情豊かだな。

 

「いててて……ぼ、暴力反対っす」

 

「ハッ、ちょっと小突いたらてめえがすっ転んでいっただけだろ。この調子で校内一周でもしてみるか?」

 

明らかに面倒事がオレの背後で繰り広げられている。

 

関わると昼休みが終わりかねない。

まだ昼食もとっていないため、波多野には申し訳ないが宇都宮探しの続きをしたいところ。

 

「じ、自分、暴力には屈しないっす……す、す、け、けど、たっ、対話を、対話を希望します」

 

「対話だ?お前みたいな雑魚と話す価値なんかねえ。文句があるなら上のもんを出せよ、会長、副会長クラスじゃなきゃ時間の無駄だろ」

 

「こ、この件は自分が担当になったっす。せ、先輩方に迷惑をかけるわけにはいきませんっ」

 

「ならてめえを潰して話は仕舞いだ」

 

「待てよ、宝泉」

 

「あ”ぁ?」

 

「う、宇都宮くん」

 

探していた人物が後ろにいることがわかったが、何も見なかったことにして「ちょっといいか」と声を掛けるのも難しくなる。

そしてオレをジトっと睨んでくる椿の視線に気づかないフリをするのもそろそろ限界だ。

 

観念して振り返ると、宇都宮が宝泉の腕を掴み、波多野を庇っているようだった。

 

噂の宝泉は、大柄でガッチリしており、体格だけで言えばこの学校で対抗できるのはアルベルトや葛城ぐらいじゃないだろうか。

 

「なんだ次はお前が遊んでくれんのか?」

 

「暴力を遊びと捉えているのか?くだらないな。だが、クラスメイトを傷つけるなら俺も手を引くつもりはない」

 

「ほぅ……いいぜ、少しは楽しめそうだ」

 

そんな宝泉相手に宇都宮も臆することなく対峙する。

まさに一触即発、いつ殴り合い開始のゴングが鳴ってもおかしくない。

 

「オレがその副会長だが、これで話をしてもらえるんだよな」

 

「あ、綾小路先輩。助けに来てくださったんですか!?自分、感動っす」

 

割り込んできたオレを見て、目を輝かせる波多野。

昼食のために見て見ぬふりをしようとしていた、とは言えない。

 

仲裁の生徒会役員がやってきたと判断したのか、宇都宮は掴んだ宝泉の腕を離し、後ろに下がる。

代わりに宝泉がオレの前にぐっと近づき、品定めでもするようにこちらを観察する。

 

「コイツが綾小路?おいおい、噂のスーパーマンがこんな貧弱そうなやつだったとは驚きだぜ。ホントにオールA+のバケモンなのかよ?」

 

物音を聞き集まり始めた周囲の1年生にも聞こえるように、宝泉は大きな声で笑いながらそう言った。

 

「宝泉くんも案外節穴っすね。綾小路先輩のすごさがわからないなんて」

 

波多野、煽り返すのは止めてくれ。

 

宝泉は波多野を一瞥すると、オレを見ながら面白おかしそうに語り出す。

 

「何百、何千の馬鹿共を潰した経験から言わせてもらえば、強者は独特の空気を纏ってる。これじゃ宇都宮の方がまだマシってレベルだ。ま、このパイセンが仙人かなんかで、そんな気配をすべて消せるってんなら話は別だがな」

 

「だったら綾小路先輩は仙人っす!!」

 

波多野、オレを仙人にするのも止めてくれ。

 

「んで、その仙人パイセンはだんまりだが、目を開けたまま瞑想でもしてんのか?」

 

宝泉はそう茶化しながらオレに向けてゆっくりと腕を伸ばしてきた。

 

軽く払える程度の速度。

 

だが――――

 

その腕は直前で素早く力強く伸び、オレの首を掴もうと加速す――

 

「あ”?」

 

――るが、目視できている時点で避けることは造作もない。

 

最小限の動きで身体を逸らし、掴みを躱す。

 

「コイツはマジで仙人かもしんねえな。面白いじゃねえか、綾小路パイセンよぉ」

 

先程までとは違う笑みを浮かべる宝泉。

 

「盛り上がってるところ悪いが、こっちの用事はあくまで対話だ」

 

「……いいぜ。今のを避けたんだ、話ぐらい聞いてやるよ」

 

そのあと存分に殴り合おうぜ、と続きそうだったことは気づかなかったことにする。

 

「端的に言うが、特別試験での妨害行為に対する警告にきた。これ以上続けるなら相応の処置をさせてもらう」

 

「はっ、なんかの間違いじゃねえか。その妨害行為とやらには覚えがねえな」

 

当然だが白を切る宝泉。

 

「無自覚だったとしても被害報告が上がっている」

 

「なるほどな。だが、仮にそれが本当だとしても、試験のルール違反はしてない、違うか?」

 

試験のルールで禁止されているのは、点数の操作を強要すること。

ペア作りを妨害することは禁止されていない。

 

「ああ、ルール上問題ない。だが、試験に関係なく生徒の学校生活に支障が出る問題を無視はできない。その点で言えば、つきまとい、暴行未遂、恐喝等、お前はやりすぎたな」

 

「やりすぎたも何も身に覚えがないって言ってんだろ。被害妄想か、それこそ試験で俺たちのクラスが不利になるようにばら撒かれたデマなんじゃないか?」

 

「あくまで認めるつもりも改善するつもりもないと?」

 

「証拠もないんだろ?どうしても訴えたいなら、被害者でも連れてきて訴訟でもするんだな。その時は裁判でもなんでも正々堂々受けて立つぜ。ま、どうせ無罪になるから時間の無駄だけどよお」

 

宝泉の暴力性を考えれば報復行為を恐れ、顔の見える形で訴えを起こす人間はいないだろう。

それを見越しての強気の姿勢。

 

「自分、妨害されました。被害者を代表して訴えます!」

 

波多野が勇気を振り絞るようにそう叫んだ。

だが、それでは――

 

「身内からの証言は証拠能力として弱い。そんなの常識だぜ?だろ、パイセン」

 

宝泉が笑いながら一蹴した。

動揺する波多野には悪いが、その主張はもっともで、生徒会役員が自ら訴えて生徒会で判決することが許されれば、適当な理由でライバルを蹴落とすことが容易になる。

無法もいいところだろう。

 

「だが、オレが直接暴行等を目撃した場合、現行犯としてそのまま裁くこともできる。その際はこちらの警告に対し虚偽の発言をした罪も加わり、退学処分が視野に入ることも覚えておいた方がいいな」

 

現状で言えるのはここまで。

宝泉の態度を見る限り、残念ながらこのぐらいでは抑止になるとは思えない。

 

「ハッ、俺は無実なんだからカンケーねえな」

 

南雲といい、宝泉といい、今日は、いかにも犯人みたいな人間が涼しい顔で無実を訴える日だな……。

 

「話が終わったんなら――」

 

宝泉が拳を鳴らし始めたタイミングで昼休み終了間近を知らせる予鈴も鳴り、廊下の奥から見慣れぬ男性教員が歩いてくるのが見えた。

同時に昼食を食べられなくなったことが確定する。

 

「チッ、楽しみはとっておいてやるよ」

 

いかにもな捨て台詞を吐いて自分の教室へ戻った宝泉。

 

その姿が見えなくなると、ギャラリーに徹していた一年生たちが唐突に歓声を上げ始めた。

 

「生徒会すげえ、あの宝泉を撃退したぞ」

「宝泉くんは怖いけど、困った時は綾小路先輩に助けてもらえるね」

「やっぱオールA+は伊達じゃねえんだなぁ」

「先輩かっこよかったですっ」

「これならハーレム作っちゃうのも納得ですねぇ」

 

各々宝泉の態度に思うところがあったようで、ちょっとした盛り上がりをみせる。

ん?どさくさに紛れてハーレムとか聞こえなかったか。

声のした方を見ると派手な色のツインテールが見えたような気がしたが、今は気にしている時間はない。

残りの時間でやるべきことをしておく。

 

「宇都宮、悪いが放課後少し時間をもらえるか」

 

「俺、ですか?わかりました」

 

声を掛けられた理由はピンと来ていないようだったが、宇都宮の承諾を得られたため、この場を去ることにした。

 

が、少し気になっていたことがあり、波多野の前で立ち止まる。

 

「そう言えば一之瀬は一緒じゃなかったのか?」

 

波多野だけでなく一之瀬もいれば、宝泉の出方も変わったかもしれない。

 

「具合が悪そうでしたので、途中で別れて保健室に向かってもらったっす」

 

「なるほど。一之瀬も心配だが、波多野も無理はするな。宝泉も一筋縄じゃいかなそうだ。元々オレも担当する予定だったんだ、困った時は遠慮なく相談してくれ」

 

「肝に銘じておくっす!」

 

それはそれは見事な敬礼と共に力強く言い切った波多野。

 

肉体派ではない波多野にとって、宝泉との対峙はそれなりの恐怖体験だったはずだが、見かけ上は平気、むしろ闘志が漲っているように感じられた。

 

心が強いのか、或いはから元気か。

 

いずれにせよ一之瀬が動けないようであれば、目を光らせておく必要がある。

この手のタイプは見えない敵にとって格好の餌でしかない。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「時間を取らせた。必要があれば証言をお願いすることもあるかもしれない。その時はまたよろしく頼む」

 

「もちろんだ……です。俺としても不正や悪事がまかり通るのは許せないですから」

 

放課後、宇都宮からも事件当時の話を聞いたが、鬼龍院、八神から聞いた話と齟齬はなかった。

 

例の密会についても「ええ。八神と一緒にある人から話し合いをしたいと連絡を受けて待ち合わせ場所に向かっていた……ました」と認めた。

 

当時の状況はおおよそ把握できたが、目撃者からは事件解決に繋がる糸口は得られず仕舞い。

 

あとは当事者である山中に話を聞きたいところだが、面識はないため交友の広そうな朝比奈にでも仲介をお願いするか。

 

そう思って1年生のフロアから移動し始めた時、Cクラスの教室の中に波多野を見つける。

 

「何とかお願いできないっすかです」

 

「そんなことしたら宝泉に目をつけられる。すまんが、他を当たってくれ」

 

「そこをなんとか」

 

「悪い」

 

波多野と話していた男子生徒はバツの悪そうな表情で足早に教室から出て行った。

 

「やっぱりだめっすか……。あっ、綾小路先輩」

 

こちらに気づいた波多野が教室から出て、近づいてくる。

 

「証人探しか?苦戦してるみたいだな」

 

「はい……。審議の場で証言してくれる人を探しているんっすけど、全然で……」

 

「1年生にとっては宝泉と敵対するリスクを負ってまで試験の状況を改善する必要はないしな」

 

退学のかかっている2年生との温度差。

また、入学して日も浅く、積極的に仲間を助けようとするほどの関係も築けていない状況。

おまけに言えば、今回ターゲットにされているのは学力が優秀な生徒。恐らく、荒事に慣れていないタイプが多いのだろう。そんな生徒にとって宝泉は未知の生物に見えるに違いない。

 

ここまで計算した上での行動であれば、やはり宝泉は侮れない相手だと評価できる。

 

「宝泉くん、酷すぎるっすよ。こんなの試験でも何でもないっす」

 

「いや、戦略としては悪くない」

 

「ええっ!?」

 

オレの返事が予想外だったようで中々いいリアクションを見せる波多野。

橘や渡辺の後継として期待できるかもしれない。

 

「波多野はゲーム理論って知ってるか?」

 

「自分、ゲームはswit●hしかわからないっす」

 

恐らく全くの見当違いをしているが、オレもswitc●のことはさっぱりわからないため、説明の方向性を変えることにする。

 

「それなら現在ペアが決まっている生徒をみれば状況はわかる」

 

「……なるほど」

 

携帯端末を取り出し、波多野はしばらく眺めた後、頷いた。

 

「学力の高いDクラスの1年生ばっかり決まってるっすね」

 

「そういうことだ。宝泉も自分のクラスのペア作りは妨害しないだろうからな」

 

付け加えるなら、2年はAクラスの生徒が多く決まっているため、坂柳がDクラスの優秀な生徒獲得に動いていることが伺える。

 

他クラスの優秀な生徒のペア組みを妨害をすることで、2年生は学力の高い生徒とペアを作りたいならDクラスの生徒と組むしかない状態に持ち込んだ。

 

「このままじゃこの試験、Dクラスの一人勝ちじゃないっすか」

 

「この試験だけじゃ済まないかもな。自クラスの学力上位生徒の価値を上げたんだ、恐らく宝泉はペアを組む際にも何らかの見返りを求めているはず。定石通りならプライベートポイントか、成績上位になった場合の報酬の譲渡か。いずれにせよ、今後のクラス争いでリードできる」

 

そのくらいの成果が見込めなければ、暴力行為で妨害するといった退学処分すれすれの戦略は取れない。

 

「ど、ど、どうすれば……やばやばっすじゃないっすか」

 

動揺しめちゃくちゃな言葉を発する波多野。

 

「試験については生徒会は介入できない。ここからどうやっても決まったペアの解消は不可能だ。せめてできることと言えば少しでも早く妨害行為を止めるぐらいだろうな」

 

「うぅぅ……」

 

「逆に言えば、Dクラスのペア組みが完了してしまえば妨害行為もなくなるだろうから、平和的に済ませたいなら1年生はこの試験を諦めて宝泉を放置する手もあるかもしれない」

 

 

「そんなぁ……」

 

落ち込み顔も肩も落とす波多野だったが、すぐに何かを思いついたように顔を上げる。

 

「例えば、綾小路先輩が試験終了まで宝泉くんに張り付いておくってのはどうです?」

 

「頼りにしてもらっているところ悪いが、宝泉がその場にいるかどうかは問題じゃなくなった。すでに宝泉の方針はみんな理解しているんだろ。翌日にはペアができたか端末で確認できる以上、勝手にペアを作れる勇気があるかどうか」

 

「うー……なら、生徒会が安全の保障を宣言するとかどうっすか?」

 

「残念ながらすべての生徒を常時守ることは難しい。そんな宣言を無責任には行えないだろうな」

 

「となると、やっぱり……」

 

「証人になってくれる生徒を探して訴えて勝訴し、正式な手順で止めさせるしかないな。できれば証人の生徒は妨害にあった証拠を持っていることが好ましい」

 

「自分、諦めず探してみます!!ありがとうございましたっ」

 

「ああ。気を付けてな」

 

そう言って波多野はBクラスの教室へ入っていった。

 

証人が見つかるとも思えないが、昼休みのように宝泉本人にぶつかっていくよりはマシだろう。

 

 

そう思って朝比奈の元へ向かったオレは、翌日、波多野が『証人が見つかったっす!!』と喜びながら厄介ごとに巻き込んでくることをまだ知らない。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「八神、俺のところにも綾小路先輩が来た。正直、お前はどう考えてる?」

 

「どうとは?」

 

特別棟の空き教室で、八神と宇都宮が話し合っていた。

 

「例の特別試験参加者の俺たちがタイミングよくこんな事件に巻き込まれた上、調査の担当がこちらのターゲットになるわけがない。この一件は南雲生徒会長の仕組んだ、妨害行為じゃないかと踏んでいる」

 

「確かに今回のことで僕たちは綾小路先輩から認識されてしまいました。今後は何をするにしても警戒対象でしょうね」

 

その他大勢の1年生のままであれば、綾小路を退学させるため多少動いても気づかれなかったかもしれない。

だが、今回、本人と関わりを持ったことで、下手に動けば注目されてしまう状態になっている。

 

万引き事件の犯人の候補が南雲であることからも、南雲が他の1年生を出し抜き、先に綾小路を退学させるための布石なのではないか、宇都宮はそう考えた。

 

「いえ、もしかするとこの事件に綾小路先輩を関わらせること自体が退学に繋がる策なのかもしれません」

 

「だとすると、この事件は早々に片付けるべきだ。南雲生徒会長が犯人なら反撃手段にもなる」

 

いくら生徒会長でも、犯罪の教唆をしたとなれば、少なくとも試験どころではなくなる。

わざわざ自分たちを巻き込んで目撃させるのは、本来メリットよりもデメリットが勝る危険な行為。

それにもかかわらずあえてしてきたのは、1年では事件を解決できないだろうという南雲の慢心に他ならない。だったらこっちはそれを逆手にとってやるだけ。

そんな風に、宇都宮は侮られたのだと頭に血が上っていた。

 

「まぁ犯人が生徒会長だったら、の話ですけどね」

 

「八神は別に犯人がいると思っているのか?」

 

「どうでしょう、確証はありません。ただ、あそこまで大見得を切った南雲生徒会長の策がこれだったらあまりにダサいなと」

 

「……意外と毒舌なんだな」

 

「いえ、本音を言っただけですよ」

 

「なおさらだ」

 

そう言って、どちらからともなく笑いがこぼれる。

あえてとぼけてみせた八神の物言いのおかげもあって、宇都宮は少し冷静さを取り戻すことができた。

 

「……だが、あの会長は勝つために何でもやりそうな男だと俺は感じた」

 

「そうですか。いずれにしても僕は例の試験のために何かするつもりはありません」

 

「諦めるのか?このままじゃ、南雲生徒会長か、何か企んでそうな宝泉に持って行かれるぞ」

 

「実は最初から乗り気ではなかったんです。自分たちの利益のために裏で誰かを退学にするというのは僕の信条に反します」

 

先ほどまでの和やかな空気から一転して、真剣な眼差しでそう訴える八神をみて、宇都宮はそれ以上何も言えなくなってしまった。

 

「とは言え、この事件については解決できるなら協力は惜しみません。なんにせよ、万引きという犯罪行為を利用した策を認めるわけにはいきませんから」

 

「それには俺も同意だ。一旦、試験の件は置いておいて、事件の解決に取り組んでみるか」

 

「ええ。そうしましょう」

 

正義感からかそう結論を出した宇都宮は、それが八神により誘導された結論だったことに気がつけなかった……。

 

 

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