ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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KIYO’Sキッチン

「待たせた、『トルコライス』できたぞ」

 

調理をはじめてから1時間強。納得のいく品が完成した。

 

「わーい。()()()トルコライスを作ってくれたのか、すごーく楽しみー」

 

どうやら天沢もオレがトルコライスを作れるとは思っていないようで、ニヤニヤとからかい混じりに囃し立てる。

天沢は無理難題を押し付け「トルコライスも作れないなんて、せんぱいざこすぎぃ」と煽る未来を描いていたのかもしれない。そこから温情で味での判定へと譲歩し、関係の優位性を獲得する、狙いはそんなところだろうか。

 

だが、そんな思惑通りにはならない。

 

「普通に作ってしまっても面白みに欠けると思ってな、ちょっとオレ流にアレンジしてみた。口に合うといいんだが」

 

軽く予防線を張っておき、料理を盛りつけた皿を持って天沢の待つテーブルへ向かう。

 

「わぁいい香りしてきた、早く早く」

 

急かす天沢の前に置いた皿から『オレ流トルコライス』が堂々と顔を覗かせる。

 

天沢が言っていたのはアカネオブライズでもお馴染みのバターの香りだろう。今回この香りがふわっと広がっているのは炊き立てのライスで作った『バターピラフ』の存在が成すところ。

アカネオブライズを極める過程でピラフの調理にも磨きをかけてきただけに自信のある一品。

ただ、炊飯時点でピラフにする予定ではなかったため、炊き加減を硬めに設定できなかったことだけは少し心残りだが。

 

もちろん、ピラフだけではこの料理がトルコライスだと主張するのは難しい。

 

第二の矢として、材料を使う意味でも、インパクトを生む意味でも、ピラフの上に豪快に盛り付けたのは黒豚で作った『トンカツ』。

素材の旨さもさることながら、二度揚げすることでサクッとジューシーに仕上げている。

塩だけで食べてもいいレベルだと自負している。

 

だが、そんなトンカツのうえに、あえて第三の矢として『カレー』をかけている。

外の世界に出て学んだことが、カレーの日本人からの愛され方は常軌を逸している。

トンカツはもちろん、からあげ、ハンバーグ、ソーセージなどの肉類だけでは飽き足らず、魚介類や焼き野菜、卵、チーズ、納豆などなど数多のトッピングが存在し、隠し味は隠す気があるのか疑いたくなるほど種類が豊富だ。

それだけ多くの料理に合う万能性を有したカレー。とにかくかけておけば、食欲をそそる一品となる。

 

矢を三本射ったくらいで、まだまだオレの自称トルコライスは終わらない。

 

パスタ麺があったため『ナポリタン』を作り、カツカレーピラフの横に盛り付けた。

『ナポリタン』も子供から大人まで幅広く愛されている料理と言える。聞くところによるとナポリタンだけの専門店も世の中にはあるほどだ。

加えてピラフ、カレーと似たような材料で作れるため味の親和性もよく、他と喧嘩をしない。

 

最後に、彩りと栄養、味のバランスを考え、キャベツの千切りにきゅうり、トマトを添えた『サラダ』を加えることで、このオールスターメニューを一つの料理として昇華させた。

 

言うまでもないことだが、こんな全部乗せ料理が『トルコライス』であるはずがない。

 

開き直ったオレは未知の料理の調理を諦め、あの材料から作れる人気料理をとにかく全部ワンプレートに盛り付けることで、どれかひとつは天沢の好みに合うだろう作戦へと移行した。

 

相手の土俵ではなく、こちらの土俵に無理やり引きずり込み、あとはこれがオレなりのトルコライスだと主張する。作戦とは呼べない、まさに力業なわけだが、そこは味で勝負、というやつだ。

 

天沢がオレを煽る準備をしていたことからわかるように、そもそも求められているのはトルコライスが上手に作れる男子生徒ではなく、料理が上手い男子生徒だ。

こちらの主張が無茶苦茶でもそれはお互い様。

肝心の料理さえ美味しければ、今後の付き合いを考え無下にはできない。

 

「これ……」

 

天沢もこの料理を見た瞬間、オレの意図を察したことだろう。

乗ってくるのか、否定するのか、その出方次第でオレの対応も変わってくる。

 

どう出るか、見せてもらおうか。

 

「まさしくトルコライスだぁ!せんぱい、長崎県のマイナーなご当地グルメなんてよく知ってたねー」

 

拍手をしながらテンション高く称えてくる天沢。

 

「……料理は得意だからな」

 

『そんな馬鹿な』と表に出すわけにはいかない為、心の中だけで驚いておく。

適当に作ったコレがどうやら『トルコライス』で合っているらしい。

なんなら最初から『トルコライス』なんて料理は存在せず、天沢がオレをからかうために作り出した料理名ではないか、と疑っていたんだが……。

 

今のリアクションを見る限り、こちらの意図を汲んで合わせてくれている、というわけでもなさそうだ。

 

いや、自分でそれっぽく解説しておいてなんだが、ピラフとトンカツとカレーにナポリタンにサラダだぞ。盛り過ぎにも程がある。

どうなってるんだ、長崎グルメ。食いしん坊しかいないのか?

 

「見た目は合格。味の方も、うん、もう匂いだけでも美味しそう。早く先輩も座って、一緒に食べよ」

 

「それは何よりだが……波多野は?」

 

トルコライスの披露を優先したため、確認を後回しにしていたが、リビングに波多野の姿がない。

調理中、何度か移動していたのは把握していたが……。

 

「荷物持ちくんだったら帰ってもらったよー」

 

「……」

 

初めからそのつもりで波多野を連れてきたってことか。

 

「そんな顔しないでよ。ちゃんと同意の上だからさ」

 

「あんなに食べたがっていたのにか?」

 

オレの目配せをかき消すほどの、波多野の笑顔を思い出す。

 

「うん。どうしてもせんぱいとふたりっきりで話したいことがあるってお願いしたら納得してくれたよー。荷物持ちくんの分はラップをかけて、あとで届けとくからさ。それより、出来たてが一番美味しいよね。早くしないと冷めちゃうじゃん」

 

「それはそうだが……」

 

渾身作をベストな状況で食せないのは口惜しい。

今こうしている間にも揚げたてのトンカツのサクサク感も溢れる肉汁も失われ始めている。

 

「理由は食べ終わったら話すからさ」

 

「背に腹は代えられないな」

 

天沢の強引さに引っかかるものはあってもトルコライスに罪はない。

波多野には悪いが食を優先させてもらうことにした。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「はぁー美味しかった」

 

かなりボリューミーだったが、箸が進み、オレも天沢もあっという間に平らげてしまった。

 

「満足頂けたようで何よりだ。これで証人の話は引き受けて貰えるんだよな」

 

「まあまあ、せっかちな男は嫌われるよ?」

 

天沢からの好感度に執着はしないが、下手に機嫌を損ねて証言しないと言い出されても面倒。

 

こちらのそんな立場を理解しているからこそ、天沢は簡単に返答せず、状況を最大限に活かそうとしている。

 

「焦らしすぎる女も嫌われるんじゃないか?」

 

「やだなぁ、ジェンダーな発言は今時どうかと思うけど」

 

「おい」

 

天沢はひとつ前の自分の発言を忘れたかのようにそう言ってニコッと笑う。

 

「冗談じゃん」

 

「それでオレが笑うとでも?」

 

「ううん。冗談言える仲に憧れてただけー。同じ釜の飯を食べたんだし、あたしたちの仲も進展したかなって」

 

「同じ釜の飯に文字通り以上の意味はないな」

 

「つれないなー」

 

ふてくされた様子の天沢だが、無駄話に付き合うつもりもない。

 

「それで波多野を帰してまでしたかった話っていうのは?」

 

「もー、せんぱいはムードとかわかってないよね」とさらに膨れながらも、話は進めるつもりのようで、改めてオレと向き合い、じっと目を見つめてきた。

 

「せんぱいは侍らせてる女の子の誰か付き合ってるの?」

 

「そんな事実はない」

 

「え、まさか全員と交際してるってやつ?」

 

どんな曲解だ。

狭い学園内でそんな倫理観の外れたことをすれば、普通の学生としての生活は送れなくなる。

 

「侍らせてもなければ付き合ってもないって意味だ」

 

「だよねー。誰かと付き合ってるんだったらあんな感じにはならないだろうし」

 

なぜか嬉しそうに笑う天沢。

 

「恋愛に興味がないとか?」

 

「そんなことはない」

 

天沢は唇に人差し指を当てながら考えるそぶりを見せ、「なるほどねー」と頷き、一歩分距離を詰める。

少し手を伸ばせば触れ合える距離感で、人によっては嫌悪感を抱く近さ。

意図的にパーソナルスペースへ侵入しているとみていいだろう。

 

「今更さ、あの中から誰かを選ぶって大変だよね。誰を選んでもギスると思うし。せんぱいもそれを気にしてるのかな?だったらさ、あたしに名案があるんだけど」

 

「名案?」

 

嫌な予感しかしなかったが、聞かないことには始まらない。

 

「うん、あたしと付き合っちゃえば全部かいけーつってこと」

 

こういう時の予感だけ当たるのはなんなんだろうな……。

 

「解決するか?」

 

「するする。ハーレムメンバーの女の子同士で変なカドは立たないし、むしろあたしを泥棒猫ってことにして団結できちゃうんじゃないかな。コレ、せんぱいにとっても良い話だと思うよ?」

 

「確認させてもらいたいんだが、天沢はオレに好意を抱いてくれている、ってことか?」

 

「そうじゃなきゃこんな提案しないって」

 

「だが、会って間もない上に、天沢に好かれることをした覚えもない」

 

料理こそ作ったが、天沢が接近してきたのはその前の話。

 

「一目惚れってやつ?びびーんと来たんだよねー」

 

天沢は一瞬だけ視線を外し、ほんのり朱色に染まった頬を掻く。

 

「で、気になってせんぱいのこと調べていくうちに、強そうだし、成績もすごいし、最高じゃんって」

 

「……それで宝泉の件を利用して近づいてきたってわけか。波多野も共犯なのか」

 

この一連の話はどうも都合が良すぎたし、波多野の動きにも気になるところが多かった。

最初から示し合わされていたのであれば納得できる。

 

「うん。告白したいから協力してってお願いしたら、『綾小路先輩の魅力がわかるとはお目が高い、自分応援するっす』って」

 

「波多野ならそうだろうな」

 

付き合いが長いわけでもないのに、そんな返事をする波多野の姿は容易に想像できた。

 

「あ、でも誤解しないでね。証拠の話も証言の話も本当だよ。二人っきりになる機会を作ってくれた上で、綾小路せんぱいがあたしの出す課題をクリアしたら2人のことを信じて証言してあげるって約束したんだ」

 

「なるほど……」

 

波多野への交渉材料としては十分だろう。

オレが告白されるだけで宝泉の事件が解決する可能性が出てくるのだから、迷うこともない。

悪気はなかったのかもしれないが波多野も案外強かだな。あるいは、オレなら何とかできるという盲目的な信頼か。

 

しかし、よろしくない状況になったな。

 

「確認したいんだが、オレの返事次第で課題の合否を変えたりしないよな?」

 

告白を断られたから証人を降りる、と言われかねない。

いや、そういう状況を波多野を利用して天沢は作りだした。

ここまでしたのだから、交際の了承が本来の目的だろう。

 

「えー、言わなきゃダメ?」

 

そういって小悪魔的な笑みを浮かべる天沢は、今日一番生き生きしているように見える。

 

ただ、天沢はひとつ誤解している。

今回の宝泉の事件は放っておいても試験までには終息する話。

オレが天沢と交際してまで解決する必要性はない。

早期解決できずに困るのは被害者――主に堀北たちだけ。

 

1年Aクラスの天沢は、堀北がクラス間での協力のため、自分のクラスと交渉していることを知っているのだろう。

早く問題が解決しなければクラスの危機に繋がる=オレは断れないと考えて、ここまでの策を実行しているのであれば評価できる。

だが、天沢の誤算はオレがクラスのあれこれに興味がないということ。

 

断ったところでオレ自身はノーダメージ。あとになってオレが交際しなかったから特別試験に負けたなどとクラスメイトから責められることもないだろう。

 

「それなら悪いが――」

 

「ちょっと待って。告白の返事は今度で良いからさ、だから証言の可否には影響なしっ」

 

断ろうとしたところで遮られる。

 

「それまでにちゃーんと考えて欲しいな。綾小路せんぱいにとって全部を解決できる良い話だからさ」

 

「そういうことなら考えておく」

 

「うん。よろしくー」

 

そういって天沢は一歩下がり、ゆっくり息を吐く。

 

「じゃ、気になってるみたいだし、結果発表しちゃおっか」

 

先ほどまでのどこか甘い空気感を一蹴し、天沢は元気よく告げた。

 

「先輩のトルコライスは――」

 

間を作る天沢の表情が、笑顔から真顔に、そして悲しそうな顔になり、申し訳なさそうな、残念がっているようなそぶりを見せはじめる。

 

まさかダメだったのか、という考えが過ぎり始めたタイミングで、天沢は口を開いた。

 

「合格~!おめでと、せんぱい。トルコライスも知ってたし、味もとっても美味しかったから満足だよ」

 

「それは何よりだ」

 

今の溜めは必要だったか、とは言わないでおく。

 

「証言が必要な時は呼んでね。その時、音声データも持って行くからさ。コレ、あたしの連絡先」

 

そう言って携帯を取り出し、電話番号とアドレスを表示する。

 

「わかった。審議会の日程が決まったら連絡する」

 

ひと段落ついたところで帰宅するため、片づけを済まそうと食器をまとめ、キッチンへと向かう。

 

「あ、片付け?せっかくだし手伝うよ。いっしょにシよ」

 

食器を洗うだけのことを、妙なニュアンスで表現するのは止めて欲しいと思ったものの、告白の返事のためのアピールなのか協力的な一面を見せる。

天沢は意外にも手際が良く、キッチンはあっという間にキレイになった。

 

「それじゃ邪魔したな」

 

「あ、そうだ」

 

玄関で呼び止められる。

 

「一応言っておくけど、あたしは二股とかハーレムとかNGだからね。付き合う時はあたしだけ見て欲しいな」

 

「参考にしておく」

 

手を振る天沢に見送られ、廊下に人がいないことを確認して足早にエレベーターに乗り込む。

 

幸い、他の1年生と鉢合わせることもなく寮を脱出できた。

 

ただ、問題が一つ残っている。

 

このあと自室で櫛田の準備した夕飯を食べる必要があるからだ。

 

以前波瑠加に料理を振る舞った際に、相当ご立腹だったことから、どんな理由があったとしても、天沢に天沢の部屋で櫛田に作ったことのない料理を作り一緒に食べて、しかも告白までされたから今日の夕食は不要だ、と伝える勇気はオレにはない。

 

ちょっと腹ごなしに軽く散歩してから帰るか、と寮の敷地を出ようとしたところで、携帯が振動する。

 

『まだ?』

 

波多野の連投とは違い、たった3文字だったが、緊急性を感じずにはいられないメッセージ。差出人は言うまでもない。

 

手のひらにじわりと汗がにじみ、素早くUターンし、2年生の寮へ向かう。

せめて櫛田の献立が素麺ぐらいのあっさりしたものであってくれ、そう願わずにはいられなかった。

 

「おかえり。ご飯できてるよ」

 

なぜだか満面の笑みで迎え入れられる。

 

「今日はね、特別試験に苦戦してる堀北の姿が最高だね!っていう記念でトンカツを作ったの。一緒にお祝いしよ」

 

「あー……それはめでたいな」

 

テーブルにはトンカツに味噌汁、大盛りのごはんが並べられていた。

普段ならオレも喜んだであろう献立。揚げ物に手が掛かるのは身に染みて理解している。

 

ニコニコしている櫛田を前に、大人しく席について箸を手にする以外の選択肢は選べなかった。

 

「堀北の苦しむ顔をおかずにしたらいくらでもご飯が進むねっ。清隆くんもおかわりするでしょ」

 

「……ああ」

 

そんなやりとりをしながら、なんとかトンカツ定食を平らげることに成功したが、腹部の過度な膨張が過食状態であることを訴えてくる。

だが、このぐらいの無理で、上機嫌な櫛田の笑顔を守ることができたと思えば安いもの。

 

「はい、今日はデザートに退学イモも作ったからどうぞ。ふふっ、宝泉って1年には感謝だね!堀北退学、退学」

 

「……あ、ぁ」

 

満腹の胃袋に縁起の悪い名前の大学イモを詰め込みながら、早急に宝泉の件を片付けることを誓った。

 






2年生編で描きたかった展開のひとつでした。

トルコライスを出したのは、原作の「トムヤンクン」と同じ「ト」からはじまり、綾小路くんが(料理好きになっていても)知らなそうなマイナーな料理ということが理由。ではなく、私の地元が長崎だからです。

トルコライスはお店ごとに、ピラフではなく、炒飯だったり、ケチャップライスだったり、カレーはかかってなかったり、トンカツじゃなく伊勢海老のエビフライのせたり、パスタもサラダ系のパスタだったりと何でもありな感じのアバウトな料理ですが、大人のお子さまライス(?)感があって美味しいです。

名前の由来は諸説あるとのことですが、トルコは関係なさそうですね。

長崎を訪れた際はぜひ。
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