ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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そろそろ原作重大なネタバレがあります。
未読で2年生編アニメを楽しみにしている方は注意です。


手のひらの上(右手)

金曜日の放課後。

オレと桐山をはじめとした生徒会役員の待つ生徒会室に鬼龍院の事件の被害者(鬼龍院)、容疑者(南雲)が入室する。

 

「まさか俺がこっちに座る日が来るなんてな」

 

「南雲、君には元々会長の席は似合っていなかったんじゃないか」

 

それぞれ指定の位置に座るや否や、皮肉を飛ばし合う。

喧嘩するほど仲が良い、などとツッコミを入れれば、その矛先はこちらに向きそうだ。

口が裂けても言えないな。

 

「仲良く喧嘩しているところすみませんが、そろそろ始めさせていただいてもよろしいでしょうか」

 

「「……」」

 

好奇心に負けて口にしてみたが、2人ともピタッと止まり、沈黙するといった想定外の反応を示す。これはどういう感情なのか、興味深いな。

 

「チッ、綾小路のせいで毒気が抜けちまったじゃねえか。おい、始めるならさっさとしろ」

 

「私も目的を忘れていたようだ。綾小路、早く判決を出して楽にしてやるといい」

 

もしかして2人とも本当に口論を楽しんでいたのか?

だとしたら悪いことをしたのかもしれない。

 

「一言であの2人を黙らせるなんて、腕を上げたな、綾小路」

 

この状況で桐山はそんな呑気な感想を述べる。

この余裕がどこから来るのか、不思議でならない。

 

「ではこれより鬼龍院楓花さんを万引き犯にしたてあげようとした事件についての審議を執り行います。進行は私、生徒会副会長の綾小路清隆が務めます」

 

須藤の暴行事件では、教員も立ち会ったが、あくまで今回は個人間の問題として処理するため、正式な審議会の形は取っていない。鬼龍院の希望は犯人の断定と謝罪。

教員を巻き込めば、どう転んでも犯人と犯罪行為へ手を染めかけた山中への罰則が重くなる。

逆に、宝泉の審議会が開かれる際には、教員も参加するため判決の強制力は今回の比ではない。

 

「――以上のことを踏まえ、誰が犯人であるかの真実を見極めさせていただきたいと思います」

 

形式的な説明を終え、証言をもとに犯人を断定していく作業に入ろうとした時だった。

オレの携帯から着信音が大音量で響く。

 

「おい、綾小路。こんな時は音が鳴らない設定にしておけよ。進行役としての責任感が足りねえんじゃないか」

 

容疑者の生徒会長様からお小言が飛んでくる。

通常ならオレもそうしている。だが、今回はあえて音量設定までいじっておいた。

 

「相手は波多野です。波多野には緊急事態に陥った時だけ連絡するように伝えてありました。すみませんが、出てもいいでしょうか」

 

緊急性が伝わるようにいつもよりも言葉に重みを乗せて発言する。

南雲にも鬼龍院にもそれのことは伝わったようで、黙って頷いた。

 

スピーカーモードに変更し、電話に出る。

 

「どうした?」

 

『た、た、大変っす。天沢さんが――』

 

波多野が何か言おうとしたところで鈍い音がして声が途切れた。

元々緊張状態だった生徒会室に、別の緊張が走っていく。

 

『よぉ、ぱいせん。今からツラ貸してくれるよな』

 

波多野の代わりに聞こえてきたのは宝泉の声。

 

「波多野をどうした?」

 

『ちょっとおねんねしてもらっただけだ。だが、このあともそうとは限らねえかもな』

 

「何が望みだ?」

 

『パイセンと話がしてぇだけだ。今から送る場所に1人で来いよ。待ってるぜ』

 

そう言って一方的に通話を切られる。

その後『第二体育館』とだけ書かれたメッセージが届く。

あの場所は長いこと工事中で基本的に生徒は立ち入ることがない。

当然、監視カメラなども設置されていないため、無法地帯。

 

「ということで、すみませんが、少し席を外します。ただ、この審議を中止にするわけにもいきません。進行の引き継ぎは桐山先輩お願いします」

 

「な、なにッ!?」

 

「資料と証言の録音データはまとめてあります。これ通りに進めて頂ければ問題はないかと」

 

「いや、いまここで綾小路に抜けられるわけには――」

 

「いいじゃねえか桐山。波多野の方が心配だろ」

 

戸惑い拒否する桐山を南雲が制する。

 

「だが……」

 

「私も異論はないよ。綾小路が出ていく判断をしたということは、すでにこちらの件は片付いている、そういうことなんだろう」

 

「……仕方ないか」

 

桐山はまだ何かを言いたそうだったが、鬼龍院もこちら側についたことで観念したようだ。

 

「話がまとまったところで、本来あとから目撃者として証言してもらう予定だった生徒にも入室してもらいます」

 

そう言って素早くチャットを飛ばすと、隣の準備室に待機させておいた生徒、八神が入って来た。

 

「1年Bクラスの八神拓也と申します。よろしくお願いします」

 

「では、オレはこれで失礼します」

 

そうして鬼龍院の事件を任せ、第二体育館へ急いだ。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

第二体育館が見えてきた。

工事用のフェンスに囲まれ、外から中の様子を伺うことはできない。

 

どんな罠が仕掛けられているかわからないため、警戒は必要。

宝泉がホワイトルーム生で、中に入ったら刺客のエージェントが大勢待機している、なんて可能性もゼロではない。

 

だが、あまり考える余裕はない状況でもある。

宝泉がホワイトルーム生ではなかった場合は、波多野の安全は保障できないからだ。

 

「正面から堂々と乗り込むか」

 

どんな罠が仕掛けてあっても、その場で対処すればいいだけ。

 

そうして周囲を確認し、第二体育館の扉を開く。

まだ日は落ちていない時間だが、明かりはついていない為、ほんのり薄暗い空間。

 

「宝泉、望み通りやってきたぞ」

 

見える範囲には宝泉の姿はなく、試しに呼びかけてみるが、反応もない。

が、視界の端、ステージの真下あたりで動く影を捉えた。

 

「あ、綾小路せんぱい……」

 

「波多野か」

 

弱りきった声の主へ近づく。

 

「大丈夫か」

 

動けない程度に暴行を受けたようで、ぐたっとしている波多野。

 

「自分のことより……向こうの倉庫に天沢さんが連れて行かれました……そ、そっちに」

 

「わかった。あとのことは任せておけ」

 

そう伝えると波多野はガクッと倒れ、目を閉じた。

……うん、脈はあるな。良かった。

 

波多野を人質にするかと思っていたが、天沢の方を選んだか。

 

ゆっくりと波多野が示した体育館倉庫へと足を運ぶ。

 

倉庫のドアは開いていた。

そっと入口の端から中の様子を伺う。

宝泉の姿は見えなかったが、奥のマットに手足を紐で縛られた天沢が転がっている。

気を失っているのか、天沢に動きはない。

 

「……」

 

近づいた瞬間、頭上から檻でも降ってきそうだな。

一応、天井も見てみる。

残念ながらそんなギミックはなさそうだ……が、ここまでして何も起きないことはないだろう。

 

倉庫の中に、天沢以外の人の気配は感じられない。

警戒しながら倉庫に足を踏み入れ、天沢へと近づく。

 

もう少しで天沢にたどり着く――その時だった。

 

フラッシュと共にシャッター音が何度も鳴った。

 

サッと周囲を確認する。

どうやら倉庫のあちこちにカメラが設置されていたようだ。

遠隔操作でいつでも撮れるようにしてあったのだろう。

 

「あっちゃー、撮られちゃったね。あたしたちの逢引き現場」

 

そんな言葉と共に天沢はひょこッと起き上がり、妖艶な笑みを浮かべる。

手足の拘束もフェイクだったようで紐はするすると解けた。

 

その瞬間、オレはすべてを察する。

 

「何のつもりだ?」

 

「うーん。それはもうわかっているんじゃない?」

 

悪びれる様子もなく天沢はそう言い切った。

 

「ハッ、こりゃあ良い写真が撮れた。見てみろよ、綾小路パイセン」

 

倉庫の入り口から宝泉が高笑いをしながら現れる。

気配を消して体育館のどこかに潜んでいたのだろう。

得意げに示す携帯画面には、縛られた天沢を近くで眺めるオレの写真が表示されていた。

 

「拉致監禁からの暴行直前の証拠写真ゲットだぜ。明日の一面は生徒会副会長様のスキャンダルで決まりだな」

 

「そんなくだらない言いがかりが証拠になるとでも?」

 

「まだまだこんなもんじゃない」

 

端末をスワイプし、次に出てきた写真は、1年生の寮――天沢の部屋の前に立っているオレの姿。

 

「これはそこの女にストーカー行為を繰り返してた証拠写真だ」

 

角度的に廊下に散らかっていた段ボールの中にでもカメラを仕込んでいたんだろう。

これだけ切り抜いてみれば、確かに天沢の部屋の前に張りこむ不審者にも見える。

 

「これなんかもどうだ?」

 

スーパーで買い物中の天沢を少し離れたところから眺めているオレの写真。

上手く波多野が映りこまないように撮影されている。

色んなものを買わされたが、ストーカーに見える写真を撮るための時間稼ぎでもあったわけだ。

 

「この写真を提出して、その女が被害を訴えれば、あんたはめでたく退学ってな」

 

天沢と宝泉は結託し、最初からこうする狙いだったわけだ。

 

「それでオレを脅迫してどうするつもりだ?審議会の開催を取り下げろってわけじゃないんだろ」

 

証人の天沢が宝泉側であった以上、宝泉には別の目的がある。

 

「話が早くて助かるが、勘違いするなよ。俺は交渉するためにこんなことしてるんじゃねえ」

 

ニヤリと笑い宝泉は告げる。

 

「パイセンが退学になればそれで目的達成なんだからよ」

 

「なるほど」

 

「随分と冷静だな。諦めたのか?それともここからどうにかなるとでも思ってんのか」

 

元から退学を狙ってくる刺客を意識して過ごしているため、驚くほどのことではない。

それに、どうにかもなってしまう。

 

「勘違いしているのは宝泉、お前の方だ」

 

「あ?」

 

「残念ながらその写真は証拠にはならない」

 

「話聞いてなかったのか?パイセンが何と言おうと被害者の主張を学校は信じる。あんたは犯罪者の仲間入りだ」

 

「その前提が間違っている。なぜなら――」

 

そう言いながら天沢一夏を抱き寄せ、言葉を続ける。

 

「一夏はオレの彼女だからな」

 

「は?」

 

宝泉の表情が固まる。

訳の分からないものでも見たようなそんな表情。

 

「彼女と一緒に買い物をするのも、彼女の部屋の前で待機するのも何らおかしいことじゃない」

 

「おいおいおい――」

 

「体育館倉庫の現場は、褒められた行為じゃないがカップルのプレイの一環だ。双方の合意の上で、かつ実際の行為に至っていなければ退学になるほどのことじゃない。むしろ、オレたちの逢瀬をこっそり撮影した宝泉を盗撮で訴えることもできる」

 

「ふざけてんのか」

 

オレの無茶苦茶な理論に、宝泉は苛立ちを隠せない。

 

「オレたちは相思相愛だ。そうだよな、一夏」

 

「うん、清隆先輩大好き」

 

ぎゅっと抱き着いてくる天沢。

 

「てめぇ裏切んのか」

 

「えー?お互いの利益のために協力するって話だったよね?あたしの目的は最初から綾小路先輩との交際だよ、何も裏切ってないじゃん」

 

そう、初めから天沢の目的はオレとの交際だった。

そのために宝泉を利用していたに過ぎない。

昨日言っていた『全部を解決できる良い話』というのはこのこと。

暗に解決手段を提示しておいて、オレの敵ではないことを主張していた。

 

実際、この状況を打破するには天沢と交際するしか抜け道がない。

ここで交際しないと言えば、本当に宝泉側につくこともできるからだ。

そんな状況にオレを追い込んだ天沢の策は立派なモノ。

 

「チッ、女好きだから色仕掛けで余裕って話じゃなかったのかよ」

 

「……」

 

無言で天沢を見る。

 

「あたしはそんなこと言ってないよ。彼女を信じて」

 

「信じる」

 

となれば、そんな誤解を生んでいて宝泉と話をできる人物は1人、七瀬しかいない。

こんなことならもっと真剣に訂正しておくべきだったな。

 

「いや、よくわかんねえ女と組んだのが失敗だったか」

 

「オレを土俵に引きずり込めたのは天沢の協力があったからだ。あのままいくらお前が暴れようが、オレは関与するつもりはなかった」

 

派手に暴れ回っていたことは、特別試験の攻略の一面もあるのだろうが、本当の目的は生徒会が関与する状況を作り出すこと。

注意しに行った波多野に対し、上の者を出せと主張していたことからも、目的はオレにあった。

そして、証人を立てて訴訟を起こすように誘導し、天沢を送り込んだわけだ。

 

オレにとってどうでも良かった事件が、証人の説得という形で関わる羽目になったのは天沢の功績。

今になって思えば、料理を課題に出したことも、オレが最近関心を持っていたことを知っていたからかもしれない。

 

都合よく現れたことから天沢も初めから警戒対象ではあったものの、共犯か断定するには材料が足りなかった。

そのためどちらだったとしても早く行動に移させるよう、今日の昼休みに宝泉が接触してきた際に、オレに放課後予定があることを認識させ、波多野に天沢を保護させることで誰が証人かわかりやすくした。

結果、宝泉と天沢は協力関係だったため、波多野の保護は不要だったわけだが、何も知らない波多野を襲い、オレの隙を突いたと思っていたはずだ。

狩る側だと思っている獲物ほど、コントロールしやすいものはない。

 

波多野には申し訳なかったが、3人での共犯の線も消せなかったため、波多野を試す意味でも囮にする必要があった。

 

ここまでしても、結局はっきりしないのは宝泉がオレを退学にしようとする理由。

それを聞き出そうと茶番に付き合っていたわけだが、ホワイトルーム生であれば月城との賭けの件もあり、素直に白状するはずがない。

少し強引な手を使ってでも探ってみるか。

 

「ただこちらも審議会での証人を失ったことには違いない。そこで提案がある」

 

「立場が逆転ってか。……言ってみろよ」

 

「理由はわからないが、お前の目的はオレの退学なんだろ。難しいことは考えずにシンプルに拳でケリを付けないか。宝泉が勝てばオレは自主退学、オレが勝てばお前は試験の妨害行為を止めること、ついでに写真データも消してもらうってのはどうだ?」

 

「仙人のパイセンはよっぽど腕に自信があるようだ。悪くねえ。その勝負、受けてやるよ」

 

「じゃ、あたしは勝負の見届け人やるねー」

 

抱き着いていたオレから離れて距離をとる天沢。

 

「てめえは自分の男を贔屓すんだろ」

 

「そんなことしないよー。というよりする必要ないかなって。宝泉くんじゃ勝てないと思うし」

 

「マジで可愛くねえヤツだ。コイツと付き合うって正気か?」

 

「ノーコメントで」

 

「えー、せんぱい酷ーい」

 

「このぐらいで酷いと感じていたらオレとは付き合えないな」

 

「ちぇー、いいよ、大目に見てあげる」

 

「ノロケんのはお前らが退学になったあとにしろ。さっさと始めよう、ぜッ」

 

そう言って右拳を撃ち込んでくる宝泉。

それを最小限の足さばきで回避する。

 

「やっぱりな。その動き、合気だろ」

 

避けた先に宝泉の左蹴りが飛んでくる。

元々予測していなければできない速さ。

 

「そうだな」

 

それも躱しつつ、その足を掴み、宝泉の態勢を崩そうと試みる。

が、宝泉は重心を前に移し、身体ごとオレに覆いかぶさるようにして両肘を振り下ろしてきた。

 

「チッ」

 

オレは転がるようにして距離をとり、回避した。

 

「俺はよ、パイセンみたいに武道をやってきたぐらいでイキってる野郎を数えきれないぐらい潰してきた」

 

攻撃の手を緩めない宝泉。

 

「どうした、パイセン。攻撃して来ないのか?いや、できねえよなぁ」

 

多くの喧嘩の中で培った経験則だろう。

オレの次の動きがわかるかのように的確に攻めてくる。

 

「型や技に頼った動きしかできないお利口ちゃんなんて楽勝だ。合気道やってるやつの弱点もわかってんだよ」

 

逆に宝泉の攻撃は、龍園同様、我流で磨かれてきたもので、こちらにとって予測しにくい。

簡単に無力化するのは難しいな。

 

相手の動きを利用して関節技を決める合気道の特性上、掴むタイミングなどを上手くずらされると決定打を放つことはできない。

 

まぁオレが合気道の使い手だったらの話だが。

 

「がはっ!?」

 

すっと宝泉の懐に潜り込み鉄山靠を叩きこむ。

必要な情報は集まったのでトドメをさすつもりで放ったのだが、宝泉は数歩後ずさりしただけで耐えきった。

 

手合わせをすれば相手がホワイトルーム生かどうか判断できる。

少なくとも刺客として送られてくるレベルの人間が今のを躱せないはずがない。

わざと技術を隠すことはできるだろうが、宝泉との攻防1つ1つからは、洗練された技というよりは、荒々しく刻み込んでいったものという印象を受けた。

ここまでの喧嘩殺法を身につけるにはそれなりの経験が必要で、非効率極まりないそれはホワイトルームでは身につけられない。

 

宝泉はホワイトルーム生ではないと確信できたため、これ以上戦闘を続ける意味はない。

 

「はっ、拳法も使えるとはますます仙人っぽいじゃねえか。だがな、拳法使いも――がッ」

 

シンプルに正拳突きを撃ち込んだ。

 

「空手も効かな――ぐばっ」

 

不屈とでも言えばいいのか、ダメージはあるはずだが中々倒れない宝泉。

 

「サンボも、システマも、CQCも――」

 

試しに色んな技を繰り出してみた結果、ボロ雑巾のようになりながらも立ち上がる宝泉。

 

「攻撃の起こりが全く見えねえ……あんた何もんだよ」

 

「生徒会副会長だ」

 

「チ、どこまでもふざけてやがる」

 

「そうでもない。オレからの提案を受けた時、『驕った副会長を潰すのは楽しそうだ』お前はこう思ったんじゃないか?」

 

「だったらなんだ」

 

「最初に対峙した時に、合気道の足さばきで回避したのはこの時のためだ。あえてこちらにも相応の力があることを見せ、この話に宝泉が乗ってくるように仕向けた」

 

「……」

 

普通の高校生であれば見るからに喧嘩自慢の宝泉に向かって殴り合いでの解決を提案するはずがない。

それなりの武の心得があるから自分を倒せると驕った勘違いしている副会長を潰したい。

そんな宝泉の嗜虐心を利用し、状況を整えた。

 

「何かあっても力でねじ伏せればいい、そう思ったからこそ、お前は今日この場を作ってしまったってことだ」

 

仮にもっと慎重に行動をしていれば、少なくとも来週頭までは妨害行為を続けられた。

オレを陥れるにしても今日実行する理由も、この勝負に乗る理由もなかったはず。

 

「慢心していたのは俺の方だったわけか」

 

「わかったなら、もう諦める時間だ」

 

最後に波多野の仇ということで巴投げを喰らわせた。

 

天井をみて大の字に倒れる宝泉は、もう起き上がってこない。

 

「今日のところは俺の負けってことにしといてやる」

 

そう言い残し、宝泉は気を失った。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

波多野を保健室に運び、天沢を寮まで送ることになった。

 

天沢はこれみよがしにオレの腕に引っ付いているため、すれ違う学生から奇異の目で見られている。

同級生に見つからないことを祈りながら、本来の目的を達成すべく、行動をはじめる。

 

「ところで一夏。せっかく付き合うことになったんだ。特別試験のパートナーも組まないか?」

 

天沢はAクラス。

勝手に組んでも堀北の策を邪魔することにはならない都合の良い相手。

 

「え?いいの。もちろん、OKだよ。あたしたちなら1位狙えるね」

 

天沢に申請を送り、天沢は画面を操作し受諾したことを見せてくる。

これで本当に全部解決だな。

 

「それにしてもあたしの彼氏強すぎ。みんなに自慢したいから一緒に交際はじめましたって動画撮ろー」

 

「断る」

 

「えー、そんなこと言っていいのかなぁ?付き合うって形だけじゃだめだよ?」

 

「天沢も宝泉の持っていた写真データを持ってるんだろ」

 

「そのとーり。だからせんぱいは逆らえないんじゃないかな?」

 

「いや、オレたちの交際もここまでだ。短い期間だったが充実した時間だった。別れよう」

 

「そんなこと許すと思ってるの?振られる理由だってないし」

 

弱みを握っている上、別れられるはずがないと信じて疑わない天沢。

 

「理由ならあるし、天沢も承諾する。だってお前は――」

 

オレの腕にしがみつく天沢と目を合わせる。

 

「ホワイトルーム生だろ?」

 

「え……」

 

この一言で天沢の挑発するような笑顔は崩れていった。

 

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