ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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釣れるヤツと釣れないヤツ

試験2日目の朝。

木々の隙間から差し込む朝日の光で目を覚ます。

今回はハンモックを使ってみたが、思ったよりも寝心地は良い。少なくとも男子で詰まった狭いテントの中よりは快適だろう。

 

時間を見るとまだ6時前だ。

すっかり目も覚めてしまったし、顔でも洗うかと起き上がると、何やら出かける準備をしているBクラスの男子たちの姿があった。

こんな早朝から何事かと見ていると、その中から渡辺と柴田がこちらに気づき、声を掛けてくる。

 

「おっ!綾小路、だったっけ。おはよー」

 

「ああ。おはよう」

 

「俺たちこれから海に朝釣りに行こうかと思うんだけど、お前も一緒にどうだ?」

 

「朝の方がいっぱい釣れるぜー」

 

ほぼ初対面の人間を気さくに誘えるコミュニケーション能力は素直に羨ましい。特に朝から予定があるわけでもないし、試しに行ってみるか。

 

「役に立たないかもしれないが大丈夫か?」

 

「そんなの気にすんなー。楽しくやろうぜ!」

 

釣りの経験はないので戦力として当てにされたら困ったのだが、目的は食料確保というより純粋に釣りを楽しむことのようだ。

 

 

「んで、ここに餌をつけて、こうやって竿を振って、仕掛けを飛ばすんだ」

 

「なるほど」

 

「んじゃ、さっそく始めようぜ」

 

「俺マグロ狙うぜ!夜はみんなで解体ショーだ」

 

「「おー!」」

 

浜辺に着いて、渡辺から釣りの手順を教わり、さっそく釣りをスタートする。

柴田がマグロを狙うなどと言っているが、これは場を盛り上げるための冗談ってやつなんだろうな。山内あたりが言ってたらバカ扱いされることは間違いない。……この違いは何なのか。

 

「おりゃー」

 

勢いよく渡辺が竿を振る。そこそこ遠くに着水した。

 

「あとはヒットするのを待つ。綾小路も遠慮せずやってみろよ」

 

「ああ」

 

他の生徒の動きも観察できたので、真似て竿を振る。力加減が難しいな、かなり手前で着水してしまった。

 

「ドンマイ、ドンマイ」

 

「最初ならこんなもんだな、何回か練習してみるといいぜ」

 

「おっ、引いてる引いてる!フィィィィーッシュ!!!」

 

柴田にあたりが来たようだが、なぜ『魚』と叫んでいるのだろう。

 

「綾小路、ヒットした時はあんな風にフィッシュって叫ぶんだぜ」

 

「なんでだ?」

 

「うーん、雰囲気じゃないか?」

 

柴田を不思議そうに見ていたからか、渡辺が補足をしてくれた。疑問は全く解消されなかったが。

しなる竿を必死に支え、リールを巻く柴田。魚の抵抗も激しいのだろう、簡単には釣り上げられない。なるほど、釣りとはつまり魚との命を懸けた闘いか。叫ぶのは、魚に対する敬意を表しているのかもしれないな。

 

「お!アジか。やったぜ」

 

「俺たちも負けられないな、そりゃ」

 

渡辺に続き、オレも竿を振る。さっきよりは上手く飛んだように思う。

しばらくすると竿が引っ張られるような感覚が手に伝わる。

 

「お、綾小路もヒットしてんじゃん」

 

じーと期待の目で見られる。ここは渡辺からの期待に応えなければならないだろう。海に向かって盛大に魚への敬意を表明させてもらおう。

 

フィーッシュ

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「いやー面白かったな」

 

「綾小路の声は毎回小さいし、魚もハゼばっかりで小さいし、笑った、笑った」

 

「なかなか難しいもんだな」

 

「ハゼも天ぷらにしたら美味いし良かったんじゃないか」

 

浜辺からの帰り道、今日の釣果には大きな差が出てしまった。

励ましてくれているのはわかるので、無人島で天ぷらは無理なんじゃないか?なんて野暮なツッコミはやめておこう。

 

「また明日もやろうぜ。次は大物釣れるかもだし、な?」

 

「ああ、そうだな。明日は釣れる気がする」

 

旅行期……試験期間中ぐらい朝の日課としてこういうのもいいかもしれない。

今日は手ごたえがなかったが、大きな魚を釣ったときどうなるのか、少し気になる。

 

「なんかさ。綾小路って話しやすいな」

 

「そうか?自分じゃよくわからないが……」

 

「いや、一之瀬が共闘するって言ったときはどうなるかと思ったけど、上手くやれそうな気がする」

 

「こっちはBクラスに助けてもらってばっかりだけどな」

 

「まっ、困ったときはお互い様ってやつだろ。俺たちも随分助かってるし」

 

 

渡辺の抱いたオレへの印象は、オレも渡辺や柴田たちに持った印象だった。

だが、似て非なるものなんだろうな。話しやすく、接しやすい。それは、つまり――

 

結局オレの釣った魚は焼いて食べたが、心なしか昨日口にしたものよりも美味しく感じた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「みんなー、この後、これからの作戦を説明するよー」

 

点呼が終わったタイミングで、一之瀬の声がキャンプ地に響く。

Bクラスだけでなく、Dクラスの生徒も真剣な顔付きだ。

試験に真剣な者、元から協調性のある者、異性に良いところを見せたいだけの者など理由は様々だろうが、Dクラスだけではこんなにスムーズにはいかなかったように思う。

 

一之瀬をはじめBクラスの生徒は、Dクラスの目指すべきお手本として十分効果を発揮してくれそうだな。

 

これから作戦会議をはじめ、本格的に試験の攻略を目指すことになる。

当然、金田と伊吹には聞かせることはできないため、数人の生徒と一緒に果物の調達に出て行ってもらっている。

 

「まず、昨日Dクラスが調べてくれた情報のおかげで島の詳細地図を作ることができました。Dクラスのみんなありがとね」

 

そういって笑顔で労う一之瀬の言葉を受けて、Dクラス男子はデレデレだ。

こういう気遣いをできるのは、うちのクラスの女子では櫛田ぐらいか。

ただ、櫛田の場合は裏が——

 

「こういうのって普通、女の子から妬まれるんだけど、一之瀬さんが言うとそういうの感じないよね。まぁ女の子がDクラスの男の子に興味ないってのが大きいかもだけど」

 

いつの間にか隣にいた櫛田が他には聞こえないような小声で伝えてくる。

少し毒が混じってなかったか。

 

「そういうものなのか」

 

「そうだよ。女の子の世界は大変なんだから。綾小路くんもやっぱり一之瀬さん派なのかな?」

 

……それは何派と比べてでしょうか、櫛田さん。

直前までのオレの思考を読んでいたかのような質問に思わず冷汗がでるところだった。

 

「堀北と一之瀬なら断然一之瀬派だな」

 

「ふーん」

 

全く納得はいかない様子だったが、「ところで」といった表情でこちらを覗き込む。

 

「この作戦を考えたのは綾小路くんなのかな?」

 

「いや、事前に会議はしたがオレは聞いていただけ。発案は一之瀬や神崎たちだ」

 

「そうなんだー。てっきり綾小路くんも一枚噛んでるのかなって思ってたんだけど……じゃあ私に手伝って欲しいこととか特に指示はなしってことで大丈夫なのかな?」

 

どうやら櫛田もこの試験に勝つためにオレが何かすると考えているらしい。

 

このまま、ただ単に共闘するだけなのかと疑問を感じているのかもしれないな。

 

「だったらひとつお願いをしてもいいか?」

 

「うん、何かな……うんうん、わかった、調べてみるね!」

 

自分でやれないこともないので、櫛田は放置していてもいいのだが、適度に仕事を与えることも大事かもしれないと思いなおし、お願いをしてみる。これに対してどうアクションしてくるかで櫛田の今後を考えよう。

 

「作戦は以上です。それで今から班分けをしていくね」

 

櫛田とのやり取りをしている間に作戦の説明は完了したようだ。

勝負を仕掛けるのは明日以降。

それを受けて他クラスがどう出るか、懸念があるとすれば——

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「よう、葛城。景気はどうだ?」

 

「龍園、貴様、不用意に接触など、リスクをわかっているのか?」

 

オレは昨日の不可解なDクラスの行動からひとつの答えを導き出した。

Bクラスのヤツ等は侮れねぇが、これで勝った気になってるならとんだ馬鹿共だ。

伊吹には金田のサポートをするよう命じて潜入させた。方針は変わらねぇ。

即席の主従関係なんて簡単に壊せるもんだ。雑魚を支配するのはオレだけで十分なのさ。

 

「わかってねえのはオレか、それともお前か?」

 

「……Bクラスのことか」

 

「知っているなら話を進めさせてもらうぜ。契約を更新しろ、葛城」

 

「何を言っている?」

 

「残りのCクラス全員で、Aクラスの兵隊として協力してやるよ。その代わり報酬のプライベートポイントを倍貰う」

 

「話にならんな」

 

「お前、このままじゃ負けるぜ?」

 

「Cクラスの手など借りずともAクラスは十分戦って勝つことができる。これ以上は無駄な出費にしかならない」

 

「ホントにそう思うんなら、無理は言わねーよ。約束通りリーダー情報は届けてやるが、あとから泣き言ほざいても知らねえぜ」

 

「Bクラスのやりそうなことは見当がついている。だが、こちらには地の利がある。スポットはやすやすと譲らんさ」

 

そういって葛城は踵を返す。人様の善意を受け取らないとは、まったく馬鹿な野郎だぜ。

おっと、立ち去る前に一言言っておかねーとな。

 

「おい葛城、上裸に弓の装備は何の冗談だ?俺たちのポイントを無駄遣いするのはやめてほしかったぜ」

 

聞こえたはずだが、一切リアクションなしか。

この試験、島の生態系へ悪影響を与えたらペナルティ。つまり下手に野生生物は狩れないはずだが……あれで火でも起こしてたのか?

 

追加でポイントをむしり取れればそれでよし、断られてもこちらに痛手はねぇ話だった。

予定通り、うちのクラスの連中は今晩辺りでリタイアだ。

 

あとは金田と伊吹から連絡を待つだけ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「んで、どうすんのよ、金田。このままじゃヤバいんじゃないの?」

 

BとDクラスの連中と一緒に食料回収に来た私たち。

まぁキャンプ地から離しておきたかったんでしょうけど、こちらとしても都合がいい。

龍園からの指示を金田に伝えたが、どうにもコイツからは焦りがみられない。

 

「ふふふ、伊吹さんは心配性ですね。簡単なことですよ。目障りな雑兵には消えてもらうしかないでしょう」

 

「それをどうするのかって聞いてんだけど」

 

イライラする。

 

「急速は事を破り、寧耐(ねいたい)は事を成す」

 

「はぁ?」

 

「西郷隆盛の言葉です。つまり慎重に行きましょうってことですよ」

 

「最初からそう言いなさいよ」

 

無駄に気取った言い方にムカついたので思いっきり足を踏んでやった。

目立つから蹴り飛ばさなかっただけ感謝しな。

 

「ま、まずは、落ち着いてBクラスのリーダーが誰かってことから探っていきましょう」

 

「金田君、伊吹さん、そろそろ移動するよー」

 

「わかりました。すぐ行きます」

 

遠くからBクラスの女子の声が聞こえて慌てて猫を被る金田。

こいつと協力なんて冗談がキツイ。いざとなったら私だけでもやり遂げてやる。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

昼過ぎ、オレと一之瀬はCクラスのキャンプ地を偵察を兼ねて訪れていた。

 

「やっほー龍園君、景気がいいねー」

 

「一之瀬か……それと誰だお前?」

 

こちらの調べはついているだろうに白々しいな。

 

「誰でもいいんじゃないか?」

 

「クク、違いねぇ、Dクラスの雑魚なんざいちいち覚えるだけ無駄だからな」

 

「龍園君も人が悪いよねー、Dクラスってわかってるってことは知ってるんでしょ?」

 

「さぁな。Bクラスの手下には興味はないからな」

 

「手下なんて表現はやめて欲しいかな。大事な友だちで仲間なんだから」

 

「ククク、おもしれーことをいいやがる。お前たちもそのお友達のポイントで楽しくやってるんだろ?」

 

「うーん、何のことかなー?」

 

予想通り龍園はDクラスがBクラスにポイントで物資を提供したと思い込んでいるな。

一之瀬に探りを入れているが、一之瀬にも覚えがないことなので当然何も出てこない。

実に自然な疑問顔だな、一之瀬。

 

「食えねー女だぜ」

 

「それにしてもCクラスは特別試験を放棄したってことでいいのかな?」

 

「オレはたかが100や200ぽっちのポイントのために、努力や我慢なんざしたくないのさ。お前らは何を食べてきた、レーションか?野草か?」

 

そう言いながらこんがり焼けた肉を頬張る龍園。

豪勢な食事に、パラソルやチェアーなどのバカンスセット、水上バイクなどなど見渡す限りでも相当ポイントを使用したことがわかる。

 

「もしかしなくても全ポイント使っちゃったんだね」

 

こんなことになっているとは思っていなかったのか、さすがの一之瀬も少し引き気味だ。

 

「クク、俺たちはバカンスを楽しむだけさ。お前たちは苦しみながらサバイバルごっこでもしとくといいぜ。何ならここで遊んでいくか?」

 

「サバイバルも楽しいと思うよー。龍園君にはわからないかもだけど。そういえば、金田君と伊吹さんはこっちで保護してるんだけど、随分酷いことしたんだって?」

 

今度はこちら探りを入れる。龍園が少しでもおかしいところを見せれば、スパイだと確定できる。まあ、十中八九スパイだろうが、判断材料は多いに越したことはない。

 

「あいつらはバカンスよりも試験だと言い張りやがったからな。支配者に背くやつには制裁を与えてやっただけだ。意外だったのは伊吹が金田を追っていったことぐらいだ。可愛いところもあったもんだぜ」

 

当然のことをしたまでと堂々と語る龍園からは特に変わった様子は見受けられない。

こういった問答にも対応できるだけの力を持っている。

 

「他クラスの事をどうこう言うつもりはないけど、クラスメイトを仲間だと思わない龍園くんのやり方は好きになれないな」

 

「クク、ならオレに夢中になるようにしてやってもいいんだぜ?テントぐらい用意してやるよ」

 

そう言いながら一之瀬に手を伸ばす龍園……目がけてオレの蹴ったビーチボールが勢いよく飛んでいく。龍園はそれを難なく弾いたが、十分だろう。

 

「てめーなにしやがる」

 

「悪いな、龍園。遊んでいいと言われたから、ボールを蹴ってみたんだが変なとこに飛んだ。まさか今ので暴力行為だとか言い出すのか?」

 

目立つことは避けようと思っていたのだが、良い感じにボールが転がっていたので、つい蹴りたくなってしまった、それだけだ。

 

「アハハハ、龍園君も焦ることあるんだね」

 

「チッ、飼い犬のしつけぐらいしっかりしとくんだな、一之瀬」

 

さっさと帰れ、と言わんばかりの龍園。

これ以上長居しても得るものはなさそうなので立ち去ることにした。

 

そういえば、ひよりの姿はなかったが……さてはすでにリタイアして読書中か。少し羨ましいな。

 

Cクラスのキャンプ地を離れ、次はAクラスのキャンプ地を、ということになったが、洞窟には暗幕が張られ中の様子がわからない。

外には仮設トイレとテントがあるぐらいだ。テントの方は担任の真島先生だろう。

 

「これじゃ偵察できないね」

 

「まぁいいんじゃないか。下手に見に行って刺激する必要もないだろうし」

 

「そうだね、今日のところは帰ろうか」

 

「そうしよう」

 

ここで確認したいことは確認できたしな。

 

「……さっきは、そのありがとう」

 

「何のことだ?」

 

「ううん、気にしないで。それにしても龍園君も思い切った作戦だよね」

 

「ああ。マネする気にはなれないな」

 

「……多分だけど、今晩か明日辺りにはリタイアする感じかな」

 

「ポイントがない以上、食料が尽きたらそうするしかないだろうな」

 

「となると、リーダー当てには参加できない。つまり金田君たちはスパイじゃないってことになるね」

 

途中までは良い読みだが、決めつけるのは危険だ。

まだスパイでない可能性を残しているところが、一之瀬の良いところであり、弱点でもある。そこを改善すべきか、伸ばすべきか……一之瀬が一之瀬のままでどこまでやれるのかには興味はある。だが、オレが隠れ蓑にすると決めた以上、使える駒になってもらうのは最低条件だ。

 

「一之瀬はこの試験の説明を聞いた時、どう考えた?」

 

オレは一之瀬にこれからの戦略を話すことを決めた。

 

 

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