ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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手のひらの上(左手)

『――という形で決着がつきました。その、何と言えばいいか……』

 

「いや、オレがいても似たような結果になったはずだ。厄介ごとを頼んですまなかった」

 

『いえ、僕としては機会をいただけて光栄でした』

 

オレが事前に代役を頼んでいた相手――八神からの報告の通話が終了する。

鬼龍院の事件の全貌を聞き、オレはそこから一本、電話をすることにした。

 

出ない可能性も考えられたが、ワンコールも鳴らさないうちに繋がった。

 

「今から会えないか?」

 

シンプルな誘い文句だったが、二つ返事でOKを貰えた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

綾小路が出て行ったあとの生徒会室。

進行役を引き継いだ桐山が、綾小路の残した報告書を読み上げたのち、立花との会話の録音データを流し終えた。

 

「以上のことから、実行犯の山中、その山中へ指示を出した立花が証言する通り、南雲が鬼龍院を万引き犯にしたてようと計画した犯人である、ということになるが、何か異議申し立てはあるか?」

 

南雲に向け桐山が問いかける。

 

「もちろんある。俺はそいつらにそんな指示を出した覚えはないぜ。こんな事件が表沙汰になれば俺の信頼に傷がつく。わざわざ鬼龍院を陥れるメリットが見当たらない」

 

「どうだろうか。君はメリット、デメリット関係なく動く時がある。昨年の堀北学前生徒会長へのアプローチが良い証拠だ。勝負相手に飢えた君が私を挑発するために計画したとしてもおかしくはない」

 

南雲の主張を鬼龍院は否定し、話は前回鬼龍院が乗り込んできたときと同様に平行線を辿る――かと思われたが、ここで証人として招かれていた八神が挙手をした。

 

「ひとつ気になることがあるのですが、よろしいでしょうか」

 

思わぬ人物の思わぬ行動に、桐山は一瞬戸惑いを見せたが、頷き、発言の許可を出す。

 

「先ほどの録音の中で立花先輩がおっしゃっていた南雲生徒会長から受けた指示の時間についてです。月曜日の18時頃とのことですが、その時間の南雲生徒会長のアリバイを確認してみてはいかがでしょうか?」

 

「なるほど、それは大事だな。南雲、その時間何をしていたか教えてくれるか」

 

「あー……月曜っていうと、あれだ、生徒会入会希望者の面接をしていたのがそのあたりだったはずだ」

 

少し考え南雲はそう答えた。

 

「いや、待てよ。18時頃はすでに帰ってんだったか。時間までははっきり覚えてないな」

 

が、あまり自信がないようであやふやな回答になる。

これがアリバイがないことを誤魔化す行動であれば発言順は逆のはず、自分からアリバイがない時間帯に訂正する必要もないと判断した八神は話を続ける。

 

「僕の面談をしていただいた時刻は確か17時頃でした。面談後に終わった時間をみたので、間違いないかと。ですが、その時点でまだ半分ほど入会希望者が残っていたと記憶していますが、18時までにすべての面談を済まされたんですか?」

 

「いや、俺が担当したのは八神が最後だった。残りは綾小路がやったはずだぜ」

 

「つまり君にアリバイはないということだ」

 

鬼龍院がすかさず事実を断定しにかかる。

 

「ま、残念だがそうなるな。あのあとは寮に帰ってそれっきりだ。それを証言できるやつもいない」

 

南雲の方も粘ることもなくあっさりと認めた。

突破口になるかと思われた提案が空振りに終わる。

だが、八神が目を付けていたのはアリバイの有無ではなかった。

 

「素朴な疑問ですが、今、南雲生徒会長に月曜のことをお尋ねした時に、回答までに少し時間がありましたよね」

 

「そりゃ、数日前のことをパッと思い出すのは難しいだろ。昨日の昼飯の記憶も怪しいぜ」

 

「しかも思い出された時刻も正確じゃなかった」

 

「何が言いたい?」

 

重ねて尋ねてくる八神に、わずかに苛立つ南雲。

捉え方によっては馬鹿にするような発言を、よりにもよって生徒会長に、遠慮なく投げかけてくる。

だからこそ、ここまで言うからには何かがあるのだろう、南雲は八神の意図を探るため、一度様子を見ることにした。

 

「学力Aの南雲生徒会長でもそうなんです。綾小路先輩が立花先輩に尋ねたときに、サッと答えられたことに違和感がありませんか?」

 

「立花が几帳面で時間にうるさいか、記憶力がいいか、かもしれない」

 

八神の問いに対し桐山がいち早くそんな意見を述べる。

 

「南雲生徒会長の進退次第では自分たちに報酬が入らなくなる可能性もある、それを気にもしていなかった人物が、ですか?」

 

「それは……」

 

ところが、八神はあっさりと否定し、桐山の言葉が詰まった。

 

「まるでその質問をされたらそう答えるようにと準備、あるいは指示をされていたようだと僕は感じました」

 

「そしてその時間は偶然にも俺にアリバイがない時間帯だったと。一気にきな臭くなってきたな」

 

その隙に八神は自分の考えを提示し、様子見に回っていた南雲がそれを後押しした。

 

もちろん、南雲が18時を指定して呼び出したから覚えていた可能性もあるはずだが、八神はあえて回りくどく紐解くような語りをすることで、その点に周りが気づきにくいように誘導していた。

 

「南雲生徒会長にお伺いしたいのですが、どうして面談を途中で中断して帰られたんですか?」

 

南雲が自分寄りになったことを感じ、話を振っていく八神。

 

「あの時は、確か桐山が後は綾小路に任せたらどうだって提案したんだったよな」

 

「ああ。さすがに30人全員をひとりで面談するのは大変だと思ったんだ。……いや、正直に言うと、南雲だけに入会者を決める権利が渡るのを危惧した。まさかこんなことになるとは……。すまなかったな、南雲」

 

桐山は建前だけでは信用してもらえない、そんな危機感を感じ、南雲本人の前だったが本音の一部を話すことにした。

 

「ま、最終的にその案を飲んだのは俺だ、気にすんな」

 

あっさりと謝罪を受け入れる南雲。

南雲にとってはそんなことは些事で重要なのはこの事件の解決にあった。

 

「ではここからが本題なのですが、元々この話は南雲生徒会長も立花先輩たちも正しいことを言っている、と仮定することはできないでしょうか」

 

いつの間にか、進行が八神主導になっている。

3年生に囲まれても物怖じしないどころか、飲み込む勢い。

 

「面白そうだな、続けてみろよ」

 

南雲はそのことに気が付いていたが、自身の潔白を証明するために利用できそうだとこの展開を享受する。

鬼龍院は誰が進行しようと真相以外は興味がなかった。

殿河と溝脇は相変わらず言葉を発しない。

 

「つまり、立花先輩は南雲生徒会長本人ではなく、第三者から南雲生徒会長の指示だと聞かされて従っていたからと考えると筋が通ります」

 

「確かにそれだと南雲がどうするつもりなのかはっきりわからないまま行動していたことも頷けるな」

 

不可解だった部分に理屈がはまっていく感覚を鬼龍院は感じていた。

 

「……八神は他に真犯人がいるって言いたいのか?」

 

桐山は慎重にそう尋ねた、いや、尋ねずにはいられなかった。

 

「はい。それも推理するのは難しくありません」

 

「ふむ、確かに立花たちが信じるだけの説得力を持たせれる人物は限られる」

 

「ええ。南雲先輩からの遣いだと言って疑われず、月曜日の18時に南雲先輩のアリバイがないことを知っていた人物、それは桐山先輩しかいないと思います」

 

ここで八神が核心を突いた。

悪戯に囃し立てるわけでもなく、冷たく言い放つわけでもなく、どちらかと言えば、残念そうな声色で。

 

「……飛躍しすぎだ。俺は南雲からAクラス行きのチケットの打診を受けている。ここで歯向かう意味がない。それに鬼龍院はBクラスの仲間だ。山中が失敗していなければ、クラスメイトを失うことになった」

 

もちろん、桐山もそんな意見を認めることはできない。

 

「失礼ですが、山中先輩が何かしてきたとして、鬼龍院先輩が対応できない可能性はどのくらいだと思いますか?」

 

「愚問だな。山中が何百、何千、何万回やろうとも成功することはない」

 

大袈裟な表現ではあったが誇張ではない。

山中が劣っているというよりは、鬼龍院がずば抜けている。

ここにいる3年は全員が鬼龍院と同じ意見を持っていた。

 

「つまり、成功した場合を考えるのはナンセンス。最初から、失敗して南雲先輩の差し金だと山中先輩の口から発覚することが犯人の狙いだったわけですから」

 

「そう考えると人選は完璧だな。ついでにさっきの桐山のように自分のクラスメイトが狙われたんだと無関係を主張できるわけだ」

 

南雲は八神をフォローして、真犯人を追い詰めることにした。

 

「18時のアリバイはどうする。俺はその時間、綾小路と一緒に面談をしていた」

 

「それを検証する必要はありません。18時に会ったと言うように指示したのであれば、実際に会って話した時間が同じとは限りませんから」

 

「だが――」

 

桐山の反論を遮る形で、八神が携帯の画面を全員に見えるように提示した。

画面はビデオ通話になっているようで、そこには宇都宮とその後ろに顔面にあざを作った立花が映し出されていた。

 

「宇都宮君にお願いして立花先輩のところに行ってもらっていました。今、誰から指示を受けたのか、直接聞ける状態ですが、どうしますか?」

 

「……その必要はない」

 

桐山が静かに述べた。

 

「と、言いますと?」

 

「立花たちに指示を出したのは俺だ。それを認める」

 

「そうですか……」

 

自分の憧れていた生徒会に所属する生徒の犯行だったことが残念だったのか、八神は事件を解決し南雲を救った功績ができたにもかかわらず、陰った声で桐山の発言を受け入れた。

 

「解せないな。君にこんな度胸があるとは信じられない。動機は何だ?」

 

鬼龍院は、桐山が自分と南雲を敵に回すような行動に出られる男だとは思っていなかった。

 

「ポイントの徴収だけではなく、チケットの話まで持ち出したことで、南雲は3年の戦いを完全に個人の実力至上主義の制度へと移行してしまった。もしこのまま黙っていれば、日を重ねるごとに取り返しがつかなくなっていく、だから決断したんだ」

 

「取り返し?お前はAクラスで卒業できるのに何の不満があったんだ?」

 

生徒会での活動の実績、自分には及ばなかったものの敵対クラス代表として最後まで健闘した桐山を評価して、南雲はAクラスへのチケットを贈ることを約束した。

だからこそ、この行動は理解ができなかった。

 

「……クラスメイトと一緒にAクラスに返り咲きたい、そう願うのは理解できないことか?俺が目指していたのは堀北先輩のクラスで支え合う姿勢だ。お前や鬼龍院のように個人主義にはなれない」

 

だが、桐山が語った理由は共感は出来ずとも理解はできた。

この一件は、卒業した堀北学を正しく崇拝していた桐山なりの最後の抵抗だった。

 

「作戦が成功していれば、南雲は退学。一時的に生徒会の評価も落ちるだろうが、綾小路さえいればいくらでも汚名は返上できる」

 

そして桐山には安心して後を託せる存在もいた。

 

「もちろん、迷いはあった。だが、最後の一押しになったのは、南雲から3年に新しく出た指示だ。それは1年の特定の生徒の動向を監視するものだった。俺たちの学年だけじゃ飽き足らず、1年まで狙い始めたことに危機感を覚えた。堀北先輩の守ってきた伝統が消え去る予感、1年生が自分たちと同じ目に合うかもしれない。こんな時、堀北先輩なら迷わず立ち向かったはずだ……そう思わされた」

 

俯き、震えながらも力強く想いを吐露した桐山の瞳から、一筋の涙が零れていく。

 

「正直驚いている。君にそこまでの気概があったとはな」

 

「だが、俺に牙を向けたんだ。覚悟は出来ているんだろうな」

 

「あぁ」

 

どんな想いがあったとしても罪は罪。

少なくとも桐山が語った堀北学であれば、南雲を止めるためにこんな手段は取らなかった。

だが、哀しいことに桐山にはこれくらいしか打てる手段、力がなかった。

だからこそ、どんな罰でも受けると桐山は決めていた。

 

「山中と立花は鬼龍院が気にしないなら厳重注意で済ませる」

 

「私はそれで構わない」

 

「桐山、お前の気概に免じて今回のことを学校へは報告しない。だが、当然チケットの件は白紙だ。そして、今日限りで生徒会を辞めてもらう」

 

「……わかった」

 

こうして無罪であることが確定した生徒会長の判決により、鬼龍院の事件に関する審議は幕を閉じた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

結局、結果は予想と変わらなかったか。

 

桐山は恐らくオレが真相に気がつくことを承知の上で犯行に及んだ。

人脈に乏しい鬼龍院が助けを求める相手はオレしかおらず、事件の真相を掴むのも、その審議の進行をするのもオレだと考えていたのだろう。

 

そして桐山の中でオレは南雲と敵対している堀北派ということで認識されている。

この件に便乗して犯人を南雲だと決定し、排除してしまうことを期待していたのかもしれない。

そこまでしなくとも、桐山が犯人と断定することは避けるはずだと思っていたのだろう。

 

桐山にとっては勝算のある戦いだった。

 

だから、オレは宝泉の動きを利用し、意図的にあの場を離れることにした。

 

理由は3つ。

一つ目は、こうすることで流れが変わる可能性があったからだ。

二つ目は、八神の優秀さを南雲にアピールできる機会になると踏んだからだ。

三つ目は、これから会う人物との話次第だな。

 

当初からあった数々の違和感。

オレ自身、この事件への解決に乗り気でなかったのは、誰かが作ったレールの上を走っている、そんな感覚があったから。

 

だが、本当にそんなことが可能なのだろうか。

できたとしても、なぜそんなことをしたのだろうか。

疑問は尽きない。

 

待ち合わせ場所は、櫛田(退学モード)のお気に入りスポットのひとつ、海沿いにあるベンチを指定した。

既に遅い時間ではあるが、ここなら人目につかないし、監視カメラもない。

 

それに顔を突き合わせるよりも、海でも眺めながらの方が、本音も話しやすくなるかもしれない。

そんな配慮をしてしまうほど色々なことに確信が持てないまま、答えを知っているであろう人物の元へゆっくりと足を運んでいった。

 

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