ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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お待たせしました。更新再開です。
気が付いたら11月は終わろうとしているし、原作2年生編が完結していました……。


ここから原作2年生編2巻の内容に入っていきます。
が、原作では一瞬で終わった5月の出来事をたくさん描く予定ですので、原作とも前回までの話とも温度差の激しい話がしばらく続きます。



集え!四天王

5月1日、特別試験の結果が発表された。

どのクラスからも退学者は出ず、安堵の声が教室を満たしていく中、教壇の茶柱先生が軽く咳込み生徒たちの注目を集める。

 

「今回の試験も見事だった。クラスでの勝利は言うまでもなく、1位になったペアは全教科満点という驚異的な成績を残した」

 

誰だ、テストでペア揃って全教科満点を取るなんて目立つことをするやつは。

 

「ランキング順に並べ替えればわかると思うが、『綾小路と天沢ペア』だ。おめでとう」

 

オレたちだった。

茶柱先生はクールを装おうとしているが、喜びが隠しきれておらず何とも歪な笑みを浮かべ拍手を送ってくる。

 

てっきり天沢は学力Aに相応しい点数を取ってくると考えていたんだが……。

今回のテストは一般生徒では満点を取れない難易度。

オレ達を除くと90点を超えたのは、坂柳の数学91点しかない。

こうなると、これまでの地盤があり『生徒会だから』で誤魔化せるオレと違い、天沢が悪目立ちすることは疑いようがない。

 

その証拠に、不気味スマイル茶柱ティーチャーとは違い、クラスメイトたちからは困惑に近い視線を送られている。

 

この結果は天沢にとってデメリットしかなさそうだが、どんな意図があるのか……。

開き直って、圧倒的な実力を誇示することで1年を掌握し、学年全体で勝負を仕掛けてくる――なんてことがないとも言い切れない。

オレはオレの考えで実力をセーブしているが、天沢にはそうする理由はないからな。

1年生全員が束になって勝負を仕掛けてきた場合、どう対処するか……。

 

「ねえ」

 

思考を巡らせていると隣の席の松下から話しかけられる。

 

「綾小路くんが満点なのはいまさら驚かないけどさ、ペアの子まで満点なのはどうして?」

 

「さぁ?天沢がテスト勉強を頑張ったんじゃないか」

 

すかさず探りを入れてきたか。

ここで間違っても『オレが勉強を教えた』といった嘘はつかない。

それならクラスのみんなに勉強を教えれば~という話になりかねないからだ。

 

「はぐらかすんだ。共有してくれれば、いざという時カバーしてあげられるんだけどねー」

 

好奇心……いや、もっと打算的な考えだろう。

 

「悪くない提案だが、正直今回ばかりはオレもよくわかってない。天沢が想像以上に勉強ができた、それ以上でもそれ以下でもない」

 

「はぁ……まだ信頼度が足りないってことにしておく。これ以上追及しないけど……困ったときは相談に乗るからさ」

 

「ああ、助かる」

 

松下は、堀北みたいにあらゆる手段で脅迫して来ない点は楽でいい。

その後、似たような問いを投げかけてきたクラスメイト達にも同じように対応し騒動になることはなかった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

放課後の生徒会。

直前に天沢と遭遇し、満点を取った意図は理解できたが、そのせいで少し気が重い。

こういう時は、お茶を飲んでリラックスするに限るな。

 

「今日はこれから茶道部の指導に行こうと思います。では」

 

業務が始まって間もないタイミングだったが、今のオレに必要なのは癒し。断じて労働ではない。

急務の案件もないため、オレ一人抜けたところで問題ないだろう。

 

「綾小路だけサボらせるのも癪だしな、今日は俺たちも解散するか。明日からのゴールデンウイークしっかり休んどけよ」

 

あらゆる反論への対処の準備は出来ていたのだが、あっさりと南雲から許可が出て解散となる。

退出の準備をしていると波多野が寄って来た。

 

「そういえば綾小路先輩、自分、気になっていることがあるんっすけど、あれから天さ――」

 

余計なことを口走りそうだったため瞬時に口を押さえ塞ぐ。

一之瀬や八神が何事だろうかと、こちらに注目する。

波多野をこのままここに置いておくのは危険だな。

 

「そうだ、人手が足りないんだった。波多野、八神、悪いが茶道部の手伝いにきてくれないか」

 

「構いませんよ」

 

「もごもごっす(もちろんっす)」

 

了承を得たところでひよりに連絡し、八神と波多野を連れて茶道室へと向かった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「今日は手伝いで生徒会の波多野と八神に来てもらった。みんなよろしく頼む」

 

「「「はーい」」」

 

「よよよよろしくっすです」「よろしくお願いします」

 

茶道部員たちに紹介すると、なんだか落ち着かない様子の波多野。

 

「女子ばっかりで緊張するっす……」

 

「波多野君は意識しすぎかと。同じ学び舎で過ごす仲間なんです。変に気にする方が失礼ですよ」

 

「八神くんは大人っすね」

 

「いえ、そんなことはありません。最近は自分の子供っぽい一面を発見してしまい驚いているくらいですから」

 

「そうは見えないっすけど……悩みは人それぞれっすもんね」

 

波多野が何やら納得し、落ち着いたところで、奥の棚を指差し、2人に指示を出す。

 

「さっそくだが、あっちの棚から茶碗と棗、茶杓を取って来てくれるか」

 

「わかりました」

 

まっすぐ棚に向かっていく八神。

対照的に波多野は申し訳なさそうにこちらへ問いかける。

 

「綾小路先輩、すみません。自分、不勉強で、茶碗以外、その……何を持ってくればいいかわからなかったっす。ナツメ?チャシャク?ってどんなのですっす?」

 

「……」

 

「いや、オレの説明不足だった。茶道未経験の高校生が道具の名称を知らないのは当然だ」

 

そう、波多野のリアクションは正しい。

 

「恥ずかしながら、実は僕も知ったかぶりをしてしまいました。波多野くんにはああ言ったのに、女性の目を気にしていたのは僕の方だったみたいです」

 

「八神も悪かったな。みーちゃん、2人と一緒に準備をお願いできるか?」

 

「うん、任せてください」

 

「女子を可愛いあだ名呼び!?綾小路先輩、ぱないっす。緊張してた自分、情けないっす」

 

波多野から尊敬の眼差しを向けられるが、みーちゃん呼びを改めて指摘されると、こちらまで恥ずかしくなる。

 

「綾小路先輩、茶碗、棗、茶杓持ってきたっす!次は何をしましょうか」

 

「ふふ、波多野くんは清隆くんが大好きなんですね」

 

ひよりは波多野から茶碗を受け取り、優しく微笑み、話しかける。

 

「はい、心の底から尊敬してるっす!いつもドキドキワクワクキラキラっす」

 

「お気持ちはわかります。綾小路くんは魅力的な方ですから。茶道の腕もすごいんですよ」

 

「楽しみっす」

 

「ひより、ハードルを上げるのはやめてくれ」

 

「どんなに高くても涼しい顔で跳び越えてしまうのが清隆くんですから」

 

「いや、上がりすぎたら潜って進ませてもらう」

 

「ふふふ、進めるのでしたら何も問題ないですね」

 

先程、波多野に向けた微笑みよりも少しいたずらっぽく笑うひより。

同じいたずらっぽさでも天沢のそれとはまったく違う印象を受けるのだから面白い。

 

「なんだかおふたりのやりとりエモいっす。はっ!?でも自分は天沢さんを応援――」

 

「波多野、茶道部のみんなが作った茶菓子は絶品だぞ。試食どうだ」

 

再び波多野が危険なことを口走ろうとしたため、近場にあった練り切りを瞬時に口へ詰め込んだ。

 

「もぐもぐっす(絶品っす)」

 

そんなこんなで油断ならない中、波多野と八神に手伝ってもらいながら、お茶を振る舞っていく。

 

「綾小路先輩、自分感激っす。感動体験っす」

 

お茶を口にすると、感涙にむせぶ姿のお手本のような反応を見せる波多野。

対して八神は静かに茶碗を回していた。

 

「それは何よりだ。八神はどうだ?大勢でお茶を飲むのも悪くはないと思わないか」

 

「ええ、賑やかでいいですね」

 

そう言って爽やかな笑顔をみせた。関心を持って観察していると、あることに気づく。

 

「そういえば朝比奈先輩たち3年がいないな」

 

今更だが、この場に真っ先にお茶に飛びつく存在がいない。

 

「なんでも3年生は急遽ゴールデンウィークに特別試験の実施が決まったそうで、その準備で忙しいみたいです」

 

「なるほど」

 

ひよりからの説明を受け、先ほど南雲があっさり解散した理由が判明した。

オレに対し嫌味を言っていたが、特別試験に向けて南雲たちも時間が欲しかったのだろう。

……生徒会すら認知していなかった突発の特別試験か。少し引っかかる部分はある。

 

「てっきりそのことをご存じで助っ人を連れてきてくださったのかと」

 

「悪い、ただの偶然だ」

 

「そうでしたか。でも賑やかになってこれはこれでよいのではないかと思います」

 

「そうだな」

 

「ただ……」

 

その後の言葉が続いてこなかったため、何事かとひよりの顔を見る。

ひよりは視線を下げたり、上げたりを繰り返しており、その様子を観察していたオレと目が合うと、慌てて視線を逸らし茶碗を持って、お茶をぐっと飲み干したかと思えば、こちらをみて口を開く。

 

「ところでゴールデンウィークと言えば、清隆くんはご予定お決まりですか?もしよろしければ一緒に図書――」

 

「清隆くん!!助けてくれないか!!」

 

ひよりが何か伝えようとしたタイミングで、茶室の引き戸が開き、焦った声でそう告げたのは――

 

「ひわぁぁ、ひ、平田くん!?」

 

突然の想い人の登場に驚いたみーちゃんは、持っていたお盆を茶菓子ごと宙に放り投げてしまうオーバーリアクションを見せる。

 

あわや大惨事かと思ったが、近くにいた八神がスーパーキャッチを見せ、周りからは拍手が起こった。

 

「それで、そんなに慌ててどうしたんだ」

 

額に汗を浮かべ、爽やかが代名詞の洋介にしては珍しく余裕がない。

 

「実はサッカー部の助っ人を生徒会にお願いしたいんだ」

 

「……なるほど、今年も来たか」

 

昨年の夏、食中毒で倒れたバスケ部の代わりに大会に出場したことを思い出す。

あの時の学たちの慣れた反応も今なら理解できる。

 

「大体の事情は予想できるが、詳しい話は生徒会室で聞かせてくれないか。連れ回す形になって悪いが、波多野、八神も同行してくれ」

 

「了解っす」「わかりました」

 

何事かと困惑している波多野と八神に声を掛け、退出の準備を始める。

幸い目的は達していたし、茶道部の活動を邪魔するわけにもいかない。

お盆で半分顔を隠しながら洋介を見つめているみーちゃんには悪いが場所を移すことにした。

 

「ひより、片付けまで手伝えなくてすまない」

 

「お気になさらず」

 

「また近いうちに顔を出す」

 

「はい。お待ちしてますね」

 

茶道部員たちに別れを告げ、4人で生徒会室へと足を進める。

 

「そう言えばよくここにいるってわかったな」

 

「ここに来る前に生徒会室に行ったら一之瀬さんしかいなくて。事情を説明したら直接清隆くんにって、茶道室にいることを教えてくれたんだ」

 

「……」

 

電話やメールなど連絡を取る手段は他にもあったはず。

頭を過ぎるのは、茶道部での活動を妨害するための刺客として洋介が一之瀬に利用されたという可能性。

……流石に考えすぎか。

例の一件以来、一之瀬の思考を読むのが難しくなってきた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「ひよりちゃん、どうしたんですか。むーっとしてますよ」

 

「えっ、あ、表情に出ていましたか?」

 

「うん」

 

「その……みーちゃんには大変申し訳ないのですが、彼はとても好ましくないタイミングで登場した、と考えてしまって」

 

「えーと?」

 

「いけませんね、ちょっと愚痴っぽくなってしまいました。もう大丈夫です。お茶の続きをいたしましょう」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「おかえり、綾小路くん。今年も出番みたいだね」

 

「ああ」

 

生徒会室に入ると、嬉々として一之瀬が出迎えてくれた。

各々着席したところで洋介に詳細の説明をお願いする。

 

「実は、明日からサッカー部はとある大会に出場予定だったんだけど、3年生の特別試験の日程と被ってしまって、このままだと人数不足で出場できないんだ」

 

理由は予想通りだが、こうなると学校側がわざわざサッカー部の試合と被せて特別試験の予定を入れたように思えてくる。

 

「それは気の毒ですが、今回は縁がなかったということで諦めるのも手なのでは?3年生抜きの急造チームで出場しても結果は見えていると思うのですが……」

 

八神がもっともな疑問を口にした。

まぁ3年どころか部員抜きで昨年のバスケは優勝してしまったわけだが……。

 

「この大会は、政府が今年から始めた特別な試合でね。僕たち高育生は政府側から招待された関係で出場しないわけにはいかないんだ」

 

「なるほど。事情も知らず出過ぎたことを言いました。すみません」

 

「ううん、こちらこそ最初にその点を伝えるべきだったよ。それで、こういう時は生徒会に助っ人をお願いするルールだと聞いてやってきたんだ。改めて、僕たちサッカー部を助けてくれないかな」

 

立ち上がり頭を下げる洋介。

正直きな臭い話ではあるが、生徒会として引き受けないわけにもいかない。

出場だけでいいなら波多野と八神を派遣して済ませてしまうか。

人数が足りないなら他に2名まで一般生徒から助っ人も呼べるしな。

 

「わかった。生徒会として引き受けさせてもらう」

 

「ありがとう、清隆くん」

 

「それでメンバーだが――」

 

「その前に、重要なことを伝えておきたいんだけどいいかな」

 

「ああ」

 

ささっと片付けてしまいたかったが、洋介が神妙な面持ちだったため、まずは話を聞くことにする。

 

「この大会、通常のサッカーと違って、男女混合ルールが採用されているんだ」

 

「え?女子も混ざってサッカーするんっすか?」

 

「うん。政府が男女平等社会をアピールするために企画したみたいで、試合に3名の女子選手を入れるルールになっているんだ。本来は3年生に頼んでいたんだけど、その人たちも参加できなくなっちゃったから……」

 

「これから少なくとも3名、参加してくれる女子を見つける必要があるってことか……」

 

洋介から詳しく話を聞くと、特別なルールとしては

 

・女子選手をフォワード(FW)、ミッドフィルダー(MF)、ディフェンダー(DF)で1名ずつ必ず出場させること※11名の出場選手の枠のうち、男子8名、女子3名という内訳になり、この比率を変更することはできない

 

・女子選手がゴールを決めた場合は3点加算される

 

・女子選手への男子選手からのファウルはペナルティが1段階重くなる(通常のファウルであればイエローカード、イエローカード相当であればレッドカード)

 

が主なところ。

女子選手をどう活かすかによって戦略が変わってきそうだな。

同性のみの試合とはまた違った面白さがありそうなルールではある。

 

「……とりあえず一人目は一之瀬で決定だな」

 

「ええっ!?私、球技はちょっと苦手……ううん、正直全然できないから無理だよ」

 

前回同様マネージャーをするつもりでいたのだろう。

どこから持ってきたのか、一之瀬の周りにはメガホンやテーピングテープなどが散乱していた。

 

「なんか意外っす。一之瀬先輩は何でもできる方ってイメージでしたっす」

 

「そんなことないよ。私は綾小路くんじゃないから」

 

「今回は出場することに意味がある。成績は気にしなくていいなら、問題ないんじゃないか。それに生徒会の女子は一之瀬だけだしな」

 

「そこまで言うんだったら綾小路くんも後輩任せにせず出場してくれるんだよね?」

 

「……」

 

なるほど。

辞退の姿勢や露骨なマネージャー道具はフェイク。

事前に女子選手の出場まで洋介から聞いていた一之瀬は、オレが後輩たちに押し付けることを読んでこの展開に持ち込んだ。

 

「え!?綾小路先輩は出ないつもりだったんっすか?」

 

「ごめん、正直に言うと生徒会というより、清隆くんを戦力として当てにしてた部分もあるんだ」

 

「僕も綾小路先輩の活躍を見てみたかったですね」

 

波多野、洋介、八神からの視線が痛い。

 

「わかった。生徒会1、2年は全員参加だ」

 

「やったっす」

 

ハイタッチする、波多野と一之瀬。

 

「そうと決まればメンバー集めだな。本来であれば生徒会以外からの助っ人は2名だけなんだが……」

 

「控えも考えると女子はあと3人、男子はあと2人は最低でもお願いしたいところだね」

 

「となると、学校側に助っ人増員の許可をもらうところからか」

 

校長の権限でどうにかなればいいが、そうでない場合、理事長――現在、代理の月城の元に向かう必要が出てくる。

 

よし、面倒事は八神に任せよう。

オレはこれから遠慮なく先輩の権力ってやつを行使させてもらう。

 

「八が――」

 

『2年Cクラス綾小路清隆くん、理事長代理がお呼びです。至急、理事長室までお越しください』

 

見計らったかのように校内アナウンスが流れる。

校内放送まで使い始めるとは、月城もなりふり構わなくなってきた。

いや、この学校の生徒はオレが理事長代理に個別に呼び出されても違和感なく受け入れる、ということをわかっているんだろう。

多少の無茶も受け流されるように作って来た土台を上手く利用されたな。

 

「……何でもない。ちょっと行ってくるが、ついでに理事長から助っ人の人数について許可をもらってくるつもりだ。洋介たちは助っ人の候補を考えておいてくれると助かる」

 

「うん」

 

一種の諦めにも似た感情を抱きながら、理事長室へ向かうこととなった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「失礼します」

 

「放課後にわざわざすみませんね。特別試験の満点を労おうかと思いまして。いやはや、あの程度の問題、あなたたちには朝飯前でしたか」

 

理事長室に入ると、月城は椅子に腰を掛けており、いつもと変わらぬ穏やかな表情を作って親し気に話しかけてきた。

 

「前置きは不要です。本来の用件はサッカー部の試合についてでしょう」

 

「少々露骨すぎましたか。ええ、ご明察の通りです。君のために次の勝負の舞台を用意させていただきました」

 

前回の刺客を当てる勝負での敗北など気にも止めていないというように得意げに語り始める。

向こうの現状をこの男の様子から見抜くのは難しいか。

 

「今回の大会で綾小路くんには、毎試合ハットトリックを決めて頂いた上で、サッカー部を優勝に導いていただきます。それができなければ自主退学ということで」

 

「ハットトリックはともかく、優勝とは随分な条件ですね。団体種目である以上、1人でできることに限りはあります」

 

「政府主催の大会で、政府管轄の我が校が情けない成績を残すわけにはいきませんから」

 

「そう思うなら3年の特別試験とバッティングさせるなんて嫌がらせをしないで欲しいんですが」

 

「むしろ、凡骨の3年生よりもあなたが出場する方が勝率は上がるのではないですか?」

 

「オレが最高傑作であるのはホワイトルームでの話。本気でサッカーに打ち込んでいる学生すべてに勝るなんて驕るつもりはありません」

 

その分野の天才が弛まぬ研鑽を積んでいれば、オレなど足元にも及ばないだろう。

ホワイトルームは人工的に天才を作り出す白い部屋であって、エゴなストライカーを育てる青い監獄ではない。

 

「私個人としてはあの施設で育ったあなたがどこまで通用するのか、興味深くはありますがね」

 

「やるからには勝たせてもらうつもりですが、人数不足では勝負を始めることもできません。そこは自由にさせてもらいますよ」

 

「それで構いません。ただし、緩和するのは人数だけです」

 

つまり部活動所属の生徒を助っ人にできないというルールはそのままということ。

自由にするという抽象的な言い方で誤魔化そうとしてみたが、小手先でどうこうできる相手ではないな。

須藤をはじめとした身体能力の高い運動部員をチームに入れることができれば少しは楽をできたかもしれなかったが仕方ない。

 

「わかりました。今回も、こちらが素直に勝負を受けるからにはそちらも不正はしない、という認識でいます。試合当日、出場メンバーが原因不明の体調不良で参加できなくなった場合など、何かしらの不正が見つかった場合は勝負無効ということで」

 

「それは逆もまた然りでしょう。スポーツ勝負なんです。お互いフェアにいこうではありませんか」

 

「なんとも似合わない台詞ですね」

 

「似合う似合わないの判断ができるほど私を見せた覚えはありませんよ」

 

これでサッカー部員の食事に毒を盛って勝負を流すような策はお互いに取れなくなった。あとは監督や審判の買収に気を付けるぐらいか。抗議の際に証拠を出せるよう念のため動画撮影の準備もしておくか。

 

「それでは時間も惜しいので失礼します」

 

「ええ。結果を楽しみに待っていますよ」

 

入室した時と変わらぬ表情の月城に見送られながら、理事長室を脱する。

 

面倒なことになったが、幸いサッカーには何度か触れてきたため、バスケのときのように試合中に調整する必要はない。

あとはどんな相手が来ても対応できるようメンバーにはこだわりたいところ……。

 

そうなると最初に誘うのはアイツしかいない。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「たしか401号室だったな」

 

寮の周囲を見渡し誰もいないことを確認してロビーへと進む。こそこそするのは性に合わないが、こればかりは他人に任せることはできない。

 

持ってきたカードキーをかざすと無事にロビー入口のセキュリティが解除され、中に入ることに成功した。

 

山……なんとかから買い取った綾小路の部屋の鍵。いまこそこれを使う時だ。

 

綾小路に関する噂――最近、彼女ができたがすぐに別れたらしい、というもの。

それが真実であるという決定的な証拠を押さえておきたい。本人に問いただしても、しらばっくれることは目に見えているからな。

その時に言い逃れできないような証拠を帆波の前で突きつける。

動揺するあいつらの様子が目に浮かぶ。

 

その隙を突けば次の特別試験でアイツを退学にすることも不可能じゃないし、傷心した帆波を俺のものにすることも叶うだろう。

 

今、綾小路は茶道部の活動中で自室にはいない。

交際の証拠を探しに突入するなら絶好のチャンスってわけさ。

 

リスクはあるがリターンも大きい。

軽くは期待していた1年共は綾小路の喉元にも届かないまま諦めムード。

結局、あいつを倒せるのは俺だけってことだ。

 

 

俺、南雲雅の生徒会の完成が見えてきた。

綾小路を退学させ、泣きついてきたところに、俺への服従を条件に報酬で得たプライベートポイントを使い救済してやる。

 

俺の理想とする個人の実力至上主義の学校は、俺の代で完成までいかなくとも、綾小路を使ってあいつの代まで時間をかければ確実なものとなる。

自分の目でそれを見届けられないのは残念ではあるが、些細なこと。未来の後輩たちからは学校を変えた歴代最高権力の生徒会長として、長い間、尊敬の念を集め続けることだろう。

そこまですれば、堀北先輩も超えたのだと胸を張って主張できる。

 

そして、来年、綾小路のやつにも堀北先輩と俺の(行く予定の)大学を受けさせれば、大学生活ではもっとデカイことができ、飽きないキャンパスライフを送れる。

綾小路の進路希望は知らないが、俺に負けたままじゃ不服だろう。

きっとこの提案に乗ってくる。

 

ワクワクが止まらねえな。

 

そんな未来図を描きながら、4階でエレベーターを降り、401号室の鍵をサッと解錠し、中へ入る。

 

「使用済みのゴムあたりが出てくりゃ一発なんだけどな」

 

そうでなくとも、交際相手が置いて行った持ち物などが見つかれば――そう思い、リビングのドアを開けた。

 

「……」

 

マジで1年間過ごしてきたのか疑いたくなるほど、物がない部屋を目の当たりにし言葉を失う。

最近まで彼女の部屋に荷物を移してそっちで暮らしていた、と言われた方がしっくりきそうだ。

 

……と思ったが、やけにキッチン周りだけは充実してるな。

食器類も一人暮らしにしては多くないか?

つまり、作っている、もしくは作ってもらう相手がいる(いた)、ということ。

 

ただ、決定的な証拠とは言えない。

ペアのマグカップぐらい置いとけよな。

 

別れていようが、裏で関係を続けていようが『交際は試験突破の作戦だった』と言い訳できないような証拠を見つけ出さなくてはいけない。

事実はどうでもいい。それをどう判断するかは外野なのだから。

 

この調子ならよく探せば他にも何か見つかる可能性はあると、殺風景なリビングに戻った。

先程は目立った変化のあるキッチンに目を奪われたが、よく見れば机の上にポツンと写真立てが飾ってある。

 

「女との写真か?」

 

仲良くツーショットの写真をわざわざ写真立てに入れてまで飾っていたのであれば、証拠として十分。

 

どんな写真が出てくるのかと期待に胸を膨らませ写真立てを手に取る。

 

「……チッ」

 

写真からは期待していたものとは全く違う顔が覗かせた。

堀北先輩たちと相変わらずの仏頂面で映る綾小路――橘先輩の送別会で撮った前生徒会役員の集合写真。

 

ほとんど物がない部屋に唯一飾ってあんのがこれかよ。

形容しがたい感情が湧いてくる。

 

「……萎えちまったな。今日は帰るか」

 

別に手間暇かけてこんな手を使う必要もないかと退出を決めた時だった。

 

鍵が開き、誰かが玄関に入って来た音がした。

 

綾小路がもう帰って来た?

いや、あり得ない。茶道室付近で張らせている手下から綾小路が退出したという連絡はない。

 

「あれ、今日は早いね。生徒会あるって言ってなかった?」

 

女の声。

例の元カノか?

別れたというのは周囲を騙すためのデマで実際は裏で交際を続けていた?

もしくは本命が別にいてそいつと上手くいったから前の女とは別れた?

 

いずれにせよ、動かぬ証拠からノコノコとやってきてくれたのは有難い。

……が、俺がここにいることの説明もできない。

隠れようにも玄関で靴を見られているため今更だ。

 

いくら積めば懐柔できる?恋人は裏切れないタイプか?

いや、交際を隠しているなら向こうの弱みを掴んだ点で言えば条件は同じ。

 

交渉の余地はある。

 

元カノはテストで満点を取る秀才らしいが1年女子に遅れは取らない。

生徒会長を舐めるなよ。

 

刹那の思考で方針をまとめ、堂々と構えて来訪者を待ち構える。

 

「え?」

 

「え?」

 

ドアから顔を出したのは、想定していた相手――噂の元カノ天沢ではなく、2年の櫛田桔梗だった。

本命別パターンの方だったかー、ちゃっかりしてやがんな、綾小路。

 

お互いに状況が掴めず、一瞬の沈黙が訪れる。

 

「えーと、南雲生徒会長は綾小路くんの部屋で何をなさっているんですか?」

 

「それは俺の台詞だぜ。男の部屋に買い物袋を提げて入って来るってのはどういう関係だ?ただのクラスメイトには見えないな」

 

お互いに下手な回答ができないため、先に相手の尻尾を掴むべく質問を投げかけあう。

 

再びの沈黙。

 

相手の思惑を先に看破すべく思考を巡らせる。

 

だが、この沈黙は想定外の形で破られた。

 

「せんぱーい。ご飯作ってー。試験の報酬でパーとやろうよー。今日は中華がいいなぁー。あれ、靴が多い?お客さん来てるのー?」

 

元気よくそんなことを言いながら玄関からリビングに入ってきたのは、今度こそ天沢一夏本人だった。

新旧で綾小路の女が揃うとか修羅場確定じゃねえか。

 

「……南雲生徒会長に、見知らぬ女?不法侵入!?警察呼ばなきゃ」

 

「はぁ?」

 

「まてまてまてまて」

 

携帯端末を取り出した天沢に慌てて待ったをかける。

櫛田の方はとんでもねえ形相で天沢を睨んでいた。

 

「俺はちょっと生徒会のことで用事があって、ここで待たせてもらってたんだ。不審者じゃない」

 

「私だって、綾小路くんが料理を教えて欲しいって言うからたまにこうして集まってるだけ」

 

「ふーん、ホントかなぁ。わざわざ自宅で生徒会の話ってのも怪しいし、綾小路先輩の料理の腕なら教わることなんてないと思うしぃ」

 

天沢は携帯から手を離さず、俺たちから一定の距離を取り警戒を緩めない。

軽率そうな外見とは裏腹に慎重なヤツだ。

 

「そういうアンタ……あなたは何なの、かな?ご飯作ってとか言ってたけど?」

 

俺の見間違いだったのか、先ほどの形相はどこかへ行っており、ニコニコしながら問いかける櫛田桔梗。

ただ、コイツは見た目通りの女ではないと、俺の直感が告げている。

 

「えー、何って言われてもなぁ。綾小路先輩とあたしは只ならぬ仲っていうか、元カレ元カノっていうか?」

 

おちょくるような態度でニタニタと煽り始める天沢。

こっちもこっちで、ろくでもない女なのではないかと俺の直感が告げる。

 

「……そんなこと綾小路くんから聞いたことないんだけど。妄想も大概にした方が良いんじゃないかな?」

 

「自分が秘密を教えてもらえるほど信用されてないからって、人のこと妄想扱いはヒドイと思うなぁ」

 

急に火花を散らし始めた2人。

元カノから交際の言質は取れたがそんなことは置いておいて、一刻も早く立ち去りたい気持ちしかない。

ったく痴情のもつれは面倒だぜ、ちゃんと手綱を握っとけよな、綾小路の野郎……。

 

どうにかこの2人を落ち着かせて、口止めをし、帰る方法を模索していた最中だった。

 

突然、ベランダでドンッと重々しい物音がした。

 

全員息を殺して、ゆっくりとそちらに注目する。

カーテン越しにゆらりと長髪をなびかせる女性らしきシルエットが浮かび上がった。

それがホラー映画の演出を彷彿とさせ、戦慄する俺たち。

 

「綾小路、すまないが窓を開けてくれないか。約束通り借りていたポイントを返しに来たぞ」

 

窓のノック音と、とてつもなく聞き覚えのある声が室内に届く。

怪しい影が人間であったことにほっとしたところだが、ここは4階、どうやってベランダに侵入したのかと別の恐怖心が芽生え始める。

 

「おい、いるのはわかっている。早く開けてくれ。これじゃ私が不審者みたいじゃないか」

 

「まごうことなき不審者だよな」

 

小声で投げかけた俺の問いに2人とも頷く。

共通の不審者が現れたことで、お互いを疑っている場合ではなくなった。

 

もちろん、向こうの要求に応えるつもりはない。

居留守で流せば、いずれ立ち去れるはず。

 

「やむを得ない。窓をたたき割るが、勘弁してくれよ」

 

「まてまてまてまて」

 

とんでもないことを言い出す不審院。

こいつがヤバい女であることは俺の直感を使うまでもなくわかる。

 

こっちはこっそり侵入してるのに、窓ガラスを割られれば全て水の泡。

この場の2人に口止めするだけではどうしようもなくなってしまう。

慌ててカーテンを開け、窓の鍵を解錠する。

 

「最初から素直に――おや?どういう状況だ」

 

「それはこっちの台詞だぜ」

 

窓から侵入してきた不審者のくせに堂々としているこの女、鬼龍院楓花はベランダで靴を脱ぎ綺麗に揃えて入室する。

 

「私はちょっと綾小路の驚く顔、いや、迷惑そうにする顔が見たいと思ってな。奇をてらってベランダから来訪してみたわけだ」

 

「……ちょっとこの先輩、色々大丈夫ですか?」

 

天沢が櫛田に耳打ちする声が大きく、俺たちにまで届いている。

 

「随分な物言いだが、キミたちこそ、家主不在で何をしていたんだ?南雲がいる以上、綾小路から許可を得て滞在しているとは思えないのだが」

 

「どういう意味だよ」

 

「私は許可をもらっています。この通り合鍵を託される仲ですので」

 

櫛田が鬼龍院に向け、カードキーを見せる。

……合鍵何枚あるんだよ、綾小路。まさか自分の女、全員に配るストロングスタイルか?

 

「ほう。信憑性がありそうだな。本人の許可なく勝手に合鍵など作れないだろうし」

 

「……」

 

鬼龍院の言葉を受け、櫛田はなぜかうんともすんとも言わなくなる。

 

「南雲は不審者でいいとして、そっちのキミはどうかな?申し開きはあるか?」

 

「おい」

 

「あたしは綾小路先輩がいつでもご飯作ってくれるっていうからサプライズで遊びに来ただけだよ。たまたま玄関が開いてたから入っただけで、そういう意味じゃ先輩と変わらないと思うんだけど」

 

「確かにそうだな。綾小路にサプライズを仕掛けて反応をみたいという気持ちは理解できる。では、3人で南雲を拘束し、警察に突き出すとするか」

 

「退学ぅっ!」「さんせーい!」

 

三方向から囲まれじりじりと距離を詰めてくる。この目はマジなヤツだ。

 

「まてまてまてまてまて」

 

さっきからこればっかだな俺。

こんな奴らと普段から接していて疲れないのかよ、綾小路。

くそ、なずなや帆波が恋しいぜ……。

 

「ここで会ったのも何かの縁だ。俺と取引しないか?」

 

だが、このぐらい窮地でも何でもない。

ここまでで得た情報をもとに、逆に利用してみせるのがこの学校のトップの器ってやつだ。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「Sorry,Brother」

 

「Oh...」

 

頼れるブラザー、アルベルトに今回も助っ人をお願いしたら、外せない予定があるらしく断られてしまった。

アルベルトのフィジカルなら攻守共に期待できたんだけどな。

 

こうなると人選が難しくなる。

基本的に身体能力が高い生徒は大抵部活動に入っており、助っ人の条件を満たさない。

 

 

だとしたら次に声を掛けるのは……。

 

 

「もちろん、喜んで協力させてもらう」

 

「助かる」

 

ケヤキモールのジムでバーベルを上げる男、葛城は快くOKしてくれた。

バスケの時と比べ、文字通り一回りも二回りも大きくなった葛城ならフィジカル面で遅れは取らないだろう。

 

「一応聞くが、高円寺もどうだ?」

 

葛城の隣でこれまた重そうなバーベルを持ち上げている高円寺にダメもとで聞いてみる。

ピアノ演奏やダンスと引き換えで協力してくれるなら、やぶさかではないが……。

 

「ふふふ、遠慮しておくよ。連休はデートの予定で埋まってるんでねえ」

 

「ま、そうだよな」

 

「パーフェクトな私を頼りたくなる気持ちは理解出来るけどねえ。葛城ボーイが行くなら問題ナッシングさ」

 

「ああ!期待に応えられるよう死力を尽くすつもりだ」

 

「それとこのことを坂柳には――」

 

「もちろん、わかっている」

 

坂柳に話せば絶対についてくると言い出す。

今回は運動のできない坂柳が来ても仕方がない。

それは葛城もわかっているようでお互いに目を合わせて頷いた。

 

何はともあれ、助っ人一人目として葛城を確保できた。

 

残る男子は……。

 

 

 

 

パッと思いつかなかったため、ひとまず洋介たちの待つ生徒会室に戻ることにした。






サブタイについて
何の四天王かと問われれば、『綾小路くんに構って欲しい四天王』とかでしょうか……。


サッカー部について
高育の部活事情を考え出すと謎が深まりキリがないので、置いておきたいと思います。
(平田くん以外、クラスにサッカー部いない?部活の総数に対して生徒数を考えると、11人そろえるのもきついのでは?などなど)
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