ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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圧倒的な差

 

「――ということで葛城が助っ人に加わってくれることになったんだが、男子残り一人のアテがない。洋介たちの方はどうだ?」

 

「うん、それなんだけどね……」

 

不安げな表情を見せる洋介。

 

「その……一之瀬さんがどうせなら戦力になる人がいいってことで推薦している人がいるんだけど」

 

男性陣の反応をみるにあまり気乗りしない人物のようだ。

 

「誰なんだ?」

 

一之瀬に尋ねる。

一之瀬が推薦するのであれば神崎あたりか。

ただそれなら男性陣の反応がここまで悪くはならないはず。

となると大穴で龍園だったりしてな。

 

「うん。宝泉くんがいいんじゃないかなって」

 

「……無謀過ぎないか?」

 

一之瀬の口から意外な名前が飛び出す。

確かに運動能力だけ見れば申し分ない人材ではある。

だが、チームプレーに不向きな性格に目を瞑ったとしても、先日叩きのめしたばかりの相手。

一之瀬は事情を知らないため仕方ないが、そもそも協力してくれるとは思えない。

 

「大丈夫だと思うよ」

 

「と言う感じで、一之瀬先輩は大変自信を持たれているため、僕たちも否定しづらくてですね……」

 

八神が一応のフォローを入れる。

波多野もうんうんと頷いていた。

 

「自分は無難に宇都宮君を推してるんっすけど」

 

「まぁ言動に問題はあるが戦力として期待できるのは間違いない。宝泉がダメなら宇都宮に聞いてみるって方向で行くか」

 

「了解っす」

 

「よし、さっそくみんなで――」

 

「大人数で行っても刺激しちゃうと思うから、綾小路くん、よろしくね!」

 

「……」

 

拒否したい気持ちでいっぱいだが、他のメンバーに宝泉の説得を任せるのは危険か。

試合前にケガされると困るしな……。

一之瀬の提案もそれを見越してのものだろう。

 

「大丈夫!今から綾小路くんには困った時の秘策を伝授するから」

 

どうやって調べたのか、一之瀬から宝泉の現在地を教えてもらい、仕方なくひとりで交渉に向かうことになった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「ふざけてんのか、パイセンよぉ」

 

「だよなー……」

 

想像以上でも以下でもない、まさに予想通りの反応を見せる宝泉。

言うまでもなく、ご機嫌斜め。

 

一之瀬ほどのコミュニケーションの達人なら説得できるのかもしれないが、オレだぞ?

 

「例えば活躍に応じてポイントを払う、という条件なら?」

 

「交渉の余地はねえよ。パイセンとやれんならともかく、同じチームとかクソだろ」

 

取り付く島もない。

半ば交渉を諦めつつも、せっかく託されたので一之瀬の秘策とやらを試すことにする。

これで何かが変わるとは思えないが……。

 

秘策を実行するため、携帯を取り出し、電話をかけるフリをする。

 

「すまない、一之瀬。お前を守ってくれるディフェンスの選手だが見つかりそうにない。え?だったら波多野でいい?だが、対戦相手にどんな屈強なヤツが現れるかわからないぞ。激しいチャージを受けたら波多野諸共吹っ飛ぶんじゃないか?……そうか、2人とも覚悟はできているんだな。なら、2人を信じて――」

 

宝泉に背を向け、ゆっくりと離れるように歩きながら続けていると、後ろから肩を掴まれた。

 

「おい。誰が引き受けねえって言った?喜べパイセン。無性にボールを蹴り飛ばしたくなったからよ。出てやる、その大会」

 

「……オレと同じチームはクソなんじゃなかったか?」

 

「ちょっとパイセンを困らせてみたかっただけだ。察しろ」

 

なぜだか急に掌を返しはじめた宝泉。

 

「ならあとは女子メンバーを探すだけだな。見つからなければ試合に出れないが、アテもない。どうするか……」

 

ボソッと宝泉にギリギリ聞こえるぐらいの声量で呟く。

 

「あ?女が足りねえだと。そんなくだらない理由で出場中止とか冗談じゃねえぞ。……適任が1人いる。連れて来てやるから、あとはどうにかしろよパイセン」

 

「それは助かるが……どういう風の吹き回しだ。やけに協力的だが」

 

「俺だって理由なく人助けはするさ。一日一善ってやつだ」

 

「……いい心がけなんじゃないか」

 

あんなに警告してもオレを退学しようと大胆な行動を取り続けていたヤツの台詞とは思えないな。

 

一之瀬の秘策のなにが宝泉の考えを変えたのか不明だが、宝泉に加え、女子選手を1名獲得できたことは大きい。

これであと1人、出場してくれる女子を見つければ試合に参加できる。

 

問題は誰を選ぶか。

愛里や波瑠加なら声を掛ければノーとは言わないだろう。

ただ、日頃のトレーニングで鍛えて体力、走力は上がっていても、ボールの扱いにはある程度の運動センスも必要になる。

戦力としては数えるには、少し不安が残るな。

 

かと言って小野寺などセンスのある女子は大抵部活動に所属している。

さらに、この無茶な話にゴールデンウイークを消費してまで付き合ってくれる存在となると候補は限られるだろう。

 

『ごめんねー、せんぱい。協力してあげたいけど、その……ね』

 

「いや、事情はわかる。無理言って悪かったな」

 

元カノに電話をかけてみたが駄目だった。

天沢なら戦力として十分すぎるぐらいだったが、月城が用意した勝負である以上、オレに手を貸すことはできない。

むしろ、チームに入った場合、月城からオレを妨害するよう命じられる可能性もあるため、無理に参加すると言ってこないのは天沢の配慮かもしれない。

 

刻一刻と時間は過ぎていく。えり好みをしている場合じゃないな。

運動ができ、連休の予定がなさそうで、交渉材料を用意できる人物のアテは1人しかいない。

 

「お断りよ」

 

「そこをなんとか。ボッチなんだ、ゴールデンウイークは暇だろ」

 

そう考えたオレは、やむなく最終手段として堀北の元を訪れていた。

 

「生憎ゴールデンウイークは勉強漬けの予定なの。次のテストではあなたに負けず満点を狙うつもりよ」

 

「殊勝な心掛けだが……大会での活躍はクラスのためにもなる」

 

「それは運動部に所属している生徒たちに期待すべきことで、一度きりの助っ人がもらえるポイントなんてたかが知れているわ。今後も役立つ学力を伸ばす方が合理的だと思うのだけれど?」

 

案の定、簡単にはイエスと言わない堀北だったが、次の言葉を聞けば態度は一変するだろう。

 

「そうか、残念だ。お前が学に会えるチャンスをみすみす逃すなんてな」

 

「……どういうことかしら?」

 

「大会に愛しの妹が出ていると知れば、学も会場まで応援に来ると思ったんだが……まぁ勉強の方が大事だという堀北の意見はもっともだ。学にはオレからよろしく伝えておくことにする」

 

「そ、そんな方便には騙されないわよ。大会に私が出ることを兄さんが知る方法なんてないもの」

 

「確かにお前が出る情報を掴むのは難しい。だが、大会に高育が出ること、そして生徒会が助っ人に来るかもしれないことは学なら気づけるはずだ」

 

「……根拠は?」

 

「今回の大会は政府主催で世間から注目されている。そこに政府管轄の高育生が招待されるという情報はマスコミにとってもおいしいネタのはずだ。間違いなくニュースになる。普段幅広くアンテナを張っている学ほどの男が見逃すとは思えない」

 

「ぐっ……一理あるわね。兄さんは勤勉ですもの」

 

「仮に学が応援に来た場合、試合会場にはオレしかいないことになる。つまり、学の大事な妹は別れの日にオレと仲良くするようにと託した兄の想いを無視している、と思うだろうな。だが何度も言うが学業を優先することは悪いことじゃない。学もわかってくれるだろう。じゃあオレは別のメンバーを探す必要があるからこれで失礼――」

 

「待ちなさい。勉強はいつでもどこでも試合中でもできるわ。兄さんとの時間はプライスレスよ」

 

きっとこういうのをチョロいって言うんだろう。

 

「そうか。堀北が活躍すれば学も大喜びだ。期待している」

 

「ええ。兄さんにかけて全力を尽くすわ。そうと決まったら早速練習ね、ちょっとグラウンドに行ってくる。待っててください、兄さん!!」

 

勢いよく走り去った堀北の走力は、試合でも活躍できるポテンシャルを感じさせた。

 

これで女子メンバーは一之瀬、宝泉の連れてくる助っ人、堀北で3人揃ったわけだが、怪我などのリスクを考慮すると交代要員を1人は用意しておきたい。

 

 

控えなら愛里と波瑠加でもいいかと思ったが、妙に一之瀬をライバル視しているような気がするからな、不要な衝突が生まれる可能性もある。

できればそういったしがらみのない人物を誘いたいが……。

 

「綾小路先輩、こんなところでユキ逢うなんて、偶然ですね」

 

「椿か、たしかに偶然だな」

 

堀北のいた寮を出て、思いつかなければ一之瀬に任せようと生徒会室を目指していたところ、コンビニを通り過ぎたあたりで1年の椿に話しかけられた。

行き逢うというよりは追いかけてきたようにも思えたが些細なことか。

 

「特別試験満点おめでとうございます。先ユキが明るいですね」

 

「……」

 

「でもなんかユキ悩んでます?よければどうぞ。疲れた頭には糖分って感じで」

 

差し出されたのは雪●だいふくの片割れ。

2個入りのもう一つはすでに椿の口の中のようだ。

 

「せっかくだが……」

 

「好きですよね?ユキ、見だい●く」

 

「あぁ」

 

遠慮しようとしたら無理やり渡された。

今日の椿には妙な圧があるな。

身体能力はD+だが、上級生に物怖じせずグイグイとくる姿勢は試合で役立つかもしれない。サッカーにはエゴが必要らしいからな。

 

「実は――」

 

ことの経緯を説明し、勧誘を試みる。

 

「校外に出て、サッカーの試合……」

 

「貴重な休みを削るしな、無理強いはしない」

 

少し悩んだあと、椿はじっとオレを見つめ、口を開く。

 

「ひとつ質問に答えてくれますか?」

 

「ああ、なんでも聞いてくれ。不明点は解消しておいた方が良い」

 

「綾小路先輩の好きな季節を教えてください」

 

「季節?それが参加するかどうかに関わるのか?」

 

「大いに」

 

「……そうだな。やっぱり桜の季節の春が好きだな」

 

特に季節にこだわりはない。

ただ、この質問の意図、限られた情報から正解を探してみた結果、春を告げる花として知られる『椿』、そして『桜子』といういかにもな名前。

そこから椿は『春』が好きで、それに同意してくれる相手かを見極めている、と推測してみた。

 

「……で、本当に好きな季節は?」

 

適当に合わせに行った考えを見透かされた?

椿は不満げに別の回答を求める。

 

「あー……読書が好きだから、あ――」

 

椿の目が細くなる。

どうやら秋というのもお気に召さないらしい。

 

「き、ではなく、長い休みがある夏――」

 

右手で目元を押さえ、俯く椿。

夏も違うようだ。

 

「――も暑くて微妙だから、やっぱり冬が一番だな」

 

殆ど言わされた回答を聞き、椿は満足そうに頷く。

 

「ですよね、わかってました。綾小路先輩は冬が好き、と。それで好きな理由は?」

 

質問に答えるのはひとつだけだろ、とは言えない雰囲気。

これにつきあってまで勧誘する程の相手ではないのだが、ここまでされると椿が何を求めているのか気になり始めていた。

 

「そうだな、冬と言えばやはり……」

 

「やはり?」

 

「こたつにみかん――」

 

「というよりも?」

 

「というよりも、クリスマスや年末年始のイベント――」

 

「も、楽しいけれど?」

 

「も楽しいけれど、何といっても雪がキレイで好きだな」

 

「私の顔をじっくりとみて、もう一回」

 

「雪がキレイで好きだな」

 

「よし。いただきました。いいよ、そのサッカーの試合、ユキます」

 

椿はポケットからボイスレコーダーを取り出し、録音を停止する。

今の会話に何の価値があったかは知らないが、流出して困るようなことは発言していないため、削除を求めるほどのことではないか。

だが、この一連の行動については聞いておきたい。

 

「……気になってたんだが、やたら『ゆき』を推してくるのは何なんだ?」

 

「気のせいじゃないですか?」

 

「そうか」

 

本人に話す気がないなら仕方がない。

この調子ならこの謎の絡みも続きそうだしな。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

翌日、早朝。

道具一式をサッカー部から借りたエナメルバックに詰め、なんだか運動部っぽいなと少しだけ感慨に浸りながら、集合場所の校門前を目指す。

ここから貸し切りバスに乗り込み、試合会場に向かうことになる。

 

校門前には、すでにサッカー部の1、2年生や生徒会の面々、助っ人たちが到着していたのだが……。

 

「なんでいるんだ?」

 

文字通り頭一つ抜けた存在が嫌でも目につき、指摘せずにはいられない。

そう、助っ人葛城の肩には当たり前のように坂柳が座っていた。

 

「幼馴染なら試合の応援に同行するのは当然のことです」

 

話が違うじゃないかと抗議の気持ちを込め、視線を葛城に向ける。

 

「ちゃんと綾小路に言われた通り、坂柳にも情報を共有させてもらった」

 

「……」

 

波多野と言い、葛城と言い、アイコンタクトが全く通じないのはオレのせいなのだろうか。……今度、表情筋のストレッチとか調べてみるか。

 

「冗談はさておき、今回の一件は経緯が経緯です。相手は学外に綾小路くんを連れ出すのが狙いかもしれません。警戒するなら、ベンチから広く状況を見渡せる目も必要でしょう。幸い、私であれば無理に試合に出されることもありません」

 

「何かあれば俺もすぐ駆けつける。綾小路は安心して試合に臨んでくれ」

 

「そう言われるとな……」

 

無下には出来なくなる。

役に立つのであれば断る理由はない。

 

「ベンチはまだ余裕があるはずです。悪いようにはいたしませんから」

 

「わかった。坂柳の方でも警戒してもらえると助かる」

 

「ええ。もちろんです、幼馴染ですから」

 

「じぃー……」

 

微笑む坂柳だったが、横から出てきた思わぬ来客に目を細める。

 

「あなたは確か、椿さんでしたか。何か御用でしょうか?」

 

「……いえ、そっちの先輩が、服の上からでもわかるくらい素晴らしく燃ユ、キん肉だと思っただけです。輝いてますね」

 

「フッ、中々見る目があるな。どれ」

 

椿の言葉に応え、サイドチェストを披露する葛城。

これで肩の坂柳が落下しないのは、どちらの体幹の賜物なのだろうか。

 

「おはようございます。綾小路先輩。今日はよろしくお願いします」

 

そんな馬鹿みたいな感想が頭をめぐり始める前に、後ろから声を掛けられたため振り返る。

丁寧に頭を下げて挨拶をしてきたのは、七瀬翼。

顔を合わせるのは、生徒会入会希望の面接以来か。

 

今日はよろしくとのことから、宝泉が勧誘したのは同じクラスの七瀬だったようだ。

確かに身体能力はB+と申し分ない。

 

「宝泉が誘ったのは七瀬だったか。色々と悪いな」

 

宝泉から勧誘されて断われる生徒は少ないだろう。

半ば強制的に連休を潰されて何も思わないわけがない。

 

「気になさらないでください。ボクにとってもいい機会だと思って参加を決めましたので」

 

「良い機会?」

 

「あ、ええ。……そもそも生徒会に入会できていれば、一緒に出場することになったんですよね?でしたら体験入会みたいなものだなと思いまして」

 

「なるほど。宝泉から無理やり連れて来られたわけじゃないならよかった」

 

「ひでえ言われようだな。文句があるなら直接聞いてやる」

 

どこからともなく現れた宝泉が肩を掴もうとしてきたので、軽く屈んで回避する。

突然の攻撃はともかく、ちゃんと時間通りにやってきたのは意外だな。

 

「いや人選に文句はない。七瀬が来てくれて頼もしいと思っている」

 

「だろ。なんて言っても、こいつの名前『翼』だぜ?サッカーやるしかねえだろ」

 

ニヤリと笑う宝泉。

 

「どういう意味ですか?」

 

七瀬にはその意図が伝わらず、不思議そうに首を傾げた。

 

「えっ!?そこの1年、翼って名前なのか?」

 

宝泉の発言を聞き、サッカー部、2年Bクラスの柴田が近づいてくる。

柴田の身体能力はA-の評価だが、足の速さならA+の須藤といい勝負ができる実力を持つ。本職のサッカーであれば活躍を期待できる。

 

「はい、そうです」

 

「じゃぁこの大会、女子のキャプテンは翼で決定!よろしくなっ」

 

「えっと、先輩方を差し置いてそんな大役は……」

 

「私は気にしないよ。みんなの士気が上がるならそれが一番だと思うし」

 

遠慮しようとする七瀬だったが、柴田の後からやってきた一之瀬に後押しされ、少し考えたのち「精一杯頑張ります!」と頷いた。

心なしか少し嬉しそうに見えたので、本人も満更ではなかったのかもしれない。

 

「宝泉くん、おはよう。手伝ってくれてありがとね」

 

「……お、ぉぅ」

 

一之瀬から声をかけられ、サッと目を逸らし、距離を取った宝泉。

 

なるほど、あの秘策でなぜ宝泉が承諾したか不明だったが、今の態度ではっきりした。

 

宝泉は、一之瀬に何らかの弱みを握られ脅されている状態、ということだろう。

以前までの一之瀬なら誰かの弱みを利用することはなかったが、ここ最近で変化を見せた。

一之瀬の持つ情報網があれば、弱みの入手も難しくはないだろうし、体育館倉庫での一件以来、宝泉が大人しかったことにも理由がつく。

宝泉の妨事の件、結局はオレが介入し解決したが、一之瀬の方でも解決できるように手を打っていたんだな。

 

「清隆くん、おはよう」

 

「おはよう洋介、それと堀北も」

 

続いて近寄ってきたのは、洋介と堀北。

直前まで人数確認を行っていたようで、手には名簿のようなものを持っている。

 

「一時はどうなるかと思ったけど、清隆くんたちが頼もしいメンバーを呼んでくれて心強いよ」

 

「何が何でも優勝する必要が出てきたからな。洋介も頼りにしている」

 

「綾小路くんも兄さんに優勝を届けたいのね。わかっているじゃない」

 

「……そういうことだ」

 

学が卒業して以降、どことなく元気のなかった堀北だが、今日は久々に燃えているな。

だが、学で釣ったのは諸刃の剣――このブラコンパワーを維持してもらうためにも、学が本当に試合の応援に来てくれればいいのだが……。

こんなに効くなら等身大学パネルを作製して、応援席にこっそり配置するぐらいしておくべきだったかもしれない。

 

出発時刻になり、全員大型バスに乗り込み試合会場を目指す。

会場は関東の外れにあるらしく、到着まで数時間かかるらしい。

 

バスの真ん中あたりの座席に位置取ったオレの隣には、作戦会議をしたいと洋介が座っている。

 

前方では一之瀬が運転手や監督とのやりとりを担っており、昨年の橘を彷彿とさせた。

そのサッカー部の監督は、中年の少し小太りした男性で、通路を挟んで一之瀬の反対側に座っている。洋介曰く、厳しい指導ではあるものの、的確な指示を出してくれる真面目な人物であるとのこと。

どこまで事情を把握しているか不明だったが、バスに乗り込んだ際に声を掛けられ、月城理事長代理からスタメンに必ずオレを入れるよう指示を受けている、と伝えてきた。

月城の『フェアに』という言葉は信用できないが、最低限度勝負を成立させるつもりはあるらしい。

 

その他、サッカー部の面々は主に前方に固まり、助っ人メンバーは後方に集まった。

 

こうなったきっかけは宝泉で、一番乗りでバスに乗り込み、後ろの5人ぐらい座れそうな席を独占した。だが誰も文句を言えず、サッカー部員は自然と距離を取った形。

 

わかってはいたがこの即席メンバーでのチームプレーは期待できそうにない。

 

「き、緊張するっす。うっ……ヤバいっす」

 

ここまで大人しいと思ったら波多野は車酔いというやつで体調不良の様子。

 

「おろろろろ」

 

「ちょっと大丈夫!?」

 

隣に座っていた椿が波多野の背中を擦っている。

なるほど、座席の後部の網ポケットに入っていた黒いビニール袋はああやって使うのか。

 

他に気になるのは、堀北と七瀬が一緒に座っていることか。

内容までは聞き取れないが、それなりに会話が続いている様子。

ほぼ初対面のはずだが堀北がちゃんと相手していることから、七瀬にも兄貴がいるか、デュエリストなのかもしれない。

 

「それで監督と相談して決めたスタメンとフォーメーションだけど、清隆くんはどう思う?」

 

「4-2-3-1システムか。思い切ったな」

 

女子選手の配置がルールで縛られるため、必然フォワードの1は女子となる。

そしてそのポジションには堀北が抜擢されていた。

 

「うん。下手にFWを増やしても、その人のマークが厳しくなるだけだから、ミッドフィルダーを増やして、的を絞らせず、堀北さんには隙をついてもらえたらと思って」

 

「なるほど」

 

FWを2人にした場合、主に男子側のマークが厳しくなり得点に絡むことができなくなる可能性がある。堀北がフリーになる機会が増えても、サッカーの実力は未知数であるため、そこに託すのはあまりにリスキー。

MFが積極的に攻撃に加わることでカバーする算段のようだ。

 

「左サイドは柴田くん。足の速さでカウンターも狙えるし、ドリブルで内側へも切り込めるから、攻撃の要だね。右サイドもサッカー部員。彼はセンタリングが武器だから柴田くんのマークがキツくなった時は彼にパスを出すのも手だと思う」

 

これまでの練習で培ってきた高育サッカー部の基本戦術とのこと。

 

「ボランチは僕と七瀬さん。清隆くんは、トップ下に入ってもらうから自由に動いて欲しい」

 

「わかった」

 

洋介の目に一切の迷いがなかったため、素直に承諾した。

オレとしても得点に絡みやすいポジションは有難い。

 

「DFは左右をサッカー部員で、真ん中に一之瀬さんと宝泉くん」

 

球技が苦手という一之瀬を周りでフォローする布陣か。宝泉も一之瀬が近場にいるならある程度は協力的になるかもしれない。

 

「ベンチは、葛城くん、八神くん、波多野くん、坂柳さん、椿さんだね」

 

戦略面から見て、スターティングメンバーに不満はない。

ただ――

 

「ひとつ注文がある。MFの右サイドは八神に任せてもらえないか?」

 

「八神くん?えっと、身体能力はCだけど……清隆くんが推薦するってことは、何か理由があるんだよね」

 

「生徒会の将来を考えて後輩にも経験を積ませておきたい。勝ち進んでからだと機会がなくなるかもしれないからな。もちろん、通用しないと思ったらすぐに替えてもらって構わない」

 

「なるほど。そういうことなら監督にも伝えておくよ」

 

「無理言って悪いな」

 

「ううん。清隆くんの後輩想いな一面が見れて、僕としては嬉しいよ」

 

洋介に誤解を与える結果となったが、オレもこの機会を利用させてもらうことにした。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「政府主催の割には小せえ会場だな」

 

宝泉は、会場に到着するや否や、辺りを見渡し悪態をつき始めた。

個人的には立派なものだと感じていたが、比較対象が学校のグラウンドしかないため、何とも言えないところ。

 

「まだ1回戦だからね。準決勝まで進めば国立のスタジアムで試合できるんだけど……」

 

そんな宝泉に対しても律儀に対応する洋介だったが、難しい表情をしていた。

 

「あ?情けねえツラだな。俺らじゃそこまでいけねーって言いたいのか?」

 

「もちろん、気持ちでは優勝したい。ただ現実問題として今回参加する学校は関東地区から選抜された強豪なんだ。特別枠の僕たちとは初めからレベルが違うんだよ」

 

「ハッ、安心しろよ。これまでサッカー部もたくさん潰してきた俺が出てやるんだ。優勝以外はありえねえ」

 

「あはは……それは頼もしい、ね……」

 

ボールでないものを蹴り飛ばしてきたであろう話に、流石の洋介も少し引いているご様子。

 

それにしても対戦校は関東の強豪か。

月城も大人気ない勝負を持ちかけたものだと思わずにはいられない。

 

「みんなー!対戦表をもらってきたよー」

 

出場の手続きから戻ってきた一之瀬が小走りでやってくる。

 

参加校は全15校。トーナメント方式で試合をし、順調に勝ち進めば、今日と明日で1、2回戦をここで実施し、明後日の準決勝、明々後日の決勝は国立のスタジアムで行う、計4試合。

 

ゲスト枠のオレたちが最後まで勝ち上れるとはどこのチームも考えていないだろうが、月城の勝負の関係で、優勝できなければオレは退学になる。

また、例え試合に勝ったとしても、ハットトリックを決められなかった場合も同様に退学。

 

馬鹿げた条件ではあるが、焦りはない。

むしろ、まだ見ぬ高校生たちがどんなパフォーマンスを見せるのか、楽しみですらあった。

 

「げっ、マジかよ」

 

洋介の持つトーナメント表を覗き込んだ柴田がぼやく。

 

「どうしたんだ?」

 

「1回戦の相手、去年対戦して負けてんだよ」

 

「なるほど……。どんなチームなんだ?」

 

「なんていうか、圧倒的に強いっていうわけじゃないんだよ。途中までは勝ってたしさ。けど、向こうには運命力ってのがあるんじゃないかってぐらい、劇的な逆転を喰らったんだよな……」

 

「運命力?」

 

柴田の説明ではよくわからず、洋介を見る。

 

「うん、彼ら公立飛跳(ひちょう)学園高等学校――通称ジャンプ学園のサッカー部は昨年創部されたんだけど、それ以来、数々の大会でベスト4に入り続けた、今最も注目を浴びてる成長株、高校サッカー界のダークホースなんだ」

 

熱く語り出す洋介。

サッカーのことになるとこんな感じなのか。

 

「昨年ですらあの強さ、今年どれだけ強くなっているのか、僕には想像もできないよ」

 

今回、女子選手が入った変則ルールとは言え、サッカー部が一度負けた相手、1回戦から油断はできそうにないな。

 

と、そんな時だった。

 

「あれ?誰かと思えば高育の皆さんじゃないですか」

 

反対側の道から歩いてきた団体から1人飛び出し、洋介に負けず劣らずの爽やかな雰囲気の男子高校生が話しかけてきた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

俺の名前は、主人 公(おもびと こう)

サッカー大好き、ボールは友達な高校2年生だ。

 

物心ついたときからサッカーボールと触れ合い、楽しい時も辛い時も共に成長してきた。

幼稚園、小学校、中学校と順風満帆にサッカー人生を歩み続けてきた俺だったが、飛跳学園に進学した途端、大ピンチに。

なんと、この高校、サッカー部がなかったんだ。

 

でもそのぐらいじゃ諦めない!

そこから俺のサッカー部を作る物語が始まった。

 

最初に声を掛けたのはクラスメイトの相棒 眼鏡(そうぼう めがね)くんは、練習熱心で良いヤツだけどサッカーの才能は全くだった。そのことを周りから馬鹿にされ、落ち込み、漫研に入ろうとしていたところを説得し、長所を一緒に見つけ伸ばしたことで、眼鏡くんは生まれ変わった。データ分析から未来を予測する彼の守備には何度も助けられている。

 

次に仲間入りしたメンバーは、中学までジュニアユースで活躍していた有名選手だったけど、ハードワークが原因のケガをきっかけに何だかんだあって不良になってしまった屋見越智 漸刹(やみおち ざせつ)。豪雨の中、川辺で殴り合った結果、お互いのサッカーにかける熱い想いを分かり合うことができた。今ではエースストライカーとしてその攻撃性を活かしてくれている。

 

3人目の仲間はGKの芽蛇亜 野五朗(めじゃあ のごろう)先輩だ。プロサッカー選手のお父さんを幼少期に亡くした過去を持つけど、それにも負けずクラブチームで無失点記録を更新し続けていた実力者。だけど必殺技の開発中に両手を負傷してボールを持てなくなってしまったんだ。それでも諦めなかった野五朗先輩は俺たちと共に厳しい特訓をして、両足でボールをキャッチする技術を身につけて仲間入りしてくれた。相変わらず手は使えないけど、足とセンスでカバーするチームの守護神だ。

 

他にも難病で10分しか試合に出れなかった山井 冨士乃(やまい ふじの)くんのためにクラウドファンディングで資金を募り高額な手術費用を捻出したり、家庭の事情でバイトをするためサッカーを辞めてしまった加瀬賀 騎士(かせが ないと)先輩を救うべくチームみんなで新聞配達を始め、親の都合で遠くに引っ越さなくちゃいけなくなった多井 典弘(おおい てんこう)を我が家に下宿させたり……そして今年はドイツからの帰国子女で自宅から徒歩で通えるって理由で名だたる強豪校の誘いを蹴って飛跳学園に来たスペシャルルーキー存南 アルカ(そんなん あるか)くんも入部してくれた。

 

今回特別参加の女子選手だってすごいんだ。

女子サッカー部がなかったから仕方なくマネージャーをしていた女子サッカーの期待の星、西京 実葉(さいきょう じつは)さんが出場してくれるし、最近、生き別れた双子の妹主人 公女(おもびと きみめ)が見つかって公女もサッカー人生を歩んできたってわかったときは嬉しかった。でも、なにより驚いたのは、小さい頃から一緒にサッカーをしてきた幼馴染弾倉 バレル(だんそう ばれる)が実は男装していた女の子だったことを告白されたとき。あの時はもう一緒に試合に出れないんだってお互いに悲しんだけど、今日は特別だ。また同じフィールドに立てて何よりも心強いよ!

 

監督は元プロ選手で、現役時代、球界の闇に立ち向かったことでサッカー界から名を消された男。名前はなくともその闘志は消えてなくって、球界への反撃のため俺たちに力を貸してくれている。

 

こうして作り上げたドリームチームの絆は日本、いや世界一だ!どんなチームにも負けるはずがない!!

 

例え相手が、政府の運営する全国から選び抜かれた高校生が集う学校、高度育成高等学校でも関係ない。

 

「今日は俺たちの全てをぶつけるつもりだ。よろしくね」

 

「うん、こちらこそ」

 

偶然見かけた対戦相手、高育の平田洋介くんと握手を交わす。

一回戦で当たるとは思ってなかったけど、高育選手のデータは眼鏡くんが集めてくれて、みんな頭に入っているし、シミュレーションもバッチリだ。

要注意なのは、平田くんからの柴田くんへのパス。足の速い柴田くんに合わせた正確なパスでのカウンターには去年苦しめられた。

もちろん、その対策も十分できている。

でも、今日は見たことのない選手が多く、これまでのレギュラー選手が少ないような……いいや、大丈夫。

 

どんな選手が来ようとも、俺たちは俺たちのサッカーを楽しんで優勝するだけだ!

 

努力!友情!勝利!

行くぞ!ジャン学イレブン!!!

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「それで洋介、2回戦の相手だが……ん?どうした?」

 

「え?あ、ごめん。あまりに、その、ね……」

 

「あー……」

 

洋介が放心するのも無理はないか。

1回戦は21対0で勝たせてもらった。

早々にハットトリックを決めた後は体力温存のため適当に流そうかと思っていたのだが、戦意を喪失し始めていた相手に容赦なく堀北と七瀬が攻め続け、コールドがないことが気の毒な結果に。

 

「綾小路ハンパないって。あー、あいつ半端ないって!アンクルブレイクでめっちゃ転ばしてくるもん!そんなんできないじゃん、普通……そんなのできる!?言っといてよ!できるんだったら……」

 

遠くから、試合前に洋介と握手していた対戦相手の泣きじゃくる声が聞こえてくる。爽やかさは見る影もなくなっていた。

 

「……次の対戦相手にはあらかじめ伝えておいた方がいいか?」

 

「いや、気にする必要はないよ。それで話の続きだけど……」

 

「あぁ、明日の対戦相手、このシード枠の『ネームスパイダーズ』って言うのは、どんなチームなんだ?」

 

他は高校名であるのに対し、明らかに異質な存在。

 

「ごめん、このチームに関してわかることはないんだ。僕たち同様に、特別招待枠みたいなんだけど、こんなチーム名、聞いたことがなくて……この大会のために作られたチームなんじゃないかな」

 

「なるほど。しかも唯一のシード校ってことは、よほど特別なんだろうな」

 

「うん。そう考えておいた方がよさそうだね。シード校だから1回戦のデータもないし、すべてが未知数だよ」

 

「わかるのはチーム名だけじゃ、どうしようもないな」

 

「でも、わざわざ『ネームスパイダーズ』ってつけたからには意味があるのかもしれないね」

 

「確かにな……蜘蛛好きの集まりってわけじゃないよな」

 

「蜘蛛の糸を張り巡らせるようなカウンターが得意とか?」

 

「まぁ明日対戦すればわかる話だ。それで大会期間は宿に泊まるって話だが」

 

考えても仕方がないことに時間を費やすよりも、明日以降のために休んでおくべきだろう。

 

「うん。高育選手がしっかり実力を発揮できるように、近くの旅館を予約してあるって話だよ。そろそろ迎えのバスが来るんじゃないかな」

 

「さすが招待校は違うな」

 

程なくしてやってきたバスに乗り込み、全員で旅館に向かった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「俺の布団は一番奥な。言っとくが半径2メートル以内には他の布団を置くなよ」

 

「宝泉くん、ここは先輩方の希望を優先すべきでは」

 

「優等生ちゃんは黙ってろよ八神。俺は寝たい場所で寝る」

 

「……先輩方を困らせてしまったようで。宝泉くんに代わって謝罪します……せめて僕は余った場所で構いません」

 

「自分もどこでも大丈夫っす。修学旅行みたいでワクワクするっすね。枕とか投げていいんっスよね!?こ、恋バナも興味あるっす」

 

部屋に入るなり、せわしない1年助っ人チーム。

 

「……こうなるかぁ」

 

割り振られた部屋のメンバーは、葛城、八神、波多野、そして宝泉。

 

「ごめんね。学年ごとに部屋を取ってて、その、助っ人のみんなは3年生が泊まる予定だった部屋しかなくて」

 

申し訳なさそうに謝罪する洋介。

 

「いや、仕方ない。幸い知らない相手でもない。こっちは洋介も気にせず自室で休んでくれ」

 

「そう言ってもらえるとありがたいけど……」

 

まだ心配そうな顔をしていた洋介に無茶苦茶なのは高円寺で慣れているから大丈夫だと告げ、自分の部屋へと送りだした。

 

「そういえば葛城先輩はどちらに?」

 

「ああ。あいつは坂柳の車だからな。寝る時以外は坂柳のいる部屋の前の廊下に停車中だと思うぞ」

 

「えーと、おっしゃっている意味がよくわからないのは僕だけですか」

 

「そのうち慣れる」

 

「はぁ……」

 

普通の男子が女子の部屋の前で待機していたら問題になりそうだが、葛城であれば、女子部屋の警備員として重宝されるだろう。

あんなマッチョが立っている部屋に近づこうと思う輩は現れないだろう。

 

「どうでもいいけどよ、風呂行こうぜ、パイセン」

 

「確かに試合でかいた汗を流したい気持ちではあるが……」

 

宝泉から誘われるのは意外というか、裏があるとしか思えない。

 

「なんだよ、後輩として背中ぐらい流してやろうって話だ。アンタには世話になったしな、礼だよ、礼」

 

こちらが怪しんでいることを察した宝泉がフォロー入れてくるが、ますます怪しくなっただけ。

 

「お礼参りって意味にしか聞こえないんだが」

 

「安心してください、僕たちも一緒に行きますから、宝泉くんも変なことはできないはずです。構いませんよね?」

 

「好きにしろ。俺はパイセンと一緒に風呂に入りたいだけだ。他はどうでもいい」

 

オレが黙っていると八神が間に入って執り成す。

 

「湯船に浸かってかつての敵と絆を深める、熱いイベントっすね!自分、感激っす」

 

「いいから行くぞ」

 

半ば強引に宝泉に押し切られ、4人で旅館の温泉施設を尋ねることとなった。

 

「結構広いじゃねえか。こりゃいいぜ。早く入って来いよ、綾小路パイセン」

 

「なんでそんなに積極的なんだ?」

 

「変な勘違いはするなよ」

 

「勘違い?」

 

「まあいい。おい、波多野。漢らしさってどこで決まるかわかるか?」

 

「へ?そうっすね……やっぱり生き様じゃないっすか?」

 

「くだらねえな。漢はよぉ、ここのデカさだろっ」

 

そう言うなり、宝泉は波多野が腰に巻いていたタオルをはぎ取る。

 

「っっす!?!?」

 

慌てて前を隠した波多野だったが、波多野の波多野を確認した宝泉は笑う。

 

「はっ、見た目通りの小動物だぜ」

 

顔を真っ赤にする波多野だったが、逃げずに宝泉へと向き合った。

 

「だ、だったら宝泉くんはどうなんっすか?」

 

そのセリフを待っていたと言わんばかりの宝泉。

ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、堂々とタオルを外す。

 

「で、でかすぎるっす……。絶望のはじまりっす」

 

露になった宝泉のイチモツを見た波多野は、力が抜けたようにその場にぺたりと座り込み、うなだれる。

 

混合合宿の時も思ったが、男子高校生はこの比較に興味関心を抱いているらしい。

基本的に生殖に問題がなければサイズはどうでもいいんじゃないだろうかと考えているのだが……。

ましては漢らしさを測る指標になるとは思えない。

 

「んじゃ、次はパイセンの番な」

 

「こんなことをしても虚しいだけだぞ?」

 

「んなことはねえよ。副会長さんの立派なもんを見せてくれよ。俺らより1年も年上なんだ、さぞ成長してるんだろうな」

 

「この歳でそこまで変わることはないと思うが……」

 

どうやら宝泉の狙いは最初からこれだったようだ。

自分の自信のあるジャンルで勝負を仕掛けてきたわけか。

 

「綾小路先輩、仇をとって欲しいっすけど……さすがに相手が悪すぎるっす。逃げてくださいっす。あれはアナコンダっす。いや、バジリスクとか、その手の怪物っす」

 

「逃がすわけねえだろ」

 

波多野にしたようにオレの腰のタオルを狙ってくる宝泉。

比較自体はどうでも良かったが、反射で避けてしまう。

 

回避できたと思ったその時だった。

背中に冷水が掛かり、反射的に身体が硬直する。

 

「あ、すみません。シャワーヘッドが変な方向を向いていたみたいです」

 

この茶番に加わらずしれっと距離を取って髪を洗っていた八神が謝罪してくる。

 

その隙にオレのタオルに宝泉の指が届いた。

 

「パイセンのパイセン、披露だぜ」

 

だが、勢いよく手を引きタオルをはぎ取った宝泉が面白おかしそうにしていたのは、この瞬間までだった。

 

「っ!?」「っっす!?」

 

宝泉も波多野も微動だにしない。

後方ではシャワーを落としたような音が聞こえてきた。

 

「……俺も疲れてんな、Tレックスの幻が見えた。今日はこの辺にしといてやるよ」

 

とぼとぼと湯船に向かう宝泉。

 

「はっ!?自分はナニを……。いつのまにか温泉に来てるっす」

 

波多野はここ数分の記憶を失ったようだった。

 

「……これが……く、くそ。僕じゃ相手にすらならないってことですか」

 

八神は何かぶつくさ言っているが、流しっぱなしの転がったシャワーの音が邪魔をして聞き取れなかった。

 

やはりここのサイズを比べることほど、虚しいものはないな。

 

 

こうしてオレたちのゴールデンウイーク1日目は静かに幕を閉じた。

 

 

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