ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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2025年初更新。本年もよろしくお願いいたします。


正しい判定

サッカーの第2試合。

対戦相手は月城の用意した3年生を中心としたチーム。

お互いに退学のかかった勝負がこれから始まろうとしていた。

 

スタジアムは昨日よりも多くの観客で賑わいを見せている。

満席とはいかないが7~8割は埋まっているように見えた。

 

「あのジャン学を倒したから注目されてんだろうな。なんかスカウトっぽいヤツもいるし、燃えてきたァ」

 

と話すのは、キックオフのため一緒にセンターサークル内で待機中の園田。

Aクラス卒業を目指すなら、スカウトはどうでもいいんじゃないか?というのは野暮な問いだろう。可能性を広げられるならそれに越したことはない。

 

センターマークにボールが置かれ、程なくしてホイッスルが鳴り、試合開始を告げる。

 

「かませ、綾小路ッ!」

 

園田からパスを受け、ドリブルで敵陣に切り込む。

 

「綾小路くーん、幼馴染が応援しているんです。そのままゴールを決めてきてくださいますよねー」

 

「綾小路せんぱーい、偽幼馴染の言うことは放っておいて、ちゃんと先輩を応援してる人はいますよー。ユーキ(勇気)を胸に頑張ってくださーい」

 

ベンチから坂柳と椿の声援(?)が聞こえてくる。

一瞬視線を向けてみたが、あの2人、なぜか睨み合ってないか?

 

「簡単に行かせるかよ」

 

「早速お出ましですか」

 

そんなことを気にする間もなく、こちらのボールを奪おうと目の前に南雲が立ち塞がった。

お約束のアンクルブレイクでも――。

 

「無駄だぜ」

 

そんな南雲の声と同タイミングで南雲の後ろに現れ、構えているのは桐山。

アンクルブレイクを決めるためにはフェイントと切り返しで相手の態勢が崩れるようにコントロールする必要がある。

その際、相手がボールに注目しているならボールを使って、オレに注目しているなら身体の動きで翻弄するわけだが……。

 

「なるほど」

 

見たところ南雲がボールを、桐山がオレの動きを別々にマークすることで、2人同時に転倒することを防いでいる。

無理に突破することもできるが、その分こちらの隙も大きくなる。

そこを天沢あたりに狙われる可能性があるため、いったん動きを止め、足元でボールをキープする。

 

「お前には散々転ばされたからな。対策は万全さ。今日はゼロ転び確定だぜ、悔しいだろ?」

 

方針を変え、南雲だけでもひと転びさせておくか?いや、これは陽動だろう。

わざわざ安い挑発にのって南雲の策を披露させる必要もない。

 

「うりゃぁぁぁぁー」

 

こちらが膠着状態であると見るや否や、サッカー部の3年が右前方からスライディングでボールを狙ってくる。

 

左へ躱せばすぐさま南雲&桐山がプレスをかけてくる位置。

ボールを後方に引き、後退することでスライディングを避ける選択を――。

 

「読んでいたぞ、綾小路ッ」

 

すると、どこから現れたのか、後方から鬼龍院が迫ってくる気配がする。

四方を囲まれた形になり、逃げ道を塞がれた。パスコースもない。

 

「これならお前でも――」

 

右足で引いたボールを足の甲で地面に叩きつけ、バウンドで宙高く浮かせる。

 

それに合わせて跳ぶことでスライディングを回避。

前後から南雲と桐山、鬼龍院がプレスに来るがもう遅い。

 

この高さであればパスカットはできない。そのまま空中で身体を捻り、回転を利用して右足でボールを蹴り出し、左サイドを走り抜けていた柴田へロングパスを出す。

 

オレに4人もマークを付けたことでこちらにはフリーの選手が多い。

このパスが通れば一気にゴールチャンスが生まれ――。

 

「きゃっ」

 

着地と同時に左手にほどよい弾力を感じる……ん、ほどよい弾力?

 

ピーッと審判が笛を吹く。

 

「綾小路選手、過度な接触によりイエローカード」

 

「は?」

 

見れば天沢が胸部を両手で隠しながら赤面し地面に倒れていた。

 

「せんぱぃってだいた~ん。続きはヨリを戻してからだよ?」

 

オレの動きを予測し、着地地点でわざと接触するように移動したわけか。

南雲や鬼龍院たちで気を引き、ギリギリまで存在を感じさせなかったのは流石と言ったところ。

 

男子選手の女子選手への接触は反則になりやすいルールをうまく利用してきたな。

 

実に厄介な策だ。なぜなら――。

 

「やはり綾小路先輩は邪悪で薄汚く節操のない人……?」

 

近寄って来た七瀬を始め、女性陣からの視線が痛い。

あえて胸部への接触を選ぶことでチームへの精神的ダメージまで狙ってくるとは……。

 

「七瀬、誤解しないで欲しい。今のは意図的なものだ」

 

「自ら天沢さんの胸を触りに行ったという自白でしょうか?」

 

「そうじゃない。天沢の戦略が一枚上手だったって話だ」

 

「……そういうことにしておきます」

 

「同じような技を受けると退場になる。悪いが天沢をできるだけマークしておいて欲しい」

 

「わかりました」

 

女子選手との距離を取る必要が出てくるが、天沢や鬼龍院をフリーにするのは危険。

ダメもとで七瀬にお願いしてみたが、直前までの不信感などなかったかのように素直に頷いてくれた。

 

ナグモンズのフリーキックから試合が再開する。

 

「おらよ」

 

南雲のロングパスが鬼龍院へと繋がる。

 

「悪くないパスだ。このまま決めさせてもらう」

 

ドリブルしながら加速していく鬼龍院。

 

「簡単には抜かせない」

 

園田が鬼龍院に並び競り合う。足が速い、というのは本当だったようだ。

 

「こっちだ、鬼龍院」

 

「今のキミになら任せてみてもいいか」

 

鬼龍院はフォローに来た桐山へ向け、高めのボールを蹴り出す。

 

「うおぉぉぉー」

 

らしくなく雄たけびを上げた桐山は地面を蹴りあげる。

桐山には葛城がマークしていたが、一足早くジャンプしたことで空中戦で葛城に競り勝ってみせた。

 

そのままヘディングでボールを前方に転がし、走り込んでいた鬼龍院にボールを戻す。

 

「坊主にしたおかげでヘディングがしやすい。俺はこのために髪を剃ったのかもな。お前もそうだろ、葛城」

 

「……桐山先輩、すみません。あなたも立派な生徒会役員だったのだと今認識を改めました。次は負けません」

 

息の合ったワンツーで園田、葛城をあっという間に抜き去り、一気にペナルティエリアの近くまで進んでいく鬼龍院。

 

「あわわわ。い、意地でも止めるっす」

 

足を震わせながらも精一杯両手を広げる波多野。

 

任命したオレが言うのもなんだが、シュートを撃たれれば、ほぼ間違いなく決まるだろう。

 

「撃たせません」

 

シュートコースを塞ぐように一之瀬がゴールと鬼龍院の間に割って入る。

 

「壁にもならんな」

 

鬼龍院はボールを一之瀬が飛び込んで来た方向へと蹴り出すことで、軽く躱し、そのままシュートを放った。

 

「そりゃそうさ、本命はこっちだからよぉ」

 

が、その一之瀬の後ろから猛スピードで現れた宝泉が、ボールをカットする。

 

「やるな。まんまと誘導されてしまったらしい」

 

「ナイス宝泉くん」

 

「このぐらいできて当然だ。……あんたこそ、囮としては上出来だったぜ。せいぜいこの調子で俺の周りをウロチョロしとくんだな」

 

相変わらず一之瀬の目を見ずに会話している宝泉。

 

「お取込み中、悪いんだけど、まだボールは生きてるんだよねー」

 

宝泉が弾いたボールを拾ったのは天沢。

七瀬を振り切り、こちらのDF陣が態勢を整える前に、走り抜け、再びシュートチャンスを迎える。

 

「ハッ、これは余裕ってやつだ」

 

絶好のチャンスに思えたが、再び宝泉がボールをカット。

 

「なるほどー。負け犬だと思ってたけど、意外と厄介だね」

 

今度は柴田がボールを拾う。

 

「見ててくれよ、一之瀬!俺のスーパードリブルッ」

 

どこがスーパーかはわからなかったが、足の速さを活かして、左サイドを駆け上がっていく。

プレスに来た3年サッカー部員を抜き、ハーフラインを突破。

 

「綾小路……はマークがきついな」

 

前方にDFが数人見えたことでパスコースを探る柴田。

だが、オレの周りには南雲、桐山、鬼龍院が囲んでいた。

 

「だったら、翼!」

 

「はいっ」

 

うまくペナルティエリア前でフリーになっていた七瀬にクロスが上がる。

 

一心不乱にボールを追いかける七瀬の姿にどこか既視感があるのはなぜだろう……。

 

そんな感想を他所に七瀬はボールを胸でトラップし、足元にうまく転がした。

 

「えいっ」

 

直後に放たれたシュートはゴールの右隅へと飛んでいく。

 

威力、コースともに申し分ない。

 

が、

 

「Very easy」

 

横に跳躍したアルベルトがパンチングで前方に弾き出す。

南雲の言う通り、見掛け倒しではないらしい。この守備力があるからこそ、安心して攻撃やオレのマークに人員を割けるわけだ。

 

奇しくも、守備を宝泉に一任して攻撃に特化したこちらの戦略と類似している。

 

この試合、どちらの攻撃が先に相手の守備を攻略するかの勝負になりそうだ。

 

アルベルトが弾いたボールの落下地点にいたのは堀北。

セカンドボール狙いで準備していたのだろう。フリーでシュートを狙える位置取り。

 

「このゴールを兄さんに捧げます」

 

そんな声と共にブラコンシュートが放たれる。

 

アルベルトは立ち上がったばかり。堀北が狙ったゴールの左側なら入る確率は高い。

 

「たいがくぅうう」

 

「ッ!?」

 

決定的なチャンスだったが、櫛田に阻まれ、ボールはタッチラインを割って、ゲームが一度途切れる。

運動能力では堀北に軍配が上がるだろうが、対堀北戦において堀北の嫌がることをさせたら櫛田の右に出る者はいない。

堀北の行動を先読みし、見事シュートを阻止した。

 

「今の一撃、本当にお兄さんとやらへの想いを込めたの?だとしたら随分と安い想いだね」

 

ここぞとばかりに煽る櫛田。

 

「撤回はしなくていいわ。所詮、一人っ子の戯言。私の心には響かない」

 

だが涼しい表情で煽りを流す堀北。アイツのメンタルも少しは成長して――

 

「でも、あなたのお兄さんなら絶対に決めてた場面だよね?」

 

「やめなさい櫛田さん。その口撃は私に効くわ」

 

成長してはいなかったか。

苦い表情の堀北をみて楽しそうにしている櫛田。

一周回って実は仲良しなんじゃないかと思えてくる。

 

そんな立ち上がりを見せた試合は、お互いに決定打に欠け、得点のないまま進んでいく。

 

「この辺りで流れを変えたい。八神、例のヤツ、いけるか?」

 

「ええ。いつでも」

 

八神に合図を出し、チャンスを待つ。ボールは柴田がキープ。

先ほどと同様にサイドからのクロス先を探す場面。

 

「柴田、頼む」

 

相変わらずマークはきつかったが、ハンドサインでボールの欲しい場所を伝える。

 

「そんなとこに?よくわかんねーけど、いけぇぇぇー」

 

柴田の蹴り出したボールは宙高く放物線を描きながらゴール上空を横切る形で飛んでいく軌道。

 

「キックミスか?」

 

南雲たちの気が逸れた瞬間。

 

「いいえ、注文通りですよ。八神」

 

「お任せを」

 

走り込んできた八神がオレの真下を目指しながら滑り込み、膝を曲げ、足の裏を空に向け仰向けになる。

そこにオレが飛び乗り膝を曲げる――。

 

「こんな感じですか、ねっ!」

 

発射台となった八神が足を伸ばしオレを押し上げるのに合わせ、オレも跳躍する。

 

「はぁ!?スカイラブハリ●ーンだぁっ!?」

 

驚く南雲の声を背にボール目がけて一直線に飛んでいく。

即席にしては上出来な結果で、6mの高さはあるだろうか。

 

タイミングは完璧で丁度ゴールの真ん中を通過する位置でオレの頭上をボールが通過しようとしていた。

そこからオーバーヘッドでゴールへ向けてボールを叩きつける。

 

「Majikayo」

 

あり得ない角度からの強打。

流石のアルベルトも一歩も動けずにボールはゴールネットを揺らした。

 

着地地点に天沢がいないことも確認し、5点接地で難なく着地する。

 

これが事前に八神と打ち合わせして用意しておいた策。

 

得点を決めたこともそうだが、大技を披露したことで試合の流れをこちらに引き込む狙い。

策が成功した証拠に周りの選手は呆然としている。

 

「綾小路選手、八神選手の反則により、今のゴールは無効。ネームスパイダーズのフリーキックから再開するように」

 

「嘘だろ?」「嘘ですよね?」

 

審判の判断に八神と2人で抗議する。

 

「逆になぜ大丈夫だと思ったんだ、君たちは」

 

「参考元の漫画では反則は取られていないと思います」

 

てっきりバスケのアリウープのように(シュートではなくパスだとみなして)暗黙の了解で見逃されているものだとばかり思っていたのだが……。

 

「それは漫画だからだ。チームメイトでも故意に接触する行為は非紳士的かつ危険行為だ。これ以上抗議するならカードを出すが――」

 

「いえ、すみませんでした」

 

これ以上の抗議は無駄だと理解し、引き下がる。

 

「何やってんだ、お前ら。曲芸やりたいなら他でやれ。こっちは真剣勝負中だ」

 

「宝泉くんに言われるとくるものがありますね……」

 

「だな……」

 

「あぁ”?」

 

得点にはならなかったが、目的は達成できたため問題はない。

 

「あはははー。あー面白かった。さすが綾小路先輩だね。私も負けてられないってことで、そろそろ決めに行っちゃおーかな。南雲せんぱーい、ボールくださーい」

 

「いいぜ、やってみろよ」

 

南雲のロングパスが前方の天沢目がけて飛んでいく。

 

「行かせませんッ」

 

「うーん、七瀬ちゃんじゃあたしを捕まえるのはムリムリー」

 

「そんなこと――」

 

言いつけ通りに天沢をマークしていた七瀬だったが、ギアを上げた天沢に追いつけずあっという間に置いて行かれた。

 

それでも懸命にボールと天沢を追いかける七瀬。

 

なんだか犬みたいだなと思ったことで気づく。

あぁ、この既視感はボールを追いかけているときのポチか。

 

そう思うと少し応援したくなるな。頑張れ、七瀬。ボールはすぐそこだ。

 

「へえー根性あるねー」

 

天沢がボールの落下地点で待ち構えたタイミングで、なんとか七瀬が追いつく。

 

「でも、ざんねーん」

 

「えっ!?」

 

ボールを奪おうとした七瀬に対し、天沢はかかとでボールを打ち上げ、その頭上を越え、七瀬の真後ろに落とす。

 

そしてゴールから逆走し七瀬を抜き、ボールをキープ。慌てて振り返った七瀬に対し左右のフェイントを入れると――。

 

「あっ……」

 

足がもつれ転倒する七瀬。

 

「あたしにもできたよーせんぱい」

 

天沢は事もなげにアンクルブレイクを披露した。

そうして七瀬を振り切り、ゴールを目指す天沢。

起き上がるもしゅんと落ち込んだ表情の七瀬。ますますポチに似てきたな。

 

「気にするな、七瀬。ナイスランだった」

 

「え!?急に優しい言葉を?どうしたんですか、綾小路先輩」

 

不思議そうにする七瀬だったが、流石に愛犬と姿が被ったとは言えなかった。

 

一方、ペナルティエリア目前の天沢に立ち向かっていくのはDFの一之瀬。

一之瀬が抜かれるコースを限定することで宝泉がボールを奪取しやすくするコンビネーションでここまで攻撃を防いできた。

 

「天沢さんだっけ?あとで色々お話させてもらいたいんだけどいいかな」

 

「えー。遠慮しときますー。一之瀬先輩はあたしの敵なんで」

 

「敵?うーん、確かにそうなるのかな?」

 

「この無駄に育った脂肪で綾小路先輩を誘惑してるんですよね、吹っ飛んじゃえッ」

 

「えっ!?」

 

天沢はボールを勢いよく地面に叩きつけ、バウンドさせる。

 

悪意の籠ったボールはV字を描いて一之瀬へ向かって勢いよく向かっていく。

 

だが、一之瀬にとって真下は死角。何が起きているか把握できていない様子。

 

直後、ボールは腹部に直撃し、天沢の足元へ転がり戻る。

 

「痛っ」

 

一之瀬からしてみれば、突然みぞおちに痛みが走ったに違いない。

腹部を押さえよろめく。

 

「もう一本行っちゃおー。次は顔カナー」

 

なんの躊躇いもなく、ボールを再び蹴るモーションに入る天沢。

 

「てめえふざけんな!」

 

そんな天沢を突撃する形で肩をぶつけ突き飛ばしたのは宝泉。

天沢はフィールドを痛々しく転がっていくが……。

審判から見えない角度で「はい、脳筋釣れましたー」と笑っていたようにも見えた。

 

審判のホイッスルが鳴る。

 

「宝泉選手、危険行為でレッドカード。退場」

 

「あ”!?ちょっとぶつかっただけだろうが」

 

「先ほどのプレーは故意的で十分に危険な行為だ。心中は察するが判決は覆らない」

 

「上等だ。てめえも――」

 

「宝泉くん、私は大丈夫だから。ごめんね、私を庇ったばっかりに」

 

「チッ。別におめえのためじゃねえよ」

 

あわや乱闘に発展かと思われたが、一之瀬が声を掛けると、怒りの矛先を失ったのか、宝泉はベンチ――を通り過ぎて、フィールドの出口からどこかへと消えて行った。

 

「これで10人か……」

 

宝泉の退場で残り時間10人で戦わなくてはならない。

人数の減少も痛いが、守りの要が退場したため――。

 

「ゴール。天沢選手のシュートであるため、ネームスパイダーズに3点」

 

その後のフリーキックを蹴った天沢は直接ゴールを狙い、波多野のジャンプも虚しく、ボールはゴールに吸い込まれていった。

 

均衡が崩れ、試合は防戦一方になる。

 

それでも――。

 

「いいパスだ桐山」

 

「決めろよ、鬼龍院」

 

「お安い御用だ」

 

守備は崩され、桐山からのパスを鬼龍院はダイレクトボレーで対応し、ゴールを決めた。

 

さらには

 

「雅シュートッ!!!超エキサイティングッ!!!」

 

ただ勢いよく蹴っただけに見えるシュートで南雲にまで得点を許す始末。

 

前半は残り5分。

 

このまま0点で折り返せばチームの士気は著しく下がるだろう。

 

元々わざと負けようと言い出すメンバーがいる状況。今出場しているメンバーも、もう負けでもいいかと諦めはじめる可能性が出てくる。

 

なんとか1点は取っておきたい。

 

「葛城、七瀬、ちょっと手伝って欲しい」

 

「何でも言ってくれ」

 

「私も今度こそ務めを果たします」

 

2人の同意を得たことで、こちらのボールで試合再開。

園田からのパスをダイレクトで柴田に繋げ、左サイドからの攻撃を始める。

 

「何度も同じパターンで芸がな……いや、芸は見せてもらったが、飽き飽きだぜ」

 

南雲の分析通り、この攻撃パターンの場合、FWの堀北は櫛田に抑えられ、オレにも南雲、桐山、鬼龍院のマークがついており、パスを受けることは難しい。

 

結果、他のメンバーがシュートを決めるしかなくなるわけだが、七瀬ではアルベルトを突破できず、園田は足が速いだけでシュート精度は低い。

 

つまりスカイラ●ハリケーンのように、マークを外す何かしらの工夫が必要となる。

 

「ふんっ!!!!」

 

「か、葛城?守備を捨てたか」

 

後方から柴田のドリブルに合わせて、前線に走り込んできた葛城が、南雲、桐山の目の前に立つ。

 

「ハッ、筋肉巨漢を使ってセットプレーで勝とうって話か……ん?綾小路がいねえ。しまった、ミスディレクションの方を使われた」

 

「落ち着け南雲、フィールドから消えるはずが……どこにもいないな」

 

「それよりも今はボールを気にした方が良い」

 

鬼龍院の声で、南雲と桐山の注意はボールに向けられる。

 

「翼、頼んだー!」

 

「はいっ」

 

周りが混乱している隙に柴田は七瀬に向けてセンタリングを上げた。

 

ペナルティエリア内に密集する選手の上空を抜け、ボールはその奥の七瀬の元へ。

 

「Come on」

 

七瀬のシュートモーションを捉え、構えるアルベルト。

 

鬼龍院やDF陣も走り込みシュートコースを塞ぐ。

 

だが、七瀬のキックは空を切り、その足を戻す際にヒールでそのまま後方へボールを蹴り出した。

 

その先にいるのは葛城。

 

「ラストが葛城とは意外な選択だが、ここで奪えば問題ない」

 

葛城を左右から挟み、動きを抑制する南雲と桐山。

このままだと先にボールに触れるのは南雲だろう。

 

「クリアして仕舞い――って、マジか」

 

このタイミングでオレが飛び出す。

葛城の登場を囮にミスディレクションで消え、ぴったりと葛城の背後に重なるように潜伏していた。

 

南雲と桐山は逆に葛城に抑えられ、一歩踏み込みが遅れる。

 

七瀬がDFを引き付けてくれたため、シュートコースは無数にある。

シュートを放つモーションに入るとアルベルトが構えた。

 

構わず右足を振り下ろす。

 

が、ボールはゴールへは飛んでいかない。

ボールの下を救い上げるように擦り、ボールに回転をかけ真上に浮かせる、シュートフェイント。

 

飛び込むつもりだったアルベルトの姿勢が少し崩れる。

その間にキックの勢いを利用して、左足を軸に一回転。

 

膝あたりまで落ちてきたボールを再び擦り上げるように撃つ。

 

今度は真っすぐゴールの右上隅を目指してボールが進んでいく。

 

見事だったのはアルベルト。

一度フェイントに掛かったにもかかわらず、しっかり態勢を立て直し、ボールへ反応した。

 

だが、アルベルト、そのボールは落ちるぞ。

 

「What!?」

 

フェイントを含め、2回もドライブ回転をかけたシュートは急激に落下してアルベルトの下を通過する。

 

これで1点入る――計算だった。

 

「えいっ」

 

突如ゴール前に走り込んできたのは――八神。

 

ゴール寸前のボールにひとタッチ。

 

ボールはアルベルトの反対側へ飛んでいき、ゴールとなる。

 

もちろん記録は八神のゴール。オレには1アシストが記録される。

 

ゴールを決めた八神と目が合う。

 

「あれ、僕なんかやっちゃいました?」

 

「いや、あの場面で飛び込むとは思わなかったから驚いただけだ」

 

「あのままじゃアルベルト先輩に止められると思って無我夢中で。結果、綾小路先輩のゴールを奪うみたいな形になってしまって、申し訳ないです」

 

「気にする必要はない。八神もベストを尽くしてくれた結果だしな」

 

今回の勝負、試合に勝ってもオレがハットトリックを決めていなければ退学になる。

 

つまりはそういうこと。

 

こうして内外に不確定要素を抱えながら1対7で前半が終了した。

 





【ちょっとした補足】

実は、以前、佐藤さんの誕生日を祝うためにサッカー関連の漫画は一通り目を通していた綾小路くん。そのため、スカイラブハリケー●もドライブシュートもお手の物。

七瀬さんがキャプテンに任命された時も理由に疑問を持たなかったり、ちょいちょいブルーロ●クのネタを発言していたりしていたのはその伏線でした。

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