今更かもしれませんが、未読でアニメ2年生編を楽しみになさっている方はご注意ください。
洋介のゴールで試合は5対7と追い上げをみせている。
まだオレのゴールはないが、ハットトリックで逆転できる点差となった。
試合時間は10分を過ぎたところ。ロスタイム含めて逆転には十分な時間。
ナグモンズのキックオフで試合が再開する。
それと同時にオレは前進。ボールを目指す。
「綾小路が来る。アイツは近づかせるな」
接近してくるオレをみて、パスコースを探す南雲。
右サイドを上がっていく、鬼龍院へパスを放った。
だが――
「このチームは清隆くんだけじゃないですよ、南雲先輩」
鬼龍院に到達する前に洋介がインターセプト。
「クソ、いいところにいやがる。いや、コースを誘導されたのか」
「清隆くんっ」
洋介は南雲から奪ったボールをオレに繋ぐ。
「まだだ!綾小路を止めろ」
南雲の号令で、本人はもちろん、ナグモンズメンバーが次々とボールを奪いにやってくるが、軽く躱してゴールを目指す。
「ここまで力の差があるものなのか」
「いや、私たちはまんまと踊らされていた、ということだろう」
息を切らせながら漏れでた桐山の疑問に鬼龍院が答える。
前半はマークされていることを利用しフィールドを走り回ることで3人を連れ回した。後半はオレの代わりに波多野を向かわせたことで、その落差で調子に乗らせ攻め続けさせた。
その結果、南雲たちの消耗は激しく体力の底が見え始めている。
それに対してオレはゴールキーパーに徹することで身体を休め、万全に近い状態。
今の南雲たちのコンディションは、絶好調を100とするなら……40、いや35ってところだろう。
そして体力が残っているのは前半ベンチで過ごした洋介も同じ。
オレたちについてくることはできない。
唯一の例外、天沢に関してはパスをもらう位置を工夫することでこちらに追いつけないようにしたが、天沢の様子を見るにその必要はなさそうだ。流石元カノ、バレない程度に手を抜いてくれている。
そうして難なくペナルティエリアへと突入する。
ディフェンスを突破するわずかな時間で、南雲と鬼龍院が戻ってきてゴール前で立ち塞がった。
二人とも限界は近いはずだが……これが意地というやつなんだろうな。
ボールは俺の左足元にある。
アンクルブレイク対策で距離を保つ2人。
突然だが、様々な書物や動画からサッカーを学習した中で、ひとつだけ思うことがあった。
「また何かやってくるぞ。警戒しろよ、鬼龍院、アルベルト」
時と場合によるだろうが、サッカーに特別な技は必要ないのではないか、と。
「君に言われるまでもない」
ただシンプルに、相手のいないところにボールを運び、ゴールを狙える位置からシュートを、キーパーが対応できないところへ放つだけ。
「OK――」
これまで派手な技を披露し続けたことで、相手は身構え、一瞬の隙が生まれた。
そこを突けば――すでに左足はボールを蹴り、フォロースルーに入っている――
「――What!?」
この通りだ。
ボールは、立ち塞がる南雲&鬼龍院の隙間を通過し『OK』と言いながら構えようとしたアルベルトの顔を横切り、ネットを揺らしていた。
少しの静寂が訪れて、ゴールを知らせるホイッスルが鳴った。
「左でも蹴れんのかよ」
「特に蹴る足にこだわりはありませんから」
「ここまでやられたら嫌味にも聞こえねえな」
ラボーナを除き、ここまで右足でボールを蹴っていたため、相手は無意識下で右で来ると判断していたはず。
左でそのまま撃つことで相手の想定よりワンテンポ早いシュートを実現した。
これで6対7。逆転までもう少し。
つまり、アイツが動くならこのタイミングだろう。
「南雲、次のキックオフから自陣でボールを回して時間をかけるべきじゃないか」
「馬鹿言うな、桐山」
「それはお前の私情か?この試合には多くの生徒の退学がかかっている。プライドからの失策は看過できない」
「そうじゃない。パス回しは俺たちの残りスタミナを無駄に消費するだけだ。あいつ等にプレスをかけられたらミスるヤツも出てくる。それなら攻撃に集中して1点取れば、残り時間で向こうが逆転するのは厳しいだろ」
「ならどうする?理想を言うのは自由だが今のままじゃさっきの二の舞だぞ」
「明らかにへばってる奴は交代枠全部使って走れるヤツに変えろ。そいつらには洋介を抑えさせる」
「綾小路は?」
「俺ら以外に誰が止めれるってんだ?残り5分、死ぬ気で走れよ桐山」
「ふっ、それもそうだな。南雲こそ、生徒会長の意地を見せてもらおう」
「上等だ、万年書記野郎」
ナグモンズのメンバー交代が行われた。
体力面のアドバンテージは薄れたが、このタイミングまで出さなかったということは運動は出来てもサッカー経験者ではないのだろう。
最低限の警戒だけで十分。オレや今の洋介の脅威にはなりえない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その後の南雲たちの猛攻は見事だったが、気合や根性の類でどうにかできるものではない。
南雲のシュートをキャッチし残り2分。
オレの計算が正しければアディショナルタイムは5分以上ある。この試合はオレと八神のハリケーン抗議や宝泉のレットカード、坂柳の自主退場と色々あったからな……。
頭の中で計算を続ける。
ファウル覚悟の猛烈なチャージを受けながらも、ボールをペナルティエリアまで運んだ。
周囲の状況を最終チェックする。
問題ない。
ハーフウェーラインを超えたあたりですでにアルベルトは臨戦態勢。
それでも問題はない。
あとは、ただシュートを撃つだけ。
それも今、済んだ。
ボールはゴール左下の隅を目指して飛んでいく。
アルベルトがゴールを阻止すべく跳躍しかけた時だった。
「Bad boy……」
フリーで走り込んでくる八神の姿が視界に入る。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
八神はホワイトルーム生だ。
この大会を通して疑念は確信へと変わった。
刺客として成立するように高校生らしさを学習してきたとはいえ、あくまでもそれはホワイトルームの中でのカリキュラムでしかなく、リアルな体験、成長で培った物と比較するとどうしても齟齬は生まれる。
そのため、オレ自身がここにきて初めて知ったこと、勘違いしていたことを洗い出しておき、疑わしい相手には同様の質問を投げかけていた。
例えば、生徒会と風紀委員の対立について。
オレはそんなこともあるのかと少しだけ楽しみにしていたのだが、一之瀬の反応からフィクションであることを察した。
つまり、一般の高校生なら風紀委員と戦うことはあり得ないとわかるはず。
そう考えると八神のリアクションはグレーだった。ただあれだけなら一之瀬のようにオレに配慮しただけの可能性もある。
そのため今度は逆に一般の高校生は知らないが、ホワイトルーム生なら知っていて当然の知識で、それを一般の高校生が知らないと理解していなさそうな話題を振ってみた。
茶道の小道具についてのやりとりなどがそれにあたる。誤魔化してはいたがあの時の八神の動きは茶道の道具名を把握していたからこそのもの。
極めつけは、スカ●ラブハリケーン。
これを初見で成功させられる普通の高校生などいるはずがない。
八神もオレが探りを入れていると勘づいたのだろう。この試合中、言い訳できる範疇で妨害を仕掛けてきた。大っぴらに敵対してこないのは正体がバレたという確信がないからか、正面衝突を避けているのか。あるいは天沢のように元々敵対するつもりがないという可能性も0ではないが……。
いくつか理解できない点は残ってはいるが、ホワイトルームの命令で動いている以上、オレの退学が決定的になるシーンに関わってこないはずがない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
八神の登場に、苦い笑みを浮かべるアルベルト。
後半に入ってからはパスばかりでシュートを撃たなかった八神だったが、アルベルトの脳裏では前半終了間際の攻防がフラッシュバックしたのだろう。無理矢理踏み止まり、八神もカバーできる位置をキープした。
ギリギリまでボールの行方を見極めるようだ。
その間も鬼気迫る疾走で、八神はあと数歩でボールに触れることができる位置まで到達。
それを間近で体感したアルベルトは八神が撃ってくると確信し、八神本人もそのつもりだったはず。
「くっ……」
地面を滑る形でボールへ足を伸ばした八神だったが、わずかに届かない。
八神のシュートを警戒したアルベルトは一手遅れ、その間にボールはゴールへと転がり込んでいった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「大丈夫か?」
倒れたままの八神に手を差し出す。
「すみません、自分で立てますので」
「そうか。無理はするなよ」
「ええ」
何事もないように立ち上がった八神。
だが、実際には相当足に負担がかかっている。
先ほどの結果は偶然ではなく、オレが仕込んでいたもの。
あの時、スカイラブハリケー●を選んだ理由は八神の正体を暴くだけでなく、土台になった八神の足にダメージを与えておき、後の妨害を防ぐためでもあった。
その後、後半戦での攻撃起点とすることで足を酷使させておき、いざゴールシーンで本気を出そうと力を入れた時に限界が来るよう調整した。
狙い通り、八神はあと一歩届かず、アルベルトを惑わす役を全うしてくれた。
こんな策が通用したのは八神が必ずしも任務を優先しているとは思えなかったから。
現に、オレの退学を何よりも優先するのであれば、八神が真に狙うべきはボールではなく、キーパーのアルベルトだった。
勢い余ってということにしてアルベルトにスライディングで突っ込みファウルになればよかっただけの話。
オレのゴールは取り消しになり、向こうのフリーキックからゲーム再開。逆転は厳しくなる。
「なぁ八神、だだっ広い世界を本気で走るのも悪くはない。そう思わないか?」
「……わかりませんね。僕は試合を終わらせて早く帰りたい、それだけです」
そう言い残しポジションへと戻っていく八神。
八神の意図は、まだ計りかねている。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
綾小路先輩は本当にすごい。
前半の絶望的な状況から、幼馴染さんや親友さんの力を借りてあと1点で逆転できるところまで来たんだ。
自分だったら何度も諦めていた、そう思う。
だからこそ、自分も役に立って、こんな景色を見せてくれたヒーローに少しでも近づきたい。
生徒会の門を叩いたのはそのためだ。
けど、そんな決意とは裏腹に足を動かすのがしんどくなってきた。
泣き言なんて言えない。ここまで活躍しているチームメイトたちは自分よりも無理をしている状況だってことくらいわかるから。
だから負けじと頑張る。力のない自分にできることはそれだけだとしても、こんな自分にだって頑張れば何か、きっと何かの力にはなるはず。
「なん、とか……役に、立ちたいっす」
張り裂けそうな心音、荒い呼吸音に紛れて、心の声が溢れ出してしまう。
「奇遇ですね、僕もそう考えていたんです。ひとつアイディアがあるんですが、協力しませんか?」
渡りに船とはこのこと。
残りの体力全てを使って彼の策に乗らせてもらうことにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
怒涛の攻撃で同点になったことで、ナグモンズの面々には焦りが見えていた。
ここでの敗北はクラスメイトの退学を意味する。
だが相対した敵はわずかな時間で追い上げてきた上に、エースの南雲のシュートは完全に防がれている。
3年生にはオレたちが実力以上の脅威に映っているだろう。
焦燥はミスを生む。絶望は足を鈍らせる。ここまで追い込めば逆転は容易ーー。
「おいおい、まだ同点になっただけだろ。なに負けたツラしてんだ。安心しろ、ここで決めて観客を沸かせるまでが俺のエンタメさ」
南雲の檄に、チームメイトの目に光が戻った。
やり方はともかく、これまで結果を残してきた南雲に対する信頼は厚い。
窮鼠猫を噛むと言うように最後まで楽はさせてくれないようだ。
キックオフ後、アディショナルタイムが5分と表示された。
この大会、同点の場合、延長戦はなくPK戦で勝敗を決める。
ただしPK戦で勝利しても公式記録は引き分け扱い。シュートを決めてもハットトリックのゴール数にはカウントされない。
つまり退学を回避するには残り時間でボールを奪い、ゴールを決める以外の道はないということ。
「焦る必要はない。無理せず慎重に攻めろ」
南雲たちはリスクを最小限に抑えたパス回しでチャンスを伺っている。
PK戦になれば分が悪いのは相手の方。必ず攻めてくるタイミングはある。
だが、それを待つ時間はない。
焦る必要がないなら、焦るきっかけを作るまで。
南雲に再びボールが渡った瞬間、オレは仕掛けることにした。
ゴールを離れ、ボールを持つ南雲へ全速力で進んでいく。
「痺れを切らしたな。ここで決めるぞ、全員死ぬ気で走れ」
南雲の合図でDFまでも上がってくる総攻撃。無数のパスコースを作り出した。一度は同じ状況で鬼龍院をフリーに見せることで洋介のパスカットへ繋げたが、今回は対策を取られた。
しかし、それはこちらも同じ。
オレに連動し、チームメンバーがそれぞれ動き出し、前線にいた洋介、柴田、園田が南雲の元へ向かう。
「はっ、サッカー部のかわいい後輩たちでお出迎えってわけか」
「南雲先輩、胸を貸してもらいます」
「上等だ」
パスコースを塞ぎつつ詰め寄った3人を相手に、南雲はボールをキープし続ける。
洋介たちもボールは奪えないが、南雲の切り返しやフェイントにも対応し、囲みを突破させない。
この膠着状態は望むところ。このままオレが到着するまでの数秒の間、粘ってくれればいい。
「悪くない動きだが、お行儀が良すぎるぜ」
洋介たちの存在などお構いなしに正面からぶつかっていく南雲。
予想外のパワープレーで虚をつき、腕や身体をうまく使いながら強引に押しのけていく。
「兄さんなら仲間を頼った場面です」
もう少しで包囲を突破というところで、堀北がカバーにはいる。
堀北が守備でここまで下がってきたのは試合を通して初めて。
こちらも虚をつけたと思われたが――。
「解釈の一致だな、鈴音。俺もいつだって堀北先輩をリスペクトしている」
「なっ……」
立ち塞がった堀北は南雲の足元にボールがないことに気がついた。
洋介たちを抜き去る直前、南雲の身体を抑えることに集中させボールへの意識を逸らし、その一瞬でさりげなくヒールで後ろに転がしていた。
そしてボールが転がる先には満身創痍ではあるが闘志に溢れた桐山が走り込んでいた。
「なぐもぉぉぉー、受け取れぇぇーー!!」
桐山は残りの力を絞り出すように叫びながらボールを蹴り上げる。
「ったく、桐山にしちゃ良いボールじゃねえか」
消えたボールの行方に気を取られた堀北を躱し、ゴールへ進む南雲への絶好のパス。
「本当にそうですね」
ボールがこのまま飛んでいけば南雲の近くまで前進していたオレの頭上も越えていく。
後ろには誰もいない。
南雲との純粋な脚力勝負に持ち込まれた形になる。
「綾小路先輩はゴールからボールまで全力で走ってきた上に、振り返るロスもあるっす。このボール、南雲先輩が先にたどり着くんじゃないっすか!?大ピンチっす」
遠くで慌てる波多野の声が聞こえた。
その見立ては正しいが、それはオレが急ブレーキをかけ振り返った場合。
「ええぇ!?バック走っすか!!」
反転するために勢いを殺すのではなく、両足で踏み込み、伸ばす反動で後ろに跳躍し、そのままゴールを背にして南雲と向かい合う形で走り始める。
「アメフトじゃねーんだぞ、そんなんで俺に……いや、お前が何をやってきても関係ねえ。ぜってえ、勝つ」
オレの走りを見てふざけた行為ではないと気付いたのか、いつもの油断ではなく、気を引き締めた南雲。
バック走はプロランナーのトレーニングメニューに組み込まれることもある。つまりホワイトルームのカリキュラムにも存在していたため、お手のもの。
推進力に対するブレーキが少ないため、瞬間的になら前向きよりも速く移動できるほどだ。
問題は視野だが、障害物のないフィールドを走ることに前も後ろも関係はない。
ペナルティエリアより少し手前、ボール落下地点に同時に到着し、向かいながらお互いにジャンプ。
ジャンプの高さは同じ。
そしてまもなくお互いの間にボールが落ちてくる。
ヘディングで競り勝った方がこの試合を決めると言っても過言ではない大一番。
「っらぁぁぁーッ!!」
南雲のヘディングが先にボールを捉えた。
オレは少し遅れて頭を振る。
ボールの行方は――。
「くそ、のせられた」
南雲のヘディングで放たれたシュート性のボールは、オレの頭を掠り、ゴールコースから逸れて右後方に転がっていく。
競り合い同時にヘディングした場合、ボールの行方をコントロールすることはできない。
ギリギリまで競り合いを演じることで南雲に少しでも早くシュートを撃つことを意識させ、最後の一手、あえて後手に回ることで南雲のシュートを弾くことに成功した。
そしてオレがボールを転がした先にはーー。
「ボール拾ってきました!綾小路先輩!!」
「良い子だ、やっぱりボールは好きだよな」
「……?ボールは友達的な話ですか?」
「そんなところだ」
バック走のメリットは他のメンバーがどう動いているかロスなく確認できること。
ボールに向かうオレたちに続き七瀬が一番近くにいたのを把握した上での一連の動き。
直前の南雲と堀北のやりとりじゃないが、昔のオレなら選ばなかった選択肢かもしれない。
「柴田先輩、お願いします」
「さっすが、翼だぜ」
ボールを拾った七瀬から柴田にボールが渡る。
「園田っ!」
「あいよっ」
さらに逆サイドでフリーになった園田へ繋がる。
「洋介、頼んだ」
「任せて!」
相手チームが総攻撃で前進していたこともあり、早いパス回しで相手の守備を置き去りにしていく。
ドリブルでボールを運ぶ洋介がフリーでペナルティエリアに突入。
キーパーと1対1の勝負。
仲間の援護は期待できないとアルベルトが前進し、身体を大きく広げシュートを撃たれる前に抑え込みにかかる。
だが、洋介は落ち着いていた。
南雲への意趣返し、というわけではないだろうが、アルベルトが到達する前にヒールでボールを後ろに転がす。
「堀北さん、ラストお願いっ」
その先には堀北が走り込んでいた。
アルベルトがゴールから離れているこのタイミングなら、ループで頭上を越すか横から狙えばシュートは決まる。
「任せ――」
「またまたチャンスを潰されるなんて可哀想な堀北さん」
待ってましたと言わんばかりに堀北の前にポジションを取る櫛田。櫛田だけは先ほどの総攻撃に加わらず、堀北にボールが来ることだけを待ち構えていた。
「そう何度も同じ手は食わないわ」
だが、堀北も想定済みだったようで櫛田を抑え込みながらボールに向かってダッシュする。
拮抗していた両者だが、元々のフィジカルの差で堀北が競り勝ち、一歩前に出て先にボールに触れた。
「けど撃たせないから」
堀北に張り付く櫛田の妨害でシュートは難しい。
もたつくとアルベルトがゴールへ戻り態勢を立て直してしまう。
「いいえ、そうはいかないわ」
プレスをかける櫛田の力を支点にしてボールと一緒に回転。
力の矛先を失った櫛田はそのまま前に転倒する。合気道の経験を応用したのだろう。
「これでゲームセットよ」
ゴール前、フリーになった堀北がシュートを放っ「た、いがくぅーー!」
転んだままの櫛田だったが、腕の力で地面を押して強引に滑り込み堀北のシュートをブロックした。
ボールはゴールとは反対の方向へふわっと弾き飛んでいく。
「そんな……」
堀北はショックを受けているが、これで良い。
「悪いな、その退学は認められない」
オレは、櫛田なら必ずブロックすると予測して、ボールが弾かれる軌道上を目指し走り込んでいた。
櫛田の執念を計算して動けた者は他にはいない。
フリーでシュートできる。
相手選手と八神の位置、アルベルトの構えから最適なシュートコースを導き出す。
試合時間は残り十数秒。
櫛田が弾いたボールをダイレクトボレーで狙ったコース打ち返す。
これでチェックメイト。
アルベルトの手が届かない位置へボールが飛んでいき――
「ぐえっ」
オレのシュートはゴールへ飛び出してきた波多野の顔面にぶつかり宙を舞った。
この試合、3度目の想定外に一瞬判断が遅れる。
その間も試合は継続し全員がルーズボールを獲得するために動き出していた。
だが、程なくして、時計を確認した審判がホイッスルを鳴らした。