ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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今日は4月1日ということで本編とは関係ない話になります。


生徒会長に私はなる

『選択肢』って不思議な言葉だと思う。

 

上手く言えないけど、あるようでないというか、選択肢があると思わなきゃそこには存在しないというか……。

 

例えば、今日の晩御飯は何にしようかなって考えるとする。

冷蔵庫の食材から作る料理を考える?もしくはスーパーに行って食材を見て考える?

あるいは奮発して外食もアリかもしれない。

 

でも晩御飯何にしようかと悩むまでもなく、食べたいと思ってる料理が決まっている場合もあるよね。他にも、賞味期限の関係で絶対今日はコレしかないって場合とかは選択肢がないってことになる。

 

だけどそもそもの話をすれば、今の仮定では晩御飯を食べないっていう選択肢がなかった。一日三食食べることは当然。そう思ってたら、食べないっていう選択肢を見つけ出すのは難しい。

 

もしかしたら選択できるってこと自体、贅沢なことかも。

ううん、ちょっと違うか。この学校で戦っていくなら、常に選択できるように目を光らせておく。

 

当たり前が当たり前じゃなくなった時、私はそんな当たり前に気づかされた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

生徒会選挙が始まった。

 

季節の変化を感じる頃、南雲先輩が生徒会長の引退を宣言して、生徒会長の座を綾小路くんか私――一之瀬帆波に譲るという話になった。

2人とも立候補するなら選挙で会長を決めることになる。

 

「俺としてはどっちが生徒会長になっても問題ないと考えている。ま、俺や堀北先輩以上の生徒会長になるのはハードルが高いだろうが、それでもまぁお前らになら託しても良い。そう思ったから引退するわけだしな」

 

半分は本音だけど残り半分は詭弁なのかなと思う。

南雲先輩は内心では綾小路くんを生徒会長にしたいと考えているけど決して口にはしない。

引退寸前まで素直じゃないところは、朝比奈先輩に言わせれば可愛いところなのだろう。

そんな性格のおかげで私が生徒会長になるチャンスができたとも言えるけど。

 

「オレは一之瀬次第ですね」

 

「だそうだが、帆波。立候補する気はあるか?」

 

南雲先輩から催促を受け、じっくりと考えてみる。

 

「はい、立候補したいです」

 

実力だけでみたら綾小路くんが生徒会長になるのが相応しい。多くの生徒が彼の活躍を目にしてそう思っていることも知っている。

 

でも、熱意という点でみた場合は一考の余地が生まれる。

 

1年次に話した時、綾小路くんは生徒会長になるつもりはなかった。

あの時は理由がわからなかったけど、今ならわかる。

 

綾小路くんが求めているのは、生徒会での体験であって、生徒のための活動じゃない。だったら私が生徒たちを導き、綾小路くんに補佐をしてもらうのが一番学校のためになるんじゃないだろうか。

 

それがあの時、綾小路くんに見えていた景色。

 

「良い返事だ。帆波なら全校生徒から愛される生徒会長になれるぜ。そういうことだ、綾小路。ひとつ俺と勝負しないか?」

 

「こんな時まで相変わらずですね」

 

勝負を挑まれることに慣れてしまったためか、あるいはこうなると予想していたのか、綾小路くんの様子はいつも通りだった。

 

「どちらが生徒会長になるかって勝負だ。もちろん俺は帆波を支持する」

 

南雲先輩が私を支持して勝負を挑む理由は明白。

このまま綾小路くんが私に生徒会長を『譲ること』を避けるためだ。

 

勝負にしてしまえば、綾小路くんも手放しで選挙を放棄できなくなる。

 

結果、本気を出した綾小路くんが勝てば良し。安心して引退できる。

 

逆に、私が生徒会長になったとしても南雲先輩は綾小路くんとの勝負に勝ったことになり、それもそれで良し。有頂天で引退できる。

加えて選挙を通しての結果なら私が生徒会長でも全校生徒も認めざるを得ない。

 

色々問題がある人だけど、こういう強かなところは勉強になる。

 

「その勝負をオレが受けるメリットは?」

 

「メリット?これまでしのぎを削ってきた運命の相手(ライバル)とのラストバトルを黙って楽しめよ」

 

「……わかりました。そういうことでしたら引き受けます」

 

この2年間、幾度となく衝突(?)してきた二人の間に余計な問答はいらなかった。

 

南雲先輩が言った『ラストバトル』の意味――この勝負に綾小路くんが勝てば残りの学生生活で南雲先輩が勝負を挑むことはない、ということ。

綾小路くんにとっては願ってもない話だろう。

 

「帆波もそれでいいな」

 

「はい」

 

元より私一人の力じゃ勝負にならない。

選挙になったら協力を仰ぐ予定だったので丁度良かったと思う。

 

綾小路くんと対峙すると考えると心が痛むけど、これは学校のため、生徒会のため、そして私たちのためにも必要な戦い。

 

それに――綾小路くんもその方が喜んでくれる気がした。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

選挙のルールはとてもシンプルだ。

 

一週間の選挙活動の後、体育館に集められた全校生徒の前で演説を行い、その後、教室に戻ってから投票を実施する。より多くの票を獲得した方が晴れて生徒会長だ。

 

シンプルが故に抜け穴も何もない。

 

通常と違うことといえば、今回は綾小路くんの提案で匿名方式での投票となったことくらい。

 

単純に考えれば、南雲先輩の力で3年生の票をまるっと獲得できる私が有利。退学者が多い学年とはいえ、全体の約1/3の票は約束されたようなもの。

 

対する綾小路くんはファンクラブこそあれ、確定の票の数ではこちらに及ばない。

お互いのクラスはそれぞれに入れると仮定して、浮動票は坂柳さんのクラスと椎名さんのクラス。そして1年生になる。

 

自分で言うのもなんだけど、綾小路くんより多くの生徒と交流してきた自負はある。

加えて1年Bクラス、Cクラスとはパートナー試験で協力した仲だ。

 

仮に浮動票を半分ずつ獲得した場合でも私が余裕で勝つことができる。

綾小路くんは一体どんな手でこの状況を覆してくるのか。

 

圧倒的に有利な場面でも油断できる相手じゃない。彼が勝負を受けたからには勝ち筋があるということ。どんな策で攻めてくるのか予測して防げるかが、この選挙の勝敗を分ける。

 

今までの私なら真摯に自分の熱意をみんなに伝えることで選挙を戦ったけど、それだけじゃ絶対に敵わない相手。

 

だからしっかりと綾小路くんの取ってくる策を考える必要がある。

 

不正はもってのほかだけど、この学校はポイントで何でも買える。

念のため先生に確認したところ、投票権を追加購入したり、相手に入った票を買い取ったりすることは不可能だった。

 

票を持っている生徒の買収は可能だけど、匿名になっていることと、資金力勝負になれば南雲先輩の独壇場。不確定で不利なフィールドでは勝負しないはず。

 

だとしたら、ネガティブ・キャンペーンの可能性はどうだろうか。

政治の選挙でも対立相手の欠点をあることないこと言うのはよく見ること。自分の票を増やすのではなく、相手の票を減らすという策。

 

おあつらえ向きというか、私には万引きの過去がある。綾小路くんにお金を貸したり、お金を借りたりしたこともあった。攻撃の材料には困らない。

あの騒動の渦中にいた2年生はともかく、全く知らない1、3年生に公にされたら印象は悪くなる。

 

ただ、そんなことをすれば綾小路くんは選挙には勝てても、その後、過去の罪が公にされた私は生徒会に居られなくなってしまう。

色んな感情を抜きに利害だけで考えてみても、仕事の負担増加や生徒会のイメージダウン等々、新生徒会の運営に支障が出て綾小路くんにとってデメリットが勝るから実行はしない……と信じたい。

 

でも方向性は間違っていないんじゃないかな……。

狙うのが私じゃなくて、支援者の南雲先輩だったらどうだろう。

南雲先輩は少なからず恨みも買っている人物。そんな感情を抱く生徒たちを綾小路くんが言葉巧みに操って、増幅させ、離反させる。匿名方式を希望した理由もこのため……。

 

3年生である南雲先輩の評価がいくら落ちようとも新生徒会の活動には支障がない。むしろ、そんな南雲政権に終止符を打つ存在としてアピールできれば印象も良い。

蓋を開けてみれば3年生の票のほとんどが綾小路くんに入っていたということもあるかもしれない。

 

……あれれ、南雲先輩に支援してもらうのはマズかった?

今からでも南雲先輩の支持は丁重に断ろうか――なんて考えが過ぎったけど、そうなると3年生票がフリーになり、結局実力で劣る私が不利になる。

 

3年生が絶対に裏切らないように南雲先輩に動いてもらうしかない。

 

そうして方向性を固めて選挙に挑むことにした。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

そう思っていたのに

 

「よろしくお願いします」

 

登校すると目に入ったのは、校内への入り口付近で天沢さんや櫛田さんと一緒にビラを配っている綾小路くんの姿。

 

「生徒会長になったら、無料で食べれる定食を山菜定食から日替わり定食に変更し、どんなにポイントがなくとも肉や魚も食べれるように改善します。またケヤキモールの各施設との連携を深め、カラオケやカフェなどで使用できる割引優待券を定期的に配布し、より暮らしやすい学校生活をサポートしていく所存です。そして、卒業生が母校を訪ねられるよう、申請すればOB・OGとして学校の敷地に入れる日を定期的に作ります」

 

私の予想とは裏腹に、公約を掲げ、真っ当な方法で選挙活動をしている。

そんな綾小路くんの周りには興味を持った生徒たちで人だかりができていた。

 

「どうした?鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてるが……」

 

その光景を呆然と眺めていた私に気づき、綾小路くんが声を掛けてきた。

 

「なんだか意外というか、この選挙はもっと違う戦いを繰り広げるのかなって思ってたから……」

 

ちょっと後ろめたい気持ちが出てきてぼかした表現をしてしまう。

 

「逆に聞きたいんだが、策謀やポイントの力で生徒会長になったところで、果たしてそれは健全な組織だと言えるのか?生徒たちに認められ選出されることに意味があるんじゃないのか」

 

そんな私の考えはお見通しと言わんばかりに、ズバッと切り込んでくる。

 

「そ、それは……その通りだね」

 

綾小路くんからの問いに、勝つことだけを考えて肝心な部分を蔑ろにしていた自分が恥ずかしくなった。

綾小路くんは堀北先輩や橘先輩の背中を追って、生徒会の一員としてこんなにも立派な精神のもと選挙に臨んでいたのに……。

 

やっぱり生徒会長にふさわしいのは――。

 

「先に言っておくが、今の問いは一之瀬に辞退を促す為に言ったわけじゃない。お前の目指す生徒会を見せて欲しいと思ったからあえて伝えただけだ」

 

「綾小路くん……」

 

またしてもこちらの思考を読み、先回りする綾小路くん。お互い隠し事は出来ないなと思う。

 

「うん、そうだね。私ももっと私らしく戦う。ここからは正々堂々勝負だよ」

 

「望むところだ」

 

差し出した右手を握り返してくれたところで、様子を見ていた周りの生徒たちから拍手が起こった。

 

放課後、私も自分の公約をまとめるべく準備を進めていると、南雲先輩がやってきたので事の経緯を話した。

 

「いやいや、騙されるな。そいつは帆波に正攻法を取らせるための方便だろ。よりによってあの綾小路が生徒のために生徒会に真剣に向き合うとは思えないぜ」

 

「だとしても、ですよ。無理矢理入れさせた票に価値はないと私も思います」

 

「だがこれは勝負だ。いまさら――」

 

「だから、皆さんから応援してもらえる公約を掲げて必ず実現してみせるので、3年生には安心して私に投票するようお伝えください」

 

「ハッ、帆波も成長したってことか。ますますイイ女になったな」

 

「お言葉ですが女かどうかは関係ありません」

 

「確かにそうだな。訂正するぜ、生徒会長を任せてもいいと思える面構えになった」

 

「南雲先輩に言われて嬉しかった言葉はこれが初めてです」

 

「それは何よりだ。……って、ん?」

 

そうして私は『仲間と楽しい学校生活』をスローガンに、1、2年生向けには退学取り消しのためのポイント額を引き下げる交渉を学校とすることや今年のように学校行事を拡充させることなどを公約として、3年生向けには学校負担で卒業旅行の実施を掲げた。

 

綾小路くんから出遅れた分を取り返すため、ビラ配りだけじゃなく、各教室を周って想いを伝えていく。

 

こうして本格的に幕を開けた選挙戦。

 

綾小路くん陣営はサポートを櫛田さんと天沢さんが務め、綾小路くんが苦手な分野を見事にカバーしている。本来そのポジションは私だよね?私情を抜きにすればまさに盤石な布陣と言える。

 

一方、私がサポートをお願いしたのは、南雲先輩と――宝泉くん。

千尋ちゃんをはじめたくさんの友達が協力を申し出てくれたけど、あえてこの2人に依頼した。

 

「おい、一之瀬パイセンに投票しねえとわかってんだろうな?」

 

「おい、帆波に投票しないとわかってるよな?」

 

放課後のビラ配りの最中、それぞれ1年生を捕まえて睨みを効かせている。

 

「南雲先輩、宝泉くん。ダメだよ、みんな仲良くしなきゃ」

 

慌てて駆けつけて待ったをかける。

 

「まぁ帆波がそう言うなら仕方ねえ」「まぁ一之瀬パイセンがそう言うなら仕方ねえ」

 

私のお願いを素直に聞いてくれて1年生から一歩下がる。

 

「君たちもごめんね、もう大丈夫だから安心して。南雲先輩も宝泉くんも選挙のためにちょっと熱が入りすぎちゃっただけなんだ。許してあげて欲しいな」

 

怯えていた1年生たちの手を取り謝罪をする。

 

「も、もちろんです。こちらこそ助けてもらってありがとうございました」

 

「その……一之瀬先輩ってすごいんですね、他人の言うことを聞く宝泉くんなんて初めてみました。選挙応援してます」

 

ぺこりと頭を下げて帰っていく。

ちょっと心は痛むけど、限られた時間で私の目指す生徒会を端的に示すには一番効率の良い策。

唯我独尊の体現者のような南雲先輩&宝泉くんとでも仲良くできているというのはこれ以上ない説得力となる。ちょっと強引だけど、綾小路くんと戦うならこのぐらいのインパクトがなければ見向きもされない。

 

その後、南雲先輩はずっと警戒していたけど綾小路くん陣営がおかしな動きをすることはなく、投票前の演説を迎えた。

 

先行は私。演台に立ち、程よい緊張感の中、公約の再提示と未来の学校像を語る。

難しいことは考えず、ひとりでも多くの生徒に良いなと思ってもらえたらそれでいい。

今回の勝負はそういう戦いなんだ。

 

「私の公約は以上になります。これから私の作る生徒会に共感してくださった方は、一之瀬帆波への投票をよろしくお願いします」

 

一礼をすると大きな拍手をもらえた。

拙い部分もあったかもしれないけど、自分の気持ちをしっかり伝えることができたと思う。

 

あとは綾小路くんがどんな演説をするか。

ここで私たちが想像できないような奇策を出してくるのだろうか。

 

私と入れ代わる形でステージに登壇する綾小路くん。

その表情はいつも通り。

 

演台に立ち、ゆっくりと体育館の生徒を見渡す。

 

しばらく黙っている姿を見て、私語は許されないのだと静寂が訪れた。

それを感じ取った時、綾小路くんは口を開く。

 

「私のスローガンは『誰もが楽しめる学校生活』です。1年Dクラスからスタートした当時、私たちのクラスポイントは0に。恥ずかしながら貧困生活を余儀なくされました。私の例は極端かもしれませんが、まだ私たちは学生です。お金の使い方を間違えることもあるでしょう。間違いを通して学ぶ機会を得ている、とも考えられますが、ポイントの支給の仕組み上、一度大量に失うと取り返すのが難しいのが現状です。ポイントがないから試験で不利になるのは仕方がないかもしれません。ですが、そのために日頃から私生活を犠牲にするのもおかしい話です。そこで私が生徒会長になったらその点を改善します。プライベートポイントの使い道は主に特別試験。食事や遊びでの消費は極力抑えられるようにする予定です。一日一日が貴重な学生生活です。ポイントに縛られてやりたいことをやれない。楽しむ機会を失う。そんな学生生活は今日を限りに終了することを約束します」

 

いつも通り起伏の少ない淡々とした語りだったけど、想いは伝わってきた。

私だけじゃなくて、多くの生徒も共感したのか、自然と会場内が拍手で包まれる。

 

「――最後に、私がこの考えに至ることができたのは生徒会の活動を通して、ひいては元生徒会長をはじめとした先輩方のおかげです。そんな先輩方にも楽しんでもらえるように、OB・OGとして卒業後もこの学校を訪れることができる、そんな仕組みを考えています。私の公約は以上です。ありがとうございました」

 

綾小路くんは頭を下げて降壇する。

 

「チッ、綾小路の野郎……卒業後も俺と勝負がしたいってか」

 

綾小路くんの演説を聞いてちょっと嬉しそうな南雲先輩には悪いけど、元生徒会長が指すのは南雲先輩じゃなくて堀北先輩のことだよね……。

 

ただそれは抜きにしてもあの綾小路くんから、今の話が出たのは感慨深いものがあって、南雲先輩の気持ちもわかる。

 

長いようであっという間だった選挙選もあとは教室に戻って投票をするだけ。

この投票結果で新生徒会長が決定する。

 

教室に戻った後、小休憩を挟んだ後、携帯端末に投票のアンケートが届く。

生徒会長に相応しいと思う人にチェックを入れて送信をするだけ。どちらにも入れないという選択肢はないため、引き分けはない。

 

自分の名前を入れて送信ボタンを押し、目を瞑ってこれまでを振り返る。

 

結局、最後まで綾小路くんは正面からぶつかってきた。

私が3年生票を押さえているだけに、勝つことを優先するならあり得ない方針。

それでもそれを実行したのは伝統を重んじ生徒会活動に誇りを持っていた堀北先輩たちへの敬意みたいなものだろうか。

 

もしくは他の思惑がある?

そもそも生徒会長になるつもりはなくて、私に上手く任せるために正々堂々の熱戦を演じたとか?

あり得なくはないけどそこまで自惚れるつもりはない。

あんな立派な公約を掲げたからには、綾小路くんだって自分の手で叶えたいはず。

 

ただ一つ確実なことは、どっちが生徒会長になっても安心だってこと。

綾小路くんのおかげで自分らしく戦いきることができ、何の後悔もなかった。

 

「投票結果を発表します」

 

校内放送が終着の時を知らせる。

 

「獲得票数70%対30%で、次の生徒会長は――綾小路清隆くんが当選しました。おめでとうございます」

 

綾小路くんの名前が呼ばれて、クラス内では最初こそ落胆の声がちらほらと聞こえて来たけど、次第に綾小路くん相手なら仕方がないと私を励ます声が多くなっていった。

 

私自身、不思議なぐらい悔しい気持ちはなかった。

 

ただ、気になるのは私の投票獲得比率が30%だったこと。3年生の4クラス、私たちのクラスがみんな投票してくれていれば、少なくとも40%なければおかしいことになる。

綾小路くんが何かしらの手を打った証拠。

 

気になった私はすぐに綾小路くんに連絡を入れ、放課後、彼の元を尋ねた。

 

「完敗だよ。綾小路くん。就任おめでとう」

 

「ありがとう。ただオレの予想ではもう少し差がつくと思っていた」

 

嫌味ではなく素の感想。

わかりにくいけど、私の健闘を称えてくれている。

 

「どうやって勝ったのか、聞いてもいいかな?」

 

だからこそ遠慮なく聞くことができた。

 

「簡単な話だ」

 

携帯の画面を見せてくれる。そこに表示されていたのは1通のメール。

 

『投票直前にごめんね。雅が綾小路くんの演説で心を動かされたみたい。投票先は綾小路くんに変更です。素直じゃない雅の代理 朝比奈より』

 

朝比奈先輩が3年B、C、Dクラスに送ったメールだった。

送った時間は投票前の小休憩の時。他クラスは南雲先輩本人に確認する時間はなく、南雲先輩に近い存在の朝比奈先輩からの指示であれば、信じる生徒も多かっただろう。

いや、南雲先輩が心変わりしたと言っても違和感がないように綾小路くんはずっと真面目な姿勢で取り組んでいた、ということだね。

 

「まさか朝比奈先輩が南雲先輩を裏切るなんて」

 

「裏切り?そうでもないんじゃないか。事実、朝比奈に対して南雲からお咎めはないと思うぞ」

 

朝比奈先輩なら南雲先輩が本当に生徒会長にしたいと思っている人物を見抜けていてもおかしくない。

綾小路くんもそういう方向性で勧誘し仲間に引き入れたんだと話を聞いて察した。

 

「わざわざ匿名にしたのは?」

 

「匿名にすれば警戒の目は南雲を裏切りそうなその他大勢へと向かう。言い換えればこちらの本命の朝比奈に対するマークは薄れる」

 

南雲先輩も桐山先輩や鬼龍院先輩を中心に裏切りがでないように目を光らせていたし、そんな話が出てくればすぐに密告される仕組みが3年生内では出来上がっている。

 

でも、裏切りそうにない人物が裏切るつもりがなく計画を胸に秘め、当日単独で実行するなら密告されようがない。

 

「最後に一つだけ教えて欲しいんだけど、公約で掲げていたことは本当のこと?それとも策を通すために適当に並べた嘘?」

 

「オレが生徒会長である限りは実現に向けて尽力させてもらう」

 

つまりこの策を実行したのは、綾小路くん自身がどうしても生徒会長になりたかったからに他ならない。それ以上に喜ばしいことはないと思うし、今の綾小路くんを堀北先輩や橘先輩に見せてあげたいと心の底から思った。

 

「だったら私から言うことはないよ。これからもよろしくね、綾小路生徒会長」

 

「なんだか落ち着かない呼ばれ方だな」

 

「ふふ、そのうち慣れるよ」

 

こうして新体制での生徒会の第一歩を一緒に歩み始める――。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「帆波はどうだ?立候補する気はあるか?」

 

南雲先輩から催促を受け、じっくりと考えてみる。

だけど程なくしてあり得たかもしれない未来の想像は打ち切った。

いくらシミュレーションしてみても私が選挙で綾小路くん勝つのは無理だし、どんな理由を並べても綾小路くんを差し置いて生徒会長になろうとは思えなかった。

 

実力至上主義のこの学校の代表を務めるのに、彼よりもふさわしい生徒はいないのだから。

 

「いいえ。せっかくの機会ですが、生徒会長は綾小路くん以外に考えられませんので、私は辞退します」

 

「それでいいのか、一之瀬?」

 

「うん。私はそばで綾小路生徒会長を精一杯支えるよ」

 

「なんだか落ち着かない呼ばれ方だな」

 

「ふふ、私は似合ってると思うよ」

 

――

 

――――

 

――――――

 

――――――――――――

 

過去の自分を評価できるのは未来の自分だけ、か。

綾小路くんがくれた大事な言葉が胸を締め付ける。

 

『未来』になった『今』でも思う。

あの時、私が生徒会長になるって選択肢を見つけていれば、あんなことにはならなかったんじゃないかって。

 

でもこの気持ちは後悔とは違う。

 

だからこそ、みんなのためにも、私自身のためにも、綾小路くんを倒さなくてはならない。

 

そう決意して、随分と懐かしく感じる部屋の扉を開いた。

 







原作で実現しなかった生徒会長選挙。
もしちゃんと対戦していたら綾小路くんはどうやって勝つつもりだったのか、と考えた結果、こうかな?という一つの可能性のお話でした。
一般生徒は勝負のことは知らないはずなので、そこが付け入る隙のはず……まぁこんな上手くはいかないと思います。今回のお話は南雲先輩は勝っても負けてもいいと思っているのが前提&一之瀬さんにできた想像の範疇ということで。

過去2回のエイプリルフールは夢落ちだったので今回は毛色を変えてみました。
本編の未来の話なのかどうかは、エイプリルフールらしく前書きが嘘というパターンかもしれませんし、前書きが嘘かもというこのあとがきが嘘なのかもしれませんし、それも(以下無限ループ)←

一つ言えるのは、この話に本編が追いつくのは一体いつになるんだろうか……ということですね。原作も3年生編に入りましたし……。
長い道のりにはなりますが、そこまでお付き合いいただけると嬉しいかぎりです。

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