ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

162 / 172
およそ2か月更新できておらず、すみませんでした。



いずれ敗北するあなたへ

「きよぽんさ、彼女作る気ないの?」

 

「どうした藪から棒に?」

 

正妻戦争の告知をした次の日の朝。

教室に入るなり波瑠加から尋ねられる。傍にいる綾小路グループの面々も関心の目を向けてきた。

 

「ヤブでもカラでもボウでもなくって、正妻戦争とかふざけた企画についての率直な感想」

 

「なるほど」

 

似たようなことをご機嫌()()()櫛田にも指摘されたなと昨日の夕食の時間を思い出す。

 

 

『今日の夕飯はなんだか豪勢だな』

 

食卓には霜降りローストビーフをメインとした献立が並んでいた。

何かの記念日だったかと思考を巡らせてみたものの思い当たる節はない。

取引のための交渉材料か、シンプルに罠か、あるいは堀北の退学でも決まったのか。そう疑いたくなるほど。

 

『ま、ちょっとね。それより正妻戦争ってやつだけど、今のところ誰からも応募ないでしょ?』

 

『そうだな』

 

『このまま誰も応募しなかったら惨めだよねー』

 

『……』

 

『そんな可愛そうな清隆くんのために、特別に『清隆くんが堀北を退学にできたら勝ち』ってルールでなら勝負してあげてもいいけど?』

 

『悪いがそれは承認できないな。『桔梗に堀北を退学にされたらオレの負け』なら歓迎する』

 

『はぁ?それじゃアンタと付……堀北退学にできないじゃないッ』

 

一瞬で天使から悪魔に豹変した櫛田。

このままだとひと暴れしかねないため補足を入れることにした。

 

『正妻戦争の本質は勝負を通して相手を知ることだと考えている。オレを倒すために本気でぶつかってくるからこそ、相手の深いところまで見えてくる。真剣な相手にはこちらも真剣に応えたくなるだろ?さっきの条件変更はそういう話だ』

 

『じゃあマジでガチな勝負なわけ?わた……誰かと付き合うための建前とかでもなく?』

 

『ああ、マジでガチな勝負だな』

 

『はぁ……。ってことはもう清隆くんに彼女はできないってことになりそうだけど、それでいいの?』

 

『その時はその時だ。本音を言えばそうあって欲しくはないんだけどな』

 

オレは決して無敵ではない。

倒すことのできる存在、そうでなければならないといつからか期待し始めている。

 

それだけオレは――――。

 

 

「理屈はわかったけどさ、やっぱりきよぽんを倒すって現実的だとは思えないんだよね」

 

櫛田に説明したような内容を波瑠加たちに伝えると、これまた似たような苦言が飛んでくる。

 

「そうでもない。この学校に来てから負けを感じたことは何度もあった」

 

「ええっ!?清隆くんが?く、詳しく聞いてもいいかな」

 

ここまで黙って聞いていた愛里だったが、オーバー気味のリアクションで驚いたのち、言葉では遠慮しながらも、こちらに寄ってきて力強く聞いてきた。

 

「例えば、元生徒会書記の橘がそうだな。生徒会に入って間もない頃、鬼ごっこのようなことをする機会があったが情報アドバンテージの差で捕まった経験がある」

 

「なるほど……?」

 

オレと橘が鬼ごっこをしている姿は想像できなかったのか、愛里は首を傾げながら相槌を打つ。

 

「あとは愛里たちも知っているところで言えばペーパーシャッフルか。坂柳の出題した文章問題は見事だった。麻耶がいなかったら退学になっていたところだ」

 

テスト関係の話題になったためか、啓誠も興味を示し会話に加わる。

 

「あの点数は何か意図があったわけじゃなかったんだな。清隆が解けない問題を作る……確かに難易度は高いができないこともないのか」

 

……啓誠、まさか正妻戦争に参加するつもりなのか?

広告・宣伝を依頼した諸藤の手前、男性NGにはしていないのだが、実際に申し込まれることは想定していない。今のうちに無難な断り方を考えておくべきか?

 

「だったらもしそれが正妻戦争での勝負だったら、清隆は橘先輩や坂柳と付き合ったってことか?」

 

「そうなるな」

 

「マジか。ある意味、腹は決まってんだな。そういう恋愛観もありっちゃありなのか……」

 

明人は明人でオレがどこまで本気なのか気になっていたようで、そんな確認をしてきた。この取り組みが普通とは言えないことぐらいはオレでもわかる。

 

「うーん……」

 

「気になることがあるなら言っちゃいなよ、愛里」

 

考え込む愛里の様子を見かねたのか波瑠加が背中を押す。

 

「えっとね、橘先輩や坂柳さんぐらい優秀じゃないとチャンスがないのは、ちょっと悲しいかなって」

 

ちょっとどころかこの世の終わりのように落ち込んでる。

その隣の波瑠加からは物凄く睨みつけられた。

 

「オレが言うのもなんだが、工夫次第だと思うぞ。そのためにルールは大雑把にした」

 

「そ、そうなの!?」

 

表情に色が戻る愛里。

波瑠加に影響されたわけじゃないが、なんだかいたたまれない気持ちになり少しだけヒントを出すことにした。

本来その点も気づいて行動に移してくれることがベストだったが、この話が広まり参加者が増えるのならそれはそれでいい。

 

「例えば、誰かと勝負中に、他の生徒から勝負を申し込まれた場合、物理的に両立ができない内容でない限りは同時並行で行うことになる」

 

つまり複数人で徒党を組み同時に挑んでくれば、ひとつひとつの勝負に対する精度は落ちていき、付け入る隙は生まれる。

 

ただその場合、『誰が最初に勝負で負けを認めさせるか』、『両立可能なルール設定をしなくてはいけない』などいくつか課題もあり、徒党をまとめるにはよほど巧い交渉と条件設定が必要になる。

 

あえて公言はしないが、この例なら単体の勝負自体の勝敗ではなく、徒党組みを成し遂げた人物に対して負けを認めることになるだろう。

『オレが敗北を認めた相手』という条件にした理由はここにある。

 

「なんだかそれはそれで難しそうだね」

 

「他にも勝負する人間が必ずしも申し込んだ本人である必要はない」

 

「殴り合いのタイマン勝負を挑んで、アルベルトを戦う相手として連れてきてもいい、みたいなことか?」

 

「ああ、明人の言う通りだ。ただそれをオレがどう評価するかは別の話だけどな」

 

「工夫も含めて審査対象ってことかぁ、単純に清隆くんに勝てばいいわけじゃないんだね。そうすると……」

 

ここまでの話を聞いて何か閃きかけているようで、愛里は先ほどまでとは違う表情で悩み始めた。

 

「いまの例はほんの一例だ。挑戦者がルールの穴をどう突いてくるのかも楽しみのひとつだからな」

 

以前の愛里なら自分には無理だと諦めて勝負を挑んでくることすらなかっただろうが、この1年で急成長を遂げた雫モード愛里なら何かやってくれるかもしれない。

 

「なーんかヘンテコなお見合いって感じ。きよぽんらしいと言えばらしいけどさ」

 

「言い得て妙だな」

 

相手を詳細に分析し、作戦を立て、攻略する。

そしてオレも挑んできた相手に同様の対応をする。

――それはつまり、恋の過程と類似しているのではないだろうか、という仮説。

 

であれば、オレもきっと答えを見つけることができる。

 

こちらの想定を上回る展開に直面した時、オレは恋に落ちるに違いない。

来るその時を想像すると胸が躍るような気持ちだ、多分、きっと、おそらく。

 

それだけオレは――

 

――外の世界には可能性が満ち溢れているのだと信じて願うようになったのだから。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

放課後の生徒会室。

議題は夏に予定された特別試験についてだった。

 

「今年の夏は全学年合同で無人島試験を実施することになった」

 

「あの無人島試験を、全学年で行うんですか!?」

 

南雲の一言に1年役員はピンときていない顔をしているが、一之瀬は驚かずにはいられなかったようだ。

無人島では同学年の対決だけでも色々あったからな、無理もない。

 

「そんなに驚くようなことなんですか?」

 

八神が一之瀬に尋ねる。

 

「あー、うん。そもそも無人島試験は在学期間中に1回だけって話だったから」

 

「そういうことでしたか」

 

驚きすぎたことへの照れ隠しか、昨年の試験を思い出しているのか、一之瀬は遠くを見ながら話を続ける。

 

「楽しいこともあったけど、過酷な試験だったよ。ね、綾小路くん」

 

「そうだな。大自然を満喫したのはもちろんだが、釣りをしたりスイカを割ったり、チャーナビで遊んだり、星を見たりと無人島では様々な体験ができたな」

 

「それは間違いなく過酷ですね、僕に耐えられるかどうか」

 

「さすが綾小路くん、後輩を不安にさせない気配り達人!ってあれ?」

 

嫌そうな顔をする八神と明るく振る舞う一之瀬の発言が被る。

 

「ったく3人でボケてどうすんだ」

 

どこか噛み合わないオレたちの会話を見ていられなくなったのか珍しく南雲がツッコミを入れた。

 

「ま、帆波が驚くのも無理はない。これも俺が生徒会長になったからこそできた新しい試みってやつさ。学年関係なく戦える舞台を作る目標がひとつ達成できたわけだ」

 

今度は南雲も遠くを見ながら話す。

普段なら声高々に成果を自慢しそうなものだが、妙にしんみりしているのは、一番戦いたかった相手を思ってのことだろう。

 

「学校が準備したルールは手元にある資料の通りだ。毎度のことだが、学生側代表として意見があれば学校に上申できる」

 

特別試験に問題がないか生徒側からチェックできる仕組みも、月城が理事長代理をしている以上どこまで意味があるかは疑わしい。

 

南雲は自分の成果と言っていたが、この特別試験もオレを退学にするために月城が用意したものだろう。試験の規模からも向こうの本気度が見て取れる。

 

相手が仕掛けてくる以上、無人島でオレが取るべき行動はグループを組んで上位入賞を目指すことではなく、単独で身を守ることに特化した動きとなるわけだが――。

 

「ひとつよろしいでしょうか?」

 

資料に目を通し終えた八神が挙手をする。

 

「1年が最初に意見を出せるのは大したもんだ。言ってみろ」

 

「はい。気になったのはグループ組についてです。現状では、男女比に関する取り決めはありますが、それだけではワンサイドゲームになる恐れがあると思います」

 

今回の無人島試験では、学年内であればクラス関係なく最大で3人までのグループを作ることができる。(1年生はハンデで4人まで)

 

八神が言及した『男女がグループを組む場合は男子1:女子2でなくてはならない』というルールの主な意図は異性間でのトラブルを抑止するためだろう。

つまり、各グループのパワーバランスを取るためのものではないため、それだけでは試験が成り立たない、と表向きには主張している。

 

「このままでは実力のある生徒だけで構成されたグループが一方的に活躍するのは目に見えています。他の生徒たちは上位を狙い切磋琢磨するのではなく退学にならない順位で適当に過ごすだけになってしまうのではないでしょうか?」

 

八神の言うことにも一理あるが……。

オレは桐山に視線を送る。それを確認した桐山は八神の意見に反論した。

 

「八神の考えはわかった。だがこの場合、より強いグループを組めるかの交渉も含めて試験だと考える。自クラスの優秀な生徒だけで戦力を固めれば、残ったクラスメイトは力不足のグループになり退学になるかもしれない。かと言って、報酬が分割になる以上、組むクラスは少ない方が良い。そういった戦略や交渉の過程も試されているとみれば現状でも問題はないはずだ」

 

クラスの精鋭でグループを組んで上位3グループに入れたとしても、残ったクラスメイトのグループが下位5グループに入ってしまえば意味がない。退学かそれを回避するポイントを払う分、損することになる。

桐山の言う通り、他クラスとの駆け引きも含め、試験として成立していることは間違いない。

 

「おっしゃりたいことは理解できます。ですが、無人島内での経験に重点をおくべきです。考えてみてください。南雲先輩やオールA+の綾小路先輩が学年上位の生徒たちと組んだグループが出てきたとして、それでも1位を狙いに行きますか?」

 

「それは……」

 

「頑張るだけ無駄だと思ってしまう生徒が大半ではないでしょうか」

 

オレたちが経験した無人島試験と違い、クラス単位ではなく、グループ単位で争うため、個人が多少サボったところでクラス争いに影響はない。

クラスポイントを得られるのは上位3位まで。全学年で戦うことを踏まえると入賞は相当な倍率となる。

最初から上位入賞を狙えないグループなら、わざわざキツイ思いをして無人島生活を送る必要性は薄く、退学ペナルティのある下位5グループにならないように過ごすだけでいい。

 

「だが、無人島内で行われる課題ではあらゆる力が試される、とある。俺は南雲たちが相手でも諦めはしない」

 

課題の詳細は生徒会役員にも伏せられているが、実力上位の数グループだけで順位を争う試験になることは否定できない。

もちろん、上位グループ同士が争っている間に漁夫の利を狙うこともできれば、他の上位グループを妨害する要員としての役割を持たせるなど、その他グループメンバーもやりようはいくらでもある。

ただそれでも全員が上位を狙える環境ではないことは確か。

 

桐山は食い下がろうとしたが、南雲が割って入った。

 

「まぁ待てよ、桐山。八神もそこまで言うからには、その状況を改善できるアイディアがあるんだろ。それを聞いてみてから判断しても遅くはないはずだぜ」

 

「……そうだな」

 

桐山を嗜め、南雲は八神に続きを話すように促す。

 

「せっかくOAAで実力が可視化されているんです。『グループの総合力の平均がB以下でなければいけない』というルールを追加すれば極端な実力差は生まれず、上位を狙えるグループが増えると考えます」

 

「それは面白そうだな。生徒会長として学校に上申しても良いと判断するが、他はどうだ」

 

南雲からの投げかけに真っ先に頷く溝脇と殿河。

八神の提案からのスムーズな進行をみるに予め段取りをしていたようだ。

 

今度は桐山がオレを見てきたため、黙って目を閉じる。

 

「それなら俺も異論はない。制限のある中でベストメンバーを探す仕組みは俺の意見と反することではないしな」

 

「それじゃこの案は学校に提出させてもらう」

 

桐山が折れたことで南雲が話をまとめた。

これで単独行動はおろか、総合力A+のオレは誰かと組まなければ参加すらできないことになる。

グループの実力差をなくす建前で、早々に単独行動を封じられた。

 

「他に意見はあるか?」

 

南雲が形だけの確認をする。

最終的な決定権が月城にある以上、こちらに有利になる、あるいは向こうの戦略を予測し無効化するアイディアを提案しても採用されるとは思えない。

 

「ないなら俺からの意見だが、この試験で配布される基本カード、特殊カードだけじゃ戦略が広がらないと思わないか?」

 

南雲がそう切り出したということは、どうやらオレへの対策はまだ終わりじゃないらしい。

 

「確かに今の条件だと無人島内で効果を発揮できるのは『増員』くらいですね」

 

八神がキャッチアップし同調する。

 

「だろ。だからこれらとは別に『戦略カード』の導入を提案するつもりだ」

 

「戦略カードですか?」

 

「課題の報酬や無人島内で購入でき、使用すれば文字通り戦略を変更できる効果を持たせる。帆波たちは覚えがあるだろうが、リアルケイドロの時のアイテムカードを参考にした形だ」

 

確かにただのケイドロと宝探しに戦略性を与えていたのはアイテムカードに他ならない。

 

「すでに何枚か作っておいた。だが俺の作ったカードだけ採用すれば平等性に欠け、学校側から否認されるのは目に見えている。そこで生徒会内で各学年代表2名がそれぞれ1枚ずつ考えたカード、計6枚を追加する。各々次の会議までに戦略の幅が広がるような面白い効果を考えておけよ」

 

そう言って追加の資料を各自の端末に送信してきたため、ざっと目を通す。

 

************

 

【戦略カードの概要】

 

・試験中、課題の報酬や島内で獲得できる場所の設置、スタート地点で購入などで入手できる

 

・所持数は最大で1人3枚まで(超過した場合は使用するか、破棄するか、合成するかをその場で決める必要がある)

 

・使用は1人1日1枚まで(レベルアップカードを除く)

 

・他者が使用してきたカードの効果を受けるのは1日最大で1回まで

 

・カードにはレベルが設定してあり、レベルアップカードもしくは同じカードの合成でカードのレベルを上げることができる

 

【現在想定しているカード一覧】

 

・チャレンジ

 

LV1 次の着順ボーナスを2倍にできるかわりに着順が半数以下だった場合、その日そのエリアで着順ボーナスを得られない

 

LV2 次の着順ボーナスを2.5倍にできるかわりに着順が1/3以下だった場合、その日そのエリアで着順ボーナスを得られない

 

LV3  次の着順ボーナスを3倍にできるかわりに着順が3着までに入らなかった場合、マイナス10ポイントとなる

 

・チェンジ

 

LV1 自分たちのグループのチェックポイントの位置を変更できる(ランダム)

 

LV2 自分たちのグループのチェックポイントの位置を変更できる(現在の位置から5マス以内のどこか)

 

LV3 自分たちのグループのチェックポイントの位置を変更できる(任意のポイント)

※ただし次のチェックポイントは本来の位置から算出される。また、着順の計測は同じテーブル内で行われる。

 

・ロブ

 

LV1 同じエリア内にいる生徒の中(グループメンバーを除く)からランダムに所持している戦略カードを1枚奪う

 

LV2 同じエリア内にいる生徒を指定してランダムに所持している戦略カードを1枚奪う

 

LV3 同じエリア内にいる生徒を指定して所持カードの中から任意の戦略カードを1枚奪う

 

 

・レベルアップ

 

所持している戦略カード1枚を指定して、そのレベルを上げることができる。上がるレベルは成功(LV1アップ)、大成功(LV2アップ)と使用した際に確率で決まる

 

 

************

 

会議が終了し、足早に退出した南雲や殿河、溝脇たちに続き、八神が一礼して生徒会室を後にする。

 

「すまない、綾小路。結局何の役にも立てなかった」

 

「いえ、十分です」

 

それを見計らい頭を下げてきたのは桐山。

桐山を生徒会復帰させる条件として、いくつかの取り決めをしておいた。

 

先ほどの目配せもそのひとつ。

これまでの桐山であれば裏切りの可能性も考慮し利用する考えはなかったが、先日の一件でそれを改めた。

 

現在生徒会では、南雲、八神、そしてカメラ越しにこちらを監視しているであろう月城がオレを退学にしようと画策している。

 

ここで大事になってくるのはオレの情報、考えを見せずに相手の出方を見ること。

 

先ほどの会議で賛否に関わらずオレが意見を出せば、そこから互いの戦略の読み合いが始まる。

それを回避するのに1番簡単な方法は、オレ自身が発言しないこと。

 

オレが桐山に指示を送ったことまではわかっても、桐山になんと指示を出したかわからないのであれば、考えるだけ無駄になる。

実際、オレは桐山の好きに意見を出させていたため、仮に桐山を尋問しても無意味に終わる。

 

これまでオレが取ってこなかった動きだったにもかかわらず南雲たちに変わった反応はなかったことから、こちらがどう反応しようとも、八神の案を通し単独行動を封じ、戦略カードを試験に組み込むことは決定事項だったようだ。

 

つまり月城は、オレを退学にできる条件はそれで整うと判断していることになる。

 

注意すべき点は、最初から特別試験のルールとして組み込まずに、わざわざ生徒会経由で試験内容を変更する意図。

 

ここを読み間違えると深手を負う可能性がある。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「この状況持ち込めたからには、綾小路が提案してくる戦略カードは予想できる」

 

生徒会室を退室した後、特別棟の一室で恒例となりつつある南雲との密会が開かれる。

先ほどの会議を振り返った南雲は、答えはなんだと思う?と話を振ってきた。

 

「そうですね……単独行動を可能にするカードでしょうか」

 

「八神もわかってきたな。俺たちはそこに的を絞ればいい」

 

「なるほど」

 

綾小路清隆の本質を理解していない割にはそれこそ的を射た話。

綾小路……いや、ホワイトルーム生であれば、足手まといになった駒は容赦なく切り捨てる。

途中まで利用するにしてもいつでも捨てられる算段はつけておくもの。

 

こちらがつけた足枷を外す機会を作らせることで、それを阻害するか、外して油断した瞬間に仕掛けるか、と攻撃の狙いをつけやすくなる。

 

いずれにせよ、相手の行動が予測できる分、一手上回れる、という考え。

 

「この前も少し話したが、これまでのデータと傾向から綾小路に対してタイマンはご法度だ」

 

「勝負を挑む際には複数人で対応する、ということでしょうか」

 

「いや、大事なのはこっちの人数よりも相手の人数さ。ケイドロの時もサッカーの時も、手がつけられなくなるのは綾小路が単独で動いた時だった。アイツなりの協調性なのか知らないが、足手まといが一緒に居る間は本領を発揮しない」

 

南雲の認識にはいくつか間違いがあるが、そのことはあえて訂正せず、感心したように驚いてみせた。

 

「警戒すべきは、綾小路先輩が単独で試験に挑むこと。それをルールで禁止した上で、あえて単独になれる機会を与えることで行動を縛り、こちらはそれを全力で潰すわけですね」

 

「ま、そんなとこサ」

 

ニタつく南雲に不快感を覚えながらも面には出さない。

 

「普通なら人数が多い方が有利な試験。単独で勝負になるはずがない。が、綾小路は別だ。アイツならこの試験でさえも1人で勝ちうる」

 

「随分と綾小路先輩を買っているんですね」

 

思ったことをそのまま口にしてしまい自分でも珍しく感じたが、直前の南雲の表情が不快すぎて無意識に話題を変えたかったのだろうと結論づけた。

 

「そりゃそうさ。タイマンで10本勝負をしたら勝ち越すのは綾小路だ。単純な学力、運動能力じゃ分が悪い」

 

「……意外です」

 

「何がだ?」

 

「失礼ながら南雲生徒会長は負けを絶対に認めない方なのかと思っていました。……悔しくはないんですか?綾小路先輩と比較されたり、負けたりすることは苦痛では?」

 

「根本が間違ってるぜ、八神。強敵だから挑むんだろ。例え9本負けても最後の1本の大勝負で勝てばいい。そのための負けは必要経費、いや最高に刺激的なスパイスでしかない」

 

能天気なものだ。

こちらは一度の敗北で全てが終わる。だから仕掛けるタイミングを慎重に見極めているというのに……。

 

この前の勝負を楽しむ話といい、今回といい、南雲の考えに対しては、蔑みや呆れが9割9分9厘を占めていた。

 

だが、残り1厘分、心の片隅に何か違う感情が……あるような気がしたが、やはりそれは気のせいで、あるとしても南雲に対してのイラつきだろう。

 

「どうだ?こんなに楽しいことはないだろ」

 

自分が勝利する未来でも幻視したのか、より面倒臭くなる南雲。

 

「八神はそこんとこイマイチだな。もっと楽しめ。そうすればもっといい勝負ができる」

 

返事をしないことを気にも留めず、勝手に話し続け、勝手にこちらを評価し始める。

理解も共感もできない話に付き合い続けるつもりはない。

 

「話は理解しました。僕が提案する戦略カードの方向性も見えてきましたので、決まったらご相談させて頂きます」

 

「それで構わないぜ。……試験中、俺は俺で綾小路と戦う予定だが、そっちの策に人手が必要なら何人か派遣する余裕はある」

 

席を立とうとしたところで、何を思ったのか、そんな提案をされた。

 

「お気持ちだけ受け取っておきます。僕も使えそうな駒と接触中です。夏までには躾けておきますよ」

 

余計なお世話でしかないが、食い下がられないよう丁重に断る。

 

「ハッ、地が出始めたな。その刺々しさ、包み隠さない方が話しやすいぜ?」

 

「それは何よりです」

 

適当にあしらった方が喜ぶこの男はもう手遅れかもしれない。

そんなことを考えながら特別棟を後にする。

 

不要な接触は控えたいが、目をつけた駒を使える道具へと仕立てるための時間は少しでも多い方がいい。

 

携帯端末を取り出して、対象を呼び出すため文章を入力していく。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「綾小路くん、ちょっといいかな?」

 

生徒会室から八神が退出した後、力なく立ち上がり荷物をまとめる波多野を見た一之瀬が話しかけてきた。

 

「最近、波多野くん元気ないよね」

 

「そうだな。今日の会議でも一切発言していなかった」

 

波多野はやる気だけなら生徒会でも1番と言える存在。

普段なら手を挙げて疑問を口にするなり、意見を言うなり、オーバーなリアクションを見せるなり、何かしらの動きはある。

 

「少し心配だよね。良ければ綾小路くんから声をかけてみてくれないかな?」

 

「まぁ後輩の面倒を見るのは先輩の役目か」

 

一之瀬の意図を察し、了承する。

 

「うん。お任せするね、()()()()()()()

 

そう揶揄う一之瀬に送られて、退出した波多野の後を追う。

……妙に『先輩』の発音が天沢寄りだった気がしたのはきっと偶然だろう。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

波多野くんを追いかけた綾小路くんを見送る。

あちらは綾小路くんが解決してくれるから私は安心して1人残った生徒会室で今後のことを考える。

 

元カノの噂や正妻戦争のことは一度頭から消し去る、うん、消し去れるよう努力をする。

優先順位を間違ってはいけない。消し去れないまでも脇に置いておく。

よし、大丈夫、大丈夫。置けたよ。

置いたからには時が来るまでは触らない。うん、触っちゃダメ……。

 

両手で頬をバシッと叩き、半ば無理矢理気を取り直して、無人島試験について考えを巡らせる。

 

今度の無人島試験で注目すべき点は、他学年からもクラスポイントを奪取できること。

特別試験はクラス対抗だから、基本的に勝利したクラスのポイントは増えても、敗北したクラスはその分減ってしまう。

つまり、これまでの特別試験では学年での総クラスポイントの変動は起こりにくかった。

 

私たちの目指す24億プライベートポイントでの全員Aクラス卒業のためには、この総数を少しでも上げておくに越したことはない。

 

だから南雲先輩たちの思惑を差し引いて考えても、私たちにとって今度の無人島試験は最大のチャンス。

 

理想の展開は3年生を倒して2年生が上位3グループを独占すること。

 

ここから3年間ある1年生と比べ、3年生は卒業が近くクラス争いもほぼ決着しているから、ポイントを失う重みが違う。

これまでお世話になった3年生を狙うのに罪悪感がないと言えば嘘になるけど、皮肉にも南雲先輩の作ったポイント献上システムのおかげで、3年生のクラスポイントが減って痛手を負うのは南雲先輩になる。

もっと言えばポイントの総数が減ったら南雲先輩の浪費癖(綾小路くんに無駄な勝負を吹っ掛けるの)も改善するかもしれないため、やっぱり狙うなら3年生だ。

 

だからこの試験での私の仕事は、2年生の団結。

協力して3年生を倒せるよう準備を進めていかなくてはならない。

 

そしてもう一つ大事になってくるのは提案できる戦略カードの存在。

明らかに南雲先輩が自分の都合の良い展開へ進めるために用意したもの。その戦略を読み、対抗できるカードを提案しなくては2年生が一致団結しても勝てない可能性が出てくる。

 

生徒会3年生でカードの提案をするのは、溝脇先輩と殿河先輩だから事実上南雲先輩が提案してくる形。

さらに八神くんは南雲先輩側みたいだけら+1枚。南雲先輩が指名して入会したんだから、それは仕方のないことだけど、そうするとすでに3枚の戦略カードが南雲先輩の自由にできることになる。

 

そこに波多野くんまで加わってしまったら、私たちの提案する2枚だけでは手の打ちようがなくなる。

最近の弱っている波多野くんなら生徒会長の指示や同期の八神くんのお願いにすんなり乗ってしまいかねなかった。

 

そう言った意味で、綾小路くんを波多野くんの元に向かわせた判断を間違いだとは思わない。

 

「思わないんだけど……」

 

波多野くんが抱える悩みに私欲のために介入する――そんな判断ができてしまう自分自身の変化に気持ち悪さを覚えずにはいられなかった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

階段付近で、力なく歩いていた波多野に追いつく。

 

「波多野」

 

「え、あ、綾小路先輩!?あー……えっと、ご、ごめんなさいっす、自分、これから行くところがあるんで、失礼しま――ぐえっ」

 

慌てて逃げようとしたため、問答無用で後ろ襟を掴んで止める。

苦悶の声が聞こえたが、大人しくさせるにはこれぐらいの強引さが必要だと判断した。

 

「こ、降参っす。逃げないのでリリースしてくださいっす。自分、まな板の鯉になるっす」

 

早々に白旗を揚げたため手を放す。

 

「綾小路先輩、たまに強引なところがあるっすです」

 

「そんなつもりはないが、よく言われるな」

 

ジトっとした涙目を向け何かを訴える波多野。

 

「でも少しは元気になったんじゃないか?」

 

「今まさに元気どころか命を無くすところだったんすけど……いえ、このぐらい受けて当然の罰ですね」

 

ふぅと息を吐き呼吸を整えた波多野は、勢いよく頭を下げた。

 

「心配をおかけしてしまったみたいっすね。すみませんっす」

 

「ここ最近、波多野らしくなかったからな。何か悩みがあるなら話を聞くぞ」

 

『先輩らしく』を意識して問いかける。

 

「その……悩みというか、綾小路先輩に合わせる顔がなくって……」

 

「オレに?」

 

心当たりはないため、波多野が続きを話すのを待つ。

 

「この前のネームスパイダーズとの一戦で綾小路先輩のシュートを邪魔してしまったことです」

 

「……」

 

ネームスパイダーズ?ああ、ナグモンズのことか。

 

「やっぱり怒ってますよね……。椿さんがカバーしてくれなかったら、あの試合負けててもおかしくありませんでした。何とお詫びをすればいいのか、自分、わかりません」

 

返事をせず変な間を開けてしまったことで誤解した波多野の顔色が再び悪くなる。

 

「あのとき自分が馬鹿みたいに飛び出しさえしなければ……」

 

「そこまで言うなら正直な感想を伝えさせてもらうが――」

 

空気の流れが変わったことを感じとった波多野は緊張した面持ちでオレを見る。

どんな罵詈雑言や叱咤が飛んでくるのかという恐怖を必死に抑え、受け止めようとする姿勢だ。立派なことだが、波多野の思っている展開にはならない。

 

「――あの出来事でオレは波多野を見直した。評価こそすれ、責めるはずがない」

 

「へ?そんなことあるはずないです。先輩の邪魔をしてしまったんですよ」

 

キョトンとする波多野はオレが気を遣っていると捉えたようだ。

 

「結果だけ見ればそうだが、本質はそこじゃない」

 

あの試合、足を痛めた八神が他の誰かを利用すること、その対象が波多野になることまでは想定の内だった。

ただ、それまでの走力や体力などから導き出した計算上では波多野がどんなに走ってもあのコースに撃てばボールに間に合うはずがなかった。

要は障害にならないと可能性から切り捨てていた存在。

 

波多野はそれを覆して見せた。

 

あの瞬間において波多野はオレの予想を上回ったということ。

もしくはオレに悟らせることなくこれまで巧みに実力を隠していた……という線もなくはないが、どちらにせよ、見誤ったオレのミス。

 

「オレが入れるつもりで撃ったシュートを防いだんだ。正直言ってどんなに走ろうとも届くとは思っていなかった。あれは波多野が自分の限界を超えて頑張ってくれた結果だと考えている。その頑張りを責めることは誰にもできない」

 

「綾小路先輩……」

 

火事場の馬鹿力とでも言えばいいのか、波多野はオレには再現できないことをしてみせた。

 

「だから気にする必要はない」

 

「お言葉は嬉しいんですが、やっぱり自分を許せないんです」

 

外野が何と言おうと罪悪感は消えるものではない。それをどうにかできるのは自分自身のみ。

 

「ならこれから波多野らしく成長して、いつか足を引っ張った分以上の活躍をすればいい」

 

「自分らしく……?」

 

「そもそもの話、今回は実力以上の結果を求めて無茶し過ぎたことが発端だろ。焦って無理をしても空回りすると身に染みてわかったはずだ。波多野は地道に努力をできる人間だとオレは思っている。波多野のペースで成長していけば、いずれ生徒会でも活躍できる」

 

「こんな自分にできるでしょうか……」

 

「それは波多野次第だ。少なくとも落ち込んで立ち止まっていたら変わるものも変わらない」

 

波多野の肩に手を乗せ目を見て伝える。

 

「……ありがとうございます。自分、また頑張るっす!」

 

そう力強く宣言した波多野の表情からは陰りが消えていた。

波多野はそれでいい。下手な入れ知恵や真似事は本来の魅力を失いかねない。

 

「こうしちゃいられないっす!無人島試験に向けて体力作りしてきますッす」

 

手を振りながら駆け足で去って行った波多野を見送りながら、『先輩らしさ』から思考を切り替える。

 

ヒトは突然進化したり、やる気や想いの力で実力以上の能力を発揮したりはできない。

 

いざという時、未知の力や奇跡に縋るのは愚行だろう。

壁が立ちはだかった時、乗り越えられるかどうかはそれまでの積み重ね次第。

 

この学校に来るまではそう結論づけていたが、ここではそれを疑いたくなる反例がたまに出てくる。

 

未だ計算しきれない『ヒトの可能性』。

 

波多野を観察していればその糸口ぐらい掴めるだろうか。

その兆しを今後も見せてくれることを期待したい、そう思う自分もいる。

 

そんな心境の変化を今は喜ばしいものとして捉えることにした。

 





久々の更新ですが準備回となってしまったのも申し訳なく……。

無人島試験の詳細は試験が近くなった時にでも。(少し先になりそうですが)
基本的には原作と同じルールに、今回の話の内容が追加されるイメージです。
今回生徒会には、島の地図、購入物リスト、課題の内容以外のルールは共有されています。

次の話も半分は出来ているので比較的早く更新できるかと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。