少し遅い晩御飯を調達するためコンビニに入店した。
入学当初は弁当の種類の多さやボリューム感に驚きもしたが、自炊を経験したからだろうか、どうも量が少なく見えたり、価格も割高に思えるようになったから不思議だ。
そんなこともあって久しぶりの来店なのだが、いざラインナップを見てみるとどの弁当に挑戦してみるか、吟味してしまう。
幕の内のようなバランスがよさそうなものにするか、せっかくならと丼物にしてみるか。麺類なんかも捨てがたいな。
一応パン類も見てみるかと、商品棚を移動したところで新商品と書かれ目立った装飾で陳列されたパンが目に入る。
『辛甘の奇跡のハーモニー!ハバネロチョコハニーソースがけ 鬼辛チョリソーホットドッグ』
感動体験!今1番売れてます!といったポップが貼ってあるが、名前からはとても美味しそうには思えない。
だが、店側がおすすめしているのだからある程度の味は担保されているはず。
鬼辛とは何かも気になったため挑戦してみるのも悪くないかと手に取ったところ
「それ、激マズだからやめた方が良いわよ」
そう横から声をかけてきたのは軽井沢恵だった。
「そうなのか。店側のおすすめみたいだが」
「売れてないから必死なんでしょ。こんな露骨な手に引っかかるなんて清隆も抜けてるとこあるわよねー」
「……まずいと知ってるってことは恵も引っかか――」
「私のおすすめはこっち」
いくつかパンを選んで押し付けてくる。
「清隆の胃を守ってあげるんだからありがたく受け取ること」
「ああ。ヘビーユーザーの恵が言うなら信用できるな」
「でしょ。……って、なんか含みない?」
「全く」
「そう言う時の清隆ってからかってるときなんだけど」
鋭いのか鋭くないのか。
恵独自の視点での分析が当たっているのは面白い。
恵も食料の調達に来たようでオレに渡したパンと同じものをかごに入れた。
「そういえばさ、応募状況はどうなの?」
「パン祭りならこの前終わったぞ」
「そうじゃなくて、あんたの彼女を決めるってやつのこと」
「気になるのか」
「べ、別に私には関係ないしぃ。ちょっとした世間話のネタを提供しなさいって話よ」
「そう言う時の恵は気になってるときだよな」
「きよたかぁぁ?」
「何でもないです」
意趣返しをしたつもりだったが、触らぬ神に何とやらだなと即白旗を揚げる。
「それで世間話のネタの提供は?」
「残念ながら提供するものがない。誰も応募してないからな」
「ふーん、まっそうよね」
よほど面白かったようで頷く恵は笑みを浮かべていた。
「笑うのは酷いんじゃないか?」
クラスカースト上位の恵からしてみればモテない男だと笑えるのかもしれないが、流石にちょっと傷つく。
「えっ、顔に出てた?いや、全然嬉しくないし、面白くもないし。あーヤダヤダ、勘違いボーイがいるわよ」
高円寺風の呼称を使ってまで追い打ちするとは……。
これも友人の距離感というものだろうか。綾小路グループ内では起こらないやりとりなので、新鮮ではある。
「んで、私としてはさ、意を決して平田くんと別れてフリーになったんだけど、何か思うことはないわけ?」
脈絡のない問いが飛び出したが、恵の過去が過去だけに周りの目が気になっているのかもしれない。
偽装カップルの関係解消は事前に洋介から相談されていたため、全く驚きはなかった。
そのことを正直に話せば機嫌を損ねるのは目に見えているが、かと言ってこの場合の正解の回答は持ち合わせていない。
「今のところ洋介のファンを喜ばせただけなんじゃないか」
オレの出した結論は『答えているようで答えない』。逃げの一手だが、これなら怒りようもないだろう。
「そういうとこだよ、清隆」
「どういうとこだ?」
「まさしく僕ニンジンってヤツじゃん」
「急に野菜から自己紹介されてもな」
今日もカロテンに満ちてますね、とでも返事すればいいのだろうか。
「へ?……鈍い人のこと、僕ニンジンって言うわよね?」
「それを言うなら朴念仁じゃないか?」
「まあそうとも言うかもしれないケド、ちょっと古いって言うかー、今時の子はもう使わないかなー」
「そうだったのか」
言葉は変化していくもの。朴念仁が僕ニンジンになることも……
「いや、ないだろ」
「バレたか。清隆なら騙せるかと思ったんだけどね」
「おい」
世間知らずという認識はあるが、それも大分マシになって来た。
まぁ今のやり取りに関しては恵の嘘が露骨すぎただけとも言える。
「ところで全然店員が来ないな」
レジの前で待機していたが店員が現れる様子はない。
世の中には『セルフレジ』で無人販売なんて防犯面が気がかりになる設備を導入している店舗もあるらしいが、高育の敷地内にあるコンビニには導入されていない。
そのため必ず店員はいるはずだが……店内にそれらしき人物は見当たらなかった。
「すみません、会計お願いできますかー」
恵がバックヤードを目がけて声を張り上げる。
すると程なくして慌てた様子で中年の男性が出てきた。
「お待たせして申し訳ございません。あッ、キミは橘ちゃんの後輩くん!」
そう声をかけてきたのはこのコンビニのオーナー。
以前、橘と挨拶回りをした際に話した記憶がある。
「いいとこに来てくれた。実は生徒会に相談しようと思ってた問題があってね。今もその関係でレジを空けていたんだ」
面倒事の予感しかしなかったが、立場上無視はできない。
一応、その後を橘から任されているしな。
「お力になれるかはわかりませんが、まずは内容を伺っても?それと連れは関係ないので先に会計を済ませてあげてください」
「これは失礼しました。お会計をさせていただきます」
「あー……この場に居合わせたのも何かの縁だと思うので、ご迷惑じゃなければ私も話を聞いて良いですか?」
「それは……」
と、オーナーがこちらに視線を移す。生徒会に相談するような話を一般生徒に聞かせても大丈夫なのか?ということだろう。
「本人がこう言ってますのでそちらに不都合がなければ同席する形でお願いできればと」
「そういうことなら2人に相談させてもらうよ」
そうして会計後バックヤードに案内された。
「こういうとこに入るのって新鮮かも。なんかドラマっぽいよね」
テンション高めの恵がそんな感想を口にする。
ただドラマに出てくるその手のシーンは捕まえた万引き犯を店員が問いただす場面が多い気がするのは、オレの知見が狭いせいだろうか……。
嫌な予感がしてきたところで、オーナーに促されパイプ椅子に座る。
「早速相談内容を教えて頂けますか」
「うん。単刀直入に言うと、商品の在庫が合わない日が増えててね。困っているんだ」
「えぇっ……つまり万引きってこと?」
「恐らく。何度チェックしてもこちらの管理にミスはなかったんだ」
「なるほど……」
また一之瀬の仕業か?とは思わない。
失敗前提で実行された前回の策とは違い、今回は実際に盗難にあっており、れっきとした犯罪。どんな事情があろうと一之瀬がそんなことをするはずがない。
考えられる可能性は
・月城たちの何らかの陰謀(この場合、すでにオーナーが買収されている線もあり万引きは捏造かもしれない)
・学生の中に万引き犯がいる
・学生以外の犯人がいる
・特別試験絡み
ぐらいか。
この件に関わることになったのは、偶然なのか、何かしらの目的があるのか、答えを導き出すには材料が足りない。
「被害にあったのはいつからですか?」
「4月の中旬くらいからかな。最初はこちらのミスかと思ってたんだけど、今月に入ってから回数が増えて来てね、万引きを疑い始めたんだ」
「防犯カメラの映像は確認されましたか?」
「もちろん。ただ相当慣れているのか、決定的な瞬間は映ってないんだ。だから今もあえて店員がいないような状況を作ってカメラ越しに店内を確認してたんだけど……」
「成果なしってことね」
オーナーの曇った表情をみて恵も肩を落とす。
「裏を返せば、犯人も勘付いてそういう時は犯行に及ばないんだろうな」
防犯カメラに映るほど間抜けではない、言い換えれば犯人はそれ相応の実力を持っている。証拠を残さずに商品を何度も盗み出すのは一筋縄ではいかないだろう。
「盗まれている商品に傾向は?」
「今のところないかな。食品から日用品、雑誌類……。被害額は大したものじゃないんだけどね。だからと言って見過ごしていいものじゃない。それに他の店もやられてるんだよ」
「他というのは?」
「ケヤキモールにある雑貨屋や本屋、家電量販店、スーパーなんかも被害が出ているんだ」
「うわ、犯人ヤバすぎ……」
「そこまで手当たり次第だと単独犯じゃない可能性もあるな」
この手の犯行の場合、実行犯の他にも、店員の気を引く役、周囲を警戒する役など役割分担をしていることもある。
「犯人が学生さんとは限らないんだけど、割合を考えるとどうしてもね。我々も学生さんあっての商売だからあまり大事にはしたくないのもあって、まずは生徒会に相談しようって話になっていたんだ」
「そこにタイミングよく私たちが現れたってわけですね」
学生以外で高育の敷地内にいる人間は限られる。その環境で犯罪を犯すリスクは、通常より圧倒的に高い。
万引きをしている時点で一般常識を当てはめるのは難しいかもしれないが、良識ある大人であればそんなリスクは犯さない。万引きをするにしてももっと捕まりにくい場所で行うだろう。
そこからわかることは、犯人はわざわざ高育の敷地内で万引きをする目的がある、もしくはここでしか万引きできない(学生)ということ。
「どうだろう、綾小路くんに調査してもらえるとありがたいんだけど」
もし犯人が学生だった場合、警察沙汰になり退学は免れないだろう。
生徒会に相談を選んだことから、現状オーナーたちもそこまでの罰は本意ではないということ。
「もちろん御礼はするよ。これ、うちのイチ押しなんだけど好きなだけ持って行ってくれ」
オーナーが持ってきたのは例のホットドッグ。
頬を引きつらせながら首だけオレの方へぎごちなく向けてくる恵。
「調査のご依頼は受けますが、お礼は気持ちだけ頂いておきます。生徒会として見返りを頂くわけにはいきません」
「流石、橘ちゃんの後輩くんだ。しっかりしてるね」
「……もちろんです」
直前の激マズ評がなければ遠慮なくもらっていたと思うが、結果オーライということにしておく。
その後、オーナーから被害があった時の状況や他の被害店舗など詳しい情報を聞き、コンビニを後にする。
今のところ犯人を特定できる情報はない。
だが、一番に考えるべき問題は他にある。
この事件は月城側の策略なのかどうか。
今回の万引きは未遂でなく本当に起きている事件。
犯人が学生なら退学を覚悟した行為となるが、一般生徒にそこまでする動機があるとは思えない。
「もしもの話だが、何かしらのやむを得ない理由で万引きするとしたら、どんな時だと思う?」
一般的な見識に抜け落ちがあってもオレでは気づけないため、寮への帰り道、隣を歩く恵に尋ねてみる。
「うーん、しようと思ったことないからなぁ。……誰かに強要されてるとか。その、いじめで逆らえない的な」
思わず恵のトラウマを刺激してしまったが、本人もそのことから逃げずに可能性として提示してくれた。
「発覚すれば教唆した生徒の罪は重い。自分の生殺与奪の権をいじめている相手に握らせるとは考えにくい」
「ならよっぽどお金がなくってお腹が減ってたとか?」
「この施設外ならあり得る動機かもな」
食料は山菜定食をはじめ一部無料で提供されているため、基本的に飢えることはない。
例外として犯人が学生ではない場合が挙げられるが、今回、食品以外も盗まれていることから異なる目的があると考えられる。
「あーでもさ、小さい頃の話だけど特に意味もなく万引きしちゃった子とかいたっけ。悪いことだと思ってなかったみたいな。清隆の周りにもいなかった?」
「いや、聞いたことがないな」
「ふーん。治安良いとこ住んでたんだ。やっぱりどこかの御曹司だったり?」
「単に田舎ってだけだ」
田舎云々はさておき、恵の言うように明確な目的がない可能性もあるか。
万引きをするスリルを楽しんでいる場合や破滅願望がある場合がそれにあたる。
「じゃあポイントがなくて欲しいものが買えないから、とか?」
「昨年の今頃、オレたちもクラスポイント0だったわけだが、万引きしようと思ったか?」
「まさか。私たちはともかく……池&山内コンビですらやらなかったって考えると、うん、違うかも」
酷い言われようだが、これも日頃の行いの成すところか。
ただオレの記憶が間違ってなければ、ポイント不足になった恵は櫛田からポイントを借り(カツアゲし)ていたため、池や山内をとやかく言う資格はなさそうにも思える。
あの時のポイントは櫛田に返したんだろうか……。櫛田の退学させたいリストに恵の名前がないことを祈るばかりだ。
「動機から犯人探すの無理くない?」
「だとしても可能性の検証は大事だ」
この事件、月城が仕掛けた策にしては疑問が残る。
退学させるためにオレを犯人に仕立て上げるならまだしも、わざわざ犯人捜しをさせる理由が不明だ。
オレに伝わった経緯もたまたまコンビニに寄ったから。
いずれ生徒会経由で話を持ち込ませるつもりでも、それ以外から漏れるようなミスはしない。
「それで名探偵の清隆はどうやって犯人見つけるつもり?」
名探偵と呼ばれ、ひよりとポチの姿が浮かんだ。
この話を聞けば喜んで事件に首を突っ込んでいくことは疑いようがない。
ただの事件ならそれでも良いが、月城が一枚噛んでいた場合、様々な危険を伴う。
タスクにひよりにはバレないように、の項目が追加される。
「まずは情報収集だ。明日から被害にあった他の店で話を聞く。あとはその店をよく利用する生徒を特定して、何か見てないか聞き込みできればいいんだが……」
そういった人脈面での調査はオレには向いていない。
一之瀬や櫛田、諸藤(ファンクラブ)に依頼すればわかるだろうが、この件はできるだけ話を広げない方がよさそうだ。
つまり――
「私の出番ってことね。そのあたりの情報収集は任せてよ」
こちらの意図を察した恵が握った拳を胸に当て力強く答える。
「助かる。万引きの件には触れないように注意して進めて欲しい」
「わかってる。変に騒ぎにしたら意味ないしね。それに……」
「それに?」
「秘密の共有ってわくわくするじゃない」
「そういうものなのか」
「そーいうものなの」
何にしても本人がやる気に満ちているのでそれでいいか。
「代わりにさ、一つ……聞かせて欲しいんだケド」
こちらから視線を外し、恵にしては妙にしおらしい。
「オレに答えられることなら」
「正妻戦争とか言ってるけどさ、もしそれと関係ないところで好きな人ができたらどうするわけ?」
想像していなかった質問が飛び出してきたが、面白い仮定ではある。
「そうだな。その仮定に沿って考えるなら、惚れた相手に勝負を挑んでくれるようにお願いしてわざと負ける、しかないんじゃないか」
正妻戦争を勝手な理由で中止すれば不平不満が出てくるのは火を見るよりも明らか。
結果は同じで出来レースとなってしまっても最低限の筋は通す必要がある。
厄介なパターンはその相手がすでに正妻戦争で敗北していた場合だが、一度切り捨てた相手に惚れるなんてことはあるのだろうか。
「恋に落ちた実感が持てたなら無理に続ける意味はないしな」
「ま、いいんじゃない」
予想に反してあっさりとした返事で済まされる。
偽装カップルの経験があるぐらいだ、その辺りは寛容なのだろうか。
「てっきり非難すると思ってたんだが……」
「別に。むしろ好きになった気持ちを蔑ろにするつもりだったら責めてた」
恵は自分に言い聞かせるようにつぶやく。
なるほど、予想の逆だったか。
「つまり恵も好意を向ける相手ができたから偽装カップル解消に同意したってわけか」
「さぁねー。ニンジンの清隆には教えてあげなーい」
そう言って小走りで走り出した恵。
こちらとの会話の拒否とも取れる発言だが、そのままの意味で受け取ってしまうと恵から責められる未来が見える。
調査に支障が出るのは避けたいため、付かず離れずの速度であとを追うことにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日の放課後。
万引き事件の調査を進めようと教室を出た時だった。
校内アナウンスで理事長室へと呼び出される。
用件は月城と行っている勝負の件だと予想できるが、色々と邪推してしまいそうになるタイミングでの呼び出し。
だが、それすら月城の計算の可能性もあるため、余計なことは置いて理事長室へと足を運んだ。
「キミがここに来るのもすっかり馴染んできましたね、綾小路くん」
「これで最後にしてくださってもいいんですが」
「それは自主退学宣言と捉えても?」
「くだらない問答をするために呼び出したんであればこれで失礼します」
「私なりのアイスブレイクのつもりだったんですがね。いいでしょう。本題は夏の無人島試験についてです」
「また例の勝負ですか。ここまで惨敗していて性懲りもなく挑んくるとは思いませんでしたよ」
「最終的に目的を達成すれば過程の敗北など些事でしょう。てっきりあなたも同じ思考だと思っていましたが……」
「さぁどうでしょう。それこそ月城理事長代理にとって些事なのでは」
月城は「ごもっとも」とわざとらしく苦笑して話を進める。
「綾小路くんを退学にする特別試験。その参加者に最後のチャンスを与えようと思いましてね」
「そんな特別試験をやってたんですか。道理で1年生から距離を取られていると感じるわけです」
「それは……いえ、それが原因でしたら申し訳ないことをしてしまったかもしれませんね」
とぼけてみたが効果は薄いだろうな。
特別試験について月城がカミングアウトしてきたのは、オレがすでに情報を掴んでいると確信しているからに他ならない。
「ルールはシンプルです。その参加者のグループ順位が綾小路くんのグループより上であれば自主退学をしていただく、ということで」
ホワイトルーム生と指定しなかった理由は、より多くのグループを警戒させるためか。
あるいは、椿の協力の件もある。疑心暗鬼を誘い、1年生との連携を阻止したいのかもしれない。
「わかりました。もちろん、試験参加者は教えていただけますよね」
あとからオレの上位に入ったグループが参加者だということにされてはたまらない。
椿の情報と比較することで信憑性も確かめられる。
「それでは面白くないでしょう。事前に開示せずとも、参加者同士は相手を把握しているわけですから、別の参加者が勝者になったら抗議のひとつやふたつ入るでしょう」
「もみ消されなければ、ですけどね」
「お互いクレームをつけようと思えばいくらでもできるでしょう?」
要はオレが1位になる、もしくは例外の南雲グループを含めた1年生のどのグループよりも上であればいいという話。
逆に言えば、そうするように誘導されている、とも考えられる。
「わかりました。それで受けて立ちます」
「試験中は私が関わる課題もあります。綾小路くんにはぜひ参加して欲しいものです」
「それも勝負の条件ですか?」
「いいえ。ただ断言させてもらいますが、キミは必ず参加することになる」
「仮にそうなった場合、これまでの鬱憤を晴らさせてもらいますよ」
「ははは、それはこちらの台詞です」
用件は終わったのか、月城がこれ以上話を続ける様子はない。
オレとしても一刻も早く立ち去りたいところだが――
「ところで万引きの件はいいのか?」
こちらから切り込むことにする。
月城が関わっているかどうかで捜査の方向性が変わってくる。
もちろん、こんな問いでボロは出さないだろうが、判断材料を得られる可能性があるなら聞くだけタダ。
「万引き?ああ、もうその情報を掴んでいるのですか。流石は最高傑作とでも言っておきましょう。いいえ、流石は生徒会副会長と言った方がキミには喜ばれますかね」
「生憎、肩書に興味はありません」
「もう把握されているようでしたら話は早い。その犯人を見つけたら綾小路くんの勝ち。見つけられなかったらその罪を被って退学してもらいます」
「随分と投げやりなんですね。付け焼刃というか、まるで計画になかったかのような対応ではありませんか」
「らしくありませんね、考えても無駄なことに時間を費やすとは」
「それもそうですね。理事長代理が勝負だと言えば、それを覆す手段はこちらにはありませんから」
「では期限は6月いっぱいということで」
「それで構いません」
オレもあっさり承認した。
この事件に関して月城は無関係だと思えたからだ。
理事長室から解放された後、被害にあった店舗を回ってみたが、特に有益な情報は得られなかった。
ひとまず恵の方に進展があったことを期待するしかないか。
期限まで1ヶ月以上あるが、その間に何が起こるかわからない。
速めに解決できるよう本格的に策を練る必要がありそうだ。
だが、そんな考えを嘲笑うように、この事件は思わぬ形で終わりを迎えることになる。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
綾小路が理事長室を訪れた同日の出来事。
それが各クラスの担任から生徒たちに告げられたのは、今日も何事もなく学校が終わると思った矢先だった。
放課後を前にしたホームルームで1年生の教室がざわめき異様な空気に包まれた。
「そういうことで5月末に特別試験の実施が決まった」
ここ1年Dクラスの教室も例外ではない。
動揺する生徒たちを気にもせず、担任の司馬は淡々と事務的に話を進めていた。
「試験名は『ストーリーテラー試験』で――」
「そんな情報はどうでもいい。2年とやれんのか?」
司馬の話を遮ったのは宝泉。
新たな特別試験に期待することはひとつだけだった。
「浮足立っているところ悪いが、今回は学年内で競ってもらう」
「チッ……」
舌打ちだけすると興味が失せたと言わんばかりに机に組んだ足を乗せ、椅子の背もたれに体重を預け天井をみる。
「他学年と戦う機会はいずれくる。その時までに力を蓄えておくのも戦略のひとつだ。ましては今回は退学者が出る可能性もある。真剣に取り組むことだ」
「てめえに言われるまでも――」
「司馬先生、ルールの詳細をお願いしてもよろしいですか」
宝泉から暴言が飛び出す前に七瀬がそれを遮った。
「最初からそのつもりだ。では初めに――」
そうして司馬の口から今回の試験のルールが共有されていった。
実施したことと結果しかわからない例の特別試験。
何も情報がないなら勝手に作ってしまおうというお話。