ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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必要なモノ不要なモノ

「今んとこ、成果なしって感じ」

 

「そうか。こっちも似たようなものだった」

 

昼休み。

階段の踊り場で人気がないことを確認し、万引き事件の調査状況を恵と共有する。

 

調査を始めて昨日の今日ではあるが、犯人は簡単に尻尾を掴ませてはくれないようだ。

 

「実際さー、ここまで証拠を残さないってあり得なくない?」

 

「あり得ないことはない。想像以上の手練れか、前提条件が間違ってるか」

 

「前提条件?」

 

「複数人の万引き犯がたまたま同時期に万引きをしてたとか、実は万引きはなかったとか、こちらの想定外の真実だった場合の話だ」

 

「あー、まるで見当違いの調査をしちゃってるかもってことか」

 

適切な要約をしてみせた恵に感心していると、馬鹿にされたと思ったのか「なによ」と睨まれてしまった。

 

「ひとまず聞き込みは継続して、場合によっては違う手も必要かもしれないな」

 

「違う手ねえ……。ちょっと聞きたいんだけどさ、清隆が本気を出したら同じことできる?」

 

「無理だろうな」

 

「清隆で無理ってことは、誰にも出来ないんじゃない?だから単独犯じゃないのかも」

 

「悪い。生徒会に入る前のオレならできたかもしれない、が正しい表現だった」

 

犯行自体は問題ないだろうが、生徒会役員として目立ちすぎた関係で、最近はどこにいてもある程度注目されてしまう。オレがいくら巧みに盗んだところで、商品が紛失した時間帯での目撃証言は簡単に集まるだろう。一度や二度なら偶然を装えても、この数の犯行を実行すれば言い逃れはできない。

立場が変われば状況も変わる。今なら学と橘が秘密の部屋を作った気持ちもわかるというもの。ネタじゃなかったんだな……。

 

「有名税ってヤツ?」

 

「少し違う気もするが、そんなところだ」

 

「つまり犯人はパッとみ人畜無害そうで影の薄いヤツってわけね」

 

「恵がオレのことをどう思っていたかよくわかった」

 

「生徒会入る前の清隆に対してなら、まぁまぁ妥当な評価じゃない?」

 

「否定はできないが、ちょっとはオブラートに包んでくれてもいいんじゃないか」

 

「これくらいで傷つくハートの持ち主だったらそっちの方が驚きなんだけど」

 

「傷ついた、と言ったら?」

 

「慰めて欲しいわけ?」

 

「……遠慮しておく」

 

なぜかご機嫌斜めの恵。

どこかで受け答えを間違えたのか?ある意味周りの中で一番女子高生らしさを持っている(と思われる)恵とのやりとりは学びもあるがその分難しさもある。

 

「ごめん、ちょっと感じ悪かった。なんか、当時を思い出したらモヤっただけだから、清隆は関係ないし気にしないで」

 

こちらの困惑が伝わったのか、恵の方から謝罪が入る。

 

「こちらこそ何かあれば遠慮なく言ってくれると助かる。なんせ僕ニンジンだからな、察せないことも多い」

 

「ふーん、そこまで言うなら、そうさせてもらおっかな」

 

こちらの冗談を笑って受け入れたことからひとまず窮地は脱したとみていいだろう。

 

ありがと

 

「ん?」

 

「話を戻すけど、さっき言ってた違う手ってどんな手?必要なら聞き込みの時にそっちの情報も集めるけど」

 

「情報は十分だ。簡単に言えば、先回りして犯行現場を押さえる、もしくは罠を仕掛けるだけだからな」

 

「だけって、そんなことできるわけ?」

 

「これまでの犯行の共通項から狙う物の予測くらいはできるな」

 

「んー共通項なんてある?全然わかんない」

 

「正確には共通項じゃないが、ひとつの法則みたいなものは見つけた」

 

「なになに?」と目を輝かせて聞いてくる恵に、携帯にまとめた盗まれたものの情報一覧を見せる。

 

「これを見て気づくことはあるか?」

 

 

場所日付盗まれたもの価格(pt)
コンビニ4/22Gカップ(カップ麺)200pt
コンビニ4/16緑茶(綾●)150pt
コンビニ5/2シュークリーム&メロンパン300pt
コンビニ5/8洗顔料1,200pt
コンビニ5/4漫画の週刊誌450pt
スーパー5/6ココアの素900pt
雑貨店5/5トランプ660pt
雑貨店5/10水筒2,800pt
本屋5/9本(幻の女)1,540pt
家電量販店5/11デジカメ5,000pt

 

 

「あー……共通項がない、とか?」

 

「悪くない着眼点だ」

 

「ホント!?やったっ」

 

ぐっとこぶしを握り締め、まるで犯人を特定できたかのように喜ぶ恵。

気が早すぎじゃないか、などと言うツッコミが喉元まで出かかったが、恵のモチベーションに関わるため口にしないでおいた。

 

「恵の言う通り、これだけの数を盗んで商品が被らないのは犯人が意図的に選別しているからだと考えられる」

 

「でも、同じ物が狙われないだけじゃ絞り切れないわよね」

 

「ところがそうとも限らない」

 

一覧を日付順に並べ替える。

 

 

場所日付盗まれたもの価格(pt)
コンビニ4/16緑茶(綾●)150pt
コンビニ4/22Gカップ(カップ麺)200pt
コンビニ5/2シュークリーム&メロンパン300pt
コンビニ5/4漫画の週刊誌450pt
雑貨店5/5トランプ660pt
スーパー5/6ココアの素900pt
コンビニ5/8洗顔料1,200pt
本屋5/9本(幻の女)1,540pt
雑貨店5/10水筒2,800pt
家電量販店5/11デジカメ5,000pt

 

 

「あっ……」

 

今度は恵も気づいたようだが、日付順で並べた際に盗んだものの価格が徐々に上がっていることがわかる。

 

「つまり……どういうこと?」

 

「捜査心理学の観点から分析するなら、モーダス・オペランディ、シグネチャ、リーク、もしくは……」

 

「HEY,KIYOTAKA.私にもわかるように教えて」

 

「腕試しか、挑発か、自己顕示か、リスク嗜好か。いずれにせよ、盗む物ではなく盗む行為が目的ということだ」

 

「おぉー、流石KIYOTAKA!」

 

「なんでカタコトなんだ?」

 

「似てると思って」

 

「何に?」

 

「そんなことよりも、その犯人の特徴?みたいなのがわかったけど、それをどう利用するのか教えてよ」

 

「犯人はより高度な万引きの対象を欲しているはずだ。商店街の人に協力してもらって、このリストの品より高額でかつ盗みにくい物を限定感を出して用意することで犯人の窃盗欲を刺激する」

 

「それで盗もうとしたところをとっ捕まえるわけね!」

 

「あくまでひとつの案だけどな。そこまで単純な犯人だとも思えない」

 

ここまでの情報をプロファイリングして見えてくる犯人像は、捕まえられるものなら捕まえてみろと、捜査するオレたちを煽るような一面。

ただ、オレが専門知識を元にプロファイリングすることを見越していたとすれば、偽の犯人像を掴まされ、まんまと誘導されていることになる。月城やホワイトルーム生が関与しているなら消せない線だ。

 

ただの愉快犯か、刺客の戦略か。

絞り込んでいくために、こちらからも仕掛けていく必要がありそうだ。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

放課後。

1年Cクラスでは特別試験に向けた準備が進められていた。

 

「出版社の役職決めなんっすけど、まずは希望者の数を把握して、そこから調整していけたらと思うっすです」

 

波多野は内心迷いながらもなるべく表情には出さないように努めながら、教壇からクラスメイトに話しかけている。

 

「今から順番に役職を読み上げるんで、希望の役職で手を挙げて欲しいっす」

 

「ちょっと待てよ。そんなぬるいやり方で勝てんのか?」

 

波多野の方針に異を唱えたのは勝手に対抗心を燃やしている男子生徒デンヤだった。

 

「勝つための戦略を作ってそれに合わせて人材を配置するのがベストだろ」

 

「デンヤくんの言うこともひとつの戦略として正しいと思うっす」

「なら――」

 

「ただそれはこのクラスがもっとお互いのことを理解して、試験のために一致団結できる場合だと思うんっす」

 

「はっ!みんな聞いたかよ。コイツ優等生面してたくせに、全然クラスのこと信用してないってよ」

 

波多野が失言したと判断したデンヤはここぞとばかりに周囲へ同意を求めた。

 

「いやまぁ、クラスってか、それはそうとしか言えないよな」

 

「だよね……」

 

だが、クラスメイトから返ってきた反応は予想外のもので、その視線はどことなくデンヤに向けられていた。

 

「……お前ら」

 

その視線からデンヤは察した。

波多野がそう判断したのは自分の存在を考慮してなのだと。他の生徒は波多野の指示に素直に従っても自分は違う。周りから見れば、まさしく一致団結を妨げる張本人だ。

 

それが自分を警戒しての言動ならデンヤとしても対抗心を燃やせるので願ったり叶ったりだったが、そうではなかった。

 

それが波多野をよく見てきたデンヤにはわかってしまった。

 

「みんな聞いて欲しいっす。これは誰がどうとか、そういう話じゃないんす。入学してまだ1ヶ月半で、それぞれの特技や才能、性格を把握して連携するのは難しいっす。だから自分自身で力を活かせると思う役職を判断して欲しいんっす」

 

波多野の説明の8割は建前だろうとデンヤは判断する。

仮に自分が提唱した方法で役職と所属する出版社を決めた場合、自分の出版社に配属されたクラスメイトは、人気で勝る波多野、宇都宮の出版社に入れなかった上に勝手に決められた役職を与えられ、モチベーションは著しく下がるだろう。

そんなチームでも結果を出せなければ責任は編集の自分になる。最悪の場合、退学のペナルティを嬉々として利用する輩も出てくるかもしれない。

 

反面、波多野の案は、自分自身で役職を決めるからには各々責任を持って取り組め、と約束させるもの。編集が気に入らない相手だったとしても最低限の働きはみせるはず。

 

言い換えれば、編集のデンヤだけが孤立しないような提案だった。

デンヤが、そんな波多野の優しさに気づけない人間であればもっと生きやすかったかもしれない。

そうではなかったからこそ、その優しさがどんな暴力よりもデンヤを傷つける。

 

「デンヤくんもそれでいいっすか?」

 

「……好きにしろ」

 

「了解っす!」

 

悔しさで心が煮えたぎっていてもこの提案を断ることは敗北に直結する。

勝負は試験結果でつければいい。

幸いにもそう判断するだけの冷静さをデンヤは持ち合わせていた。

逆に言えば、そんな人柄だからクラスメイトたちもデンヤのことを嫌いになりきれない。ただ輪を乱す迷惑なだけの生徒ではなく、打倒波多野に執着しすぎているものの、見方を変えれば一生懸命な姿でもあり、方法はともかくクラスのために行動している姿勢は伝わってくる。

波多野におんぶにだっこの他の生徒がどうこう言う資格はなく、その一点だけは尊敬すらされていた。

総じて、ちょっと面倒だけど憎み切れないクラスメイト、そんな認識だった。

惜しむらくは波多野への対抗心でいっぱいのデンヤはそんな認識には気づいていないため、クラス内での自分の評価を少し卑屈に考えてしまっていることだろう。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「じゃあ希望の役職はこんな感じっすね」

 

波多野が希望者を表に振り分け、電子黒板に表示する。

 

作家   3人

記者  17人

語り部 11人

情報屋  6人

 

「人数のバランスはまぁまぁってとこか」

 

「そうっすね。このままでも問題なさそうに思うっす」

 

宇都宮の発言に波多野も同意する。

 

「あとは各出版社にどう分けるかだが……何か考えはあるか?」

 

「編集の方針もあると思うっすから、それをすり合わせてから人数の配分を決めて、編集が順番に指名していく、というのはどうっすか?」

 

波多野は編集の宇都宮とデンヤに尋ねた。

この波多野の指針は一言でいえば『平等』。宝泉のような手段を問わず勝利を目指すタイプの人間からしたら生ぬるいと思われるやり方だろう。

もちろん波多野も勝利は狙っているが、それに固執しすぎるとまだまとまりきっていないクラスに余計な軋轢が生まれるかもしれない。そうなるくらいなら、今回の試験をきっかけに個々人の限界を知り、次回以降のチームワーク、積極性を高めることに繋げたいと考えていた。

失敗できないポジションにいるからこそ、波多野はそんな答えに辿り着く。

 

「いいんじゃないか」

 

「反対する理由はないな」

 

宇都宮はクラスが波多野に依存し当事者意識が薄れつつある現状を危惧していたし、デンヤは余ったクラスメイトで戦うことを想定していたため、その案に賛同した。

 

「はじめに俺からひとついいか」

 

各編集の戦略を発表する前に宇都宮が手を挙げた。

特に異論がないことを確認し話を続ける。

 

「この試験をどう戦うにせよ、大前提として自分のクラスの語り部だけで物語を完成を目指すべきだ。これは各出版社共通認識として持ってもらいたい」

 

「語り部はできるだけ章を売らない方がプライベートポイントたくさん貰えるんじゃないか?」

 

新徳が疑問を投げかける。

語り部が持っていれば1章2万ポイントになる物語だが、売ってしまうと1アポイント(3,000ポイント分)に減ってしまう。

逆に他クラスから購入すれば、相手が得るポイントの総数を減らせ、クラスの物語を温存できる。

 

「新徳の発言は間違いではないが、非現実的でもある。俺はこの試験、アポイントをどれだけ温存できるかがカギになると考えている」

 

「それとこれとどう繋がるんだ?」

 

「他クラスの語り部の物語を取材するのは割に合わないってことっすね」

 

「そう言うことだ」

 

「どういうことだ?」

 

宇都宮の話に波多野が理解を示したが、新徳をはじめ疑問の表情を浮かべる生徒の方が多かった。

それを見た波多野が補足をする。

 

「この試験の難しいところは記者一人につき3アポイントしかもらえないところっす。取材して目的の物語を見つけた上で購入用に4アポイントを残しておかなくてはいけないのはなかなかハードっす」

 

「それはそうだろうけど、でもどの語り部から買ったところで一緒じゃないか?」

 

新徳はルールを思い出す。

語り部は取材されるまで自分の物語が何かわからない。取材された後もそれを記者や編集に伝えるのはルール違反のはず。語り部が物語を共有できるなら話は別だが……。

 

「例えばだが、『起』の物語を探してるのに『承転結』しか持っていない語り部に取材したらアポイントの無駄だ。それを防ぐために、クラス内で予めサインを決めておき、記者が欲している章を伝える、もしくは語り部が持っている章の種類をこっそり伝えるようにしておきたい」

 

「そりゃ、それができればいいけどよ、ルール違反だろ」

 

「やり方次第だ。ルールでは『発覚次第』ペナルティとある。つまりメモやデータなど明確に情報をやりとりした証拠を残さずに、瞬きの回数や視線移動の順番、自分の身体のどこかに触れるといった方法を取り、指摘されても偶然だと言い逃れできればいい」

 

「……宇都宮って結構ワルだったりする?」

 

「意図的に穴を作ってある学校の方針を利用しているだけだ」

 

堂々とグレーゾーンに足を突っ込みに行く宇都宮の姿勢に少し引きつつも、一理あると思う一同。ただ発覚すれば最悪退学になるだけに、気軽に賛成もできない。そのため多くの生徒が波多野の決断を待つかのように黙って視線を向けていく。

 

「自分もその方法ならペナルティにならないと思うっす。少なくとも1回注意されるまでなら大丈夫っすです。あとでサインを決めて試験までにみんなで覚えようっすです!!」

 

明るくそう断言したことで、クラスメイトも安心して頷いた。

 

「一応確認だけど、自分の物語が起承転結のどれかわからない場合ってあるよね?その時はどうするの」

 

そんなまとまりかけた話に一石を投じたのは椿。

タイミングもだが、椿は普段積極的に発言するタイプでないこともあり、クラスメイトは色んな意味で驚いた。

その驚きは発言の内容にもあった。練習で出てきた物語があの『桃太郎』だったこと、それ自体が学校の仕掛けた罠かもしれない可能性の提示。

決して少なくない数の生徒が他の物語も誰もが知っているような作品が出てくると錯覚させられていた。

文章だけではタイトルすら判断できない難解な作品ばかりの可能性もあるのに、だ。

 

「わからない場合の合図も決める予定っす。なるべくその語り部への取材は避けるのが現状一番現実的かと思うっす。それなら無駄な取材をしない、という目的は達成できるっすからね」

 

「そ。なら大丈夫そうだね」

 

「貴重な意見ありがとうっす」

 

何人かは失念していたようだが、起承転結がわかるかどうかは語り部の知識によるところが大きい。そういった面でも役職毎に希望者を募った方針は間違いではなかった。

Cクラスの語り部希望者は文学に明るい生徒が集中していた。

 

「やっぱさ、桃太郎みたいな簡単な作品ばかりとは限んないんだよな」

 

「だよね……。そのための情報屋ってことなんだろうし」

 

そんな気づきをきっかけにクラス内でも意見交換が始まった。それが一通り落ち着いたことを確認し、波多野は話を戻す。

 

「クラスの基本方針は自クラスの語り部との連携でアポイントを節約することで決まりっす。あとはそれぞれの出版社の戦略を尊重したいっす。自分の出版社は1位を目指して高得点の物語の完成を狙って動こうと思うんっすけど、デンヤくん、宇都宮くんはどうっすか?」

 

「俺の出版社もやるからには1位狙いだ。お前んとこにも負けねえからな」

 

「はい、お互い切磋琢磨で頑張ろうっす!」

 

デンヤの対抗心がいまひとつ波多野には伝わらず、前向きに笑顔で返事をしてしまう。

 

「さすがに3つの出版社に力を入れるのはリスクが大きい。俺の出版社は他クラスを陽動し妨害を引き付ける、可能ならこちらからも仕掛けていくつもりだ」

 

囮役を買って出たのは宇都宮。

 

「確かに他クラスから見たらうちのクラスの本命は波多野か宇都宮だろうし、囮としては適任かもな」

 

「ああ。だから俺の出版社の人員は最低限度に抑えて他に回して欲しい」

 

「だったら提案っすけど、自分たちが上位に入って獲得できたプライベートポイントは、宇都宮くんたちの出版社にも折半するのはどうっすか」

 

「それいいな。何もなしじゃ流石に貧乏くじ過ぎて申し訳なさが勝るしさ」

 

波多野の提案に新徳が頷く。クラスメイトにも反対意見は――。

 

「妨害は良いと思うけど、物語揃えなきゃ宇都宮くんが退学になるんじゃない?」

 

「あー……」

 

待ったをかけたのはまたもや椿。勢いで賛同していたクラスメイトもまたもやハッとした。

 

「俺の出版社は情報屋を利用して最小限のアポイントで起承転結だけを揃えることにする。最下位の出版社にペナルティがないのはそういうことだろう」

 

「そ。なら大丈夫そうだね」

 

宇都宮の方針を聞いて、先ほどと同じ言葉をさらっとつぶやき納得する椿。

 

「他に疑問がある人はいないっすか?」

 

波多野の問いかけに今度はちらほらと手が挙がるようになり始めた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

Cクラスの出版社決めが完了し、話した内容は緘口令が敷かれ解散となった。

 

「椿さん、さっきはありがとうでしたっす」

 

教室から出ようとした椿を追って波多野が話しかける。

話し合いでの一連のやりとり、椿はあえて質問してくれたと感じていたからだ。

 

「別に。ただ疑問に思ったことを聞いただけで、特別なことはしてないし」

 

いつにも増して気だるげな様子の椿。

 

「なんだかいつも以上に眠そうっすね」

 

照れ隠しとも思えたが、椿との距離が少し縮まったと感じていた波多野は思い切って聞いてみることにした。

 

「あー……まぁね。波多野くんも文学オタには注意しなよ」

 

「……?了解っすです」

 

よくわからない回答の真意が掴めず、曖昧なリアクションになってしまう。

 

「……」

 

そんな波多野を椿はじっと見つめ、何かを思案したのちにゆっくり口を開いた。

 

「今度の特別試験、クラスの勝ちも大事だとは思うけど、無理して退学にはならないでね」

 

「大丈夫っす!綾小路先輩風に言うなら自分生徒会っすです」

 

心配無用と胸を張り笑顔で力強く答えてみせた波多野。だがーー

 

「ほら、また」

 

「また?」

 

「波多野くんって結構わかりやすいよね。本当は、緊張してたり自信なかったりすると変な言葉遣いになる。『っすです』とかさ」

 

「え……あっ」

 

椿の前にあっさりその虚栄は看破されてしまう。

 

「責任感もやる気もあって良いと思うけどさ、困った時は仲間を頼ること、約束ね」

 

「わかったっす!椿さんがいれば百人力っす」

 

そう言ってぺこりと頭を下げた波多野に別れを告げて椿は歩き出す。

 

椿はまだ学校生活を楽しむことはできない。

 

「別に私を頼れって意味じゃなかったんだけど」

 

でも、

 

「友だちを見捨てるようなヤツにはなりたくないし」

 

そう誰に聞かせるわけでもなく呟いた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「ねぇ、清隆。本当の本当にこれで犯人が釣れるの?」

 

「控えめに見積もって勝算は90%だ」

 

「えー……」

 

信じられないといった目でこちらを見てくる恵。

万引き犯の調査を開始して数日が経過した。

オレたちは今、万引き犯を誘き出すため罠を張り、家電量販店の一角に身を潜めている。

 

遡ること3時間前。

 

「このまま調査しても進展の見込みは薄い。こちらから仕掛けてみることにした」

 

「例の罠ね」

 

「ああ。まず協力してもらう店舗は家電量販店だ」

 

「盗ませる商品は家電がいいってこと?」

 

「それもあるが、この量販店にはちょっとした貸しみたいなものがあって依頼しやすかった」

 

1年前に起きた愛里のストーカー事件の犯人はここの店員だった。

保証書の確認として個人情報を盗み取ろうとしたり、店内のカメラで愛里を盗撮したり、挙句の果てには暴行未遂。

普通に考えれば営業停止――この施設が国の管轄であることを踏まえると業者の入れ替えがあってもおかしくないレベルだが、大事にならずに済んでいるのは被害者の愛里の温情によるところが大きい。

もちろん、その店員を捕まえたオレや一之瀬がその話を広めていない点も関係しており、今では施設の誘致に意見できる生徒会役員の立場も加わって、この量販店の店長はとても腰の低い対応をしてくれていた。

 

「このあと量販店からは限定商品の大特価販売のWEB広告を流してもらう。それを――」

 

「私がクラスのグループチャットに転送して他クラス、他学年にも広めてもらうようにするってわけね」

 

「そういうことだ」

 

こちらの要望を先回りして当ててみせる恵。

自分の得意分野を理解できていることは明確な強みと言える。

 

「そして店長から特価で販売できる商品を何点か見せてもらった結果、価格面でも盗む難易度面でも優秀な商品を選定することに成功した」

 

「いいじゃん、いいじゃん」

 

「あとは家電店の一角に特設コーナーを作り、カメラの死角から犯人の逃走経路を絞ってその先で待ち構えるだけだ」

 

「さすが清隆。犯人も寝具の納め時ね」

 

「……納めるのは年貢だけどな」

 

「そうとも言うわね」

 

どんな間違いだ。『ねんぐ』を寝る道具だと思ったのだろうか……。

 

「とにかくこれから家電量販店へ向かう」

 

「オッケー」

 

そうして罠を張ってから早くも3時間が経過した。

 

「ねえ清隆。本当の本当の本当にこれで大丈夫なの?」

 

さっきの質問から数分も経たないうちに、似たような確認をされる。

商品から目を離し、恵の顔を見ると相変わらず疑心の目を向けてきていた。

一体この作戦のどこが気に入らないのだろうか。

 

限定セールの周知、逃走経路の誘導、そして何よりほどよく盗むのことが難しく犯人の窃盗欲をくすぐる、あの商品――『ヨーグルトメーカー』があるのだから完璧だろう。

 

正直、この価格帯であればオレも欲しいぐらいだ。

自分自身で作るヨーグルトとはどんな味がするのか。

ヨーグルトができる過程は知識としてあっても、実際に目にしたことはない。それを家庭で体験できる優れもの。魅力的だと評価せざるを得ない。

 

商品次第でこの作戦の可否は大きく分かれるが、店長からこの素晴らしい商品を提供してもらえた時に勝ちを確信した。

 

「ねえ清隆。なんであえて欲しい人が少ないような商品を選んだの?」

 

「は?」

 

「ぶっちゃけヨーグルトなんてわざわざ作らなくても市販のやつで十分じゃない?洗うのとかもめんどくさそうだし、あんな大きい機械使わなくったって牛乳にヨーグルトを入れて冷蔵庫に置いとけば作れそうじゃん」

 

「わかってないな。自分だけのヨーグルトを最適な環境で作ることができるんだぞ。それに作れるのはヨーグルトだけじゃない。甘酒や塩麹、納豆などの発酵食品はもちろん、ローストビーフなどの低温調理も可能な優れものだ」

 

「……マジで言ってる?もしかして魅力的だと思ってあの商品選んだの?」

 

「……違うのか」

 

「まだ菓子折りの方がマシね」

 

「……それは言い過ぎなんじゃないか」

 

「どうせ在庫が余って新年の大特価セールとかで安売りされるような商品よ、アレ」

 

「……」

 

「はい、撤収!はぁ~清隆ってたまにポンコツになるってこと忘れてた」

 

「いや、犯人には響くかもしれないだろ」

 

少なくとも犯人がホワイトルーム生ならオレの感覚に近いはず。

そうだよな、天沢、八神。

 

「ないない」

 

「待った。そこまで言うなら第三者に確認させてくれ」

 

既に帰り支度を始めた恵を引き止め、携帯を取り出し電話をかける。

 

『もしもーし。せんぱいから連絡くれるなんて珍しいねー』

 

数コールもしないうちに出てくれた相手は、相変わらず蠱惑的な独特のトーンで、しかしいつもよりどこか弾んだ声で応答する。

 

「天沢にちょっと聞きたいことがあるんだが」

 

『なになに、綾小路せんぱいにならスリーサイズでも教えちゃうよ』

 

「ヨーグルトメーカーって欲しいか」

 

『え、いらなーい』

 

「……」

 

『そんなことよりさぁ、今晩――』

 

用は済んだので通話を切る。

 

「恵、オレが悪かった。今度商品を選ぶときはアドバイスして欲しい」

 

「わかればいいのよ」

 

そうして家電量販店の店長に挨拶をして、お詫びとご機嫌取りを兼ねて恵にカフェでケーキをご馳走し帰路についた。

 

 

ヨーグルトメーカー、良いと思うんだけどな……。

恵の言う通り新年の特価セールに並んだら必ず購入しようと密かに決意した。

 

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