ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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しばらく更新できておらず申し訳ないです。
特別試験はまとめて読んだ方がわかりやすいかと書き溜めていたため、キリが良いところまでは連日更新予定です。



救いの手

1年生の特別試験実施日が近づいてきた。

それはつまり無人島試験で導入する戦略カード案の提出日も近いことを意味する。

最近は万引き犯の捜査に時間を当てていたが、そろそろそちらの打ち合わせをする頃合い――と考えはじめたタイミングで丁度良く一之瀬から招集がかかった。

 

手際が良いことに、波多野には直近の特別試験に集中してもらい、試験後にこちらで決めた戦略カードを確認し問題なければ提出してもらう形で話を済ませてあるそうだ。波多野を気遣う一之瀬らしい配慮でもあり、方々からオレが狙われている状況を説明せずに済む巧みな一手でもある。

 

ただ、この一之瀬の目覚ましい成長をどう捉えるか。原動力は分析するまでもないことだが――もし、オレも『ソレ』を理解できたなら同じように劇的な変化が生まれるのだろうかという点は特に気になるところ――それ故の危うさも予想できるため、諸刃の剣と言える。その剣をどう扱うかは一之瀬次第だが、オレの立場なら鞘を渡すことも鍛えてより切れるようにすることも可能だろう。

 

放課後のホームルームが終了する。綾小路グループの面々からの遊びの誘いを断り、今日も犯人探すの?と目で訴えてきた恵には今日は中止だと目で訴え返す。

 

教室を出て一之瀬との集合場所を目指す。心なしか足取りがいつもより早い。

 

そんな些細な気づきを疑問に思ったが、到着までに現状を整理しておくことを優先した。1年生の特別試験に不穏な気配はないが、月城の匙加減でいくらでも試験に細工ができるため、波多野が本気で狙われた場合は救う手段はない。

 

そもそもリスクを冒して助けたところで、第2、第3の策が披露されるだけ。その度にこちらのリソースを割く不毛さは考えるまでもない。

 

波多野が退学にならずに済む方法があるとすれば、オレの力を借りずとも障害を乗り切れると示すこと。助かる道はそこにしかない。

 

波多野からの不用意な接触を避けるためにも『今度の特別試験、自分の力を信じて取り組むこと。応援している』とメールを作成し送信した。

 

憶測の域を出ないが、月城や刺客が波多野の退学を狙っていたとして、本来の目的からしてみれば遠回り。専用の特別試験を用意したにも関わらず、オレに対し何の効果もなければ、遠回りせずに真っすぐこちらを狙う方針にシフトする。波多野が相手の認識を変えるだけの力を見せてくれるのならオレとしても嬉しい誤算となるが……。

 

そうこう考えているうちに、あっという間に生徒会室の下にある秘密の部屋へと到着する。

 

「待たせたか?」

 

「ううん。私も今来たところ」

 

すでに入室していた一之瀬が笑顔で迎えてくれた。

 

「ココアでいいかな?」

 

「悪いな」

 

返事をすると早速カップにお湯を注ぎココアを手渡してくれた。

ケトルにお湯が準備されていたことから一之瀬にとっての『今』の範囲はそれなりに広いことがわかる。バレるとわかっていてささやかな嘘をつくのはなぜなのか。そしてその嘘を悪くないと思えることも不思議だ。

 

カップを口に運ぶと温かさと甘さが伝わってくる。一之瀬はそれを見届けた後、ふと視線を逸らし声を潜めて話し出した。

 

「ここからは独り言なんだけどね。この部屋に隠しカメラとか盗聴器とか設置されてないか探してみたんだけど、ひとつも見つからなかったよ」

 

その一言で月城がこの部屋の存在を把握していること、その上で会話する分にはまだ安全地帯であることを理解する。

 

「ココア美味かった。ちょうど甘いものが飲みたかったんだ、助かる」

 

独り言という形であったためそんな返事をするとニコッとした微笑みが返って来た。

 

「本題に入るが、一之瀬はどんなカードを提案すべきだと思う?」

 

「色々考えてみたけど、これかな」

 

ノートを開き、用意してきた候補のひとつを見せてくれた。

 

「この試験は南雲先輩の意向がかなり反映されてるよね。だったら一番厄介な可能性を潰しておきたいかなって」

 

「なるほど。異論はないが、相手の戦略カードに対抗しようとは思わなかったのか?」

 

せっかくなので思考の深度を測ってみる。

 

「それって相手の戦略カードを使えなくする効果みたいな攻撃手段の話だよね。仮想敵を南雲先輩にした場合、その手の効果は意味がないかなって思ったんだ」

 

「意味がない?」

 

「例えば南雲先輩のグループを対象にして戦略カードを使えなくしても、南雲先輩は3年生の他のグループに命令して使わせるだけ。それで済むならいいけど下手な攻撃カード、防御カードを作ると相手も利用できるから数で劣る私たちが不利になるんじゃないかな」

 

一之瀬なら、相手を傷つけるような策を選ばなかっただけという可能性もあったが、そうではないことがわかる。

 

「理想は私たちには価値があって向こうにはないようなカード。そう考えて用意したんだけど……間違ってないかな?」

 

少しだけ間を置き一之瀬が確認してくる。

 

「そこまで考えられているなら十分だ。よければ波多野の分も任せていいか?」

 

「いいの?綾小路くんにとって死活問題なんじゃ……」

 

「今の一之瀬になら安心して任せられる」

 

「そこまで言ってくれるなら応えないわけにはいかないね。うん、任せて」

 

戦略カードをオレが作った場合と作らなかった場合。月城の目的と思考。

何が起こるかわからない状況なら手数を増やしておいて損はない。

 

そう考え、一手打たせてもらうことにした。

 

「被るといけないから綾小路くんが提案しようとしている戦略カードも教えてもらえるかな」

 

「もちろんだ。オレが提案するのは――」

 

無人島試験ではあらゆる可能性に備える必要がある。

試験の概要を聞き、戦略カードの話が出た時から1枚はこれにしようと決めていた。

 

「グループから離脱できるカードだ」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

普段であれば部活動や遊びの予定など各々時間を享受する放課後だが、1年生の教室は大半のクラスが自分の教室に残ったままだった。ストーリーテラー試験の実施が近づくにつれ、各クラス対策や戦略を練る時間が増えてきたためだ。

 

ここ1年Cクラスではハンドサインの練習や有名な小説をAIで要約し記者や作家間で共有するなど、出来る限りの準備をしているところだった。

 

「準備は順調だが、これだけで勝てるとは思えない」

 

クラスの様子を観察しながら、宇都宮は波多野に話しかける。

 

「あとは他クラスがどんな手を打って来るかっすね。特に注意したいのは――」

 

「宝泉だな」

 

警戒人物の意見が一致したことでお互いに頷く。

波多野にとって宝泉は尊敬する綾小路を誘き出すために綾小路に恋する天沢を誘拐までした人物。波多野自身も宝泉に利用されたわけだがそんなことよりも、横やりが入った結果、天沢の恋が実らなかったのだから度し難い。

本人たちは平静を装っているが、どれだけ辛い思いをしたことか。だからいくら宝泉がサッカーの一件で協力的な姿勢を見せても警戒を解くことはなかった。

 

「ルールを読む限りいくら宝泉君でもどこまでダーティーなことができるかは怪しいっすけど……」

 

「だが何もしてこないなんてことはないはずだ」

 

宇都宮も前回の試験の立ち回り方や凶暴性、綾小路を退学させる試験に躊躇なく取り組んでいる姿勢から警戒を――いや、それは建前で本能的な部分で宝泉を『敵』だと認識していた。端的に言えば嫌いの一言であり、一生わかり合うことはない犬猿の仲だと思っている。

 

「そうっすね……」

 

普通の高校なら絶対に関わらないと心に誓いを立てるような相手。

だが、高育ではそれが叶わないため、必死に何とかする手を考えなくてはいけなかった。

 

「いやいや、あんな不良はどうでもいいだろ。今回の試験は殴り合いじゃないんだぜ。それより上位クラスの警戒と対策をしてひとつでも順位を上げるのがクラスリーダーの役目だ。違うか?」

 

頭を抱える2人に意見したのはここまで黙って話を聞いていたデンヤ。

というのも、この時間は編集の3人で各出版社の戦略をすり合わせている最中だった。

 

「間違ってはないっすけど……」

 

今回の特別試験のルールは単純な学力や身体能力が問われるものではないため、どのクラスにも勝ち目がある。波多野は自分たちのクラスが負けるとすれば、実力面よりも想定外の状況に陥った場合だと考えていた。

そしてそんな状況を押し付けてくる第一候補が宝泉に他ならない。

 

勝気に満ちたデンヤにどう伝えようかと考えていると

 

「すみません、波多野くんはご在籍ですか?」

 

教室の外からノックと共に声が聞こえ、慌ててCクラス生は試験対策を中断する。大半の生徒が他クラスへの訪問は暗黙の了解で避ける認識でいたため、突然の来訪者に警戒心が高まる。

 

「なんの用っすか……八神くん」

 

名前を呼ばれた波多野がゆっくりと扉を開けると立っていたのは八神。相変わらずの爽やかさで愛嬌のある笑みを浮かべている。

 

「時期が時期なので僕の訪問は歓迎されないと理解しています。その点は先に謝罪させてください。それでも今度の試験でCクラスにとって有益なお話を出来ると考えてのことです。波多野くん、少しだけお時間いただけませんか」

 

ゆっくり丁寧に下げた頭を戻すと真剣な表情で見つめてくる。

警戒していた波多野ですら思わず頷きかけた。が、その直前で後ろから左肩を引っ張られた。

 

「おい、八神。Bクラスのリーダー直々にスパイ活動か?このあまちゃんを油断させて何を企んでんだ?」

 

波多野を自分の後ろへ押しやり、猜疑心を隠そうともしないデンヤが割って入った。他クラス生でも、八神が生徒会に所属する優等生の鏡のような生徒という認識はあり、大半の生徒はスパイ行為を行う人間とは微塵も思っていない。

 

だからこそ、デンヤは気に入らない。

 

「そんなつもりはありません。僕はあくまで――」

 

「口では何とも言えるよな。第一、コイツだけ呼び出そうとしている時点で胡散臭いんだよ」

 

人の良い波多野ならいくらでも騙せる。そんな考えで近づいてきても不思議ではない。

 

「認識に相違があります。僕は生徒会の活動を通じて波多野くんなら信頼できるからお声掛けしたんです」

 

「はー、なるほどなるほど。信頼できない俺たちには聞かせたくないってわけか。生徒会の仲だからって特別試験では関係ない、俺らは敵同士だ」

 

取り付く島のないデンヤの対応に八神は少し困ったように悩むそぶりをみせた。

他のCクラス生たちは、デンヤのBクラスのリーダー相手に遠慮なく抗議する姿勢を見て、こんな時には嫌味な性格が重宝し頼もしさすらあると、この状況とデンヤを少し見直し始める。

 

一方、波多野はライバルクラスである八神を無条件で受け入れかけたことを反省した。

ただ、あの八神がスパイ活動や無益な行動をするとはどうしても思えない。

 

「だったら、そのお話、この場でクラスのみんなにも聞いてもらうってことでどうっすか?」

 

八神の真意を探るためにも妥協案を提示する。

 

「……わかりました。それで少しでも信用していただけるなら」

 

八神は了承し、デンヤの方を見る。

 

「チッ、大した話じゃなかったらわかってんだろうな」

 

素直でない合意の返事が来たことで八神は入室し扉をそっと閉めた。

 

「最初に断らせていただきますが、これから話すことは他言無用でお願いします。それが守れないようであれば、この試験に勝つ作戦が失敗するだけでなく、今後BクラスがCクラスと手を組むことはないと思ってください」

 

一方的な押し付けのはずだが、頷かなければいけないような圧のある言葉。重圧のある念押しにCクラス生は波多野を見る。

その視線を受けて波多野が静かに頷いたため、他の生徒もそれに合わせた。

 

「ご理解ありがとうございます。では話を進めさせていただきます。簡潔に言えば、BクラスとCクラスで手を組み、記者が試験中に得た情報を交換しましょうという提案です」

 

八神がにこやかに発した共闘の申し入れに、教室内がより静まる。それもそのはずで

 

「この流れでマジで大した話じゃないとかあんのかよ」

 

デンヤが真っ先に悪態をついた。

 

「どうしてでしょうか?お互いに悪い提案ではないはずです」

 

「八神、お前ルールを読んでなかったのか?他の出版社に情報を渡すことは禁止されている。そんなことしたらルール違反で失格、勝つどころか即退場だ。スパイじゃなくて自爆特攻か?馬鹿にすんなよ」

 

呆れた態度で言い捨てるデンヤの指摘に対して笑顔を崩さない八神。

 

「いえ、よくルールを思い出してください。禁止されているのは『語り部』が所持している章を伝えること。『記者』が情報を渡すこと。合意なく情報を得ること。盗撮、盗聴で情報を得ること、ですよね」

 

「だからなんだよ、一緒だろ」

 

「あっ……」

 

デンヤの後ろで黙って話を聞いていた波多野が思わず声を上げる。

 

「八神くんが言いたいことがわかったかもっす」

 

「は?どういうことだ、説明しろ」

 

「このルールだと『編集』が情報をやりとりするのは禁止されてないっす」

 

「ご明察。さすが波多野くんですね」

 

小さく拍手をする八神。

 

「いやいやいや、書いてないからってやっていいことと悪いことはあんだろ。常識で考えろよ、アウトだろ、そんなん。わざわざ書くまでもないってやつだ」

 

いちいち気に入らないとデンヤは喰って掛かる。

 

「僕はそうは思いません。他が的確に『禁止』と明記されているのに、編集だけ曖昧にするとは考えにくい。つまり、学校側が意図して作った抜け穴だと考えるのが妥当です」

 

「なるほどな、そうやって俺らを嵌めて失格にする腹積もりか」

 

「それだと情報を交換した僕たちBクラスも失格になりますので、ありえませんよ」

 

「百歩譲って騙す気がないとしても、学校がそんな抜け穴を作る意味が分からない」

 

「Bクラス内でもその話題は出ましたが、結論としては救済措置の面が強いのではないか、という結論に至りました」

 

「救済だ?」

 

「他クラスと共闘しない場合、編集同士の情報交換は自クラスのみとなります。退学のリスクを背負って3つも出版社を作ったクラスには何らかのメリットがあっても不思議ではありません。学校もこんな早い段階で退学者を出そうとは思っていないでしょうしね。それに……」

 

「なんだよ、急に黙り込んで」

 

八神の表情が暗くなり、思わずデンヤも息をのむ。

 

「正直、僕たちBクラスが共闘を申し入れる大きな理由でもあるのですが……。そんな救済措置があるということは、裏を返せばこの試験は僕たちが思っている以上に過酷なものなのではないでしょうか?」

 

「抜け穴を利用しなきゃ退学者が出るってのか?」

 

「ええ。皆さんを信頼してお話しますが、僕たちBクラスは3出版社で参加予定です。そして抜け穴があること、つまり試験の難易度が予想以上に高いものになる可能性に気づいたのは残念ながら役割を提出した後でした……」

 

「上位を目指すことはもちろん大事ですが、僕は誰にも退学になって欲しくない。僕の尊敬する生徒会の一之瀬先輩がそうであるように、退学者を出さないことを一番にしたいんです」

 

1年生の間でも一之瀬の人柄、評判は広まっている。話を聞いているCクラス生たちは、学年が違っても同じBクラスということで八神が尊敬するのも違和感なく受け入れられた。

 

「一応筋は通ってる、か……。でもよ――」

 

「ここで結論を出していただく必要はありません。実際に試験が始まってみたら杞憂だった、ということもあると思います。その際はリスクを負ってまで情報交換する意味はないですから」

 

「まぁ……な」

 

八神からの譲歩案に流石のデンヤもこれ以上反論する余地を見つけられなかった。

 

「情報量が2倍になれば退学のリスクが減るだけでなく、他2クラスよりも理想の物語を揃えられる確率は上がります。ぜひご検討ください」

 

そう言ってCクラスの反応を確認するわけでもなく、八神はさっと退出していった。どの生徒も上手く状況を飲み込めず、まるで無音の空間にいるかの様に感じた。

 

「……どうすんだよ」

 

小さなデンヤのぼやきでも教室の隅まで届く。

 

だが、誰も明確な回答を出せない。

 

「仮定が多い分、手放しで協力する判断はできないっすね」

 

少しの間があり沈黙を破ったのは波多野。

もちろん、波多野自身もまだ困惑していた。抜け道は本当に学校の意図なのか。試験は想像以上に過酷なのか。Bクラスの協力に裏はないのか。

 

考え、悩み、答えが出ない問いが脳内を巡る。

 

大半の生徒が似たような心境だったが、何よりもCクラス生を苦しめたのは、Bクラスが気づいていたルールの穴に気づけなかった不甲斐なさだった。

他にも自分たちが見落としている要素があるのではないか。そんな状態で試験に勝つことができるのか。

 

Cクラスは、八神の訪問によって試験に対する猜疑心が膨らみ始め、重たい空気に包まれた。

 

一方その頃、綾小路は――。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「ところで綾小路くん」

 

「どうした?改まって」

 

「最近放課後はよく軽井沢さんと一緒にいるらしいね。なにしてたの?」

 

「たまたま出会ったコンビニでオススメのパンを教えてもらったことがあったな。一之瀬は鬼辛のパンは好きか?」

 

「あんまり得意じゃないけど、綾小路くんが食べるなら一緒に食べてみようかな。それで、なにしてたの?」

 

「あー、家電選びを手伝ってもらっていたんだ。参考までに聞きたいんだが、一之瀬はヨーグルトメーカーを欲しいと思うか?」

 

「うん。綾小路くんが欲しいものは私も欲しいかな。それで、なにしてたの?」

 

「…………言っておくが、やましいことはなにも――」

 

「人気のない家電店の奥に入って長時間出てこなかったとか、2人で茂みに入って長時間出てこなかったとか、いろんな話を聞いてるんだけど?」

 

「……」

 

こちらも猜疑心が膨らみ始め、重たい空気に包まれて――。

 

「なーんてね。綾小路くんが意味もなくそんなことするとは思えないし、なにか私に言えないわけがあるんだよね?」

 

「あぁ」

 

「綾小路くんが良い反応するからつい意地悪しちゃった。ごめんね?」

 

一之瀬は天沢を彷彿させるような蠱惑的な笑みを浮かべた。恐らく意図的なものだろうと綾小路は推測したが、重要なのはそこではない。

 

「こちらこそ誤解を招く行動だった。そのうち解決する案件だ、気にしないでくれるとありがたい」

 

「うん」

 

想像を超えた情報収集力を披露した一之瀬。認識を修正し、再計算を始める。

一つの結論に至るまでに時間はかからなかった。

 

そうして綾小路は一つの決定をする。

 

そろそろ生徒会長になってもいい頃合いだと。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「なぜ、こんな回りくどいことを?」

 

理事長室の椅子に座る月城に問いを投げかけたのは、1年Dクラスの担任、司馬。

 

「司馬先生が理解できないのも無理はありません。彼のたっての希望でこんな試験を作ったのですから。私も本来の意図を理解できているか怪しいものです」

 

「それならなおさら言うことを聞く必要があったとは思えません」

 

「そう難しく考えることもないでしょう。これも一つの実験ですよ」

 

表情を一切崩さない司馬に月城は微笑む。

 

「それに――」

 

月城は机に置かれた試験の資料を見て思案する。

 

「歴史がそう示すように物語は勝者が語ってできたものです。彼らがどんな物語を作り出すのか、楽しみじゃありませんか」

 

既に想定から大幅に逸れている現状であるにもかかわらず「教師らしく見守りましょう」と提案する月城の考えも、司馬にとっては理解ができないものだった。

 

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