ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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堀北学ファンクラブ会員たち

生徒会に入ることになった翌日。

 

登校すると堀北——妹の方が、教室へ続く廊下の途中で待ち構えていた。

 

「昨日は顔を出さないなんて、随分薄情なのね、綾小路くん」

 

挨拶よろしく、辛辣なコメントから始まる朝のひと時。

 

「あの後いろいろあってな。途中までは待っていたんだが……」

 

「まぁいいわ。事件の結末は知っているわね」

 

「あぁ、須藤も喜んでいた。お前の作戦のおかげだな」

 

「あなた、私を誘導したでしょ」

 

ご名答。目立ちたくなかったことに加え

Dクラスで堀北の地位を築いて隠れ蓑にするために

さりげない感じで解決へのヒントを出し続けた。

 

「なんのことだか」

 

「とぼけるつもり?そもそも……っ!」

 

こちらを問い詰めようとした堀北だが

向こうから男子生徒が一人歩いて来るのを見て黙り込む。

人に聞かせたくないのかと思ったが、よく見ればあれは堀北だ。兄の方の。

 

どうもこの兄妹、関係がうまくいっていないようで

入学間もない頃、堀北兄が妹に退学するように迫ったこともあった。

それを割って入って止めたことが妙な縁の始まりだったように思う。

 

「おはようございます」

 

一応、今日からお世話になる生徒会のボスだ、挨拶ぐらいはしておく。

挨拶は大事だぞ、と隣の堀北を見ると、俯いて今にも逃げ出しそうなご様子。

 

「あぁ。早速だが綾小路、生徒会メンバーを紹介したい。放課後、生徒会室に来てもらうぞ」

 

「わかった、放課後だな」

 

用件はそれだけだったようで、すぐに去っていく堀北兄。

妹など目に入っていないようだった。

 

「いつもこのくらいしおらしければ、可愛げもあるのにな」

 

借りてきた猫がさらに椅子の下に隠れてしまったような、よわよわ堀北。

蹴りが飛んでくることを覚悟の上での発言だったが、それすらなかった。

 

「……いまのはどういうこと?」

 

「最初の話に戻るが、色々あって、生徒会に誘われてな。悩んだが、入ることにした」

 

「そう、あなたは兄さんに認められたのね」

 

「いや、お前にこき使われる姿を見て、雑用係にでもちょうどいいと思ったんじゃないか?」

 

「兄さんは雑用で人手が足りなくなるような仕事はしない。雑用程度、片手間の手間の手間、そうね、テレビを観ながら歯磨きするついでにでも片づけてしまうわ」

 

こいつの兄への信望も相当なものだ。なるほど、これがブラコンってやつか。

 

「ということで、これから放課後は生徒会の仕事があるから——」

 

「構わないわ。Aクラスに上がるための手伝いも両立させてくれるってことだと理解しているから」

 

手伝えなくなる、と断りを入れようとしたところで先手を打たれた。

 

「兄さんが認めたぐらいだもの。そのくらいなんともないでしょ」

 

「お前な……やれるだけやってみるが、あまり期待しないでおいてくれ」

 

「あなたのことはともかく、私は兄さんを信じているから」

 

これ以上何を言っても折れることはなさそうなので諦めることにする。

やるかどうかはともかく、事前に試験内容がわかるなら

いくらでもやりようはあるしな。

 

 

 

放課後、オレは生徒会室にやってきた。

これまで全く縁がなかった場所だが、3日連続ともなると慣れたものだ。

まだ誰も来ていないようだったので、一番端の席に座って待つ。

 

程なくして4人の生徒が入ってきた。

 

「お前が堀北先輩が言っていた1年か……どんなすげえやつが来るのかと期待していたんだが、なんていうか影が薄いな。危うく見落とすところだったぜ」

 

ニヤニヤとこちらを挑発するような態度の金髪の男。

堀北兄を先輩と呼ぶことから、2年生だろう。

須藤の赤髪もそうだが、この学校、髪を染めることに対しては寛容だな。

学校の顔である生徒会役員で金髪は相当肝が据わっている、と言えるんじゃないだろうか。

まぁそれを言ったら橘書記も紫色なので、気にしないことにしよう。

 

「南雲、あまり一年をいじめるな。堀北先輩が推薦したんだ。間違いはないだろう」

 

真面目そうな男がフォローしてくれるが、こちらはこちらであまりいい顔はしていない。

 

「悪かったな、1年。オレは2年Aクラスの南雲だ。生徒会では副会長をやっている。こっちは、溝脇と殿河。で、こいつが——」

 

「桐山だ」

 

「よろしくお願いします、先輩方。1年Dクラスの綾小路清隆といいます」

 

今回はそこそこうまく自己紹介ができたんじゃないか。

第一印象は大事だからな、丁寧にしておいて損はないだろう。

 

「Dクラス?おいおい、ほんとに大丈夫かよ。まだこの前の葛城とかいうAクラスの奴の方がマシだったんじゃないか」

 

自称副会長の南雲は言いたい放題だ。

Dクラスの惨状を思うに、わからないリアクションではないが……

 

その時、ドアが開き、堀北兄と橘書記、そして3年と思われる生徒が数名入ってくる。

 

「全員揃っているな」

 

「みなさん、こんにちは」

 

「「お疲れ様です。堀北生徒会長、橘先輩、先輩方」」

 

先ほどまでと変わり、ピリッとした空気になる。

 

「挨拶は済ませたようだな。桐山、こいつに生徒会の仕事を教えてやってくれ」

 

「わかりました。立派な生徒会役員として鍛えてみせます」

 

先ほどとは変わって目を輝かせている桐山。

堀北学ファンクラブ会員No.3といったところだろう。

言うまでもないが、No.1は堀北妹で、 No.2は橘書記だ。

初の男性会員を発見したことになる。

 

「堀北先輩、こいつDクラスって、マジで大丈夫なんすっか」

 

「不服か」

 

「Dクラスの役員は前代未聞っすよね。生徒会のメンツに傷がつくんじゃないっすか」

 

歴代Dクラスは、これまで上のクラスに上がったことすらない不良品の集まり。

そんな不動の実績を築き上げてきたクラスの生徒が、生徒の代表である生徒会役員になるなんて基本的にあり得ないのだろう。

……マズいな、思ったより目立たないか、オレ。

『Dクラス歴代初』なんて称号はありがた迷惑だ。

 

「綾小路の実力は俺が保証する。それで問題ないだろう」

 

「へぇ、堀北先輩が認める程のやつなんすね。おい、綾小路、お前何ができるんだ?」

 

「……ピアノと書道を少々」

 

突然話を振られても、面白い返しはできない。適当に流しておく。

 

「ハッ、こりゃ雑用としての力はありそうっすね。今度から会議中はこいつに演奏してもらいましょうよ、堅苦しい話し合いもマシになるんじゃないっすか」

 

「お前にはこいつはその程度に見えるのか、南雲」

 

「少なくともどうしてこんな覇気のないやつを先輩が推すかはわかりませんね」

 

「だそうだが、どうなんだ、綾小路」

 

「その時は、きらきら星変奏曲でも弾きますよ」

 

「「……」」

 

突然の沈黙。

今度こそは面白い返しをと狙ってみたのだが、上手くいかなかった。

どう返すのが正解だったんだ?

 

「無駄話はここまでにしませんか。今日も仕事は山ほどあるんですよ」

 

橘書記が助け舟(?)を出してくれ、この話はここまでとなる。

 

 

その後、桐山から議事録の取り方や書類整理、備品管理など一通りの仕事を教わった。

この手の作業を真面目にやるつもりはなかったのだが

手を抜こうとするとすぐに喝が飛んでくる。

厄介な教育係をつけられたものだ。

桐山から注意されない程度にはやっておくか。

 

「さて、ここまでで何かわからないことはあるか」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「なら、お前がどのくらい理解したかテストさせてもらう」

 

色々と説明不足のこの学校で、ここまでちゃんと教えてくれるのはありがたいのだが……正直面倒になってきた。

 

「来年度の文化部の部活動予算についての会議があり、その議事録を担当することになった場合、必要書類は何が必要でどこにあるか。また、議事録完成後、どこに提出する必要があるか」

 

ここで間違えて一から説明し直される流れだけは阻止したい。

 

「予算編成の議事録フォーマット、過去5年分の文化部予算一覧、各部の実績一覧と活動報告、来年度の予定予算が必要で、場所は生徒会室の書類棚の議事録、会計、部活動コーナーに保管されている。作成後は、生徒会長の確認印をもらい、会計、そして担当教員宛にコピーを送り、原本は生徒会室で保管、で合ってますか」

 

「……正解だ。物覚えは良いらしいな。ならもっとできるだろう。次の仕事を教える」

 

正解なら今日は解放だと睨んだが、この調子ではどちらでも大差なかったようだ。

 

それにしてもすでにそれなりの情報量じゃないか。

生徒会の人間はこれぐらい朝飯前にこなすということだろうか。

本来なら徐々に教えていくような内容にも思えたが

何度も講習されても困るため、黙って取り組む。

 

「……と以上が生徒会での事務作業の全てになる。明日からいくつか任せるから、そのつもりで復習しておくように」

 

「はい」

 

そういって、そそくさと部屋を出ていく桐山。

すでに時計は21時を回っていた。もちろん、他のメンバーは帰宅済みだ。

 

真面目過ぎるのか、堀北兄の期待に応えたかったのか。

いや、もしかしてこれが先輩からのしごきってやつなのか。

ホワイトルームでは同期以外の接触は大人のみだった。

年の近い先輩とあれこれするというのは新鮮だな。

などと感慨にふけっているとなぜか桐山が戻ってきた。

 

「存外、根性のあるやつだな。正直、最後まで音を上げずについてくるとは思わなかった」

 

と言いながら、手に持っていたリンゴジュースを渡してくる。

これが、先輩からのおごりってやつか。なんというか、かなり学生っぽいぞ。

 

「ありがとうございます」

 

「お前のことはまだわからないが、オレは堀北先輩のことを信じているからな。お前のことも少しは認めることにする」

 

今朝似たようなセリフを聞いたような——思えば堀北妹と桐山は少し似ているな。

目つきの鋭さとか。

 

「ところで桐山先輩の役職は何なんですか?」

 

生徒会長の堀北学、書記の橘、副会長と名乗った南雲以外

どんな役職があって誰が担当しているかがわからない。

最初に説明があってもいいと思ったのだが……

 

「書記だ」

 

「溝脇さんと殿河さんは?」

 

「書記だな」

 

「橘先輩も確か——」

 

「書記だぞ」

 

「……オレも書記でしたよね?」

 

「この学校の生徒会は、会長、副会長以外は全員書記だ」

 

これまで学校というものに通ったことがないため断言はできないが

組織としてそれで大丈夫なのか。

 

「驚くのも無理はないな。普通の学校なら、会計や庶務など他の役職もある。だが、この学校は常に退学と隣り合わせだ。それは生徒会役員も例外ではない。欠員時に問題が起きないよう特定の役職は設けず、すべて書記が兼任するシステムだ」

 

「なるほど」

 

「つまり生徒会長と副会長は『絶対に退学しないと思われる人物』である必要がある。この2つの役職になることは名誉なことだと覚えておけ。南雲はともかく、堀北先輩は本当に優れた人間だ」

 

これはどちらにツッコミを入れるべきか。

 

「桐山先輩は堀北先輩を慕っているんですね」

 

「当然だ。俺はあの人に憧れて生徒会に入った。あの人のようになりたいと常に己を磨いているつもりだ」

 

流石ファンクラブ会員。堀北妹と似たようなことを言っているな。

まだオレにはその魅力がわからない。

しかし、少なからずオレの実力を見抜き勧誘してきたことも事実。

今後活動していく中で見えてくることに期待させてもらうか。

 

「綾小路、お前も堀北派としての成長を期待している」

 

「えー、あー、はい、頑張ります」

 

なんだその派閥?ファンクラブへの勧誘なら勘弁してほしいが

この良い感じの雰囲気を壊すのも面倒だったので適度に話を合わせておこう。

 

 

とにもかくにも一時はどうなるかと思ったが、こうしてオレの生徒会初日は幕を閉じた。




原作でいまだに会長、副会長、書記以外の役職が登場していない問題に勝手に解答を作ってみました。
あれだけ生徒会役員としての出番もある一之瀬ですら役職不明のまま。
個人的にすごく気になっているネタです。
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