ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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三者三様

「金田君、龍園君を呼んでくれないかな?」

 

「えっと、それは……」

 

「できるよね?」

 

言葉を静かに重く放り出す。

言葉のキャッチボールとはよく言ったもので、いつもの受け手の事を考えた送球とは真逆の、相手がどうなっても構わないという暴投。

一之瀬の様子がどこかおかしい。いつもの包容力に溢れる明るい雰囲気とは違い、今は他者を一切受け付けない凄味を感じる。こんな表情もできるのか。

 

その重圧に耐えきれなくなった金田は自分のトランシーバーの隠し場所を打ち明け、回収し、龍園へと連絡することとなった。

 

「まだ隠し事してたなんて、アイツ何なんだ」

金田の周りを囲む生徒たちからの不信感は積もる一方だ。

 

「龍園氏、すみません。()()()()()()失敗してしまいました。一之瀬さん達がお話をしたいそうです。拠点までお越し頂けないですか?」

 

『馬鹿言ってんじゃねーよ、金田。そんな作戦聞き覚えもねぇな。お前は勝手に出て行ったんだろ。オレの一人バカンスを邪魔すんな』

 

「来ないならCクラスは失格。金田君は退学になるけど?」

 

この期に及んで無関係を貫こうとする龍園。それを聞いた一之瀬は金田からトランシーバーを取り上げ、淡々と告げる。

 

『……一之瀬か。オレを脅そうなんざ、良い度胸だ。いいだろう、そっちに行って遊んでやるよ』

 

「遊ぶ?ふざけないで!」

 

すでに向こうは聞いていなかったのか、返事はない。

 

明らかに暴走している一之瀬。

通常なら誰かがその異変に気付きそうなものだが、みんな殺気立っている。

大事なクラスメイトを傷つけられたため、さすがの一之瀬も怒っているのだと捉えているようだった。

本当にそうであればいいのだが……。

 

オレの計画では龍園を呼び出す必要はなかった。

わざわざ作戦の失敗を伝えてやる意味はないからな。

後の祭りだが、金田のペナルティでこのまま知らぬうちに失格になってもらうのがベストだった。

……ここは少し傍観に回ってみるか。

一之瀬がどうするのか、興味があるしな。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

千尋ちゃんは私にとって妹みたいな存在だ。

人懐っこくって、素直で、よく甘えてくれる。

……彼女の気持ちに応えることはできないけど、大事な存在であることは違いない。

 

その千尋ちゃんが、下着を盗まれたことで泣いて辛い思いをしている。

そんな事実が私にはどうしても許せなかった。

 

二度とこんなこと……許してはいけない、許されてはいけない。

でなければ私自身が――

 

「よう、一之瀬。せっかく来てやったのに穏やかじゃねぇな」

 

気づけば目の前には龍園君がいる。

 

「試験とは言え、女子の下着を盗ませるなんて最低だよ。千尋ちゃんやみんなに謝ってもらえるかな」

 

私は千尋ちゃんのためにも、私自身のためにも、こんな戦略を取った龍園君を放置するわけにはいかなかった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

金田のヤツ何をやらかしたかと思えば、そういうことか。下手打ちやがって。

 

だが、伊吹がいないところを見るとリーダー情報を盗むことには成功したようだな。

それを悟らせないために時間を稼いでいるってところか。

俺としてはこうなった以上、Aクラスとの取引さえ成立させちまえば、あとは失格でも構わねえ。

金田のプライベートポイントがなくなっても十分お釣りがくるからな。

 

だが、オレが関与していると認めるのはリスクがある。訴えられれば実行犯ではないにしても停学ぐらいにはなる。

そんなことになればCクラスでの立ち位置も揺らぎ、支配力も一気に低下するだろう。

 

幸い伊吹にはオレと合流できなかった場合、単独で葛城のところにデータを持っていくように伝えてある。

手下の尻拭いなんざ柄じゃねえが仕方ない。

 

「クク、馬鹿言ってんじゃねえ。身に覚えのないことで謝る必要はねえな」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「あくまで白を切るつもりなんだね。金田君は洗いざらい白状してくれたんだけど?」

 

「それは金田のついた嘘だろ。ま、戦略って意味じゃそうかもしれねぇな。あれだけ生意気言ったんだ。このままじゃ試験後にCクラスに戻ってこれないからな、何かしら手柄を上げたかったんだろうよ。だろ、金田?」

 

龍園からの睨みに金田は頷くしかなかった。

 

「トランシーバーについてはどう説明するのかな?」

 

「俺だって鬼じゃねえさ。クラスの連中の手前、厳しく制裁したが、恐れず意見を言えるやつは嫌いじゃねぇ。考えが変わったら連絡するように渡しておいただけだ」

 

一之瀬からの追及をのらりくらりと躱す龍園。

Cクラスの2人以外、77人に囲まれた中で堂々としたものだな。他のクラスメイトはこのやり取りを固唾を飲んで見守っている。

もちろん、何か起こればすぐに助太刀に入れる臨戦態勢だ。

 

「龍園君の戦略を一から説明してあげないとわからないかな」

 

「クク、ぜひご高説願いたいもんだぜ」

 

「デジタルカメラ、ここにいない伊吹さん、明らかに300ポイント分はなかった物資……」

 

言葉を羅列しただけの一之瀬。だが、ここで初めて龍園の表情に変化がでる。

そうか、一之瀬も気づいていたんだな。

どのタイミングで答えに至ったかわからないが、白波が狙われたこと、金田のバックの中に入っていたデジカメなどヒントはいくつも転がっている。

だが、そのことに気づいた生徒は他にはいないようだ。

 

「そこまでわかってんのかよ。御見逸れしたぜ、一之瀬。だが、どうする?もう遅いかもしれねーぜ」

 

「だったとしたらもう金田君に助かる道はないよ。下着泥棒として失格になってもらう。そして学校に戻り次第、このことを訴えさせてもらうから。それが嫌なら伊吹さんを連れ戻してくれる?」

 

「そうなったら全面戦争だ。そっちも覚悟はできてんだろうな」

 

「勝ち目があると思ってるの?」

 

クラスリーダーとして為すべきことを為そうとしているが、このまま感情に任せて金田を退学へ追い込めば、一之瀬が一之瀬でなくなってしまう。

それでは駒としての魅力を失うようなもの。俺にとって都合が悪い。

なんとかいつもの一之瀬に戻ってもらう必要があるな。そのために必要なピースは――

 

「その必要はないわよ、一之瀬さん」

 

丁度いいタイミングで戻ってきた一人の生徒――堀北鈴音が、伊吹を担いで登場した。

その様子を見て安心したオレはもう一人のキーパーソンの元へと移動する。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

『騒動に紛れて大木に隠したトランシーバーを取りに来るはずだ。悪いがそこを守ってもらいたい』

 

綾小路くんの言っていたことが当たったようね。

誰かが走ってくる息遣いを感じた私は、大木の裏から出ていく。

 

「な、なんでアンタがここにいるわけ」

 

「こんな逃亡を許すなんて、Bクラスもまだまだ甘いわね」

 

「アンタ風邪で寝込んでるって話でしょ」

 

「風邪を引かないあなたにはわからないでしょうけど、4日間も安静に寝てたら嫌でも回復するわ」

 

試験開始から、まんまと綾小路くんの策にハマり、ベースキャンプのテントでの安静を義務付けられた。

一之瀬さん達の善意を利用するとはね。熱で朦朧としていたこともあって断り切れなかったじゃない。

 

でも、おかげですっかり元気になった私のもとに、このまま役立たずでいるつもりかと綾小路くんがやってきた。

一之瀬さん達にお世話になった分ぐらいは働くわよ。借りはすぐ返す主義だから。

 

「悪いけどあなたをこの先へは進められない。大人しく投降してくれないかしら?」

 

「はぁ?誰がそんなことするの、よっ」

 

こちらの目的を察した伊吹さんが回し蹴りを入れてくる。後ろに飛んで回避することで距離を取った。

 

「少しは動けるみたいじゃない」

 

「あなた正気?暴力行為はペナルティよ」

 

「こんなところで誰が見ている?それにどっちにしてもここで捕まれば同じでしょっ!!」

 

こちらの顔面を狙った右のハイキックを避けると、その勢いでかかと落としへ繋げ、振り下ろした足が地面についた反動で跳躍し、左の膝を叩きこんでくる。

 

蹴り技主体の無駄のない連携技。

それをギリギリのところで躱してみせる。

 

私も兄さんと同じく空手と合気道など武道の心得がある。

でも伊吹さんと違って、こちらは明らかに暴力を振るった証拠は残せない。

タコ殴りにしてボコボコにしてしまえば、私も須藤君を笑えなくなる。暴力事件の容疑者として兄さんと会うのは勘弁だ。

大人しく従わないこともわかったし、落ちてもらうしかなさそうね。

 

足技が主体だとわかったため、それをけん制した動きに切り替える。

いくつかのフェイントを混ぜ、素早く動き、的を絞らせない。

 

そうすれば伊吹さんは――右のストレート、予想通り拳を出す。

だが蹴り程キレがない。

それをいなして相手の側面に入り背後を取った。

そこからは身体が自然と動き、伊吹さんの首元に手をかけ、足の運びでバランスを崩し、

首元を少し引くことで、起き上がろうとする伊吹さんを勢いのまま投げる。そしてそのまま、しめ技に移行すれば相手はどうすることもできない。

 

少し抵抗はあったものの、程なくして伊吹さんの意識は途切れた。

手ごわい相手だったけど、こちらが万全の状態であればこんなものね。

 

面倒くさいことこの上ないのだけれど、この伊吹さんを背負ってベースキャンプに戻る。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「彼女、急いでたのか坂道で転倒しちゃったみたいね。気を失ってたから連れてきたわ」

 

堀北さんが伊吹さんを連れてきてくれた。これでリーダー情報がAクラスに漏れることはなさそうだ。

感謝しつつも、これで相手の交渉材料はなくなった。

もう何も気にする必要がない。容赦なんてしないんだから。

 

「どうする龍園君。もうこれでこっちが金田君を訴えない理由はなくなったよ。罪を認めてしっかり謝るなら考えるけど」

 

「伊吹は関係ねぇな。金田の独断で行った。話はこれでしまいだ」

 

「罪を認めない?私、そんなこと許せないよ。そこまでいうなら――」

 

「帆波ちゃんっ!」

 

その時だった。私は後ろから誰かに……千尋ちゃんに力強く抱きしめられた。

 

「私、もう大丈夫だよ。だから、そんなに怒らなくていいんだよ。ゴメンね。ゴメンね」

 

泣きながら一生懸命謝罪する千尋ちゃんの姿に、私はハッとした。

私、いったい何を言おうとしてた?金田君を訴えて、Cクラスと全面戦争?

少なからず反省している様子の彼を陥れる?クラスのみんなを危険にさらしてまで?

 

パンっと自分の頬を両手で叩く。危なく大事なものを失ってしまうところだった。

 

「ごめんね、千尋ちゃん。もう大丈夫、ありがとう」

 

「うん」

 

いつもの私に戻ったことを悟ってか、私を抱きしめる千尋ちゃんの腕から力が抜ける。

 

「あの、私はまだ認めていないけど、あの人からの伝言を伝えるね」

 

「ん?あの人?」

 

私の耳元で千尋ちゃんが囁く。

 

「『伊吹は嫉妬してて、金田は伊吹を庇ってるんじゃないか?』だって」

 

「なるほど…そういうこと」

 

その言葉を受けて、一つのゴールを思い描く。

誰も傷つかない落としどころとしてはこれしかない。

 

少し離れたところ、千尋ちゃんが飛び出してきた方向から綾小路くんがこちらを見ていた。

これ以上の醜態は見せられない。

 

意を決して私は金田くんへ向き直った。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「ねぇ金田君、そろそろ本当のことを話さない?」

 

「へ?」

 

「おいおい一之瀬。金田のライフはもうゼロだ。これ以上いじめてやるなよ」

 

自分に話が振られるとは思っていなかったのだろう、真っ青な金田からはしっかりとした言葉は返ってこない。

 

「伊吹さんのこと、庇ってたんだよね?」

 

「そ、それは……」

 

「おい、余計な――」

 

「龍園君は黙ってて。下着を盗んだのは、本当は伊吹さんだったんじゃないかな?」

 

「どういうことだ、一之瀬?」

 

ここまで沈黙を守っていた神崎も思わず口を開く。

 

「金田君と千尋ちゃん、この試験中、すごく仲良くしてたじゃない?それに嫉妬した伊吹さんが、思わず下着を盗んで金田君のバックに入れちゃったんじゃないかなって」

 

「そんなことがあるのか?」

 

「うん。女の子の嫉妬って怖いんだよー。でも、それに気づいた金田君は伊吹さんが責められることを危惧して黙ることを選んだんだよ」

 

「金田君も伊吹さんのこと想ってたってこと!?」

 

ゴシップ好きの篠原が参戦する。この場の空気が変わってきた。

龍園は黙って話を聞いている。一之瀬の言葉が効いたというよりは、一之瀬が何をしようとしているのか察したのかもしれない。

 

「そういうことになるよね。あんなに責められても、決して伊吹さんを売らなかったんだもん。伊吹さんは自分のせいで責められる金田君の姿を見ていられなくなって、キャンプから出て行っちゃったんだけど……罪悪感があったんだろうね、途中で倒れちゃうなんて」

 

「確かに、盗んだ下着をそのまま持っているのもおかしいし、男子の金田が女子テントにある女子のバックを気づかれずに漁るのも無理があったかもしれない」

 

「それなら白波さんが狙われた理由もわかるよねー」

 

「そういえば、伊吹さんは金田君を追ってこのキャンプに来たんだもんねー」

 

「意外と男を見せてたの、金田君って」

 

とんでも理論だったが、人の怒りは長く続かない。それに、Dクラスはともかく、元々人の良いBクラスのメンバーは責めるよりも、信じることの方に重きを置く傾向がある。

もちろん、信じない者もいるかもしれないが、被害者が大丈夫といった以上、ここは一之瀬の話に乗って穏便に済ませることがベターだろう。

 

「そう、これがことの真相だよ。龍園君は人の恋路に口を挟めなくってはぐらかしてたってとこかな。確かに下着を盗んだことは許せないけど、同じ女子の仕業だし、条件次第では情状酌量の余地はあるかなって思う」

 

「クク、何がお望みだ?」

 

「この試験のCクラス全員の自主リタイアとキーカード情報、それで手を打ってもいいよ?」

 

「いいぜ、交渉成立だ。良かったな、金田。大好きな伊吹は許してもらえるってよ」

 

「え、ええ」

 

「じゃあオレたちは早速リタイアしにいくぜ、伊吹はお前が背負え」

 

ほらよ、と龍園はキーカードを投げ捨てる。Cクラスのリーダーは案の定、龍園だった。

 

「残った荷物は好きに処分していい、俺たちには不要だからな」

 

そう言って3人はキャンプを後にした。

念のため数人にあとをつけてもらったが、そのままリタイアして客船に戻ったことを確認できたそうだ。

 

 

落としどころとしては上々だろう。

今回の件、生徒会で審議すれば退学の可能性があり

退学のペナルティでクラスポイントの減点もある。

 

万が一退学を免れても、あのままでは金田は下着泥棒として残りの学園生活を過ごすことになった。

例えばオレがそんな状況で過ごせと言われたら……

ホワイトルームに戻るか真剣に悩むレベルの生きづらさだ。

つまり遅かれ早かれ金田は自主退学したはず。

そうなってしまえばCクラスは今後圧倒的に不利になるため

なんとしても裁判を成立させるわけにはいかない。

龍園がどんな汚い手を使ってBクラスを攻撃するか

その結果どうなるかは考えたくはないな。

 

だが、今回の一之瀬の提案を飲めば、金田の冤罪は晴れる。

変態下着泥棒から一途で誠実な男へと大変身だ。

伊吹が捕まった時点でAクラスとの何らかの取引は達成不可能。

プライベートポイントを失わないだけ、自主リタイアの方が傷は浅い。

リタイアするなら、自身のリーダー情報も不要になるだろうしな。

 

こうして試験開始5日目でCクラスの敗退が決定した。

 

だが、まだAクラスが残っている。これから本当の仕上げを行わなくてはならない。

 

 

 

ちなみに後日、金田と伊吹が交際しているという噂が広まることとなったが、それはオレの関知するところではないな。

 

 

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