ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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南雲BSS作戦

「会長、一年生の船上での特別試験の結果が出ています。勝ったのは――」

 

「……」

「……」

 

「……どうした、橘。続きを言わないのか?」

 

「えっと、言ってしまってよかったんですか?てっきりまた――」

 

「構わん」

 

「はい、勝ったのはAクラスです」

 

「やはり人の話を遮るのは良くないな……危なかった」

 

「さすが会長、同じ失敗はしないお方ですっ!」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

豪華クルージングから帰ってきたオレたち1年生。

2つの特別試験はあったものの、それも含め豪華客船での旅というものは初体験のものが多く、とても楽しむことができたように思う。

心残りがあるとすれば、堀北兄と橘が乗ってきたヘリにオレも搭乗してみたかったことぐらいだ。

生徒会を続けていれば乗れる機会があるのだろうか。今度聞いておこう。

 

久々の学生寮の部屋は客室ほどの豪華さはなくとも、この質素な感じが、学生生活に戻ったんだなという安心感を抱かせてくれる。

静かでいい。もう、筋トレをしながら歌う高円寺の鼻歌に悩まされることもない。

 

そんな風に自室のベットに転がりながら旅行を回想していると、携帯が鳴る。

帰宅早々、生徒会長からのお呼び出しだ。

気を使って1日ぐらい休ませてくれても良かったのでは?と思いつつも

ヘリの事も聞きたいし丁度良かったかもしれない。

 

オレは制服に着替え、2週間ぶりの学校へと足を運んだ。

 

 

その翌日。生徒会メンバーが生徒会室に招集された。

 

「俺たち生徒会は、新たに1年生を書記として迎えることとなった。一之瀬」

 

「はいっ!」

 

堀北兄から指名され、緊張した様子で席を立ち一之瀬が前に出てくる。

生徒会のメンバーの顔をしっかりと見渡し、最後にオレと視線が合う。

 

「1年Bクラスの一之瀬帆波と申します。若輩者ですが、少しでも先輩方のお仕事について行けるよう頑張りますので、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」

 

呼ばれたときの緊張を感じさせない、堂々とした挨拶だった。

生徒会の面々から「よろしく」「期待してるよー」などの声援と拍手を送られ、席に戻る一之瀬。

 

……待てよ。オレの時はこんなしっかりとした紹介じゃなかったよな。

割と適当に紹介されて、すぐさま桐山の熱血指導コースだった。

この差は何だ?

 

「良かったな、帆波!これで念願の生徒会入りだ」

 

席に座った一之瀬に、南雲が馴れ馴れしく話しかける。

笑顔で祝福しているようにも見えるが、その言葉の裏には誰のおかげで入れたか、わかっているよな?という意味が含まれているのも伝わってくる。

 

「ありがとうございます。南雲先輩には()()()()ありません」

 

「お、おう。期待してるぜ」

 

ストレートに明るく返事をする一之瀬に少し動揺をする南雲。

南雲の予想ではもっと違ったリアクションが見れると考えていたのだろう。

 

「それで綾小路、お前は今日から副会長だ」

 

「「は?」」

 

堀北兄が突然変なことを言い出すので南雲とリアクションが被った。最悪だ。

 

「知っての通り、生徒会の席は既に埋まっててな。一之瀬を入れようにも、空きがもう一つの副会長の席しかなかった。無論、一之瀬をいきなり副会長にすることはできない。よってお前が昇進した」

 

「綾小路くん、スゴい。生徒会役員就任後、たった1ヶ月で副会長なんてっ!」

 

堀北兄の解説に目を輝かせて感動する一之瀬。

 

「き、聞いてないっすよ、堀北先輩。コイツには無理ですって。Dクラスっすよ」

 

「クラスは関係ない。綾小路にはそれだけの実力がある」

 

「え、クラスは関係ない?堀北会長は実力主義?」

 

「あー、気にするな帆波」

 

いつかの説明と矛盾する話。本人の目の前で墓穴を掘る南雲。

それは置いておいて、副会長就任はさらに目立つ。丁重に断らせていただこう。

要は替えが居ればいいのだから――

 

「副会長には、桐山先輩とか他に相応しい人もいたんじゃないですか?」

 

「いや、俺はお前を支持するぞ、綾小路」

 

「もちろん、私も異存ありませんからね」

 

「綾小路くん、スゴい。先輩たちからの信頼も厚いんだねっ!」

 

擦り付けようと思ったが、桐山も橘も同意の上での話のようだ。

先に本人に同意を取らないのはどうかと思うぞ。

 

「では、綾小路副会長、一之瀬に生徒会の仕事を教えてやれ」

 

「待ってくださいよ、堀北先輩。オレがやりますよ、その役。コイツは仕事をサボるようなやつです。大事な後輩の指導は任せられねーっす」

 

「サボる?」

 

「おい、とぼける気か。クルーズに行く前に頼んだ仕事はどうした?まだ終わってないだろ。泣きついてきたら許してやろうと思ったのに、放置して旅行にいきやがって……そんな無責任なやつ、指導係にも副会長にもふさわしくないでしょ」

 

あーあれか。夏休みの初めの頃、一之瀬に生徒会室前で出会った後に押し付けてきた仕事のことを言っているのか。

確かに量は多かったが、あの時は一之瀬との約束があったからな、ささっと済ませた記憶がある。

 

「あれなら全て終わらせましたが?」

 

「はっ、馬鹿言うんじゃねぇ。1人でやったら1ヶ月はかかる量だ。放置したか、適当にやったに決まってる」

 

平然と鬼畜なことを言っているが、終わったことだし、気にする必要もない。

 

「南雲、その件なら俺が確認したが、全て間違いなく完璧に終わっていた。綾小路を指導したものとして鼻が高い。副会長としてもやっていけるだろう」

 

「綾小路くん、スゴい。仕事もバリバリこなせるんだねっ!」

 

「帆波、勘違いするな。コイツはたまたま事務仕事が得意だっただけだ。事務仕事なんて生徒会業務の中ではそんなに重要じゃないからな」

 

「では、少なくとも事務仕事の指導係として問題ないな」

 

「でもっすね……」

 

「お忙しい南雲先輩を、私なんかの指導に付き合わせるのは申し訳ないです。事務仕事は重要じゃないとのことですし、同じ1年なので綾小路くんにお願いできればと思います」

 

納得のいかない様子の南雲だったが、一之瀬本人からこう言われてしまっては食い下がるのは難しくなる。

 

「まぁいいっすよ。でも、これから1週間、夏休みの見回りは俺の担当ですよね。帆波、一緒に回るぞ」

 

「その件だが、南雲。この前、『暑い中見回りは勘弁ですって。オレの時代になったら見回りなんかなくしてやりますよ』などと言ってたろ。無理強いするのも気が引けたからな、綾小路に引き継いでもらった。新副会長と新人のお披露目にもちょうどいい。一之瀬、綾小路に同行してくれ」

 

「綾小路くん、スゴい。先輩からも仕事を奪っていくハングリー精神っ!」

 

「チッ、こんな予定じゃなかった。どういうことだ……」

 

南雲は混乱しているだろうな。手駒を増やすために生徒会に入れた一之瀬があまりにも自分に関心を示さない。

それどころか、生意気な1年の方に尊敬の眼差しを向けている。

もっと恩義を感じて接してくると思っていただけに、さぞ絶望したことだろう。

 

これが、(B)先に(S)生徒会(S)に入れたはずなのに……

略して南雲BSS作戦だ。

 

話は前日に遡る。

 

「生徒会ならヘリに乗ることはできるのか?」

 

「あー、綾小路くんもやっぱり乗ってみたかったんですね!空の旅は楽しかったですよー」

 

「結論から言うと、生徒会長になればチャンスがあるぐらいの話だな」

 

学校を離れた試験の度に気軽にヘリでやってくる、というわけではないのか。

うーん、ヘリに乗るために生徒会長目指しますってのもなんだかな……いや悪くもないか。

 

「本題に入ってもいいか?」

 

「もちろんだ」

 

「今日呼び出したのは、話すと約束した『一之瀬をなぜ生徒会に入れなかったのか』についてだ」

 

やはりその話題だったか。こちらとしても気になっていたため、やってきてよかった。

無人島で共に過ごして再認識したが、普通の高校生であることを考えると一之瀬は優秀な人間だ。

加えてやる気も責任感もある。生徒会に加えても問題があったとは思えない。

 

「それには南雲が関わってる。これは橘にも話したことがない話だが、アイツは生徒会長になったら、この学校を根本から変えようとしている」

 

「学校を変える?」

 

「綾小路、初めての特別試験を体験してみて、この学校の方針をどう感じた?」

 

「……そうだな。決して一人では勝ち上がれないシステムだとは思った」

 

「そうだ。俺はこの学校の方針を肯定的に捉えている。単純な実力で劣っていても、クラスメイトと団結して試験に挑めば、下位のクラスでも逆転の余地は残されている」

 

「つまり南雲はそうではないと?」

 

「ああ。あいつは、真の実力主義、実力があれば完全に個人で勝ち上れる仕組みに変えようとしてる」

 

なるほど。クラスの中には個人としては優秀でも、クラスの総合力では上位クラスに勝つことができず、埋もれている人材もいるだろう。

そう言った生徒が、単独でも上のクラスを目指せるような仕組みか……。

 

「俺は、そのやり方は大勢が不幸になると考えている」

 

「たしかに、クラス内での裏切りや抜け駆けを恐れて、協力どころじゃなくなる可能性は高いな」

 

「ああ。疑心暗鬼になり周囲が敵の様に思える。そんな学生生活では学べるものも学べない、楽しめるものも楽しめないだろう」

 

「あんたの考えと南雲の方針は理解したが、それと一之瀬がどうかかわってくるんだ?」

 

今のところ、南雲の悪巧みを教えてもらっただけだ。

 

「一之瀬に限らず、葛城もだが、今年面接を受けに来た1年は、優秀でも純粋な面が強かった。そこを南雲に利用され、その思想に染められ賛同するだけの傀儡になることを恐れた」

 

「なるほどな。1年を入れても南雲の改革の手駒を増やすだけの行為になるわけか」

 

「そうだ。だから俺は南雲に支配されず、抑止となる対抗勢力を作る必要があった」

 

「……まさかオレの事を言っているのか?」

 

オレを生徒会に入れた理由は、今まではっきりしなかったが、堀北兄は自分の引退後はオレに南雲を止めてもらいたいということか。

 

「俺は後続の育成に失敗してしまったことをずっと後悔していた。だが、お前と出会い、この件を任せられるのは、お前しかいないと思った」

 

「歴代最優の生徒会長にそこまで言ってもらえるとは光栄だな」

 

「嫌味ぐらい受け止めよう。方法は問わない。南雲のことを頼めないか?」

 

今まで見てきた堀北兄の中で一番の真剣な表情。

この学校を任されてきたものとしての責任なのだろうか。

今の俺にはまだその重さを推し量ることはできない。

 

「一概に南雲の方針も間違いだとは思えないが……もし暴走するようなことがあれば、その時は何とかすることを約束する」

 

「巻き込んだ形になってしまい、すまない。だが、そう結論を出してくれたことを嬉しく思う」

 

これでも堀北兄には感謝している。生徒会に入ったことで厄介なことも多々あるが、学生らしい生活を送れていることも事実。

その分のお返しぐらいはしてもいいと思った。

 

「だが、南雲も優秀であることに違いない。油断は禁物だ。特に一之瀬を何としても生徒会に入れようとしたのには理由がある」

 

「手駒にする以外にか?」

 

「手駒の仕方の問題、といったところだな。南雲は2年の全クラスを支配している。すでに奴に逆らえるものはいないに等しい」

 

「そんなことが可能なのか?」

 

「ああ。現にこれまで対立した17人もの生徒が南雲によって退学させられている」

 

「確かに、そんな噂を聞いたことがあるな」

 

以前平田が教えてくれた情報を思い出す。

 

「正確な情報はわからない。だが、これまでの証言から推測すると、南雲の使っている手は……」

 

「使っている手は?」

 

なぜか言い淀む堀北兄。

 

「……ハニートラップだ」

 

「ハニートラップか」

 

あいつならやりそうだな。

堀北兄もそんな赤面しながら言わなくても良いだろうに……。意外な弱点かもしれない。

 

「自分に好意を持っている人間を、依存させ支配し、何でも言うことを聞くようにして、敵対勢力に送り込む。南雲は女子生徒に人気だから。どんどん手駒の数を増やし、どんどん男子生徒の弱みを握っていった。結果、大半の生徒の弱みを作り上げ、それを利用しプライベートポイントを巻き上げることで、逆転の芽も潰している」

 

「それ、生徒会の副会長のやる所業か?」

 

「公にならないように上手くやっている、としか言いようがない。生徒会役員としても言動に問題があるときもあるが、依頼した仕事は確実にこなすし、約束したことを違えたこともない」

 

上手いやり方を考えたもんだ。

思春期の高校生の恋愛感情、性への興味を上手く活用している。

倫理的な面をおいておくなら有効的な手段だろう。

2年生は乱れた学年なのか……。今度からそんな目で見てしまいそうだ。

 

「そんなヤツが一之瀬を勧誘したってことは……」

 

「一之瀬を自分に依存させ、手駒とし、今度は1年の弱みを握っていくつもりだったんだろう。3年も似たような方法で一部の生徒が被害に遭ったと聞いている」

 

「学年でも人気の高い一之瀬を使えば、不可能じゃないな」

 

「そういうことだ。だからなおさら生徒会に入れるつもりはなかったのだが、アイツはいつの間にか一之瀬を入れようと暗躍していた」

 

あの日、オレが一之瀬と出会っていなければ、一之瀬は南雲が無理をして生徒会に入れてくれたと恩義を感じたことだろう。

そして生徒会の先輩として接する機会を増やし、堕としていく算段。

一之瀬としても、憧れの先輩が親切を装い近づいてきたら、気持ちがなびいてもおかしくはない。

 

だが、そうはならなかった。

一之瀬はオレの助力はあったとしても、特別試験で成果をだして、実力を認められて生徒会に入ることになった。

南雲が一之瀬加入のため、どう暗躍していたかは知らないが、身近で手伝っていたオレと比べれば、どちらに感謝するかは言うまでもない。

まして、南雲は面談の際に嘘をついていたことが露呈している。

 

一之瀬を南雲にやるつもりはない。

 

「だが、綾小路にこの件に関して策があることがわかったからな。南雲より先に、こちらで先に加入の決裁を済ませた」

 

「その節はこちらの意図に気づいてくれて助かった。南雲が入れた、という形にはしたくなかったからな。ちなみにオレはこの作戦を『南雲BSS作戦』と呼んでる」

 

「南雲BSS作戦か、良い名前だな。綾小路」

 

「か、会長、綾小路くん。そ、その、その呼び方はやめておいた方がいいかと」

 

ここまで空気を読んで黙っていた橘が急に話に入ってくる。

 

「どうしてだ、橘?」

 

「えっと、その、他の意味に取れちゃうといいますか、誤解を招くといいますか……」

 

「名前で戦略を誤認させられるなら有用だな。カモフラージュとして大衆の前で作戦名を使うことも視野に入れよう」

 

「悪くないな」

 

「だ、ダメですっ!!それは生徒会の存続が危ぶまれる由々しき事態となりますっ!」

 

橘の必死の抗議により、ひとまず作戦名の口外はしないこととなった。

何がいけなかったのだろう。

 

「では明日一之瀬の紹介を行うが、そこで作戦の仕上げだな。話の進行は任せてもらいたい」

 

「わかった。オレは一之瀬にとことんオレを肯定してもらうようにお願いしておく」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「あんな感じでよかったかな?」

 

「ああ。名演技だったぞ」

 

生徒会メンバーの紹介が終わり、解散になった後、一之瀬に生徒会の仕事を教えている。

 

「『訳は聞かずにトコトン肯定してくれ』なんて無茶振りされた時はどうなるかと思ったけど……ちょっと南雲先輩可哀想じゃなかった?」

 

「大丈夫だ。南雲は矢を100本受けても倒れない、不屈のメンタルを持っている」

 

「そ、そうなんだ。それは、すごい?ね」

 

「演技もだが、特にあの『()()()()ありません』のアドリブは良かったな。お願いしていたわけでもないのに先制攻撃までしてくれるとは驚いた」

 

「え?あれは素で思ってたことを伝えただけだよ?」

 

「……」

 

あの言葉が一之瀬の本心からのモノなら無理に演技を頼む必要はなかったかもしれないな。

少なくとも南雲になびくことはないだろう。

 

こうして一之瀬を新メンバーとして迎え、新たな生徒会生活がスタートしたのだった。

 

 




綾小路くん、NTRの知識はあったのになぜかBSSの概念は知らなかったようです。

追記
BSSがマイナーで知らなくてもおかしくないことがわかりました。
知っているものとして描いてしまい、説明がしっかりできておらず、気になった方はすみませんでした。

※BSSの意味を知らなくてもストーリー上問題はないかとは思いますが、気になった方は、
この話(30話)の感想欄に、ありがたいことにたくさん解説を入れてくださったので、そちらを参考にしていただけると幸いです。
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