ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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バスケ未経験者が勢いで描いています。粗はあるかと思いますが、ご容赦頂けますと幸いです。


初めてのバスケ

「綾小路くん遅いですね」

 

「何かトラブルでもあったんでしょうか?私、連絡してみます」

 

「安心しろ、帆波。俺がいればどんな相手でも余裕で勝てる。綾小路のやつが役立たずの雑魚を連れてきてもな」

 

「Hey! 」

 

「うぉっ!?お前は1年の山田か。生徒会室に何の用だ?」

 

「失礼します。葛城です。綾小路に言われてバスケ部の助っ人に来ました。こんな形ですが生徒会の皆さんとご一緒できて光栄です」

 

体格のいい男二人を交互に見比べる南雲。

 

「おいおい、マジかよ!ちょっとは楽しめるゲームになりそうだな」

 

「気に入っていただけたようで何よりです、南雲先輩」

 

もうすぐ生徒会室に到着というところで、廊下まで南雲の高笑いが響いてきたからな。

何となくそのまま入るのは躊躇われたため、アルベルトに先行してもらった。最近マイブームのサプライズってやつだ。

 

「あ、綾小路くん、お帰りなさい」

 

「綾小路、お前にしては悪くない仕事だな、ちょっとは評価してやるよ」

 

南雲の意外な一面というか、てっきり気に食わない相手は全否定するようなタイプかと思っていたのだが……。ニヤついててなんだか楽しそうだな。

 

「試合まで時間がない。すぐに出発するぞ」

 

「「「はいっ!」」」

 

堀北兄の号令で生徒会室を出て学校が急遽手配した小型バスに乗り込む。

全員で8名のため広々と使えるのだが……南雲は一番後ろの5人掛け席を占領し、橘は運転手と話しやすい前方に座り、その反対の列に堀北兄が構える。

堀北兄の後ろには桐山が陣取った。葛城とアルベルトは遠慮してか、真ん中の方に座っている。

座席選びでも結構性格が出るな。

 

オレは無難に橘の後ろに座らせてもらった。

様子を見ていた一之瀬だったが、橘の隣に座るようだ。

 

「遠慮せずにオレの隣に来てもいいんだぜ、帆波」

 

「ありがとうございます。でも、新人らしく前の方で皆さんのお手伝いをさせてもらいます。橘先輩、色々教えてください」

 

「もちろんです。でも、今日は私を呼ぶときは橘カントクでお願いします。一之瀬マネージャー」

 

「は、はいっ!」

 

橘はいつでも楽しそうだな。そういうところは羨ましいと思う。

 

程なくしてバスが試合会場を目指し出発する。到着まではおよそ1時間だそうだ。

まさかこんな形で校外に出ることになるとは……。

流石に急遽決まったことで、オレが出ていくことも偶然だ。

突然ホワイトルームからの刺客に襲われるなんてことはないだろう。

 

しかし勢いでここまできてしまったが、バスケットボールの試合がどんなものか事前に把握しておきたい。到着までの時間の使い方が大事だ。

 

「橘カントク、高校バスケがどんなものかわからないのですが……」

 

「なるほど……。でしたら私の愛読している漫画が携帯に入ってます。バスの移動中でよければ読みますか?」

 

「ありがとうございます。お借りします」

 

漫画か。

これまで触れる機会がほとんどなかったが、スポーツものは作者の実体験であったり、題材をしっかり取材して描かれているものも多いと聞く。参考資料として問題ないだろう。

 

さて、どんなものか……。

 

ミスディレクションで姿を消して、パスの軌道を変える?

相手の技を見ただけで再現できる、パーフェクトコピー?

コートのどこからでもシュ-トが入る、オールレンジの超長距離シュート?

決まった型を持たない変幻自在のフォームレスシュート?

その他にもとんでもない技を繰り出す登場人物たち。

 

ウソだろ……。

 

「橘カントク、これってどのぐらいリアルな話なんですか?」

 

「私も3次元のバスケはよく知りませんが、同じ高校生ですし、上手い人は多分こんな感じですよ!あ、でも彼らは特別な世代なので、いまから出場する東京大会にはいても1~2人ぐらいじゃないかと思います」

 

漫画的表現で多少の誇張はあるかもしれないが割とリアル寄りなのか……。

常軌を逸したスキルを持つ高校生たち。勝てるのかこんな奴らに。

 

油断したつもりはなかったが、高校バスケは須藤がレギュラーになれるぐらいの世界だと考えており、その身体能力を基準に相手を見積もっていた。須藤はこれまでこんな奴らと戦ってきたのか。

勉強をしている暇がないという主張も納得しかないな。

 

ホワイトルームは人工的に天才を作る場所――オレはその中でも最高傑作と呼ばれているが、何でもできる神ではない。

その道を極めた天才と正面からぶつかれば敗れることもあるだろう。

 

今日オレは敗北の味を知ることになるのかもしれない。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

会場に到着し、着替えなどの準備を完了した頃には、準決勝の第一試合、鎌瀬南(かませみなみ)高校vs海王水産(かいおうすいさん)高校は終わっていた。

結果は、11対111と大差で海王水産高校が勝ち上がっていた。相当な強敵なのだろう。

 

オレたちの準決勝の相手は、当馬大附属(とうまだいふぞく)高校というらしい。

 

コートに入ると、当馬大附属(とうまだいふぞく)高校の選手らしき人だかりがあった。

 

「オレたち当馬大附属(とうまだいふぞく)は、毎年決勝で海王にやられてきた。だが、今年は違う。奴等のことを徹底的に研究して練習してきた。準決勝はあの高育だ。政府管轄だが何だかしらねぇが、引きこもり野郎どもに負けるはずがねえ!昨日までのデータをみる限り、練習通りの力を発揮できれば余裕だ!!」

 

「オレたちの目標は打倒海王!打倒海王だ!」

 

「サクッと高育を倒して、決勝に備えるぞ!」

 

「「「おう!」」」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「ウソだろ。こんな奴ら昨日までいなかったじゃないか!」

「て、手も足もでねぇ」

「卑怯だぞ、金に物を言わせて本場から留学生入れるなんてよぉ!!これが政府のやり方か!」

「かわいいマネージャーまでいてふざけんなぁぁぁーー」

 

試合開始から数分で相手チームは阿鼻叫喚の状態だった。

 

堀北兄(ポイントガード)と南雲(スモールフォワード)はパス、ドリブル、シュートとどれも非の打ち所がない。恐らくバスケ部の上位プレイヤーとも渡り合うことができるだろう。

 

桐山(シューティングガード)と葛城(パワーフォワード)は人よりちょっと運動のできる学生レベルで、しっかりとしたバスケ部員には届かないものの、中の下ぐらいの実力はある。サポート役としては十分だ。

 

アルベルト(センター)は言わずもがな。ドリブルなど少し荒い部分はあれど、そのフィジカルは攻防で大活躍していた。

 

 

オレはというと――ベンチを温めている(補欠)。

最初はスタメン予定だったのだが、試合前のアップ時間、初めてバスケットボールを触ったオレは、たどたどしいドリブル、強すぎて誰も取れないパス、リングにかすりもしないシュートなど初心者らしい動きをした結果、交代要員の予定だった葛城の出番が試合開始前にやってきた。なんというか力加減が難しいな。コントロールするまでにもう少しボールを触る必要がありそうだ。

 

「一之瀬、ちょっとボールを借りてきてくれないか、練習しておきたい」

 

「うん、わかった。スタッフの人に聞いてくるね!」

 

試合の方では、相手のパスにインターセプトを決めた南雲が、そのまま華麗にドリブルで数人抜き去り、思いっきりダンクシュートを決めていた。

 

「帆波見てたか、オレのダンク!っていない!?」

 

「綾小路くん、ボール借りてきたよ」

 

「ありがとう、助かる」

 

ボールを触りながら試合を見守る。

 

「一之瀬、もうすぐハーフタイム(休憩)だ。飲み物の準備をしておいた方がいいんじゃないか?」

 

「そうだね。私もマネージャーとして頑張らなきゃ!」

 

試合の方では、ボールを持った南雲がクルっと回転し相手を抜き去り、今度はジャンプしながらシュート、スリーポイントを決めていた。

 

「帆波見てたか、オレのロールターンからの3Pシュート…ってやっぱりみてねえな」

 

そんなこんなであっという間に試合は終わり32対120と圧勝した。

 

相手チームは悔し涙を流しながら去っていった。

そんな姿を見て昔自分がよく見た光景を思い出す。

敗者はいつも手遅れになってからこれまでの自分を振り返って後悔する。

どこも変わらないな。

 

「皆さん、お疲れ様でした。少し休憩したのち、次はいよいよ決勝戦です。気合を入れていきましょう」

 

オレたちからすればまだ2試合目なので、いよいよも何もないとは思うのだが、全員ここまで様々なライバルたちと死闘を繰り広げてきたかのような面構えをしている。

 

「ま、俺と堀北先輩に、山田までいるんだ。負けるわけねーよ。そうだ、堀北先輩、どっちが活躍するか、勝負しましょうよ、勝負!」

 

「な、南雲くん、決勝前に余裕ぶるのはフラグになっちゃいます!」

 

橘が慌てて南雲の発言を注意(?)した時だった。

 

ドンッ

 

堀北兄を振り返りながら歩いていた南雲が正面から来た相手とぶつかって尻もちをつく。

 

何が起きたか理解が追い付かない南雲。

 

「ああ。すまない。あまりに小さくて視界に入らなかった」

 

そう言って南雲に手を差し伸べる巨体の男。そいつに限らず、その後方にはアルベルトみたいな体格の男たちがずらっと並んでいる。海王水産と書かれたジャージを着ていることから、こいつらが決勝の相手と見て間違いないな。

 

「チッ、でかいだけの堅物が前も見れないんじゃ、ただの危険運転だ。免許の返納を推奨するぜ」

 

「生憎、こっちは当たりに行くのが仕事なもんでな。だが、今ぶつかったのはお前の方だぞ。保険にはちゃんと入っているのか?」

 

「お前たち相手にそんなものは必要ないな。試合ではかすりもできないってこと思い知らせてやるよ」

 

「南雲、そこまでにしておけ」

 

堀北兄が止める。ちらっと視線を向けた先には、学校から派遣されたサポートスタッフという名目の監視員たち。高育生は情報管理の観点から他校生との接触は基本的にNGだ。これ以上無駄話をしても得はない。これが原因で全部活動の対外試合禁止などになったら笑えないだろう。

 

「ふふ、悪気はなかったんだ。許して欲しい。国が育てている高育生がどんな奴らか見てみたかっただけだ」

 

そう言って立ち去っていく和製アルベルト軍団。身長180㎝近くある南雲を見下ろす巨体。こちらの体格面でのアドバンテージはなくなったようなものだ。

むしろ、彼らが全員スタメンなら平均身長は2m越えだろう。アルベルトを除けばこちらは180㎝以下。

 

「海王水産は東京だけでなく、全国大会でも何度も優勝をしている強豪校です。一筋縄ではいきませんよ」

 

橘が丁寧に解説をしてくれる。いつの間に調べたんだ。

 

「びっくりしちゃったね。綾小路くんも試合に出ることになったらケガしないように、無理はだめだよ」

 

「ああ。まぁ出番はなさそうだがな……万が一の時は代わりに祈っててくれ」

 

「うん」と頷く一之瀬。

 

そうして決勝戦が始まった。

 

最初のジャンプボールには南雲が立候補した。

海王は、南雲にぶつかった選手――ゼッケン4番のプレイヤーだ。にらみ合う両者。

 

「試合開始!」

 

主審が上げたボールを素早くキャッチする南雲。

 

「最初ぐらい譲ってやるよ」

 

「その余裕、後悔するぜ?」

 

南雲はボールをキープしながら、ハンドリングやステップでフェイントを混ぜ、ドライブを決めようとする。

 

が、なかなか抜くことができない。

 

「チッ、仕切りなおすぞ」

 

そう言って葛城にパスを出したところで、割って入ってきた7番の選手がカットし、ボールを奪われる。

 

「なんだと!?」

 

そのまま力強いドリブルでゴールへ進む7番。桐山が食らいつくが、全く歯が立たない。

 

「ディフェンスに定評のある桐山くんが簡単に突破されるなんてっ!?」

 

橘、誰がいつ桐山に定評をつけたんだ。

 

桐山、葛城と抜かれて、ゴール近くシュートモーションに入ったところでアルベルトがブロックしボールを弾く。

 

こぼれたボールを堀北兄が拾う。

 

「各自、動いてパスコースを作れ」

 

スピードやテクニックのある南雲が攻めあぐねた状況を見てパス主体に切り替えるようだ。

 

体格で引けを取らないアルベルトを中継し、再び堀北兄へ。

 

ボールを受け取った堀北兄は後ろに飛びながらシュート――フェイダウェイシュートを放つ。ブロックに入った相手の5番は触れることができなかった。

 

そのままボールはキレイな弧を描き、ゴールリングに吸い込まれる。

 

堀北兄が先制のスリーポイントを決めた。

 

「キャーッ!さすがは会長ですっ!」

 

「皆さん、ナイスフォイトでーす!……ところで綾小路くんは何をしているの?」

 

ベンチで、ボールを身体中で回してみたり、指で弾いてみたりしているオレを見て一之瀬が尋ねてくる。

 

「こういうのってボールと友達になることが大事なんだろ?」

 

「間違ってないけど、間違ってますっ!」

 

橘からの鋭いっツッコミが入った。

試合はそのままこちらのペースになるかと思ったが、さすがは全国屈指の強豪校。少しの動揺もなかった。

 

「なかなかやるな。このレベルは全国でも滅多にお目にかかれないぜ」

 

そう言いながら、4番はドリブルのペースを一気に加速させ堀北兄をかわす。カバーに入った桐山も対格差の前に何もできず、あっけなくシュートが決まった。

 

「これはなかなか厳しい。どうします、堀北先輩」

 

「桐山、葛城、お前たちはアルベルトのカバーに入る形で、常にダブルチームでボールを奪いに行け。勝算はあるはずだ」

 

「「はい」」

 

堀北兄の読み通り、それで簡単にはシュートを撃たれなくなった。だが、それまでで大きくリードできるものではない。一進一退を続ける試合となった。

 

第1Q、第2Qと終了し、ハーフタイム。

25対34と徐々に点差が広がってきた。

チームの総合力で見た時に、どうしても差が出てきてしまう。それをカバーするために走り回った結果、スタミナもそろそろ限界か。

 

「ハァハァ……」

 

桐山が肩で息をしている。

 

「スタミナのある桐山くんを前半だけでこんなに消耗させるなんて……」

 

橘の桐山に対する謎の信頼感は何なのだろうか。

 

「さすがにヤバいっすね……せめてお前がもっと役に立てばな、綾小路」

 

南雲の愚痴も、心なしか力が入っていない。オレに悪態をついて疲労を紛らわせてる、といったところだろう。

 

「オレはいつでも出れますよ?」

 

「勝負を捨てたくなったら考えてやる」

 

「後半はアルベルトを軸に攻める。中に集中させたところで、俺が外から入れよう。スリーを三本で同点だ。まだ焦る時間じゃない」

 

「はい」「了解っす」「わかりました」「OK!」

と誰一人勝負をあきらめてはいなかった。

 

だが、そんな気持ちとは裏腹に第3Q終了後、桐山が限界を迎えた。倒れて担架で医務室に運ばれていく桐山。

 

「く、こんなところですまない。後は頼んだぞ……綾小路」

 

「任せてください」

 

さて、いよいよ初のバスケの試合だ。コートに入ろうとしたところで一之瀬に呼び止められる。

 

「綾小路くん、バスケは初めてなんだよね。やりたいこと探し、第一弾として、ちょうど良いんじゃないかなって思う。こんな場面でプレッシャーかもしれないけど、せっかくなんだし、上手い下手は置いておいて全力で楽しんできたらいいんじゃないかな。じゃないとそれを本当にやってみたいかどうかわからないと思うんだ」

 

下手でも大丈夫。負けてもあなたのせいじゃない。そんな気遣いが感じられた。

 

「それもそうだな。俺も試してみたい技があるんだ。全力でやってみることにする」

そういってコートに入り第4Qがスタートした。

40対60、残り10分で点差は20点か。

同点までは単純計算で1分に1本シュートを決める必要がある……大丈夫だろう。

 

「くそ、実質4人じゃねえか。って綾小路はどこだ?」

 

「ここです」

 

「っ!……おい、ただでさえ役に立たないんだ、せめて走るなりなんなり注意を引き付けて貢献しろ」

 

「その必要はないですよ」

 

「あ?」

 

そう言ってオレは、アルベルトから葛城へのパスの間に入る。視線の先にはフリーの堀北兄。

 

「ま、まさか、綾小路くん、パスの軌道を……って普通にキャッチしちゃいました」

 

ボールを取ったオレを、チームの穴を見つけたとばかりに4番がものすごいスピードで迫ってきていた。

 

だが、問題ない。

 

ダンッ

 

相手は転んでいた。何が起きたのかとキョトンと下からこちらを見上げる。

 

「頭が高い」

 

でいいんだったか。再現は大事だからな。

目の前が開いたことで悠々と通らせてもらう。

 

「えーー!!アンクルブレイクの方ですか!?」

 

あの漫画で唯一オレでも出来そうだと思った技だ。相手の動きを読んで、転ぶように誘導するぐらいならバスケに関係なくできる。ベンチで相手を観察する時間は十分あったしな。本家には及ばないかもしれないが、目の前の相手を倒すのにはこのレベルでも問題ない。

 

影の薄さというか気配を消すのは得意だが、ミスディレクションをバスケに応用するなんて一朝一夕じゃできない。それこそバスケに対する深い知識と血のにじむ様な試行錯誤――努力が必要だ。

 

「綾小路、パスを寄こせって、うぉっ」

 

急に視界に入ってこないでくれ南雲。間違って転ばしてしまったじゃないか。

ドリブルの力加減にも慣れた。全力で動いてもコントロールできる。そうして邪魔をする相手もすべて転んでもらった。

 

落ち着いてシュートを放つ。

 

が、リングに当たりボールは上に弾かれた。シュートに関してはもう少し感覚をつかむまでかかりそうだ。

 

「「リバウンドっ!!」」

 

流石に立ち上がった相手選手たちがゴール下に集まろうとしたとき、跳躍した堀北兄が空中でボールを掴みそのままダンクを決める。

 

「全員、ボールを取ったら綾小路に集めろ」

 

堀北兄の指示が飛ぶ。

だが、その必要もない。

ボールを持った相手の前にすばやく移動し、ボールを奪う。初動がわかるんだ、どこに手を出せばボールを奪えるか分かりきったこと、造作もない。

そしていくつかの切り返しを入れることで重心を崩し、先程と同様に全員をコートに転がす。

安全を確保したところでシュートしたが、またしてもボールはリングに弾かれる。

 

「Amazing!」

 

リバウンドをとったアルベルトが点を入れてくれた。

 

手首のスナップあたりを修正すれば良さそうだな。

 

「アイツをボールに近づけるな」

 

さすがに相手も馬鹿ではない。ダブルチームでオレを徹底マークし、ボールを持つ選手への進路を塞ぐ。

 

だが、これはチーム戦だ。南雲がパスコースを塞ぎ、ボールをキープしている選手を堀北兄が止め、オレへのマークの間に葛城、アルベルトが身体を入れて動きを封じる。

フリーになったオレがボールを奪い、全員へアンクルブレイクをお見舞いする。

 

「くそっ!こんなのあり得ないだろ」

 

相手選手の苦悶に満ちた叫びを背に、ドリブルでゴール近くまで前進しシュートを放つ。

スッとボールはリングを潜った。

人生で初めてシュートを決めた。なるほど、これは少し楽しいな。

リバウンドの準備をしていた南雲が、流れ的に俺の番だったろ?と恨めかしい視線を送ってくる。

 

そうして試合は怒涛の逆転劇を見せ、ブザーが鳴ると同時に入ったオレのシュートで11本目。62対60で高度育成高等学校の優勝が決まった。

 

橘や一之瀬たちの歓喜の声が聞こえる。

堀北兄と南雲も手を取り合っていた。

アルベルトも笑顔でサムズアップしてくれている。

葛城も限界が近そうだが、満足げな表情だ。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

試合後、そろそろ帰りのバスへ乗り込もうという時、葛城がトイレに行くと言い始めた。

 

「すみません、ここのトイレ紙がなかったので、向こう行ってきます!」

 

「あ、ちょっと君、勝手な行動はやめ――」

 

ドタッ

 

止めにかかろうとした監視員をアンクルブレイクで転ばせておいた。一瞬振り返った葛城は「恩に着る」といった表情をしたので、頷いておいた。これで無事に荷物を発送できるだろう。

 

堀北兄が監視員に、すぐに戻ってきますのでとフォローを入れている。どうやら葛城の目的を察して黙認してくれているようだ。

こうして人生初のバスケの試合は、見事優勝を飾った。

 

ただ、秋の全国大会に出場した正式なバスケ部が第一試合で大敗したのは、語るまでもない。

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