橘、一之瀬、オレ、そして南雲。
この4人でケヤキモールにやってきている有名な占い師の元を目指している。
「占いなんて、ちょっとした話術と統計学の賜物だと思うんですが、違うんですか?」
「綾小路くんは運命とか信じないタイプですねー」
「そんなんだからモテないんだぞ、綾小路」
「モテないかはともかく、全く信じないのはもったいない気がする、かな」
3人ともこちらの占いに対する意見には反対のようだ。
しまったな、このメンツだと完全にアウェイだ。
生徒会のメンバーを性格で大きく2つに分類するなら、
堀北兄、桐山、オレの理知派
橘、南雲、一之瀬の感情派
に分かれると分析している。
これがもし、堀北兄と桐山と占いに向かっていた場合――それはそれでシュールな絵面だが、あえて占い師にこんな情報を話したら、恐らくこういう切り口でトークを展開してくるのではないかなど、本来の意味とは全く違う楽しみ方に興じていただろう。
そういう意味では、この3人はシンプルに占いを楽しめる人間なので、羨ましいといえばそうかもしれないな。自分とは違う思考の人間は観察しがいもあるというもの。
「とにかく、占いしかり、超常現象しかり、目に見えないから存在しないとか、自分がわからないから理解しない、っていうのは間違いだと思うんです。世界は未知と可能性に満ち溢れているんですよ」
「本当にそうだったら、面白いんですが……」
そうあって欲しいと切に願う。
狭い空間で学んだことだけが全てではない。
その証明はオレにとっても無視できないものなのだから。
「ちなみに、綾小路くんは占って欲しいこととかあるの?」
一之瀬が無邪気に聞いてくる。
「あるぞ」
「え、なになに?」
結構気になってそうな前のめり具合。
オレの占い結果なんてどうでも良さそうなものだが。
「これからの健康運とか」
がくっーと効果音が聞こえてきそうな勢いでズッコケる橘。
「うーん、綾小路くんらしいね」
「おいおい、綾小路、せっかく当たるっていう占いなんだぜ?健康なんて日々の生活管理をきちんとしておけば、俺達の年齢ならそんなに心配する必要はねぇよ。もっと、将来の事とか、恋愛とか、そっちの方が占ってもらう価値があるだろ」
「南雲くん、良いこと言いますね」
「ですね!綾小路くんもそっち方向で占ってもらうといいんじゃないかな?」
やはりアウェイだな。
三人寄れば文殊の知恵、三本の矢は折れない……普段、各々と対話する分には問題ないが、3人いる状態だと向こうのペースに持っていかれてしまうのは、今後の課題だ。
そうこうしているうちに、ケヤキモールの5階、特設の占いコーナーに到着した。
だが、案の定というか、噂になっているだけあってすごい人数が並んでいる。
基本的に男女カップルばかりだが、中には男子だけ、女子だけのグループも、ちらほら見える。
「いらっしゃいませ、占いはペアでのご案内になりますが、いかがなさいますか?」
待機列の後ろに近づくと、整列係の女性から話しかけられた。
各々占ってもらうことはできるが、入場はペア限定らしい。
幸いこちらは4人だが……こういう時の組み分けってどうするのがベストなんだろうな。
「もちろん、帆波は俺と――」
「じゃあ、男子組と女子組で分かれましょう。異性には聞かれたくない話もあるかもですしね」
そういって橘がチーム分けをした。
……って、南雲と一緒に占うのか?
お互い考えることは一緒だったようで、すさまじく嫌そうな顔をした南雲と目が合う。
「チッ、何のためについてきたかわかんなくなっちまったな」
「占いのためですよね?」
「ま、俺の運命の道には勝利と成功しかないからな、わざわざ占ってもらう意味もないだろ」
「……本当にそうなのか第三者に確認してもらうのもいいのでは?」
「ま、確かにな。ここまで来て帰るのももったいないか。なんかの話題にはなるだろ」
明らかにテンションが2~3ランクダウンする南雲。
まあオレも下がっているので気持ちはわかる。
「それにしてもすごい列……一体どのくらいかかるのかな?」
「一組10分だとしても2時間ぐらいか?」
「ま、綾小路じゃ、それが限界だろう。女を待たせるなんて、イケてる男のする事じゃないぜ」
ニヤリと笑い、何かを企んでいる様子。
これはツッコんだら面倒臭くなる可能性があるな。スルーに限る。
「どういうことですか、南雲くん?」
あー、橘、ダメだろ。南雲のバカな企みに触れちゃ……。
「こういうことっスよ」
パチンッ
と指を鳴らす南雲。
その瞬間、長蛇の列が霧散し、並んでいた人たち――よく見ると2年生ばかりだな、が列を譲ってくれる。
「俺ほどの男になるとこういうこともできるのサ」
占いに行くと決まった時点で仕込んでおいたのだろう。
人員の無駄遣いというか、よくこんなことに付き合う人間がいるものだ……。
「南雲先輩、すごいと思いますし、ありがたいんですが……やっぱり列にはちゃんと並ぶ必要があると思います。ズルして占ってもらっても楽しくないと思うんです」
「……それもそうか。帆波はホントに良いやつだな」
パチンッ
と再び指を鳴らすと列が戻ったのだが……数組、列から離れていく。
「悪いがちょっとトイレ行ってくる」
「わかりましたー」
足早に列から離れて行った生徒たちを追っていく南雲。
「オレもちょっと行ってくるな」
「うん、待ってるね」
面白そうだと思い、南雲の後をつける。
少し曲がった人気のない通路で南雲と2年生の数名が話をしていた。
「南雲くん、私たち占いには興味ないから帰りたいんだけど?」
「おう、悪かったな。あっ、これお礼のポイントな。また、なんかあったら頼む」
……堀北兄が以前話していた話となんだか違うような気がするのだが。
これが、学年を支配している副会長の姿か?
見てはいけないものを見てしまった気分になる。早く戻ろう。
「綾小路くん早かったですね。南雲くんは?」
「さぁ……大きい方だったんじゃないですか?」
「こら、女の子の前でそんなこと言っちゃダメですよ」
とは言え、南雲の身を犠牲にした活躍(?)で、数組いなくなったのは有難い。
程なくして南雲も帰ってきた。
「せっかく時間があるので、短めの人狼ゲームでもしましょうか」
「いいですね」
今度のアプリは南雲たちも持っていなかったようでダウンロードし、待ち時間の間、4人で遊ぶこととなった。
そしていよいよ占いの順番が回ってきた。
「男子組から先に良いですよ」
ということで、南雲と二人、占いのテント(?)のようなところに入る。
……オレ、何やってるんだろ。冷静になってはいけない気がする。
中は薄暗く、古めかしい机の上に置かれた大きな水晶、その後ろにはフードを被ったローブ姿の老婆が座っていた。
雰囲気だけは一級品だな。
「さて、お前さん達、何を占って欲しい?」
そういって料金表を指さす老婆。
世界観台無しだな。
人間関係、恋愛、将来、勉強に健康などあらゆることが占えるようだ。
ペアということもあり、お互いの相性占いなどもあった。
「ばあさん、オレには振り向いて欲しい人がいるんだが、その人に振り向いてもらう方法を教えて欲しい」
といってポイントを払う南雲。1回5,000ポイントと馬鹿にならないが、南雲にとっては気にするほどの値段ではないのだろう。
「あいわかった、占って進ぜよう」
そうして老婆は水晶に手をかざし、なにやら唸り続ける。
「……無理じゃな」
「おい!」
「まあまてパツキンにいちゃん」
「パツキンて」
「今のままじゃ、到底無理じゃ。いくらお主が誘ったり、勝負を仕掛けたりしても、きっとうまく流されるじゃろう。やり方を変えねばならん」
「それでどうすればいい?」
何か思い当たるところでもあったのか
ごくり、と唾をのむ南雲。
「対策の占いは別料金じゃ」
「ほらよっ」
ピッとカードリーダーに端末をかざし支払いを済ませる南雲。
この老婆、カモを見つける目利きは本物だな。
「ふふふ、わかっておるの。簡単なことじゃ、お主1人では気にしてもらえぬのなら、そやつが興味のある者を巻き込むしか他にないじゃろう」
「なるほど……」
「おすすめは、その相手が大事に想っている人物か、お主の後輩あたりかの。そうすれば、その者は嫌でもお主を意識してくれる。そこから先はお主次第じゃ」
「助かったぜ、ばあさん。ありがとな」
結構胡散臭いことこの上ないのだが、南雲は満足したようだった。
「そっちのにいちゃんは何を占うんだい?」
「オレは……今後の学生生活について占ってもらおうか」
そうしてポイントを支払う。
「ムム、お主、宿命天中殺の持ち主じゃな」
「宿命天中殺?」
「知らないのかよ、綾小路。簡単に言えば、波乱万丈な人生で大変なやつだ。オレの様にまっすぐ王道を歩けなくて苦労するな」
「南雲先輩、詳しいんですね?」
「女子は占いが好きだからな、自然とそっち系の知識は増える」
「そこのパツキンかもちゃんが言っていることも間違えではないが、宿命天中殺の持ち主はその試練を乗り越えるだけの力を身につけることができるものでもある。運命に負けぬよう努めることができれば、新しい道が開けるかもしれんの」
「ばあさん、俺のこと変な呼び方しなかったか?」
「ともかく、お主の学生生活は、お主が成し遂げたいと願うことを実行した時、それまでの行いの結果で運命が分かれる。そうじゃな、その時は尊敬する目上の人たちのことを参考にするといいじゃろう」
実にふわっとしていてよくわからない回答だったが、占いなんてこんなものだろう。
オレが成し遂げたいこと……か。
確かに将来の運命はこれからの生活にかかっているのかもしれない。
「最後にこれはサービスじゃが、お主たち、今日は決して遠回りせずにまっすぐ帰るんじゃぞ。迂回すれば思わぬ足止めをくらうことになる」
老婆の有難い忠告?を受け、オレたちはテントを出た。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「せっかくのチャンスだったのに、南雲くんには困ったものです」
「あははは……でも、橘先輩と一緒で安心しましたよ」
橘先輩に、生徒会での綾小路くんのことを色々と聞いていたら、完全に誤解……そう誤解されてしまった。
綾小路くんは純粋に尊敬できる素敵な人、その人の事を知りたいなって思っただけだったのだけど。
「でも、相手との相性占いは別に本人がいなくてもできるみたいですし、さっき占った人との運勢を~っていえば、精度も上がるんじゃないかって思います」
「それで先に行かせたんですね」
そんなやり取りをしていると、綾小路くんたちが出てきて私たちの番になる。
中に入るとなかなか雰囲気のある佇まい。
結構なお歳になるおばあちゃんが占てくれるようだ。
こんな歳になるまで働いて、みんなのために占いをしてくれるなんて、すごくいい人。
「それで、お嬢さんたちは何を占うんだい?」
「想い人と添い遂げたい……なんていうのは欲張りすぎですね。ただ、ずっと傍で支えていきたいんですが、どうすればいいですか?」
橘先輩が、めちゃくちゃ大胆なことを聞いている。
ずっと傍で支えたいっって、それはもう――――
「今のままでも問題ないじゃろう。時が過ぎ、お主の意中の相手の重荷が降りた時、自然と向き合うことができるはずじゃ」
「ほ、ほんとですか!?」
「ただ、新年早々、身近な者によってピンチに陥る可能性があるの……。ジャージ姿で泣いているお主の姿が見える。うーむ、その時が来て、頼れる人に頼れないなら他の頼れる人に頼ることをおすすめするの」
「わ、わかりました」
結構具体的なことまでわかるんだ、と少し関心をする。
占いなんて学校で流行ってた手相を見るやつとか、血液型、星座の占いぐらいで、こんな本格的なものは初めてだ。
「そっちのお嬢ちゃんはどうするのかの?」
もちろん恋愛関係ですよね?みたいな目で見てくる橘先輩。
ううぅ、誤解させてしまって申し訳ない。
なんとか差しさわりのない形で聞いてみよう。
「お世話になっている人というか、気になる人というか、尊敬している人がいるんですが、その人との相性的なものを占っていただければと……」
「一之瀬さん、こんなところで照れなくても良かったんですよ?」
「い、いえ、気になっていることですので」
「うーむ……これは……」
水晶を覗いて苦い顔をするおばあちゃん。
ないか良くないことでも見えちゃったのかな。
「正直なところ、やめておいた方が吉と出ておるが……。諦めないなら、お主には大きな選択を迫られる時が3回来るじゃろう。もしも、その全てで正解の選択をしたとき、お主の悲願は達成されると出ている」
「もし1回でも間違ってしまったら?」
「その時は精一杯あがきなされ。さすれば、ワシも、そして意中の彼も全く予想できなかった未来にたどり着くことができる……かもしれぬ」
とっても難しいことを言われてしまった。
具体的なのか、そうでないのか……自分でいうのもなんだけど、そんな重要な選択を3回も当てられる自信はない。私は追いつめられると選択を間違っちゃう、そんな人間なのだから。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一之瀬たちもテントから出てきた。
「いやー面白かったですね!ちょっと勇気を貰えましたよ」
満足そうな橘。
「一之瀬は微妙だった感じか?」
何とも言えない表情の一之瀬が気になった。
もしかして南雲みたいにカモられたのか。
「ううん。そんなことないんだけど、少し考えさせられちゃって」
「そうか。カモられたんじゃなかったらよかった」
「綾小路くんはどうだったの?」
「正直よくわからなかったな。宿命天中殺がどうのこうのって言われたが……」
「えーっ、綾小路くんは宿命天中殺持ちですか!?大変ですね」
「え、そうなんですか?」
「占い師が言うにはそうらしいな。試練がたくさん訪れるそうだ」
「そうなんだー。でも綾小路くんならどんな試練でも乗り越えちゃいそうな気がするよ」
「買いかぶりすぎだ」
「ふふ、そうかな?」
「あれ?ところで南雲くんは?」
「あ、言われてみれば……」
やっと南雲がいないことに気づく2人。
「実は2人を待っている間に、おん――友達から電話がかかってきて、これから一緒に遊ぶ約束ができたらしい。それで先に帰った」
「へー、さすが人気者の南雲くんですね」
「一つ懸念があるとすれば……」
「「あるとすれば?」」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「なずな、今エレベーターに乗ったところだ、正面が混んでてな、迂回して別のエレベーターを探してて遅くなった。ほどなくそっちに着くぜ」
『うん、待ってるねー。あ、そういえばさ――』
ブツッ
「ん?あー、今日は散々人狼で使ったからな、バッテリー切れか。まあ合流場所はわかってるし、問題ないだろ」
ガタッ、ピー……
「あ、おい、急にエレベーターが止まったぞ。緊急ボタンは……反応なし。電話はバッテリー切れ。……おいおいマジかよ。おーい、誰か~」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その後、待ち合わせをしていた朝比奈なずなが異変に気付き、捜索、発見するまでの数時間、南雲はエレベーターに閉じ込められていたらしい。
翌日から、南雲は、誕生石のブレスレットや謎の幸運グッズを身につけ、妙にスピリチュアルな感じになり、運命や占いを信じるようになっていた。
あの占い師の言うことを少しは信じてもいいかもしれない、そう思った出来事だった。